東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

「多重するリアリティ ― 存在と認知が触れるところ」藝大生インタビュー2025|彫刻科 学部4年・関楓矢さん

2026.01.21

12月初日の晴れた上野・東京藝術大学彫刻棟。天井の高いアトリエから木を彫る音が響き、関楓矢さんが木の香り漂う制作現場で迎えてくれました。

1.卒業制作について


– この作品はどのようなものですか?


卒業制作は、男女の立像と獣(けもの)がいて、三体の一部がつながっている木彫を作っており、それぞれのパーツが組み替えられる作品を制作しています。頭、腕、足、胴体、尻尾が組み替えられるので、とても数えきれないほど、沢山の組み合わせがあります。獣の体に人物の頭を組み合わせたり、尻尾の部分に腕が付いていたりしても面白いかなと思います。

– 組み替え可能な構造はどのようにして着想されたのですか?


昨年2024年の冬、唐招提寺の千手観音が修理のためにいくつものパーツに分解されている写真を見る機会があり、構造が露わになっている姿に衝撃を受けました。同時に、もし仮に数本の手の位置が入れ替わっていたり、または欠損していても観る側にはわからないのではないかとも思いました。実際、本来は1000本あったと考えられている手も、現存するのは953本だそうです。像と参拝者あるいは鑑賞者との関係性を考えると、みかけが変わっていても、ある意味成立してしまうのではないかと思い、その感覚を作品に取り入れました。

関さんが感銘を受けた分解された千手観音の写真

– 何通りにも見せられるということですか?


はい。ひとつの彫刻の中に様々な実像のあり方があり、いろいろなパーツを組み替えることで見え方が変わるということを表したいと思いました。また、大学生活の中で、生活環境や内面の変化を抱えながら生活しているのですが、周りから見たらそれは見えない。外から見たら内面とは違う自分が見えているというギャップを表すことも考えにありました。形を変えることで感じることが変わってくる、だけどそれが正しいかは分からない。そういう部分を観せられたら良いなと思っています。

– この作品があることで空間に緊張感がありますね。

嬉しいです。組み変えるということは形態の変化にとどまらず、そのたびに周囲の空間にも影響します。いわば、多層的な空間表現を目指しているというところです。それは、彫刻表現を通じて並立する世界線を示唆するようなものだとも思っています。その作用のあり方を、常に考えています。


– 素材はクスノキなのですね。


クスノキは彫刻材としてはオーソドックスな木です。卒業制作にあたり、様々な木を試しましたが、試行錯誤でクスノキに戻ってきました。


– 卒業・修了作品展(以下、卒展)では展示期間中にパーツの組み換えなどするのでしょうか?


パフォーマンスとして組み替えているさまを見せるという手段や、写真作品を展示することで組み替えができる構造や状況を表すアイデアもあります。パフォーマンスや組み替えについては各所と交渉中です。結果次第では、また違う観せ方を検討します。ある程度彫り終えたら、着彩もしようと思っているので、印象がかなり変わるかもしれません。タイトルもいろいろ案があるのですが、まだ決まっていません。楽しみにしていてください。

2. 原点と出会いについて

– 彫刻を始めたきっかけは何ですか?


美術系の高校に通っていたことがきっかけです。はじめは直感的でしたが、学び進めていく中で次第に没頭していきました。木彫に触れる機会もあり、靴を彫ったのを覚えています。

– 素材が木ということで、うっかり必要なところを落としてしまうなど、制作中の苦労はありますか?

パーツの結合部位が特に繊細で、破損させてしまったこともあり「やってしまった」という感じにはなりますが、比較的それを前向きに捉えているので、あまりストレスに考えたことはないですね。作品について再考する機会が生まれると思っています。

– 制作中の喜びはどんなときに感じますか?

像が立ち上がった時の喜びは大きいです。制作が進むにつれて作品に対してどんどん実感が湧いてきます。最初は平面のドローイングだったのが行程が進むごとに、自分のイメージが空間にでき、実態となっていき、そこで初対面というか「こんにちは」と作品と出会うのが一番の喜びです。

– 今までの制作作品の中にも今回の作品に通じるものがあるのですか?

一貫して、虎あるいは獣のようなモチーフを引用して制作をしてきましたが、分解ができるスタイルの作品は学部2年生(2023年)の11月くらいからです。この時はスカジャンに縫われた顔虎(ガントラ)と呼ばれる刺繍に着想を得て、阿吽の構成となっている作品を制作しました。昨年2024年には今回の形式と少し通ずるような、分解できて組み換えできる木彫作品を制作して今に至ります。

2024年の分解組み換えできる作品

3. 制作の過程について


– どのようなものを作品の糧としてインプットされていますか?


今、すぐに思い浮かぶものとしては、スマホの待ち受けにしている新宿御苑の木が一本あります。桜が満開の時期に見たのですが、この木は、葉も花もないのにイキイキとしている気がしました。すでに朽ち始めているようにも見える、名前もわからない小柄な木でしたが、とにかくかっこいいなと思い、忘れられない印象を持ちました。

僕はいろんなものからインスピレーションを得て、アイデアがとっちらかってしまうところがあるのです。いろいろなものからあれもいい、これもいいなと思ってしまう。それをいかに集約して作品としてどうみせるかを意識しています。時に、彫刻は多義的な恒久性を併せ持つ側面があるかと思いますが、この分解できる作品は、そのこととの抗いの表現で生まれたとも思っています。

スマホの待ち受け画像の新宿御苑の木をみせてもらう

– 卒展を意識したのはいつ頃からですか?


千手観音の手が展開されている写真を見たのが去年学部3年生の時で、その頃から意識しました。今のプランになったのは今年の3月くらいです。それ以前はこんな姿になるとは思ってもいなかったし、自分の制作技法が木彫になるとも思っていませんでした。木彫以外の制作もやっていましたが、主題を反映する際に何が素材として最適か考えた時に木彫だと徐々に決まっていきました。
頭に浮かんだ瞬間は、これだ!と思いましたが、リサーチを重ねるごとに違うなと思うことも何度もあり、制作が始まってからもプランは変わっていきました。

最初のプランのエスキース(下絵)では男女が居て、獣が居て首輪でつながっている感じでした。身体を隠すようなわからなさを全面に出していましたが、構想が進むごとにビジュアルを変え、首輪をなくし、足元も最初はつながっていませんでしたが、全体が繋がっている方がいいなとなり形は変化していきました。

最初のプランでは男女の身体が隠され獣は首輪で繋がっていた(スケッチブック右ページ)

構想が進んでからの男女の下絵は足の形があらわになる

– 下絵から立体にする過程では、粘土などで模型を作っているのですか?

固まらない油粘土で形を探りながらマケット(模型)を作ります。完成サイズを大体想定して縮小率も考えています。この段階はなるべく自分がイメージできる範囲内の手のひらサイズのものを作ります。その後は、乾くとある程度固くなる水粘土で形が変えられないものをスケールを大きくして作ります。
マケットを作っている時に、身体が完全に全部くっついていたプランから気持ちが変わっていって、どんどん分解できる箇所を増やし、全部取り外して組み替えたいと思うようになりました。

「ボロボロですが」と言いながら油粘土の模型を見せてくれました

– 使うクスノキはもともと大きな丸太だったのですね。


そうです。使ったのは大きいもので直径1mほど、長さは2m10cmくらいだったと思います。およそ5本の木から使うパーツごとに切り出しました。男女、獣もすべて交換できるパーツ間ごとに、腕は腕、頭は頭の木から、といった感じで使用する丸太を統一して作り上げています。

– 木目も意識して切り出しているのですか?


ある程度予測は立てられますが、実際に木目がどう出てくるかは彫ってみないとわかりません。虫喰いや節などもそうです。人物の膝のところにちょうど木の節が出てしまったのですが、それもいいなと思ってそこに獣のしっぽの先を持っていこうと思いました。

人物の足に現れた木の節の色の濃い部分と獣のしっぽの先が合うようになっている

– 道具のノミがピカピカに研がれていますがどのように手入れをしていますか?


大学1年生の時に木彫実習があり、研ぎや道具の手入れを習いましたが、自分のモノになるのはまだまだです。研ぎのタイミングは彫られたノミの跡に現れる木の様子を見て決めています。切れ味が良いとノミ跡もささくれなくきれいに出ます。今は30本くらいのノミや彫刻刀を使っていて、家にあるものを合わせると100本弱持っています。手入れをきちんとすれば一生ものだと思っています。

アトリエ内の関さんのノミ

4. 将来のことなどについて


– どんな子ども時代でしたか?


家族がスポーツ一家で僕もバスケットボールをやっていました。その傍らで絵を描くことも好きで漫画やアニメの模写、風景など何でも描いていました。年末年始に親戚で集まる時も絵を描いていました。また、蜜蝋粘土で遊ぶのが好きで、レゴブロックでの遊びも盛んにやっていました。生まれ持った病で、定期的に通院や入退院をしていた頃もかなり長くありましたが、全てが支えになっていましたね。
5歳くらいの時にお絵描き教室も通っていたのですが、机の足を遠近法を使って描くように言われたことに反抗して「僕はそういうふうには描きたくない」と、足を全部開いた形で描いていたのを覚えています。あまり長続きしませんでしたけど、良い思い出です。

– 趣味は何ですか?


