東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

「自分の中の大切な思い出をいろんな題材を通して表現していきたい」藝大生インタビュー2020 | 絵画科日本画専攻 学部4年・芳野春惠さん

2021.01.25

心地よい冬晴れの 12月11日、東京藝術大学絵画棟へ絵画科日本画専攻の芳野春惠さんを訪ねました。

 

 

アトリエに入ってすぐに芳野さんの作品が目に飛び込んできます。大きなパネルに、青を基調とした落ち着いた色彩で描かれた一艘の船。象徴的な「船」を描くにあたって、絵に込める思いなどをお話しいただきました。

 

 

 

 

ー どのように制作されているのですか?

 

「パネルに描き始める前に下図を用意するところからはじめます。スケッチブックサイズで書いた線画の下図に色を落とし込んでいきます。実際に岩絵具で描いてみると、画面で見るよりも落ち着いた色合いになります。」

「今は二種類の下図を前に実際に描きながら、どちらの案で進めていこうか検討しているところです。2枚の下図は、トーンの明暗の違うものを用意しました。下図を参考に明度、彩度をみながら描いていきます。」

 

 

「制作は8月からスタートしました。まずは作品の取材からです。実在する公園の遊具を描こうとしたので、足を運んで写真を撮ったりスケッチしたり、作品の構想を練ったりしました。描き始めたのは9月ごろですね。」

 

ー 船と青が印象的な作品ですね

 

「描いているのは船をモチーフにしている遊具です。幼い頃によく連れて行ってもらった公園なので、その時の思い出、記憶を踏まえて制作しています。船をモチーフにした作品はいままでも描いてきました。船とか港町に馴染んできた幼少期の大切な思い出を絵にしようと、目の前の風景の実像を残すというよりは自分の記憶とイメージをもとに、あいまいで、不思議な感覚を残すように描いています。」

 

「この船の遊具そのものを忠実に描こうとはしていません。パースを付けて手前を大きく誇張して見せています。船のマストも実際にあるものとは違っています。」

 

 

 

ー 船にどんなイメージを抱いていますか

 

「幼い頃から船が好きでした。船って、港に着いて荷物を運び入れている時間は長いのですが、それが終わるとものすごい速さで去っていってしまうんです。そこに寂しさ、郷愁やストーリー性を感じています。飛行機や車にはそういうイメージを抱かないのですが、船には物悲しさ、寂しさを感じるんです。」

 

ー 青色を基調としている理由は

 

「日本画は一般的にはセピア系が多くて、そういった色も好きなのですが、私は寒色系の色を好んで使っています。実はパネル一面に下地としてオレンジや赤を塗っています。制作し始めたころは一面オレンジでした。塗り進めていって青がうるさくならないように、補色となる暖色系を下地に入れて落ち着いて見えるようにしています。」

 

「赤や黄色からは温かみを感じますが、青色には寂しいイメージを持っています。船から抱くイメージと同じで、寂しさが感じられるところが好きです。」

 

 

ー 寂しさに惹かれるのはどうして

 

「人物を描いたときも、どこか寂し気な顔をしているねと言われることがあります。寂し気であったり、真剣に何かを考えていたりするような人の絵って、なんでこんな表情をしているのだろう、とイメージが想起されるんです。真剣な表情をしているその瞬間の決意や陰りが感じられる暗いところに本質が出るのではないか。そういった意味で暗い色を使ったりしています。」

 

「何かを決めようとしているときってニコニコした表情にはならないと思うんですよね。ニコニコしている表情は”楽しそうだ”というイメージで終わってしまう。逆に寂し気な世界観にすることで、どうして?と観ている人もいろんなイメージを持ってくれるのではないでしょうか。」

 

ー 日本画との出会いは?

 

「中学生のときに『皇室の名宝』という展示で、川端龍子の《南山三白》をみたときにびびっときました。日本画ってこんなかっこいいんだと。あの時の体験が日本画に興味を持ったきっかけです。」

 

「その後、高校の美術部に入部しました。美術の先生が日本画出身の方で、岩絵具を使わせてもらったり、指導をしてもらったりしました。その先生と出会えたことも大きいです。」

 

ー 日本画の良さと大変さ

 

「絵の具の発色がきれいですね。油絵も鉱物系の色を使うのでルーツは同じですが、膠(にかわ)を使って自然の色を乗せていくときの表情や、線の美しさは日本画独特のものがあると思います。『神は細部に宿る』じゃないですが、そこがよさかもしれません。」

 

「油絵との決定的な違いは混色ができないという点です。油絵や水彩では、例えばピンクを作りたい場合は赤と白の絵の具を混ぜれば作れますが、日本画ではそうはいかないんです。砕いた赤と白の石の粒子を混ぜてもまだらな粒子にしかならないので、使いたい色の数だけ岩絵具を用意しないといけません。色の数だけ絵の具を溶いた皿を並べて描いていきます。」

 

 

「日本画は和紙に描いていきますが、このパネルでは土佐和紙を使っています。硬めの和紙を選び、裏打ちもして割れないようにしています。和紙によって特性が違っていて、雲肌麻紙(くもはだまし)というものはやわらく伸び縮みするなど、和紙それぞれの特性があるのでそれを活かして描いていきます。和紙職人が減ってきて、和紙そのものが少なくなってきているのは残念です。」

 

 

ー 美大を目指したのは

 

「単純に絵がうまくなりたいという思いで目指していました。絵がうまくなりたい!一番絵がうまい大学はどこだ。藝大だ!という感じです。」

 

ー 芳野さんの思う「うまい」絵とは

 

「受験中は『リアルな絵=うまい』という考えでしたが、大学に入ってからはうまさではなく、制作をする上で大事にしているものは何か、どういう絵を描いていきたいのか、ということに重点を置いて学んでいます。」

 

「1年生のころから本質的なところは変わっていないと思いますが、どういう絵を描きたいのかが自分の中で見えてきている気はします。」

 

ー 藝大に入っての学び

 

「学ぶ機会は多いです。印象に残っていることの一つは、古美術研究旅行(古美研)で寺社仏閣を回ったことですね。古美研だから見ることができる場所もあるなど、特別感がありました。」

 

「日本画は講義より制作がメインになっています。絵具の溶き方、裏打ちの仕方、膠の使い方などの講義もありますが、それよりも自分がどういう絵を描きたいのかを講評してもらう事が多いです。」

 

 

ー 制作のインスピレーション、モチベーション

 

「気持ちを落ち着けたいときは海を見に行きます。埠頭から見えるクレーンとかコンテナ船とかをずっと眺めています。観光地的な海ではなく、工業地帯の見える海の景色が好きです。実家のまわりはビルが多い環境だったので、人工物、無機物に囲まれた空間のほうが落ち着くんだと思います。」

 

ー 気にしている作家さんはいますか?

 

「有元利夫さんの絵が大好きです。シュールな絵を描かれています。若くして亡くなってしまった作家さんなんです。」

 

ー 人物と景色とで、描くときの気持ちに違いはありますか?

 

「描くものは違いますが考えていることは一緒です。記憶、思いなど、その時感じていたことを表情にのせたり、いろんな題材を通して表現していきたいというのは変わらないです。」

 

ー コロナ禍で制作に影響はありましたか?

 

「この状況でずっと家にいて参ってしまった時期がありました。本来であればアトリエで描いているところなのに、家にこもって根を詰めて描いていました。絵を描き詰めていくというのはこういうことか、とわかった気がします。どんな絵を描きたいのか、この先何をしたいのかを考える貴重な時間にもなりました。いつもどおりだったら忙しいままにあっという間にこの時期になっていたと思う。一旦足をとめて、何が大切で、この先どうしていくべきか、良くも悪くも自分自身を見つめる時間になりました。」

 

「これまでは周りに誰かがいて一緒に絵を描く環境が普通でした。それが一変した今、制作は孤独なことなんだなと痛感しています。結局は自分自身がどうしたいのかが大事なんです。絵を作るのはその人自身なので。」

 

 

「どういう絵にしたいのか?と先生から問われます。その問いに答えられないことも多々あります。先生方からすると、自分自身がはっきりわかっていないところを聞いてくれているんだと思います。無意識にはいられないです。言葉にしたり形にしたり。」

 

ー これからのこと

 

「大学院への進学を考えています。まだまだ学びたいことが多いので。その後は、画家になるというよりは裏方として作家を支えていくような仕事ができたらと思っています。」

 

 

ー インタビューを終えて

 

「自分の中の大切な思い出をいろんな題材を通して表現していきたい」と語ってくれた芳野さん。例年とは異なる環境の中で、自分自身と向き合い制作を続けています。「結局は自分自身がどうしたいのかが大事なんです。絵を作るのはその人自身なので。」とおっしゃっていたように、絵を描き詰めていくことの難しさ、大変さを教えていただきました。

 

芳野さんの作品を前にどんなイメージが想起されるのか、今から卒業作品展が楽しみです。みなさまもぜひご覧いただければと思います。

 

(インタビュー・文/とびラー)

 


取材:小林正彦、卯野右子、尾駒京子(アート・コミュニケータ「とびラー」)

執筆:小林正彦

とびラーになって多くの出会いや学びがあり、アートを介して人と人がつながることのおもしろさを実感しました
アート・コミュニケータとして、アートを楽しむ体験をみなさんと作っていきたい。

