東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

【実施報告】伊庭靖子展でワークショップ 〜感じよう!「見ること」のおもしろさ〜

2019.10.17

東京都美術館ギャラリー「伊庭靖子展 まなざしのあわい」会場及びホワイエにて、8月25日(日)に、とびラー企画のワークショップを開催しました。

作品の対話型鑑賞・写真撮影・スケッチ・缶バッジ制作という、鑑賞から表現につながるこのプログラムには、当日受付で45名の方にご参加いただきました。

「見ること」を意識的に行うことで、作品の鑑賞を深めるとともに、自らのまなざしで発見したものを表現し、「見ること」のおもしろさを感じることがテーマでした。

<伊庭靖子さんの作品制作の過程にヒントを得たワークショップ>

「対話型鑑賞」→「モチーフを配置して写真撮影」→「スケッチ」→「缶バッジ制作」
どうして、このようなプログラムになったのか、なぜ写真撮影をするのか、まずは、その背景についてお伝えします。
伊庭靖子さんの作品の鑑賞を深めるための対話型鑑賞のワークショップの企画を考えていた時に、伊庭靖子展のとびラー向け事前勉強会がありました。そこで伊庭さんの作品制作について知ったことが、このプログラムを考える出発点になっています。
実物を見て描くのではなく、写真に撮って、そこに写っているものをもとに描くという伊庭さん独自のスタイル。近作では、アクリルボックスの中にモチーフを入れて、モチーフの質感やそれがまとう光を描き、その周囲の風景を表現しているということ。そして、今回の展示のために、東京都美術館内で撮影した写真をもとに描かれた作品があること。
それらのことに興味を持った私たちとびラーは、実際にその制作過程に倣い、小さなアクリルボックスに入れたモチーフを撮影してみました。光の反射によるさまざまな映り込みによって現れた世界に、自らの見ているものについての意識が揺さぶられるような気がしました。普段は意識して見ていなかった、眼とモチーフの間にある光や空気や周囲の景色の織りなす不思議な世界に驚きました。自らの眼とモチーフ、モチーフと空間の「あわい(間)」にあるものを感じ取れたら、作品の世界に近づけるかもしれない。「見ること」を考えるきっかけにもなりそうだと考えました。そこで、伊庭さんが制作のために写真を撮った、その同じ空間で写真を撮る体験を、プログラムに入れることにしました。これは、東京都美術館だからこそ出来るスペシャルな体験です。

さらに、伊庭さんが写真を撮ってそれをもとに作品を描いていることをふまえ、参加者も自ら撮った写真の中で心惹かれた部分を色鉛筆でスケッチすることにしました。そして、その描いたものを缶バッジというアートにして持ち帰っていただくことにしたのです。

こうして、作品を見て対話型鑑賞をし、自らの眼でモチーフを見て、撮影をし、その写真をもとに感じたものを描くという、「鑑賞」から「表現」へとつながるプログラムとなりました。

 

<実施当日の様子>

①プログラムの受付をします。
参加者は、受付のあと「伊庭靖子展 まなざしのあわい」を鑑賞し、グループで鑑賞をする作品の前に集合します。

②グループでお話をしながら作品を鑑賞します。
今回の展覧会のために、伊庭さんが東京都美術館館内で写真を撮り、それをもとに描いた作品をじっくりとグループで鑑賞。作品の中に描かれた光や空気感、モチーフの質感、描写など、お話の中でいろいろな発見を共有しました。
美術館で初めて出会った参加者が、アートを通じてつながっていきます。

作品の前で、他の参加者の発言に、みんな聞き入っています。

みなさんと対話をしながら鑑賞するのは楽しくて、ファシリテーターも笑顔です。

言葉の1つ1つに込められた思いを受け取って、共有していきます。

気づきが言葉になって出てくる瞬間。時には、マンツーマンで参加者に寄り添います。

グループでの鑑賞のあと、とびラーから、伊庭さんが制作過程で写真を撮ってそれをもとに描ていること、鑑賞した作品が、アクリルボックスの中にモチーフを入れて、東京都美術館館内で写真を撮ってから描かれたことなどもお話ししました。
参加者は、自分が立っているのがこの作品に描かれた風景と同じ空間であることに、驚いたり、感動したりしていました。

 

③アクリルボックスの中にモチーフを配置し、iPadで写真撮影をします。

展示室を出たところで、伊庭さんと同じように自らモチーフを選んで配置し、アクリルボックスを被せて、見え方の変化を観察します。とびラーが寄り添い、アクリルボックスへの映り込みによる像と実像、光の反射、周囲の景色との関係性など、角度やアングルを変えて、いろいろな見え方をあじわいます。

「どれがいいかな?」綺麗な瓶を嬉しそうに手に取っています。

モチーフを選んで配置を決めるところから、作品を描くことが始まっています。

「モチーフを置く位置は、どうですか?どんな方向から撮りますか?」「こんな感じで!」

親子での参加者。撮影の順番を待つ間も、他の方の撮影を真剣に観察されています。

「見え方はどうですか?この角度でいいですか?」背景の景色、光の反射などを確認中です。

撮影場所のホワイエにも、美術館入口の景色が映り込んでいます!

伊庭さんが写真を撮られたのと同じ空間で、みなさん「見ること」に集中しています。
写真を撮影している時のワクワク感が、寄り添っているとびラーにも伝わってきます。

「どの写真がお気に入りですか?」何枚か撮った中からプリントする写真を選びます。

プリントを待つ間にも、参加者同士で写真を見せ合ったりして、和やかな雰囲気です。

同じ場所で撮っても、1つとして同じ写真は存在しませんでした。1枚1枚の写真にも個性が現れています。

 

④プリントした写真を見てスケッチします。
写真を見てみると、眼で見ていた時に気づかなかったものが写り込んでいたり、反射光で見えなくなっているところがあったり、またまた新しい発見があったようです。
写真の中で特に心惹かれた部分を探し出し、それを色鉛筆でスケッチします。何十年ぶりにスケッチをされた方も、絵を描くのは苦手だとおっしゃっていた方も、とびラーとおしゃべりしながら楽しそうに、あるいは真剣に集中して、描いています。ここでは、お好きなだけ時間をかけてゆったりと作品に向き合っていただきました。

ここでは、みなさんは「鑑賞者」から「アーティスト」になっています。

「この写真の中で、一番いいな面白いなと思ったところはどのあたりですか?」

写真をよく見て、色や光を観察しながらスケッチされていました。

缶バッジに切り取る前に、時間をかけて描いた作品を携帯で写真に撮り、保存された方もいました。

「小学校以来、久しぶりに絵を描きました。東京の美術館て、面白いことやっていますね!」
などというご感想もお聞きすることが出来ました。

 

④スケッチしたものから缶バッジを制作します。

プログラムの最後は、スケッチに表現したものからお気に入りのところを切り取り、缶バッジにします。缶バッジの大きさに切り取る箇所によって、缶バッジの中の絵は大きく変わってきます。イメージ通りに描けたところ、デザイン的に面白いところ、色の気に入ったところなど、丸いスコープをあててそれらを探すのも、意識的に「見る」ことに繋がります。

直径3センチの円でトリミングした構図を決めるところです。

缶バッジが完成した瞬間、「わぁ、素敵!」「おお〜!」と参加者ととびラーの歓声が上がります。
世界に1つだけの缶バッジができました!
参加者のお顔がパアッと明るく輝くのを見て、とびラーたちも感動します。

マットなフィルムで仕上げた缶バッジ。とても落ち着いた味のある雰囲気になっています。
早速、胸につけて帰られた方も多かったようです。この缶バッジを見て、東京都美術館でのひと時を思い出していただけたら、嬉しいです。