いろいろあります。継続してバスケットボールをやっています。最近では、料理や野球観戦を楽しんでいます。料理は、青椒肉絲が得意でその流れでおいしいものを食べるのも好きですし、いろいろなところに散歩に出かけることもよくあります。

– 将来のことはどのように考えていますか?


直近では大学院への進学を考えています。将来的には表現活動を続けていきたいと思っていて、おそらく彫刻は自分の礎になると思います。彫刻領域から美術を考えた時に指針となるものをより確かにしたいと思っています。
遠い将来のことはあまり考えておらず、正直なところまだ決まっていないので、試行錯誤しながら、その時の自分の中の衝動を大事にして生きていきたいと思っています。

取材/執筆:杉山佳世、村上剛英、寺岡久美子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
撮影:神道朝子

通称《ドラ妃》。この“ドラ”は大好きなドラゴン、トラ、ドラ猫の略。とびラーの活動以外にも、神奈川県立音楽堂建築ガイド、横浜美術館でのボランティアとしても活動中。横浜・イギリス館「朗読、チェロ・ピアノの会」開催。関さん自身・作品から無限の世界を感じ柔軟性を学びました(杉山佳世)

年だけは取っているのですが、まだまだ知らないことばかり。世の中に興味の種は尽きません。歴史、妖怪、アニメ好き。関さんの作品を一目見て、「バンパイヤ」や「人狼」の変身シーンがありありと浮かんできました(村上剛英)


普段は情報通信系の企業で働いています。美術館へ行くのが好きですが、とびラー活動でアートに関わる機会が増えてワクワクしています。組み替えられる関さんの彫刻は、見ている側に多様な想像力を湧き起こさせ、様々な可能性を感じました(寺岡久美子)

「ふとした日常の一瞬を絵に閉じ込めたい」藝大生インタビュー2025|デザイン科 学部4年・mightさん

2026.01.21

色づいた銀杏の葉の黄色が晴れ渡った青い空に映える 2025年11月下旬、東京藝術大学(以下、藝大)上野校美術学部を訪れました。絵の具の匂いや制作の音がする中、柔らかな優しい印象のmightさんがにこやかに迎えてくれました。6畳くらいのスペースには油彩画とアクリル画の作品(この時にあったのは8作品でこれから倍くらいに増える予定)が壁面だけでなく、床に置かれていたり、家を形どった木枠の中に吊られていました。その中には楽器と椅子が置いてあり、それをフェンス越しにみるという、空間全体で作品を体感できるような展示になっていて、インタビュー前からお話を伺うのが楽しみになってきました。

色々な位置に絵を配置して、空間全体で作品を体感できるような展示

– 藝大を目指したきっかけは何でしたか。


小さい頃から絵を描くのが好きで、美術好きの祖父母がよく上野の美術館へ連れて来てくれました。私は静岡出身なのですが、上野の空気感やその中に大学があることに惹かれて、小学生の頃から「藝大に行けたらいいな」と思っていました。また親もよく芸術に触れさせてくれたのでその影響も大きいと思います。小さい頃に見て覚えている絵は、ひとつあげるとすれば印象派の絵です。具体的に描いていないのに光や風景がこんな風に表現できるんだ!と感動したのを覚えています。その感覚が、風景や人や物に惹かれる理由のひとつかもしれません。


– 卒業制作について教えてください。


卒業制作の試作段階では、カセットブック(歌詞に挿絵が添えられており、ブックカバーも含めて、音楽と絵を一緒に味わえるアート作品)を制作していましたが、卒業・修了作品展(以下、卒展)では手元でみるような小さな作品ではなく、作品をその迫力も含めて体感してもらいたいという想いがあり、今年の9月頃に完成形が見えてきました。そこから空間全体を通して感じとれる展示形式へと今の形に近づいています。ただ、これはまだ制作途中で、卒展のときには音楽も聴けるようにする予定です。

カセットブックという形式の音楽と絵を一緒に楽しめるアート作品


元々音楽が好きで、高校卒業後からイラストレーターとしてミュージックビデオやジャケットを担当していたこともあり、音楽にずっと支えられてきた分、自分の絵で今度は音楽を支えられる活動をしたいと考えていました。絵と音楽との新しい関わりも模索していた頃、大学3年次の課題の際、友人のシンガーソングライターに絵の前で歌ってもらうという試みをしました。それをきっかけにご縁ができて一緒に暮らしながら制作したらどうなるのだろうと、1ヶ月間の共同生活をしながら、彼女は音楽を、私は絵の制作をするという体験をしました。


– なかなかできない経験ですね。


これから先、このようなことはできないだろうなという貴重さを感じながら暮らしました。ほぼ毎日、朝起きて、食べて、制作することの繰り返しで1ヶ月でお互いに20作品ぐらい制作しました。ただただ夢のような時間でした。とにかく時間がたっぷりあるので、生まれ育ちのことや制作のこと、お互いの共通点や逆に相違点を知ったり。それぞれに長い間別々の人生を歩んできてもすごく通じ合うものがあって、彼女が見てきた風景を私が想像して描いたりすると、これこれ!というようなことがあったり。その経験から別々の道を歩んできてもお互いに通じる共通の感覚があり、そのありふれた日常が人と人を繋げるのだと感じました。そのような経験をしたからにはぜひ卒業制作に活かしたいと思い、卒展のために暮らしたわけではなかったのですが、今回の制作にも繋がっています。


– 何か新たな気づきはありましたか。


この生活を通して、積み重なっていて表には出てくることは少ないけれども確かにある記憶で私たちはすでに溢れてるんだなという感覚をもちました。そのことに希望を感じたので「私たちは溢れている」をテーマに制作しています。時には、私には何もないかもしれないと不安になることもありますが、本当はもうたくさん持っているんだということを彼女の曲づくりを見て振り返ることができました。卒展では彼女が以前に録りためた下書きの曲も聴けるようにします。それを元に描いた絵も一緒に体感してもらうことで「全部があって今に繋がっている」ということを伝えられたらいいなと思っています。

卒展では絵の元となった音楽を聴きながら、鑑賞できるようにする

– 曲を元に描いたということですが、具体的にどの作品をどのように描いたのですか。


彼女の作った楽曲を元にその下書きも含めて20曲分ほどの歌詞を読み込み、言葉を書き留めて、どんな風景が見えていたんだろうと想像しながら、私が見てきた風景、撮り溜めてきた写真と重ね制作しました。左側のバス停がある作品は地元の田舎の景色で、右側の鉄橋のある作品は上京するときに新幹線から見えた景色です。その曲の持つ、不安もあるけど背中を押してくれる感じを絵にも表現しました。1曲ができるまでに積み重なった言葉も大切に拾い上げて、作品に仕上げたいです。

たくさんの歌詞や書き溜めた言葉も作品のインスピレーションになっている

– 色々なところに作品が配置されていますが、どのような意図があるのですか。


レイアウトはインスタレーション全体の手前が「現在」、奥が「過去」を表すレイヤー構造にしています。家の形の木枠の中には、心の内を表しているのではないかと感じる曲を元に描いた作品を窓の位置に吊るしたり、屋上や校舎、桜など高校生の頃(過去)を思い出すような歌詞を読んで想像した風景は「過去」を表す奥に配置しています。

フェンス越しに心の中をそっと覗き込むような体験にしたい


卒展では外側のフェンスから内には立ち入れないようにして、私や、シンガーソングライターの彼女が普段出していない部分を覗きみるような体験にしたいと思っています。心の中にある風景を絵にしているので、鑑賞者はあえて遠くからみる位置関係にした方が展示の意図が伝わると考えています。


– 作品の中の光や瑞々しさが印象的です。


光を“描こう”というよりはいいなと思って撮ったり描いたりすると自然と光になる、という感じかもしれません。気分が明るくなる風景やモチーフが好きなので、光や瑞々しさを表せたらいいと思っています。女の子がレモンを持っている作品もモデルは同年代の友達で、10代、20代の年齢にある瑞々しさも重なっているから、そのような印象になるのかもしれません。これから私自身が歳を重ねていく中で、どのような絵を描くようになるのだろうという変化も楽しみにしています。

光を描こうというより感覚的にいいなと思って描くと、自然と光になる


– ここにある作品は油彩画のようですが、表現するときのこだわりはありますか。


小さい頃はクレヨンなどアナログで描いていて、同時にデジタル画面の中で描くことも身近だったので区別していませんでした。デジタルは主にモニター越しで見てもらう作品に使いますが、今回はせっかく来場者の方に作品を実際に見てもらう機会でもあるので、生の筆跡や絵の具の厚みといった質感まで届けたいと思い、油絵とアクリルを使って描いています。