「笑顔とかなづちで作品を生み出す現代の鍛冶職人」藝大生インタビュー2020|工芸科・鍛金研究室 学部4年・加藤貴香子さん

2021.01.21

寒空の12月11日、コロナ禍で入構が厳しく管理されているキャンパスは、いつもより人もまばらで、少し寂しげです。

待ち合わせ場所は藝大正門から少し奥まった所にある金工棟近く、「ここであってるのかな」と不安げにしていた私達を先に見つけてくれた加藤さんは、両手を頭の上で大きく振って「おーい」と歓迎してくれていました。

彼女の人柄のわかるその全身を使ったおーいは「今日のインタビューはなんだか上手くいきそうだな」と感じさせてくれました。

 

はじけるような笑顔がすてきな加藤さん。インタビュー中も沢山笑ってくれます。

 

■卒業制作について

カン、カン、カン。。鍛金研究室の工房に近づくと金属を叩く大きな音が聞こえてきます。そんな中、加藤さん制作中の作品が出迎えてくれました。

-卒業・修了作品について教えてください。

加藤さんの卒業制作。現在75%くらいの完成度とのこと。

 

ご覧の通り、クマを作っています。頭部と胴体部分で表現を変えていて、胴体はリアルに、頭部はキャラクターっぽい感じで作っています。

コンセプトとしては、人間特有の社会性です。社会を生き抜く上で人は皮をかぶったり、役割を与えられたりして生きていかなければならない。例えば女らしくしなさいとか、お兄ちゃんなんだからしっかりしてとか。これは人間が社会で生きるために獲得した、他の動物では見られない面白い行動だと思っています。

またクマに対して私たちが持つイメージって、リアル系だと強くて大きいとか、人を食べてしまう、という怖いものから、人間社会に流通している多くのクマのキャラクターの様にかわいらしいというものもありますよね。リアルのイメージと人間社会におけるイメージのギャップが激しいのがクマだという点と、多くのクマのキャラクターが生み出されており、上手く人間社会に取り込まれているな、という点からクマを作っています。

-そのテーマに至ったきっかけは何ですか。

実はお笑いが好きで、、、笑 このクマの顔も、とあるお笑い芸人さんをモチーフに作っているんです。芸人さんってとても明るくてみんなに元気をくれるけど、裏ではそんな人間じゃないかもしれない。もしかすると自分を押し殺す、と言ったら変ですが、このクマの様にマスクを被っているかもしれない。命を削って活動しているのが本当に尊いなと思っています。芸人さんは私たちが日頃している皮をかぶる行為のプロフェッショナル版だと思っていて、その尊さを作品にしようと思いました。

 

-鍛金の作品はどのように作るのですか。

 

こういった板状の金属から形を切り出して、それを叩いて形を作っていきます。またそのままだと硬いので、一回火に当ててあげます。「なます」と言うんですが、火で金属の組織をゆるゆるにしてあげて、その状態からかなづちで叩く事で、組織を締めつつ形を変形させていきます。昔は一枚の大きな板から作る技法が主流だったんですが、今は溶接技術が進んでいるので、金属板からパーツを三角とか四角に切り出して、つぎはぎで作っていきます。叩いて形を変えて、また動かなくなったら、なましてゆるめて、と永遠に繰り返していく感じです笑 ずっと火を使うんです。

実際に火の前での作業の様子を見せてくれる加藤さん。

鍛金研究室では火が命なので、工房にふいごの神様を祭っている。(写真上部)

毎年11月にはOG・OBも集まり「ふいご祭り」を開催する伝統があるそう。

 

― 神棚の下にあるかなづちは実際に使われているものですか。

 

はい。持ってみますか?笑 結構重いんですよね。1.5㎏くらいあります。金属によって使い分けていて、銅は冷えても叩けるので小さいかなづちで細かく。鉄は赤いうちに叩かないといけないので一発で決められるように大きなものを使います。鉄は温めて叩けるのは10秒位なんですよね笑 大きいかなづちを使うと一日中手が震えて鉛筆も持てません笑

そしてこちらには炉がありまして、小さい炉や大きい炉、火加減のしやすい炉などいろいろ使い分けています。

これは比較的小さいガス炉。金属の一部だけを温める事が多い。

人によっては自宅に置いてる人もいるとか。

大きめの炉。分銅を押し下げて重い扉を上げる。

コークス炉。緻密な温度調整が必要な際に使われるそう。

 

道具や設備について教えてもらった後、再度作品について伺いました。

― 粘土のクマもあるようでしたがあれはどういう工程ですか。

作品の道しるべとなっているクマの胴体部分の粘土。

作品の方も頭と胴体部分は取り外せる。

 

ひとそれぞれでやり方が違うんですが、私はあまり絵が得意じゃなくて、粘土の方が感覚的にできるので、最初の工程で粘土で小さく形を起こしてそれを見ながら拡大して製作するスタイルですね。

 

― 卒業制作を作り始めてどのくらいになりますか。

コロナで登校禁止期間があったんですが、工芸科は制作に設備が必要なので開けてもらうのが本当に早くて、6月から着手出来ました。夏休みも作業出来ましたね。頻度としては週5で9時-18時で作業します。へとへとになります笑 休憩いっぱい取ってやってます笑

鍛金の私たちは、コロナで制作ができなかった期間は短かったので悪影響は少なくて、むしろその制作が出来ない2か月間の間にコンセプトを練られたり、自分と向き合う事が出来たりしたので良かったですね。あとは早く作りたい、よし作るぞー!という気持ちも強まりました。

― このクマの胴体部分も色は塗るんですか。

はい、薬品を使って化学反応で色を付けます。金属に応じて薬品を使い分けていて、例えば鉄だったら錆液を付けて錆びさせます。 車の内装で、シルバニアファミリーの人形みたいにフワフワにする塗装があって、細かい繊維を吹き付けて毛羽った感じにしています。本来鍛金には日本伝統の着色技法があるので塗装はあまり、、、という感じなんですが、やりたかったので新しい試みですね。

今胴体が虹色に見えているのは酸化膜と言って、なました後にこうなります。綺麗ですよね。

 

― 素材はどのように選んでいますか。

 

扱いやすさ、溶接の相性、出したい表現に適しているか、あとは値段とか笑 結構違うんですよね、さっきお見せした銅板だと8000円とかですが、彫金の人達は金とか銀を使うので、工芸科はみんなずっとバイトしてます。鉄とかは安い方ですね。

 

― お気に入りの素材はなんですか。

 

今回クマの頭部分で初めて触ったんですがアルミですね。溶接する時、通常は接合部分同士を溶かしてくっつけるんですが、アルミの場合はアルミ製の「溶棒」というものを溶かしてさしこみながらくっつけます。それで形を盛り上がらせたりできて、若干粘土っぽい感覚で形が起こせて楽しかったんです。大学院に行ったらアルミで作品をいっぱい作りたいです。

粘土も好きな加藤さん。

 

■美術、藝大、鍛金。それぞれとの出会い

 

― 高校は美術系だったんですか。

美術の授業すらない高校でした。。笑 美術は高校卒業後の美術予備校で1年やって、、という感じですね。でも部活は美術部でした!幽霊部員でしたが。。笑

 

― 美術との出会いやきっかけは何でしたか。

幼稚園の時に、親に言われて通っていた絵画教室ですかね。その時に賞をよく貰えて、成功体験になっていたのがきっかけだったと思います。小学校に入ってからは勉強ばかりで絵は描かなくなったんですが、中学校の時にすごく映画が好きで沢山見るようになりました。その時に俳優の伊勢谷友介さんの映画を見て、ネットで彼の事を調べた時に東京藝大卒というのを知って、そこで初めて藝大の存在を知りました。

 

― 大学で鍛金を選んだ理由はなぜですか。

工芸科の中には6専攻あって、私は鍛金にした訳ですが、受験課題に向けて1年間粘土を触っていたので、陶芸とかが肌に合っていて楽しいな、と元々思っていたんです。でも金属は触っていなかったので親しみが無くて、扱ってみても全然うまくいかない。その時にせっかくなら大学でしか取り組めないことを学びたいと思ったんです。あとはやっぱり鍛金ってかっこいいんですよね。かっこよさに惹かれて続けられてるところもありますね。

 

― この先はどのように考えていますか。

大学院に行きたいと思っています。あと1年間ドイツに交換留学にも行きたいと思っています。ドイツはコロナ前から好きで良く旅行にも行っていたんです。また私が小さい時に犬が大好きで犬の図鑑をよく見ていたんですが、その時に自分の好きだった犬がドイツ産ばかりで、、笑 その頃からドイツには良い印象を持っています笑

 

■加藤さんの作品作りや鍛金の捉え方について

作品のインスピレーションはどこからきますか。

ふとインスピレーションが降りてくる事はあまり無くて、沢山音楽を聴いたり、映画を見たり、本を読んだり、自然を愛でたり、、そうしてインスピレーションを集めておいて、その中でグッと来たものを作る、という感じですかね。常に自分の中でネタがいくつもある状態で、今回はこれを作ろう、と選ぶ感じです。なのでずっとインプットをしているので、経験が沢山欲しいです。

加藤さんが「経験がたくさんほしい」と話してくれている時の、

ストレートなまなざしが印象的でした。彼女の芸術への真摯な姿勢が強く感じられた瞬間。

 