⑤感想と写真を掲示します
参加者の撮影した写真は、1枚はお持ち帰り、1枚は感想とともに残していただきました。

「今回のプログラムはいかがでしたか?」とびラーと参加者の会話も弾んでいます。

感想コメントのいくつかをご紹介します。

・意識をして光の行き先を考え、ガラスの器を置いた。日常の空間で見過ごしがちな物、光、空気を感じることができた。アクリルBoxとカメラの力を借りて見えないものが見えた気がした。
・とびラーさんやグループの皆さんとの会話をしながらの鑑賞、とても刺激になりました。この様なワークショップ初めてで、真剣に楽しく取り組むことができました。
・伊庭さんの作品を鑑賞してから、実際に伊庭さんと同じような制作体験が出来て嬉しかったです。いただいた写真も記念、大切にします。バッジはすぐに服につけました。
・伊庭さんの作品の独特な美しさ、やすらぎを感じるひと時でした。絵は難しかったですが、久しぶりに楽しい時間でした!
・自分のまなざしを疑いながらぼんやりとその空間を楽しむことができました。一人で見るのと対話をするのと違った見方が出来てとても気持よいです。感謝。
・久しぶりに絵を描きました。楽しかったです。苦手、いらないと思っていましたが、出来上がるとうれしいものですね。対話は時間が短く感じるほど皆さんと盛り上がりました。のんびりとでした。
・対話、写真撮影、制作とさまざまな体験が出来たのが楽しかった。撮影の際には、アクリルや部屋の照明など予期しなかった要素の影響が新鮮で、もっとよく見たいと感じました。
・展示されている作品を見てこのワークショップと同じ空間であの豊かな作品が生まれたことを知り、衝撃的でした。
・作品を鑑賞するだけでなく、アーティストと同じ目線で作品創りができ、楽しみながら感性を磨くことができました。

 

「東京都美術館ニュースno.460」には、伊庭靖子さん自身の展覧会への思いとして、このような言葉が記されています。
「来館者の皆さんには、眼でみるだけではなく、五感でみて(感じて)欲しい。“見る”ことをあらためて意識する機会になったら嬉しいです」

 

このプログラムの参加者の方々の感想にも「見ること」の意識の変化が記されているものがありました。ワークショップ終了後、もう一度伊庭さんの作品を鑑賞するために再入場されている方もいました。最初に作品を鑑賞した時とワークショップの後で鑑賞した時とでは、見方に変化があったでしょうか。

 

「伊庭さんの作品て、素晴らしいなあ、深く鑑賞したいなあ。参加者にもその素晴らしさをあじわっていただきたいなあ。」というところから始めて、企画し準備を重ねてきましたが、このように参加者のみなさんとご一緒に伊庭さんの作品を深くあじわい、「見ること」についていろいろな発見をし、そのおもしろさを共有することができたことを、本当に嬉しく思っております。ご参加いただいたみなさまに、心より感謝申し上げます。

企画から実施まで、熱い思いを胸に、素晴らしいチームワークで走り続けたメンバーです。

 


執筆:原田 清美 (アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラ−3年目です。趣味は、写真とダイビングです。
とびラーになって、アートと人と美術館の出会いに、たくさんの
感動やプラスの刺激、そしてエネルギーをいただき、感謝しています。今、私の大切なものを3つ挙げるとしたら、「人・自然・アート」です。これからもアートに関わる活動を続けていきたいと思っています。

【開催報告】「クリムトに誘われて “かたち”で描こう おとなのワークショップ」

2019.09.09

 

4月から7月に開催された「クリムト展ウィーンと日本1900」に合わせ、表現をする事から遠ざかっているおとなの方に向けたワークショップを開催しました。

 

このプログラムでは、クリムトの作品に描かれている文様や装飾的な形に着目し、参加者が一緒に1枚の大きな布に描く事で、自分のかたちをつくり、みつけていきます。お互いに影響し認め合いながらひとりひとりがかたちをつくり、見つける喜び・達成感だけではなく、共に描いた参加者との新しい関わり合いが生まれる場でもあります。

 

ではまず、どんな背景でこのワークショップが生まれたのかお伝えします。

 

 

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このプログラムの前身に「つくるって?」と言う名前のとびラボがありました。
集まったとびラーで「つくる事のプロセス」に注目してみたい。
そんな想いから立ち上げたとびラボです。

 

このとびラボでは、特に○○をつくりましょう!と言った共通のゴールは決めません。材料・技法などを変えながら、ひとりひとりが自由に手を動かし、発見を繰り返していきます。

 

例えば・・
・布を様々な方法で裂いたり編んだりして「よい形」をみつける
・お菓子の箱を分解して再構築する
・クリムト展のチラシに印刷されたに作品を、要素別に切り出しコラージュする

 

 

この造形活動を通じてメンバーの関心の中に「分解」と言う1つのキーワードが生まれました。
分解する行為からは、更に「解放」「癒し」と言う言葉が浮かび上がり、造形活動を行うことで、様々な枠に囚われてしまった日常の感覚から離れることができるのではないか?と考えました。

 

 

社会環境や価値観の激変した時代、変革と共に生きたクリムトの表現からヒントを得ながら、参加者に楽しんでもらえるワークショップを計画してみることに。

 

正解がないと戸惑ってしまう
作品鑑賞はついついキャプションの情報に頼ってしまう
社会で広く認められている価値と比べる事で自分の持つ価値観に自信が持てない…

 

造形活動に限らず日常の中でも感じられる事ではないでしょうか?
そんな方々にお届けしたい造形ワークショップとして、試行錯誤のミーティングやトライアルを重ね、当日を迎えました。

 

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では、当日の様子を報告いたしましょう!
 

2019年6月16日(日)長梅雨の貴重な晴れ間となった休日。

 

受付開始

 

案内看板を手に笑顔でお出迎え。
会場に着いた参加者から、2つのグループに分かれて座っていただきます。

 

 

グループ毎のテーブルには、クリムトの作品図版と展覧会カタログが置いてあります。開始時間まで手に取って観たり、とびラーとお話ししたり。まだまだ参加者の表情は少々固いでしょうか。

 

プログラム開始
この日の参加者は20代から60代と幅広い世代の方が11名。
「今日は、クリムトの描くかたち文様や装飾に着目して、『かたち』を見つけながら、みなさんと一緒に1つの大きな布に描きます。ここでしか味わえない体験を楽しみましょう」
ワークショップのながれの説明の後、つづいて各グループ毎に自己紹介が行われました。

 

クリムトの作品図版を使って自己紹介

 

 

自己紹介では、好きな・気になるクリムトの作品の作品図版を1人1枚選びます。
「この作品のここが好きです。」
どんな方と一緒に活動するのか、作品を通じてちょっぴり知り合う時間です。
自己紹介を終えると各グループ、二手に分かれ、クリムトの作品をみなさんで対話しながら鑑賞します。
クリムトの作品に描かれる細かいかたちも間近に見ながら、各々がどんな見方・考え方を持っているのか、そして自分はどう考えるのかを知ります。
このグループごとの鑑賞の時間は、後に続くグループで1つの作品をつくりかたちを見つけるワークの大切な道しるべにもなります。

 

作品図版で対話型鑑賞

 

ここでは「クリムトの“かたち”」を見つけます。
鑑賞ファシリテーターであるとびラー1名と、2~3名の参加者とのグループ構成です。
「かたち・色・気になる、好きなところはありますか」の問いかけから、
クリムトが描いたかたち(文様・装飾)に着目していきます。
「やはり金を使った装飾が素敵・・」
「よ~く見るとたくさんの文様が組み合わさっている」
「あら、そんな見方もあるのね」
自分1人では気づかなかった・気に留めなかったクリムトのかたち。
これからの造形ワークにどんな手掛かりを与えてくれるのでしょうか。
参加者のみなさんの表情が柔らかくなってきたところで、いよいよ「わたしのかたち」を見つけに行きます。

 

 

「クリムトの作品の中に気になったかたちはありましたか?これまではクリムトが描いた形を見つけてもらいましたが、これからは手を動かしながら、『わたしのかたち』を見つけていいきます。」

 

かたちを描いて型紙つくり

 

まずは一人一人に画用紙と木炭が用意されました。
木炭はデッサンの経験がない方には馴染みがない画材かもしれません。
さて、どんな書き心地でしょう・・

 

 

「紙の好きな場所に丸を描いてください。」
描きを終わると、
「次は線を描きます。ルールーがひとつあり、司会者が音を鳴らしている間は手を止めずに描き続けてください。」

 

 

初めての木炭、滑らかな書き心地を確かめながら描きます。

 

 

