東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

【開催報告】五感で楽しむ朝の都美さんぽ

2024.06.18

 

朝の空気の中で、美術館北側にある大銀杏の姿や歴史について参加者と対話するとびラー

 

◆はじめに

午前中のゆったりした時間に都美建築のみどころを紹介する建築ツアーとして、コロナ禍の2021年〜2023年の春まで、季節ごとに数回実施してきた「トビカン・モーニング・ツアー」のプログラム。2023年秋のツアーを準備しようと立ち上げられた新しいとびラボは、予期せぬ長い旅路をたどることになりました。

 

◆「トビカン・モーニング・ツアー」を見直す長い旅が始まった! 

2023年7月、「この指とまれ」で秋のツアー実施を計画するためとびラーを募ったラボが「トビカン・モーニング・ツアーを一緒に考えませんか」です。そのときのとびラー専用掲示板での呼びかけコメントを引用してみます。

 

”今回、タイトルを「トビカン・モーニング・ツアーを一緒に考えませんか」にしたのは、参加するみんなでもう一度しっかりと考えたいと思ったからです。

ツアーを実施するためのルートや時間配分の細かな流れ・作業的な話以外にも「そこにいる人みんなで場を作っていく」ことも考えてみませんか。

私にも明確なビジョンがある訳でもなく、どうなるんだろう?と手探りの状態でこれを書いています。結果的に出来上がるものは同じに見えるかもしれません。

でも、みんなで考えたらその過程は違ったものになるはず。一緒に、トビカン・モーニング・ツアーをつくりましょう。”

 

とびらプロジェクトには、恒例となっている継続的な企画も、プログラム実施が終わったタイミングや、あらかじめ設定した期限などでそのとびラボのプロセスをふりかえり、都度ごとに解散する仕組みがあります。次に同様なツアーやイベントを行う時も、とびラーの誰かが立ち上げを表明して改めて参加を希望するとびラーを募るのです。解散と新たな出発を繰り返すことで、毎回新しいとびラーや視点が加わってラボの内容を見直したり、意義を根源から問い直したりすることにつながり、新しいアイディアを生みやすい環境を作り出します。今回もモーニング・ツアーそのものの姿を問い直すところから始まり、新しい形のプログラムに脱皮するために、苦しくも楽しい道のりが始まりました。

 

◆アイディアを出し合った後、東京都美術館の朝を体感してみた!

「この指とまれ」の呼びかけに「とまった」(ラボに参加表明をすること)とびラーが最初に集まったのが8月15日。アイスブレイクとして、各自の朝のルーティン+好きな卵料理を紹介しあうことで、打ち解けました。その勢いで3つのことが提案されました。

①コロナ禍も明けたので、このツアーを新たに考え直そう!

②より自由度の増した活動ができるのでは?みんなでもう一度考えてみよう。

③ラボの醍醐味である、始まりから企画を作る楽しみをみんなで体験してみよう。

 

「どんな場にしたい?参加者に感じて欲しいこと、届けたい思いは?」をテーマに意見を出し合いました。そして、とびラーからこんなワクワクするような思いが次々とあふれてきました。

*「建築ツアー」にこだわらず、東京都美術館(以下、都美)の朝のゆったりとした空気感を体験してほしい。

*極力、朝早くスタートしたい。

*都美周辺の公園内の木立からスタートしたら楽しそう。

*朝をどう生かすか。人の少ない朝の都美の様子を感じて欲しい。

*時間と空間を楽しむツアー。アートラウンジで参加者とコーヒーや余韻を楽しみたい。

*陽のひかり・匂い 感覚をみんなで体験してみたい。

*モーニングならではのツアーを考えたい。公園にいるような感覚も感じて欲しい。上野の森との融合を考えたい。

*お茶+建築+アートの「とびかんモーニングセット」を参加者に提案したい。

 

アイディアを出し合った後、朝の時間の都美の魅力を実際に体感して、何ができるか考えてみようということになり、とびラー有志で朝の散歩を行いました。

 

東京都美術館に接する上野公園の園路。建物と木々の織りなす景色が素晴らしい。

 

東京都美術館の創設初期に建てられた谷文晁の碑に見入るとびラー。

 

美術館の北側から《my sky hole 85-2 光と影》が望めることを発見。モダニズム建築の特徴である広い窓が生み出す開放感に感動!

 

どこから見ても、木々に囲まれた美術館。朝の光が美しい。

 

朝の光を浴びて、しばし静寂を楽しむとびラー

 

◆「モーニング・ツアー」が「朝の都美さんぽ」に進化した!

 

都美の朝の魅力を体感した後もミーティングを重ねました。美術館の周辺環境を味わえる場所として、建物の北側や外周もコースに加えて、参加者に紹介できたら、朝の静けさや自然とのつながりが感じられるのではと、どんどん案が膨らみました。

 

Zoomでもミーティングを積み重ねました。

 

ここに至るまでに、プログラムの企画書をとびラー自身の手で作成し、とびらプロジェクト運営スタッフ(以下スタッフ)とやりとりを繰り返しました。スタッフからは「朝の魅力とは具体的に何?」「朝の美術館や建物を味わうために、どんな場づくりが必要?」とたびたび問いを投げかけられ、そのたびにとびラーは集まって、ミーティングを繰り返しました。議論が堂々巡りになり、振り出しに戻ってしまったことも度々ありました。

 

ミーティングに行き詰まり、体で朝を表現してみるとびラー。

 

また、プログラムの根幹となる「どうやって朝の都美の魅力を伝えよう?」というテーマでも何回もミーティングで討論し、とびラーの思いを交換しました。

 

話し合いを繰り返した結果、見えてきたものは、このラボが目指すのは建築自体の紹介が主体ではなく
・都美の建築空間に差し込むの朝の光や、朝の静けさや周辺環境からの音、朝しか見られない光景などを五感で楽しむこと。
・展示を見にくるための場所としての都美以外に、美術館の空間自体を味わう。そこに流れる静かな時間や空間を楽しむこと。
・いつもと違う一日の始まりで自分のための時間を過ごし、一日の終わりには「良い一日だった」と思ってもらうこと。
・これまで知らなかった朝の都美の魅力に触れ、「私の一推し」を見つけてもらうこと。

これらが、「都美が持っている“朝の魅力”を来館者へ伝えること」であり、それが都美のファンを増やすことにつながるという結論に達しました。

 

そして、ついにたどり着いたキーワードは「五感で楽しむ」。そして、ラボのタイトルも「五感で楽しむ朝の都美さんぽ」に進化しました。

 

次に、このツアーで大切にしたいこと(このツアーの核となるコンセプト)についても話し合いました。

・朝の都美の魅力は朝の光のコントラスト、建物と自然環境が織りなす風情。感覚がリセットされる朝に、それらの魅力を対話や五感で知り、ゆったりとした時間を過ごしていただくためのプログラムであるというベースをしっかりと持つ。

・対話、時には静かな時間、忘れずに。準備はたくさんした上で、出すものは必要最小限に。新たな魅力への期待を持って再訪いただくための余白を大切に。

・ これまでの建築ツアーは先にガイド役のとびラーが説明し、それを受けて参加者が発見していた。このラボでは参加者が五感を使って先に発見し、とびラーからの必要に応じたプラスアルファ(建築の観点からの話や木々が残っている心意気の紹介など)を紹介する。とびラーとの対話で、さらに感じたい、もう一度見てみたい、知りたい、と思ってもらえるようなやりとりをしたい。

 