― 最近インスピレーションを受けた事はなんですか。

まだ本当に最近過ぎて深掘りできていないのですが、ヒップホップカルチャーですね。最初はヒップホップの「ダンス」の要素しか知りませんでしたが(ラップ、DJ、ブレイクダンス、グラフィティがヒップホップの4大要素と呼ばれている)、だんだん「あ、グラフィティもヒップホップなんだ」とか「ヒップホップって何かのジャンルだけじゃなくてカルチャー全部なんだ」と気付いていった感じです。

ダンスは、中学から高校3年生まで友人とストリート系のダンスチームを組んでいたんです。高校の美術部で幽霊部員になってしまった原因でもあるのですが笑 そこから大学でサンバ部に入って人生初の打楽器を始めて、そこでリズムの楽しさを知り、、、ヒップホップに関してもそれまでより一段と理解が深まりました。

鍛金も聞いもらえると分かると思うんですが、作業時のリズムがあるので、そことも関連性があったら面白いなと思っています。教授とかの音は凄くリズミカルで、その人独特のリズムがあるんです。誰が叩いてるとか分かりますよ笑

 

そこから加藤さんとのお話は鍛金と音の関連性に広がっていきます。

金属を叩いた時に100%の力で叩けた時の音と、すこし外した時の音は違うんです。なのでその音を聞きながら手元を修正したりします。また、叩く時にリズムが生まれるのにも理由があって、一発で決めようとしてミスをしないように、軽く叩いて場所を確認してから再度叩く、という成功率を上げるやり方なんです。先に触っているような感じですね。

音楽学部の友達に楽器の製作を依頼されたこともあるそう。

鍛金の話をする加藤さんは職人の顔になります。

 

― 鍛金の魅力はなんですか。

うーん、、つまるところ「ロマン」ですね。鍛金は、作業はつらいのですがそれを上回るロマンがあります。金属そのものの光沢や、かなづちという道具で叩いた時の独特の表情。。これらは機械では出せない、と言ったら軽い言葉ですが、手仕事ならではなんです。あとは金属に対する硬そう、冷たそうという印象があるなか、火を当てる事でこんなにも優しく動いてくれるんだ、というギャップにも萌えます。

加工が難しい分、自分が欲しい表情になってくれた時の感動が大きいというのもロマンです。全然形にならない、辞めたい!と思って作業している中であるとき急にパッと良い表情を見せてくれると「天才だ!」となりますね笑

 

最後にサービスで少し作業の様子を見せてくれた加藤さん。

金属を磨くサンダーという機械から飛び散る火花がかっこいい。

鍛金はロマンだという加藤さんの言葉に大いに納得の瞬間。

 

鍛金の難しさや金属を扱う事からうまれるロマン。そして合理性に裏付けられた制作音とリズムとの関係性など、加藤さんへのインタビューを通じて今まで見えていなかった鍛金の魅力をいくつも発見する事が出来た、とても贅沢な時間でした。

 

■ インタビューを終えて

常に制作のインスピレーションを蓄積している加藤さん。まだ作品化されていない彼女の中に眠るアイデア達が今後どんな作品として生み出されるのか、とても待ち遠しいです。まずは皆さんも1月の卒業・修了作品展で、完成した加藤さんのクマに会いに行きませんか。

 

加藤さんの他の作品が見れるインスタグラムはこちら:kiki.kikako

 


 

取材|古林美香、大石麗奈、草島一斗(以上アート・コミュニケータ「とびラー」)

撮影|茂泉芽衣(とびらプロジェクト アシスタント)

執筆|草島一斗

昨年の藝大生インタビューを通じて作り手の皆さんの持つパワーに魅了されました。これからもアートコミュニケーターとして多くの作家さんの魅力を発信していきたいと思います。お話を聞かせて頂ける作家さん募集中です。

「イメージの本質だけを汚さず、清潔に、軽やかに描き続ける」藝大生インタビュー2020|絵画科油絵専攻 学部4年・那須佐和子さん

2021.01.18

12月11日(金)冬晴れの朝、鮮やかなイチョウともみじのアーチをくぐり抜け、絵画棟7階のアトリエに伺いました。天井まである大きな窓に広がる風景と光、那須さんお気に入りのアトリエだそうです。

アトリエではサイズの異なる大小10数点の作品が同時に制作されていました。

制作中の卒業制作の作品について】

 

―現在こちら全部を制作されているのですか、卒業制作はどのような構成になるのでしょうか―

 

 

「卒業制作は基本的に全てここで制作しています。油画の卒業制作展では複数の作品を展示することができるので、空間の構成をイメージして作品を制作しています。卒制だからと言って特別に大きなサイズで制作するのではなく、思考を精査して納得のいくサイズで描くことに意味があるのかなと思っています。気負いなく取り組もうと思っています(笑)。

 

卒業制作のタイトルは<Landscape fini/unfini   Portrait fini/unfini>で、『風景画と肖像画の未完と完成』という意味です。風景画では『絵の終わり』『絵の在り方』を問う表現をテーマに、3年次から取り組んでいるフレームと作品の関係にあえてずれを生じさせる表現を深めていくつもりです。肖像画では自画像といくつかのポートレートを組み合わせています。既視感や痕跡表現をしたいと考えていて、セザンヌなどの「かつていた画家の手先」の感覚を意識しています。タイトル<Landscape fini/unfini   Portrait fini/unfini>は展示会場につけ、連続して作品を見ることで、意図が伝わればといいなぁと考えています」。

 

―風景画のフレームについてもう少し詳しく教えてください―

 

「1、2年生の頃は、生と死などの概念のぶつかり合い・せめぎ合いを色の対比で表現していました。ぶつかり合いの接点に生まれる美しさへの関心は、現在にも繋がっていますが、その時はびっくりするほど暗い絵だったんです(笑)。この時期、表現媒体にも悩んでいたのですが、3年次に絵画表現のコースを選んだことで、”絵画”や”油絵”について深く考えるようになりました。『絵を描くという行為』を見直すことで、キャンバスの際という四角・画家が決めた風景を区切る四角・額の四角という複数の四角いフレームが現れ、私の中でフレーミングという考え方が生まれました。あえて絵の『終わり』や『在りか』がわからない状況を作り出し、鑑賞者にも絵について考えてもらいたいと思っています。以前は木製の額を付けていましたが、今ははみ出していく表現に変わってきています。油絵と言う素材を生かした表現方法を面白く展開していきたいですね」

 

―肖像画の表現やテーマについて 教えてください―

 

「肖像画の表情を描いていないのは…。真っ白なキャンバスに自分が何かを描きたいという欲望があまりないからです。『かつていた画家の手先』、画家の手が表現したことを通して描いている感覚で、服の色も画家のイヴ・クラインや聖母マリアを想起させるような象徴的な青を使っています。

テーマは『夏草や 兵どもが 夢の跡』という芭蕉の俳句の世界観です。

印象派が盛り上って終わった後の景色を描くことで、この世界観を表現したいと考えました。表現したい“既視感”をだすために、実際のモデルには過去の肖像画(モナリザ)のような、特徴のないポーズをとってもらっています。この表現のきっかけは、2年次にモンドリアンの亡くなる直前の作品に出会ったことでした。キャンバスに貼られた原色のテープが生々しく、そこに『かつていた画家の手先』を強く感じたんです。この感覚を『油絵にしかできない表現』でと考えていく中で、油絵で使うワックスに興味を持ちました。過去の肖像画にはレンブラントのようにワックスをかけて、ツヤツヤにすることで画面を統一する美しさと、セザンヌのようにわざとワックスをかけずに、油絵具だけを見せることによって平面性を高めようとする美しさがあります。かける場所とかけない場所で、絵画の劣化のスピードも異なることから、そのような時間の違いに興味を持ちました。どちらも美しいと思っていて、一つの画面で二つの美しさを表現したいと思いました。」

 

―今の世界観は、いつ頃生まれたのですか―

 

「長い話になります(笑)。

高校生の頃から人物を描いており、ジャコメッティやフランシス・ベーコンを尊敬し、どっぷり浸かっていました(笑)。同じく直立している人体と言う意味で仏像にも親しみがあり好きでした。二十歳のころ、仏像巡りで真言宗のお寺を訪ねたとき、ほこりっぽくて匂いも強烈で、祈祷の場での人間の強い祈りに…、悪夢を見てしまいました。この時、自分の考える世界はこのようなものではないと、気づいたんです。

私はもともと、俳句が好きだったので、その花や雲などの軽やかな世界を見てみたいと思うようになりました。そして、苦しんで描いていた時期を経て自分が苦しまないように、気持ちよく描けるように徐々にシフトしていくようにしました。ベーコンみたいに暗くて狭い部屋で『うわー』って言ったりして、苦しみたくないですね。(笑)」

 

―制作はどのように進められるのですか―

「エスキース(構想)で、まず線を引いて消すという作業をし、そこで生まれた『清潔さ』『軽やかな感じ』『一番きれいな状態』を見つけます。そこからそのイメージを失わずに制作していくには、どうしたらよいのかと、自問自答しながら進めていきます。

デッサンはしっかりと描きますが、自分にとって、この状態は汚いと思っていて…。エスキースのような『清潔な状態』にもっていくために、デッサンからそぎ落として、削っていくイメージですね。ジャコメッティや仏像・俳句など本質を捉えるための引き算の作業にも通じると思っています。

