東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

アクセス実践講座⑦|認知症に対応した鑑賞プログラム

2019.03.12

講師:林容子さん(一般社団法人アーツアライブ)

「アート、美術館、認知症・そして私」

アクセス実践講座第7回は、一般社団法人アーツアライブの林容子さんをお迎えし、認知症の方に対応した対話型鑑賞プログラム「アートリップ」についてお話を伺いました。

 

「実は、福祉や高齢者問題は、私にとってまったくの専門外でした」

と林さんは言います。

 

林さんは、国内外でアートやアートマネジメントのエキスパートとして活動をしてきました。美術大学での講義や、アートに関する著書(*1)も執筆されています。イギリスで行われた国際的なカンファレンス「Conference for Health and Arts」に参加したことがきっかけで、「アートと福祉には親和性がある」と直感した林さん。持ち前のバイタリティで福祉施設にアートを持ち込む活動を実現させていきました。

学生や、介護現場の方々、また、施設を利用している認知症当事者の方々と協働して、病棟での作品展示や、徘徊する高齢者のためのアート作品の制作などを8年間にわたって行なったそうです。

2009年に一般社団法人アーツアライブを設立し、現在は認知症の方と行う対話型鑑賞プログラム「アートリップ」事業に注力されています。

アーツアライブ、そして林さんが何を目指して事業を展開されているのか、ここでは3つのキーワードに絞ってお話の内容を振り返ってみます。

 

⑴「社会のあり方」を作る

⑵「事業」を作る

⑶「アートの価値」を作る

 

それぞれどのようなお話だったか、少しずつご紹介します。

 

⑴「社会のあり方」を作る

現在、日本の認知症の方は約500万人 軽度認知症(MCI)推定400万人と言われています。2025年には700万人に上ることが予想され、予備軍を入れるとその数は1200万人に達する予想です。人口の多くが認知症となる時代では、認知症になっても共に楽しく生きられる社会を作ることが重要です。

そのためには、認知症を治すことを考えるよりも、社会全体が「認知症フレンドリー」な社会へと変容していことが求められます。「この分野では、日本はトップランナーである」と林さんは言います。

 

アーツアライブは、2018年10月に国際シンポジウム「アート、記憶、高齢化:アートを通して認知症フレンドリー社会の構築」を開催しました。世界的に認知症の治療薬への期待が高まる中、2018年、大手製薬会社が認知症治療薬の開発を中止することを発表しました。認知症は特定の病気ではないため、薬の効果が期待できないというのがその理由でした。

 

「認知症になること=悪いこと」と捉える固定観念を脱却し、「できることに目を向ける」発想への転換のキーワードとして林さんはアートを活用することを提案します。「認知症になっても楽しく生きられる」と思える社会を構築するために、アートにできることがあると林さんは考えています。

 

⑵「アートの価値」を作る

「アートの前ではすべての方が平等です」と林さんは言います。

認知症の方は脳の機能が低下することが知られていますが、感情は衰えないで最後まで残ります。「怒りやすくなった」「子供に戻った」などネガティブに語られることも多いこの特徴を、林さんは「とっても素直に表現されるので、こちらまで素直な気持ちになる」と肯定的に捉えます。認知症になり一層豊かになる感情と、それを大切に扱うアートとは親和性が高いということができます。

 

アートリップでは、対話をしながらアート作品を見ます。それにより、脳の細胞を活性化したり、参加者が個人としての尊厳を感じることができます。また美術館というハレの場で、普段は介護をする側/介護をされる側の人々がともに一つの作品を鑑賞することで、いつもとは違う視点でその人のことを見ることができ、普段の関係性も刷新されていきます。

 

アートを見るということを、時間や空間を超える未知の世界への旅に置き換えることもできます。アートリップでは「船頭は参加者」と考えています。アートコンダクター(アートリップにおける対話型鑑賞ファシリテータ)は、彼らが行く道に一緒について行って、楽しい旅ができるようにアテンドします。アートは一つの正解では語れず、見る人それぞれに委ねられる余白を大切にするため、それぞれの参加者の意見を尊重することができる。それはアートの価値の一つであると、お話を伺っていて感じました。

 

⑶「事業」を作る

アートや福祉に関わることは、収益を生まないボランタリーな活動としても成立するのが現状です。しかし助成金や補助金に頼るだけでは、活動は限定されていきます。もともとビジネスの世界に身を置いていた林さんは「一杯のコーヒーを飲むように、価値に対価を払っていただく収益事業にすること」にこだわっていると言います。

 

そのための方策として、これまで出会ってきた先達の言葉から、多くの示唆を得ていることもお話ししてくださいました。

 

「水は川上から川下へ」

この言葉は、会社員時代に尊敬する上司の方から教わった言葉だそうです。活動を広く行き渡らせたい時、その業界のトップにまずはアプローチをすること。なかなか勇気のいることですが、この言葉を今も大事にされているそうです。その結果、アートリップの活動は現在、美術館16館、高齢者施設や病院など21箇所以上に広まっています。

 

事業として行うためには、エビデンスを取り、示していくことも重要になります。特に福祉の分野では、効果効能が示されることが安心を生むこともあります。アーツアライブは、認知症予防産業として効果検証を行いました。その結果、うつ症状の改善や、脳の一部領域の活性化に効果があることが実証されました。

 

産業として成立することで、活動の自立性と持続可能性を高めていくこと。これが、これからのアートや福祉の活動に求められる姿勢だと感じました。

 


 

林さんのお話は、そのすべてがご自身の体験や活動そのものから発せられるパワーに満ちていました。そして、それとは対照的にアートリップに参加される認知症当事者やそのご家族、介護者のことを話すときには、慈しみに満ちた表情で嬉しそうに話す姿が印象的でした。

 

講義後のとびラーの感想の一部をご紹介します。

ー「社会への適応ではなく社会側からの適応によって、多くの人に幸せをもたらしたい(人間中心主義)という林さんの思いが伝わってくる力強い講義でした」
ー「本当にエンパワメントされた。講義の内容もインパクトがありましたが、教える方のそのひとならではの「立ち方」みたいなものってすごく印象深く残るんだと感じました。」

 

とびラーは、3年間の任期中や、任期を終えて都美を巣立った後も、アート・コミュニケータとして社会に活動を作っていくことが期待されています。今回の林さんの講義では、立ちすくんでしまいそうな社会課題に対し、クリエイティブな視点で発想を転換し、ワクワクと情熱と適切な戦略を持って活動を展開していく、1人のアクティビストとしての林さんの姿に、多くのとびラーが心を打たれたようでした。

この出会いに刺激され、とびラーが自分たち自身の活動を社会の中に作っていく日が待ち遠しいです。


*1:

進化するアートマネージメント(2004年)出版社:レイライン

進化するアートコミュニケーション (2006年)出版社:レイライン

 

(東京藝術大学美術学部 特任助手 越川さくら)

【開催報告】「藝大建築ツアー」

2019.02.21

2年ぶり、1回限りの限定復活興行、藝大建築ツアー。今回は「卒展さんぽ」のオプショナルツアーという位置付けで、同時に開催しました。嬉しいことに、ブログの案内を事前に見て、この建築ツアーに興味をもって参加してくださった方もいました!「卒展さんぽ」に参加されていた方とあわせて、Aチーム12名、Bチーム11名の方をご案内しました。

日頃の東京都美術館の建築ツアーも人気で、建築への関心が高まっているのを感じました。

 

ツアーを実施するにあたって、2つの目的がありました。

(1)卒展を訪れる様々な方に、藝大にある歴史的な建築の魅力を知ってもらい、より身近な場所として感じていただきたい!