同じ形でも、ひとりひとり違う丸、自由な線・・ちょっと戸惑ってしまった時は、とびラーの声掛けで少しずつ手が進みます。
最後に描いた線をつなげて、ひとつのかたちをつくります。

 

 

これでひとり1枚の作業は終了です。
つづいて大きな紙が登場します!
「この1枚どう使うのかしら?」
B3サイズの画用紙から大きな紙へ・・参加者のみなさんはちょっとびっくり。

 

 

「大きな紙の好きな場所に自分に三角を描いてください。」
参加者は座っていた場所を離れ、好きな場所に移動しながら描きます。

 

 

B3サイズでは見られなかった大小様々な三角。ここで正解はありません。自分にとっての三角が様々な表現で描かれます。

 

 

「音を鳴らす間は描くのを止めず線をつなげて描いてみましょう」
カチカチカチカチ・・・・・・・
移動しながら、心のおもむくままに描いていきます。
大きな紙の上で、他の参加者と関わり合いながら描いていきます。
ぶつかったり重なったり交差したり・・互いの線が生き生きと交わり合います。

 


カチカチカチ。
音が鳴り終わり、ここからもうひとつわたしのかたちをつくります。
自分が描いた線と他のの参加者が描いた線がつながったり。
「この線いいね」
線と線が交わり偶然できた形の中から、気になった形を切り出します。
先に描いたB3の紙からも切り抜き、合計2枚。

 

 

切り抜いた『わたしのかたち』はこれから描く作品の型紙になります。

 

切り終わったらグループ毎に1枚の布の上に配置し、両面テープで固定します。

 

 

「ここがいいかな」「大きすぎるかな」「どちらを置いたらいいかな」
「こっちがいいね」「ここに置いてみたら」「これは動かさないで」
ひとりひとりの『わたしのかたち』。
どの様に置いたらいいか迷った時はグループの仲間やとびラーに相談します。

 

 

大胆なかたち、有機的なかたち、クリムトの作品にあった様なかたち?・・・
ひとつとして同じかたちはありません。
さて、これらはこれからどの様になるのでしょうか?次はいよいよアクリル絵の具を使って描きます。

 

アクリル絵の具でかたちを描く

 

作業台に並ぶ、不思議な道具とたっぷりの絵具。
この材料を使い、スタンピングの技法を中心に、かたちの型紙が置かれた大きな黒い布に描いていきます。

 

 

簡単な使い方のデモンストレーションが終わると、参加者は思い思いに紙パレットに絵具をたっぷり盛り付けます
「布の一番好きな場所から描き始めてみましょう」
参加者は手を動かすことにも慣れ、あっという間に布に描き始めました。
手元のパレットの絵具はいつの間にか混ざり合い、オリジナルの色で描かれて行きます。

 

 

「クリムトと言えば金色でしょ」
絵具係のとびラーにたっぷり盛り付けてもらった金色でかたちを描きます。

 

 

道具だけではなく手も使ってスタンピング。
思うかたちが描けるまで、絵具の感触を確かめながらまずは描いてみてみる。
参加者は手を休めず集中して描きます。
とびラーも一緒に描いて寄り添いながら夢中になっていきました。

 

 

「少しずつ型紙を剥がしてみましょうか」
参加者のみなさんの表情・手の動き、制作の進み具合のタイミングを見て、とびラーが声をかけます。
「おおおおお・・・」型紙を剥がし、最初につくった「わたしのかたち」が、黒く浮かび上がるたびに歓声が上がります
「イメージしていた通り」
「全く違うかたち」
「もう少し手を入れたいかな」
型紙を剥がしてみる事で、もっとこう描きたいという欲求が湧いてきました。
ちょっと離れて作品を見てみたり、また描いたり、制作に没頭する様子が伺えます。

 

 

さあ、完成です。
みんなで描いた大きな作品を展示している間に、お茶を飲みながら感想をシェアすると、率直な感想が笑みと一緒に溢れてきました。
「大きな絵を描くのは小学生以来」
「予想がつかないところが面白かった」
「他の人のスタンピングや色に影響された」
作品の展示が整い、全員での鑑賞会に移りました。

 

 

作品鑑賞
まずは、みんなで描いた大きな作品を眺めます。そして、大きな作品の中の特に好きな部分を選び、タイトルをつけてそれぞれの方が発表しました。

 

タイトル:生まれる
「ハートのかたちを中心に世界が出来ている様な気がするからです!」

 

タイトル:轍(わだち)
「わだちみたいだな・・と。沢山の人が通ったところの感じがしました」

 

タイトル:未来のニケ
「このかたちがニケに見えました。羽根のかたち・・色々なものがなくなって宇宙だけになってもここはあるみたいな感じがして・・・」

 

タイトル:ジュラ紀
「このかたちがジュラ紀からの生命の流れになって見えるからです」

 

自分で作った型紙や描いたかたち、グループの人と混ざり合ってできたかたち、いろいろな部分が選ばれました。
「ここ素敵じゃない」
「この作品とても好きです」
みなさん、お互いの「わたしのかたち」に興味津々です。

 

「ひとつの正解を探すのではなく、正解をつくる事ができる体験」
司会から伝えられたこの言葉を参加者のみなさんにも感じてもらえたのではないでしょうか。

 

 

最後に、開催中の「クリムト展ウィーンと日本1900」のご案内をして、ワークショップは解散となりました。終了後も会場では作品やメンバーと一緒の記念撮影で賑わっていました。

 

 

私たちとびラーが参加者に寄り添い、見守る中で感じた、描く集中力や初めて出会う方々との間で生まれる気づき・共につくる喜び。クリムトのかたちを互いに見つけ合う鑑賞や型紙づくり、手に取ってみたくなる画材・道具の選択、そして当日の場づくりが、今日のこの時間につながったのではないかという手応えを感じます。

 

創作することを通して美術館を体験する。言い変えればつくる事で生まれるコミュニケーション、美術館から生まれるコミュニケーションです。この造形プログラムを通じたコミュニケーションが、子供の頃に無心で何かをつくっていた時の気持ちに立ち返り、表現する事の魅力を見つけること、そして日常に戻ってからも様々なアートに親しむきっかけになって欲しいと願います。

 

さて、最後にこのワークショップに込めた「枠組みからの“解放”」について。参加者のみなさんがどのように解放を感じてくれたのか、アンケートの感想を見てみましょう。

 

◎人と一緒に描くとお互いのアイデアを「いいね」と認め合いながら、意図しなかった面白さと発見がたくさんあった。また参加したい。
◎自分のスキルなどを考えるとためらいましたが、思いのほか楽しくできたのが良かった。
◎初対面の人と1つの作品を創り上げる事が想像以上に楽しかった。
◎作品を通して感想や気づきを語り合えるのが良かった
◎家庭では出来ないダイナミックな創作ができた。
◎たくさんの絵具と思いもよらない描写道具が印象に残った
◎作業が楽しく人それぞれの印象など聞けて全てが正解
◎つくりながら人と関わるのって面白いな・・としみじみ思いました
◎色を自由に塗るたのしさ、思ってもみないかたちの面白さが印象的です
◎クリムトの絵について意見交換は他の参加者と意見が異なり発見があった
◎型紙がどの様に使われていくのか不安もあったが・・「なるほど・そういう事か」とわかったら驚きました。

 


執筆:下重 佳世(アート・コミュニケータ「とびラー」)

ふるいから落とされる事、隙間に挟まれてる事につい目が行ってしまう毎日・・・
そこにある魅力を受け入れてくれる場がアートでそこにある魅力に気づかせてくれるアートとコミュニケーション。さて、これからどの辺りとつながってみようかな?