以上を踏まえて、本番2日間で5チームのツアーを行うこととなり、早速コース検討に入りました。そして、朝の散歩でその魅力に惹かれた美術館北側(現在、来館者に開放されていないエリア)と美術館の外周の道もコースに入れることを検討しました。最終的には都美建築自体の魅力を伝えるということからも、二つの案のうち、北側エリアをコースに加えることに絞りました。とびラーは話し合いながら、「ゆっくり、欲張らない」「普段の建築ツアーより行く場所は少なめに」を共通項として、美術館北側を中心にエスプラナード(都美正門から建物入口に向かう開放的な空間)や公募棟を組み合わせた5コースを作成し、トライアル実施にこぎ着けました。

 

トライアル実施に当たって、何度も話し合って見出したプログラムの根幹、「朝の都美の魅力を伝えたい。それを五感で感じてもらい、対話で共有する」を体現するために、プログラムの最後にアートラウンジでのゆったりしたティータイムを共通ですべてのツアーに入れることにしました。

 

とびラーがガイド役とお客様役に分かれて、トライアルを実施。

 

コースに追加した美術館北側エリアにて、戦災を生き抜いた大銀杏に見入るとびラー。

 

さんぽの後のティータイムも念入りにトライアルで検証。

 

 

そして、とびらプロジェクトの公式サイトに参加案内を出したのは、プログラム本番を行う12月になってからでした。プログラムが本当にできることになったこと自体にとびラー一同、大きな喜びを感じた瞬間でした。

 

朝日に包まれた都美の魅力が伝わる広報ビジュアル

 

◆苦労の先は、楽しい楽しい本番が待っていた。

広報期間が短かったにもかかわらず、応募者にも恵まれ、本番2日間とも参加者ととびラーは本当に充実した時間を過ごしました。

 

◎日程

・第1回 2023年12月17日(日)9時45分~10時45分

・第2回 2023年12月19日(火)9時45分~10時45分

 

◎参加人数

・第1回 参加者12人 とびラー7人

・第2回 参加者6人 とびラー8人

 

 

実際巡ったコースを2例ご紹介しましょう。

① アートスタディルーム → 東門 → 美術館北側エリア → 公募棟 → アートラウンジ

② アートスタディルーム → エスプラナード → 東門 → 美術館北側エリア → アートラウンジ

 

いずれのコースも通常の建築ツアーより行く場所の数をぐっと絞っています。では、各チームどのように朝の時間を過ごしていたのでしょうか?そのいくつかを紹介しましょう。

・東門の木に囲まれているスペースでゆったりと深呼吸して朝のエネルギーを体いっぱいに取り込む。

・美しいタイルが貼られた建物の壁に体をぴったりと付けて目をつぶって1分間瞑想する。

・道ばたの枯れ葉を集めて、香りを嗅いでみる。

・鳥の声や遠くを走る車の音、かすかに聞こえる地下鉄の音に耳を澄ます。

・北側エリアにある、度々の被災を耐えてきた大銀杏をじっくりと見上げてみる。

 

その時々に、参加者の皆さんとの対話により感想を交換しながら進めました。実施した1時間はゆったりしていたように感じましたが、いざ終わってみれば楽しくあっという間に過ぎた印象を受けました。

予定時間が過ぎても、どのグループも余韻のおしゃべりが長く続いたことが、どんなにこのプログラムが楽しかったかを証明していました。 

 

では、当日本番の様子を写真でご覧ください。

 

 

朝の光と冷気を感じながら、普段は足早に通り過ぎてしまう中庭をゆっくり眺める参加者のみなさん

 

 

大銀杏の落ち葉の前で朝の音や香りを楽しむ

 

 

深呼吸して朝のエネルギーを体いっぱいに取り込む

 

さんぽの後のティータイムはいつ終わるともしれず・・・

 

ツアー途中や終わってからの参加者の皆さんからは「会話が弾んだ」「心の洗濯ができた」「子育てが終わった開放感で『自分の時間』を満喫した」などの嬉しい言葉をいただきました。「途中で料理のスパイシーな香りを感じた」というコメントもあり、レストランから漏れる微かな匂いを敏感に感じ取られた参加者もおられました。ご家族で参加いただいたグループでは、終了後のアンケートの時間にお子様が北側エリアの大銀杏や壁に貼られたタイルを色鉛筆を使って描いてくれたという、とびラーを感激させるエピソードもありました。

 

従来の建築ツアーを発展させた、初めての「五感ツアー」。約50年前、現在の建物を建てる際に考慮された「周辺の木を残す」「公園環境との調和」が今日まで守られてきた東京都美術館だからこそ、このツアーの価値を生んだものと思います。そして何よりも、ツアーを実施した全員が「とびラー」として都美を何よりも愛していることが、素晴らしい時間を創り出しました。

 

 

 

◆参加者アンケートより

 

・何度も訪れたことのある場所なのに、新たな気づきがありました。

・心の洗濯ができました。

・混んでいない静かな美術館は初めてでした。また散歩に来たいと思います。

・朝、早起きして来て良かったです。

・この散歩を体験したことで、何度も訪れていた美術館が、より身近で好きな場所になりました。

・今までにない都美の姿がみられ、心も体もあったかくなりました。朝っていいな~と感じました。

・美術館とそれを取り巻く環境を、五感を意識しながらガイドしていただいて、新鮮でした。

・歴史を感じる銀杏が愛おしく思えました。

・ふだん「五感を使う」ということをほとんど意識していない自分に気づきました。

 

他にも多くの参加者の方が、作品を鑑賞するだけではない美術館の魅力について書いてくださいました。アンケートにご協力くださった17人すべての方から「とても満足」の評価をいただきました。

 

第1日目の振り返りを終えて、充実した笑顔。

 

第2日目の振り返りを終わって、やり遂げた気持ちと少々の疲れが表情に。

 

 

◆終わりに

 

企画、準備、当日のプログラムに続き、最後のミーティングである「解散回」にたどり着いて、とびラーはこんな意見を出し合いました。

 

・ラボのプロセスが紆余曲折を経たけれど、とびラーの知恵が集まって形になった。大変だったからこそ、達成感も大きかった。

・通常のプログラムでは先にガイド役のとびラーが説明し、それを受けて参加者が何かを発見するという過程を経るが、このラボでは参加者が五感を使って先に発見し、とびラーから必要に応じたプラスアルファ(建築のことや木々などの周辺環境のこと)を紹介する。そんな「逆転の発想」が他のプログラムと違って良かったと思う。

・とびラー・スタッフ・参加者とたくさん話をした。参加者と対話をして、私たちが伝えたかったことを感じ取ってもらえてよかった。美術館が人と繋がる場・ひとと対話する場になった。

・「五感」とは何かをもっと深めてから、具体的なプログラムに落とし込みたかった。

 

当日のプログラム成功ももちろんですが、苦労の末にプログラム実現にたどり着いたプロセスにこそ「とびラボの醍醐味と達成感」を感じた半年間でした。

 

今年度、また次のとびラーが再度このラボを立ち上げて、みんなで悩み、より進化した「朝の都美さんぽ」を皆様にご案内できるものと信じています。ご期待ください!