アンリ・マティスの言葉で『目の前にある美しさを枯らしてしまう、陳腐な考えを消すために全集中力を捧げなければいけない』と言うのがあります。これは描いていく過程で迷わず、本質だけをどう残せるのかに集中することだと思っていて、私が考える『清潔さ』とは『本質的なもの』と言う意味なのかもしれませんね。以前、教授から『マイナスの作業がプラスになっている』と、言葉をかけてもらい、そうなんだ!と思いました。」

 

―那須さんの本質を見る目はどこから生まれて、どこで養われたのでしょうか―

 

「小さな頃から絵を描くことは好きで、上手だと言われてきましたが、中学生の頃は、部活にも入らず無気力な子どもでした(笑)。転機は芸術系の高校に入学して油絵に出会ったことです。描く事が楽しくて楽しくて!ずっと絵を描いていました。特に人物を描くのが好きで、お風呂の中で家族をモデルにスケッチをしていました(笑)。描いている時、人体の線を追っている時が幸せなんです。ですから高校生の頃から「山のよう」に描いてきました(笑)。

一見、自分の作品は描きこんでいないように思われがちですが、その時期があったのでデッサンをしてから引き算ができるのだと思います。

 

―表現をする上で、ご家族や環境の影響はありますか―

 

「家族が演劇関係だったので、始めて描いた肖像画も、女優の母が舞台で演じている時の写真を使いました。肖像画で役者を描くことは、本人であり本人でない人格の『二つの状態』を描いている面白さがあります。自身のテーマである、『目の前のモデルを描きたい訳ではない』ということに繋がっているのだと思います。

 

また、あまり意識はしていませんでしたが仏像やベーコン、ジャコメッティが好きなのは、劇場の構造である『暗闇の中に立っている人体』からきていると思うんです。そしてこれは、私が考えている空間を意識した展示との親和性が高いと思っています。」

 

―油絵への思いを教えてください―

 

「3年次に絵画表現コースを選択したのは、自分の中に油絵に対するフェチズムがあるので、絵画表現から逃れられないと思ったからです(笑)。私には自分自身が考える『油絵の美しさ』というものがあります。自分の見たい『油絵の美しさ』を表現するために妥協せずに求めていこうと思っていて、これが私の絵を描き続けるモチベーションなんだと思います。

 

油絵を描き始めた段階から、白を乗せると汚いと感じていていました。余白を残して白を表現するために、セザンヌの水彩画集を参考にしています。(水彩画で白を描くときには、紙の色をそのまま塗り残して「白」を表現するのが基本)そのような意味では、水彩的な思考の部分もあるのかものかもしれませんが、油絵ならではの膜の重なる美しい表現を追求していきたいですね。

 

 

―藝大に入ろうと思ったきっかけは―

 

「絵を続けるために藝大に入ろうと思っていましたが、失敗して一人で制作をしていました。その時は、もともとベーコンやジャコメッティなどの過去の作家に興味があったので、作品を見ることができればいいと思っていました。現在の作家にあまり興味が持てなくて…。そんな時、モントリオール出身の演出家の一人芝居に出会いました。俳優・演出・舞台美術とすべてひとりで作り上げた世界はとてもエネルギッシュでとても魅力的でした。今生きている人の力強い姿に、とても感動したんです。絵とは関係ないのですが、これをきっかけにもう一度大学に行って勉強し直そうと思いました。」

 

―卒業制作の中の思い入れのある作品は―

 

「う~ん…。あまり思い入れと言うのはありませんが、上手くいったと思うものは金色のプレートが乗っている作品です。最初の清潔さを保てていて、本質が捉えられていているのかなぁと思っています。卒業制作はこれを主軸に組み立てていくつもりです。このプレートは金属で、キャプションのような形に設え、クラシカルな表現により近づけたいと思っています。展示空間としては、作品がただ壁に張り付いている感じが嫌なので、学内展はここのアトリエに照明やビニールの幕を設置し、鑑賞経路も考えて自分なりの構成を考えたいと思います。楽しみにしていてください!ぜひ来てくださいね!!」

―卒業後の進路はどうされますか―

 

「現在、藝大の大学院で取手校地の研究室へ進学を希望しています。学びたい教授が取手にいらっしゃるということと、アトリエも広く周りに何もない環境で集中できそうなので…。2年間何もないのも良いのかなと思います。」

 

―インタビューを終えて―

 

卒業制作の追い込みのさなかにインタビューをお引き受けいただくことができました。人体の線を追っている時が幸せで、油絵がどんなに美しいかを語ってくださる姿に、『美しさの在りか』を求める純粋さと貪欲な姿勢を感じました。油絵への強い思いから選んだ、油画・絵画表現コース。絵画と素材の二つとひたすら向き合う場にこそ、大きな転機があると確信しました。そして、ずっと追い続けてきた、『二つがぶつかる地点の美しさ』が軽やかに進化しています。いえ、もっと本質に、真実に近づいているのでしょう。彼女が現時点で見つけた『本質=清潔さ=真実』の作品たちは、潔く、どこか懐かしく、研ぎ澄まされたフォルムが広がります。是非、この空間に身を置いて、そこに広がる景色を感じてください。

 


インタビュー:遊佐操、岡野三恵、中嶋弘子

執筆:中嶋弘子

とびラー2年目で、対話型鑑賞を中心としたプログラムやラボに参加・活動をしています。藝大生インタビューは作品の前で、生の声だから伝わる感動があります。この経験はアートを楽しみ広めていくための大事な宝物です。

 

「『なんだこれ?』を大事にする」藝大生インタビュー2020|デザイン学科 学部4年・森真柊さん

2021.01.05

12月1日、美術学部の総合工房棟で制作をする、デザイン科4年 森 真柊さんにお話を尋ねました。卒業制作についてのインタビューから、ものを作ることへの想いを、香坂小夜子、鈴木理子、山中みほ、3名のとびラーが伺いました。

 

——今制作している作品について教えてください

 

今作っているのは水の作品です。チューブから液がでて、水滴が水面上にたまっていっては、消えていきます。現在、最終講評・卒展に向けてブラッシュアップしている段階で、提出する作品自体はまだ全然できてないのですが、現時点で全進捗の80%ぐらいできているといいなという計算です(笑)。

もともとは、作品を横に並べて4mぐらいの長いやつを作ろうと思っているのですが、実現可能かどうかお金の計算をしています(笑)。何度もメンテナンスが必要になるのも、水道から水を出しっぱなしになるのも嫌なので、液が循環する仕組みにしました。

 

——わぁ!水ってこんな動き方するんですね

 

水滴が水面を走る現象自体は、コーヒーを淹れたとき、雨粒が庇から床に落ちるときとか、水でも結構起きてるんです。水分子は極性があるんですけれど、水のまわりに空気の膜ができるため、水が玉として出現する。だいたい1~2秒で消えてしまうから、普通の水では作品にするほどもたない。どうしたら水滴が長持ちするかなと考えて調べていたら、コーヒーとか、絵の具の廃液とか、泡が立ちやすいものが長持ちするということがわかり、今回の作品には石鹸水を使いました。

 

——最初にその現象がおもしろいなと思ったきっかけは?

 

以前、水の波紋の作品を作ったのですが、それを発展させようと思って実験していたとき、水の玉が水面を走っているのを見つけて、卒業制作にしたいと思いました。それで論文を探したり、身近なものをみていたら、この現象って身の周りでたくさん起きていることにも気づきました。

(卒業制作で水の作品にとりくむきっかけとなった “水の波紋の作品”)

——中間講評の手ごたえはいかがでしたか

 

作品を作るのに夢中になって、「どうみせるか」をあまり考えられていなかった。透明なアクリル板を使ったらみせたくない構造部分がみえてしまったり、木の板を貼ったら質感が木ばっかりになってしまったり、見た目が難しかった。

講評では先生にライティング(照明)がなー・・・って言われて(笑)。水って透明だから、光の向きによって見え方がぜんぜん違う。中間講評では、どこからどう光をあてたら水の粒がきれいにみえるかについて、指摘されました。そのとき作品は2つだけだったので、「この作品の大きさ感でいくなら、もう1個なにかほしいよね」とも言われました。

 

——もう一個ですか、簡単に言いますね(笑)。森さんはすぐに「できない」と言わない方ですか?

 

どうしたらできるだろうと考えます。できないならできない理由があるはずなので、納得できるまで考え続けます。最初に思っていたものと全く異なるものができあがることもありますけど、コンセプトは曲がりません。一番大事なのはコンセプトで、次に見た目ですね。

 

——これまでにものの見方が変わった瞬間はありましたか?

 

SF作家 伊藤計劃さんの『ハーモニー』を読んで、人によって価値あるもの、幸せが何かは違うんだなと気づきました。あとは高校の授業で小林秀雄さんの文章を読んだとき、すらすら読めるけど情報がたくさん詰め込んであってすごいなと思って、文字を書くことへのターニングポイントになりました。ずらずら書かなくても、詩的な表現でちゃんと情報が入っている、意味のないことは書いてないところがすごいと思います。

 

——これまでの経験で考え方が変わった出来事はありましたか?