 

【あいうえの連携】うえのウェルカムコース@伊庭靖子展(2019.8.24) 台東区立忍岡小学校放課後子供教室

2019.08.24

8月24日(土)、台東区立忍岡小学校放課後子供教室の皆さんが、夏休みの特別企画として「うえのウェルカムコース」に参加しました。うえのウェルカムコースとは、上野公園のミュージアムの楽しみ方を知る・学ぶことができる学校向けプログラムで、授業や目的に合わせた幅広い活動を行っています。小学校1年生から5年生のこども13名、保護者12名を迎えて行われたプログラム当日の様子をお伝えします。

プログラムの様⼦はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)

【実施報告】TURNさんぽ

2019.08.18

まだまだ暑い日が続いていた8月半ば。TURNフェス5期間中の8月18日にとびらプロジェクトのプログラム、「TURNさんぽ」が開催されました。

 

「TURNさんぽ」とは、障害の有無・世代・性・国籍・住環境などの違いを超えて、アーティストと福祉施設やコミュニティが交流することで表現を生み出すアートプロジェクト「TURN」、その発表の場であるTURNフェスにおいて、とびラーと参加者がアーティストの方に話を聞きながら会場内をめぐるという企画です。

 

今回は3つのグループに分かれて、計11名の参加者の皆さんと共に展示室を「さんぽ」してきました。コースは、とびラーたちがそれぞれの興味をもとに考えたものです。

 

私は今年でとびラー3年目、つまり最後の一年です。「TURNさんぽ」は私がとびラーになってからの3年間、毎年開催されていましたが、実は今年が初参加でした。

TURNフェス自体は今年で5回目の開催となっています。とびラーになってから毎年展示室に足を運んでみてはいたものの、私はいまひとつ「参加した」感を得られずにいました。

そこで、最後の一年となった今年、アーティストの方に直接お話を聞けて、しかもとびラーとしてTURNフェスに関わることができる、「さんぽ」企画に参加することにしました。

 

さて、当日。

3つのグループそれぞれのコースは

  • 飯塚貴士さん→「OTON GLASS / FabBiotope」→「未来言語」
  • 出張TURN LAND:「気まぐれ八百屋だんだん」→富塚絵美さん→岩田とも子さん
  • 岩田とも子さん→出張TURN LAND:「ハーモニー」→「アトリエ・エー」

私は①コースのファシリテーション担当です。

 

始まる少し前から展示室内でチラシを配り、参加者を募ります。

はたして、どのくらい参加者が集まるのか…

ドキドキしながら展示室入口の集合場所で待っていると、チラシを手にした多くの方々が集まって下さいました。

 

参加者の皆さんには、3つのコースが書かれたスケッチブックを見て、行きたいグループに分かれてもらいました。

結果、①コース3名、②コース3名、③コース5名で、いよいよさんぽスタートです!

 

私がファシリテーションを務めた①コースではまず、人形を使って映像作品を制作している飯塚貴士さんの展示スペースへ向かいました。

 

飯塚さんはTURNの活動として、大田区立障がい者総合サポートセンターの定着支援のひとつである福祉施設「たまりば」で収録したライフストーリーをもとに、それとは別の児童発達支援事業所「LITALICOジュニア所沢教室」に通う子どもたちと共に、登場人物の気持ちを想像しながら人形のキャラクターをつくり、映像作品を制作しました。

今回の会場でも、ここを訪れた他の来場者の気持ちが書かれたメモをもとに、キャラクター設定を考え、紙で人形をつくり、映像を撮るというワークショップが行われました。

私たちは、すでに他の来場者によってつくられたキャラクターの中から好きなものを選び、カメラの前で即興のストーリーを撮影するという形で体験させていただきました。

参加者の3名は当日が初対面でしたが、このワークショップを通して自然と会話が生まれていました。

 

続いて向かったのは「OTON GLASS / FabBiotope」の展示スペース。

「OTON GLASS」というのは、主宰の島影圭佑さんがお父様の失読症をきっかけに研究開発をした文字を読み上げてくれるメガネのこと。この研究開発をする中で「支援」ではなく「新しいものづくり」のあり方を探求して生まれたのが「FabBiotope」という構想です。

今回の展示では、「OTON GLASS」の開発過程が視覚化されていたり、メンバーの公開会議が行われたりしていました。

私たちが訪れたときは、ちょうど「OTON GLASS」開発に関する公開プレゼンテーションを行っていました。それを聞きつつ、実際の「OTON GLASS」に触ってみました。

 

最後に訪ねたのは、「未来言語」のスペース。

2018年に発足したプロジェクトの「未来言語」は、デザイナー・発明家・日本語教師など様々な領域の専門家が集まり、誰もが会話可能な「未来の」言語を模索しています。

今回のTURNフェス5では、「未来言語ワークショップ」という「見えない」「聞こえない」「話せない」という状況でのコミュニケーションを体感するカードゲームと、活字と点字を組み合わせた「Braille Neue」の作成を体験することができました。

ちょうどゲームとゲームの間の時間に展示室に着いた私たちは、「未来言語」のメンバーで「Braille Neue」の生みの親でもある高橋鴻介さんからお話を伺うことができました。

活動に関わり始めたきっかけや、活字と点字の表記の違いによる今後の課題など、興味深いお話を聞くことができました。

さらに、参加者の方からも質問が出るなど、充実した時間となりました。

これにて「TURNさんぽ」は無事終了となりましたが、参加者の中には、そのあとすぐに開催された「未来言語」のカードゲームに参加しに行った方もいらっしゃいました。

約30分の「さんぽ」では、なかなか全てを紹介しきることはできません。そのため、「さんぽ」への参加が展覧会を楽しむ入口となってくれたという点はとても嬉しいことでした。

他の2つのグループでも、アーティストさんから直接お話を聞いたり、ワークショップに参加してみたりと、参加者とアーティスト、また参加者同士のコミュニケーションが生まれたようでした。

 

今回の参加者の皆さんからは、

「アーティストの話を聞いて展示が身近に感じた」

「一人で感じたことを複数で共有できてよかった」

「もっと時間が欲しかった」

といった感想をいただきました。

 

そして始めに触れたように、私はTURNさんぽ初参加だったわけですが、ファシリテーターではあったものの、参加者の皆さんと同じく「さんぽ」したメンバーのひとりとして楽しむことができました。

 

TURNフェスに参加されているアーティストの皆さんは、質問を投げかけてみれば丁寧に答えて下さって、様々な話を聞くことが可能です。しかし、個人で展示室を訪れたときにそれができるかというと、誰もが気軽にできることではないと思います。去年までの私も、誰にも話しかけられないまま帰路についていました。

そのため「TURNさんぽ」のように、興味・関心の異なる人たちと共に複数人で展示室をまわり、アーティストさんに質問をしてみる、というプログラムは良い機会だと改めて感じました。そして、別の展覧会でも鑑賞プログラムに参加してみたり、思い切って作家さんに話しかけてみたりと、今回の「TURNさんぽ」が私を含め、参加した皆さんの次の鑑賞に新たな楽しみを加えるきっかけになればと思います。

 


執筆:小田嶋景子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラーになり、みんなで観ることの面白さを実感しています。でも、ひとりで観るのも好きですが。3年目もマイペースに活動中です!

【あいうえの連携】オープンデイ「キュッパ・チャンネル」①(2019.8.13)

2019.08.14

夏休み真っ只中の8月13日、上野公園の東京都美術館では今年度新しく生まれ変わったファミリー向けプログラム「キュッパ・チャンネル」が開催されました。
今年から新しく始まった、オープンデイ「キュッパ・チャンネル」。
たくさんのこどもたちにミュージアム・デビューを!
そして、たくさんのこどもたちがミュージアムへ何度も来ることができる(リピーターになれる)ように!という思いから、「オープンデイ」という名前になりました。
また、「キュッパ・チャンネル」という名前は、私たちが大好きな絵本『キュッパのはくぶつかん』(オーシル・カンスタ・ヨンセン作、ひだにれいこ訳、福音館書店刊)に由来しています。ものを集めるのが大好きな”キュッパ”のように、いろいろなものにアンテナを張って、好きなものを、見つけて集めてみることができる、スペシャルな1日となっています。集めたものを使って何かを作ったり、考えたり、そして最後には自分の考えたことや感じたことをみんなに”発信”しよう!ということで、「チャンネル」という名前をつけました。

当日は、初めて「ミュージアム・スタート・パック」(以下、MSパック)を受け取る「デビュー・プログラム」と、すでにMSパックを持っている人が参加できる「リピーター・プログラム」、そしてその両方が参加できる5回連続のプログラム「ムービー部」の3つのプログラムが開催されていました。

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【あいうえの連携】うえのウェルカムコース@伊庭靖子展(2019.08.07)飯能市立飯能第一中学校 美術部