 

 


執筆:12期とびラー 岡 浩一郎

民間企業を定年退職した半年後に出会った、とびらプロジェクトの募集のパンフレット。興味のままに応募して、縁あってとびラーになって、1年が経過しました。自分のための時間が沢山できた時にこのプロジェクトに巡り会ったのも運命と思って、毎週のように上野に通っています。

基礎講座④|会議が変われば社会が変わる

2024.05.25

 


 

【第4回基礎講座 会議が変われば社会が変わる】
日時|2024年5月25日(土)10時~15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
講師|青木将幸
内容|とびラーの自主的な活動には、直接コミュニケーションをとるミーティングの場のあり方がとても重要です。ひとりひとりが主体的に関わるミーティングの場をつくるために、ミーティングの理想的なスタイルや具体的な手法を、レクチャーやワークショップを通して学んでいきます。

 


 

とびらプロジェクトでは、とびラー同士が自発的に開催するミーティング「とびラボ」があります。さまざまな関心を持った多世代の人が集まってアイディアを重ねるため、とびらプロジェクトではミーティングを大切にしています。

 

アイスブレイクの「ご近所さんこんにちは!(自己紹介)」でみんなの緊張がすっかりとけた後、本題に入っていきました。

 

 

「ミーティングをうまくやるコツとして、五感を使ってみる方法があります」と青木さんから語られ、【聴覚】【視覚】【触覚】【嗅覚】【味覚】それぞれの感覚に着目しながら、ミーティングについて考えていきました。

 

まず聴覚については、第2回基礎講座「聞く力」を思い出し、相手に関心を持って聞くことの大切さを改めて意識しながら、3人組でミーティングをしました。

これはミーティングのファースト・ステップで、安心して話せる場がうまれることを体感しました。

 

視覚では「お好きなものは何ですか」をお題にグループで話をし、1人がみんなに見えるように書き留めました。ミーティング後、みんなで書かれたものを見ることで、再び情報を得られることを学びました。

 

触覚は、各自が持参したお気に入りの小物を、他のとびラーは目をつぶって手で触って味わうというミーティング。

 

目をつぶって触ったとびラーが「ん?なんだ、これは?」とつぶやくと、その様子を見ている小物を持ってきた本人が「この辺りを触るとわかるかも」とヒントを出しながら、会話が進みます。

触ってどんな感じがするかを語り合ったり、持ってきた理由を話したりすることでミーティングの場がどんな様子で進むかを体感しました。

 

「会議は言語で進みがちですが、ミーティングに変化をもたらしたいとき、触覚を使うことで脳がひらいて新しいアイディアが出やすくなります」と青木さんから語られました。

 

 

嗅覚では「人は香りによる意識がかわる。ミーティング進行者の中は、みんなにこの場をどんな気持ちで進めてほしいを考えて、室内にお香を焚いて迎えたりする」という事例のお話がありました。とびラーからは「あ~」という感嘆の声がもれていました。

そして、青木さんがスプレー出してプシュッとすると、淡路島の檜の香りに包まれました。嗅覚による気持ちの変化を体感しました。

 

そして味覚は、お菓子を食べながら。なぜ自分がこのお菓子を持ってきたのかを語りながら、ミーティングを進めて行きました。味覚を共有すると繋がりが深まることに気づきました。

 

 

五感を丁寧に使うと、ミーティングの質がよくなってくることを実感したのではないでしょうか。

 

 

そして、午前中の最後は「とびラー流のよい会議『グッド・ミーティング』って?」を、7~8人で語り合いました。それぞれの考えをホワイトボードに書き出すことで、参加する全員が同じものを見ながら考えを共有していきます。

 

 

午後は、実践です。みんなで話したいお題を出し合い、好きな話題を選んでミーティングをしました。その後はそれらをみんなで共有です。

自分たちで考え、導き出した『グッド・ミーティング』の要素を意識しながら進めることで、納得感を持ってミーティングを進められたことでしょう。

 

 

とびラーの本当の実践はこれからです。今回感じたこと・発見したことを忘れずに過ごしていただけたらなと思います。

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)

 

【開催報告】野外彫刻を楽しむ

2024.05.19

東京都美術館の正門から美術館内に向かう広場に野外彫刻があるのをご存じですか。「あの銀色の大きな球?」そうです。それだけではありません。東京都美術館には、いつでも会える10点の野外彫刻があります。私たち、東京都美術館のアートコミュニケータ、通称「とびラー」は、日々の活動の中で「野外彫刻っておもしろいかも?」と、その魅力に気がつき始めていました。

東京都美術館の数少ない常設展示である野外彫刻を、多くの人と対話を通して鑑賞し、新たなコミュニケーションの場を作りたい。野外彫刻に関心を持っていただき、発見や楽しみを分かち合いたい。そんな思いでこの企画を始めました。

 

 

 

  1. 準備

・・

(1)徹底的に楽しむ

2023年4月のラボの立ち上げから約半年にわたる活動では、まず、自分たちが野外彫刻の魅力を徹底的に楽しむことから始めました。雨の日には、水に濡れて変わる素材の石の色や水滴の魅力、晴れの日には、光の反射、ひなたと日陰のコントラスト。新緑の背景、聞こえてくる鳥の声。季節や時間が違うことで様々な彫刻の顔が見えます。野外彫刻の足元に咲いている小さな花や、建物の色が彫刻に映る美しさも新たな発見です。近づいてみたり、離れてみたり。みんなでわいわいと話しながら、「よく見る」「感じる」「話す」「仲間の意見をよく聞く」のステップを踏むことで、一人では気がつかなかった多くの発見を共有していきました。その過程の中で、野外彫刻がどんどん愛おしく感じられて、「魅力を伝える」モチベーションが高まっていきました。

 

 

(2)作品研究

次のステップでは、それぞれの作品研究を行いました。担当を決めて、作者の人となりや、エピソード、作品の背景や素材、他にはどんな作品があるのかなど、様々な角度から参考資料を当たり、手作りのスライドなどを使って発表会を行いました。メンバーの声で印象的だったのは、「事前にみんなで自由に作品を楽しんでいたから、作者の意図や背景がすっと胸に落ちた気がする。最初に調べて、頭でっかちになって作品を鑑賞しても、この面白さは味わえなかったのではないか。」という言葉でした。仲間と自分自身が調べた情報を共有することで、作品への愛着が深まっていきました。

 

 

(3)プログラムの検討

野外彫刻への高まる愛を胸に、この面白さをどう参加者に伝えることができるか、その方法の検討が始まりました。鑑賞する作品、グループの人数、スタッフの役割分担、タイムスケジュールなど多くのことを具体的に決めていきました。

こだわり①

私たちのプログラムでは、「自分が気になる作品を担当する」ことを大事にして、ファシリテータを務めるとびラーが希望する作品を自ら案内することにしました。どの作品も魅力的ですが、とびラーそれぞれの思い入れがある作品を案内する時の熱意は、必ず参加者に伝わって、いい結果を生むのではないかという考えでした。

こだわり②

楽しい鑑賞を行うためには、参加者が安全に安心して過ごしていただくことが不可欠です。実施を予定した9月は初秋とはいえ、暑い屋外で過ごすため、熱中症予防に鑑賞の合間に空調の効いた建物で一度休むコース設定や、水分補給の声かけを行いました。また、鑑賞するふたつの作品がある東門のエリアは、大きな木に囲まれて、館内にいながらにして自然を感じられる場所なのですが、なんと蚊が多い。そのため虫よけスプレーをサポート役が携帯し、必要に応じて使えるよう準備しました。

(4)トライアルとアイスブレイク開発

プログラムの骨組みが決まると、とびラー仲間から参加者を募集して、本番さながらにトライアルを行いました。そこで寄せられた意見も反映しながらリハーサルを重ねて、安心・安全かつ、みんなで楽しめるプログラムへとブラッシュアップしていきました。

あわせて検討したのは、作品鑑賞に入る前のアイスブレイクの時間をどう過ごして、頭と心のウォーミングアップを行ったらいいだろうかということでした。ここで誕生したのが「小さな立体を作るゲーム」です。

