東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

【開催報告!】藝大卒展さんぽ

2020.02.01

東京藝術大学卒業・修了作品展が、2020年1月28日(火)から2月2日(日)に開催されました。とびラーは、藝大生の集大成となる作品が展示されているこの場で、今年も「卒展さんぽ」を実施し、来場者とともに作品を見てまわり、作家さんとの会話を楽しみました。本ブログでは、その概要とともに、参加者のみなさんとどのようにこの場を楽しんだか、作家さんとどのような交流が生まれたかを、ご紹介します。

 

「卒展さんぽ」は、1月29日(水)と2月1日(土)の2回、いずれも午後2時から1時間実施しました。それぞれ、4〜5つのグループに分かれてさんぽに出かけます。

ここからは、「卒展さんぽ」でどんな出会いがあったのか、全部を紹介できないのが残念ですが、グループ毎に見ていきます。

 

●1月29日のさんぽ

受付後、グループにわかれて会場に向かいます。


 

グループAは、都美の会場で、デザイン科の大島利佳さんの作品から鑑賞します。

 

 

大島さんの作品はデザイン科の展示会場を入ってすぐのところにあります。入った途端に、参加者の皆さんは見入ってしまい、沈黙からスタート。大島さんに話を伺うと、これは幸福を願う絵で、全ての意匠に精密に福の要素が描かれているとのこと。それを聞いて、皆さんから春のような笑顔がこぼれます。参加者の感想には「幸せいっぱいの絵、こっちも幸せになりました。福々すてきです」「パッと目に入った瞬間に“福々しいな”と感じ、細部を見れば見るほどその福々しさが溢れ出てきます。画面からは音や風を感じることができ、五感が刺激されました」とありました。

 

 

こちらは藝大会場のグループB。彫刻棟の3階に上り、石下雅斗さんの作品が展示されている部屋に入ります。

 

 

展示室の中には、石下さんの、人体にケモノのような頭を乗せた像、髑髏が万力で挟まれている作品、開いた引き出しの上に載っている小さな像など、目を引く作品が沢山あリ、参加者は部屋の中を歩き回りながら、興味深そうに作品を鑑賞します。
石下さんに創作過程をたずねると、「夢の中のイメージから作品ができる」とのこと。参加者からは「私もそんな夢を見て、そのイメージを覚えていたい」「粘土の中から生まれてきたものなのか、粘土の中に戻っていく意識なのか、不思議な感じがしました」との感想を残していただきました。

 

 

グループCは、都美のギャラリーを降りていき、小野海さんの彫刻作品をみます。

 

有機的な形をカラフルな色の糸で覆った作品です。小野さんからの「色々な視点、立ち位置から見て欲しい作品」との言葉もあり、とびラーも参加者にいろいろな場所から見てみましょうと促します。参加者は作品の周りをグルグル廻って、それぞれのベストポジションを探します。

 

参加者のコメントも多様で、「子供や人間の顔のようにみえる部分がある」「放射線や光の強さなど、自然のエネルギーを感じる」「表面が毛糸で温かみがある」などなど。
ここでも参加者の皆さんに様々な発見をしていただきました。

 


 

グループDは、藝大美術館地下の展示室にある、美術教育の安島茜さんの作品へ。

 

ここでは、とびラーから、「この安島さんの5枚の作品を見てください。この中で1枚だけプレゼントします!と言われたら、どの絵が欲しいですか?」と問いかけ、参加者と対話を進めました。《なつみかんの木》という作品では、「生命感があり、元気をもらえる」「白と黒が効いていて、光を感じる。奥行きや勢いがある」と話が弾みます。《母親を呼ぶように》では、「とにかく、明るくてパッと迫って来る感じがいい」「花の周りの空間がいい。透明感があり、爽やか。いろいろ、試しながら描いているのかな」
安島さんからは、《母親を呼ぶように》というタイトルには「なんでも受け入れてもらえる母親のような存在を求めるこころ」があると、説明をしていただくこともできました。
ここには、作家と参加者の間が近く感じられるような空間がありました。

