東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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アクセス実践講座①|「ミュージアムにおける社会包摂的活動」、「子どもの貧困・孤立の現状と課題」

2017年度のアクセス実践講座が始まりました。
まずは、伊藤さんから、講座の目的や関連する実践となる「障害者のある方のための特別鑑賞会」と「ミュージアム・トリップ」についての確認がありました。

【前半】
「ミュージアムにおける社会包摂的活動」稲庭彩和子(東京都美術館)

今、美術館には、社会包摂的機能、多様性を保つ場としての機能が求められています。東京都美術館がリニューアルを行なった際には、21世紀の美術館に求められる役割をプラスしました(ご参考:東京都美術館「使命と4つの役割」)。常にミッションに立ち返りながら、活動を行なっていくことになります。

 

●「教育普及」から「関わり合い(Engagement)」へ
美術館でよくいわれるのが、文化を普及する「教育普及」です。学校との連携や教育(Education)が含まれ、それぞれの人の学び(Learning)が起こっているかに関心が移ってきています。ここ数年着目されているのが、「関わり合い(Engagement)」で、本当に関わり合いをつくれているでしょうか。人間は社会的動物なので、一人では生きていけません。関わり合いが上手くいくことが、幸福度に密接に関係しているといわれています。関わり合いを作っていくためには、「対話(Dialogue)」が起きていかなければならないです。一般的に「ケアリング(Caring)」というと、看護とか介護を想像するかもしれないが、基本的な行為は「深く対象に心を向け続けること」です。

 

●「ケアをする」
美術館の機能を考えると、「キュレーション」の語源は、ラテン語の「curare」にあります。意味は、対象について「ケアをする(take care)」ことです。「大事にする」「大切に見守り育む」という意味を含み、ものを次の世代に渡していく役割が美術館にはあります。「ものをケアする」というと、物理的なケアを考えますが、何を次の世代につなげたいかというと、その作品が作られた時の作家のアイディアを次につなげたいのです。本質的には作品に含まれるそのひとの営みということ自体を伝える価値があります。だから、作品を見ることでケアされるのです。

 

●他者の世界と自己の世界をケアする
美術館でも、日常のことを忘れて、集中して作品を見る時に癒されるという経験があります。自分と誰かとの対話が始まったり、自己の内面との対話が始まります。対話をしていくうちに、自分と他者がそれぞれ異なる存在でありながら、自らの一部として他者を感じる感覚(相互主観性、共同的な主観性)が生まれます。それぞれ人は個別のアイディアがありますが、絵を何人かで見ていくときに、色々な人の意見があって、聞いていくうちに、違うけれども生まれてくる共同的な主観性が、私たちに安定感を与えるのです。共同的主観性は、社会で平和な関わり方を作っていく時に大切だといわれています。

 

●ミュージアムの非日常性
ミュージアムは、時間と場所から解放され、過去と現在を行き来できる場所になりうるのではないでしょうか。社会的尺度や差異がいったんゼロにされて、もう一度考え直せる場所(社会的包摂の場)としての特性があります。

 

●ミュージアムでの社会包摂的活動:海外の事例
Meet ME MoMA(アメリカ)
アルツハイマーの方と家族のためのプログラム
美術館と医療機関の連携

House of memories(イギリス)
地域博物館での「ハンドリング・オブジェクト(触れる収蔵品)」
貸出可能な収蔵品を、介護士の人たちが高齢者に触ったりしながら、回想法によって成果を出している。4000人の介護士が参加し、介護施設で活動している。

ホームレスへの働きかけ(イギリス)

Met Escapes(アメリカ)
庭園の美しい美術館で、認知症の方たちが五感を刺激するようなプログラムを行い、展示室で鑑賞を行う。一番の効果は、作品や中立的な立場のファシリテーターを媒介に、同じ病を持つ患者やその介護者、といった問題を共有できる人々との関わりができた。作品を見て対話をすることが、社会への参加となっている。

 

