東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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基礎講座 第5回|「地域の文化資源を発見する、そこでのとびラーの役割とは何か」

2017.06.10

6月初旬、快晴の土曜日、とびらプロジェクトの6期生を対象に基礎講座の第5回目が開催されました。
今回は普段の活動拠点である東京都美術館から、上野公園の様々なところに出向いてリサーチし、各所で発見した魅力をもとにプログラムを組み立てる、二部構成のワークです。

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◉本日の流れ
10:30-11:00 くじびきでグループわけ、活動についての説明
11:00-12:30 グループワーク①グループごとに上野公園内の各場所をリサーチ
12:30-14:00 グループワーク②上野公園の魅力を活かしたプログラムをつくる
14:00-15:25 成果のプレゼンテーションと講評
15:25-15:30 まとめ
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講座が始まる前に、くじ引きで行き先ごとのグループに分かれ、着席します。

行き先は上野公園内のスポットから9つ。
★東京国立博物館
★恩賜上野動物園
★お寺
★国立西洋美術館
★国立国会図書館国際こども図書館
★東京藝術大学
★桜並木、噴水
★国立科学博物館
★東京都美術館+周辺

ミュージアムや文化施設、その間にある場所が今回のお出かけ先となります。

 

続いて課題の発表です。

今日のテーマ:《新企画プレゼン大会!ー上野公園内の指定された場所をリサーチし、各所の魅力を活かしたプログラムをつくろうー》

課題:「美術館、博物館、お寺、桜並木など、上野公園には人を惹きつける様々な要素があります。場所・もの・人の動きをよく見てきてください。各自がリサーチしてきた内容を組み合わせて、とびラーの視点ならではのプログラムを提案してください。」

 

フィールドワークに行く前に、上野の地域性や、この後のリサーチで大切にしてほしい点をレクチャー。今回の講師は森司さんです。

ミュージアムにくわえて、大学や寺社など様々な場所をもつ上野公園。

これまでにも上野公園では、文化施設を中心に様々なイベントが行われてきました。しかし、まだまだ発展できる余地はたくさんあります。

 

今日のリサーチで特に心がけるのは、流行や常識にとらわれず、「フレッシュな目で様々な場所を横断してみる」こと。その場所で発見したこと、心惹かれること、気になったこと・・・まずは個人の感性を最大限に活かし、その場所を面白さや魅力をキャッチする。そして、それを誰かに伝えたり、共有したりするためのプログラム作りを考えていきます。

たとえば休日に美術館の展覧会を見に来るとして、その体験は決して展示室の内部に止まるものではありません。家を出てから美術館にくるまでの道中や、ご飯やお茶をする場所、寄り道したくなったところ、天気や季節なども含めて、その日のことは記憶に残るものです。これらのアンテナを意識的にはりめぐらせておくことが、体験を包括的に作る目を養うことにもつながります。

 

リサーチのヒントとなるのは、「MuseumStartあいうえの」で活用している「ビビハドトカダブック」。9つのミュージアムを中心に、その楽しみ方が書かれています。

 

こちらは国立西洋美術館。建物の前庭では、たくさんの屋外彫刻を楽しむことができます。

展示室の外、建物やその周辺にも注目してフィールドワークをすすめていきます。

こちらは国立科学博物館のチーム。

噴水の周りも、様々な人で賑わっています。

こちらは桜並木の下を歩いていたグループ。

何かを発見?視線の先には騎馬像がありました。いつも通る道でも、視点を変えて見たり、誰かと歩いて見ると、新しい発見があるようです。

紫陽花が咲き始める季節、新緑豊かな公園内を隅々まで歩き回ります。上野には何度も来ているけれど、巡ったのは初めて訪れる場所ばかりだった!なんて人も。

一通りリサーチが終わったら戻って昼食。午後はグループを組み換え、いよいよプログラム作りのワークに突入です。

9つのうち、3つの異なるグループにいた人で、新しいグループを作ります。

まずはそれぞれの場所で見てきたこと、発見したことを共有し、「どんな体験を来る人に味わってもらいたいか」を話し合っていきます。各テーブルで楽しく熱い議論が交わされていました。

今日のフレッシュな体験から、オリジナリティある企画を検討していきます。

最後に、できあがった企画を全員にむけてプレゼンテーション。内容をA3のシートにまとめ、全グループが発表します。

たとえば、「においと音に注目して木陰をあるくツアー」や「当初の目的地とは違う場所の魅力を発見しちゃうツアー」といった、公園を横断的に巡るプラン。上野を新しいビジネスの社交場にする計画や、噴水の周りをパレードする、携帯やスマホのかわりに桜の枝を持ち歩く・・・といったアイデアもありました。

各グループには、森司さんと日比野克彦さんによる講評があります。

楽しそうな思いつきから、すぐに実現できそうなプランまで、バリエーションに富むアイデアが披露されました。

何かを企画する際に、自分たちの周りにあるものや、その面白さを知っていることは一番の強みになります。今回の講座を通して、上野公園という場所の特徴を肌で感じ、新鮮な目でその活用法を考えることができたのではないでしょうか。

今日の着眼点が、これからの活動でどう実践されていくのか楽しみです。

 

(とびらプロジェクト アシスタント 峰岸優香)

基礎講座 第3回|「作品を鑑賞するとは」

2017.05.13

基礎講座3回目のテーマは「作品を鑑賞する」こと。これからとびラーとして美術館で活動していくうえで、たくさんの作品を鑑賞していくことになるでしょう。その時に、誰と、どんな言葉を紡ぎながら見るのか?展覧会のなかで、鑑賞とはどのような経験なのか?ただ「見る」こととはどう違うのか?「鑑賞」について多角的な視点をもってその体験を考えていきます。

午前中はアートスタディールームで3つの映像を見て話し合い、午後は東京都美術館の展示室で、対話による鑑賞を体験しました。


【午前】

講師は東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション担当係長の稲庭彩和子さん。

最初に視聴した映像は、メトロポリタン美術館館長であるトーマス・P・キャンベル氏のスピーチより「美術館の展示室で物語をつむぐ」。展覧会を企画するキュレーターのまなざしから、美術館での鑑賞体験について語る内容です。

約16分のスピーチは、キャンベル氏が学芸員の職のなかで経験した「発見の瞬間」、企画した展覧会に基づく「鑑賞体験をデザインすること」、美術館で得る体験の価値について述べた「鑑賞体験がもつパワー」の三部構成で組み立てられています。

映像を見た後に、重要だと思ったところや印象に残った言葉を話し合ってみます。まずは近くの席の人と、そしてグループで話し合ったことを全体に共有して、内容を振り返ります。

