東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

INTERVIEW

13

中島 惠美子 さん

「幹事大好き」の4期とびラー

”とびラー”インタビュー
中島 惠美子 さん

INTERVIEW

13

中島 惠美子 さん

「幹事大好き」の4期とびラー

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「私の人生そんなに間違っていなかったな」

とびラーに応募したのはどうして?

中島 2015年にリニューアルオープンした千葉県立美術館に、とびラー募集のチラシが置いてあったんです。ちょっとかわいいチラシだったのでもらって帰って読んで、やってみようかな、と。
私、千葉県が主催の千葉県生涯大学校の園芸コースに通っていたんですが、そこで知り合った、元・中学校の美術の先生と一緒に「美術館と小さな旅を楽しむ会」っていうのを立ち上げたところだったんです。美術館に行って作品を見るだけでなくて、建物とか、まわりにある施設とかを一緒に楽しんで、ご飯も食べましょうと。メンバーが23人も集まって。そのうち毎回56人が参加する形で、東京の美術館に、毎月のように小さな旅をしていました。最初は二ヶ月に一度くらいかなと言ってたのが、いろんなところへ連れていきたいよねとどんどん増えてしまって、結局一年間に14回。

14回も!

中島 私、幹事大好きなんですよ(笑)。昔からPTAとか町内会とか子ども会とか。もちろん面倒なこともあるんだけど、イヤじゃないんです。人を集めて、その人たちが楽しくなる方法を考えるのが好き。それって専門の知識がなくてもできるから、私には向いていると思っているんです。
みんなで美術館に行って、それこそ対話型鑑賞みたいなことを当たり前にやってたんですよね。ただ、もっとみんなに楽しんでもらうには、何か資格のようなものがあったほうがいいのかなと思っていて。とびラーになって美術館の活動にたずさわったら、そういうこともわかるかもしれないなと。だから、東京都美術館という場所で、学芸員や大学のスタッフと一緒に自分で活動をつくっていけるというのが魅力でした。面接のときに、とびラーで経験したことが自分がやっていることにも役立てられるように取り組みたい、と言った記憶があります。

中島惠美子さん画像1

実際にはじめてみて、いかがでした?

中島 アクセス実践講座を中心に活動していました。とても新鮮でした。
講座では、「これ読んできてね」って本が紹介されますよね。それが今まで私が出会ったことのない本ばかり。それからいろんな専門家のお話を聞いたり。本って、普通自分の興味あるものしか読まないですよね。講演も。
この歳になると、自分の興味のあるものだけで生活するじゃないですか。でも、講座を通して、興味あるもの以外のものに触れる機会が出来た。それで世界が広がったというよりは、「あー自分の人生そんなに間違ってなかったな」って思いました。もちろん、本の内容が全部わかるわけじゃないので、理解できる部分を一生懸命探しながら読むんですよ。「この部分、私の人生そのものだ」とか「ここは違うなあ」とか、自分と照らし合わせながら。
「今まで大きな声で言えなかったけど、ここに書いてあるんだから大丈夫」って自分を肯定しながら。たくさん読んだ本、全部家の本棚に置いてあります。