●とびらプロジェクトでの実践
障害のある方のための特別鑑賞会
「アクセシビリティー調査報告書」
・Museum Start あいうえの
のびのびゆったりワークショップ(平成25年度)
ミュージアム・トリップ

【後半】
「子どもの貧困・孤立の現状と課題」小澤いぶき(NPO法人PIECES/児童精神科医)

 

●NPO法人PIECESの活動
「どんな子どもも尊厳を持って豊かに生きられる社会」を目指して、活動を行なっています。孤立している子どもたちをサポートするため、一対一で信頼関係を作りやすい人を育成し、子供の関心・ニーズにあわせて、その子にあった関係、コミュニティをつくる活動をしています。
児童精神科には、困難が積み重なってくる子が多く、もっと早くに予防ができないかと思い、NPOを立ち上げたという経緯があります。

 

●地域の中での活動
貧困の実態とは何か、顕在化していない孤立した子ども、虐待や学校に行けないといった、いろいろな絡み合う要因が存在しています。今日は、数値ベースの話だけではなく、何が起こっているのかという話をできればと思っています。

 

●アイスブレイク~伝言ゲーム~

・二人一組になって、背中合わせになる。
・片方が絵を描いて、自分が描いた絵を背中合わせになっている人に、言葉だけで説明する。
・背中合わせになった人は、言葉を頼りに、何の絵かを想像しながら描いてみる。

同じものを描いているつもりでも、大きさや表現の方法はまちまちです。言葉で伝える以上に色々なものが伝わっています。普段から見えないものも見ていることがあり、実は、子供たちを囲んでいること、起こっていることも見えないことがあるのです。

 

●子どもたちを取り巻く現状
相対的貧困の割合:7人に1人(ひとり親家庭の貧困率50%)
虐待46,000人(虐待などにより家庭で適切な養育を受けられない児童数)
不登校・中退12万人(小中学校の不登校児の数)

●可視化されていない課題
・貧困とは経済的なことだけではない。
・物理的結合だけではなく、関係性の欠如・社会への帰属意識のなさ、心理的な困難さがある。
・湯浅誠氏:貧困とは(精神的な)溜めがない状態、精神的な余白がない状態
・ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏:貧困とは、権利が奪われていること。
・関係格差、文化格差も同時に生じている状態であるが、可視化されにくい。心理的虐待(言葉の暴力)は、子供たちの困難さが顕在化しにくい。
・不登校といっても、背景には発達特性があり、学校の勉強、集団でのコミュニケーションが苦手といったように、個人の問題の要因はそれぞれ。

 

●支援の現状と課題
貧困に対しては、生活困窮者自立支援法があり、生活保護といった経済的サポートがあります。児童虐待は、通告の義務があり、児童相談所に通告すると、48時間以内に現場に行き、必要があれば保護をします。不登校は、教育相談室、民間の学習支援、子ども食堂といった制度・仕組み・活動として子供たちを支える方法があります。
経済困難の場合は、トリプルワークゆえのネグレクトがあります。現状の支援では、課題ごとに相談窓口をさがすのは難しいです。多問題をひとつの場所で相談できる場所が求められています。捕捉率が高くなく、相談利用は2割程度です。実際の制度がつくられて/使われていないため、課題に対するサポートの偏りがあります。窓口に行くのは大変で、安心できる場所・信頼できる人との関係があって、意欲が出るのです。

 

●新しい価値を見出すデザイン思考
・関わっている子どもたちの言葉「僕はかわいそうな子どもではないよ」
子どもたちは、困難だけで生きているわけではありません。◯◯が好き、関心があるといった、違う面もあります。困難だけに焦点を当てると、しんどくなるのです。その人が、本来発揮できるはずの主体が、発揮できなくなることもあるのです。問題解決のサポートはあるけれども、その子の強み、資源に着目するような、楽しむ中で、結果的に困難が困難でなくなっていったというような新しい価値を見出すデザイン思考が、まだ少ない現状があります。

 