(2)展示されている作品だけでなく、アートを楽しむ場所、作品を制作する場所として建築を知っていただきたい。

 

このツアーを通して、藝大の歴史や建築の面白さを伝えながら、公共建築のあり方を考える機会を共有していきたい、と私たちは考えています。

今回のツアーで回った場所を簡単に紹介します。(※コースによって、多少説明したポイントが異なります)

 

①音楽学部内のレンガ建築

赤レンガ1号館(1880年林忠恕設計。耐火煉瓦造り。旧上野教育博物館書庫。)

赤レンガ2号館(1886年小島憲之設計。旧東京図書館書庫)

赤レンガ1号館は、つい1週間ほど前から改修工事が始まり、ツアー当日は、周りを覆われていました。1号館は、1978年に解体前の調査結果で、歴史的建造物として保存することが決まったそうです。赤レンガ2号館は、1・2階は長窓、3階は丸窓です。体育の野口先生が野口体操のスタジオとしても使っていたので、学生たちに「体育小屋」とも呼ばれていたとのことでした。

②陳列館

1929年に岡田信一郎が設計した陳列館。 外壁スクラッチタイルは、帝国ホテルができた以降に流行したそうです。すぐ近くにある、同じく岡田信一郎が設計した黒田記念館の外壁にもこのスクラッチタイルを見ることが出来ます。

1階は、窓のある空間で彫刻などの展示室になっています。2階は、トップライトが柔らかく入るように作られ、光が直接当たらない方が良い絵画などの展示室として作られています。

 

陳列館の前には、オーギュスト・ロダン作のブロンズ像「青銅時代」や、皇居二重橋掛け替えの際に移設された飾電燈があります。

藝大の校章の縁取りのデザインとなった植物の葉、アカンサスもここにあります。

アカンサスの花言葉は、「芸術」「技巧」です。

 

 

③正木記念館

玄関の庇は、本館(1913年建設)の建て替え(1972年)の際、移築・保存されました。

正木記念館(1935年金沢庸治設計)の上部は城郭風、下部は洋式の帝冠様式です。

1階は瓦を埋め込んだ白漆喰壁となっており、2階内部は書院作りの和室の展示室です。

ここには、藝大の第5代校長である正木直彦像(沼田一雅作,陶製)があります。

記念館の瓦には、正木記念館の文字が入っています。

鬼瓦の鳥衾は、鳥がとまって糞をしても鬼瓦が汚れないように突き出した、棒状の装飾です。

④バルザック像(オーギュスト・ロダン作)

1933年に寄贈された当時は、石膏像だったのですが、1972年に藝大彫像研究室にて鋳造されたそうです。

 

⑤岡倉天心像(平櫛田中作)

正木直彦校長が「天心を直接知る人に制作してほしい」と平櫛田中に依頼したそうです。

岡倉天心は1889年に、東京美術学校の第2代校長に就任しました。初代は、濱尾新校長の事務という位置づけでしたが、理事の天心が実質的なトップとして日常業務をしていたと考えられています。

天心像が安置されている六角堂は、金澤庸治の設計によるものです。

今回の藝大建築ツアーは、建築・彫像を廻るなかで、その説明とともに、藝大の歴史や特徴といったたくさんのトリビアをお伝えしました。参加者のみなさんの大変興味深そうな眼差しが印象的でした。

卒展や藝祭でキャンパス内を歩き、作品を鑑賞することはあっても、その作品が生まれる場や歴史的背景を知る機会はあまりないかと思います。このツアーに参加されたみなさんには大変満足していただけたようで、嬉しく思っています。お客さんの他に、とびラーからの参加者も多く、にぎやかで楽しい藝大建築ツアーとなりました。


 

執筆:原田清美(アート・コミュニケータ「とびラー」)

アートを介して、アーティストと鑑賞者ととびラーが出会い、その発見や感動を共有できるのが楽しくて、「卒展さんぽ」や「藝祭さんぽ」に関わっています。

【開催報告】「卒展さんぽ」藝大卒業・修了作品展編

2019.02.21

藝大生の卒業・修了作品を展示する「第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展(通称:藝大卒展)」が2019年1/28(月)〜2/3(日)の期間で開催されました。
大学で学んだ集大成の発表の場である「藝大卒展」は、年々注目度、人気が高まり、今年も連日大勢の方が来場されました。

 

とびらプロジェクトでは、毎年この展覧会と連携した鑑賞や交流のプログラムを開催しています。今年は「卒展さんぽ」「藝大建築ツアー」「なりきりアーティスト」の3つの企画を行いました。

ここではまず、「卒展さんぽ」について紹介します。1月30日(水)と2月2日(日)の2回にわたって開催し、計53名の方にご参加いただきました。
展示の会場が藝大キャンパス内と東京都美術館公募棟・ギャラリーに分かれていることから、会場別にチームを編成し、ツアー形式でさまざまな作品をまわりました。各チームのとびラーがいろいろなコースを組み立てて、作品や作家である藝大生を紹介します。鑑賞した作品の感想を共有しながら、作家である藝大生たちと交流して、ともに卒展を楽しむツアーです。
ここでは、両日合わせて計8チームが実施した「卒展さんぽ」の様子を、実際の作品とともに紹介します。

東京都美術館のLB階に集合し、受付をすると参加できます。

「今、何人くらい集まったかな?」想像以上にたくさんのお客さんに来ていただき
ました。

チームの全員がそろったら、案内するとびラーが自己紹介をして、ツアーが開始します。

【藝大キャンパス会場をめぐるチーム】

卒展の会期中は、東京都美術館の北口が特別に開きます。いつもより近道で、藝大キャンパスへ。

まず、図書館の1階にあるラーニングコモンズでは、GAP(グローバルアートプラクティス専攻)のモニカ・エンリケンズ・カスティリョさんの作品≪混乱と拮抗の美しさ≫を鑑賞しました。ガラスに様々な生き物や花が描かれた作品はステンドグラスのように内と外、両側から鑑賞できます。作家のモニカさんは留学生で、もともとは日本画を学んでおり、こちらの作品には金箔も使われています。ウインドー越しに見えるカラフルな色彩に足がとまります。

次に、陳列館二階で建築の國清尚之さんの作品≪妖怪建築―存在しないもののための建築≫を鑑賞しました。壁には現代の妖怪99体の絵が貼られています。彼らが住む建築とは?
とびラーも参加者も興味津々で見ています。

 

國清さんより、みんなが一番気になる「妖怪」というテーマに取り組まれたきっかけや、建築との関係などをお話いただきました。参加者にも妖怪たちは歓迎されたようです。

アトリエのある総合工房棟ギャラリーに作品の基となった妖怪のいる場所の写真やスケッチが展示されています。作品制作の工程が見られるのも「卒展さんぽ」の魅力です。

正木記念館は普段は入れない場所です。2階にある和室で、大崎風実さんの漆芸による屏風の作品を座って鑑賞しました。作品名≪咲ク≫は、「自分の核となるものを表現したい」と考えたことから、制作にのぞまれたそうです。描かれている鳥は花を咲かせる精です。螺鈿と蒔絵が見事で、参加者の方々は息をのんでいられました。また螺鈿の繊細な技巧や漆塗りの工程についても詳しくお話しくださり、参加者から感嘆の声があがっていました。

拡大すると、こんな様子です。

藝大キャンパス会場の最後には、藝大美術館を紹介します。

入口の前の広場には、蟻(あり)をモチーフにしたアルミと鉄の作品≪Lives≫があります。
まず、作家である美術教育の藤澤穂奈美さんから作品のコンセプトをお聞きしました。そのあとで参加者にこの作品のタイトルを予想していただいたところ、ずばり「命」と答えられた方がいて、拍手がわきおこりました。藤澤さん曰く、生きること、命の複数形としてのLivesとのこと。藤澤さんは、その場でプレートを1枚外して、参加者に渡し、その重さや感触を体験させてくれました。またアルミの加工のし易さなども解説してくださいました。

触れても良い作品です。

地下1階で、白い陶器でできた繊細なオブジェ、陶芸の苅込華香さんの作品≪海影≫を鑑賞しました。まず最初に、参加者がどんなふうに見えるかを話し合います。そのあと苅込さんから繊細な形を作る大変さや、釉薬の効果などの興味深いお話に、参加者は真剣に聞き入っていました。「まさか陶芸とは思わなかった」との感想もありました。

3階では、デザインの二見泉さんの作品 ≪町の中≫を鑑賞しました。とある町の風景画が、布に刺繍されています。
この作品はただ見るだけではなく、靴を脱いで作品のなかに入りこみ、写真をとることができます。風景について感じた事、入ってみて気づいた事を話す、楽しい鑑賞となりました。

奥行き感があって、本当に≪町の中≫に立っているように見えます。

 

マンホールの丸い敷物をめくると可愛いネズミの刺繍が!

【東京都美術館公募棟・ギャラリー会場をめぐるチーム】

東京都美術館の公募棟では、主に学部4年生の作品が展示されています。絵画の展示室から順に見ていきました。

まず、大嶋直哉さんの作品≪泥≫を鑑賞しました。最初は参加者の皆さんに作品を見て、感じたことを話していただきます。そのあとで、大嶋さんにお話をうかがいました。作品のテーマやタイトルなど、表現の本質に迫るような質問もありました。日本画の伝統のなかに、大嶋さんの見つめる「今」が表現されていることがわかり、参加者のみなさんは熱心に見入っていました。

次に、油画の岩崎拓也さんの≪秘密の花園≫を鑑賞しました。細かくたくさんのモチーフが描かれています。「小さいものを沢山集めて支配欲を表現している」と語る岩崎さん。鮮やかな色彩と画面構成に参加者から驚嘆の声がでました。構成のバランスがとても大事だそうです。

つづいて、先端芸術表現科の浅野ひかりさんの作品≪四畳半を想う≫です。奥に縮小版の4畳半が続いているようです。靴をぬいで部屋に上がって、進んでいくとガリバー旅行記のような気分を味わいました。この感動的な体験に参加者から「楽しい」「面白いですね」「自分の身体や世界の大きさが変わったように感じた」などの感想がありました。
浅野さんの住んでいた部屋が四畳半だったとのことで、図面も見せていただきました。畳や戸もアドバイスを受けながら自分で制作したそうです。