専門用語でなく自分の目で見る

体験をデザインする、編集された体験を届ける」

「どの作品もかつては現代美術だった」

「作品をみる視点が豊かであるためには…」

ミュージアムという場所の役割や、作品を感受するときに起きる心理など、

それぞれが気になったキーワードから丁寧に紐解いていきます。

ここでキャンベル氏が語っているのは、展覧会の企画者として、作品がどのように鑑賞者にアプローチする機会をつくっているか、という視点。このまなざしを通して、とびラーがこれから美術館へ来る人のために「どんな体験を届けたいか?」と考える軸を探していきます。

また、展覧会をみるうえで「よい体験とはどのようなものか?」という疑問もありました。キャンベル氏は「見る人を内省的な心理状態にしたい」と述べ、「観客が専門用語をひとまず置いて、自分の直感を信じるようにすること」がキュレーターの仕事であるとスピーチを締めくくっています。また、学芸員の稲庭さんからは「いい展覧会は、作品が多角的に見える。多視点でありながら、全体としての体験が統合的である」とのコメントがありました。これから学ぶ対話型の鑑賞は、鑑賞者ひとりひとりが感受したものを言葉にし、それを他者と共有していく方法。対話をすすめるなかで、他者への共感や差異に気づいていくことが非常に重要なポイントとなります。鑑賞者が感じたことを漠然と受け止めるだけでなく、言語化を試みることが思考の深化につながります。自分の視点に加えて、他者の豊かな視座を得ることもまた、個人の内向的な思考を深める一助となり得るのです。

次に視聴したのはイザベラ・ガードナー・ステュアート美術館の「Thinking Through Arts」。子どもたちが美術館のなかで絵の前に座り、活発に発言しながら鑑賞する様子が映されています。ここで行われているのが、対話による鑑賞(Visual Thinking Strategies = VTS)。子どもたちが発した言葉をもとに、問いを続けながら絵を見ていきます。このとき、要となる人物がファシリテーターです。ファシリテーターは一人一人の言葉を等しく扱い、作品のなかに発生する疑問や考えを全体に投げかけ続けていきます。

最後は、とびらプロジェクトにおける実践の様子。MuseumStartあいうえの「スペシャル・マンデー・コース」の例を参考に、とびラーが担う役割やその意味を学びます。

前回の講座「きく力」では、相手の言葉にどれだけ関心を寄せられるか?ということがポイントとしてありました。鑑賞におけるファシリテーターの存在もまた、鑑賞者のまなざしに寄り添う存在です。作品を見たときの複雑で混沌とした印象を、さまざまな鑑賞者がどのように表現するのか。その受け止め役となるには、話し手への関心に加えて、鑑賞する作品への興味と理解も欠かせません。

 

作品と鑑賞者の関係についていろいろな角度から考えたところで、午前の講座は終了。午後はいよいよ作品鑑賞です!


【午後】

午後は実際に、対話による鑑賞を体験してみます。

導入となるのが、アートカードを使った「なっとくゲーム」と「ものがたりゲーム」。

「なっとくゲーム」は、絵の共通点を探しながら、作品写真のアートカードを並べていくゲームです。

みんなが「なっとく!」できるキーワードを探す、コミュニケーションがメインワーク。作品のなかに見つけた共通点を、自分の言葉でフレーミングすることで、他者にその視点を共有していきます。

端的な情報をわかりやすく提示する人、独自の観点から感情的に相手を説得していく人、解釈したストーリーをつくってプレゼンテーションする人…など、そのプレイスタイルは様々です。

頭を抱えて考え込んでしまう人もいれば、身を乗り出して机から立ち上がり、熱く語る人も!

「ものがたりゲーム」はランダムに選んだ3枚のアートカードから、紙芝居のように物語を発想するゲームです。「おお〜!」「すごい!」という感嘆の声が何度も起こっていました。大きな拍手と度重なる大笑いが、話し手の解釈の豊かさを物語っていました。

物語の内容はもちろん、語り口によって演出される効果もさまざま。

 

みなさんの豊かな話しぶりが発揮されたところで、次は展示室へ。今日は日本画を鑑賞します。今回鑑賞したのは「第77回日本画院展」。同時代作家の新作を、1作品につき15分の時間をかけ、約8人のグループで作品を見ていきます。

まずは静かに、じっくり見る時間。

しばらく経った後、ファシリテーターの「この絵のなかで、どんなことが起こっていると思いますか?」という問いを皮切りに、見た人が感じたことを話していきます。ファシリテーターには、一人一人の意見を中立に聞き、発言を整理する役割があります。この存在によって場の平等性が保たれ、多角的な視点に気づきながら作品鑑賞をする手助けとなっていきます。

自分の目と頭を使って考え、他の人の意見も聞きながら、目の前にある絵について話を深めていきます。はじめは「どんな絵だろう?」と頭を悩ませていた人も、次第に自分の経験や感情にひきよせて語っている様子が見られました。

複数人で絵を見たり、話しながらの鑑賞は初めて!という人も、自分とは異なる視点の面白さを感じた人が多かったようです。鑑賞者の視点から、「見れば見るほど発見がある」という実感をもてたのではないでしょうか。

 

本日の講座は、午前中の講義で美術館体験の全体像を学び、午後に実際の鑑賞からその豊かさを体感する構成となっていました。

誰かに美術館での体験を届ける時に大切なことや、鑑賞をサポートする視点がどのようなものか、そのヒントがたくさん散りばめられていた講座でした。

 

(とびらプロジェクト アシスタント・峰岸優香)

基礎講座 第2回|「きく力」を身につける

2017.04.29

4月15日の第1回基礎講座(オリエンテーション)を皮切りに、今年度のとびらプロジェクトが動き始めました。
第2回基礎講座は、西村佳哲さん(とびらプロジェクト アドバイザー)を講師にお迎えして、「きく力」について、ワークショップ形式で考えていきました。

 

【午前】
講座の冒頭、西村さんからは「とびラーが何をするのかではなく、どう関わっていくのか」という基盤の部分を、講師として担当して頂くことが説明されました。

 

 

講座は、ペアワークないしは3人組で話す/きく時間が複数設けられ、その都度、メモ書きされた体験をもとにした振り返りと西村さんからのコメントが挟まれる形式で進んでいきます。

 

・自分はきける方、きけない方?
まずは、自己紹介も兼ねて、3人組で話してみました。
お題は、「自分は、きける方、きけない方?その詳細、理由は?」
きいてくれる人がいないと話は進まないという意味で、「きく側が力を持っている」と、西村さんはおっしゃっていました。