中島惠美子さん画像2

<つづく>

「『とびラーとは何か』をずっと考えていた」

自宅は千葉県長生村。
ちょっと遠いですね。

中島 9時半スタートのミーティングだと、715分には家を出て車で駅まで、あとは電車。今日なんか雪が降ってたし、通勤は大変です(笑)。
募集のチラシには「月2回程度の活動」って書いてあって、それくらいなら大丈夫だろうと思ってたら、そんなものじゃすまなかったですね。最高は月8回かな。
時間もお金も、3年間でいくら使ったかなあ(笑)。でも、私としては、その分のメリットは充分にあったと思っています。モトをとったという感じ。
私、もともとは東京っ子だったんです。幹事大好きで人の集まる場をつくるのは好きなんだけど、東京はあまりに人が多すぎるということに気がついて。それと、自分が誰からも干渉されずにいる場所が欲しくなったんです。東京って、自分の家の中はともかく、一歩外に出ると道路だったり、人の土地だったり、誰かの場所でしょ。
ちょうど夫の定年が近くなってきて、自分だけの居場所だった家に夫が常にいるようになるというこれからの暮らしを考えると、早目に自分の場所をつくらなきゃと。
先を読もうとするタイプなんですよ。で、夫の仕事の都合もつきそうだし引っ越したんです。長生村には地縁もなく、息子がサーフィンやってるから海のそばがいいかな、みたいな感じでした。それが2013年のことです。
引っ越してみたら村の文化会館の中には小さなプラネタリウムもあるし、図書室もある。でも、美術館がなかったんです。そんなにしょっちゅう行っていたわけじゃないんですけど、絵を見たり、美術館の建物に興味があったりしてあたりまえに行く場所だったので、ちょっとショックだったんですよね。で、千葉とか東京の美術館にひとりで行っていました。誰か一緒に行ってくれないかなー、でも同じ波長の人って見つけるの難しいなーって思っていたんですが、機会があって「美術館と小さな旅」の会ができた。参加者もどんどん増えていって。その中にね、初回からほとんど毎回参加してくれた人がいるんですよ。

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よほど美術が好きな方だったんですか?

中島 それが違うの。なんとルノアールを知らなかった。ちょっとビックリでしょ。千葉市内に住んでいて美術館にも簡単にアクセスできる環境だったのに、美術館なんか行ったことがなかったと。で、その人が何回目かの時に「私もっと知りたい」と言ったの。
すごくないですか?誰かが何かを感じてくれたらいいかなと思ってやってきたんだけど、こういうことがあるんだって。私、この人のためにもっと何かをやりたいって思ったんです。

それはとびラーになる前?

中島 いえ、もうとびラーになって都美に来ていました。1年目。このこともあって、私、とびラーって何だろうって、ずーっと考えていたんです。「とびラーとは何か」という問い自体をとびラボにしたらってアドバイスもされたんですが、「それは私にはできないな」と迷っているうちに2年目になってしまって。
その頃、「哲学カフェ」と「フラットカフェ」という、ふたつのとびラボに出会いました。哲学カフェは、何でもいいから好きなこと話そうよという呼びかけに惹かれて参加。一回目のテーマはなんと「女子力」でした(笑)。フラットカフェは、文字通り、言いたいことをフラットに何でも言おうよという場。で、この二つの場は、目からウロコだったの。人の話を聞いてるのが楽しくて、時々口挟んで。ああ、こういう場がほしかったんだと。講座では隣の人と共有もするんだけど、そのあとすぐに帰っちゃうんじゃなくて、話をしたいなと思っていたので。すごく、すごく嬉しかったんですよね。

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「とびラーとは何か」の結論は出ましたか?

中島 今でもわかりません(笑)。あの、東京都美術館のミッションとか藝大の使命って、とびラー募集のチラシに載ってますよね。私、何を言ってるのか全然わかんなかったの(笑)。このノートに貼り付けてあるんですよ、書き写して。
今でもわかんないんだけど、でも、自分のための時間と場所をつくろうと思ってきた成果は、私自身にはありました。とびらプロジェクトにとってどうかはわかりませんけど(笑)。

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<つづく>

「村の人たちを都美へ」

長生村のみなさんを迎えるとびラボがありましたよね。

中島 はい。2年目2016年の秋ですね。
長生村の主催で毎年秋に展覧会見学会というのをやっていて、私も参加してみたのですが、バスで国立新美術館に行って解散・自由行動。みんな時間を持て余して椅子でダラっとしている。で、2016年の4月に村に「私、東京都美術館の活動をしているんですが、絵を見るだけじゃなくて、みんなでお話をするっていう新しい体験をしてもらいたいんです」って、企画を持ち込んだんです。都美の名前にインパクトがあったみたいで(笑)、内容をよく聞いてくださって。村から「やってみましょう」という答えをもらったのが7月。とびラー主体で迎えることになってとびラボを立ち上げました。「ゴッホとゴーギャン展」の時です。

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企画は順調に進んだのですね。

中島 ところが、私が7月にケガして入院してしまって。そうしたら一緒に企画を進めてくれていたとびラーの一人が、企画と広報を引き受けてくれて進めてくれて本当に助かりました。
9月に復帰。もう、村の人にあれもこれもやってあげたいっていうか、体験していただきたい。都美だけじゃなくて上野公園も案内したい、ゴッホとゴーギャンの本物も見てもらいたい、対話型鑑賞というはじめての経験もしてもらいたい。結果的に要素がちょっと多かったなっていう反省はあるんですけど。
村の企画なので、参加者がみんな知り合いというわけではないんです。美術館に行く機会の少ない人、しかも、知らない人同士が、絵を見て対話するなんてできるかな?と、ちょっと不安だったんですが。そうしたら予想外に、みんな作品についてイキイキと話をしている。それはもう本当に驚きました。嬉しい誤算。ここまでとは思ってなかったですね。

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翌年も開催したんですか?