 

 

●2月1日のさんぽ

 

2月1日は土曜日だということもあって、受付開始時には既に大勢の方に集まっていただきました。早速、それぞれのグループは会場へ向かいます。


 

Aグループは都美に展示されている、漆芸の時田早苗さんの作品へ向かいます。

 

時田さんの作品は漆を塗った白熊です。参加者も大きな漆芸作品にびっくり。
参加者の感想は、「高級でも遊具というギャップが楽しい。大人はまたぐのにためらいそうですが、子供なら喜んで遊びそう」「とても、かわいい作品に出会えた」「漆とは思わなかった」「実際に幼児を乗せてみたい」
本当にこんな白熊で遊べたら、楽しそうです。

 

 

Bグループは、藝大の総合工房棟の前にある、先端芸術表現科の東弘一郎さんの作品へ。

 

東さんに、どうしてこのような作品を作るに至ったのですかと伺います。東さんは取手キャンパスに通っていらしたそうですが、取手の街に自転車が少ないことに気づき、住人たちの家にある乗らなくなった沢山の自転車を使って何か出来ないかと考えたそうです。そしてその結果が、自転車を何台も繋げて、自転車そのものを回転するこんな大掛かりな装置になったそうです。卒展会期中は友人に頼んでずっと漕いで自転車を回し続けているとのこと。
参加者からは、「まるで工芸か彫刻家の仕事のよう、これこそ先端芸術の真骨頂」「回転とは転生みたいなこと?ディテールまでこだわりを感じる」「街に自転車が走っていないことに気づき、フィールド調査をし、作品ができるまでのプロセスが意外でした」「単にインパクトがあるだけでなく、考えて作られた作品だなと奥深さを感じました」とコメントをいただきました。

 

 

Cグループは、都美の油画展示室の奥山帆夏さんの作品に向かいました。

 

参加者の方は、最初に作品の美しい色彩に魅せられ、そこに描かれているものに想いを馳せます。その後、参加者どうしで話し合い、最後に作家の奥山さんの話をお聞きして納得。
皆さんの感想は、「絵画の色が心に与える力を意識しました」「最後まで考え直すこだわりの強さに驚きました」「自然の大きさを表現しようとしたのだと伺い、納得しました」

 

 

Dグループは、藝大陳列館の文化財保護の朱若麟さんの所に向かいます。

 

陳列館を入って、右側の部屋の奥に、実物大の聖林寺十一面観音立像の模刻と、その木心の模型があります。早速これを制作した、中国から留学されている、文化財保存学の朱若麟さんに話を伺います。
朱さんは、この元の仏像は、天平時代に作られたもので、木心の上に木屎漆で成形し仕上げた像だというところから初めて、普段は聞けない珍しい話をたくさんしていただきました。朱さんが、木心の模型を分解して見せると、参加者からあーっという声が漏れます。参加者の方は、藝大にはこんなことを研究している人もいるということに感心しきりです。
「これが新作とは思えない。模刻でも時間や歴史を感じる」「仏像の中の構造まで視覚化できて、仏像を見る楽しさが増えた」「正面から見るのと下から見るのでは仏像の顔が違って見えるなど、仏像の見方を教わった気がします」「仏像がどう作られているか初めて知りました」と参加者から感想を残していただきました。

 

 

Eグループは、藝大絵画棟の一階の建物の外から中に入ったところにある秋良美有さんの展示を見に行きます。

 

絵画棟の建物の外には《2020ZOO》というタイトルと「JAPANESE WORKERS」というサブタイトルが表示されており、そこからブースに入ると、作品は展示スペースに曖昧な微笑みを浮かべて座っている人が3人。これが作品です。参加者は、見ているのか、見られているのか戸惑います。

 

 