また、同じ先端芸術表現科のエリアにあった、こちらの作品のタイトルは、≪島に埋められた本の骨≫。大きな立体作品です。
いったい何が表現されているのか、参加者はそれぞれに考えたことについてまず話してみます。いろいろな想像がふくらんだあと、最後に作家の平井亨季さんが登場。質疑応答がはずみました。

ギャラリーには大きな彫刻の作品などがあります。

広いギャラリーでは、彫刻の福島李子さんの作品≪触れた夢≫を鑑賞しました。
大きな灰色の大理石の作品です。いろいろなものの「リアルな形」が発見できます。福島さんが「よく怖い夢を見る、その夢のいくつかを大理石のなかから掘り起こしてみた」という制作の経緯や、イメージをお話しくださいました。
そのあとに、参加者が夢のワンシーンを探したり、想像を巡らしたり、感想を話しました。

以上が今年の「卒展さんぽ」、2日間の様子です。他にも、ここには書ききれないほどのたくさんの作品を見て、多くの藝大生とお話しました。

ツアーが終わった後、参加者は、作家の藝大生へメッセージカードを書きます。
作品の感想や気づいたこと、作品から想像を膨らませたとなど、内容は様々です。

カードはとびラーが藝大生の手元へ届けます。
これから新しいスタートをきる藝大生たちが、いつかこの日の出会いを思い出し、励みになってくれたらと思います。

「卒展さんぽ」の企画にあたり、とびラーは会場の下見、コース取りや時間配分、藝大生と打ち合わせなど直前まで確認し、参加者が作品を鑑賞することも大切に考えます。

「さんぽ」でお話くださる藝大生のなかには、とびラーが制作過程の工房を訪ね、インタビューした方もいます。制作途中を知っている分、完成した作品を卒展で観るのは感慨ひとしおです。
作品のみならず、作家の想いを伝えたい、とびラーの願いでもあり、作家と直接対話ができるのが「さんぽ」の醍醐味です。

藝大生のみなさんは、展覧会中で忙しいなか、「卒展さんぽ」に協力してくれました。スケッチや資料を持参したりして、作品のコンセプト、制作の苦労や大切にしたいこと、目指していることをわかりやすく、話してくれました。
また、今回、紹介した方以外にも多くの藝大生と出会い、ご協力いただきました。

卒展の会場内では来場者と藝大生が話している光景があちらこちらで見られ、
「人と人」「人と作品」がつながる場であることを実感しました。
学生生活の集大成を成し遂げた藝大生たちの晴々しい表情が印象的です。
また、来場者の方が、力のこもった新しい作品を楽しみに、若い芸術家を応援する熱気が伝わってくるような「藝大卒展」でした。


 

執筆:山田久美子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
美術館は大好きでしたが、アートとは無縁の仕事でした。とびラーの経験でアートが身近になり、興味も広がってきました。これから益々楽しみです。

【開催報告】「なりきりアーティスト」

2019.02.18

2019年1月28日から2月3日に開催された、第67回東京藝術大学卒業・修了作品展にて、とびラーのプログラムとして定番になってきた「なりきりアーティスト」を実施しました。実施日時は2月2日(土)午前11時です。

 

「なりきりアーティスト」とは、参加者自身が作家になりきって、制作の動機、作品コンセプト、作品のタイトルなどを語るワークショップです。

今年は日本画(修士)の神谷渡海さんと、彫刻(修士)の稲垣慎さんにご協力いただきました。題材となる作品は、それぞれ藝大美術館の地下2Fに展示された神谷さんの《境》と、3Fに展示された稲垣さんの《鳥顔の竜の群像》です。

 

参加者は7名。他のとびラーが主催するプログラムに参加経験のある方や、小学校6年生の男子など、多彩な顔ぶれです。4名をAグループ、3名をBグループとして迎え、それぞれ《境》と《鳥顔の竜の群像》の「なりきりアーティスト」になっていただきます。

 

[最初の10分間は作品鑑賞と事前準備]

プログラムの最初の10分間、なりきる作品を鑑賞しながら、どんなプレゼンテーションをするか考えていただきます。なかには最初、「ええ何、これどうしよう」と思われた方もいたようです。でも、じっくり作品を見ていくうちに、色々な想像がわいてきます。

 

[《境》の「なりきりアーティスト」たち]

 

さあ、全員で神谷さんの作品の前に集合!

Aグループの方には「本日のアーティスト」のタスキをかけてもらい、一人ずつプレゼンテーションをしてもらいます。Bグループの人は鑑賞者役となり、作家役のプレゼンテーションを聞いて、気になったことを質問します。最初は緊張していた「なりきりアーティスト」の方々も、だんだんと作家のような気分になり、最後は堂々と絵のモチーフや情感を語りだすようになります。なかには、私はダンサーでもあると言って、絵の前でダンスの動きをされる方もいらっしゃいました。

 

最後には、後ろで聞いていた作家さんに出てきていただきます。本物の作家である神谷さんも、「そのタスキを貸して!」と楽しそうに「本日のアーティスト」タスキをつけてくださいました。そして、作品のモチーフや、描かれている彼岸や此岸のイメージなどについて、話をしてくださいました。

作家のことを想像して語った参加者は、さらに本物の作家の話を聞いて、この体験を大変印象深いものと受け止めたようです。「彼岸と此岸の説明に感動」「木の後ろに回ったり、上から垂れてくるものを引っ張ったり、絵の中に入って遊ぶような感覚になった」「葛飾は地元なのに、それが抽象化されて、こんな精神性を感じられるようになるなんてびっくり」「自分の思い出と作品の思いが重なったよう」といったコメントをいただきました。

 

 

次に、エレベーターで3Fまで移動し、Bグループの人に「なりきって」いただきます。

 

[《鳥顔の竜の群像》の「なりきりアーティスト」たち]

今度は稲垣さんの作品です。大きな彫刻作品なので自然に周りの人の輪も大きくなります。

 

ある「なりきりアーティスト」の方は、この作品に「南国と解放」を見出して、鸚鵡を解放して、さらに大きな鸚鵡にする物語を語ります。また別の「なりきりアーティスト」は、彫刻に、自分に入ってくる前のもの、自分の中、自分のものとして消化した後をみて、それを彫り分けたと解説します。同じ作品を見ても、全く異なった語りになるところが、「なりきりアーティスト」の面白さです。小学生の「なりきりアーティスト」は、深い彫りは思いっきり、浅い彫りは優しくと、木を彫る楽しさを話してくれました。そして、バナナが好きだからこのバナナが気に入っているというのにも、納得。

こちらも、最後に稲垣さんに登場してもらい、自らの作品に関してお話していただきました。のみの彫り痕のこと、お賽銭が置かれたこと、タイトルを黒板に書いていることなどが説明され、参加者も興味深く聞いていました。

 

こちらのグループの参加者からは「作品を見てたくさんの想像がわいてきた」「自分の中にあるものを、自然に(作品に)出されている姿に刺激と感動をいただきました」という感想がありました。そして小学生の男の子からは「木彫りの作品は見ていて魅力的に感じました、また木彫りの彫刻を彫って欲しい」とコメントをもらいました。

プログラム終了後、「なりきりアーティスト」に参加した7人の皆さんに書いていただいた感想を、作家さんに伝えました。神谷さん、稲垣さんからは、思わぬ話が聞けて楽しかった、普段の鑑賞者との会話とはちがった面白さがあった、と言っていただきました。

 

展示中の忙しい中、協力していただいた神谷さん、稲垣さん、プログラムに参加していただいた「なりきりアーティスト」の皆さん、おかげで、楽しいプログラムになりました。ありがとうございました。

 


執筆:鈴木重保(アート・コミュニケータ「とびラー」)

一昨年は「なりきりアーティスト」の参加者として、作家になりきってプレゼンテーションを行ないました。今年は「とびラー」として、このプログラムに関われたことを嬉しく思っています。

とびらプロジェクトフォーラム映像公開!!

2019.02.08

2/3(日)に開催した「とびらプロジェクト」フォーラム「2020年のその先へ。ミュージアムが挑むダイバーシティ~札幌・東京・岐阜をつなぐアート・コミニュティ」の映像を公開しました!
 