– どの作品も一瞬を捉えている感じがして、学生時代の記憶が蘇ってきます。

嬉しいです。自分のテーマとして「日常のふとした瞬間」というのがあります。私自身平凡な日常の中で見てきた町や通学路の景色が好きで、東京でも地元を思い出す瞬間があります。絵を眺めて、思いを馳せたり記憶や気持ちが蘇ったりする、それが絵を見る良さだと思うし、なくなってしまった場所や人も絵の中に存在し続ける。ありふれた日々にも、確かに積み重なった一瞬があって、それがいつか自分を支えてくれると思っています。


– 最近ハッとしたことはありますか。


先日卒業制作の指導教授からの講評会があり、その時に友達の作品を見たのですが、みんなそれぞれの思いや好きなものを抱えて作っているのが作品からあふれていて、そういう環境にいられるのがすごく幸せだなと思って、めちゃくちゃハッとしました(笑)。デザイン科といってもこれをデザインしなさいということもなく本当に自由にやらせてもらえるので、みんなの「好き」が溢れてみえてきて、それでいいんだなと。好きなことに夢中なのはこんなにも眩しくて強い存在になるんだと改めて感じました。卒展まであと1ヶ月ちょっとですが、改めて頑張ろうとみんなの作品を見て背中を押されました。

– 時間があるときは何をしていますか。


今日着ているベストも自分で作ったのですが、もの作り全般が好きです。お菓子作り、料理、アクセサリー作り、とにかく作ることが大好きで、材料が山のように部屋にあります。大学に入学してからも作風はどんどん変化しているのですが、今後はアクセサリーや洋服、大好きな音楽ともの作りのコラボレーションなど、幅広く挑戦してみたいと思っています。ただ誰かに届けるにはまだまだだと思っているので、納得できるものができるようになったらお見せしたいです。


– 音楽が欠かせないとのことですが、音楽のジャンルにこだわりはありますか。


何でも聴きますが、日本語で日常を歌った曲を聴くと風景が浮かび、絵がさらに描ける気がして好きです。言葉は絵にはない要素で繊細にイメージを伝える力があると感じています。私は静止した絵より、少しの時間の幅を一瞬に閉じ込める絵を描きたいと思っていて、それは音楽と重なる感覚です。「この曲を聞くとあの景色を思い出す」というような力に憧れているので、音楽を体感できるような絵を描きたいですし、匂いや風などの感覚を自分の意思で絵にのせたいと思っています。記憶を思い出しながら描く行為そのものが、私にとってリラックスする時間でもあり楽しさでもあります。


– 見ている人に何を届けたいですか?

絵を描くときもすべてが選択の積み重ねで、生きてきたことと同じ、人生の経験と似ているところにすごく興味があります。悲しいことなど負の出来事があっても、それも含めて今の自分なので、全部を受け入れたいという気持ちがあります。みんなにそう思ってほしいというよりは、同じように考えている人の気持ちが少しでも楽になるような作品をこれからも作っていきたいなというのが今の目標です。


– 藝大での学生生活について教えてください。

みんなが何かを作っているという環境は本当に特別で、高校生までは味わえなかった感覚です。友人と専門的な相談も気軽にできて、深い話ができることが本当に楽しいです。例えるなら“文化祭前夜”のような感じで、みんなで何かをより良くしようと動いている。それは非日常のようでいて、でも毎日そこにある日常でもあり、本当に貴重な4年間でした。

– これからのことを聞かせてください。


これからは高校生の頃から続けているイラストレーター兼アーティストとしての経験も活かしながら、さらに自由に制作していきたいと思っています。初めて制作活動で社会に出るという不安もありますが、今までの経験を糧に活動を広げていくことが楽しみでもあります。この卒業制作を通して、みんな違う人生を歩んできたからこそ、自然とそれぞれ違うものができるのだという考え方にすごく支えられていますし、忘れないようにしようと思っています。これからも経験や記憶を丁寧に積み重ねながら、歳を重ねたときも面白いと感じられるといいな、作り続けられたらいいなと思っています。

取材・執筆:井戸智子・柴田麻記(アート・コミュニケータ「とびラー」)

普段は主婦、たまに絵本作家の活動をしています。mightさんの描く、何気ない日常の一瞬に勇気をもらいました。卒展もこれからの活動も楽しみにしています。(井戸智子)

愉快な高校生と小学生と過ごす主婦。優しい雰囲気のmightさん。「描くことは生きること」という凛とした希望を感じました。これからも生み出されていく作品に出会うのが楽しみです。(柴田麻記)

「手を動かして生きていたい ー截金(きりかね)と仏画に心を寄せる修了制作の舞台裏ー」藝大生インタビュー2025|文化財保存学専攻 修士2年・堀内七海さん

2026.01.19

上野公園の木々が色づく11月中旬、東京藝術大学(以下、藝大)構内の赤レンガ2号館へ文化財保存学専攻 保存修復日本画研究室 修士2年の堀内七海さんを訪ねました。笑顔で玄関まで出迎えてくれた堀内さんと共に階段を上り、靴を脱いで、堀内さんが制作に使う作業場に入りました。そこで私たちを待っていたのは、金色の阿弥陀さまの絵と、白黒の同じ阿弥陀さまの絵でした。


穏やかな笑顔で迎えてくれた堀内さん

◆堀内さんの修了制作について聞きました。

– 修了制作について教えてください。

「阿弥陀三尊来迎図(あみださんぞんらいごうず)」という、藝大所蔵の鎌倉時代の仏画の模写に取り組んでいます。一心に念仏を唱える人々の前に、金色の阿弥陀さまが現れる様子を描いたものです。


「阿弥陀三尊来迎図」(鎌倉時代/藝大美術館蔵)を模写した制作中の修了制作(左)と、修了制作のために原寸大写真から図像を写し取った白黒の線描(右)。どちらも堀内さんの手によるもの

– どうしてこの作品を題材に選んだのでしょうか。

学部生として学んだ愛知県立芸術大学で、仏画や仏像の着衣の装飾文様などを描くのに使われる「截金(きりかね)」という技法を知り、学外の教室にも通って学ぶうちに失われつつある職人的な技に魅了されました。
文化財保存学を学ぶため進学した藝大大学院では、截金の第一人者である並木秀俊先生の特別講義がありました。藝大の文化財保存学専攻では1年生の5月頃に修了制作の題材を決めるのですが、この作品は截金が多く使われていて、截金を極めるにはとても良い作品だと思いました。

– 卒業・修了作品展(以下、卒展)で見てもらいたいポイントはどこですか。

着衣の文様を描く截金は一番頑張ったところなので、ぜひ皆さんに見てもらいたいです。阿弥陀さまの着衣の文様は、截金の長さや太さを調整しながら、隙間を埋めるように貼っていきます。私が一番好きなところは花模様のところです。見ていても楽しいですし、貼っていく作業も楽しいです。裾の部分の卍紋や渦を巻いたような雷紋はとても細かく、見るのは楽しいのですが作業はちょっと大変です。全てを描き終わるのは12月末になりそうです。これからは手を付けていない部分の文様の作業と、掛軸に仕立てる作業を進めなければならず、卒展まで残り2か月でぐっと進めていきたいです。


花模様や雷紋など、着衣の細かい文様まで写し取った白黒の作品の細部


金泥を塗った着衣の上に截金で文様を描いていく

もう一つ見てもらいたいのは、絵の右下の部分、お寺のお堂のような場所にいる人々です。この部分は彩色が剥落して下書きの墨線が見え、ずいぶんと太い線で描いていることが分かります。
ここに描かれている人たちが、この掛軸を描いてくれと依頼したのではないかと言われています。お寺での仏事で飾り、念仏を唱えながら自分が極楽へ往生することをイメージしていたのではないかと。彼らの表情は柔らかくて安らかで、ちょっと可愛らしい描かれ方をしているなあと思うところでもあります。
また、この作品は金泥(きんでい)を塗った上に截金で文様を入れているのですごく金色に輝いています。描いている時、「こんなに光り輝いている仏さまが自分が死ぬ時に迎えに来てくれたらちょっとすごいな」「人生に満足出来るんじゃないかな」と思うことがあります(笑)。


絵の右下にはお寺のお堂で一心に念仏を唱える人々が描かれている

– 堀内さんはどのような思いを込めて作品を制作していますか。

絵が描かれたその当時に思いを馳せるというか、鎌倉時代を生きた人々がどれだけ仏さまに救いを求めていたのかや、作者がどれだけ熱意を持ってこの仏画に向き合っていたのかということを想像せずにはいられません。
また、私自身保存修復の研究室に所属しているため、自分が描いたこの模写の作品が長く残るにはどうしたら良いのだろうということも考えながら制作していました。実物の作品の截金は剥落が少なく、とても美しい状態です。どういう工夫があって今まで美しさを保てたのか、その状態でこの絵を残すにはどういう技法を用いれば良いのかということを常に考えながら制作に取り組んでいます。
保存修復の作業は単なる作業ではなく、作品と向き合う時間そのものが大切だと感じています。

◆白黒の作品と金色の作品それぞれについて聞きました。

– まず、この白黒の作品はどういったものでしょうか。

実物の作品を原寸大に写し取ったもので、「上げ写し(あげうつし)」と呼ばれる工程です。
原寸大に印刷した実物の写真の上に薄い紙を重ね、紙をめくって目に焼き付けた残像を戻した紙にすばやく描く、ということを繰り返して忠実に再現していきます。