 

僕は元々理系なんです。子どもの頃からロボットとかが好きで、エンジニアになりたいと思っていました。高校2年生の終わりくらいまで工学部受験を目指して理数系の勉強をしていたんですけど、親に「本当にエンジニアになりたいの?」と聞かれて、エンジニアについて詳しく調べてみました。そうしたら、エンジニアは機械を作る仕事だった。消費電力を抑えてどれだけパフォーマンスを上げられるか、どれだけメンテナンスなく使えるか等、最適化する仕事でした。  「こういう仕様のものを実装して欲しい」という希望を叶えるのがエンジニアだと知ったとき、それも好きなんですけど、僕がやりたいことと何か違う、やりたいことができるのはデザインじゃないかと考えて、進路を変えました。

それから受験のために予備校で絵を描くようになったんですけど、理系の勉強は手堅く理論的にやっていけば結果が出る世界だったんです。でも、美大受験はそのやり方で通用するのは8割のラインまで。その先へ行くには感情面が必要だなということを知って「こういう世界があるんだ」と驚きました。それまでは感情ってあってもなくてもいいと思っていたけど、その経験をしてから感情っていうのも大事なのかもしれないと思いました。

 

——理系か文系か芸術系か

 

高校生の頃の自分は理系が好きだったけれど、今は結局どの知識も使いますね。作品でも、光の点滅をプログラムで動かしたり、什器の設計はCADを使いました。大学で留学生とのグループワークをしたとき、彼らの国の文化を知らないと話のニュアンスが全くつながらないと感じたことがあり、歴史的・文化的な背景を知っていると、相手を深く理解するのに役立つと思いました。文章を書くには、国語が大事。結局自分がやりたいことやろうと思ったら、理系、文系、芸術系、全部の知識が必要だと実感しました。

 

——どんなプロダクトデザインをしたい?

 

ソフトウェアよりみんなが持てるハードウェアの “物” を作りたい。
質感とか、ボタンの押し心地とか、ダイヤルの回し心地とか。手で触れるものが好きです。なのでオンラインで発信するにしても、展示作品の真価は伝わらない。展示作品はそこに来た人しか見られない。実物を持っていじっていると真価がわかるという強みが、ハードウェアが好きな理由です。ソフトウェアを使うにしても、指とか目とか、どこか体の一部を使って情報へアクセスしないといけないから、触れるものが大事だと思っています。 誰もが物理的な移動なしに、どこにいても触れるプロダクトデザインをやりたいです。

 

——新型コロナの影響で休校になった時期は何をされてましたか?

 

勉強や作品制作はほとんどできなかったですね。大学のアトリエに入れなくて、家で作品を作ると木の粉とかが舞うから、制作は全然できなかった。4年生でこういう状況になったのは辛かったですね。あの時期は、IT系のアルバイトでリモートワークをしてました。あとは、プリンをひたすら作ってました。美味しいものが好きで、自分の家で丁寧に作ればデパ地下で売ってるものぐらい美味しいものができる。硬めで卵の風味がきいていてキャラメルが苦めなプリンが好きなんですけど、巷にあまりないから自分で作ろうと思いました。単純に、ものを作るのが好きなんです。

 

——作ること全てに興味があるんですね

 

高校生の頃に毎日の朝ごはんを作っていた時期があって、料理をしていると台所が汚れるんですよ。レシピ本通りにきちんと軽量して作っていると、洗い物がどんどん増える。慣れてくると必要ない器がわかってくるんですけど、料理の本とか番組は調理の部分だけがフィーチャーされている。料理して洗い物しては一連の動作だから、どのタイミングで料理して、洗い物してっていう順序も大事だし、料理の本から抜けているのは変だなというのは感じたんです。これからどんどん忙しくなる社会で、僕も将来働くようになったら、学生の今より使える時間も限られるようになる。自分で家事をするときに料理以外にかかるコストも考えたいと思って、「炊事を初める本」という作品にしたこともありました。

 

——これからどんなものを作りたいですか?

 

学部生の今は自分が作りたいもの、感動できるものを作っていて、誰かに「きれいだね」と言われることを目的にしていません。でもデザイン科だし、そろそろ自分以外の誰かのためにものを作らないとな、と思っています。

きっと僕の作品を実際に目にする人は限られているし、僕の作品の形態だとwebで発信しても本当のところは伝わらない。動画で見せることもできるけど、実際目で見るような魅力は伝わらない。届く人にだけ届けばいいって考え方もあるけれど、僕の場合は世界をひっくり返したい。人型ロボットは結局世界をひっくり返せなかったですけど、ASIMOとかが全盛期の頃は、ロボットで世界が変わるんじゃないかっていう期待感があった。そんな感じのことを僕もやりたいから、ものが作りたい、プロダクトを作りたいです。

一人では金銭的にも技術的にもできることは限られる。どんなかたちでものづくりに関わることになるかまだわからないけど、いつか形があって、手にとって触れる自分のものを世の中にだしてみたいと思いますね。それを見て「新しいな」「これがあったらこういうこともできそうだな」みたいなアイデアが勝手に生まれていくようなものを作れたら、と思っています。

——作品から伝えたいことはありますか?

 

この作品の水の現象をみて「きれい」で終わるのもいいんですけど、どうしてこんな現象が起きるんだろうっていうのも考えてほしいんです。普段みんなそういうことを気にしてないなと感じているので。「なんで?」って思ってもネットで検索して、正しいかどうかわからない答えをすぐ信じてしまうところがある。個人的には理屈を話したほうが誠意ある対応だと思うんですけど、大抵の人は答えだけを欲しがっている。でも、どうしてその答えがでるのか、根元の部分を知ることが大事だと思っています。

僕の作品をみた人に、「水の玉や波ができるのは不思議だな。それはなぜ?」って思ってほしくて、きれいにみえるような仕掛けを用意しています。みる人が「きれい!素敵!」だけではなく「なんだこれ?」と思うことを大事にしてこの作品を作ってきました。

作品だけではなくて、いろんなものを見たときに、なぜこんなことが起きるんだろう?この人どうしてこの考えに至ったんだろう?なんでこんな話し方をするんだろう?と考えることが大事だと思います。なぜ仕事捗らないんだろう?と捗らない理由をさがしてみたら、机の上が散らかっていた、隣の人の話し声がうるさかった、単純に朝から何も食べてなかったとか、昨夜あまり寝ていないとか、部屋の温度が若干暑かったとか、隠れた理由があるかもしれない。「なぜ?」と考えることが大事だと思うので、作品をみた人がいろんなことを考えるきっかけになったらうれしいなと思います。

(インタビュー・文・写真/とびラー )


取材:香坂小夜子、鈴木理子、山中みほ(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆:山中みほ

ものの見方を変えたり、人と人をつなぐアートの魅力を伝えたいと思い、とびらプロジェクトに参加しました。
普段は高校で保健室の先生をしています。

【活動報告】
イサム・ノグチ発見研究所

2020.12.29

【活動報告】イサム・ノグチ発見研究所

 

特別展「イサム・ノグチ 発見の道」の開催を前に、作家研究・作品研究をしたい。そんな思いで、とびラボ『イサム・ノグチ発見研究所』はスタートしました。

もちろん『イサム・ノグチ発見研究所』は架空の研究所です。作家研究・作品研究といっても、単に作家の生い立ちや制作背景を調べるのではなく、対話を通じて研究活動することを目指しました。主体的に学び、発表してもらえるように架空の研究所を設立し、参加とびラーを架空の研究員に設定することで、勉強会のような雰囲気を少しでも柔らかくして、楽しく参加してもらえるように工夫しました。

 

■対話型作家研究・作品研究

 

2020年度コロナ禍でのとびらプロジェクトは、zoomを使ったオンライン講座に始まり、とびラボも同様にオンラインでの活動が中心となりました。

『イサム・ノグチ発見研究所』もオンラインでの活動として始まり、2020年6月にキックオフ。イサム・ノグチの生涯を年代で分けて、オンラインミーティングを全四回で実施しました。

 

2020年6月28日   第一回研究発表会      対象期間 1904~1935年
2020年7月12日   第二回研究発表会    対象期間 1936~1950年
2020年7月19日   第三回研究発表会    対象期間 1951~1967年
2020年8月 9日      第四回研究発表会    対象期間 1968~2005年

 

研究発表会は、オンラインで一人ひとりに発見したものを発表してもらう中で、自分とは違う発見に耳を傾けること、また同じ発見でも多様な見方や感じ方があることに気づくことで自然と会話が生まれ、一方通行の情報提供に留まらない対話型作家研究・作品研究の場となりました。その中でも一番こだわったところは、全員参加を促すことです。各研究員には、対象期間だけ共有して、その期間の中で、自分が気になったイサム・ノグチのエピソードもしくは作品を一人ひとつオンラインで発表してもらうようにしました。全員に主体的に参加してもらうために、どんなに詳しい人も、全く知らない人も発表は一つのエピソードもしくは作品のみ、時間も5分以内としました。

 

参加したとびラーには、「イサム・ノグチ大好きです、展覧会もいったことあります」、「イサム・ノグチ庭園美術館に行ったことあります」、「モエレ沼公園行きました」という方もいれば、「名前は聞いたことあるけど正直全然知りません」、「日本とアメリカの間で大変だった人と何となく思っている」といった方まで知識には大きな差がありましたが、それを感じさせない発表の場をつくることができました。

 

また、それぞれが自分の視点を大事にし、自分の言葉でどこからそう思ったのか、それを知ってどう思ったかを伝えることで、研究に独自性が生まれました。

 