案内役のとびラーは、参加者に、3分作品を見ていただき、どのように感じたのか、何が気になったかをお聞きします。参加者からは、「名前の由来」「作品を作ったきっかけ」「作家の想い」などなど気になった点があがります。そうするうちに、私たちが鑑賞者と思いきや、作品の裏側の通路から、私たちは見られているという構造に気づき、さらに戸惑いを感じます。
作家の秋良さんより、「怖い、悲しい、怒ったなど、何でも良いので自分の感情を持ち帰ってほしい。正解はありません」という話しがあり、参加者はこの状況に戸惑いながらも、JAPANESE WORKERSや、見ること見られることに関して様々に思いを抱きながら、次の会場に向かいました。

 

 

●「卒展さんぽ」を終えて

1月29日、2月1日、両日とも、プログラムの終了後に、参加者の方に作家さんへの感想カードを書いていただき、そのカードは作家さんにお渡ししました。

 


 

今年の「卒展さんぽ」に参加された方は、ふらっと立ち寄った方、美術館には良く来るが卒展は初めてという方、卒展を毎年楽しみにしている方、現役藝大生の親御さんや親戚の方、美大・藝大を進路に考えている高校生と多様でしたが、皆さんに楽しんでいただけたのではないかと思います。卒展期間中は雨や風もあり、展示が大丈夫か心配もしましたが、「卒展さんぽ」を実施した2日間は天気にも恵まれました。
最後になりましたが、このプログラムを充実したものにするために、ご協力をいただいた作家の皆さんに、感謝いたします。

 


 

執筆|鈴木重保(アート・コミュニケータ「とびラー」)
「卒展さんぽ」は、藝大生の学生生活の集大成を、来場者の皆さんと共に楽しめる、素晴らしいプログラムです。気づけば、3年連続で「卒展さんぽ」に関わってしまいました。

【開催報告】「卒展さんぽ」藝大卒業・修了作品展編

2019.02.21

藝大生の卒業・修了作品を展示する「第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展(通称:藝大卒展)」が2019年1/28(月)〜2/3(日)の期間で開催されました。
大学で学んだ集大成の発表の場である「藝大卒展」は、年々注目度、人気が高まり、今年も連日大勢の方が来場されました。

 

とびらプロジェクトでは、毎年この展覧会と連携した鑑賞や交流のプログラムを開催しています。今年は「卒展さんぽ」「藝大建築ツアー」「なりきりアーティスト」の3つの企画を行いました。

ここではまず、「卒展さんぽ」について紹介します。1月30日(水)と2月2日(日)の2回にわたって開催し、計53名の方にご参加いただきました。
展示の会場が藝大キャンパス内と東京都美術館公募棟・ギャラリーに分かれていることから、会場別にチームを編成し、ツアー形式でさまざまな作品をまわりました。各チームのとびラーがいろいろなコースを組み立てて、作品や作家である藝大生を紹介します。鑑賞した作品の感想を共有しながら、作家である藝大生たちと交流して、ともに卒展を楽しむツアーです。
ここでは、両日合わせて計8チームが実施した「卒展さんぽ」の様子を、実際の作品とともに紹介します。

東京都美術館のLB階に集合し、受付をすると参加できます。

「今、何人くらい集まったかな?」想像以上にたくさんのお客さんに来ていただき
ました。

チームの全員がそろったら、案内するとびラーが自己紹介をして、ツアーが開始します。

【藝大キャンパス会場をめぐるチーム】

卒展の会期中は、東京都美術館の北口が特別に開きます。いつもより近道で、藝大キャンパスへ。

まず、図書館の1階にあるラーニングコモンズでは、GAP(グローバルアートプラクティス専攻)のモニカ・エンリケンズ・カスティリョさんの作品≪混乱と拮抗の美しさ≫を鑑賞しました。ガラスに様々な生き物や花が描かれた作品はステンドグラスのように内と外、両側から鑑賞できます。作家のモニカさんは留学生で、もともとは日本画を学んでおり、こちらの作品には金箔も使われています。ウインドー越しに見えるカラフルな色彩に足がとまります。

次に、陳列館二階で建築の國清尚之さんの作品≪妖怪建築―存在しないもののための建築≫を鑑賞しました。壁には現代の妖怪99体の絵が貼られています。彼らが住む建築とは?
とびラーも参加者も興味津々で見ています。