 

 

西村さんの解説を実体験するため、ペアワークが始まります。
きく役、話す役に分かれ、お互いには分からない形で、西村さんから次のような「ふるまい」をすることが求められます。

 

  1. あなたの最近嬉しかったことをできるだけ詳しく、話す(話し手)。
    上の空できいたり、相手を一切無視し続ける(きき手)。
  2. 話したいテーマを、詳しく気持ちを込めて話す(話し手)。
    相手の話が途中でも、相手の話の腰を折ったり、話を横取りする(きき手)。
  3. 最近、腹が立ったことについて、できる限り詳しく、気持ちを込めて、相手に伝える(話し手)。
    どんな些細なことでもいいので、相手の話を否定する(きき手)。
  4. 最近、困っていることについて、できる限り詳しく、気持ちを込めて相手に伝える(話し手)。
    相手が最近、困っていることについて話しかけてくる。多少脈絡がなくてもいいので、安易な解決策を相手に示す(きき手)。

 

途中で、きき手と話し手が何をしていたのか、種明かしされます。「きく側が力を持っている」という西村さんの冒頭の言葉が、実感を伴って、少しずつ腑に落ちる瞬間です。

 

あらためて、3人組を作り、「相手ができるだけ詳しく、気持ちを込めて話すのをより可能にするきき方」を話し合います。
ペアワークでは、「きき手」による、無視、横取り(聞いている風)、否定、先回り(介入)、といった「ふるまい」が意図的に行われました。
私たちは、普段、「人の話」を「自分の話」としてきいていないか。人は何によって話し続けられるのか、西村さんから問いが投げかけられます。関心を寄せられているという実感が、エネルギーとなり、人は話し続けられると、西村さんはおっしゃいます。人間、誰しもが受け入られたい、認められたいという欲求があるのだそうです。
「分かる分かる」といった安易な解決策を口にしてしまいがちですが、他人のことは簡単には分かりません。では、なぜ「分かる」と言ってしまうのか?その理由は、相手のしんどさが自分にとっても、しんどいからだそうです。

 

 

午前中の最後に、ここまでのお話を意識して、話し手、きき手、オブザーバーの3人組で、「これから始めて見たいこと、やりたいこと」をテーマに、もう1度「きく」ことに挑戦し、振り返りを行いました。

 

 

【午後】
午後は、午前中の最後のワークで振り返った内容を共有するところから始まりました。
西村さんからは、「きく力」とは、「発信能力より受信能力」、「するより、感受することが大切」であり、「きく側が力を持っている」ことの具体例が示されました。

 

・きく側が力を持っている
インタビューを例にするならば、有名な映画監督がどんなに話したいことがあったとしても、きく姿勢がなければきくことはできません。ライターが情報を持っているのに対して、映画監督はライターについての情報を持っていません。つまり、映画監督は何を書かれるのか分からない立場なのだそうです。

 

・引き出す?
良いインタビュアーは相手から話を引き出すのがうまいのでしょうか?上手なきき方は話を引き出すことなのでしょうか?という問いかけが、西村さんから投げかけられます。「きく」ために、「引き出す」ことから離れてみることが提案されます。インタビューのようにあらかじめ組み立てたいことがある場合のみ、「引き出す」のです。「話し手」に話したいこと、豊かな感情があれば、話してくれるそうです。「引き出す」のではなく、「溢れ出す」「染み出す」という感覚なのだそうです。

 

・いい質問をする?
良いきき方とは、いい質問かというと、ちょっと違うそうです。次から次に質問を繰り出すことで、相手の話を切ってしまうことにもなります。きき方を窮屈にすることにもなります。どういうことかというと、次に何をきこうか考えていくと、分からなくなっていくのです。心当たりがあった方も、いらっしゃったかもしれません。質問しなければならないパラダイムから自由になる必要があるのです。

 

・表現力の前に受信力:ついてゆく「きき方」
インプットがないと、アウトプットはありません。インプットが可能性を広げてくれるそうです。テニスを例に挙げると、ラケットをただ振るのではなく、球筋を見て、ラケットを振るイメージトレーニングが必要になります。つまり、球を打とうと思ったら、(球筋)を見ないといけないということです。
では、「ついてゆく『きき方』」とはどのようなものでしょうか。ついていくので、先回りはしません。New Questionもしません。話し手の話が止まれば、自分も止まります。沈黙を保つということです。あくまでも話さなければいけないのは、話し手です。「話すことは無い」と言われても、「無いんですか」と、ついてゆくのだそうです。

 

・どこについていくか:相手に関心を持つ
では、「ついていく」とは、どういう「ふるまい」を指すのでしょうか。話の内容を、頭で知的に理解するのではなく、味わってみる、一緒に感じてみようとするのだそうです。西村さんは、“歌詞”と“うた”の違いに着目し、具体例として挙げてくださいました。「ついていく」には、“うた”についていく、つまり、メロディ、抑揚、身ぶり、歌いっぷりについていくことだそうです。

 

最後に、西村さんからは、基礎講座でなぜ「きく力」を取り上げているのか、これからとびラーとして活動していくにあたって大切なことを話してくださいました。

 

 

・なぜ「きく力」という講座をしているのか?
とびらプロジェクトが始まる際に、アートボランティアというやり方はやめよう。決まっているやり方をするのはやめようという話があったそうです。決められたやり方/役割ではなく、「こういうことができる。足りない。こういう催しをしたい。」というようなことを「形にする」関わり方を作っていくことになったのです。「形にする」ためには、良質なコミュニケーションを保障することが求められます。そのために、「きく力」という講座があります。

 

・とびラーとして活動していくにあたって
とびラーとして求められるのは、プレゼンテーション能力や上手に喋ることではありません。大事なのは、人の話をきける人が数多く揃っていることです。どんなプロジェクトも、誰かにいいねと言われて、広がり、実現しています。きき合えれば、色々なものが成立します。
相手の話を、自分の枠組み(価値観、常識)におさめるのではなく、関心を持ち続けるのです。これから、とびラーとして活動していく際に、来館者と接する場面が出てきます。その時に、「きける」ことが大切です。その人が、どういう人か知覚できれば、適切に動くことができます。ぜひ「きける」者同士でいてください。もし、「きけない」状態になっているようであれば、気がついた人が、「きく」側に回りましょう。

 