発表方法も特に指定せずに、一言口頭ででも良いとしていましたが、多くの研究員が好奇心を刺激されたのか、回を増すごとに発表資料も増えていき、オンラインを有効活用して、画像や動画を巧みに共有していくようになりました。

 

全4回の研究発表を通じて、延べ87名のとびラーに参加していただきましたが、同じエピソードや作品でも感じ方が違ったり、それぞれの視点を交換する中で、また対話が生まれたり、非常に刺激的で豊かな時間を共有することができました。

 

 

■ふりかえりを重視する

 

とびらプロジェクトではもとよりふりかえりが重視されています。オンラインでの開催となったものの、『イサム・ノグチ発見研究所』でも同様にふりかえりを重視しました。

 

そこで大きな役割を果たしていただいたのが、梨本さんと門田さんというふたりのとびラーです。

 

ふたりは研究員として参加しながらも、発表会の様子をグラフィックレコーディングという方法で記録し、温かみのあるふりかえり資料を作成してくれました。参加したとびラーだけでなく、参加できなかったとびラーからも非常に好評でした。

 

また、とびラーは活動の記録をウェブ上のとびラー専用の掲示板「本日のホワイトボード」で共有していますが、全4回総数でホワイトボードへのコメントは245件にもなりました。それぞれの発見のふりかえりや、他の方の発見への意見を書いたコメント欄は、時間内に発表しきれなかったところを伝える場になり、これによって、コミュニティの一体感を醸成することができました。

 

〈とびラー梨本さんによるグラフィックレコーディング 第1回より〉

 

 

〈とびラー門田さんによるグラフィックレコーディング 第2回より〉

 

 

■それぞれのイサム・ノグチ像を発見する

 

全4回の研究発表を終えて、最後に取り組んだのがファイナルレポートです。

当初、3つのテーマを設定し、それぞれに研究成果をファイナルレポートとしてまとめてもらうことを検討していました。

 

① ぼくらのイサム・ノグチ・・・あなたにとってイサム・ノグチはどんな人?
② プレイグラウンドをつくろう・・・おすすめの作品は?(自薦、他薦問わず)
③ わたしのイサム・ノグチ発見研究所所長・・・イサム・ノグチに最も影響を与えた人は?

 

しかし、最終的には研究発表会における発表の独自性、独創性を考慮して、テーマは原則自由で、A4一枚にまとめていただきました。

 

研究員それぞれに自由に表現してもらったことで、出来上がったレポートも個性的で、多様なものとなりました。結果として、それぞれがこの研究所での活動を通じて発見したイサム・ノグチ像が描かれた作品のようなものになったと思います。

 

 

 

 

 

■実際に会うことの意味

 

当初よりずっとオンラインで開催してきたとびラボでしたが、9月6日にファイナルレポートとしてそれぞれに表現したものを持ち寄って、このとびラボとしては、最初で最後の東京都美術館アートスタディルームでのリアルミーティングを開催しました。

 

私自身は約7ヶ月ぶりのアートスタディルームでの活動。オンラインでは何度も顔を合わせて来ましたが、今年4月から加わった9期とびラーの中には初めてのアートスタディルームでの活動になる人もいたため、あちらこちらから「はじめまして」の声が聞こえてきました。

 

東京都美術館の新型コロナウィルス感染症感染拡大防止のガイドラインを遵守しつつ、アートスタディルームも定員25名以内、マスク着用、1テーブル4名以内で着席などしっかり対策を行なうことを前提とした実施となりました。内容的にも当初は全員一言ずつファイナルレポートやこのとびラボの感想などを発表してもらう予定を、テーブルごと代表者による発表にするなど、最大限配慮し、無事開催できました。

 

これまで画面越しに向き合ってきた仲間と実際に会って活動したのはこの日限りとなりましたが、半年近く離れていたとびラーの活動拠点であるアートスタディルームでの時間は感慨深く、特別なものになったと思います。

 

 

また、それぞれのファイナルレポートはホワイトボードに展示し、密にならないよう順番に見てもらうようにしました。

 

対話型での作家研究・作品研究を通じてたどり着いたそれぞれのイサム・ノグチ像は本当に多彩なものになりました。全く知らないけど参加できますか?といっていた方も回を重ねるごとに専門家のように語るようになったり、イサム・ノグチの交友関係から、ブランクーシやバックミンスター・フラーに傾倒して調べはじめる人がいたり。とびラー自体が様々なバックボーンを持った人たちが集まっているため、その特性を十二分に活かして、様々な視点で観察し、それを共有することで本当に豊かな時間を作ることができたと思います。

 

この日をもって、イサム・ノグチ発見研究所は解散となりましたが、一人ひとりがそれぞれに研究員バッヂをデザインして、最後の時間を迎えました。

 

 

 

 

■コロナ禍で出来ること、コロナ禍だから出来たこと

 

このとびラボを行なっている途中で、新型コロナウィルス感染症の影響により10月に開幕予定であった特別展「イサム・ノグチ 発見の道」の来春への延期が発表されました。参加しているとびラーの中にはショックもあったと思いますが、すぐに中止じゃなく延期でよかったと声を掛け合い、最後までやり遂げられたことは本当によかったです。オンラインを活用し、コロナ禍で出来ることを模索しながら、結果的にコロナ禍だから出来たことにたどり着くことができました。

 

最後に、一緒に場を作っていただいたとびラーの皆様に心より感謝申し上げます。

本当にありがとうございました。

 

 


 

執筆:中嶋厚樹

とびラー二年目。イサム・ノグチ発見研究所の活動を通じて、年齢もバックボーンも様々なとびラーの多様性を改めて実感しました。とびらプロジェクトのここにしかない魅力を日々体感しています。

 

インタビュー記事掲載
「東京上野ワンダラー(Tokyo-Ueno Wonderer)」

2020.12.28

「上野文化の杜新構想実行委員会」が運営するウェブサイト「東京上野ワンダラー(Tokyo-Ueno Wonderer)」にて、とびらプロジェクトコーディネータ 越川さくらのインタビュー記事が掲載されています。是非お読みください。

 

 

🔻掲載記事はこちら🔻

 

 

 

 

 

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「作品にとって一番良い方法をどの時代も探していく」藝大生インタビュー2020|文化財保存学専攻 保存修復日本画研究室 修士2年・谷口陽奈子さん

2020.12.15

空が清く澄み渡った秋の季節、歴史を感じさせる朱色が印象的なレンガ造建築「赤レンガ2号館」に文化財保存学専攻 保存修復日本画研究室 修士2年 谷口陽奈子さんを訪ねました。

笑顔で玄関まで出迎えてくれた谷口さんに連れられて階段を上ると、木造の梁が目を引き、様々な道具が整然と並ぶ装潢室がありました。

 

 

■作者の描いた順番や筆使いも想像して描く

はじめに実際に作品を見せていただきながら、作品のこと、制作について伺いました。

 

 

 

-卒業・修了作品について教えてください。

 

「現在、修了研究として、大学院に入ってから二作品目の現状模写に取り組んでいます。現状模写というのは、顔料の剥落しているところや汚れなどを含めて現在の状態を忠実に写す模写のことで、今回は東京藝術大学大学美術館所蔵の『孔雀明王像』という作品を現状模写しました。」

 

-この作品を選んだ理由は?

 

「修士課程が二年間ある中で、一年目も現状模写をしているのですが、江戸時代の『風俗図屏風』という作品で、6曲あるうちの一面だけでしたけど、それは人物が小さく、着物などの模様もすごく細かい作品でした。幅広く材料を扱いたいと考え、日本画特有の金属材料も使用された作品を選んだのでそれはそれで勉強になりましたが、二作品目としては全然違うものがやりたかったので、これくらい本尊が大きくて、大らかな感じの作品を選びました。あとは絹本。前回のものは屏風で紙の作品だったので、今回は絹を選びました。」

 

-実際絹を取り扱ってどうでしたか?

 

「紙だとあまり下地がどうなっているのか気にならなかったので描きやすかったのですが、絹は、とくにこういう鎌倉時代の作品は絹目が粗くて、粗いと描き味が紙とはだいぶ違って、描けているような、描けていないようなというのがあります。あと裏から作業できるというのが紙とはだいぶ違うので、とても勉強になりました。実際に掛け軸になった本物の裏面は見られないのですが、(作業中は)想像したり、修理中の写真があれば参考にしたりします。」

 

-絹本は技術的に裏面から描くことがあるのでしょうか?

 

「裏から描くと表だけから描くより定着がよくなります。絵の具が落ちにくくなったりするので。ムラなく塗るのにも裏から作業して表から少し描くほうがきれいにできたりします。今回の作品でも、本尊の白く塗ってあるところは裏からも一回白い色をかけています。」

 

 

 

続いて、現状模写の工程について話をおうかがいしました。原寸大のカラー写真の上に薄美濃紙をおいて、墨線を写し取っていく『上げ写し』、その後色を塗り始めていく中で、実物を見ながら色カードをつかって細かな色の違いを観察し、調整していく『熟覧』、実物の隣で作業を行う『臨写』を中心に、実際に行なってきたことをふりかえっていただきました。

 

-『上げ写し』だけでも大変そうですね。

 

「そうですね。かなり時間がかかります。原本と同じカラー写真を用意して、その上で薄美濃紙を丸めながら、描いてあるものをよく見ておいて残像を利用して描いていきます。この時点で剥落や傷も写し取り、作者が描いた順番や筆遣いも想像しながら行なっています。先生からは設計図みたいなものと教わりました。この時点で本質的なところとそうでないところも判断しながら行なっています。」

 

 

-色カードを使って実物と色を合わせるのは何種類くらいでしょうか?