 

國清さんより、みんなが一番気になる「妖怪」というテーマに取り組まれたきっかけや、建築との関係などをお話いただきました。参加者にも妖怪たちは歓迎されたようです。

アトリエのある総合工房棟ギャラリーに作品の基となった妖怪のいる場所の写真やスケッチが展示されています。作品制作の工程が見られるのも「卒展さんぽ」の魅力です。

正木記念館は普段は入れない場所です。2階にある和室で、大崎風実さんの漆芸による屏風の作品を座って鑑賞しました。作品名≪咲ク≫は、「自分の核となるものを表現したい」と考えたことから、制作にのぞまれたそうです。描かれている鳥は花を咲かせる精です。螺鈿と蒔絵が見事で、参加者の方々は息をのんでいられました。また螺鈿の繊細な技巧や漆塗りの工程についても詳しくお話しくださり、参加者から感嘆の声があがっていました。

拡大すると、こんな様子です。

藝大キャンパス会場の最後には、藝大美術館を紹介します。

入口の前の広場には、蟻(あり)をモチーフにしたアルミと鉄の作品≪Lives≫があります。
まず、作家である美術教育の藤澤穂奈美さんから作品のコンセプトをお聞きしました。そのあとで参加者にこの作品のタイトルを予想していただいたところ、ずばり「命」と答えられた方がいて、拍手がわきおこりました。藤澤さん曰く、生きること、命の複数形としてのLivesとのこと。藤澤さんは、その場でプレートを1枚外して、参加者に渡し、その重さや感触を体験させてくれました。またアルミの加工のし易さなども解説してくださいました。

触れても良い作品です。

地下1階で、白い陶器でできた繊細なオブジェ、陶芸の苅込華香さんの作品≪海影≫を鑑賞しました。まず最初に、参加者がどんなふうに見えるかを話し合います。そのあと苅込さんから繊細な形を作る大変さや、釉薬の効果などの興味深いお話に、参加者は真剣に聞き入っていました。「まさか陶芸とは思わなかった」との感想もありました。

3階では、デザインの二見泉さんの作品 ≪町の中≫を鑑賞しました。とある町の風景画が、布に刺繍されています。
この作品はただ見るだけではなく、靴を脱いで作品のなかに入りこみ、写真をとることができます。風景について感じた事、入ってみて気づいた事を話す、楽しい鑑賞となりました。

奥行き感があって、本当に≪町の中≫に立っているように見えます。

 

マンホールの丸い敷物をめくると可愛いネズミの刺繍が!

【東京都美術館公募棟・ギャラリー会場をめぐるチーム】

東京都美術館の公募棟では、主に学部4年生の作品が展示されています。絵画の展示室から順に見ていきました。

まず、大嶋直哉さんの作品≪泥≫を鑑賞しました。最初は参加者の皆さんに作品を見て、感じたことを話していただきます。そのあとで、大嶋さんにお話をうかがいました。作品のテーマやタイトルなど、表現の本質に迫るような質問もありました。日本画の伝統のなかに、大嶋さんの見つめる「今」が表現されていることがわかり、参加者のみなさんは熱心に見入っていました。

次に、油画の岩崎拓也さんの≪秘密の花園≫を鑑賞しました。細かくたくさんのモチーフが描かれています。「小さいものを沢山集めて支配欲を表現している」と語る岩崎さん。鮮やかな色彩と画面構成に参加者から驚嘆の声がでました。構成のバランスがとても大事だそうです。

つづいて、先端芸術表現科の浅野ひかりさんの作品≪四畳半を想う≫です。奥に縮小版の4畳半が続いているようです。靴をぬいで部屋に上がって、進んでいくとガリバー旅行記のような気分を味わいました。この感動的な体験に参加者から「楽しい」「面白いですね」「自分の身体や世界の大きさが変わったように感じた」などの感想がありました。
浅野さんの住んでいた部屋が四畳半だったとのことで、図面も見せていただきました。畳や戸もアドバイスを受けながら自分で制作したそうです。