ムービーページはこちら↓↓↓
https://tobira-project.info/movie1/
 
 
<プログラム内容>
トークセッション:「アート・コミュニケータへの期待」札幌・東京・岐阜をつなぐアート・コミュニティ
●樋泉綾子(札幌文化芸術交流センター SCARTS キュレーター)
●鳥羽都子(岐阜県美術館 学芸員)稲庭彩和子(東京都美術館 学芸員 )
○コメンテータ :西村佳哲(働き方研究家、リビングワールド代表、とびらプロジェクト・アドバイザー)
○進行 :大谷郁(東京藝術大学特任助手 とびらプロジェクト・コーディネータ)
 
パネルディスカッション:「2020年のその先へ。ミュージアムが挑むダイバーシティ」
●日比野克彦(東京藝術大学美術学部長、岐阜県美術館 館長、とびらプロジェクト代表教員)
●西村佳哲(働き方研究家、リビングワールド代表、とびらプロジェクト・アドバイザー)
●森司(アーツカウンシル東京事業推進室 事業調整課長、とびらプロジェクト・アドバイザー)
●稲庭彩和子(東京都美術館 学芸員、東京都美術館アート・コミュニケーション係長、とびらプロジェクト・マネージャー)
●伊藤達矢(東京藝術大学特任准教授、とびらプロジェクト・マネージャー)
 
★★「オープンスペース・カフェ」★★
会場:東京都美術館アートスタディルーム(交流棟2 階)
時間:15:45~17:15
「とびらプロジェクト」の活動拠点を公開し、参加者同士がフランクに対話できるカフェを開きました。
 
ムービーページはこちら↓↓↓
https://tobira-project.info/movie1/

 

藝大生インタビュー2018 一挙公開!

2019.01.28

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「素材のさまざまな表情を感じるのが好き!」藝大生インタビュー2018 | 美術教育 修士2年・藤澤穂奈美さん

2019.01.08

 

東京藝術大学と言えば上野というイメージがあるのですが、今回の訪問先は取手。とてつもなく広いキャンパスは、正門からのアプローチもまるでゴルフ場のよう。まずは、リニューアルされた藝大食堂にて腹ごしらえ。外光が眩しいくらいのお洒落な空間は、上野の趣とは随分と異なります。すっかり寛いでいるタイミングで、藤澤穂奈美さんと待ち合わせさせていただきました。

 

 

ー藤澤さん、今日は何てお呼びすればよいですか?

 

「そうですねぇ。呼ばれていることが分かれば何でも。私、あだ名とかがつきにくいみたいで。…ホナミとか、ホナちゃん、フジちゃん,フジッピーとか。ゆるキャラみたいで、今日はフジッピーでお願いしようかなぁ。」

 

全く飾らない人だなぁというのが第一印象です。

「じゃぁアトリエの方に来ていただきましょうか。」

早速にフジッピーのアトリエに移動してお話を伺うことになりました。

 

 

「蟻(あり)をモチーフにした20cm角のアルミの鋳物を149枚くらい組み合わせて絵柄にします。組み合わせて170cm大の大きなパネル3枚の作品です。まだ途中で、完成に近いものをお見せできないのですが。」

 

アトリエに着くと、すぐに作品の紹介をしてくださいました。

 

 

ーどのように展示される予定ですか?

 

「美術館の外のエントランス広場に置きます。配置イメージは今のところこんな感じで考えています。(レイアウト図をみせていただく)実際は台座に載せます。立てるのでも横にするのでもなく、ただ寝かせておきます。最終的には(鑑賞者に)乗って欲しい。蟻(あり)を踏んで欲しいと思っています。」

 

ーえ?踏むんですか?

 

「はい。本当は屋内での展示を希望していて、靴を脱いで素足で乗ってもらいたかったんです。最近は手で触れる作品も増えてきましたが、まだ手だけじゃないですか。これだけの大きさがあれば、足の裏だったり、寝転んで背中だったり、あるいは腕全体とかで、色々と感じていただけると思うんですね。それぞれに感覚が異なると思いますし、鋳物の堅さだったり、日が当たっていれば温かさだったり、そういった素材そのものについても感じて欲しいんです。」

 

 

美術教育を専攻する学生は、修了にあたり、作品制作の他に理論研究の成果として論文も提出しなければいけないとのこと。フジッピーの論文のタイトルは『美術作品における素材の存在感の重要性』。まさに素材の存在感を感じる作品になるようです。

 

ーアルミは素材としてよく使われるんですか?

 

「アルミを選んだのはコストの面や、重さの面などもありますが、私、金属素材は全部好きなんです。みさかいなく何でも(笑)。金属っていうと、堅いとか強そうとか冷たいとか、そんな印象があるじゃないですか。ところが使っていると柔らかかったり、温かかったり、磨くと光ったり、色々な表情があるんですよね。それも毎回異なる。今回の作品も、この後、溶液で化学反応をおこさせて黒く着色するのですが、少しの差で色目が大きく変わるんです。均一ではないんですね。金属は、研究対象としても飽きないですね。」

 

ー金属が好きになったきっかけとかはありますか?

 

「うーん、直接的には…。高校の時、美術科だったので、色々な素材を扱いました。木工とかFRPとか紙とか、色々。ただ高校ですから、設備の関係などで金属は扱えなかったんです。だから金属はいつかやってみたいなぁって思っていました。自分でも言うのも何ですが、割と何でも器用にこなせちゃうタイプで。だからうまくいかない時の方が面白い。不測の事態が好きなんです。変化の無い素材と一般的に思われている金属が、非常に異なる表情を見せるのが新鮮なのだと思います。狙い通りにいっちゃうと、つまらないんです。」

 

ー屋内での展示希望が、屋外になっちゃったのも不測の事態でかえって良かったとか?

 

「あぁ、そうですね。本当にそうかも。雨対策や雪対策も考えなければならないし。展示して2,3日したら、パネルが何枚か無くなったりしたりするのも面白いかも。」

 

ーええ?作品の一部が無くなってもいいんですか?

 

「だってお婆ちゃんになったらその方がエピソードとして記憶に残るじゃないですか。単に展示しましただけでは、すぐに忘れちゃうでしょう。」

 

ーそもそも美術教育を専攻したのはどんな理由からですか?

 

「一度別の美大を出て、高校の美術教師を2年間やっていたんです。その時に、まだまだ全然”学び”が足りないなぁと感じました。高校生たちが本当に凄くて。ジェラシーを感じたというか、負けてられないなぁって思って。後進を育成している場合ではないと。藝大の美術教育は理論研究と制作を両方やるのですけれど、それも面白いかなぁと思って。」

 

 

ーもっと上手に教えたくなったからということではないんですね。

 

「教える人は私でなくても一杯いるでしょうし。それに、こちらが”教える”姿勢だと、”教わり”たくないだろうなって当時から思っていました。やる気をもって学びたいということを一緒に学習していくような、そんな相互関係、一方向ではない関係性が良いのかなと。幼稚園生とかの感性にも「やられた!」と思う事もあるし。そういう意味では、全人類は私の敵かもしれませんね(笑)。」

 

-作品の話に戻りますが、タイトルとかお聞きしても?

 

「…『LIVES』…で、”りぶず”あるいは”らいぶず”です。命の複数形、あるいは生きることの名称として。」

 

 

ーこれまでの作品を拝見して、”命”を感じる作品が多いような気がしました。

 

「そうですね。気が付くとそうなっていたという感じです。小さい時から生き物は好きでした。お風呂場で水没しそうな蟻をみつけると、救出して自分は裸のまま外に逃がしたりしたこともありました。雨の中、運転していてカエルを踏んだりしちゃうことも嫌です。気づかないうちにそういうことしていることって、誰にでもありますよね。でも、美術作品を踏むってことは絶対ないじゃないですか。たとえ床に置いてあったとしても。もし踏んだら凄く嫌な想いがする。この差って何だろう。美術作品と小さな生き物の命の差って。私の作品を踏んでもらって、その嫌な気持ちとかを味わってもらったり、あるいは小さな生き物への弔いを感じてもらったりしてもいいのかなと思っています。…ごめんなさい、解説するとつまらないですね。そろそろ、工房の方にも行っていただきましょうか。」

 

 

工房とお聞きしましたが、工場のような建屋に案内していただきました。ここにある設備で”家も建つ”そうです。

 

ーこちらで鋳物を作るんですね。

 

「はい。最初に粘土で蟻のレリーフを作り、その原型からシリコンの型(雌型)を作ります。次にワックスを流して雄型を作ってパキパキ割って板に張りつけます。その後、砂で鋳型をとってからアルミを流して、先ほど見てもらった鋳物を作ります。シリコンって金属だってご存知でした。私も後で知ったんですけど、金属なのにとても柔らかい側面がありますよね。鋳物も開けてみないと出来栄えが分からないこともあって、なかなか面白いです。」

 

 

ー台座もご自身で制作されたんですよね。

 

「そちらも見ていただきたいと思います。台座なので、図面だけ書いて発注しても良いのですが、私は自分で作りました。やはり作品を制作する過程で、手直しが必要な時もあるし、一度図面を書いてしまうとそのままでは使えないでしょ。何より、作りながら考えることができるのがいいんです。」

 

 

「こちらの台座にパネルを乗せます。展示場所がエントランスなので、座りながら待ち合わせ場所に使ってもらってもいいかもしれませんね。『え、そうなの?』と、こちらが思うような反応がでるのが楽しみですね。

 

ーこれまで制作の過程で難しく感じたことはありますか?