●子どもの孤立とは?
・小澤さんが見た事例

ー孤立の種類:3つの孤立
人はいるのに孤立する状況
家庭での孤立:家庭での暴力/無関心
地域での孤立:誰にも助けてもらえない
学校での孤立:学校でのいじめ・無関心
誰かとコミュニケーションをとったり、共有したりする経験がないため、誰かに助けてもらう経験もない。学校でも家での困難さが続く。

 

●孤立するとどうなる?
孤立する→人から大事にされた経験が欠ける→自分を大切にできない→人からの助けを受けられない→人への信頼感がなくなる→孤立する
どうせ助けてくれないという不信感が大きくなる。人に大切にされた/ケアされた体験が、社会的に誰かと関係を気づく上で大切。子供に限らず、孤立が続くと、人や社会の信頼感を失い、より助けを求めづらくなる。

 

●孤立解消のステップ
STEP1 孤立の解消:特定の人への信頼感
STEP2 孤立の予防:多様な人に頼れる状態

なぜ孤立が生まれるのか:背景
—孤立しやすい二つの落とし穴
①乳児期
日本では、家族が子供を育てなければいけないという考えが強いです。家族を通してしか、外とつながれない。誰かに助けを求める、大切にされたという経験が、家庭の中で無いと孤立してしまいます。
②青年期:アイデンティティを作るとき
親子、友人関係、趣味の関係など、多面的な自分を内在化していきます。社会の中の自分を認識する時に、社会で居場所が無い、排除された経験があると、アイデンティティの揺らぎが大きくなります。社会の中での自分の位置付けが混乱に陥ってしまいます。友人関係とは違う理解してくれる他者がいないと、孤立しやすくなります。

 

理解してくれる他者がいたら大丈夫なのかというと、そうではなく、社会のなかでの受容度を高めていかないと、人が誰かに気軽に頼れない状況です。誰かに頼ったり、関わりあったりできる関係を作るには、頼りやすい社会が大切になってきます。

 

*受容度とは…自分とは違う価値観もあるのだとか、学校に行ってない子は学校に行くべきだという価値観に影響されてしまうのではなく、学校に行けなくても他の学び場があり、生きていける、メインストリーム以外の筋道が社会に実装化されていくこと。

 

●孤立しやすい落とし穴に対して何が必要か
・理解ある他者(信頼できる重要な他者)の存在が必要→市民として「コミュニティユースワーカー」の育成をしている。
・健康生成論的アプローチ(楽しむ、困難だけに目を向けない)
(孤立したことだけに着目するのではなく)その人が持っているいい部分、好きなことに目を向けて一緒に楽しめること。
例)ゲームを好きな子が、ゲームを通して出会った人、ゲームを作る人と出会って、プログラマーを目指したりする。その子の人生が変化していく。

 

●ワーク:トランプゲーム
トランプゲームのルールが配られ、ここからは一切しゃべらず、筆談もできません。行き渡ってから、ルールは回収されます。
メンバーを変えて2ゲーム目
無言のままでカードを配り、ゲームを始めます。各グループでは、必死のジェスチャーの押収が続きます。おかしな表情をする人がたくさん。

ゲームをやってみての感想は…
「それぞれもってきたルールが違うのかと途中で気づいた。ここでの新しいルールを決める手段が見つからず、違うと思いながら、ゲームを進めていった。」
「ジェスチャーで、複雑な話を伝えるのが結構難しい」

喋らないのは、ルールが違う(見えない)ことに気づかせないようにするためでした。
言葉がない、違う表現/ルールに出会った時に、どう乗り越えていくかを体験してもらいたくて、行ったワークでした。
抑圧された子ども達は自分で表現できない、言葉にできないこともある。違うルールで育ってきたことを表現できない時に、どう気づくかを体験できればと思って行われました。ルールが違うことに気づいてもどうしたらいいかわからないのは、実はストレスかもしれません。違うことをどう思うのかで、関係性も変わるのかもしれません。

 