また、同じ先端芸術表現科のエリアにあった、こちらの作品のタイトルは、≪島に埋められた本の骨≫。大きな立体作品です。
いったい何が表現されているのか、参加者はそれぞれに考えたことについてまず話してみます。いろいろな想像がふくらんだあと、最後に作家の平井亨季さんが登場。質疑応答がはずみました。

ギャラリーには大きな彫刻の作品などがあります。

広いギャラリーでは、彫刻の福島李子さんの作品≪触れた夢≫を鑑賞しました。
大きな灰色の大理石の作品です。いろいろなものの「リアルな形」が発見できます。福島さんが「よく怖い夢を見る、その夢のいくつかを大理石のなかから掘り起こしてみた」という制作の経緯や、イメージをお話しくださいました。
そのあとに、参加者が夢のワンシーンを探したり、想像を巡らしたり、感想を話しました。

以上が今年の「卒展さんぽ」、2日間の様子です。他にも、ここには書ききれないほどのたくさんの作品を見て、多くの藝大生とお話しました。

ツアーが終わった後、参加者は、作家の藝大生へメッセージカードを書きます。
作品の感想や気づいたこと、作品から想像を膨らませたとなど、内容は様々です。

カードはとびラーが藝大生の手元へ届けます。
これから新しいスタートをきる藝大生たちが、いつかこの日の出会いを思い出し、励みになってくれたらと思います。

「卒展さんぽ」の企画にあたり、とびラーは会場の下見、コース取りや時間配分、藝大生と打ち合わせなど直前まで確認し、参加者が作品を鑑賞することも大切に考えます。

「さんぽ」でお話くださる藝大生のなかには、とびラーが制作過程の工房を訪ね、インタビューした方もいます。制作途中を知っている分、完成した作品を卒展で観るのは感慨ひとしおです。
作品のみならず、作家の想いを伝えたい、とびラーの願いでもあり、作家と直接対話ができるのが「さんぽ」の醍醐味です。

藝大生のみなさんは、展覧会中で忙しいなか、「卒展さんぽ」に協力してくれました。スケッチや資料を持参したりして、作品のコンセプト、制作の苦労や大切にしたいこと、目指していることをわかりやすく、話してくれました。
また、今回、紹介した方以外にも多くの藝大生と出会い、ご協力いただきました。

卒展の会場内では来場者と藝大生が話している光景があちらこちらで見られ、
「人と人」「人と作品」がつながる場であることを実感しました。
学生生活の集大成を成し遂げた藝大生たちの晴々しい表情が印象的です。
また、来場者の方が、力のこもった新しい作品を楽しみに、若い芸術家を応援する熱気が伝わってくるような「藝大卒展」でした。


 

執筆:山田久美子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
美術館は大好きでしたが、アートとは無縁の仕事でした。とびラーの経験でアートが身近になり、興味も広がってきました。これから益々楽しみです。

【とびフェス】藝大卒展さんぽ 2016

2016.01.30

藝大生の卒業・修了作品を展示する“卒展”が今年も1月末に開催されました。週末(1/30,31)にはとびフェスの一環として、卒展さんぽという企画を実施しました。来館者ととびラーが、5~8人程度のグループで卒展会場である東京都美術館と藝大キャンパス内を”おさんぽ”しつつ、卒業・修了作品を鑑賞します。
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東京都美術館でのさんぽの様子です。参加者もとびラーも作者も(!)みんなでおしゃべりしながら作品を鑑賞します。

この記事では、私が担当した藝大のキャンパスでのさんぽについてご紹介します。

一日目、1月30日のさんぽは当日参加制でした。私のグループには保育園の年長さん三人と、そのお父さんお母さんが4人、計7人が参加してくれました。藝大のキャンパスに足を踏み入れるのはみんな初めて。「朝から夜まで、ずっとお絵かきか工作をしているお兄さんお姉さんの学校なんだよ!」と年長さんたちに紹介すると、「どんなところなのかな?」と期待が高まります。