まず、立方体、球体、円筒など、用意した様々な形の木材と石から、各自が3つ程度のパーツを選び、それらを組み合わせて立体作品を作ります。

次に、全員椅子から立ち上がり、机の周りをまわって、360度からそれぞれの作品をよく見て鑑賞しあいます。その後、気になった作品が「どのように見えるか」、そして作った本人が「どういうイメージで作ったか」を語り合うゲームは、仲間の言葉から、自分では意図していなかったことへの気づきと共感があり、トライアルでも期待以上に盛り上がりました。

作品を三次元でよく見ることの大切さ、鑑賞は自由であること、遠慮をせずに意見を声に出すことなどを体験し、グループで鑑賞するためのウォーミングアップになるという手ごたえを感じるものとなりました。

 

 

 

2.プログラムの実施

さて、いよいよ本番です。事前にホームページでお知らせし、一般応募いただいた方をお迎えして、同じ内容で2回行いました。

 

開始前に気合を入れるメンバー


野外彫刻を楽しむ

開催概要

■開催日時: 2023年9月30日(土)と10月7日(土) 14時~16時

■参加人数: (9/30) 一般参加者 13名 とびラー:13名

・・(10/7)一般参加者 14名 とびラー:17名

 

■会場:東京都美術館屋外エスプラナード及び東門、アートスタディルーム

 

■プログラム概要:参加者が4〜5名のグループに分かれ、アイスブレイクを経て、野外彫刻3作品を鑑賞する。室内に戻りグループごとのふりかえり、その後全体で鑑賞したなかでの発見や気づきを共有する。


(1)開会~アイスブレイク

冒頭ではアートスタディルームでスライドを使い、プロジェクトとプログラムの概要を説明し、みんなで野外彫刻を鑑賞するコツ「よく見る・感じる・言葉にする・よく聞く」で、自由に楽しみましょうとお伝えして、グループごとにプログラムがスタートしました。

 

まずはお互いのことを知り、発言しやすい場をつくるために自己紹介。アイスブレイク「小さな立体を作るゲーム」では、ひとつの作品をいろんな角度から鑑賞し、少し体を動かしたことで緊張もほぐれ、それぞれの自由な発想に「なるほど!」とうなずくうちに、自然と和やかな雰囲気になりました。さぁ、野外彫刻の鑑賞にわくわくしながら出発です。

アイスブレイク「小さな立体を作るゲーム」

 

(2)作品鑑賞

屋外には、正門から建物中央棟に向かう広場「エスプラナード」に大きな金属の球体や、直方体や立方体を組み合わせたもの、東口の入口近くの空間には文字が刻まれた巨石などの彫刻が展示されています。

今回は全体で7点の作品を、3つ、グループ毎に選んで順番に鑑賞していきました。大きな作品を囲んで最初は自由に、周りをぐるぐる回りながら360度から見たり、離れてみたり、近づいたりしながら自由に鑑賞します。最初は遠慮しながら発言していた参加者たちも、ファシリテータの声かけで、ひとことずつ、つぶやくように気づいたことをシェアしていきました。そのうちに改めて作品を見直しながら「本当だ!」「確かにそうですね。」「こっちから見ると面白いよ。」と、どんどん発言が活発になり、グループのなかでの気づきが増えていきました。そして、2作品目、3作品目と鑑賞を重ねるうちに、すっかり打ち解けて、自然に言葉が交わされるようになり、鑑賞が深まっていく様子がはっきりと伝わってきました。

 

鑑賞の様子

 

作品と作品の間の移動では、みんなでおしゃべりをしながら歩くのも楽しい時間でした。途中、にわか雨に降られて室内から作品を眺めたり、暑さを避けてアートラウンジで涼んだり。東口の手前にある大きなイチョウの木からは、たくさんのギンナンが落ちていて、踏まないようにそうっとつま先立ちで歩くのも、ちょっとした冒険気分でした。(2回目の開催時には、美術館の清掃の方にプログラムに合わせてギンナンをお掃除していただき、一同感激しました。)

(3)ふりかえり~閉会

約1時間の鑑賞を終えて、アートスタディルームに戻ります。参加者のみなさんの笑顔からは、充実した時間が伝わってきて、このプログラムの最大の目的であった「野外彫刻を楽しむ」ことは実現できたかなと胸が熱くなりました。

アイスブレイクと同じ、グループごとのふりかえりでは、野外彫刻の鑑賞体験で気づいたことの話に花が咲きます。特に「美術館には何度も来ていたけれど、今まで通り過ぎていた野外彫刻がこんなに面白いものと気づくことができた。」「みんなで観ることで、自分ひとりでは気づかなかったことや、考え方を知ることができて楽しかった。」などの感想は、どのグループからも聞こえてきました。

最後にとびラーから、それぞれのグループでどんな感想が出たかを発表して、全員で分かち合いました。みんなで観ること、言葉にすること、そしてそれを聞くことで得られる多くの喜びや、気づいたおもしろい疑問からは、今まで見えなかった世界の扉が開かれる機会となったことがうかがい知れました。

 

ふりかえりの様子

 

4.参加者の感想

プログラム終了後にご記入いただいたアンケートから、参加者の声を一部ご紹介します。2回で計27名の参加者全員から「大変満足」の評価をいただいた結果に驚くとともに、改めて野外彫刻には多くの人を惹きつける魅力があることを確信しました。

(アンケートから抜粋)

・いつもきちんと見てあげていなかった作品たちを正面から横から後ろから見て、常設作品だからこそ数々の楽しみ方があるんだと気づくことができました。

・他の人の意見を聞くことで、自分だけでは考えられなかった視点を得ることができた。

・長い時間の予定でしたので心配でしたが、すぐに時間がたってしまって、とても楽しかったです。

・導入の作品づくりが楽しく、作品鑑賞の助けになりました。

・とてもゆったりしたタイムスケジュールで、みなさんとの鑑賞をたっぷり楽しむことができました。

・これからは街とかにあるオブジェにも心を向けてみようかなって思いました。

・彫刻作品と認識すらしていなかったものが、とてもおもしろいものに変化するという貴重な体験をさせていただきました。

・自由に意見を言える環境だったのがとても良かった。心理的安全性がとても大切だと再認識した。

・ファシリの方が導入してくださったことが、自然でじっくりたのしめた。

・季節が美しく、彫刻が一緒にすごしてくれてる感じ、又たのしんでみたいです。

 

5.最後に

参加者のみなさんのすてきな笑顔に、改めてこんなに魅力的な彫刻たちにいつでも会えることの喜びをかみしめる場になりました。長い期間にわたって、それぞれの仲間が得意技を活かし、意見を重ねて作り上げた野外彫刻を楽しむプログラム。参加してくださったみなさんに心から感謝し、今回の一歩が、野外彫刻の魅力を知る喜びをさらに広げていくことを願っています。

どうぞみなさん、次に東京都美術館にお越しの際は、ちょっと野外彫刻の前で立ち止まってご覧ください!そこにはきっと、新しい扉があります。

(東京都美術館の野外彫刻 https://www.tobikan.jp/archives/collection.html

 

ありがとうございました!

 

 


 

執筆:11期とびラー 曽我千文

好きな野鳥のガイドをしています。対話型鑑賞には感動を分かち合う喜びのヒントがあると思い、とびラーになりました。生きとし輝けるもの全てに、それらを介した人とのつながりが生まれることを確信し、楽しくてしかたがないとびラーライフです。

 

基礎講座③|作品を鑑賞するとは

2024.05.11


【第3回基礎講座 作品を鑑賞するとは】
日時|2024年5月11日(土)10時~15時
場所|東京藝術大学美術学部 中央棟2階 第3講義室、東京藝術大学大学美術館
講師|熊谷香寿美(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係 係長)
内容|作品の鑑賞について理解を深めます。作品が存在することによって起こる体験とは、私たちにとってどのように意義があるのか、それらを鑑賞することの意味についても考えてみます。
・美術館体験とは何か?
・鑑賞とは何か?


