東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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〈トライアルとびラボ〉 「☆アート筆談☆で対話鑑賞~耳の聞こえない人⇔聞こえる人」

9月11日(日)、とびラボ「☆アート筆談☆で対話鑑賞~耳の聞こえない人⇔聞こえる人~」のトライアルを行いました。

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《筆談でコミュニケーション中の様子》

この日は3人の耳の聞こえない方々に参加していただき、とびラーたちと『ポンピドゥー・センター傑作展』の作品鑑賞後に、さまざまな画材を使って絵や文字を模造紙に描きながら「対話鑑賞」をしました。

この企画の目的は、日常生活の中でコミュニケーションにバリアを感じている、耳の聞こえない方が、聞こえる方と一緒に美術館において、お互いの鑑賞を共有しあい、それぞれの感覚を活かしたコミュニケーション方法を探る事です。

 前回の『ボッティチェリ展」では、お香を使った『「ボッティチェリ・鑑賞・香り」~聞こえない方と聞こえる方のサイレントコミュニケーション~』を行いました。この時は「五感」の中の「嗅覚」に対して「香り」を鑑賞ツールとして取り入れ、対話を広げる工夫をしました。「香り」は個々の「記憶」に直結しやすく、心を開き対話が豊かになるという効果はあったのですが、匂いに敏感な人、逆に匂いを感じにくい人もいました。
その時に初めて出会った参加者の方々は、さまざまなコミュニケーション方法がある中で、とりわけ「筆談」がメインの手段となったこと、そして、筆談による「対話鑑賞」の可能性を見つけたことが一つの成果となりました。

他の美術館でも耳の聞こえない方を対象としたワークショップは少なく、耳の聞こえない方と聞こえる方の「コミュニケーションの壁」をどのように埋めるかが課題です。その解決方法として、「手話通訳」を介するという方法がありますが、とびらプロジェクトならではの解決策を見出したいという大きな意義があります。また第三者(手話通訳)を介した対話ではなく、参加者同士、直接やりとりできるワークショップにしたいという思いも前回から引き継いでいます。いつも手話通訳がいるわけではない日常の中で、このワークショップをきっかけに、聞こえない人と聞こえる人がもっと気楽に楽しく交わることができるようになればいいなと思っています。

さて前置きが長くなりましたが、今回のトライアルの様子です。
まずは聞こえない人とのさまざまなコミュニケーション方法を説明した後で、それらを使ったアイスブレイクで場を温めました。

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お題を出して1人、2人・・全体で、と身体で表現してもらいました。

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そのあとグループに分かれて、展示室に向かいました。
「1、共通の作品(グループ一緒に鑑賞)」「2.気になった作品(各々で選ぶ)」に分けて鑑賞しました。
展示室に着くと「とびらボード」を使っての対話がすぐに生まれました!

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再び、アートスタディルームに戻り、さまざまな画材を使い感じた事などを、イラスト・絵・記号・落書きなど描いたり文字にしたりして「対話鑑賞」をしました。

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みなさんどんどん、絵を描き始めていきました・・

言葉で表現すると「雪山」・・でもそのイメージはそれぞれ個々違います。
たまたま同じグループの参加者は作品を見て、同じ「雪山」が浮かんだそうですが、
絵に描いてみると、それぞれ違う雪山だという事がわかりました。
言葉だけではここまで具体的には伝えきれないですよね。

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『さらに、模造紙に描かれた絵や色によって、新たな言葉が浮かび、
そこから連想ゲームのようなやりとりが繰り広げられました。』(参加者の感想)

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『参加者の描きこんだ絵や落書きを見て、その人の思いや体験・性格まで
追体験でき、自分の伝えたいこともその場で共有でき、聴覚障がいの有無が
すっかり取り払われたような気分になりました』(参加者の感想)

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『参加者の気になった作品については、どんどん会話が進み
共通性が見いだされ、新しい発見があり、対話が尽きませんでした。』(参加者の感想)

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最後に模造紙を貼り、それぞれのグループごとに、どんな対話が繰り広げられたのか発表してもらい共有しました。

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貼りだされた模造紙は、まるで新しいアート作品のようでした。

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本日の記念写真。みんなよい笑顔です。

 

今回トライアルを実施したことで、さまざまな発見、課題と解決案を見つけることができました。
聞こえない人にとって「絵」は言葉の一つなんですね。手話は構造的に写像的なので、絵や形で伝え合うことはとても自然な事なんだと思いました。聞こえる人にとっても「言葉だけに頼らないコミュニケーション」を体験することで、新たな世界が広がるのではないでしょうか。

参加者から「今回のトライアルは①見る楽しさ、②コミュニケーションの楽しさ、③表現する楽しさ、④気づかされる楽しさ、の4つを十分に楽しめました」との感想を頂きました。

「聞こえない人⇔聞こえる人」の新しいアプローチ、コミュニケーションの可能性を広げる「体感の場」、さまざまな画材を使って「色」や「画材の質感」を感じながら、言葉だけでは表現できない豊かな対話ができる「アート筆談」、聞こえない人とのコミュニケーションだからこそ見えること気付くことがあるかもしれません。

本番ではもっとブラッシュアップして実現したいと思います。
ご協力くださった耳の聞こえない方々、スタッフ、とびラーのみなさま本当にありがとうございました。
また、引き続きよろしくお願いします。


執筆者:アート・コミュニケータ(とびラー) 瀬戸口裕子
聞こえない人と聞こえる人のアートを介したコミュニケーションの場、
新たな価値観や世界が広がることをめざしています。

2016.09.11

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