 

「…正直、難しく感じたこと、大変だと思ったことはないです。困難なことは楽しいことなので。昔から美術は好きで、小学校の夏休みの宿題も美術だけは計画通りに進んで、逆に日にちが余ってあれもこれもとさらに手を加え始めて、結局締め切りに間に合わないなんてことはありました。でも、それも、やはり楽しかったし。」

 

ー卒業後の計画はありますか?

 

「好きなことだけして生きてくことを考えています(笑)。一応、博士課程は受けています。設備や教員、友達のいるこの環境で、もっと色々なことを習得して世に出たいなと。」

 

ー本当に作ることが大好きなんですね。

 

「そうですね。作ることが好きな人の中には、こんな技術を使いたいので作品を作りたいという方もいると思いますが、私は作品として形にすることに関心があります。手段や方法は、その作品が作れればそれでいいという感じです。実は出来上がったものそのものに、それほど愛着があるわけでもないんです。展示が終了すれば、それはもう終わったことです。金属以外の素材に目が向くことも、ひょっとすると、いや、多分間違いなくあると思います。作りたいものや試してみたいことがめちゃくちゃ沢山あって、(博士課程の)3年でも全然足りないくらい。」

 

ー今日はありがとうございました。卒展で作品を観に行くのがとても楽しみです。

 

 

★インタビューを終えて

 

藤澤穂奈美さん(フジッピー)を、一言で表現するとしたら、自然体(ナチュラル)な人というのが最も相応しい気がします。作ることが大好き、生き物が大好き、何より不測の事態が大好き! 自分の意図通りには決してならない「自然」が大好きで、そこから何かを感じている「自然」な自分を形にして表してみたい、そんな印象を受けました。
作品について「説明」いただこうと質問を投げかけると、何度となく躊躇されていたのは、「説明」してしまうことで、作品と出会う人の感じてもらえる幅を制限してしまうことを恐れてのことではないかと思います。「教える」ことほどつまらないことはない。自分と異なる感覚、感性があること自体が「自然」であり、それを知ることが面白い。そんな風に思われているのではないかと勝手に想像しています。

 

 

「今日は、色々な感想がいただけてよかったです。不測の事態から、今日お話した内容とだいぶ異なる作品になっていたりしてもおかしくないですね(笑)。」

 

チャーミングで自然な笑顔とともに、最後にこちらの台詞で取手キャンパスから見送っていただきました。

 

 


取材|臼井清、上田紗智子、鈴木優子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|臼井清
2013年に、認知症の方やご家族向けの絵画鑑賞プログラムを体感する機会があり、アートの持つ魅力と可能性を強く実感しました。とびラーに応募したのも、もっとアートが知りたくなったからです。現在は、アートナビゲーター(美術検定1級)としての知見なども踏まえ、ビジネスパーソン向けのアートワークショップ、研修企画なども行っています。大好きな作家はターナー♪

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


★あなたもアートを介したソーシャルデザインプロジェクトに参加しませんか?
第8期とびラー募集

「『みんな本当はこう思ってない?』社会を逆から眺める視線〜表現されるユーモアと毒」藝大生インタビュー2018 | 油画 学部4年・杖谷美彩さん

2018.12.19

12月も後半に入った19日、藝大美術学部絵画棟7階で卒業制作を行なっている杖谷美彩さんを訪ねて行きます。アトリエのドアを開けると、ピンクのトップスにシルバーのボトムスの装いの杖谷さんが、にこやかに我々を迎え入れ、床に敷かれたカーペットの上に座るように促してくれました。

 

【卒業制作は三畳の空間】

 

杖谷さんのアトリエで最初に目が行ったのは、そこに置かれている、洋式の便器です。

 
ー デュシャンへのオマージュ? これは何ですか?

 
「それは卒業制作の“部屋”の中に置く便器です」

 
“部屋”が卒業制作の作品! テーブルの上にあった模型を、カーペットの上に持ってきて見せていただきます。それは小さな部屋とそこに連なる廊下のような構造物です。

 

「卒業制作は、この三畳くらいの部屋なんです。貧乏で、狭い部屋しかなくても、そこで楽しく生きていける方法を提案していく作品です。床の波型の模様は、以前の作品から発想を持ってきたのですが、ゴキブリホイホイのゴキブリを捕まえるネバネバした薬の模様を、人間サイズにしたものです。子供の頃から、ディズニーランドがすごく好きで、ディズニーランドには興味を持っているんですが、人がディズニーランドに行ってホイホイお金を使っちゃう感じが、人間版ゴキブリホイホイに近いと感じて、そんな作品を作ったことがあったんです。
実は、この部屋には、裏テーマもあるんです。それは死刑囚の独房というテーマです。それで便器も置こうと思っているんです。平成最後にオウム事件の死刑執行もあったので、そんな話も、あまり気づかれなくてよいのですが、要素として入れたら、面白くできるのではないかと考えているんです」

 
話の意外な展開にびっくりしている間にも、杖谷さんのお話はどんどん進んでいきます。

 
ー卒業制作はなぜインスタレーション作品にしたのでしょうか?

 

「今まで絵画作品を多く作ってきて、作品も溜まってきたのですが、どの絵も絵画として完結しているというより、インスタレーション的な面白さがあると感じていたんです。そこで、卒業制作は体験型のインスタレーションにすることにしました。体験の感覚を強くするために、大学や美術館の床とか天井が見えないようにインスタレーション全体が一つの部屋になっています。来場者が会場のドアを開けると、突然廊下があって、三畳の部屋に誘導される仕掛けです。
ちょっとしたテーマパークのように、脳味噌を一瞬だけ騙して、また夢から覚ますというような空間を作りたかったんです。そこで、『わっ、めちゃめちゃペインターだな』と感じるタッチは控えて、部屋のパースの中にさらにパースを描いて部屋を広く見せたり、見る場所によってはパースが狂っているように感じさせたり、平面としてテレビを描くことによって平面と立体の間の行ったり来たりを感じさせるようにしたりしているんです。
中にある赤く下地が描いてあるテレビには、お笑い番組でよくあるボタンを押すと人が落ちていくセットを描こうと思っています。それは死刑執行のボタンを押すという動作と同じなんです。死刑執行の方は3人で押すようですけど。だからどうっていうことはないんですけど、ちょっとドキッとして、日常で笑っていることに対して疑問を持つようなことがあっても良いかなと思っています」

 

 
― ディズニーランドから死刑囚の独房まで、扱うモチーフの幅がとても広いですね。

 

「今年の春頃には、卒業制作では宗教的な話を掘り下げた作品を作ろうかと思っていたんです。でも作品のテーマとして扱うにはまだ私自身がそのことに関して知識が浅すぎると感じたので、それはいつか作品にすることにして、今回はやめにしました。
今の関心は、自分が制限した三畳の空間で何かできるかとか、ディズニーランドにもあるような立体から突然平面になる境目を三畳の中に組み込むとか、そんなことができると面白いなと思っています。裏テーマとしては死刑囚の独房というのがあるんですが、初めは、狭い空間でも絵を使って豊かに暮らすことができるということが見えれば良いかなと思っています」

 
― 騙し絵の空間のようなところがディズニーランドと共通しているんですね。

 

「水槽の中の魚を、パソコンの中に移動することでヴァーチャルなペットになるとか、そんな入れ替えが起こる空間があったら面白いと思ったのが、この作品の発想の元になっています。
これは、本物のランプにハエを描いて、ちょっとしたインテリアにしたもの。インスタ映えのハエ。みんなが家にあるもので作れるような、軽いものです。卒展の展示は結構写真に撮られるので、出来るだけどこから撮られても良いようにしようなんていうことも考えています」

 

 

「今、入れようかどうしようか考えているのは、布団の花畑です。死ぬときは独りみたいなことを表現するために、家具屋さんで布団カバーを買ってきて、そこに花を描いて、花畑で寝ているように見せて、一人で死んでも花があるから怖くないみたいなものも作ったらどうかなと思っています。体験型で実際に寝てもらい、布団に触れてもらうんです。妹を連れてきて寝てもらいサクラになってもらうのも良いですね。
一見風景画、一見アニメ、一見何々みたいな、はじめよくわからなくても、聞けばちゃんと考えているんだなとわかるようなものを作りたいと思っています。大学に入ってから、逆側を突くようなのが好きなんだなって分かってきました。
天井には電気工事ができないためシーリングライトなどはつけられないのですが、そこをどうリアルに見せるかとか、コントラストをつけることで部屋を広く見せるとか、いろいろやってみたいと思っています。建築の授業も取って、綺麗な建築の話とかもいろいろ聞いたので、丁寧な作業をしていきたいと思っていて、裏側までちゃんとパネルを作るとか、枠組みにパッと留めるのではなくちゃんと組んだりとかしています」

 
ー 誘導する通路のところはどうなるんですか?