とびらプロジェクトの鑑賞を体験する・知る

作品を鑑賞することは、美術館を拠点にアートを介してコミュニティを育むとびらプロジェクトの基盤となる活動です。基礎講座3回目では、「作品を鑑賞すること」を考えるレクチャーとともに、 美術館で実際の展覧会の作品を鑑賞しながら講座を行いました。


午前の体験

午前中は、とびらプロジェクトマネージャの熊谷さんからレクチャーを聞いた後、昨年の鑑賞実践講座に参加していたとびラーのファシリテーションで複数の人がともに作品を鑑賞する体験をしました。鑑賞するのは、講座当日に東京藝術大学 大学美術館で開催されていた「大吉原展」(会期:2024年3月26日(火)~5月19日(日))です。

実際の展示室に行く前に、まずは作品図版をじっくりと観察し、気づいたことをグループ話し合いました。

そのあと展覧会場に移動し、本物の作品を味わいました。

 


午後の内容

午前の体験も交え、作品を鑑賞することを、単なる「受容」ではなく、その人なりの「意味・価値の創造が行われる時間」であるということを、映像やテキストも丁寧に見ながら理解していきました。

また、とびらプロジェクトの特徴でもあるお互いに話をききあうことのできるコミュニティでの「共同的な学び」が、複数の人で作品を鑑賞する上でも重要になることについて考えました。


・・

今年度のとびらプロジェクトには、全盲の方が1名、13期とびラーとして参加しています。視覚情報のない方と一緒に講座の中で映像・画像・作品を見ることについて考えることで、関わる人みんなにより伝わりやすく内容がブラッシュアップされていきます。

基礎講座は折り返し地点となりました。

後半あと3回の講座では、アートを介したコミュニティのあり方・活動の作り方についてみなさんと考えていきたいと思います。

(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)

【とびラボ活動報告】とびdeラヂオぶ~☆

2024.04.28

『とびdeラヂオぶ~☆』はとびラボです。
活動期間:2023年7月~2024年3月
頻度  :月に1~2回

 

■「とびLOVE#1」のゲスト・スタッフ越川さんととびラーで試聴する様子

 

■趣旨 美術館に興味のない人や足を運んだことのない人のきっかけをつくりたい。
( “すべての人に開かれた「アートへの入口」”に足をかけてほしい!)

 

■ラジオをツールとしたのはなぜ?
このとびラボは、「とびラーのなかでラジオをきく人が思っていたよりたくさんいたので、『ラジオとアートコミュニケーションをテーマに話してみたい』」というラジオの仕事に携わっているとびラーの思いがきっかけとなり始まりました。話していくなかで、ラジオは話し手と聞き手が1対1でつながるメディアであること。その強みを生かしラジオを通して 「東京都美術館の魅力を知ってもらいたい!」「東京都美術館に関わる様々な人の話や推しポイントを我々メンバーがききたい!知りたい!」ということになりました。

 

■これまでのラボの流れ

 

▼なりきり期…集まったメンバーで自身がラジオDJになったつもりで、好きな音楽を選曲し自己紹介。
また、ある日のラボでは「マティス展」が開催中だったので、マティスの作品をイメージして各々音楽を選曲してみました。そのようにしてみたことで、音楽とアートという組み合わせでできることについて話が膨らみました。

 

▼迷走期…ラジオを介してしたいこととは?となったとき「東京都美術館のミッションに立ち返ろう」「興味のある人は自ら情報を取得するけど、そうでもない人たちにも知ってもらうきっかけをつくりたい」「中高生の放送部と一緒になにかできないか?」など、思いばかりがどんどん膨らみ迷走してしまったのでスタッフに相談したところ、結局わたしたちは「ラジオ番組が作りたいんだ!」という明快な答えにたどり着きました。とはいえ、ラジオ番組を制作したことがないメンバーがほとんどだったので、どのような形で実現できるのか、録音や進行も試しながら、まずはとびラー同士で聞けるような番組を制作してみようということになりました。今回の企画の内容は①美術館に関わる様々な人(警備員さん、ショップ店員さん、来館者など)の話を聞きたい。②とびラー内コミュニケーションの活性に役立てたい。この点に関しては、約130人のとびラーそれぞれが様々な活動に取り組んでいるため、お互いが知り合うきっかけが意外と少ないと感じました。そこで、ラジオというメディアを通してとびラー同士がお互いを理解する機会を作りたい。そうすることで、とびラー同士のコミュニケーションがより活性化し、活動の幅が広がるのではないかと考えたのです。この思いを形にするべく始動しました。スタッフにも相談し、まずは身近なスタッフやとびラーに美術館についての話を聞くという、インタビュー番組の制作が決定しました。

 

 

▼制作実践期
方向性が決まり、さっそく「とびLOVE」というタイトルの番組制作にとりかかりました。この番組タイトルには、愛してやまない東京都美術館への思いを語ってほしい・聞きたいという意図をこめました。番組の長さは10分程度で、移動中やすきま時間に気軽に聞けるよう、また内容は、話してくれる人の人柄が少しでも伝わるものにしようと決めました。
制作過程…基本的にインタビュアーが話してみたい人に自ら依頼するところからスタートします。収録はハンドサイズのレコーダーを使用しました。ヘッドホンをつけて、音声がうまく録れているか音のバランスを確認しながらの作業です。初めての収録の時はドキドキでした。収録場所はとびラーの主な活動場所であるアートスタディルーム。初めのうちは部屋の静かな場所を選んでいましたが、進めていくにつれて同じ部屋でミーティングしている他のとびラーの声も番組のエッセンスとして収録するようになりました。

 

編集作業も、とびラーが担当。番組にはオープニングテーマやエンディングテーマもつけ、場面転換に使用する番組のタイトルを乗せた「ジングル」は、ギターを弾けるラボメンバーが作りました。また、番組タイトルをラボメンバーの子どもや、ゲスト出演者に言ってもらい、その声を乗せたバージョンのジングルも制作。様々な声が番組にいろどりを添えることになりました。出来上がった番組はラボメンバーで試聴し、カットしてもいい部分について話したりして最終的な番組の形に仕上げます。そして、とびラーには聞こえない・聞こえにくい仲間がいるので、文字でも番組の内容が楽しめる「文字版」を制作することにしました。番組の最終版が出来たところで文字起こしを行いそれをもとに文字版を制作します。文字版もラボメンバーで最終チェックをして完成です。完成した番組はダウンロードで聴取できるようデータをアップし、とびラー全員が聞けるようにお知らせをしました。

 

 

番組について…第2回目からはゲストにインタビューする人と、番組のオープニングとエンディングの案内役(ナビゲーター)を分けることにしました。そうすることでインタビュアーが変わっても番組の始まりと終わりをいつも同じ声でおとどけできるので番組自体の統一感がでました。また、全5回を通して共通していることはゲストの人となりが分かるインタビューだということです。いつも接しているスタッフがアートと関わることとなったきっかけや、とびラーがなぜとびらプロジェクトに応募しようと思ったのかについて触れることで、距離が縮まった感じがしたり、普通に接していただけでは触れられなかったかもしれない考えや思いを知ることができたりと毎回“驚きや感嘆、新しい発見”があるこのインタビューはとても個性豊かです。インタビュアー×ゲストの化学反応はもちろんですが、インタビュアーによって雰囲気が変わるのです。そして、録音に際しては、他のラボも開催中の部屋で協力してもらいながら実施。番組内でBGMのように様々な声が聞こえてくるのもとびラーの日常が感じられます。