実物の作品を目の前にして模写する「臨写(りんしゃ)」という貴重な機会が2回あります。模写では最初仏さまの肌を一本の線で描いていたのですが、臨写でじっくり見てみると何本かの薄い線を重ね、最後に強い線で締めるように描かれていると分かりました。そうした描き方が仏さまの柔らかくも、ハリのある皮膚の質感や立体感に繋がっています。
臨写の時に「色合わせカード」も作ります。どの部分にどんな色が使われていたかを記録したもので、その後の制作ではカードを頼りに作品に色を入れていきます。


色調ごとに作成した色合わせカードを頼りに彩色を進めていく

上げ写しの工程は、修士1年生の時にほぼ1年かけて終え、修士2年生から、彩色に移りました。これから細かい着衣の装飾文様を截金で描いていくことになります。

– 金色の作品に使われている截金について詳しく教えてください。

截金は薄い金箔を3枚から4枚焼き合わせて少し厚みを持たせたものを細く切って、仏画などの表面に貼り付けて文様を描く技法です。


截金に使う3枚から4枚重ね合わせた金箔

今回の作品は鎌倉時代のものです。長年お寺にあったものなので線香の煤が付くなど経年変化しており、制作時のピカピカのままではありません。現状模写ではそうした変化による質感をそのまま再現するため、使う金箔もあえて線香で燻したり、煤をつけたりして古さを表現しています。
金箔を細く裁断するために「竹刀(ちくとう)」という道具を使います。截金は太い主線と細かい文様の線では、それぞれ太さを変える必要があります。この作品では細いもので0.2~0.3ミリ、太いもので1ミリまで描線の太さに合わせて竹刀で切断します。

◆実際に截金の作業を見せてくれました。

堀内さんは金箔の上に竹刀を当て、金箔を幅1ミリにも満たない細い短冊状に切断。一同、思わず感嘆の声を上げる。

– このとても細い金箔を手で貼り付けるのですか。

筆先の細い筆を2本使って貼り付けます。一方の筆に水分を含ませ穂先に金箔を取り、もう片方の筆で糊となる「膠(にかわ、動物の皮や骨に含まれるコラーゲンを抽出して作られる天然の接着剤)」と「ふのり(膠が固まりづらくなる海藻から出来た接着剤)」を調合した液体を画布に引き、その上に箔を置いて貼っていきます。途中で金箔が切れてしまう時もありますが、その時はそこから続けて貼っていけば大丈夫です。

◆これまでの歩みについて聞きました。

– 文化財保存学を学ぼうと思ったきっかけはなんですか。

高校卒業後に浪人をしていた時期に、自分の将来についてじっくり考える時間がありました。絵を描くこと、特に植物を描くことが好きで、日本画は植物を描くことが多いので日本画専攻を選びました。日本画の制作を通して美術への理解を深める中で、美術館や博物館で文化財を保存修復する人たちがいることを知り、「私がなりたいのはこれかもしれない」と思いました。
美術館や博物館で目にする昔のものは、誰かの手で大切に守られ受け継がれてきたものです。その人たちのおかげで、現在の私自身はもちろん、後世を生きる人たちも見ることが出来るんだということ、時を超えた人の繋がりみたいなものにじんわりと感動します。作品を後世に長く残していくには、こうした人の感動があってのこと。バトンを繋ぐ一人として文化財保存に取り組んでいきたいと思います。

◆これからについて聞きました。

– 今後はどんな道に進むつもりですか。

卒業後は修復工房に就職が決まりました。仏画などの修復に携わる予定です。掛け軸の修復に関わる全ての工程を一人で出来るようになるには、10年以上かかると言われています。最初は糊や紙のような修復の材料を準備するなどの修行的な作業から始まる長い道のりですが、全てが勉強だと思ってやっていきたいです。
やはり「手を動かして生きていたい」という気持ちが強いです。コツコツと手を動かす作業、ひとつの技術を究める職人的な仕事にこだわりや憧れがあります。私にとって保存修復はまさにそのものだと感じています。

– 堀内さんはご自身で日本画を描いておられ、学部生時代には院展(日本画を中心とした公募展覧会)での入選歴もあります。今後のご自身の制作活動についてはどう考えていますか。

日本画を描くことはこれからも続けていきたいです。やっぱり絵を描くことが好きなので、感動した風景や好きな植物などを描き留めていきたい。
日本画制作と保存修復は、私の中ではすごく繋がっています。自然や植物が好きで、それらを描いてきたことは、そういうものを好きと思える感性を養っていたと思います。保存修復でも「この表現ってすごいな」「どうやって描いたんだろう」と考えます。描いていた経験があるからこそ、見えてくる感動があると思います。
また、保存修復で養われた知識や気持ちが、自分の絵にも生きてくると思います。例えば、紙の種類や絵の具の選び方など、今まで知らなかったことを保存修復の研究室では沢山学びました。素材の背景や歴史を知ることで、自分の表現の幅が広がりました。これからも、自分のペースで日本画の制作を続けていけたらと思っています。

◆終始穏やかな口調で丁寧に作品や保存修復、ご自身について話された堀内さん。インタビューがおおかた終わり、ホッとした表情になったところでインタビューの感想を聞いてみました。

– インタビューを終えての感想は?

緊張して言語化することが難しかったです。修了制作の完成までまだまだやることは沢山ありますが、最後まで丁寧に仕上げていきたいです。

取材/執筆 高原一大 日比野花 古川実利(アートコミュニケータ「とびラー」)
写真 竹石楓(美術学部絵画科日本画専攻4年)

日比野花:14期とびラーの日比野花です。大学では学芸員課程を履修しています。大学の学びと、とびラーの経験、純粋に芸術が好きな気持ちを基に、芸術に関わっていきたいです。

高原一大:アート大好き、美術館大好きで、日本全国を巡っています。とびラーとして、今は鑑賞者同士で感想や気づきを共有する「対話型鑑賞」の習得に励んでいます。

古川実利:中途失聴の難聴者として、とびラーとして活動しながらアートとコミュニケーションについて考え続けています。今回のインタビューでは音声認識アプリを通して堀内さんのお話を伺い、その経験自体が貴重でした。

「半透明ー完全に透明でも完全に閉ざされてもいない領域」藝大生インタビュー2025|GAP 修士2年・Stiniguta Melanie(スティニグタ・メラニー)さん

2026.01.18

JR常磐線 取手駅からバスで15分ほどのところにある広大な東京藝術大学(以下、藝大)取手キャンパス。インタビューを行なった11月下旬は並木道の紅葉が美しく、青空の広がる穏やかな温かい日でした。大学構内で飼育されているヤギ達がのどかに草を喰むのを見ながら待っていると、藝大大学院であるGlobal Art Practice(グローバルアートプラクティス、以下GAP)の修士課程2年生のStiniguta Melanieさん(以下Melanieさん)が迎えにきてくださり、GAP生のスタジオにご案内いただきました。
(以下のインタビューは英語で行われ、取材したとびラーで翻訳・編集しました)

– まず、Melanieさんご自身についてお聞かせください。


私はブルガリア人の母とルーマニア人の父の下、オランダで生まれ、様々な文化や言語に囲まれて育ちました。オランダで通った大学もインターナショナルスクールで、クラスメートは世界中から集まっていました。それが私の作品に確実に影響を与えていますし、もちろん今、海外で生活していることも影響しています。


オランダの大学ではFine Art(ファインアート、美術系学科)を専攻として学びました。もともとは油絵を描いていましたが、大学1年の終わりにはコンセプチュアルな作品作りに転向しました。そして、大学3年生の時、交換留学で名古屋で学ぶ機会があり、それがきっかけで日本のアート分野に興味を持つようになりました。名古屋では油絵、日本画や陶芸について学んだのですが、素材や実践に重点を置いていてとても新鮮な経験でした。特に日本画では、自分で顔料を作ったり紙を漉いたりする方法も学んだのですが、芸術の背景にあるコンセプトやアイデアに重点を置いて学ぶオランダの大学では絶対にやらないことでした。


こうして私は西洋の概念的な部分と東洋の実践的な部分、両方の良さを知ることができました。そして、日本でも概念的な部分をもっと探求したいと思い始めた頃、GAPを見つけました。世界中から集まる人々と交流し、アートに対する考えや見解を共有できるこのプログラムは完璧だと思いました。実際、GAPには日本人で留学経験のある人もいれば、セーシェル、香港、中国、韓国出身の学生もいます。こうした文化的背景の違いだけでなく、ダンサーやパフォーマーもいれば、デジタル分野で活動する人やキュレーターもいるなど芸術的背景の点でも多様性が高いですし、皆さんは本当に親切で、先生方やアシスタントの方々も、とても協力的で優しいです。


ここに来るためのお金を貯めるのに本当に頑張りました。オランダの病院で3年間栄養士をし、並行して画廊で働いたり、高校生にコンセプチャル・アートを教えたり、シンクロナイズドスイミングのコーチをしたり。実際に来られるかどうかわからなかったけど、チャンスに賭けてがんばり、希望が叶いました。