 

 

「住宅のモデルルームに誘導するような形式にするか、遊園地の入り口のようにするかは、まだ悩んでいるんですが、ここにちょっとした受付のような窓を作って、私が監視している人になって来場者に対応しようとしています。そこでは、死刑を免れるために首を鍛えた人がいるとかいう話を提供するとか、実際にマッチョな人が使うような首を鍛える道具をちょっと可愛くして置いてみるとか、来場者に、新たな引き出しを提供できれば良いかなと思っています。
来場者は、フード付きのパーカーを着てはダメとか、35cm以上の紐がついた服はダメとか、そういう制限を入れると体験型として面白くなるかなとも思っています。受付の所には、ディズニーランドにもあるような、こう言われたらこう応答するというマニュアルも用意するつもりです」

 

 

 

― 卒展の内覧展と東京都美術館での展示は同じものになるんですか?

 

「東京都美術館は、規定が厳しくて、この天井もつけられないようなので、イケアのショールームのような天井のない形にしようと思っています。部屋に誘導する動線も省略するバージョンになります」

 

 

 

― この作品の制作はいつ頃から始めたんですか?

 

「部屋を丸々使いたいというのは決めていたんですが、この形になったのは後期になってからです。そのきっかけは、今年友人四人とドイツの美術館に行った時に、荷物と上着を脱がなければ入れない部屋があったんです。その理由は中の展示を取られたくないからということで、特に外国人には厳しかったんです。そこで、このやり方はドキッとして面白いなと考えて、それを取り入れて今の形になったんです。
制作について相談するための先生との面談は、リクエスト制なんですけど、できるだけ色々な話を聞こうと思って、先生みんなに申し込んで色々な先生の意見を聞きました。そこでは、良いと思ったらすぐ採用し、それは違うと思ったら『それ合っていません』というストレートな形で話を伺いました。そんな中から、受付で紙の受け渡しをするというアイデアをもらったり、立体と平面の行き来をもっとやってみたら面白いんじゃないとかアドバイスをもらったりしました」

 

 

杖谷さんが、色々な方向にアンテナを張り、様々な意見を聴きながら、自ら面白いと思うものを探し、選びとって、この卒業制作に至った様子が分かってきました。

 

 

 

【自画像としての雑誌】

 

油画の卒業生は自画像を描くことも卒業制作の課題になっています。その話も伺いました。

 

「卒業の時に自画像を提出しなければいけないんですけど、自分の顔を描くことにすごく抵抗があって、『やらされている感』がすごくきつかったので、自分の絵の代わりに、雑誌を作って、それを自画像として提出することにしました。雑誌の表紙は私なんですけど、雑誌の中は今までに制作した作品に関する資料を、週刊誌の記事のように入れます。そこでは、第三者が紹介する形で、作家が、それは私なんですが、その絵を描いた理由とか、制作のエピソードとかを書きます。雑誌の中には、私のブランド『たにゃ』で作った指輪の広告も入れます」

 

 

「この雑誌は美術館に5冊納めます。卒業制作展では雑誌の売り買いまで成立させたいと思っています。そうすれば印刷代も賄えます。この雑誌は卒業制作の部屋にもポンと置いておこうと思っているので、『三畳で上手に暮らす』という特集も組んで中に入れようとしています。ゴキブリホイホイのマットの種明かしとか、読めば読むほど作品が面白くなるような資料を入れて、作品を見るときのヒント集にします」

 

 

ー 空間だけでなく雑誌も作品の一部として作るのですね。

 

「私の周りには美術には関係ない親戚とかが多くて、鹿児島に帰ると、桜島を描いてと言われるようなこともあります。そんなことも考えると、やはり作品は意味がわかって楽しいということもあるので、この雑誌にはそんな役割も期待しているんです」

 

ー どんな雑誌ができるか楽しみですね。

 

「実は、雑誌の文章で結構行き詰まってしまって、元々の入稿予定だった明日の入稿は無理なので、クリスマスの朝まで締め切りを延ばしているところなんです」

 
【これまでの作品】

 
そんな忙しい中、嫌な顔もせず付き合っていただいている杖谷さんに甘えて、杖谷さんのこれまでの作品をポートフォリオで見せていただきました。

 

「これは1年の時に制作した、国会の乱闘の様子を急激に冷えて固まった溶岩にみたてて絵画です。プレパラート型の名刺には作品が印刷されていてとなりに置いてある段ボール製の万華鏡で作品を覗き込むことができます」

 

「これは、ラーメンを人より先に食べ終わって、待っている間に、油をチョンチョンと繋げて世界時図を作った状態を、リトグラフにした作品。リトグラフとは、水と油の反発で描く手法と聞いて、リトグラフで水と油を描いてしまいました」

 

「このアニメの男の子のようなのは、3年生の進級展「蜃気楼」に出した作品。ツイッター上に、藝大生の作品を見てくれる人がいて、絵を見に来ては写真を撮ってツイッターに上げてくれるんですけど、いつも見たということしか書いてくれないので、その人に一番印象に残る作品を作ろうと思ってこの作品を作ったんです。その人は顔を出していない人だったので、その人を思わせるプロフィール画像を50号の大きさでアニメタッチで描いてみました。結局、その人と思われる人が展覧会に来てこの作品を買ってくれました。美大生や身内の人はクスッと笑える作品です」

 

「このキャラクターが並んでいる作品は、実際に池袋にある宝くじ売り場にあった看板から着想したもので、ミッキーのキャラを普通に使うのは著作権的にダメだけれど、ここまで変えればギリ、ミッキーじゃないんだというような、そういう図の使い方に興味を持って、そんなグレーゾーンを描いた作品です」

 

「地元の鹿児島に帰ると、駅前の小さな土地に数本の樹を植えてある場所があるんです。それは税金対策の果樹園だと聞いたので、それを作品にしました。この作品にはポートフォリオでは地図の果樹園記号がありますが、実際に絵にはそれは描いていないんです。ポートフォリオに入れるたびに、ポートフォリオに果樹園記号を描いています。「あっ果樹園だってさ」みたいな軽さが良いんです」

 

「こちらも、地元に帰ると見かける風景で、農地がソーラーパネルで覆われている作品です」

 

 
アトリエの隅に置いてあった、絵画作品も見せていただきました。

 

「これは、ジャポニズムといえば出てくる図像に、団扇や、以前問題になった団扇型ビラを散りばめた作品。ウチワ揉めみたいなダジャレも含めています」

 

「このピザは、SNOWアプリでピザを撮ったら、一枚だけ顔認証されて、顎が削られた状態を描いた作品」

 

「これは制作途中です。祖父が家の周りに除草剤を撒いてくれているところが宇宙飛行士みたいで格好いいなと思って描いていたんです。そうしたら、この地球の草を刈る姿を頭の髪を刈っているような感じに見せると面白いなと思って、草をふわっとした髪の毛のように見せるようにしようと思っています」

 

「こちらのは一年の時の作品で、その夏にボーッとテレビを見ていたら、私と同じくらいの歳の人が、赤い札を掲げて何かに反対してデモを行っている、それを見ながらこのタイミングで戦争に行くことになるんだろうかとか、芸術家になりたいのに何もできないのかとか、赤い紙がサッカーのレッドカードに似ているとか思いながら、これを作りました。絵の周りの額のようなところがテレビになっているのは、そのためです。実は遠目だと見えないんですけど、ここには政治家の名前の印鑑が押してあります。これがレッドカードではなく赤紙だと気付いた人は、腑に落ちてくれる、気付かない人は気付かずに過ぎて行く、それで良いと思っています」

 

 
アトリエに掛かっている絵も説明していただきました。

 

「真ん中に砂に埋まった人の足がありますけど、これは地元指宿の砂蒸し温泉と、生き埋めという殺人的要素を両方思わせるように描いてあります。後ろの窓には、Windowsのロゴが描いてあります。右側は部屋の床と繋がるような相撲の土俵になっています。昔はテレビをつけるといつもお相撲が流れていたんですが、それはずっと小さなテレビだったんで、ここでは部屋のパースと繋がるリアルな状態にしてみました。この作品は自画像の雑誌の中に入れようとして描いたものなんですけど、それにしては結構大きいし、ここにあるだけで日の目を浴びないのはかわいそうだと思って、公募展に応募したところ、一次選考が通ったので、これから仕上げないといけないんです」

 


 
夏の藝祭に展示した絵についても説明していただきました。
密集して建っている家に囲まれた空き地の中に、椅子やテレビが置いてあり、親子と思われる4人が椅子に寝っ転がったりして生活している様子が描かれています。ずっと画面の上を見ると、絵の端の黒いボーダーの中をミサイルが飛んでいます。

 

「この130号の作品は藝祭に展示した絵で、《みさ、居る?》というタイトルなんですが、それは『ミサイル』と掛けているんです。展示した時には、消失点を思い切り下に持ってきて、画面をガッと上にあげ、4mくらいの上のミサイルに気付く人は気付くというような展示をしました。
家が密集しているために、お互い見えないように家に窓がないというようなところも、面白いと思っています。地方だと車で10分くらいの人とも繋がりがあるのに、東京だと逆に隣に座った人を一番警戒するというようなところがあります。東京だとホームレスがいても見て見ぬ振りをしますが、もしこの空き地に自分の家族がショーウィンドウの中にいるように暮らしていたら、みんなヤバッとか言って見ないふりをするんだろうな、みたいなことを絵にしたんです。
これは、FACE展に応募して通ったので、また違う場所で違う展示の仕方をされたら面白いだろうなと思っています」
 