2019.08.07

2019年8月7日(水)、学校向けプログラム「うえのウェルカムコース」に飯能市立飯能第一中学校 美術部の生徒たちが参加しました。1~3年生の計14名は夏休み中の部活動の一環として来館。東京都美術館で開催中(〜10月9日)の企画展『伊庭靖子展 まなざしのあわい』を鑑賞しました。

東京都美術館のアートスタディルームで生徒たちを迎えるのは8名のアート・コミュニケータ(愛称:とびラー)。今日の活動を共にする冒険のパートナーです。とびラーは親でも先生でもないフラットな立場の大人として、生徒たちと関わり学びあいます。活動全体を通して生徒たちの発見や気づきに耳を傾け、対話を通した作品鑑賞の伴走をします。

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【あいうえの連携】うえのウェルカムコース@伊庭靖子展(2019.7.31)私立ドルトン東京学園

2019.07.31

2019年7月25日(水)私立ドルトン東京学園の中学生21名と教員2名が学校向けプログラム「うえのウェルカムコース」に参加しました。東京都美術館で現在開催中の(〜10月9日)企画展「伊庭靖子展 まなざしのあわい」を鑑賞しました。開館してすぐの美術館の入り口で集合した子どもたちを、7名のアート・コミュニケータ(とびラー)とスタッフで迎えました。

プログラムの様⼦はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)

鑑賞実践講座①|「アートを誰かと一緒にみる力の幅を広げ、アートや文化の共有の仕方を多面的に考える」

2019.07.08

鑑賞実践講座・第1回
「アートを誰かと一緒にみる力の幅を広げ、アートや文化の共有の仕方を多面的に考える」
日時|2019年7月8日(月)13:30~16:30
場所|東京都美術館アートスタディルーム
講師|稲庭彩和子さん(東京都美術館学芸員 アート・コミュニケーション係長)


2019年度の鑑賞実践講座がスタートしました。
第1回目は、東京都美術館の稲庭彩和子さんのレクチャーを中心に、作品や映像を鑑賞しながら、意見交換をする形で進んでいきました。
日常のコミュニケーションとは違う「アートを介したコミュニケーション」の回路とは?文化財・作品を「鑑賞」するとはどういうことか?アート・コミュニケータのあり方の核となる「鑑賞」について、学んでいきます。

冒頭、稲庭さんから、これからの美術館の役割が語られました。

「多様な文化や価値観が肯定的に扱われ、それを鑑賞する(Appreciate/正しく受け取る)ことができる場としての美術館。そこでは鑑賞するための積極的なコミュニケーションを通して共同的に学び合う場がある。そういう未来を目指していきたいと思っています」

そして、今年の鑑賞実践講座の目標を発表します。

<2019年度 鑑賞実践講座の目標>
「アートを誰かと一緒にみる力の幅を広げ、アートや文化の共有の仕方を多面的に考える」
⑴見る力をつける
⑵場づくりの基本を知る
⑶アート・コミュニケータのあり方への理解を深める

⑴見る力をつける

視覚を使って物事を捉えることの幅を広げるには、ある程度のエクササイズが必要になります。佐伯胖さんという認知心理学者のテキストを紹介し、作品を鑑賞する見方に「Appreciation」と「Evaluation」という方法があると、稲庭さんは説明します。

「Appreciationは主観を大切に見ていく見方、Evaluationは批評的に分析して見ていく見方です。美術館のキャプションはEvaluation的な見方で書かれていることが多いです。どちらもバランスをとって見ていくことで鑑賞が深まっていきます」

読書をする時、読み終わって「面白かった!」と感じるだけでなく、じっくりと分析的に“精読”する方法があるように、作品を見る時にも、深く味わったり、読み解くように見ていくことができます。その方法を一度学ぶと、自分でも作品を深く楽しんでいくことができるようになります。

では、どのように作品を“精読”することが可能なのでしょうか。まずは、作品がどのような“要素”から成り立っているのか、複数の人の目で見て考えるワークを行いました。

 

<この作品にどんな“要素”があるか、考えてみてください>
ー どんな“要素”があるか…?

 

聞きなれない質問を問いかけられ、一斉にとびラーの頭の上に「?」が浮かびます。
作品の上に視線が注がれ、次第にみんなの口が開き始めました。
「全体が雲に囲まれているなと思いました」

 

稲庭さんが、意見を受け取ります。

 

「はい。雲に囲まれている。ここに描かれている“状況設定”についての意見ですね」

 

その意見を皮切りに、作品の中で“起こっていること”や、“どんな物に何で描かれた作品か”など、様々な視点・要素が語られました。その意見を稲庭さんが【それは作品のどの要素か】という視点で分類していきます。

 

<作品の要素>
「たくさんの人が遊んでいてぶつかりそう」→【状況設定】
「羽子板大会」→【テーマ】
「全員着物を着ている」→【描かれている人物の服装】
「何でできているか、描かれているか」→【画材】
「おそらく日本」→【国】
「色あせている感じ。これは屏風?掛け軸?」→【支持体】
「俯瞰した視点で描かれている」【作品が描かれた視点・画角】
「赤いモチーフが多い」→【色彩】
「作者が自分が描きたいと思ったのか、それとも依頼されたものか」→【作品が生み出された背景】

 

作品の中には、描かれたものやストーリー、画材や構図、作者の意図などの“要素”が幾重にも重層的に含み込まれています。どんな要素に気づくかは人それぞれ違い、その視点のバリエーションが、複数の人で作品を見ることの面白さにもつながります。また、他の人と鑑賞をすることで自分以外の人の視点にきづき、主観と客観を分けて見ていくことができるようになります。


⑵場づくりの基本を知る

 

目標の2つ目に紹介された「鑑賞」のための場づくりについて、

 

「安心と集中が大切です」

 

と稲庭さんは言います。

 

「作品の中に入っていくということは、気持ちが「開いている」状態でないとできないことです。自分を守りたいという心理状態、「閉じている」状態では、「appreciationの波に乗る」ことができません」

 

この講座の中でとびラーは、ともに鑑賞する人々が気持ちを開いて集中している状態になれる鑑賞の場づくりについて学びます。

 


⑶アート・コミュニケータのあり方への理解を深める

この講座では、VTS(Visual Thinking Strategies)の考え方も学びながら「見る力」を身につけることを目指します。どんな人と、どんな場所で共に作品を見るのか。それぞれの鑑賞の「場」を作っていくことも重要です。この二つを学ぶことを通して、「とびらプロジェクト」の考え方やミッション、「こんな方向性でみんなでやっていこう」という哲学やあり方を理解していくことを目指します。

 

 


<実際の映像を見て考える>

講座の後半では、子どもたちが作品を鑑賞することを通して、コミュニケーションをしたり、自分の考えを創造していく、実際に行われたプログラムの映像を観て意見交換を行いました。
とびラーからは、

 
「一緒に鑑賞していく人同士の関係性が大事になってきそう」

 
「鑑賞とは何か。経験によって精度が上がるように思う」

 
「今までは作品を“消費”していた。実物を目にすることで満足していた。AppreciationもEvaluationも現時点で自分には足りていないかも」

 
「子どもたちが、作品に出会いつつも“作品に出会う自分自身”にもう一度出会い直しているということが動画を通してわかった」

 

などの感想が発表され、稲庭さんとのセッションが行われました。

 

 
「作品を鑑賞すること」について考えることで、アート・コミュニケータとしてのあり方を学ぶ1年間の講座。講座の中、そして実践の場を通してとびラーもスタッフも一緒に学んでいければと思います。

 

(東京藝術大学美術学部 特任助手 越川さくら)

基礎講座⑥ | 活動の舞台を知る

2019.06.22

基礎講座の最終回となる第6回のテーマは、「活動の舞台を知る」。
とびラーの活動の舞台である上野公園の文化施設や、社会の中の様々な人と美術館のつながりについて学びます。