2回目の基礎講座は、まさにとびラーの皆さんが、これから実際の活動を計画したり、動いていくにあたっての「基盤」となる内容でした。講座終了後には、とびラボに関するミーティングが多数開かれていました。講座で実感したこと、学んだことを、具体的な活動に活かしていけるといいですね。

(東京藝術大学美術学部 特任研究員 菅井薫)

基礎講座 第1回|オリエンテーション

2017.04.15

4月15日、本年度第1回目の基礎講座(オリエンテーション)を行いました。
第6期とびラー50人を新たに迎え、総勢132人で本年度の活動がスタートです。
まずはスタッフ紹介から。「とびらプロジェクト」、そして連動する「Museum Start あいうえの」に関わる全スタッフ陣です。

今年で6年目となり、2年目に始動した「Museum Start あいうえの」など、活動の拡がりとともにスタッフの数も少しずつ増えていきました。常勤、アシスタントを含めたこの運営チームが東京都美術館(以下:都美)内のプロジェクト拠点に常駐し、とびラーと一緒に活動しています。

 

ここからが今回の講座の本題です。年間のはじまりにあたり、プロジェクトについて改めてゼロからみていきます。
まずは「とびらプロジェクト」「Muserum Start あいうえの」のコンセプトムービーを視聴し、次に年間の流れを確認します。春の時点で決まっている講座やプログラム、そしてとびラーのアイディアで動き出していくもの。1年を通したの自身の動き方の予測をたてていきます。


更に、それぞれのプロジェクトのウェブサイトを見ながら、とびラーとしての活用の仕方を学びます。

あいうえののウェブサイトを紹介したのは、スタッフ(プログラムオフィサー)の渡辺さんです。あいうえののコンセプトをより深く知ることももちろんですが、プログラムの参加者である子供たちや家族がどうウェブサイトを活用をしていくのか、また、とびラーの関わり方がどのように紹介されているか、今後あいうえのにも関わっていく上で大切になるポイントを伝えます。

 

ウェブサイト紹介のあとは、都美、藝大それぞれの歴史や特徴をききます。

都美のお話はアート・コミュニケーション係 学芸員の河野さんから。設立からとびらプロジェクトがリニューアルした2012年までの経緯や、前川国男が設計した建物の建築的な歴史も交えたお話でした。

そして藝大はプロジェクトマネージャの伊藤さんから。歴史はもちろんのこと、なかなか知る機会の無い学部・学科の特徴についてもお話いただきました。

 

冒頭に視聴したとびらプロジェクトのコンセプトムービーの中には「とびラーは美術館のサポーターではなくプレイヤーとして活動していく」というキーワードが出てきます。とびらプロジェクトでは様々なプログラムや学びの機会が用意されていますが、とびラーはそこに受動的に参加するのではなく、能動的に関わっていくプレイヤーとして活動していきます。とびラーとスタッフ同士、あるいは美術館にやってくる方々や参加者の子供たちと一緒に体験をつくり、一緒に学び合う関係を育み、新しいアイディアもこういった関係性の中から生まれていきます。
都美と東京藝術大学(以下:藝大)との連携ではじまったプロジェクトが、「Muserum Start あいうえの」の上野公園中にある9つのミュージアムとの連携により、とびラーの活動フィールド、そして出会う文化財、人々も広がりをみせている。オリエンテーションの前半部分ではその全体像を把握しました。

オリエンテーションの後半は、新とびラーと2,3年目のとびラーに分かれてガイダンスを行いました。

これから新とびラーのみなさんは6月まで隔週で開催される基礎講座に参加し、徐々にとびラボなどの自主的なの活動などに合流していきます。夏には実践講座やあいうえののプログラムもスタートし、それぞれの関心を中心に動いていくことになります。

 

今回はとびらプロジェクトに関わる全メンバーの初めての顔合わせということで、夜は懇親会を行いました。

懇親会後の集合写真です。
新とびラーのみなさん、そして4,5期のみなさんも、本年度一年よろしくお願いします!

(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)

【開催報告】「見楽会」開催しました!

2017.03.05

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日時 2017年3月5日(日)①13:30〜14:30 ②15:30〜16:30
会場 東京都美術館 「都美セレクション 新鋭美術家 2017」展
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東京都美術館で毎年開催されている企画展「都美セレクション 新鋭美術家 2017」展は、「公募団体ベストセレクション 美術 2016」展の出品作家の中から新進気鋭の若手アーティスト5名を紹介する個展形式の展覧会です。
今年は、日本画、彫刻、工芸、油絵など、ジャンルを異にする5人のアーティストの作品が並びました。

 

この展覧会で開催されたとびラーによるプログラム:「見楽会」。「見楽会」では、初めて会った人同士5~6人で、感じたことや考えたことを話しながら作品を鑑賞します。

 

ところで、展覧会で作品を観ているときに「隣の人は何を考えてるんだろう」と思ったことはありませんか?
私自身は一人で美術館に行くことが多く、展示室の落ち着いた空気とか、大勢の中での孤独みたいな感覚も好きなのですが、たまに「人と話したくなるとき」があります。

たとえば自分にはそんなにぴんとこない絵なんかを隣の人が一歩も動かずにじっくり見ていたりすると、「あの、ちょっとすみません、どこをそんなに熱心に見ているんですか」と聞きたくなったり。
あるいは思いがけず素敵な作品に出会ってしまったときに、「これすごくいいですよね、なんと言ってもここの色が…」と誰かに話しかけたくなるのですが、突然そうするわけにもいかないので、黙ってSNSに投稿してみたり。
たぶん、その場で直接話せる相手がいたら本当は良いんじゃないかと思います。

 

 

さて、今回の見楽会にご参加くださった皆さん(1回目:16名、2回目:6名)のほとんどが、当日の呼びかけで集まりました。
参加したきっかけは人により様々のようですが、例えば、「たまたま声をかけられて」「対話型は珍しいから」という声が聞かれました。このようなプログラムがきっかけで、知らない人同士が気軽に集まって話す場ができていく様子を目の当たりにすることができました。

 

今回は1グループにつき3作品を鑑賞しました。

 

「気付いたことは何ですか?」「どう感じますか?」と問いかけると、
形や色など見た目のことや、「この人物はこんな性格じゃないかな」という想像したことなど、いろいろな意見が。

 

各グループが鑑賞している様子です。

 

 

他の人の意見を聞いて「そうそう」と頷いたり、「それについては、自分はこう思う」と考えを話したりできるのが、一人のときにはできない体験じゃないかと思います。
自分では意外と作品のすべてを見てはいないもので、「え、そこに注目するんだ。言われてみれば面白いけど、全然気付いてなかった!」みたいな驚きも。