中島 2年目の2017年は、私がとびラーとして3年目になったので、今後のことを考えて「これからゼミ」で実施しました。
4月にまた村の担当者のところに行って、今年はどうしますか?って言ったら「ぜひやりたい」と。担当の生涯学習課としては、ただ行って絵を見るのではなく、話をするのがよかったと。
1年目のプログラムのテーマは、よくある「展覧会でお気に入りをひとつ探してみましょう」でした。上野までのバスの中で事前に図録を見せて、全作品の中からお気に入りを探してもらって、展示室に行ってそれを探して皆さんにお伝えしましょう、話しましょうっていうことだったんですが、2年目はバスの中で図録を見せながら、「この中で本物を見たいものを探しましょう、その理由を一緒に考えてください」に変えてみました。それが、展示室で本物の作品をよく見るきっかけになったようです。アンケートには「なぜそれを見たいのか、どんなところが興味を引かれるのかということを聞くことを通して、他の人がこの作品に興味をもっているのか知ることができてよかった」という感想がありました。図録と本物を見たときとの印象の違いなんかも。
地方とか東京とか、美術に近いか遠いかとかは関係ない。チャンスさえあればみんな話したいんだ。それに気づいたのは、私のなかの大きな成果でした。だから、そういうチャンス、私が得意とする「場をつくる」ということ、私ができることはやっぱりそれだ、と思いました。

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このプログラムは、中島さんが開扉した後も続くのでしょうか?

中島 どう関わるかはこれから考えようと思います。参加者のためにも無理はしたくないし、私自身がずっとできるわけでもないので。でも、村の担当者の意識が変わっちゃったんですよね(笑)。今までは美術館へ連れていけばいいと思っていたのが、プログラムに一緒に参加してもらったことによって、連れていくだけでは物足りないと思うようになってしまったようで。もしかしたら担当者の気持ちの変化が一番の成果かもしれません。
別の動きもあるんですよ。今回のツアーには、となりの町でこども向けの絵画教室をやっている方が、見学者として参加してくれたんです。彼女は藝大の履修証明プロジェクト「Diversity on the Arts Project」(愛称:DOORプロジェクト)で准教授の伊藤達矢さんと出会って、となりの長生村で鑑賞会をやっているとびラーがいるよっていうことで、私とつながった。彼女と一緒に、長生村の小学生と親子を対象に都美ツアーをやる予定なんです。はじめての試みなので、村の担当者も人数集まるかなと心配しているんですが、でも、参加してくれたら絶対魅力的なものになると思っています。
すでに「これからゼミ」の時のとびラーさんが一緒にやってくれるって手をあげてくれています。広報をどうしようって言っていたら、とびラーの方々からいろいろ意見をいただいたし、村の担当者も絵画教室の先生も一緒に作りましょうって。だから、とびラーもそうじゃない人もかかわって、これから何か始まるかもしれないなーと。わくわくしますね。

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まさに「これからゼミ」ですね。
ところで、任期満了したらまず何をしますか?

中島 とりあえず髪を切ります(笑)。とびラーはじめたときから伸ばしていたんです。ヘアードネーションしようかなって。それで一区切りですね。
それなりに一生懸命やってきたので、それが終わってしまうんだなと覚悟しています。でもホッとする部分もあります。私、結構入れ込んじゃうタイプなので、ほかの用事よりもついとびラーを優先しちゃっていました。仕事じゃないけど約束っていう感じで。3年間そうだったので、とびラー始める前にやっていたことに戻れるかなーと思っています(笑)。<おわり>

聞き手・文:只木良枝
撮影:中川正子、とびらプロジェクト

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