講師は、とびらプロジェクトのアドバイザーでもあるアーツカウンシル東京の森司さん。そして、東京藝術大学教授の日比野克彦さんも中継で出演します。

冒頭は、伊藤さんから導入のお話です。

様々な場所で人と作品をつなぐ役割をしている開扉したとびラーの例をあげながら、アート・コミュニケータの役割と活動の場について考えます。

【午前】
午前中は、日比野さんの中継と、森さんから社会におけるアートの役割についてお話です。

日比野さんは、Diversity on the Arts Project (DOOR)のメンバーとともに福島のJヴィレッジからの中継です。

日比野さんの後ろには、色あざやかなマッチフラッグが見えます。

東日本大震災の影響により閉鎖されていたサッカーナショナルトレーニングセンターのJヴィレッジは、今年4月に全面再開を果たしました。
この日は、U-18東南アジア選抜(ASEAN ELEVEN)対 東北選抜の国際親善試合「JapaFunCup(ジャパファンカップ)」が行われ、開幕式にマッチフラッグが登場します。

マッチフラッグは、サッカーの試合を行う国々の国旗イメージを合わせて作るオリジナルの応援フラッグです。
日比野さんは、2010年よりこのプロジェクトを継続実施しています。

震災復興のシンボルとなったこのスタジアムから、日比野さんは「午後のワークで上野公園の各館・各所をめぐるとき、東北の玄関口としての上野・アジアのつながりとしての日本という場所や、自然への畏怖の念を忘れないことなどをキーワードにしてほしい」ととびラーに投げかけました。

続いては、元水戸芸術館の学芸員で、現在はアーツカウンシル東京の事業推進室事業調整課長の森さんから「社会における美術館の新たな役割」についてのお話です。

森さんは自己紹介のあと、建築家の佐藤慎也さんが書かれた美術手帖(電子版)の記事「シリーズ:これからの美術館を考える(7)『第四世代の美術館』の可能性」を映し出しました。

この記事の中で佐藤さんは、建築家の磯崎新さんによる「美術館の3 つの世代論」を引用しています。

磯崎さんの論によると、美術館は

①第一世代:ルーブル美術館のような、王侯貴族の私的コレクションを公開するための装飾ゆたかな空間
②第二世代:白い展示壁面を持った、ホワイトキューブと呼ばれる均質な空間
③第三世代:作品と建築が一体となったサイト・スペシフィックな美術館やリノベーションによる美術館

の3世代に分けられるとしています。

佐藤さんは、この磯崎さんの論をもとに「第四世代の美術館」を考えました。
これまでの美術館はものを展示するための空間でしたが、これからの美術館は「人が含みこまれた作品のための美術館」を意識することで、大きく開かれるのではないかという提案です。

森さんは、佐藤さんが示す「第四世代の美術館」ととびらプロジェクトの活動を重ね合わせ、人を中心に見た文化施設としてのあり方(ヒューマンインターフェース)について考えを促します。

第三世代の次にどのような美術館が現れるかという議論の分岐点は、作品を主語で見るのか、そこの美術館に関わる人で見るのかということによって分かれていくだろう、と森さんは読み解いています。

さらに森さんは「ニューヨーク公立図書館」というドキュメンタリー映画を紹介しました。
この映画は、単に本を読む場所というだけではなく、まだ図書館に出会ったことのない人が豊かな経験をしていくための「開かれた図書館」としての活動や工夫を描いています。
美術館の中におけるとびラーの活動を、よりゆたかに、しなやかにしていくためのヒントになるのではないかと話しました。

次は森さんのお話に稲庭さんが加わり、これからの美術館の可能性についての対談です。

稲庭さんは、森さんの「第四世代の美術館」の話につなげ、とびらプロジェクトの活動がいくつもの美術館に参照され始めていることを示しました。
札幌文化芸術交流センターSCARTSや、これから始まる岐阜県美術館などでは、アート・コミュニケータの活動が始まっています。
また、八戸の新美術館に設置される「ジャイアントルーム」というパブリック・スペースは、多様な活動を行うことができる展示室より広い空間です。
このジャイアントルームの構造には、とびらプロジェクトの活動が大きく影響を与えているそうです。

稲庭さんは、とびラーは従来のボランティアのような作品鑑賞をサポートしてくれる人ではなく、美術館に来たさまざまな人と一緒にカルチャーを作っていく人だといいます。
美術館に訪れる人の体験の質と多様性を保証し、それぞれの特性がある方に、豊かな経験をしてもらうチャンスと場を用意するサポートを行う人、それがとびラーではないかと森さんはいいます。

とびらプロジェクトが大事にしているカルチャーをどのように全国に展開させていくかを考えなければいけないと、森さんと稲庭さんは話しました。

2人の対談に伊藤さんが加わり、全6回の基礎講座を終えたとびラーたちの質問に答える時間です。

とびラーは3人組になり、基礎講座を受けて感じたとびらプロジェクトについての疑問を共有し合います。

全体共有の発表の中では、
①本業と、とびらプロジェクトで得た問題意識を、社会や行政にどのように伝えて行けば良いか?
②本業をとびらプロジェクトの活動に含めていくことは可能か?

③アート・コミュニケータを知るための基礎講座を受けても、一人一人が同じ認識とは限らない。ボランティアという認識があってもよいのでは?
④アートと言えば美術というイメージが強いが、音楽を用いたアートコミュニケーションのあり方を提案したい!

など、様々なバックグラウンドを持つとびラーたちの「とびらプロジェクトと社会をどのようにつなげていくべきか?」という、熱意のこもった質問があがっていました。

これらの質問に対し、森さん・稲庭さん・伊藤さんからは

①どういう言い方をすれば伝わるか、というトライアンドエラーを繰り返す。言葉を尽くし、まわりの人に説明する場と機会を作る。(稲庭)
②とびらプロジェクトはそれぞれの経験値が生きる場。人と人との化学反応でこのプロジェクトは成り立っているので、本業とどんどん結びつけてほしい。(伊藤)
③「この場所を使って自分はどういう活動をしているのか」ということを、自分の言葉で話せるようになってほしい。(森)
④とびラボの第一号はとびら楽団だった。美術や音楽という先入観にとらわれず、みんなで話し合って様々な価値を受け入れた活動をしてほしい。(伊藤)

などの回答がありました。

==========
【午後】
お昼を挟んで午後からは、上野公園でオススメの宝物を見つけ、それぞれが上野の地域SNSアプリ「PIAZZA(ピアッツァ)」に投稿するというワークを行います。

お題は、「上野公園で見つけた!わたしのオススメの宝物」です。

上野公園に行く前に、5人組を作り、マップを手にそれぞれが気になる場所を確認し合います。

昼食を終えたとびラーは、それぞれオススメの宝物を探しに向かいます。

小雨が降っていましたが、公園内のものの中でお気に入りを探したり、文化施設に入るなど、それぞれ思い思いの場所で写真を撮っていました。

上野公園から帰ってきたとびラーは、PIAZZAに写真一枚と100字以内のコメントを投稿します。
どのような「お気に入りの宝物」が投稿されるのでしょうか・・・?

投稿を終えたとびラーたちは5人組に戻り、見つけたものを紹介し合う「show & tell」を行います。

とびラーは各自、携帯の画像を片手に「オススメの宝物」をグループのメンバーに説明します。

PIAZZAに投稿された画像を介して、「こういうのもあったよね」「へー、すてき」「あー!そういうことか」など、様々なコミュニケーションが生まれています。

画像を共有する場所があることで、他の人が撮った写真も振り返ることができます。

マップを活用し、位置関係を確認しながら紹介するグループもありました。

5人組の共有のあとは、グループ内でどのような「オススメの宝物」があったかを発表します。

「科学博物館で昔の思い出にひたった」「台湾フェスに行きエネルギッシュなパワーを感じてきた」など、文化施設の展示や、アジアと日本のつながりに注目した人もいます。

「同じ時間に同じエリアに行ったのに、全く違うところを見ていたのが面白かった」という意見もありました。

それぞれが撮ってきたものに共通するテーマを発見したグループや、SNSで「映える」写真を撮ったというグループもありました。

PIAZZAの投稿です。

PIAZZAに投稿された内容は、今後何度も見ることができます。
自分以外の人がどのような「オススメの宝物」を見つけたか、たくさんの発見がありました。
また、複数の人のまなざしが共有されることにより、これから実践の場となっていく上野公園をもっとよく知ることができたワークでした。