 

「本当はいろいろ合わせたいのですが、時間に限りがあり、コロナ禍で30分くらいしか出来なくて、取れたのは4つくらいだったと思います。後は取れたもので工夫しました。例えば青っぽい色、群青だと一番残っているところを取っておいて、そこと比較して暗いはずだなとか。」

 

-色とか材料は時代背景から調べたりするのでしょうか?

 

「日本画の場合は古いものになればなるほど、使っている色は限られてきます。明治より前か、明治より後かでだいぶ違います。鎌倉時代になると色をみれば、おそらくこれだろうとわかります。水色ならこれ、青ならこれなど。明治より後になると西洋からもいろいろ新しい顔料が入ってきて、調査をしないとわからないです。」

「たとえばこの本尊のあたりには截金(きりかね)といって、細く切った金箔を線上に乗せているのですが、こういうのはこの作品の描かれている時代までしかやらないはずだとか。」

 

 

-昔使っていた色にも何かを混ぜて古くみせたりするのでしょうか?

 

「日本画の絵の具だと、まず岩絵の具というものがあって、染料があって、合成された材料もあるのですが、岩絵の具だと群青と緑青は加熱するとどんどん黒っぽくなる。それを混ぜたりもします。透明水彩絵の具を使った方がはるかに楽でも、できるだけ昔からあるものを工夫して使っています。また、どういうふうに変化するのかということも勉強になります。見た目を似せるということもしないといけないし、元の状態を想像することもしないといけない。先生にも結構相談しました。」

 

-『臨写』について教えてください。

 

「臨写は重要な期間で、藝大美術館所蔵の作品の場合約10日間行うことができます。大学美術館でやらせてもらいました。そこで完成するのがベストですが、細かい模様は描ききれなかったので、截金もその後にやりました。本物があると進みが全然違います。こうかなと思って描くのではなく、正解がすぐ目の前にある。」

 

-昔の人の技術というか、今回の模写で見えてきたものはありますか?

 

「例えば金泥で細かい模様が服に入っていて、本当に細かく描いているなぁと思いました。どこから見ても完璧だと思いました。」

 

 

-今回の現状模写で難しかったところは?

 

「背景が大変でした。経年劣化した状態を再現するのが。描いた感じが出てしまうとやっぱり違うので、薄く顔料が残っている感じを表現するのが難しかったです。おそらく一色で塗られていたと思うのですが、本物は筆で描いた感じがしないけど、でも模写だから描かないといけない。」

「絹って順番に絹糸、空白、絹糸、空白となるので、(構造が)空白のところには色がのらない。裏彩色がされていれば平滑に近くなっているのですが、背景は裏から塗っていないだろうから、そういうところは埋めてしまうのも違うし、埋めないと裏打ち紙(作品の裏に貼り付け補強するための紙)が透けてちらちら見えてしまって違うし、そういうところも難しかったです。」

 

 

■日本画から文化保存修復へ

谷口さんは、学部時代、東京藝術大学で日本画を専攻し、現在は大学院で文化財保存学を学んでいます。そこにいたった経緯や大学院での学びについて伺いました。

 

 

-学部時代に日本画を専攻していて、現在は文化財保存学を学ぶことに至った経緯は?

 

「学部と大学院の違いでいうと、学部の時は、作家になるための勉強だったと思うのですが、大学院は作家になる人がいてもいいし、修復の世界を目指す人がいてもいいし、間口は広い感じがします。私は、修復がやりたくて藝大に入ったので、学部時代に日本画を学んだのもここにくるための準備だったと思います。」

 

-修復がやりたいと思ったのはいつ頃ですか?

 

「もともと伝統工芸は好きで、高校生の頃にこういった世界があることを知って、その頃から漠然といつかやりたいと思っていました。」

 

-大学院で現在はどのようなことを学んでいるのでしょうか?

 

「今はこういう模写を自分の研究としてやりながら、週一回授業で修理や表具を学んでいます。(いずれは)材料をきちんと扱えるようになるのが目標です。模写は絹があって、表からも裏からも描いてあって、顔料がどうしてこう落ちているのだろうと考えることや、あとじっくり観察できたのも将来にとってよかったと思います。忙しかったですけど、楽しかったです。」

「修士課程の一年生の時には、保存科学のこととか、日本画以外の分野についても保存のことを一通り学ばせてもらいました。建造物、彫刻のこととか、油画のこととか、工芸にも行きました。」

 

 

■研究室に受け継がれる伝統

室内にある見慣れない数々の特殊な道具についても話を伺いました。

 

 

-コロナ禍で制作に影響はありましたか?

 

「大学の構内でもうちょっとやりたかったです。7月頃には少し入れるようになったのですが、制作できるようになったのは9月からで、その間は、家でやらざるをえなくなってしまった。家では場所の問題もありましたし、場所は何とかなっても照明が暗いことも問題でした。表具ももっとやりたかったですけど、こういった台(装潢台)も家にはないので。」

-確かに特殊なものがたくさんありますね。

 

「(装潢台は)裏打ちといって中腰で作業することが多いのですが、絶妙な高さですね。」

 

-たくさん気になるものがありますが、あの桶みたいなものは何に使うのでしょうか?

 

「この研究室では生麩糊(しょうふのり)という粉から炊いた糊を使うのですが、炊いた糊をこして、その糊を水で薄めたり、練ったりするときに使います。ここで作った糊は修理の時などよく使います。一年生の頃は毎週炊いていました。」

「一年生の仕事でいうと、1月とか2月頃に残っている糊を全て炊いて、大きな甕(かめ)にいれ、ここの建物の地下に保存しておきます。今も古糊(ふるのり)といって2013年頃の糊をつかったりします。」

 

-糊を代々引き継いでいるわけですね。

 

「新しい糊は、接着力が強く固くなり易いのですが、古い糊は接着力が弱く柔らかく仕上がるので、使い分けています。そういうのも面白いです。」

 

-あちらの青いバケツには何が?

 

「青いバケツには、水につけた糊のもとになる粉が入っています。その上に水があるのですが、その水を時々替えないと全体的に腐ってしまうので、それのお世話をしないといけない。ペットボトルには染料が入っています。矢車とか天然の染料を煮出したものですね。今回の現状模写でも裏打ち紙に真っ白なものではなく、矢車で染めたものを使いました。」

-この部屋をざっと見渡しただけでもたくさんの道具や物があるのにとても整理されていて、整然と並んでいますね。

 

「研究室の先生の影響というか、代々みんなが自然とそうしてきているのだと思います。研究室でも一人でできないこともあるので協力をしたり、そういう意味でも研究室の全員で作っている環境です。」

神は細部に宿るという言葉がありますが、文化財保存修復に関わる人として、道具を大切にする、整理整頓といったことが、先生から学生へ受け継がれる。そして先輩学生から後輩学生へも代々伝統のように受け継がれ、文化財保存修復に関わっていく思いも育てられているように感じました。

 

最後に、保存修復への思いを伺いました。

 

「こういうものは永遠ではなく、古びていく。良くなることはなくて衰えていく。修復の世界のそれを理解してやっているところにすごく感動して。自分たちにできることの限界も知りながら、でも作品をなるべく後世に伝えていこうという謙虚な姿勢に魅かれました。私もそういう技術者になれたらいいなぁと思います。」

 

学部から大学院まで日本画に真摯に向き合ってきたからこそ、迷いなく、まっすぐに語られる言葉が印象的でした。

 

来週は絹を木枠から外して、表具の工程に入るので緊張しているという谷口さん。絹は一層目の裏打ちが難しく、浮いてしまったりするそうです。また、仏画の形式だと仕立ての工程が倍くらいになるので、慎重にやらないといけないと話してくれました。
卒業・修了作品展で展示される現状模写『孔雀明王像』。表具を終えた谷口陽奈子さんの作品をぜひご覧いただければと思います。

 

 

■インタビューを終えて

谷口陽奈子さんにどうして東京藝術大学で学ぼうと思ったのか尋ねると、少し考えた谷口さんから返ってきた答えは、「一番になりたかったので」でした。他人と比べてではなく、自分自身が一番納得できるようにありたい、そんなふうに私には聞こえました。彫刻家イサム・ノグチは、完全な芸術家とは「みずからの芸術がさらに含意するものの探究に身を捧げる芸術家だ」としていますが、「これからも全てが勉強です」と話す谷口さんの姿が重なります。
先人たちから受け継がれた文化財を次世代へ、知識や技術とともにその思いも受け継がれていることを感じました。

 

 


取材:木村仁美、和田奈々子、中嶋厚樹(アート・コミュニケータ「とびラー」)

執筆:中嶋厚樹

 

とびラー2年目、普段は美術館学芸員をしています。とびラーとして、たくさんの人に出会い、刺激をもらい、共に過ごす時間が財産になることを実感しています。

建築実践講座⑤|コミュニケーションを生む場作りとは

2020.10.24

第5回建築実践講座「コミュニケーションを生む場作りとは」

日時|10月24日(土) 13:00〜15:00
場所|zoom(オンライン)
講師|宇田川裕喜(株式会社バウム (BAUM LTD.)代表)