ただ、朝から晩まで忙しく働いていたので、留学前に日本語を勉強する時間がありませんでした。日本にいながらも日本語が話せないことに罪悪感を抱いていましたが、同時に、言葉が通じない場所にいるのは非常に興味深い経験でもあります。言葉が通じなければ、人はコミュニケーションを取るために別の方法を見つけなければならないからです。私の作品の多くはそこからインスピレーションを得ています。

– GAPに入られてからの作品について教えてください。

日本に来てから生まれた問い ” Is it everything you wanted?(それがあなたが望むすべてですか?)” を半透明の紙に印刷して透明なフレームに挟み、藝大キャンパスの建物内の色々な場所に置きました。もともとは個人的な実験として始めたんです。この作品は実際には複数のレイヤーで構成されています。テキストの各行は重なった紙によって徐々に覆われていき、下の行にいくほど半透明性が低くなり、読み取りにくくなっています。そのため「Is it」 の部分が最もはっきりと見え、「wanted?」 に近づくにつれて不明瞭になります。これは、何かを強く望んで手を伸ばすほど、その対象がかえって遠ざかっていくように感じられる感覚を表現しています。


”半透明”という概念にもとても興味がありました。自分を共有することはできるけれど、全てをさらけ出す必要はない。完全に透明ではなく、透けて見える状態は、ある意味で自分自身を正直に表現する方法として、共感できる概念だったんです。

そして、GAPのある建物の照明がとても素敵だと気づき、そこからインスピレーションを得て、問いを挟んだフレームを、毎週違う場所に移動させました。見る場所や見る時間によって問いの持つ意味が変わったり、暗くなると文字はほとんど見えなくなるので、読めなかったりもします。

私が創作で最も重視しているのは、観る人が作品に参加する余地を残すことです。私はオランダの大学に入学した時点では油絵画家を目指していたのですが、大学1年生の時に行き詰まってしまい、絵を描けなくなってしまいました。その時、先生が「君は絵に近づきすぎている、作品と観る人の間にスペースを設けなくてはいけない」とおっしゃったんです。これが自分にとって大きな転機になりました。それ以降、私自身の経験や思考、感情を取り入れて作品を作りつつも、それを見た人がその人独自の物語を構築できる形で提示する。これを大切にしています。

あちこちにフレームを移動することを続ける中で、予想外のフィードバックをもらいました。私の作品だと気づいた人たちがご自身の考えた答えをテキストメッセージで私に送ってきてくれたんです。この作品から生まれた幸運なアクシデントでした。

私は問いを投げかけるけど、見た人は頭の中で答えるだけで、私には決してわからないものだと思っていました。それが、答えが返ってきたんです。これがすごく楽しかったので、この経験をもとに、昨年の取手藝祭(取手キャンパスで行われる学祭)では他の問いも制作してキャンパス内にあちこち配置しました。また、自分の考えや感情について匿名で回答を書けるスペースを設けました。投稿する箱はプラスチックの透明な箱で、封筒は半透明なので中身が透けて見えたりもします。たくさんの人が投函してくれました。

作業スペースに保管されている取手藝祭で展示した作品を見せてくれました

– 1月に行われる藝大の卒業・修了作品展(以下、修了展)では、どのような作品を予定しているのですか?


修了展では、体験型の展示を考えています。以前、藝大の教職員や学生の方々に私の作品を体験してもらって、直接フィードバックをもらうワークショップ形式の展示をしたのですが、それを発展させた作品を予定しています。そのワークショップをぜひ体験してみてください。


まずは、壁に貼られた12枚の写真をみてください。
次に、字幕のような英語の短文を印刷した透明のシートをお渡ししますので、書かれた言葉を読んで、選んだ写真の上に一枚ずつ重ねてください。
学内で試した時には、写真の上に短文のシートを重ねた後に、感じたことを話してもらったりしました。
次は、英語の書かれたシートを外し、同じ写真の上に、日本語で書かれた短文が印刷された透明のシートを重ねてください。同じ写真でも、英語の言葉のシートを重ねる時と日本語のシートを重ねる時では違う味わいがあると思います。

– 実際にやってみると、写真だけみるのと言葉を組み合わせるのとでは、違った見え方がしますね。

言葉が重なることで、自分の過去の記憶や感情が浮かび上がってきました。そして他の人が組み合わせた結果も味わい深いですし、英語と日本語という言葉の違いでも感じ方が違うのが面白いですね。

最後は、写真の上に、ブルガリア語やオランダ語で書いた短文を印刷した透明のシートを重ねてください。私にはわかるけれど周さんや加藤さんにはわからないという状態です。私は日本語がわからないので、お二人には私が日本語と写真の組み合わせを見ている時に感じていることと同じことを体感していただくことになります。

日本語、英語、ブルガリア語、オランダ語など、色々な言語が透明シートに印刷されている

– この作品はどのように着想したんですか?


取手藝祭の後も、文字や短文などのテキストや言語を使った作品を創作したいと思っていました。担当の先生が「日本にいるんだから日本語でやってみたら?」と提案してくれたんです。最初は乗り気ではありませんでした。最初の作品で使った問いは、私自身の正直な感情から生まれたものだったので、英語で書くのが自然だったからです。


でも、先生の提案を受け、日本語で作品を作ったらどうなるか、どんな結果になるだろうかと考え始めました。広告や看板など、道を歩けば私の周りには、様々な日本語が溢れているけれど、私には理解できない。だから、私が見るのとそれを見て理解できる日本の人とは違った経験をしているわけです。それを作品に取り込むことにしました。また、画像を見て感じることに文字や短文などのテキストがどう影響するかを知りたかったんです。こうしてこの作品が生まれました。

先程述べたようにワークショップを実施したのですが、 ワークショップ体験者の反応そのものがとても良く、強い印象を残すものであり、 そして、美術館では来館者が積極的に関わったり触ってもいい作品の展示はとても珍しいので、 そういう場所で来館者がこの作品にどう関わるのかを知りたくなりました。

修了展では、私自身が常に作品のそばにいて来場者と対話することができないため、 基本的な形式はそのままに「説明用の動画」を用意するなどの小さな工夫を加え、説明がなくても来場者が自分自身で作品を体験できる形へと発展させることにしました。

– 使用される写真やテキストはどのように選んでいるんですか。


写真は、この作品のために撮ったものではなく、自分のスマホの写真アルバムから選んだものです。日本、オランダ、ブルガリアなどいろんな場所で撮ったもので、私が見た世界のスナップショットです。使用したテキストの多くは、友達から送られてきたメッセージや友達との会話そのものです。私の日常のあらゆる要素をすくいとって作った作品は、自分自身を深く投影した極めて個人的なものです。一方で、観る人が、写真の上に短文の書かれたシートを選んで重ね合わせ、味わうことで、その人の中にある心象風景が浮かび上がる。つまり、作品としては誰でも参加できる非常にオープンなものです。

Melanieさんのアトリエでの展示風景

– キャンパス外での日本での日常的な生活はどうですか?


GAPに入学してからずっと亀有に住んでいますが、ここに住んで本当に良かったと思っています。ちょっと郊外で、静かだし、いろんな年齢層の人を見かけます。それが本当に楽しいんです。


日本人であろうとなかろうと、素晴らしい友人や人々がいて、小さなアパートに住み、行きつけのお店もあり、日本語で人と話せなくても、日常はとても平和で居心地がいいのです。そして、理解や繋がりが変に欠けているという感覚と、非常に多くの繋がりや理解があるという感覚が混ざり合っていて、私の作品と似ています。言葉は時に強すぎる力を持つから、言語を超えた繋がりがあるのは素晴らしいことだと思います。日常は常に創作の源です。日本に来て環境も経験も変わったので、私の作品では言語の要素がより顕著になりました。

– Melanieさんはコミュニケーションに関心があるように感じましたが、オランダにいる時からそうだったんですか?


そうですね。オランダにいる時は、言葉を話すことには困りませんでしたので、人とのコミュニケーションでは、その人がどれほど正直で、率直で、オープンで、他の人と共有しようとしているかに焦点を当てていました。


それが「半透明」というコンセプトの起源です。私はオープンであることや他の人と共有することが好きですが、時にそれは無防備で怖いことでもあります。だから、私はあらゆる状況で自分自身を守るために半透明な中間領域を創り出そうとしているんです。完全に透明である必要もなければ、完全に閉ざされる必要もない。その間の微妙なバランスを探しています。


そして、日本に来てからは、言葉の意味よりもむしろ言語そのものへと焦点が移りました。最初に名古屋に来た時、自分の言葉が理解されない場所、あるいは他人の言葉を理解できない場所に居ることが奇妙だけれど、むしろ楽しいと気づいたんです。

– すべてが繋がっているように聞こえますね。


ええ、まさにその通りです。私にとっては、ただ自分の人生を生きているだけですから。


私の作品は、まず頭の中に浮かんだ言葉や文章から始まることが多く、最後にビジュアルが浮かび上がるんです。こういう自然に湧き上がる創作プロセスを大事にしています。学校という環境では難しいこともあるけれど、無理にテーマや作品に落とし込むのではなく、頭の中で考えたり、体験に多くの時間を費やして、それが一気に溢れ出るから、私は大抵、土壇場で作業するんです。

– ここから修了展に向けての準備は大変ですか?