杖谷さんの軽やかで、毒もある発想は、留まるところを知らないようです。
 
「鶏肉に水を注射してかさ増しするという話を最近聞きましたが、そういう話を聞いて怒るんではなく、水で増えるんだったらお得だよねと思って、共感して作品を作ったり、領収書を作ってお金をだまし取る事件でも、領収書でお金入ってくるんだったら欲しい、わかる、みたいなところからスタートして、誰も責めてないよというようなスタンスでいきたい、ということはありますね。
自分と関係ないことに関しても、近いものと擦り合わせて、この関係は似ているなとか合わせてみます。逆に、自分を見てみようというようなところはあまりなくて、私がこういうものが好きとかは、あまり作品から出したくないと思っています。いつでも公平な位置にいたいというような拘りはあります。『みんなこう思っていない?』というような立ち位置で、やれると良いなと思っています」

 

杖谷さんの、重い社会的課題に対しても、ユーモアを持って接していく姿が、この作品の軽やかさにつながっているんだなと分かってきました。

 
【藝大への進学の動機】

 

― 東京藝大への進学の動機を聞かせていただけますか?

 

「鹿児島出身なんですけど、小学校2年生の時に、絵を描いて入選したらディズニーランドに行けるという企画があったんで、それからずっと中学校まで、絵を描いていました。そうしているうちに画力もついてきたので、どうせなら一番のところでというミーハー心で藝大を目指しました。
藝大受験前に会田誠さんの展示があり、家族で見に行った所、本人がいらしたので「藝大を目指してます」と言ったら、『あんな所に行かなくて良いよ』と冗談半分だと思いますが、親の前で言われ、みんなに心配されてしまったなんていうこともありました。でも入学できて良かったと思っています」

 
【パネル組み立て中のアトリエへ移動】

 

パネルが組み立てられている別のアトリエへ連れて行ってもらいました。そこには三畳の空間がパネルで作られ、木の匂いがします。ゴキブリホイホイ型波模様の材料も傍にあります。

 

「このアトリエを『使わないから使っていいよ』と言ってくれた友人がいたので、この場所を貸してもらっています。作品のパネルは、1週間くらいでできると思っていたんですが、もう4週間かかっていて、天井のパネルはできたんですが、床がまだという感じで、肉体労働が続いていて大変です。でも今は新築の部屋をもらったような気分で、今までのなかでは一番アクティブに動きながら制作しています。
天井のこの辺には、監視カメラの絵を描こうと思っています。偽物カメラでも犯罪が減るというようなそんなことを考えています」

 

 

「電子レンジが欲しいんですけど、それもないので、一年生の時に描きかけた電子レンジを持ってきました。複製絵画みたいな感じで、クッキーのモナリザや、アラザンの耳飾の少女も作って、雑誌の中に入れるんで、電子レンジはその背景になります。1月13日の内覧展までに作り終わらないといけないんですが、学校も休みに入るので、あと作れる日は実質8日くらいしかないんです。その間に雑誌も作らなければいけないし、作品を展示会場で組み立てるお手伝いをお願いしている方もいるので、そのための謝礼金をまかなうためにバイトも入れてしまっていて、大変で、頭もゴチャゴチャになってきているんです」

 

― 1月13日から14日の二日間、絵画等の6階、7階で内覧展を行うのですね。

 

「そうです。ここで組み立てたものは、一度バラしてまた組み立てます。卒展の都美術館バージョンとは、また違った形になっているので、ぜひこちらも観に来て下さい」

 

【今後の計画】

 

― 卒業した後はどうされる予定ですか?

 

「大学院に申し込んであります。絵に対して何か言ってくださるより、距離を持って色々言ってくださる先生のところに、行ければ良いなと思っています。
将来は、海外に住んで、海外からだと日本がどう見えるかをみたいし、紛争のある地域で展示すると、どのような制約があり、どのような表現ができるのかも、そんなことも考えられると面白いと思っています。」

 

杖谷さんの、軽やかに縦横無尽に飛び回るようなお話を伺い、卒業制作がどのように完成するのか、ぜひ見届けたいという思いが強くなってきました。杖谷さんの、クスッと笑えて、毒もちょっとあって、そして考えさせられる作品、またそれだけでなく、平面と立体の間を行ったり来たりする造形的にも興味深い作品。楽しみです。卒業制作のパネル作り、雑誌の入稿、それにバイトと、本当に忙しいなか、インタビューを受けていただいて、ありがとうございました。


取材:鈴木重保、東濃誠、陸嬋、上田紗智子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆:鈴木重保


2年目の「とびラー」です。昨年も藝大生インタビューを行い、作家が作品を生む場に感動したので、今年もインタビューにチャレンジしました。

 
 
 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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「光と自然現象の伝道師」藝大生インタビュー2018 | デザイン 学部4年・渡邉菜⾒⼦さん

2018.12.18

12月中旬のある日、寒空のもと藝大を訪れました。
今回お話を伺うデザイン科4年生の渡邉菜見子さんは、屋外で作品を制作中とのこと。
どんな方なのか、どんな作品なのか。期待を膨らませつつ総合工房棟へ向かいます。

 

 

ー作品について教えてください。木でできた小部屋のように見えますが・・・。

 

「インスタレーション作品で、通路のような細長い部屋を通り抜けながら鑑賞してもらいます。タイトルは『PPW』。Phenomenon(現象)PassWay(通路)の頭文字をとっています。」

 

 

 

ーさっそく、作品の中にお邪魔します。

通路の内部は真っ黒に塗られ、外観からは想像もつかない光景が広がっていました。天井に張り巡らされた透明なチューブが白い光に浮かびあがり、幻想的な印象を与えます。クラゲ、深海、水族館・・・。いろいろなイメージがわき、不思議な気分になってきました。

 

「この作品を設置する場所は、構内にある『森の中の通り道』のような場所です。木々の中に真っ白な箱が建っていて、中に入ると真っ暗。そんな異空間的な感じを出せれば、と。」

 

 

ー作品内部に関しては、どんな意味が込められているのですか?

 

「頭上のチューブにはゼリーと泡が詰まっています。それらをランダムに点滅する光で照らし、暗闇の中に浮かびあがらせます。チューブが人の感情だとして、それらが見え隠れする。人間みんな、実は何を考えているのかわからない、そんな不気味な感じを表現できればと思いました。箱の中に入ると、同じ空間内にいる他者が見えたり見えなくなったり、その人の本質が見えたり見えなくなったり、そんなイメージです。作品を見てくれる人には、好きなように色々なことを感じ、想像してもらえればと思います。」

 

 

ー照明にこだわりがあるようですが、音響などはつけないのでしょうか。

 

「音はつけない予定ですね。入った人に自由に想像を膨らませてもらいたいので、あえて無音にしています。」

 

ー制作について伺いたいと思います。この独特なチューブは、どのように制作しているのですか?

 

「ゼラチンを砕いてからお湯でふやかし、チューブに口で吸い込んでいます。チューブの全長は300メートルくらいです。」

 

ーすべて息で吸い込んだら疲れますよね。掃除機などを使うわけにはいかないのでしょうか。

 

「機械は微調整ができないんです。口で吸うと泡の感じがうまく出るので頑張っています。切り口で口内炎だらけになりますが(笑)。室内の気温だとドロドロに溶けて液体状になってしまうので、ゼラチンをふやかしてチューブに吸い込んだらすぐ外に出して冷やしてます。冬の今しかできない展示ですね。」

 

 

ーいつ頃から制作に着手されましたか。

 

「木を買い揃えて実際に作業を始めたのは、2週間前からです。紙で模型を作った後、この1/3サイズの試作を作り始めました。本番では、この試作をバラして現場で再構成する事になっていて、あちらに見える森の中に、全長6mくらいの通路を設置します。セッティングが完了するその日まで、自分でも完成した状態を見られません。」

 

ーそれだけの大きさのものを組み立てるのは大変そうですね。

 

「3日もあれば組み立てられます。むしろ壁などを作る方が、時間がかかりますね。チューブをはめるための穴も、ジャストサイズのものを一つ一つ開けています。」

 

ー当初から、この構想で制作を進めていたのですか。

 