 

 

文字版について…聞こえない・聞こえにくいとびラーとも番組の雰囲気や出演してくれたゲストについて共有したいという思いから、目でも楽しんでもらえるようにするため、ただの文字起こしではなく、収録時の様子を書き足したりしています。そうすることよって、聞こえるメンバーにも音だけでは伝わらない部分を伝える手段にもなりました。

 

 

 

番組を聴いたとびラーからの感想…番組ナビゲーターを担当したとびラーの口調のファンという人、「みんなの好きなことが集結してできている感じがいい」「(ゲストの)活動の様子や思いがきけてよかった」「文字版は、音だけでは伝わらなかったところまで知ることができる」などの声が寄せられています。聴いた・見た感想をきけるのもラボメンバー以外のとびラーが関心を寄せて支えてくれているからで、励みになっています。このやりとりがとびラー同士のコミュニケーションにもなっているはずです。

 

 

■『とびdeラヂオぶ~☆』は数多く存在するとびラボのなかのひとつのラボです。
我々とびラーが愛してやまないラブの対象・東京都美術館に来てみてほしい。そのきっかけになるようなことを発信したい!と思いつくままに意見を出し合い、膨らませ、想像してきました。たどり着いたのは、まずは身近な気になる仲間の美術館への思いを聞いてみようということでした。このラボを通してゲストの話をきけばきくほど、もっと他の人の話もききたい!という、ききたい欲が湧いてきました。
ラボメンバーからは「妄想から始まってだんだん具体的になって、これからどう発展するか楽しみ」「スタッフやとびラーの人となりをラジオを通してとびラー内に発信できたことで、親しみがわき接するときの心持ちが変化した」「番組を聴いて寄せられた感想を通して、出演してくれたとびラーだけでなく感想をくれたとびラーの人柄もわかった」「寄せてもらったメッセージからどんな思いで聴いてくれているのか想像をかきたてられ励みになった」という声があがっています。また、文字版については「全く予想していなかったが、その場の雰囲気まで伝えられるものになった」「聞こえない・聞こえにくいとびラーにも届けたいと考えて出来た文字版が、聞こえるとびラーにも音で伝わる以外の部分を感じてもらえることにつながった」「文字というのは形も音に通じるものがあると思う」「それぞれの人の持っている個性にあった文字があるように、番組らしいカラフルな文字版があると視覚的によりうまく伝わるのではないか」などの見解もでました。

番組も文字版もまだまだ可能性を秘めているとメンバー全員が感じているところですが、10期のとびラボメンバーが開扉するのを機にいったん解散。
スタッフ、とびラー仲間はもとより、その輪を広げて美術館に関わっている様々な人々に話をききたい。そして、知りたい、知らせたい。このラボを通して美術館と人とをつなげたい思いは広がっています。

とびラブはつづく・・・。乞うご期待!!

 


執筆:

 

柴田 麻記(12期とびラー)

アートを介して社会とつながるとは?
私の最も身近なコミュニティは家族です。
その家族との関わりにとびラー活動で得たものを生かす実験中。
広がれ、化学反応。

 

 

染谷 都(12期とびラー)

ラジオ番組制作ディレクター。
ラジオは目の不自由な方に寄り添うメディアといわれていますが、今回耳が聞こえない・聞こえづらいとびラーへの情報の届け方を考えるよい機会になりました。この4月から全盲の仲間が加わり、このラボの意義が問われてくる予感⁉︎

基礎講座②|「きく力」を身につける

2024.04.27


 

【第2回基礎講座 「きく力」を身につける】
日時|2024年4月27日(土)10時~15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
講師|西村佳哲
内容|コミュニケーションの基本は、上手な話し方をするのではなく、話している相手に、本当に関心を持って「きく」ことから始まります。この回では、人の話を「きく力」について考えます。
・話を〈きかない〉とはどういうことか?
・話を〈きく〉とは? また、それによって生まれるものとは?

 


 

基礎講座の第2回は「きく力」がテーマでした。
この「きく力」はとびらプロジェクトが大切にしていることのひとつで、毎年1年目とびラーは西村さんのこの講座に参加します。

 

西村さんの挨拶や講座の進め方の話が終わると、早速「隣の人と2人組になって自己紹介してみましょう」「次は別の人と3人組になって自己紹介を!」と進み、13期とびラーたちの緊張がとけていく様子が伺えました。

 

いよいよ本題です。

 

まず西村さんから「きく力は、なぜ大事?」いう問いかけがあり、はなし手・きき手・観察の役割をローテーションしながら、いくつかのワークをグループでおこない、それぞれのきき方が相手に与えていた影響について語り合いました。

 

これらをふまえて、西村さんから「「きく」には【話の内容】に関心をある場合と【その人】に関心をもつ場合がある」という話がありました。

自分は普段どんなきき方をしているかを考えるきっかけになったとびラーも多かったようです。

 

午後は、午前のワークや話を、別の角度から捉えた話からスタートしました。

「事柄を正確に理解するのがひとの話をきくことだと思っている人が多いが、これは「きく」の一部。はなし手にとって言葉(概念)になっていないこと・気持ちもたっぷりある。そこに関心を向けることが、その人に関心を向け続けるということなのではないだろうか」と西村さんは語ります。

一文字も逃すまいとメモをとる人、うなずく人、西村さんの顔を見つめる人。とびラーそれぞれが西村さんの話に聞き入っていました。

さらに進んで「言葉の抽象性」について。

その言葉を使わないで説明するというワークを通して、同じ言葉でもそれぞれイメージしていること・ものが異なることを体験し、「意味や経験はひとりひとり違う」の理解を深めました。

 

 

最後に、とびらプロジェクト マネジャーの熊谷さんから、「とびらプロジェクトでは、お互いに関心を持ち合える関係性、ききあえる・はなしあえる関係性が大事だと思っています。それによって思ってもみてなかったようなアイディアが出てくる。そういうことを実践していくコミュニティにしていければと考えています」との話がありました。

 

この講座を受けたからといって、すぐにきく力がグーンッと高まったり、なぜきく力が大事か明確になったりすることはないかもしれません。

しかし何かしら「きく」について考えたのではないでしょうか。

13期とびラーには、ゆっくりじっくり自分のペースで、きく力を身につけていってもらえたらと思います。

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)

基礎講座①|とびラー全員集合!オリエンテーション

2024.04.13

 


 

【第1回基礎講座 オリエンテーション】
日時|2024年4月13日(土)10時〜15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム、東京藝術大学 美術学部 中央棟2階 第3・4講義室

 


 

51名の新しいとびラーを迎え、13年目のとびらプロジェクトがスタートしました。
基礎講座初回の午前は、とびラーの活動の拠点である東京都美術館アートスタディルームに13期のメンバーが集まり、活動に必要な情報のオリエンテーションや、2~3年目とびラーによる館内ツアーを行いました。

 

午後は東京藝大の講義室に11~13期とびラーと、東京藝大・東京都美術館のスタッフ全員が集合し、今年度のキックオフを行いました。

 

 

 

 

今年度も美術館を拠点にアートを介したコミュニティの輪を広げていきたいと思います。
13期とびラーのみなさん、これから3年間よろしくお願いします!