言葉や写真選びもここから最終的なものに仕上げて行きますし、展示で使う備品も手作りします。最終試験も近々あるのでやることがたくさんです。通常の美術展は、作品を見るだけですが、今回は来館者に直接体験をしてもらえるのをとても楽しみにしています。ぜひ会場にいらしてくださいね。

インタビューを終えて

Melanieさんにとって、コミュニケーションが重要なキーワードであり、ご本人の中の正解を表現するというよりも、参加者との間に生まれる偶然性をアートとして表現していらっしゃるようです。そして、言葉が通じないという一見ネガティブに見える経験すらも楽しみ、創作活動の起点にするという話も大変興味深かったです。最終的な作品を体験するのが楽しみです。

取材/翻訳/執筆 周思敏、加藤めぐみ(アートコミュニケータ「とびラー」)
写真/校正 西見涼香

周思敏:14期とびラー、中国出身、日本在住13年目。言語とコミュニケーションに強い関心を持っているので、Melanieさんの作品に共感しました。


加藤めぐみ:14期とびラー、プロジェクトマネジメントが大好きな会社員。アートを媒介として人同士が関係性を深めたり、コミュニティが形成されることに関心を持ちとびラーに参加しています。

「身近なランドマークを描きたい」藝大生インタビュー2025|日本画専攻 学部4年・竹石楓さん

2026.01.17

11月下旬の晴れた朝、金色に輝く銀杏の木々を眺めつつ上野公園を抜けて、東京藝術大学(以下、藝大)上野キャンパスを訪れた。絵画棟に入るとドアの前に靴が並んだアトリエが続いている。私たちも靴を脱いでアトリエに入ると、大人の背丈ほどもある大きな作品の前で、竹石さんがにこやかに出迎えてくれた。

 

1. 卒業制作のこと

– 卒業制作はどんな作品ですか。

私が暮らしている池袋の情景を描いた作品です。6年前に上京してから2年間池袋の予備校に通っていて、現在も池袋の近くに住んでいます。卒業制作は身近な題材を選びたいと思って通学路で探していたときに、この案内掲示板と信号と街灯と電柱を兼ね備えた、住んでいる街の身近にある構造物を見つけました。これは形も面白いし、かといって池袋の象徴というわけでもなく、ただ機能としてそこにある佇まいもいいなと思って、作品主題として選びました。作品サイズは150号です。


150号(たて約180cm×よこ約220cm)の大作

– とても大きな作品ですね!制作プロセスを教えてください。

4年生の夏頃から題材を探し始めて、見つけた題材の写真を撮りためておき、「小下図」を描きながら絵の構想を練りました。「小下図」では、風景を色んな角度から描いたり、主題とする構造物をアップで描いたりして、画面の中の構図を考えます。構図を決める時はスケッチした建物や人物をバランスを考えながら配置していって、風景を再構築します。同時に、画面の配色も決めていきます。この作品では、空の色を私の好きな青緑にすると最初に決めて、そこからどんな色彩の絵にしていくかを考えました。


小下図


スケッチや写真

「小下図」で構想を固めたら、作品と同じ大きさの紙に正確に形を描き込んでいく「大下図」を描きます。それが終わったら、「大下図」を本番の和紙に転写します。木製パネルにまず脂止めのための薄手の和紙を貼って土台とし、その上に厚手の和紙を貼り、カーボン紙を挟んでさらに「大下図」を重ね、正確になぞります。この「大下図」を写し取った和紙に着色して、本番の完成作品「本画」にしていきます。この作品では、画面全体にグレーの下地を塗ってから「大下図」を転写しました。


作品の裏に貼ってあるのが「大下図」

色を入れ始めたのは11月頃で、それから1ヶ月経った現在はまだ30%くらいの完成度です。このあとは、主題である街灯をくっきり浮かび上がらせるために、背景の建物に薄いベージュ色をかけて潰します。「潰す」とはいったん描いた部分に上塗りすることです。このように「描く」→「潰す」を繰り返して色を重ねて描くのが、現代日本画のベーシックな技法です。


色を重ねて「潰す」

完成形は、空の部分の青緑色を主軸とする色合いの絵になる予定です。青緑色を主軸に選んだのは、私の好きな色であり、青緑の空が現実とも非現実とも感じられるところが面白いからです。卒業制作の提出締切が1月初めなので、構想から半年、色を入れ始めてから約3か月かけて仕上げていきます。


完成イメージの「青緑色の空」

– どんな材料や技法で描いているのですか。

これが、私が使っている日本画の絵の具、皿、筆です。


絵の具は、色材と水と膠(にかわ)が混ざった状態になっています。膠を水でふやかして電熱器で温めて溶かし、粉末状の色材と水を混ぜて絵の具を作ります。色材は石や土やガラスなどからできており、自然素材もあれば人工的に造られた素材もあります。粒子の大きさも粗いものから細かいものまであります。細かい粒子の絵の具で滑らかな質感を出すこともできますし、粗い粒子の絵の具でざらざらした質感を出すこともできます。また水や膠の量を調節することで、薄めた絵の具、とろっとした濃い絵の具など、自分の欲しい絵の具を作ることができます。

色材と水と膠を混ぜる

画面に色を載せる方法には、皿で絵の具を混ぜる、画面上で絵の具を混ぜる、絵の具を何層も塗り重ねる、水やお湯をつけた刷毛で上層の絵の具を剥がして下地の色を見せる、など多様なやり方があります。絵を描く道具も、柔らかい筆、硬い筆、刷毛、たわしなど様々なものを使います。例えば、私は油絵用の硬い豚毛筆を使って画面から絵の具を剥がしたりもします。

絵の具を塗ってから乾かして色を固着させるのに2〜3日かかるので、画面に色を重ねていくのは時間がかかります。絵の具を塗った上から薄めた膠を塗って表面を固めることで、絵の具を固着させる方法もあります。

このように、絵の具、膠、筆の組み合わせによって多様な技法を駆使して描くのが、現代日本画の特徴です。

– 竹石さんの作品は平面なのに奥行きを感じますね。

日本画は、どう奥行きを作っていくか?を常に意識しています。もともと日本の美術では白い背景に黒い墨の線で描いていたので、白背景に奥行きを出すために「近くのものを濃く描いて、遠くのものを薄く描いて白い背景に溶け込ませる」、「近くのものを太い線で描き、遠くのものを細い線で描く」といった遠近感の出し方が編み出されました。現代は絵の具の色数が増え、白背景ではない絵も描けるようになりましたが、こうした技法は今も受け継がれています。この作品も、特に意識したわけではありませんが、伝統的な奥行きの作り方を用いています。

– 制作していて楽しいところ、苦労したところは。

作品のアイデア出しが楽しいです。自分がワクワクできるアイデアで描き始めたいので、完成したら絶対良い作品になると確信できるものを描くようにしています。頭の中にあるイメージを自分で描き上げなければいけないところは苦しくもあるけれど、自分のイメージに近づいていく過程は楽しいです。

実際に作品を描いていく中で、下図で決めた色を思い通りに表現できないなど、最初の構想どおりにいかないこともあります。もしかしたら、この作品も完成形は違う色になっているかもしれません。

– 竹石さんが作品づくりで大切にしていることは何でしょう。

私は、自分がよいと感じたものを、自分が好きな色で、自分がワクワクするように描くこと、そして、私の絵を見た人が、作品を媒体として、描いた主題とつながるような絵を描くことを大切にしています。

 

卒業制作は、私の好きな身近な風景を好きな色で描いて、見る人が「あっ!ここ通ったことある。こんなふうに絵にするのか」と、絵を通して風景とのつながりを感じる作品にしたいです。

– この作品を鑑賞する人に、どんなところを見てもらいたいですか。

まずは、見た人が「池袋だな」と気づいてほしい、そして描いた風景を思い起こしてほしいです。それから、この色いいなと私の作家性にも共感してもらえたら嬉しいです。

2. 美術の道へ進んだきっかけ

– どんな子ども時代でしたか。

私は新潟で生まれ育ち、子どもの頃はイラストやアニメを描くのが好きでした。母が美術好きで、家には母の好きな山口晃さんや会田誠さんなどの画集があり、子どもの頃からアートに触れる機会はあったと思います。

– 美術の道へ進んだきっかけは。

中学生の時にモネの展覧会を見に行って、モネの絵は「近くで見ると何だか分からないけれど遠くから見ると分かる」ところが面白い!と思いました。それまで好きだったイラストは描き方に型があると思っていたけれど、絵画ならば自分が感じたことをもっと自由に表現できると感じました。モネの絵を見て、自分の思いや感じたことを直球で表現できる絵画をやろうと思ったのが、美術の道に進んだきっかけです。