●好きな写真は?嫌いな写真は?
いくつかある写真から好きなものを選びます。
例えば…犬の写真を見ても、過去に噛まれた経験がある人は、「こわい」と思うかもしれません。紐付く記憶は個々に違います。感じ方は環境に依存しているのです。
ー見えない違い
同じものを見たとしても、人は全く違う感じ方をします。

 

●受容度の促進に何が必要か
・見えない違いや、課題、ストレングスへの想像力と、行動力が必要
例)スーツを着た人を見えていたけれど、見ていなかった。
・自分が出会った価値観を超えて多様性を考える。
・自分の日々の振る舞いが社会の受容度・変化につながる。

 

●価値観を捉える、外す、広げる
—市民である「コミュニティユースワーカー」の育成:なぜ専門家でないのか?
専門家は緊急性があった時に、課題を解決しなければならない人でもあります。例えば、医者であれば、診断して、治療をします。子どもが生きていく時に、何が必要か。日常生活で、一緒に文化に触れ合える、一緒に何かを楽しめる人がいる、日常を豊かに彩ってくれる人が大切なのです。専門家ではなく身近にいる大人一人一人ができるのではないかと考え、育成をしています。
何をしているかというと、特定の利害関係が無い、信頼を作る人をコミュニティユースワーカーが担っています。コミュニティユースワーカーが、子どもの願いを知り、色々な人とものづくりをしよう、プログラミングをしようといったプロジェクトを立ち上げ、コミュニティを作っていきます。

 

●信頼できる一人の大人〜コミュニティユースワーカー〜
信頼できる大人というのは、肩書きではなく、◯◯さんという人として、出会うということを大切にしています。
—子ども達との関わりのステップ
孤立する子供たちとつながって、伴走し、信頼関係を築きます。色々な経緯を通して、子ども達とつながります(行政や地域を通してつながることも)。関わる中で、見えてくる子どもたちの本当の願いを知って、本当にやってみたいこと、夢を叶えていくステップを子どもと一緒に作っていくのです。

 

●コミュニティユースワーカーの育成
—コミュニティユースワーカーに求められる3つの要素
どんな「①価値観」を持っているべきか、信頼関係を築く「②スキル」「③知識」をどう身につけていくか。
—背景
色々な価値観があることを知るためには、一方的な研修を受けるのでは難しいです。日々、実践で子ども達と関わりながら、関わっている中で何が起きているのかをリフレクション(ふりかえり)して、次にどう生かしていけばいいのか、実践とリフレクションの繰り返しの中で、もっと信頼関係を築くのに必要な学びは何かといったことが出てきます。そこで、必要な学びの機会(研修)を作り、基本的にはチームで活動をしています。
—研修の流れ〜スキル編〜
コミュニケーションの基礎を知る→観察・考察トレーニング→介入のトレーニング(観点を増やしながら、介入の方法を考える)→個別支援の方法を知る→集団支援の方法を知る

 

●コミュニティユースワーカーに持っておいてほしい姿勢
「あらゆる物事の前提を疑うこと」
特に子どもたちを生きづらくさせている(社会の/自分の)前提、判断、ルールを疑うこと
—コミュニケーションがうまくいかない時・価値観をはずせていない時
①思い込み、②目的優先、③自己の投影、④自己の防衛
—価値観をはずす
違う価値観にふれることで「価値観をはずすこと」が起きます。恐れ/不安/混乱が起きると、価値観を外しにくくする要因にもなリます。
—価値観をはずすために必要なもの
①安心基地、②リフレーミング(例えば、学校に行ってないことを、行かない選択ができているといった違う視点から見ることができている)、③メンター

 

●こどもをひとりぼっちにしないプロジェクト
既存の価値観や言葉にとらわれるのではなく、新しいものを作っていく、支援する・されるを超えた関係は、とびラーとも重なるところがあるのでは無いでしょうか。
子供たちにとっても、支援されるだけでなく、自分を何かをする場所があれば、
困難が困難でなくなったり、自分で乗り越えられるようになるのではないでしょうか。

 

(東京藝術大学美術学部 特任研究員 菅井薫)

2017.07.02

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