 

 

 

見る角度によってちがった発見があるので、みんなで作品に近づいてみたり、のぞきこんでみたり。お互い初対面の見知らぬメンバーだったのに、だんだん一体感が生まれてきます。

 

「隣の人が考えてること」が気になるけど普段は話しかけられない私は、この場でならファシリテーターとしてどんどん聞けるからラッキー、と思ってやっています。
「今言ってくれたことって、絵のどこを見てそう思うんですか?」「それってこういうことですか?」と尋ねていくと、その人の目のつけどころやセンス、価値観や世界観みたいなものが表れてくるような気がします。

 

一人で展示室にいるときに知らない人には、なかなかそんな風に話しかけられないですよね。

 

それができるということは、目の前にあるアート作品を介して、お互いのコミュニケーションが生まれているからではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執筆:アート・コミュニケータ(とびラー) 小西佐和

とびラーの活動を通じて、アートの力を日々実感しています。

【開催報告】「女子美さんぽ」楽しく開催しました。

2017.03.05

2017年3月5日、春の訪れを実感するようなうららかな天気の日曜日に「女子美さんぽ」を開催しました。
◆「女子美さんぽ」ってどんなプログラム?

とびらプロジェクトで「女子美さんぽ」を行うのは、今年で3回目。毎年3月初旬に都美 術館の公募棟1Fで開催される「JOSHIBISION」(女子美術大学大学院・大学・短期大 学部 学生選抜作品、女子美術大学付属高等学校卒業制作展)。この展覧会にて、会場内をさんぽのように気軽にめぐり、作品を鑑賞しながら作者との交流を楽しむ企画です。アートを介し て人(来館者)と人(作者)をつなぐことをコンセプトとし、双方の考え方や思いを共 有することで新しい価値の創造を目指しています。

(2017年の「JOSHIBISION2016」の会期は3/2~3/7)

 
◆参加者の受付。これからご案内するとびラーの紹介や、おしゃべりをしながら「さんぽ気分」を高めていきます。

◆受付が終わると展示室に入ります。さあ、これからいよいよさんぽが始まります。

◆展示室をさんぽ気分で巡っていきます。

◆いろんな作品があり皆さん興味津々です。


◆体験型の作品を体験してみます。

◆映像作品。ゆっくり鑑賞しています。


◆作品を鑑賞しながら、みんなで思ったことや感じたことを語り合い共有しています。

◆作者である学生さん達が作品コンセプトを説明したり、参加された皆さんからの質問 に答えたりと、作品を通して交流を深めていきます。同じものを見ても、思いがけない意見や感想が出てくることから、いろんな感性によって違ったものに出会える、とてもワクワクする瞬間です。

 

◆展示室を巡ったあとは、みんなで感想を共有したり、鑑賞した作品の作者へ応援のメッセージを書いていただきました。


◆ご参加いただいた学生(作者)の感想と、プログラム参加者による作者へのメッセージを一部紹介いたします。
【作者の感想】

「いろいろな意見が聞けて良かったです。人の意見によって気づきがありました。」

「さんぽの後、人がたくさん来ていろいろ質問してくれて嬉しかった。」

「長くいることによって質問も多くなり、質の高いコミュニケーションをとることによって楽しめた。」
【参加された来館者から作者へのメッセージ】

「街にあふれる文字が思いがけずに素敵な作品になっていました。ノスタルジックな時代のものだったり、今に残されてしまった感が悲しいような、楽しい文字でした」

「とても心暖まる作品でした。ご本人は優しい雰囲気なのに力強さも作品から感じとれ ました。生命をテーマとした今後の作品も楽しみです。」

「何でも自由に操作できる時代に、敢えて不自由さを感じさせるような作品だったのが印 象的でした。家電にも、こんな遊びゴコロがあると面白いと思いました。家電とアート の融合、たのしみにしています。」

 

◆最後に

今回のさんぽでは、女子美術大学に在学中のご家族の方々や、これから通うという方もいらした一方で、ふらっと美術館まで散歩に来られた方々や、他の展覧会を観 に来られた方々もいらっしゃり、多様なメンバーで展覧会を巡りました。印象的だったのは、作者との交流から先輩後輩としての アドバイスに発展し、女子美の新入生の方々に「4月からの学生生活がとても楽しみになりました」という感想をいただいたことです。また、通りすがりに参加してくださった方には「こんな展示もあるんですね」と喜んでいただきました。いろいろな作品を見るなかで、様々な感想やご自分の知っている分野などの話を交えて、作品について考えたことなどたくさんのお話がふくらみます。多くの質問が飛び交い、作者との交流も楽しく、始終和やかな雰囲気で展覧会をゆっくり巡る、贅沢な時間。最後には、「今後も若い作家を応援していきたい!」 との感想もいただき、とても充実したさんぽとなりました。

作者の方々からは、鑑賞者と接して話すことは新たな気づきとなるという感想や「アー ト・コミュニケーション、いいね!」と言っていただけて、アート・コミュニケータとして はとても嬉しい結果となりました。 今後も女子美の展覧会でのさんぽで、人(来館者)と人(作者)をつなぎ、双方の考えや思いを共有することで新しい価値の創出を目指していきたいと思っています。 来年もぜひたくさんの方々に「女子美さんぽ」へ参加いただき、みなさんと出会えることを心待ちにしております。そして、楽しい場をみなさんと共有できますように。
執筆:上田紗智子(アート・コミュニケータ「とびラー」)

障害のある方のための特別鑑賞会「ティツィアーノとヴェネツィア派展」

2017.02.27

2月29日に「障害のある方のための特別鑑賞会」ティツィアーノとヴェネツィア派展を開催しました。

当日は878名の多くの方々にご来場いただきました。

開室時間の前から、たくさんの人たちが待ってくれていました。

特別鑑賞会では、とびラーが受付や動線のご案内、エレベーター乗り降りのサポートをしています。また、卒業したとびラー(アート・コミュニケータ東京)の方々もこの日はサポートに入ってくれています。ですので、たくさんの人たちの経験値が引き継がれて、常にバージョンアップしています。

学芸員の方によるワンポイントトークの時間にも、手話通訳が入ります。

展示室の中でもとびラーたちが、鑑賞の伴走役となって来館者のサポートをします。目が不自由な方には、一緒に作品を鑑賞しながら、とびラーの目を通して来館者は作品を味います。