「ベースが通路ということと、透明の素材を使おうという方向性は変わっていません。ただ、具体的な作品内容は当初の予定から5回くらい変遷しています。以前から、樹脂の中にガラスを閉じ込めてそれに光をあてる作品を作っていたので、初めはそれを通路内に展示しようと考えていました。ただ、それでは通路に対してサイズ感が合わず、作品全体としてのスケールも小さくなってしまうなと思って。次に、樹脂で椅子や机を作って通路の中に設置しようと思ったのですが、材料費が300万円くらいかかることが分かってやめました(笑)。そのあと、チューブを買ってみて中にものを入れたら、あ、綺麗、と。これに光を当てたら、泡がキラキラして夜の水中みたいなイメージでになるんじゃないかと思いついて、この展示になりました。たまたま行き着いた感じです。」

 

「アイデアにしても素材にしても、いい方を拾って、そちらに転がっていくように進めていきました。固定してしまうと、発展しないと思っていて。講評が先月末にあったのですが、箱だけその時のものを残して、内容は変わっています。教授にも言わずに勝手にコロコロ変えちゃって。今この作品を制作していることを知っている教授も多分いませんし、この状態から今後さらに変わるかもしれません(笑)。設置場所も、当初とは違うところになりました。」

 

 

ー藝大に入るまでのことを聞かせてください。

 

「中学生の頃は美容師になりたかったんです。でも、美大卒でグラフィック・サイン系の仕事をしている両親からは、中卒で美容師の専門学校に行くのではなく、高校に行きなさいと言われました。」

 

ーご両親がともに芸術の道を歩んでいらっしゃる。渡邉さんはサラブレットだったのですね。

 

「中学までは、反抗心から『絵は好きじゃない!』と言ったりしていたのですが(笑)。両親は、私がこっそり絵を描いたりしていることを知っていたんですね。勉強か美術か選択するように言われた時は、迷わず美術を選びました。そうして美術系の高校に入ってから、知り合いのヘアメイクアップアーティストの方に進路相談をしたところ、美大で引き出しを増やしてからでも遅くないよと言われて。行くならトップを目指そうかなと思い、藝大だけを受験しました。」

 

ー藝大ではどんな作品を制作してこられたのですか?

 

「飽き性というか、いろいろなところに手を出す性質で。デザイン科は自由に色々できると聞いて入ったので、最初からやることを絞らずに制作していましたね。はじめは服飾やテキスタイル、ヘアメイクをやっていました。建築物も好きだったので、木組みで椅子を作ったりしているうちに、次第に空間や光に関心を持つようになって。そこからは、透明の素材を使うことが多かったです。樹脂とか、ゼリーとか、ガラスとか。それらと光を使った作品を制作してきました。現象系と言いますか。」

 

 

ー「透明」「現象」がキーワードですか。詳しく教えてください。

 

「もともと木漏れ日や、水面に光が反射して揺れている様子などの自然現象に関心があり、それを作品化しようとしています。透明だけれど、光をあてるとプリズムになる。そういう想像がつかないような現象が面白いなと思っています。写真を撮ったりして記録するわけではないのですが、ふと思い出してあれ良かったな、と思えば作品にしたり。人工的な輝き、例えばジュエリーなどの作られたキラキラはあんまり好きではないです。自然界の光を再現したいというのに近いかもしれません。卒業制作でも、時間で太陽の落ち方が違うとか、そういう現象を扱った作品を制作したかったのですが、展示期間中に曇ってしまうと困るので、そのアイデアは採用しませんでした。ずっと思っているのは、生活の中で余裕がなければ気づかないような”現象の面白さ”に目を向ける人が増えればいいなということです。今回の作品でも、鑑賞者の方に気付いてもらえれば嬉しいです。」

 

ー作品を通し、普段見過ごしてしまいがちな現象の美しさへと鑑賞者の視点を導くねらいがあるのですね。参考にしているアーティストなどはいますか?

 

「プロダクトデザイナーの倉俣史朗さんは、アクリルの使い方などが好きでよく見ています。
あと、参考にしているという訳ではないのですが、光や透明を扱っているアーティストの吉岡徳仁さんには勝ちたいな、と思ってやっています(笑)。建築では、隈研吾さん。いろいろな素材を使っていて面白いなと思って。基本的に参考にするものは、あまり近いものを見ないようにしています。そちらに引っ張られてしまうので。建築やプロダクトなど、遠めの所から拾ってくることが多いです。」

 

ー他にインスピレーション源やリフレッシュ方法はありますか。

 

「一つのところに居座れなくて、常に動いたり遊んだりしていますね。暇な日も、家にいられないんです。ドライブしたり、銭湯に行ったり。」

 

 

 

ー卒制を制作中の現在はどんな生活を送っていますか?

 

「屋外は寒くなってきたので、大学では7時~8時くらいまで木を組むような大型の作業をしています。その他、チューブ制作などの作業は、三河島にあるアトリエで行っています。アトリエ近くは下町で銭湯もあり楽しいです。」

 

 

ー今後の制作や、卒業後の進路について教えてください。

 

「照明のデザイン事務所に就職が決まっています。最終的にはショーなどの舞台美術を手掛けたいですね。働きながら、作品も作り続けたいです。透明なものへの興味は変わらないと思いますが、いろいろな素材を触っていきたいです。」

 

 

作品を通して、生活の中で見過ごしてしまうような現象のうつくしさを発信する、その姿はまさに「光と自然現象の伝道師」。
様々な方向に興味をひろげ、柔軟にアイデアを発展させてゆく姿勢にも魅力を感じました。現象への飽くなき探究心が生んだこの作品が、最後にはどのように仕上がるのか。卒展当日を楽しみに待ちたいと思います。

 


取材|⽯井萌愛、⻄牟⽥道⼦、萩⽥裕⼆(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|⽯井萌愛

 

普段は美学を勉強している大学生です。美術館のアクセシビリティや対話型鑑賞をはじめ、芸術を取りまく物事について、色々な人と語り合えるのが楽しいです。

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


★あなたもアートを介したソーシャルデザインプロジェクトに参加しませんか?
第8期とびラー募集

【開催報告】「はなしてみま書!」開催しました!

2018.12.16


日時 2018年12月16日(日)

①午前:11:00~11:30 ②午後:14:00~14:30

会場 東京都美術館 ギャラリー A・C


東京都美術館で開催された「見る、知る、感じる──現代の書」。

2017年より開始された現在公募展で活躍している作家を紹介する「上野アーティストプロジェクト」シリーズの第二弾です。

2018年度は書の公募団体に所属する6名の作家による作品が「見る・知る・感じる」といった鑑賞者の目線を意識したテーマのもとで紹介され、日ごろから書に親しんでいる方だけではなく、初めて書の作品世界に触れる方も楽しめる展示となりました。

 

この展覧会場で開催された、とびラーによるプログラム「はなしてみま書!」。

このプログラムでは、展示室で出会った人々が少人数のグループに分かれて、作品を見て気がついたことや感じたことなどを、お互いに言葉を交わし合いながら一緒に鑑賞していきます。

今回の「はなしてみま書!」には午前と午後 合わせて約32名の方にご参加いただきました。

このプログラムには事前申し込みの必要はなく、ほとんどの方が、配布したチラシや当日のとびラーからの呼びかけがきっかけとなり参加してみたとのこと。

なかにはプログラムの途中で輪の中へふらっと立ち寄ってくださった方もいらっしゃいました。

 

集まった参加者は3つのグループに分かれ、それぞれ2、3作品を鑑賞しました。

まずはそれぞれでひとつの作品を少し鑑賞してみます。

近づいたり離れたり。いろいろな角度からじっと見つめてみると思いがけぬ発見があることも。

そのあと再びグループで集まり、全員で作品を見ていきます。

とびラーが、

「どう感じましたか?」と問いかけると、

「ここが…」と、気になったところを指差して、線の形や墨の色、文字の意味など、色々な意見が参加者から語られます。

 

 

こちらは各グループが鑑賞している様子です。

「動物みたいにみえる!」

「ここにこんな文字が…」

初めて出会った人どうし、最初はすこし緊張していた空気がだんだんほぐれ、様々な発見が生まれていきます。

ほかの人の言葉を聞いて頷いたり、自分の考えたことを話してみたり。

そうしているうちに作品だけでなく、おのずとお互いの考え方や価値観まで浮かび上がってくるものです。

プログラムの終わる頃には、初めて出会った人どうしのグループにも一体感が生まれていました。

 

 

「書の作品ってどう見ればいいんだろう」そう考えたことはありませんか?

私自身、書に関する経験や知識は決して多くはなく、実のところ戸惑ってしまうことも少なくはありませんでした。

しかし、とびラーとしていろいろな人たちとこの展示室で作品を前に言葉を交わしていくうちに、書を「見て、知って、感じ」ながら楽しめるようになっていったような気がします。

 

これは、美術館という場で作品を見ることの醍醐味のひとつとも言えるのではないでしょうか。

自分ひとりで作品と向き合っている時には気がつかなかったことを人と言葉を交わすことでともに発見していく。

こういった作品の楽しみ方を、来館者のみなさんに知ってもらえる機会になったのではないかと思います。


 

執筆:久光 真央(アート・コミュニケータ「とびラー」)

ミュージアムが素敵な出会いの場となりますように。

 

 

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