日比野さんの中継によって上野・日本・アジアのつながりを意識し、森さんや稲庭さんのお話によって人に開かれた美術館のあり方ととびラーの活動を考えました。

==========

講座の最後に、とびらプロジェクトと連動する「Museum Startあいうえの」の活動紹介がありました。

「Museum Start あいうえの」は、上野公園にある9つの文化施設と連携した、子どもと大人がアートや文化に出会い、楽しむことを応援するプロジェクトです。
とびラーには、2019年度のパンフレットとミュージアム・スタート・パックが配布され、プログラムの理念や具体的な活動内容についての説明がありました。

まず、2014年に行われた「ティーンズ学芸員」の動画を見ます。

ティーンズ学芸員は、上野公園にあるミュージアムをめぐり、学芸員やとびラーと一緒に作品を鑑賞する10回連続のプログラムです。

子どもたちは、オーディオガイドを作ることを通して、人と感想を共有することの面白さや、考えをシェアしていく方法を学んでいきます。
動画の中では、参加者の子どもたちととびラー、芸大生や東大生など様々な世代の人々が作品を通して関わりあう様子が映し出されました。

稲庭さんは、Museum Start あいうえので一番やりたいことは「作品を介して社会とつながること」だと言います。

「誰かが伝えたいと思って残されてきた作品は、すでに社会的な存在。それを見たり、語ったり、注目していくことは、そこに主体的に参画すること。作品を鑑賞し対話することは、作品を介してひとつの大きな文化につながり、わたしたちの世界をどのようにとらえるのかということを考える機会になる。」

Museum Start あいうえのでは、とびラーは一般的な解説員やトーカーではなく、子どもたちの声に耳を傾ける伴走者になります。そして、プログラムを通して大人と子どもが9つの文化施設を舞台に共に学び合います。

東京都美術館を起点にした学びの共同体は、上野公園の様々な場所、そしてそこから同心円的に広がる実社会・日常へと、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を広げていくことができるのではないでしょうか。

今回の講座は、上野公園で発見したものを共有・発信するという活動によって、実践の場としての両プロジェクトを意識できた基礎講座最終回となりました。

(とびらプロジェクト・Museum Startあいうえの アシスタント 原 千夏)

基礎講座⑤|会議が変われば社会が変わる

2019.06.08

とびラボなど、とびラーが活動をつくっていく過程で行う「ミーティング」。よいコミュニケーションを育んでいくためには、このミーティング(会議)のあり方が大切です。今回は「会議が変われば社会が変わる」をテーマに、参加者が主体的に関わることができる「よいミーティング」をつくるための手法を学んでいきます。

講師にお迎えするのは、青木将幸さん。
ミーティングファシリテーターとして様々な地域、団体の会議の場で活躍されています。その種類は国際会議から家族会議まで幅広く、あらゆる種類の話し合いの場を研究しながら、進行役として全国を飛び回っていらっしゃいます。

 

「今日は決め切った進行はしません。みなさんとのやりとりの中で進めていきます。いつでも質問・発言歓迎です。気になったことがあったら言ってください。」
自己紹介とともに、柔らかな進行で講座がスタートします。

<午前>

早速冒頭から質疑応答の時間です。

「これからミーティングについて学んでいくにあたって、今聞いておきたいことは?」

とびラーからいくつかの質問がでてきます。

 

・青木さんがミーティングファシリテータを志したのはなぜ?
「学生時代の環境問題に関わる活動で経験した様々な話し合いの場は、相手を言い負かせたり、バトルのようなことが多くありました。ですがそれだと仲間が離れていってしまったんです。根本的な間違えがあることに気付き、ミーティングの手法についてを学びにアメリカ行きました。アメリカはプロのファシリーテーターがいるほどその文化が発展していて、よいミーティングのためのやり方や作法があることを知りました。」

 

・ひとりで会議もできちゃうとおっしゃっていましたが、具体的にはどうやって?
「だれでもこの場にいない人でよいので、好きな人を思い浮かべてください。有名人や歴史上の人物まで召喚できますね、そんなことができたら面白いでしょ? ポイントは、その人だったらなんと言うかなと想像してみることです。その場にいないユーザーの声に耳を傾けること。例えば、子どものための何かを考える時に、その会議には大人しかいない時、人形を置いて、時々その人形に話させてみたり(笑)。会議の場にいない人のことを考えるのは、重要な手法の一つです。」

 

・参加者から意見や質問が出なかったらどうしたらよい?
「沈黙は進行役にとって不安な時間。ミーティングを勉強する上での僕のお師匠さんが、沈黙のことについてこういう話をしてくれました。クジラをイメージしてみます。クジラは深く潜って餌を捕らえたり、呼吸をするために海面にあらわれたりします。潜っている時間は、海底に美味しいものなのか、宝箱なのか、何かを取りに行って、こんなのあったよっていうのを見せに来てくれるまでの時間です。同じように、沈黙もその人が大事な物を取りに行っている時間と考えてみてください。ファシリテーターは沈黙を待てるように訓練します。待てないのはこっちの気の焦りなんですよね。沈黙を、クジラが宝箱を取りに行っている時間とと考えてみてください。何秒、何分待っても全く問題ないと思います。よいミーティングをやる要素として、待つということも一つの作法です。」

 

 

・ファシリテーターにはどんな準備が必要?
「ファシリテーターはあまりその議題にについての情報を持ちすぎない方がよいです。思ってもいない展開がある方がよくて、なるべく白い状態で臨み、その会議に参加している人たちに意見や情報をだしてもらうようにしています。」

 

・会議と雑談の違いってなんでしょう?
「オフィシャルに議題や時間と場所が決まっているのが会議、その周辺にある合間のコミュニケーションが雑談だと思います。どちらもあって、トータルでコミュニケーションがとれているのがいいですよね。補い合う関係、どちらも大事ですね。」

 

他にも、板書でのイラストの活用についてなど、たくさんの質問が出ました。

 

 

■グッドミーティングの定義を考える

これからのとびラー同士のミーティングを行っていく上で、どんなミーティングが「よい」ミーティングなのか、ファシリテーターだけではなく参加者みなが知っておくのはとても大事なことです。

続いて、「グッドミーティングの定義を考える」ワークの時間にうつります。

 

「自分が思うよい・わるい会議ってどんな会議?」のイメージを書き出してみます。
用紙の左半分に「グッドミーティング」、もう半分には「バッドミーティング」。
まずはまずは個人で、れぞれの要素を10個ずつ書き出してみます。

 

書き出したら、今度は3人組でそれぞれが書き出した内容を共有します。互いの思う「よい」はもしかしたら異なるかもしれません。

共有の際には、3人とも合意できるものには印をつけていきます。
様々な意見が出るミーティングにおいて、この合意を確認する作業はその会議の決定事項を明らかにすることにつながります。

 

今度は、各グループで合意した「よいミーティング」のイメージを青木さんが聞いていきます。

フラットな意見が出し合える、わかりやすいコトバで話す、時間どおりにおわる、目的がはっきりしている、新しいアイディアを認め合える、お菓子・お茶がある…?!など、各グループから全て違う意見が出てきます。よい会議のための要素は、こんなにも多くあることがよくわかりました。

 

ここからお昼休憩の時間ですが、その前に「グッドミーティングの定義を考える」ためのワークをもうひとつ。

 

「この中でとびラーのミーティングで大事なのはこれ!というものに投票してみましょう。お一人に4枚赤い丸シールを渡すので、休憩中に自分はこれが大事だと思うもの4つに1枚ずつ投票しておいてください。」

<午後>

シール投票と昼休憩を終え、講座を再開します。シール投票の結果をみてみると、どの要素に票が集まったのかが一目でわかります。
午後はこれを題材にしながら、さらにどうやったらみんなが思うグッドミーティングに近づくことができるのかを考えていきます。

 

その前に、再び質疑応答の時間です。

 

・ファシリテーターと司会者はどのように違うのでしょうか?今ここで学んでいるファシリテーターと、社会一般的な司会者の違いはなんなのでしょうか?
「司会というは会を司ると書きますね。会議が始まりから終わりまでの進行を司るわけです。ファシリテーターも同じですが、参加型の要素が強いものがファシリテーターといいます。芸人の話になりますが、長く息をしている芸人というのは、司会者としてとても優れていたりします。お笑いでも、音楽番組でも司会をやってます。自分の芸ではなく、ひな壇にいる芸人たちの面白さを引き出していくから、枯渇しない、そして面白い番組として成立するんですね。優れた司会者であり、ファシリテーターであると思います。」