休室日の時間を使った、贅沢な時間が展示室に流れています。

この日は車椅子をご利用になる方が多くいらっしゃるので、作品運搬のための大型エレベータも稼働させます。

この日は、展示室の入り口に「ヴェネツィア・カーニバル フォトスポット」が出現しています!
仮面やマントをつけて扮装しながら、ヴェネツィアに行った気分になって写真撮影ができます。最初は遠慮気味な人も、とびラーたちが積極的に勧誘して衣装を身につければ、すっかりヴェネツィアへ行った気になっていました。

 

障害のある方のための特別鑑賞会では、毎回開催を心待ちにしてくれている人も多く、とびラーがいることが来館者にとっての安心できる場の要素になっています。来館者ととびラーは「お客とスタッフ」という関係ではありません。
今後もとびらプロジェクトでは、こうした人と人とのアートを介したコミュニケーションデザインをこれからも実践し、更新し続けていきます。

(東京藝術大学美術学部特任研究員 奥村圭二郎)

【開催報告】「パパトコ・ミュージアムトリップ」トライアル

2017.02.17

週末にご家族でお出かけしようとした時、どこに行きますか?公園、動物園・・・でも美術館は敷居が高いなぁと思われる方もいるかもしれません。この企画は、美術館をパパとこどものお出かけの場所にしてもらおう!子育てをきっかけに大人達にも美術館が身近に楽しめる場所になったらいいな、という思いから始まりました。

 

今回、とびラーでトライアル企画「パパトコ・ミュージアム」を開催しましたので、その様子をお伝えします。今回の企画は、東京都美術館から近い、国立西洋美術館の常設展を親子で鑑賞してもらい、その結果を絵本にまとめるという内容です。とびラーの紹介で、3組のパパとこども達、ママも併せると9人の方々に参加いただきました【こども4人(1才2人、4才、6才)/大人5人】。

 

まずは東京都美術館に集合。とびラーからの挨拶、企画の目的や流れをお話した後、自己紹介タイムです。
そして、国立西洋美術館に行く前の予習として、紙芝居をしました!紙芝居の中では、パパとこどもが国立西洋美術館に行きます。そこで見つけた9つの作品を紹介しながら、とびラーから「絵の中に何を見つけたかな?」「この絵は何に見えるかな?」と問いかけていきます。「桃を見つけた!」「赤い丸は地球?梅干し?」こども達も元気に参加してくれました。紙芝居は、参加者の皆さんにこれから鑑賞する作品を楽しんでもらうきっかけにしていただければと思って作ったものです。

 

 

次に、いよいよ鑑賞です。参加者の方々は、親子3組がそれぞれとびラーと一緒に国立西洋美術館に行き、作品を楽しみました。国立西洋美術館では、紙芝居で紹介された作品を見つけて、駆け寄っていくこどもも。初めて見る作品もたくさんあります。こども達が作品を見てどんな反応をしてくれたでしょうか・・・大人にとって意外な反応もたくさんありました。

 

 

そして鑑賞を終えて、再び東京都美術館に戻ってきました。皆さんそれぞれ一休みしながら感想を話されています。鑑賞後、絵本づくりで使いたい写真を5枚程選んでもらい、メールで送信していただきました。

 

休憩後、パパとこども達で鑑賞を振り返り、絵本づくりを行いました!こども達が作品を見た時の感想も取り入れて、作品や鑑賞時の写真、また一言を書いたアルバム形式の絵本を作成していきます。宗教画を選ぶこどももいます。「この杖がかっこいい!」

 

 

最後に、パパとこどもで作った絵本を、参加者の皆さんの前で発表しました。

 

 

彫刻もありました。困っているのかな、「いい子、いい子」と頭をなでてあげる子も。

 

 

大好きな果物も見つけてくれました。

 

 

皆で行った記念写真も絵本に。

 

 

トライアルを振り返って、参加したパパ達からは、「最初の紙芝居でこども達が作品に興味を持ってくれた」「絵本を親子で話しながら作ることができて良かった」「こどもが作品を見た時の反応が楽しかった」「美術館を親子のお出かけ場所にできるかも」との感想をいただきました。終わった後、参加してくれたこども達が絵本を大切に抱えて、喜んで持って帰ってくれた姿が印象的でした!

今回はトライアルでしたが、参加してくださった方々、本当にありがとうございました!鑑賞の前後に紙芝居と絵本づくりをすることで、パパもこどもも興味を持ってくれたり、鑑賞を親子で楽しむきっかけになったり。企画したとびラーの私達にとっても、パパ達、こども達の思いもよらない作品の見方を教えていただき、また素晴らしい絵本づくりに感動し、楽しい時間となりました。今後も美術館をもっと色々な方々に楽しんでいただけるよう、様々な企画に活かしていければと思います。

 


執筆:松山大美(アート・コミュニケータ(とびラー))
とびらプロジェクトに参加して1年目、多様な方々との出会いに感謝しています!

【開催報告】ヨリミチビジュツカン 「ティツィアーノとヴェネツィア派展」

2017.02.12

『ヨリミチビジュツカン』へようこそ!

ここでは、いつも自分が過ごしている場所からちょっと離れて、ゆったりとビジュツカンにヨリミチして過ごす時間があります。
その場に集った人たちと、作品を前に感じたことや考えたことを自由にお話していくと、思わぬ発見があったり、深まったり。
ひとりで来る時とは違う美術館でのひと時をゆるりと過してもらえたらと、これまでは金曜日の夜間開館の時間帯に行ってきました。

 

ですが今回はいつもと違うのです。
『ティツィアーノとヴェネツィア派展』での開催は2月の日曜日の昼下がり。
寒い中にも少しずつ春の気配を感じる光が美術館の窓からやわらかく差し込んでいます。

集合は、北欧家具が並ぶ一階の佐藤慶太郎記念アートラウンジです。

 

参加者の皆さんはなんと全員女性。遠方からお越しくださった方もいらっしゃいました。

まずは最初に『カード』を使ってアイスブレイク。選んだカードに記されているお題と共に自己紹介をします。その一言にその方の雰囲気やお人柄が伝わってきて段々と場も和んでいきます。そして一緒に展示室を巡る少人数のグループに分かれます。

展示室に出発する前に、「ヨリミチカード」をお渡しします。
このヨリミチカードは展示室内での気づきなどのメモに使っていただくもの。とびラーたちが展示会ごとに趣向を凝らして制作しているのです。
今回のテーマは『惹かれるまなざし』です。

『ヨリミチビジュツカン』は2部構成となっていて前半は作品鑑賞、続く後半はカフェタイムです。

 

では展示室に向けて出発しましょう。
『ティツィアーノとヴェネツィア派展』では、ティツィアーノが活躍した時代を中心に大きく三つの時代がフロアごとに構成されています。
テーマの「惹かれるまなざし」を探りながらグループで巡っていきます。