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さわやかな秋晴れに恵まれた10月24日のお昼過ぎ。今年度5回目となる建築実践講座が開催されました。今回のテーマは「コミュニケーションを生む場作り」。ゲスト講師としてコンセプトデザイナーの宇田川裕喜さんにお越しいただきました。

○街も一行の文章も「場」|講師の宇田川さんは、書き手と読み手がいるということから、「一行の文章」も最小単位での「場」と捉えています。

 

  • 講座の流れ

 

講座の前半は宇田川さんがこれまで手がけてこられた事業を、コミュニケーションという視点でご紹介いただきました。京都市京セラ美術館のミュージアムカフェ「ENFUSE」のコンペや丸の内仲通り「Urban Terrace(アーバンテラス)」などの事例を通じ、人の集う「場」を生み出し継続するためのプロセスについてお話しいただきました。後半にはコンセプトを考えるワークに取り組みました。ここでは3、4名ほどの少人数グループに分かれ、「良い街」と「悪い街」について思い浮かぶ要素を挙げていき、それぞれの考える「悪い街」をプロデュースするための企画を練りましたワークの終了後、宇多川さんから場をデザインするとき意識すべきポイントをレクチャーいただきました。また、本講座の中間と最後に設けられた質疑応答の時間には、とびラーから事業内容やキーワードに関連する質問や感想などが多く寄せられました。

 

  • 講座の様子

〇コミュニケーションを生む場作り①:|京都市京セラ美術館の構想図。宇多川さんは採用された案が「建物のみで完結せず、街との連続性のあるもの」であったことに注目。「ピクニックセットをレンタルできる」カフェを設計し、晴れた日には美術館のある岡崎公園でお弁当を食べられる場をデザインしました。

 

〇コミュニケーションを生む場作り②:コンセプトを考えるワーク|東京都美術館のアートスタディールームから参加したとびラー数名によるワークの様子。

ここで練られた企画は「活気のない商店街」という悪い街のイメージをプロディースする方法として、「シャッターを地域の有志でペイントすることで人の集まる場をつくりあげる」というものでした。

 

〇質疑応答の時間|とびラーから寄せられた質問に答えていく宇田川さん。ここでは企画において人々を引き寄せる要素を指す言葉「磁石(マグネット)」についての質問に、具体的な事例を交えながら解説してくださいました。

 

  • まとめ:コミュニケーションを生む「場」を作るために

 

ワークのまとめとして、宇田川さんはブランディングデザインを手がけるにあたって大切にしているポイントをいくつかお話くださいました。なかでもとくに強くお話されていたのが、「調査を丁寧に行う」こと。どのような場を作るにせよ、そこにはターゲットとなる、すなわち企画を届けたい対象の存在が必要不可欠です。その人たちにとって魅力的な提案となるよう、企画のモチベーションとなる要素(=マグネット)の力を把握し、対象者にとって足りないものや不便なこと(=ペイン)を理解しようと努める。このプロセスでの取り組みが丁寧であればあるほど、場のデザインの質が上がっていくのだといいます。

 

こうした考えは、とびラーが講座の中で考えてきた、東京都美術館の建築を軸に考える企画づくりにも当てはまることではないでしょうか。たとえば美術館に立ち寄った人全員が対象となる「とびラーによる建築ツアー(*)」とMuseum Start あいうえのの子ども向けプログラムとして開催された「うえの!ふしぎ発見:けんちく部」では、フィールドは重なっているものの対象者の層が異なるために、それぞれのプロセスのもとで別個のコミュニケーションの場が生み出されたといえます。さらに定期的に開催されている前者のプログラムに限っても、などの変化によりその場にいる人が変わることから、まったく同じ場が形成されることはないといえるでしょう。
(*)今年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響から、事前申込制で実施中。

 

これまでのプログラムは、とびラーが建築という箱だけでなく、そこに集う人々もしっかりと観察することで入念に作り上げられてきたものです。今回の講座は、建築プログラムの組み立てのプロセスだけでなく、場に集う参加者についてもあらためて考えてみる機会となったのではないでしょうか。

 

(東京都美術館 インターン 久光真央)

建築実践講座④|美術館建築の歴史的変遷と公共性

2020.09.26

第4回建築実践講座「美術館建築の歴史的変遷と公共性」

日時|9月26日(土) 13:30〜15:30
場所|zoom(オンライン)
講師|佐藤慎也(建築家/日本大学理工学部建築学科教授)
登壇|伊藤達矢(東京藝術大学)、稲庭彩和子(東京都美術館)

―――――――――――――――――――――

またたく間に夏が過ぎ去り、はやくも冬の息吹すら感じられた9月26日の昼下がり。第4回目となる建築実践講座が開催されました。今回のテーマは「美術館建築の歴史と公共性」。ゲスト講師として建築家の佐藤慎也さんにお越しいただきました。美術館建築の公共的な役割にあらためて目を向け、これからの美術館の在り方、そして、より心地の良い空間をつくるため自分たちにできる働きかけを考える機会となりました。

 

  • 講座の流れ

 

講座の前半は佐藤さんによる講義。「美術館建築の公共性」について、1960年代以降に国内で設計された美術館建築の内部写真や図面を通して、いかにして美術館建築に人が主体となるワークショップのための空間が形作られてきたのかを概観しました。

そして後半はとびらプロジェクトの伊藤達矢さんと稲庭彩和子さんも登壇し、3名によるディスカッションです。
佐藤さんが現在計画に携わっている八戸市新美術館(仮称/以下、八戸市新美術館)の事例を中心に、「新たな美術館立ち上げのプロセスや背景」について、同館の基本構想に美術館を運営する立場から参与している伊藤さん、おなじく館を運営する立場としてさまざまな新美術館設立のための委員会に関わってきた稲庭さんが言葉を交わします。その直後の質疑応答では、先の対談でも触れられた美術館建築が成立するのに不可欠な土壌としての様々な人々(行政、委員会、運営、市民など)の在り方への理解を深めるための質問がとびラーから多数寄せられました。

 

  • 講座の様子

 

 

〇講義:「美術館建築の公共性」|ここで佐藤さんが示しているのは、2021年開館予定の八戸市新美術館の設計図。共用スペースとして幅広い用途で使える「ジャイアントルーム」の規模が展示室にあたる「ホワイトキューブ」よりも大きいのが特色です。

 

〇対談:「新たな美術館立ち上げのプロセスや背景」|今回、対談と質疑応答の進行も務めてくださった伊藤さん。八戸市新美術館の基本構想を実現するために経た過程や「ジャイアントルーム」の運用方法などについて、佐藤さん、稲庭さんとお話しいただきました。

 

〇質疑応答の時間|とびラーから寄せられた質問に回答する稲庭さん。新しい美術館の構想に携わってきたお三方から「舞台裏」について伺える絶好の機会ということで、なかには先の対談からさらに踏み込んだ質問も。

 

  • まとめ

 

ゲスト講師の佐藤さんは、昨年度11月に都美の講堂で開催されたオープンレクチャーで、これまでの国内外の美術館建築の歴史的変遷(「第一世代」から「第三世代」まで)と、それに連なる「劇場」としての機能を有する「第四世代美術館の可能性」についてお話しくださいました。本講座はその流れを汲むものです。今回の講義と対談の要となった八戸市新美術館は、展示室よりも広い共用空間が中心部に設けられ、アート・コミュニケータら市民の活動が基本構想の段階から盛り込まれているという意味において、佐藤さんの提案する「第四世代美術館」の在り方にもっとも近い事例たりうるのかもしれません。

それではあらためて、都美を拠点として活動する市民であるとびラーが、より心地の良い空間をつくるためにできることはなんでしょう?佐藤さんは、とびらプロジェクトの活動を「日常的な集団活動の場」に該当すると捉え、「第四世代美術館」の一例として紹介なさっていました。また、都美の公募展示室を「快適な滞在のための場」として取り上げています。

これまでの実践講座や建築ツアーなどのプログラムを介して都美建築を味わってきたとびラーの皆さんなら、公募展示室のみならず都美のいたるところを「快適な滞在のための場」にできる可能性があるのではないか。これまでの講座や活動を振り返り、そのように考えます。
国内での美術館建築の文脈における都美の立ち位置をあらためて把握するのみならず、建築と人とのかかわりがますます重要になっていくことを学ぶことができた本講座。プレイヤーとしてのとびラーの活動を今後とも見守っていきたいと思います。

(東京都美術館 インターン 久光真央)

【あいうえの連携】上野公園に集合!
上野へGO! ステップ2リアル(2020.9.13)

2020.09.13

ミュージアムの冒険へ!

今年の新しいファミリープログラム「上野でGO!」は、Web会議サービスZoomを使った作品鑑賞と、実際にミュージアムで作品に出会うことを組み合わせた、2ステップのプログラムです。

オンラインとリアルの両方の良いところを組み合わせた「ブレンディット・ラーニング」という新しい学びの形をデザインしています。

 

いよいよ本物に会いに

9月13日日曜日、午前10時。8月1・2日に実施されたステップ1から約1ヶ月が経ち、いよいよ実際に上野公園にこどもたちが訪れる日がやってきました。集合場所は東京都美術館のアートスタディルーム。出迎えたのはあいうえのスタッフの渡邊祐子さんです。

 

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プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)

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