 

・今日冒頭にアメリカの話題がありましたが、例えば日本人とアメリカ人くらい文化の違う人が同じ会議に参加している場合に、どういうことに気をつけたらよいのでしょう。
「先ほどあげてもらったグッドミーティングの要素の中に『それぞれの人の意見が尊重される』とありましたが、特に文化や風習の違いがあるときには、その双方を尊重する立場に立つことが大事です。フラットに意見を出し合える立場に立つことが、ファシリテーターのような中間的な位置の人の役割。違えが違うほど、尊重しようというスイッチを深めに入れることを大事にしています。」

 

 

●「いいねぇ会議」

 

シール投票の結果でもっとも票が多かったのがこの2つの要素。
・フラットな意見が出し合える
・新しいアイディアを認め合える
これらを使った、ワークをしていきます。その名も「いいねぇ会議」。

 

ルールは、他の人が言った意見に対して必ず「いいねぇ」と反応し、加えて、「こんなのもどう?」と自分の提案を足して返します。

どんな突拍子のないこと、自分の関心と違うことも一旦置いておいて、ながれをとめずに「いいねぇ」で会議を続けています。

4人組のグループごとにやってみます。部屋中が一気に盛り上がり、宇宙旅行に行ってしまうところまで…

 

私たちは日常のコミュニケーションの中で、的外れなものや、実現可能性の低そうな発言があったりすると、つい「でもそれは…」などと、相手を否定する言葉から入ってしまうことがあります。これは会議の中にも多くあるそう。

 

「ミーティングでの発言の中で、的確・まともな意見というのは最初から出てくるものではありません。最初は植物の苗木・双葉のように弱々しいものだったたとしても、その芽を摘んでしまうのではなく、『いいねぇ』と言ってくれることで、少し成長することができます。それはいつか大木になるアイディアの種かもしれません。できれば、プラスアルファの提案を乗せて、成長の可能性をさらにひらくことができるといいですね。会議の場でちょっと違うなという意見が出た時、ぜひ『いいねぇ』と言ってみてください。状況が変わるはずです。」

 

この「いいねぇ会議」、ミーティングの前に3分だけでもやってみると、場が柔らかくなり、この場は何かを言っても大丈夫だという安心感が生まれる、いいアイスブレイクになるそうです。

 

シール投票の結果、次に票が入っていたのがこの2つ。
・納得感、共通認識を持って終える
・成果がなんだったのかがわかる

これらを実現させるために良い方法は

「みんなの意見を書く」ことだそう。みんなの意見を書くと、共通認識が作られやすくなり、成果も見やすい状況になります。

 

●発言を板書する

板書をする際のポイントは、
・全ての意見をより好みをせずに書く。
・なるべく当人の言葉で書く。
こと。的外れな意見だと思ったとしても、また声の大小に関係なく、全ての意見を平等に扱います。また、なるべく当人の言葉で書くのは、言葉を置き換えてしまうことでニュアンスが変わってしまうことがあるからです。

 

●個人で書いてから集団で話し合う
また、会議のやり方として、 個人で書いてから集団で話し合う方法があります。今日も前半に「グッドミーティング」「バッドミーティング」のイメージをA4の用紙に書き出してもらいました。議題に対していきなり意見を言うことが難しい時に、例えば、「3分書いてみましょう」と時間をとってみる。
どんなに普段意見を言わない人でも、手元には書いてくれます。書いたものを発表してくださいと言うと、全員が発言できます。会議で発言の強い人や経験値の豊富な人が一番最初に発言してしまい、それに影響を受けてしまうことがあります。その前にまず個人が何を思っているのかを書き出してみるよいです。

 

話し合いの練習
個人で書いてから集団で話し合う練習をやってみます。
「今から出す質問に答えてください。マジックで手元の紙に大きく書いてください。」

書けたら、全員で見せ合いながら部屋の中を歩き回り、出会った人とコミュニケーションをとっていきます。

(1)みなさんの好物はなんですか?

続いて2つ目の質問。

(2)実は私〇〇やってました。〇〇が得意です。

同じように部屋を歩き回りながらコミュニケーションをとりますが、今度は「もっと聞きたいな」「同じ特技!」「よくわからなけどきになる」など、気の合う人と4人組をつくります。

今度は4人のグループで、それぞれの特技を生かしたプロジェクトをひとつ作ってみます。

目的のために集まったメンバーではなく、そこに集まった人の特技で、これまでとは違う画期的な新しい商品ができた、そんな事例があったそうです。

 

「ミーティングで大事なのは、お互いの得意なことを活かし合うことです。用紙に書き出すことで、それぞれが得意なことがチームに見えている状態で話し合いを進めることができます。」

4月に出会ったばかりの、まだ知らないお互いの特技や一面。それぞれの持ち味を活かした面白いプロジェクトが沢山発表され、笑いが飛び交います。このようにミーティングが明るい場であることも大切です。

 

■会議の構造

ここまでに試した様々な手法をミーティングの中で効果的に使っていくために、その構造をみていきます。

ミーティング(会議)には、4つの段階があるそうです。

①「共有」
会議のテーマや目的を確認・決める時間です。

②「拡散」
自由にアイディアや意見を数多く出し、拡げる時間です。講座内でも行った「いいねぇ会議」の方法はこの部分にあたります。

③「混沌」
様々に意見が出たアイディアを、「ではどうする?」と議論する段階です。アイディアの分類、選択肢の整理・比較検討などを行い、次の収束の段階につなげていきます。

④「収束」
結論や合意点を確認。実現可能性も考えながら、最後に具体的な行動プランを決めます。

 

会議を進行する人だけでなく、参加者皆が、「今自分たちはどの段階にいるか」を意識することで、それぞれの段階での工夫を取り込むことができます。
その後、いくつか質問ができました。

 

・進行をする人もいち参加者だった場合に、発言はしても大丈夫?
「もちろん発言は大丈夫です。しかし、主張の強さに気をつける必要があります。他の参加者と同じように、対等でいるために、イメージとして、4人の参加者だったら4分の一くらいのエネルギーで発言するのがよいですね。」

 

・「混沌」したまま時間切れになることも多いですが、どうやって「収束」の段階に入ればよいですか?
「それぞれの段階にどのくらいの時間をかけるのか、あらかじめ決めておくとよいです。加えて、タイムキーパーや板書係などの役割があると、進行役は安心して会議を進めることができます。
また、2度に分けるとより豊かにアイディアが出たりします。今日は拡散までにして、結論まで決めなくてよいとすると、気持ちが楽ですね。」

 

他にも、座ってばかりでなく、立ち上がったり、場所を変えたり、動きを取り入れることも、視点が変わったり広がったりすることに効果的だそうです。

講座も残すことろ30分。最後に、今日の学びを活かして、会議を練習してみます。

「今日いる皆さんとちょっとお話してみたいこと」を全員から募集。

手元の用紙に書き出してみて、ミーティングのテーマとして提案したい人が前に並びます。

 

・美術館で静かにしなきゃと思って息がつまるのをどうにかしたい!
・よい作品ってなに?
・どうすれば、今日学んだことを実践できるのか
・あと30分で何を学びたいか
・梅雨の楽しみ方
・全員となかなか会えない中で、どうしたら仲良くなれるか?
・やりたいとびラボは?
・これからの博物館について
などのテーマが集まりました。

 

関心のあるテーマに集まり、会議の練習のスタートです。


役割分担、板書、時間配分など、どのチームも学んだ手法を早速実践しています。

会議が盛り上がってきたところで、今回の講座は終了です。
30分でどの段階まで進めることができたでしょうか。
実際にやってみることで、時間配分や板書の仕方、発言の出し方など、その感覚を少しでも掴めたのではいかと思います。

 

今後のとびラー同士のミーティングにおいて、今日学んだこと、そして8期のみなさんが思い描いた「グッドミーティング」の実践が、
豊かな活動のベースになっていくことを願っています。

 

(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)

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