最初のフロアはアーチをくぐり15世紀の水の都ヴェネツィアへいざなわれる様に始まります。

ここでは多くの聖母子像が並びます。
その聖母マリアについて着目する参加者もいらっしゃれば
「少し硬さを感じる表情とまなざし」
「母子の視線が絡まっていない」
対する子イエスの表情について気になるという方も。
「堂々とした目」
「自信ありげな表情」
同じ作品を見ていても視点は各々違っています。

グループごとに気になる作品の前で立ち止まってみます。
みなさんから発せられる感じたこと、考えたことをとびラーが言葉をひろいつつ対話を深めていきます。

 

次のフロアでは正面にこの展示の広報でもおなじみの『フローラ』など女性の肖像が並び、また少し進むと男性の肖像画が待っています。この時代の女性や男性の描かれ方に女性ならではの視点も上がります。



女性の肖像画に対してはこんなコメントも。
「私を見て!と自信たっぷり」
「こんな人になりたい」
「香りがしそう」
「美しいけど現実離れしている」
「男性から見た女性の理想だろうか?」

男性の肖像画に対しては
「リアルな感じ」
「鋭い視線で目が離せない」
などなど、どの人物が好みでどんなタイプなのだろうか、また先ほどの女性の肖像画に比べて描写についての違いに触れた意見も出て、話が弾んでいきます。

最後のフロアでは『教皇パウルス3世』の鋭いまなざしに出迎えられます。
「信頼してなんでも相談ができそうな目」
「ずっと見ていたい」
「長い年月の積み重ねを感じる」
などの感想が上がります。

 

展示室での時間もあっという間に過ぎ、もう少し作品を見ていたい気持ちもありますが、後半はアートスタディルームに移動しお話の続きはそちらで。

 

とびラーが温かいお飲み物やお菓子をご用意してみなさんのお帰りを待っています。好きな飲み物を選んだらカフェタイムの始まりです。

いくつかのテーブルに分かれて、ゆるやかに会話が広がっていきます。

図録を使って展示室内のふり返りをしたり、付箋に感想を書いたり。

 

他のグループではどんな感想が出たのでしょうか?この左の写真の中の男性の肖像画は各テーブルでも話題に。

 

テーマの『惹かれるまなざし』について他のグループではどんな作品に立ち止まって、どんな話が出てきたのか、図録で確認しつつ共有する中で、またそこで新たな気づきが生まれ、そんな風に思ってもみなかったなどいろんな話が展開していきます。
参加された皆さんからは
「ひとりで見ていたら“美しい”だけで響かなかった。」
「他の人の気づきにハッとした。」
「複数の方と鑑賞できて新たな見方を発見できてよかった。」
「ひとりなら通り過ぎてしまう作品にも一緒に立ち止まってみることで面白さがあった。」
など、初めて出会った人とも作品の前で過すと、ひとりの時よりも新しい視点が生まれ展開があったり、そしてコミュニケーションが広がっていく楽しさがあるという声が聞かれました。
とびラーにとってもこのことは面白く魅力のある事と感じています。
その場で出会った方たちと作品とで生まれるコミュニケーションの魅力。
一人でなく何人かで一緒に見ることで広がる視点や人の出会いの面白さ。

 

そんないつもとは違った美術館でのヨリミチ時間はいかがでしたでしょうか?
参加してくださった皆さん、ありがとうございました。


執筆:大川芳江(アート・コミュニケータ「とびラー」)

「見慣れた風景の中に潜む要素を取り上げ、新しい価値を吹き込む」藝大生インタビュー2016|建築科4年・樽澤眞里子さん

2017.02.01

1月、取材のその日は快晴。

総合工房棟のエレベータから降りる。廊下越しに、ふいに…そこはガラス貼りの明るい空間だった。

 

(…うーん…オープンな空気だなぁ。)

ここは卒業制作の中間発表会や、講評会に使われる場所で、今回のインタビューのためにこの場所に発表時の再現をして下さったのだとか。

 

(あ、街のミニチュアだ…)

空から見た風景の中に、明るいグレイ色のうねうねとしたものが横たわっている…。

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「これは日本橋で、首都高速の…」

と明るい声で説明をはじめてくれたのは、今回の取材に応じて下さった建築科の樽澤眞里子さん。

どことなく、ふんわりとしていて、素敵な笑顔の明るいかただ。

 

そうか、これは空想ではなく、現実の場所なんだ…。

よく考えてみると、建築とはひとつの巨大な作品とも言える。

 

ときと場合によっては、ひとつの街や都市といったスケールが作品になるという、とてつもなく大きなもの…。それは動き、人が中に入って生活を営むこともあり、ドラマあるいは出来事と言っても良いのかも知れない。しかもほとんどの場合、現実に形にする時には自分で作るわけにいかず、その指示を設計図や、時にはスケッチというコミュニケーションツールを駆使して、様々な役どころの人たちに伝えなくてはならない。法律や生産技術、流通、いろいろ考慮することが山ほどある。そして出来上がったのちに、時という時代の中でやがて変化してゆく。

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「建築では、実際には作れないものを模型や計画図で説明してゆきます。講評会では自分のイメージしているものや考えていることを、どう表現するかが問われています。教授や専任教員や助手の方たちが出席している中で質疑に受け応えてゆくので、緊張します。」

 

「言葉は限定的なので難しい。…実は、私はプレゼンテーションはあまり得意ではないんです。(笑)」とおっしゃる樽澤さん。だが、なかなかどうして、よどみなく経験に基づく様々な例を挙げながら、とても明るくオープンに楽しく話してくださった。

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『他の人と交わりながら、形づくられる』

「他人からどのような意見が出てきても、このアイデアのほうがいいんじゃないかと言われても、ひるまない。しかしその言葉を尊重し頭から否定することなく、冷静にとらえ、それから自分の主張を述べるようにする」とのこと。

「なかなか、そうはいかない事もありますけどね…」とおっしゃっていた。

ただ、経験豊富な方から、こうしたほうがいいんじゃないか、と助言をいただいた時は、まずやってみることにしているそうだ。いろいろやってみて初めて気づくこともある。それと同時に、自分の考えや解釈を加えてゆく…とのこと。

 