 

(とびらプロジェクトコーディネータ 越川さくら)

【開催報告】凹版ワークショップ「はじまり展のキャラクター ケエジンたちをプレス機で刷ってみよう!」

2024.03.27

日時|2023年7月31日(月)

・・・午前の部 ①10:30 ②10:50 ③11:10

・・・午後の部 ④13:00 ⑤13:20 ⑥13:40 ⑦15:00 ⑧15:20

場所|東京都美術館 アートスタディルーム

対象|18歳以下の方とその保護者

 

7月22日(土)から始まった『うえののそこから「はじまり、はじまり!」荒木珠奈 展』(以下、「はじまり展」)内で開催された「キッズ+U18デー」に合わせて、凹版ワークショップを開催しました。

 

 

「はじまり展」には「ケエジン※」という、不思議なキャラクターが潜んでいます。

このワークショップは、厚紙やプラスチックの板にニードルなどでケエジンを描き(製版)、描いた溝にインクを詰めて表面の余分なインクを拭き取り、プレス機で刷る、という凹版(おうはん)の手法を体験してもらうものです。

 

 

※荒木珠奈さんが同展覧会のために作られた《記憶のそこ》から生まれた精霊(キャラクター)。展覧会を案内する精霊として、展覧会場でのサインやポスターにちりばめられていました。

 

 

「はじまり展」には荒木さんの銅版画も多く展示されていました。銅版画というのは凹版の一種ですが、まずその仕組みを口で説明するのがなかなか難しく、一般の方が体験する機会もそれほど多くはありません。

 

理解してもらうには体験してもらうのが一番。とにかく体験してもらいたい! その体験を通して、キャラクターや展覧会に親しみを感じてもらえたり、作品への見方が深まったりするかもしれない、というのが企画をはじめた頃に考えていたことのひとつでした。

 

凹版についてのお話からスタート

 

ニードルを使って描きます

 

ゴムベラでインクをのせて、寒冷紗で拭き取ります

 

プレス機を回して…刷れた!

 

版と刷り上がった作品を台紙に貼って、完成!

 

 

「描く」「インクを詰めて拭き取る」「プレス機で刷る」という3つの工程を順に進み、最後はラッピングをして完成です。

 

参加された方の多くが、最初は緊張していた表情も、出来上がる頃にはすっかり笑顔になって「たのしかった!」と会場を後にしていく姿に、こちらがギフトをいただいたようなうれしい気持ちになりました。

 

海外から旅行中の方も参加されて、英語と中国語の翻訳にUDトーク(音声認識/自動翻訳アプリ)を活用する場面もありました。

 

 

終了後のアンケートコーナーでは、付箋に感想を書いてホワイトボードに貼ってもらうことにしました。たのしんで体験してもらえたことや、ケエジンを好きになってくれたことなどが伺えました。

 

 

当日は開始直前まで、お客さん来るかな? たのしんでもらえるかな? とドキドキしていた私たちとびラーでしたが、全8回、全ての回がほぼ満席となり、総勢64名以上の方が参加してくださいました。

 

LB階のエントランスで参加券を配布しました

 


 

今回使用した銅版用プレス機は、かつて荒木さんがワークショップで使っていたものです。十数年前に私が荒木さんから譲り受けたプレス機を持っていたことをきっかけに、15名のとびラーが集まってこの企画がスタートしました。前例のないワークショップでしたが、ひとりひとりが力を合わせ、手探りで試行錯誤を重ねて実現することができました。

 

同時期に開催していた「アート・コミュニケーション事業を体験する  2023展」 (7月29日(土)〜8月11日(金))の会場にも、このプレス機は展示されていました。

 

 

最後に

私がとびラーになった2021年は、コロナの真っ最中でした。出かけたり、人に会ったりすることにまだ制限がかかる日々でした。とびラー最後の3年目、ようやくたくさんの人に向けたプログラムが躊躇なくできるようになり、今回のワークショップを開催できたことは、とても幸運な巡り合わせだったなあ、とふりかえって感じました。

 

今回参加されたお子さんやご家族にとって、このワークショップが美術館でのたのしい思い出になっていたら、とてもうれしいです。

そしてまたいつか、どこかで版画に出会った時に、そういえば美術館であんな体験したなあ、と思い出してもらえる日が来ることを願っています。

 

 


執筆:

野口真弓(10期とびラー)

版画家。作品をつくりながら、「こどもとアート」をテーマに活動しています。自分一人でできることは限られているけれど、仲間と一緒だとこんなこともできちゃう。というのを体感したとびラー3年間でした。

 

 

【とびラボ活動報告】化粧史×化粧師ラボ

2024.03.27

【ラボ実施の経緯】

 

とびラー11期の菊地と、とびラー10期の金城。

11期と10期で期が異なる私たち。

複数のとびラボで一緒に取り組む過程を経て、個性が違う私たちで一緒にラボを行ってみようという話になりました。
ラボを行うなら自分達も楽しく取り組みたいという想いから、「アートと自分達が好きなもの・得意なことを掛け合わせてラボを行ってみよう」と2人で話し合いました。


金城は化粧が好き。
菊地は歴史が好き。


化粧の歴史から見るアートの世界は、今までの自分達の見方とは異なる視点から、アート鑑賞に膨らみと広がりを与えるきっかけになるかもしれない。

 

そんな想いから、「化粧史×化粧師」ラボを企画・実施しました。

 

化粧史×化粧師ラボは、2部構成で進めました。

①化粧史:化粧とアートの歴史を参加者が調べてきて発表する時間。

②化粧師:化粧品業界でお勤めの方がおり、眉毛カットを体験する時間。

 


 

💄化粧史:アートと化粧の歴史を学ぶ💄


2回にわけて開催しました。

1回目は、菊地が、化粧とアートの歴史について参加者への講義を行いました。

 

1回目の集合写真

1回目はZOOMを併用し、遠隔でもラボに参加できる設計にしました。

 

 

2回目は、参加メンバーが各々「化粧とアートの歴史」について資料を作成。作成した資料を元に発表し合いました。



自分が興味を持った「化粧が印象に残るアート作品」について、参加者には歴史を背景として資料を作成してもらいました。

発表は1人あたりの持ち時間を決め、順番に行いました。

 

参加メンバーで2回目実施の際に作成した資料の一部を紹介します。

 

日本の化粧とアートの歴史から、世界の化粧とアートの歴史まで、幅広く見ていきました。

「化粧の歴史」に触れた後、歌川国貞の《今風化粧鏡》と、ロバート・フレデリック・ブルームの《化粧する芸者》の2作品を見てみました。

江戸時代は、首筋をたしなむという表現があったほど、うなじの色気に重きを置いていた印象。
絵師は斜め後ろから描き、鏡を通じて対象者を描く構図が多い。
歴史を知りアートを見ることで、その時代に定義された美しさに着目して鑑賞する新たな視点を得られました。

 


 

💄化粧師:性別を問わず、化粧に触れてみよう体験💄

 

化粧関係の仕事に携わっているアート・コミュニケータがいたので、性別問わず化粧に触れられる眉毛カットと眉毛プロポーションのレクチャーを行っていただきました。

男性も女性も、眉が整うと印象が変わりますね。

眉毛を整えてもらった後の方が、表情が明るくなった印象です。

 


化粧史×化粧師ラボを実施し、アートと別ジャンルの掛け合わせの可能性を感じました。
男性の参加者も数名おり、このラボ実施まで化粧の観点からアートを見たことがなかったとのこと。
性別によらないアートの見方を1つ体得したという感想もありました。
眉毛カットでは、第三者を通して装うことを楽しみました。

装うことは人の視線を意識する行為の意味合いもあり、眉毛カットの様子を見守られることは、まるで自分が作品となり鑑賞者から見られているようだ、との声もありました。

 

アートと自分が興味・関心のあることを掛け合わせると、新しいアートの見方と出会える。
日常で接するものとアートを掛け合わせると、新しい世界が芽吹くかもしれません。

 