高校では美術部に入って油絵を描いていて、藝大の油絵科に進学した先輩から話を聞いて私も藝大に行きたい!と思い、藝大を目指すことにしました。

– なぜ日本画を選んだのですか。

高校生の時にファインアートをやると決めて、油絵か日本画か迷った末、やったことがないし面白そう!と思って日本画を選びました。藝大の日本画専攻の入試はデッサンと水彩画で、私は水彩画をリアルに描くことが得意だったので、日本画の経験がなくても目指すことができました。

3. 東京藝術大学の学生生活

– 日本画専攻について教えてください。

日本画専攻は、1学年に25人の学生がいて、各学年に2人の指導教授がいます。1年生から3年生前半までは、人物、風景、建造物などの指定課題を描きます。3年生後半からは自由課題となり、自分が描きたいものを自由に選んで描きます。

– 竹石さんの最近の1日はどんな感じですか。

毎日、10時頃にアトリエに来ます。早く来た人がお湯の準備をして、膠を溶かして、パネルを寝かせて描き始め、17時から20時頃まで描き続けて、最後に火の元を消して帰ります。

描く時は、絵の具が垂れてしまうのでパネルを平置きします。見え方を確認するときは立てる必要があるので、寝かせて描いて、立てて確認し、また寝かせて描くという繰り返しです。卒業制作は大きな作品なので、アトリエの仲間と協力してパネルを動かしながら制作しています。

– 4年間を振り返ってみていかがですか。

現代日本画は、主題や技法の自由度が高く、日本画の絵の具で描けば何を描いても日本画とみなされます。こうした、画材に依拠して日本画が定義される現状に対して、私はこの4年間「日本画って何だろう?」という問いにずっと向き合ってきました。

藝大の日本画では、材料や技法の研究が重視されており、指導では「どう描くか」が中心です。高校から大学入学当初の私は「何を、なぜ描くのか」へのこだわりが強く、なかなか筆が進まなかったのですが、日本画を学ぶうちに「どう描くか」も大切なのだと気づいて、それからは絵を描きやすくなりました。「どう描くか」の大切さに気づけたことは、藝大で得た大きな学びです。

現代はアートのコンセプトが大事だと言われますが、その時代にあって「どう描くか」にこだわり続けているのが日本画というジャンルです。「どう描くか」を追求することが作家性につながり評価されるのは、現代における日本画の価値だと思います。

4. 今後の展望

– 卒業後の進路は。


大学院に進学して日本画の制作と理論研究の両方をやっていくつもりです。「日本画とは何か?」という問題意識から、大学院では、現代社会における日本画のあり方を探究したいです。例えば、戦時中は、横山大観が富士山を描いて戦意高揚を図るなど、戦争画として日本画が描かれた歴史があります。私はこうした日本画の社会的文脈を研究し、現代の日本画の立ち位置とは何か?を明らかにしたいです。並行して、作品の制作も続けます。

– これから作りたい作品や将来の夢を聞かせてください。

公共空間に置かれる作品を作りたいです。私の作品を中心に地域のコミュニティができるような、身近なランドマークのような作品を作りたいです。

私は、みんなが見て共有している形やイメージに関心があって、日本といえば富士山のようにランドマークとなるイメージに面白さを感じます。だから、夢としては、池袋を描いたこの卒業制作が、豊島区役所に飾られたら嬉しいです。区役所を訪れる人がこの絵を見て「西口のあそこだね」と会話するなど、私の作品が地域の人々に共有されるランドマークのようなものになったらいいな、と思います。

また、私は美術教育に関心があって、教員免許と学芸員資格を取得する予定なので、将来は学校の美術教育や美術館の教育普及などに携わりたいと考えています。


5. インタビューを終えて

竹石さんの「何を、なぜ、どう描くのか」を大切にする思いと「日本画とは何か?」を問い続ける真摯な姿勢に心を打たれた。身近なランドマークとなる作品を描きたいと語る竹石さんの卒業制作が、これからどう進化するのか、卒業・修了作品展で完成した作品と出会うのがとても楽しみだ。


取材:木原裕子、前田浩一、矢吹美樹(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆:木原裕子
写真:神道朝子(とびらプロジェクト アシスタント)

2025建築実践講⑥|第6回建築実践講座|建築を鑑賞する -見る・考える・繋がる-

2025.12.24


第6回建築実践講座|建築を鑑賞する -見る・考える・繋がる-

日時|2025年12月6日(土) 14:00〜16:00
会場|東京都美術館 講堂
講師|頴原澄子(千葉大学大学院 教授)


「建築を鑑賞する」をテーマに第6回 建築実践講座を行いました。
身近な建物を見て、その魅力や背景を知り、大切に保存していくことについて、頴原澄子さんにお話を伺いました。

 

建築家の思いや建物の価値を伝えるために作られたガイドブックや、年齢を問わず楽しめる工夫などが紹介されました。
さらに、実際に建物を守るための活動の話もあり、建物を「残す」だけでなく、「知ってもらい、感じてもらう」ことの大切さを実感しました。

 

 

普段は何気なく見ている建物も、少し立ち止まって観察してみることで、新しい発見や愛着が生まれると気がつくことができた講座でした。

 

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)

 

【とびラボ活動報告】ゴッホをめぐるボウケンラボ

2025.12.21

 

東京都美術館では2025年9月12日(金)~12月21日(日)に特別展「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(以下、ゴッホ展)が開催されました。これにあわせて、とびラボ活動「ゴッホをめぐるボウケン」を行いました。活動はゴッホ展閉幕までの間、全5回行いました。

 

  • ゴッホをめぐるボウケンとは?

実は、ゴッホ展の前の特別展「ミロ展」から「ボウケンラボ」は誕生しました。東京都美術館でさまざまな特別展が行われる中、その作家や背景についてもっと知りたいと思いながらも、ひとりでは調べきれないまま展覧会が終わってしまうことを残念に感じていました。

そこで立ち上げたのがこのラボ「〇〇をめぐるボウケン」です。 とびラー同士、自分自身の興味関心を自由に調べ、シェアし合い、それぞれの興味関心の冒険が拡がる、そんなラボを目指しました。

 


第1回目のラボ参加とびラー

・・

 

  • ラボの進め方

 1.今日の興味関心を付箋へ書き出し&分類

まず、ゴッホ展をめぐる「今日の興味関心」を数分間で各自付箋に書き出し、書いた内容についてひとりずつ付箋を出しながらシェアします。「あ、それ、私も同じことを書きました!」と声が上がることも。似た内容の付箋をまとめながらシェアしていきます。


付箋を分類してみます

この日は「ゴッホの作品」「ゴッホの人間関係」「ゴッホという人」に分類できる付箋が出てきました。


ゴッホの作品についての付箋


ゴッホの人間関係についての付箋


ゴッホという人についての付箋

 

2.各自30分の調査タイム

ここからは、30分の時間で各自気になることを調査してまとめます。Webで検索するもよし、図録や関連書籍を読むもよし、各々のスタイルで調査&まとめを行います。特別展に関する書籍が多数ある美術情報室に行って調べるメンバーもいます。調べている間は、皆無言で黙々と調査します。

 


それぞれ調べながらアウトプットしていきます

 

3.シェアタイム

30分の各自調査タイムの後は、シェアタイムです。順番に調査内容をシェアします。とびラー同士も感想を伝え、気づいたこともシェアしてコミュニケーションしながら進めます。 他のとびラーが調べたことを聞いていると、自分では思いもつかなかったテーマや視点の調査内容やまとめ方に「へぇ~。」「そうだったんだ~。」「なるほど~。」と新たな気づきがあり、「ということは、これはどうだったんだろう?」などと、さらにまた興味関心が芋づる式に掘り起こされてきます。まさに「ゴッホをめぐる知的好奇心を深めてゆくボウケン」が繰り広げられていきます。


ある日のそれぞれの調査内容


ゴッホの家族を調べる


ゴッホのひまわりを探せ!