美術の世界とは、物を作る職人のようなもので、そんなに人と関わらなくてもいいのかと思っていた。けれど、実際に大学で制作をはじめてみて、全然そうではなかった、と樽澤さんは笑いながら言う。人に自分の作品について話しをすると、アドバイスをいただいたり、そうしているうちに次のアイデアが出てきたりする。人との関わりがとても大事だと、4年間の中で感じたそうだ。そしてご本人を見ていると、そのような予期せぬ出会いの出来事自体を楽しんでいらっしゃるように感じた。

このような「対話」の積み重ねの経験の中で、磨かれてゆくものもあるのかもしれない。

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『内側から外を見ること』

建築特有のインサイドな視点。自分がもしそこに居たとしたら、周りがいったいどのように見えるのか、という見方。逞しく想像力をはたらかせる。

模型の中で自分を小さくしてゆき、そっとそこに置いてみる…。

そこにいると光はどこから射してくるのか。音はどんなふうに聞こえてくるのか。風は、どのように…。_MG_5790 _MG_5835 _MG_5754

『傾斜・屋根・人の視点・内と外との曖昧』

インタビューに伺う前に、樽澤さんの建築計画を見せていただいていた。そのときに気づいたのだが、「傾斜と人との関係」「屋根とその下の空間と人との関係」「互い違いの傾斜を持つスラブと人間の視点」「室内に入ってくる光、内と外が曖昧な場所もある」・・・など、樽澤さん独自の考え方が、描かれたスケッチにははっきりと表れている。

今回の卒業制作の計画を考える基盤に、この考え方が活きている。卓抜したアングルを探す目。

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「首都高速道路」はただの「壁」といったモノではなく、人と人とをつなぐ関係性の「綱」のようになっている。

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『神輿のようなものが見える…』

例えば、日本橋地区で古くからおこなわれている祭りの賑わいや、人々に担がれる神輿など、日本橋の上と下で人々の視線が行き交う造りになっている。橋の上から下へと臨む劇場空間、道の先がだんだん高くなってゆくスロープ歩道、カフェのようなロビー空間…。有機的に空間がつながってゆく。

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もともとこの首都高速道路のカタチには特別な事情があるとのこと。日本橋の川は徳川幕府によって恣意的に「への字」に曲げて作られたもので、首都高速はその日本橋川に沿って建てられたという、歴史的な意味合いをカタチにしたともいえるそうだ。

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躯体コンクリートの床の上には、カーペットが敷かれて、ソファといったもので構成された空間に…と樽澤さんは大胆な発想で計画している。人と人を繋ぐ、居場所のような、人間スケールの空間を創り出す方法を考えているのかも知れない。

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『原風景』

建築への入り口はさまざまで、芸術大学や美術系大学の建築専攻と、工学系大学と建築分野では、どこが違うのだろうか。そんな漠然とした問いを、樽澤さんに問いかけてみた。

 

子供のころは幼稚園も小学校も家からは遠く離れていて、近所の子と遊ぶというよりは、自分の家とその周りはすべて庭であり、そこでいろいろな想像をしながら、遊ぶのが常だったという。小さい時から、自分の家を自分で設計して作るのが夢で、その過程に今はあるとのこと。これは樽澤さんの原風景であり原初体験とも言えるのでは…。

 

そして、美術系の建築と工学系のそれとの違いは、たぶん最終形はあまり変わらないかも知れないが、最初にイメージするものが違うのではないか、とおっしゃっていた。

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「考えるときにまず『風景』というものをかんがえます。人はそこにいてどういう状況になるのか…。スケッチブックに図やダイヤグラムのようなもの、人のいる風景を描き、そこからサイズやスケールを考えたりし、スケッチや模型を何度も繰り返しながら進めてゆきます。」という。

これは、完成形としての精緻な模型ではなく、考えたり、確認したりするための実験ということだろう。理想あるいは考えていることと現実との落差もここでわかるのだろう。ああ膨大な作業だ…。

 

「水彩でスケッチを描くこともありますが、リアルにならないので、理想形でしかないような状態になりやすいんです。」

別の機会に樽澤さんの水彩画を拝見したことがあるが、何をやりたいのかが建築のスケッチとしてシンプルにはっきりとわかる。目指している方向や「風景」がすっきりわかる。図面や模型は情報量が多すぎて、時には言いたいことが伝わりにくく隠れてしまうことが多いと思う。

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…いろいろなお話を伺っているうちに、樽澤さんの考えている建築への考え方や風景周辺に対する理想のことなどが、何となく少しわかってきたような気がする。

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そして、樽澤さんは、ご自分の卒業制作についてこのような言葉を書いている。

 

『…都市の間を縫うように創られた空中の道路

既存のインフラの躯体の中に人間スケールの空間を見つけ出し

減築または増幅させた中でプログラムを挿入する。

首都高速の自在な曲線に着目

首都高速が『壁』のように地域を分断するものから『居場所』のように

人と人とを繋ぐものへと変化させるため、空間を創造したい。

かつての記憶をつぶすことなく再構築しつつもその気配を大切に

そして新しい機能を潜入させていく。

普段見慣れた風景に中に潜む要素を取り上げ、その中の一つである高速道路を

舞台に日常の豊かな風景を周囲から引き込み

新しい価値として再発見させる。…』(一部抜粋)

 

 

『これからのこと』

卒業した後、この春から藝大の大学院で東洋建築の分野に身を置くことになっていて、そこで日本庭園の研究をする予定だそうだ。なるほどそう言えば、樽澤さんの以前の計画案で、東京愛宕山の地区設計の計画があり、その中で、廻遊式庭園の見え隠れする景観の計画のことに触れていて、その場合の植栽と建物が見事に「不等辺三角形」の配置となっていて庭園風景を造ることに言及されていた。まさにこのことと繋がっているように感じた。

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樽澤さんの大学院での研究、そしてそこでの経験からの気付きについて、ぜひまたお話を伺いたいと思う。

 

樽澤さんのような建築の方の活躍の場がますます拡がり、新たなものを造るだけではなく、いまある資源や価値を掘り起こし、再発見する。そしてこの地球という星を考え計画することで、世界にさまざまな夢を繰り広げてゆくのだろう。そのような夢を見ているのは私だけではないと思う。近い将来そんな日がやってくることを期待している。_MG_5888

 

インタビュー・執筆:園田俊二(アート・コミュニケータ「とびラー」)

撮影:峰岸優香(とびらプロジェクト アシスタント)

園田さん写真

園田 俊二(そのだ しゅんじ)

空間計画・建築や場作りに関して、調査から企画・製作・フィードバック・教育など一貫してモノを作るために必要なことをやっていました。これをベースに現在は新たなワークの実験を開始するために… 創造性のトビラを開く…を合言葉に準備中。

 

 

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