このラボを実施し、化粧の歴史は深く、西洋と東洋で化粧への異なるアプローチの仕方が絵画に反映されていることに気づきました。

古代エジプトでは、瞼に塗る顔料は日差しから目を守る効果もあったとのこと。

「綺麗に装う」だけではなく、「その時代の実用性も兼ねる」という観点から化粧を見ると、歴史を知る、アートを見る楽しさが広がりました。

発表の場を設け、共有したからこそ発見できた楽しさでした。

 

自分が楽しいと思ったことを、発信していく。

やりたいと思ったことに対し、誰かが興味関心をよせてくれる場がとびらプロジェクトであると感じたラボでした。

 

2回目の集合写真

眉毛を整える企画があったため、全員活動場所に集合しました。

 

 


執筆:

10期とびラー 金城明日美

とびらプロジェクトに参加して、美術館は作品を見るだけではなく、アートを通してつながるコミュニティスペースであることを知りました。より多くの方に、アートとつながりを楽しんでもらいたいです。

 

 

11期とびラー 菊地一成

個人的に美術を楽しんできましたが、とびラーになり、皆で作品を見る楽しさに目覚めました。その楽しさを十分堪能するには、人の話を「じっくり聞く」ということが大切だということも教えてもらいました。(会社の会議に参加するたびに、全員、鑑賞実践講座で鍛える必要があるな、強く感じる日々です。)

 

【とびラボ活動報告】消しゴムはんこラボ

2024.03.22

消しゴムはんこラボ。

 

消しゴムを彫ってはんこを作るラボ、と思われるかもしれませんがそれは活動の一部です。

作品を鑑賞してそれをモチーフにはんこを彫り、「障害のある方のための特別鑑賞会」の参加証送付用封筒に押し、参加証を封入し、特別鑑賞会でその封筒を展示して、来館者の方々に見て頂き、感想を聞くラボです。長いですね。

 

「障害のある方のための特別鑑賞会」とは障害のある方がより安心して鑑賞できるように、東京都美術館の特別展の休室日に開催する鑑賞会です。申込んだ人には参加証をお送りしていますが、よりウェルカムの気持ちをお伝えしたいと思い、特別展に関連するはんこを作成し、送付用の封筒に押して送付しています。

今年度は「マティス展」、「永遠の都ローマ展」、「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」で実施しました。

 


「マティス展」の特別鑑賞会の様子はコチラ

「永遠の都ローマ展」の特別鑑賞会の様子はコチラ


 

まずははんこのモチーフとなる作品を選びます。

展覧会で作品を鑑賞しながら、またはチラシや公式ホームページから彫りやすそうな、いえ、彫りたいと心が動く作品を選びます。

 

作品を選んだらどの部分を彫るのかデザインを決めます。

封筒に押すサイズは9×7cmです。これに収まるように縮小したり、一部分を切り取ったりします。

同じ作品でも切り取り箇所や表現に個性が現れます。

 

例えばチラシにも使われたこちらの作品。

 

同じ作品を元にしたのに、彫ったモチーフはこんなに違います。

 

 

 

このようにバリエーション豊かなはんこが出来ました。

 

         

そしてメインの彫り押し作業です。

初めて消しゴムはんこを彫る人も多かったですが、道具は100均でも揃えられ、

中学時代の彫刻刀を数十年ぶりに取り出す人もいました。

また道具を一度に揃えられない場合は、ラボのメンバーに借りて仕上げたりもしました。

 

 

線を彫るのか残すのか、どの線を生かすのか、おのおの作品と対話をしながら、黙々と彫り進めます。カニでも食べているのかと思うほどの無言の時間が流れます。彫っているところの写真はいつも頭頂部しか映りません。

 

 

彫り方はとびラー同士で教え合います。何期も前のとびラーから受け継がれている技もあります。事前にYouTubeの動画を観て勉強してくる人もいました。

 

彫れたらいよいよ封筒に押します。

 

図案を反転して彫っているので、押して初めてどんな作品かわかります。

また、インクの色や押し方でもイメージが変わります。

 

 

こうしてはんこの押された参加証送付用の封筒が完成しました。

 

 

 

様々なはんこができました。

 

 

並べると壮観です。

 

  

 

線そのものを彫る、線の周りを彫る、の違いや、一色で表したり、浮世絵のように色を重ねたり、同じモチーフでもこんなに違ったはんこになります。

 

違いを楽しむのも、消しゴムはんこの面白さです。

 

完成した封筒に参加証を入れる封入作業もスタッフと一緒に行っています。どんな方のお手元に届くのか、喜んでもらえるのか、どきどきしながら作業をします。

 

また、今年度から特別鑑賞会当日に消しゴムはんこを押した封筒の展示を行いました。

今まで参加証の封筒を受け取られた方から、押されたはんこについて「これは誰が彫っているの?」「みんな同じ絵柄なの?」「他にどんな絵柄があるの?」というお声を頂いたので、来館者の方々に消しゴムはんこを紹介しようとなったのです。

 

先ずは机上で展示のレイアウトを考えます。

その後、車椅子の方にも見やすいよう、目線を考慮して位置を調整していきます。

 

 

そして特別鑑賞会当日。

全ての封筒を展示したボードをアンケートコーナーに設置して、来館者を迎えました。

 

特別鑑賞会の申し込み方法は、Webフォームと、メール、はがきの3種類です。

メールとはがきで申し込んだ方には、参加証を封筒でお送りしますが、Webフォームで申し込んだ方は、参加証がメールで届くので、はんこが押された封筒の存在を知りません。8割以上の方がWebフォームからの申し込みなので、はんこが押された封筒をここで初めて見る方が大多数です。

また、封筒をお持ちの方も、他にどんな絵柄があるのか興味深げに見てくださいました。

 

 

封筒の絵柄や、モデルの実物の作品の感想を語ってくださったり、同じ作品でも彫る人によって表現の違いがあることに気付いてくださったり、多くの方が足を止めてくださいました。

 

今まで届いた封筒を全部取っておいている方、届いた封筒のはんこをイラストに描いてくれた方もいらっしゃって嬉しい驚きでした。

 

中には封筒が欲しいから次回はWebフォームではなく、はがきで申し込むと言う方もいらっしゃいました。嬉しい反面、時代に逆行して頂くのも気が引けるので、Webフォームで申し込んだ方には、封筒の代わりにはがきサイズの紙に押したはんこをランダムで1枚お土産として持って帰って頂きました。

 

 

裏返しにした紙を1枚引きます。どんな絵柄かは引いた後に表を見てからのお楽しみです。絵柄を見た方からは楽しげな歓声があがっていました。

 

消しゴムはんこラボは長く続いているラボですが、その時々で形を変えながら活動をしています。封筒の展示はコロナが明けた今年度から始めたことでしたが、今まで聞けなかった来館者の方たちの感想やお話を伺える貴重な機会となりました。

 

消しゴムなんて初めて彫るというとびラーも大勢参加してくれました。また、彫らなくてもボードの作成や封入作業に参加してくれたり、鑑賞会で来館者にボードの案内をしてくれるメンバーもいて、展示を盛り上げてくれました。

 

印刷かと見紛うほどの繊細なはんこを彫る人も、味がある太い線のはんこを彫る人も、彫らない人も、はんこを通じて作品と鑑賞者に向き合う。それが消しゴムはんこラボです。

美術館で作品を観た感動を何かに残したいと思ったそこのあなた、文章、模写の他に消しゴムはんこも一つの選択肢にぜひ加えてみてください。

 


執筆: 篠田綾子(10期とびラー)

超絶技を繰り出す人もいる消しゴムはんこラボで、初めての人も気後れせずに参加できるような大雑把なはんこを彫っています。上手くなくても楽しければいいんです。

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