 

このように、①今日の興味関心を付箋に出す ②各自30分の調査 ③調査内容をシェア という流れで進めるこのとびラボは、ゴッホ展の開催期間中に複数回行われており、何度も参加するとびラーもいれば単発で参加するとびラーもいます。一度だけの参加でも全く問題なく気軽に「ボウケン」できるのも魅力の一つです。

 

 

 

 

  • 振り返り

全5回のボウケンをした今回の「ゴッホをめぐるボウケン」。ゴッホ展閉幕の12月21日に最後の「ボウケン」と解散会を行い、ラボ全体の振り返りを行いました。

メンバーからは、「それぞれの気になるテーマを共有できたのがよかった」「自分では気づけなかったトピックに出会えた」「調査テーマが決められていない自由さが心地よかった」といった声が上がりました。時間制限を設けた30分の調査タイムも、集中して取り組める心地よい緊張感が生まれ、短時間でも多くの発見につながり、共有にちょうどよい分量で進められたのが好評でした。また、宿題のように持ち帰るのではなく“その場で調べる”スタイルは、負担感がなく気軽に参加できるうえ、とびラー同士のリアルな会話の中で興味が広がり、その日の関心をすぐに深掘りできる点が魅力でした。「すご〜く楽しかった!」という声も多数あり、生き生きとした知的交流の喜びがその言葉に現れていました。

 

このラボを行って、とびラーの様々な視点でのゴッホ展をめぐるあれこれを今までよりも少し理解することができた気がします。ゴッホについては炎の画家、狂気の画家という表現も聞きますが、そうではないゴッホや、家族や交友関係の中の姿を知ることができ、ゴッホを以前よりも身近に感じることができました。

同時に、絵画への真摯な探究心や学び続ける姿勢にも触れ、あらためて多くの作品を残したゴッホと、その歩みを支えた家族に感謝の思いを抱きました。ゴッホ展というきっかけから生まれた「ボウケン」は、これからもいろいろな展覧会をめぐって続いていくかもしれません。次の「ボウケン」も楽しみです。

 


執筆者:寺岡久美子(13期とびラー)

情報通信系の企業で働いています。企業内ボランティア活動として、カウンセリングやメンター、社内認定講師も担当しています。とびラーになってから、アートが自分自身にぐっと身近に感じられるようになり、忙しい人たちにもアートに触れられる機会をつくりたいと思うようになりました。これからは「企業×アート」でできることを考えてみたいと思っています。好きな村上春樹さんの小説『羊をめぐる冒険』からラボ名を拝借しました。

2025鑑賞実践講座⑦|作品えらび・作品のシークエンス

2025.12.16

 

 


 

第7回 鑑賞実践講座|作品えらび・作品のシークエンス

日時|12月16日(火)10:00〜15:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA))

 


 


12月16日(火)、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオにて、第7回鑑賞実践講座「作品えらび・作品のシークエンス」を開催しました。講師は三ツ木紀英さん(NPO法人 芸術資源開発機構)です。

 

これまでの鑑賞実践講座では、VTSの考え方やファシリテーションの基礎、展示室での場づくり、事前準備、そして実践をふりかえる方法について学んできました。第7回は、それらをふまえたうえで、鑑賞プログラムの質を大きく左右する「作品えらび」と「作品のシークエンス」について考える回として位置づけられました。

 

とびラーがファシリテータとして関わる鑑賞プログラムでは、プログラム参加者と鑑賞する作品をとびラーが自由に作品を選べる場面ばかりではありません。展示室内での人数の偏りを防ぐため、プログラム担当者からあらかじめ2作品程度のシークエンスが指定されることが多くあります。とびラーには、その与えられた作品の組み合わせをどのように読み解き、対象となる鑑賞者にとって意味のある鑑賞体験として立ち上がらせていくかが、ファシリテーションの技量として求められます。

 

 

講座の前半では、三ツ木さんから、美的発達段階の考え方と、それを作品理解や鑑賞プログラムの設計にどう生かすかについてレクチャーがありました。鑑賞者は年齢や経験、背景によって、作品のどこに注目し、どのような言葉を紡ぎやすいかが異なります。作品えらびとは、「良い作品」を選ぶことではなく、鑑賞者の状態や文脈に応じて、どのような出会いをつくるかを考える行為であることが共有されました。

 

 

続いて、2作品のシークエンスを題材にしたワークに取り組みました。とびラーは、指定された2作品について、それぞれの特徴だけでなく、「なぜこの順番なのか」「この組み合わせによって、どのような見方の変化や思考の広がりが生まれうるのか」を読み解いていきます。作品単体ではなく、作品と作品のあいだに生まれる関係性に目を向けることで、展覧会全体の表す鑑賞のストーリーをも構想する視点を養いました。

 

ワークの中では、対象者を具体的に想定することで、どのような問いから対話を始めるのが有効かについても考えることができました。作品のシークエンスを読み解くことは、鑑賞者の背景や美的発達段階を想像し、鑑賞の場全体をデザインすることにつながっていきます。

 

 

後半では、鑑賞者を迎えるファシリテータとして、与えられたシークエンスの中で自分がどのように場をひらいていくかを具体的に考えました。第4回・第5回で学んだ展示室での場づくりや事前準備、第6回で共有したふりかえりの視点とも結びつけながら、実践につながるイメージを膨らませていきました。

 

 

第7回は、「作品を選ぶこと」また、「与えられた作品やシークエンスをどう読み解き、鑑賞の場として立ち上げるか」を考える回となりました。とびラー1人1人が、作品と鑑賞者、そして場の関係をつなぎ直しながら、鑑賞体験をデザインしていくための重要なステップとなりました。

 

次回はいよいよ1年間の学びをふりかえる回となります。これまで積み重ねてきた講座・実践・ふりかえりをあらためて見つめ直し、とびラーとしてのこれからの鑑賞のあり方を考えていきます。

 

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)

【開催報告】11月の「とびラーによる建築ツアー」

2025.12.01

日時  |2025年11月15日(土)
場所  |東京都美術館

参加者(事前申込)35名、とびラー16名

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澄んだ青空が広がる秋晴れの中、2025年度 第4回目の「とびラーによる建築ツアー」が実施されました。

参加者と会話をしながら、一緒に東京都美術館の魅力を共有して楽しんでいる姿が印象的でした。

この建築ツアーは、決まったコースはなく、それぞれのとびラーが考えたオリジナルのツアーです。

ガイドごとに、違ったツアーを体験することができます。
東京都美術館の魅力や新たな発見をしていただけたら嬉しいです。
……
次回の開催は1月24日(土)を予定しています。
みなさんのご参加を心より楽しみにしています。
*「とびラーによる建築ツアー」は、原則として、奇数月(5月、7月、9月、11月、1月、3月)の第3土曜日に開催しています。
詳細、お申し込みはこちらから。
(とびらプロジェクトコーディネータ 大東美穂)

2025鑑賞実践講座⑥|ファシリテーションのふりかえり

2025.11.24

 

 


 


第6回 鑑賞実践講座|ファシリテーションのふりかえり

日時|11月24日(月・休)13:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|越川さくら(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手、とびらプロジェクトコーディネータ)

 



鑑賞実践講座では、講座で学ぶこと、実践の場に立つこと、そしてそれを振り返ることを循環させることで、とびラーのファシリテーション力が育っていきます。

 

とびラーがファシリテータを担当する現場は多岐にわたります。東京都美術館で開催される毎回テーマの変わる特別展や企画展、東京藝術大学大学美術館の作品や展覧会でのプログラム。また、対象者も「Museum Start あいうえの」に参加する子どもたちから、「Creative Ageing ずっとび」に参加する高齢者まで、非常に幅広い層にわたっています。

 

第6回は、こうしたさまざまな現場で実践を行ってきたとびラーが、どの実践に参加していても、自分自身でふりかえりを行い、スキルアップを目指していける方法を共有する回として位置づけられました。

 

 

10月13日(月・祝)、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオを会場に、第6回鑑賞実践講座「ファシリテーションのふりかえり」を開催しました。講師は、鑑賞実践講座担当コーディネータの越川さくらです。

 

とびらプロジェクトでは、講座に参加しているすべてのとびラーが、同じ実践の場に立てるわけではありません。スペシャル・マンデーをはじめ、さまざまな鑑賞プログラムがあるなかで、とびラーはそれぞれ異なる実践の場に関わっています。だからこそ、第6回では「どの実践に出ていても使えるふりかえりの方法」を身につけることを大切にしました。

 

 

講座の冒頭では、「とびラーのファシリテーション力は、講座・実践・ふりかえりを行き来しながら育っていく」という考え方を、あらためて共有しました。特に、ふりかえりを客観的な視点で行うことが、ファシリテーション力の向上に欠かせない要素であることを、とびラーといっしょに確認しました。

 

 

 

 

客観的な視点に立って自分のファシリテーションをふりかえる具体的な方法として、「録音して、きく」という手法に取り組みました。とびラーは4人組になり、小さな作品画像を用いてVTSを行い、ファシリテータ役になった際のやり取りを録音し、実施後すぐに聞き返します。

 

 

 

 

録音を聞き返す際には、いくつかの視点を示しました。鑑賞者の言葉を丁寧に聞き、作品のどこに、どのように注目して話しているのかを捉えること。次に、ファシリテータとしての自分の言葉を聞き、鑑賞者の意図に沿って聞けていたかを確認すること。さらに、実際には行わなかった別のはたらきかけの可能性についても考えました。講座2・3年目で実践経験が多いとびラーには、対話全体の流れや、事前の作品研究との関係性まで含めて分析する視点も意識してもらいました。

 

 

その後、グループでのシェアを行い、録音を聞いて気づいたことを付箋に書き出し、共有しました。

 

 

 

第6回は、「どの実践でも、とびラー自身が成長していくためのふりかえりの方法」を共有する回となりました。録音を使って客観的にふりかえることで、自分のファシリテーションを見つめ直し、次の実践につなげていくことができます。12月のスペシャル・マンデーでは、各自がこの方法を使ってふりかえりを行い、講師やコーチによる見取りやフィードバックも予定されています。

 

講座・実践・ふりかえりを行き来しながら、とびラー、スタッフみんなで、とびラーのファシリテーション力を育てていきたいと思います。

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)

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