最初に向かったのは、工芸科が展示をしている正木記念館です。普段は入ることのできない建物ですが、卒展期間中は公開しています。
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ここでは、彫金を専攻している修士二年の水谷奈央さんの作品を鑑賞しました。

「頭につけて髪飾りにしてみたいな」「私はお部屋に飾りたい」「リビングのテーブルに置いたらいいと思う」と口々に話し合う年長さんたち。「何のために作ったものなのか、どのような素材・製造方法で制作しているのか気になります」と大人たち。おしゃべりしながら正木記念館を出ると、そこで待っていたのは、作者の水谷さんでした!
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実は、この卒展さんぽでは、あらかじめ打ち合わせておいた藝大生が作品の近くで待ってくれていて、一緒におしゃべりをしながら作品を鑑賞できるのです。
水谷さんの作品は、シルバーで作ったティアラとブローチ。トチの木の「芽吹き」の力強さに着想を得て制作したのだといいます。思い通りの形にするために、道具から自分で手作りしているそうで、制作に対するこだわりが感じられます。今後は、ジュエリーにかかわる仕事をしていくとのことです。とびラーによる制作中のインタビューをこちらで読むことができます。
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自分のほしいものを、自分で作り出してしまう水谷さんの話に興味津々の子供たち。ものづくりをする人の真剣さ、面白さに触れることができました。

次に向かったのは、先端芸術科の展示です。パッと見ただけでは分からない、一筋縄ではいかないような作品ばかりで、みんな言葉を選んで話し合います。
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何のために作ったのだろう?どうやって作ったのだろう?この作品は私たちとどういう関係があるだろうか?
藝大生の頭の中で何が起きているのか、想像しながらおしゃべりします。
ここでお話を伺ったのは、先端芸術科修士2年の杉本憲相さんです。
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暗室の中、青い光の中に浮き上がる黒い人影、黒い丸に白い丸、楕円形。
“青い光やうつむいた人影から、ネガティブな印象をうける” “楕円形や、白い月・黒い太陽は周期的なものを表しているのだろうか”
見る人それぞれが作品の物語やメッセージを見出そうと話し合いました。それに応えるように、作者の杉本さんも一つの答えとして自分の考えを話してくれました。

最後に向かったのは、デザイン科の展示。普段の生活の中では見られない、新しい発想の“デザイン”に、ただ目をみはるばかり。初めに入った部屋で気になったのは、たくさんの紙が湧き上がるように敷き詰められた作品です。
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“ゴミがいっぱい……”“全部、人の写真だ!”“これからどんどん、増えていくのかな?”“なんか、広告みたい” 気づいたこと、考えたことがどんどん口から出てきます。

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“水たまりみたいで、きれいだね”“透明な作品の部分もきれいだけど、影のところもきれい”“作者に、感想を書いていきたいな”
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ということで、常備したあった感想ノートに、書いていきました!

デザイン科でお話ししてくれたのは、学部4年生で、とびラーでもある佐藤絵里子さんでした。
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佐藤さんは、宇宙に興味を持ち、ダークマター(宇宙の大部分を構成する暗黒物質)について勉強をしたそうです。そして、天文好きが高じて、プラネタリウムを制作してしまったのだそうです。中でみられるのは、星空の再現ではなく、透明な業務用ネットを使って作った佐藤さんオリジナルの星空。子供たちはその“小宇宙”をすっかり気に入って何度も出たり入ったり。大人たちは、佐藤さんの語る宇宙の不思議に耳を傾けていました。
今日のさんぽはここまで!話をしてくれた作者一人一人に感想を書いてから解散しました。
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さんぽ二日目の31日は、事前申込制。親子で参加する企画でした。私の班は、お父さん・お母さんと小学生の女の子、三人家族が参加してくれました。

集合場所の東京都美術館から、藝大へ歩いて向かいます。普段は閉鎖している北口が、卒展期間中は開放してあるので近道できるのです。
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最初に来たのは、藝大美術館。地下一階では、先端芸術科の展示を見ました。
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粘土で作った道具たちが並べて展示されています。
“なんのために使うどうぐなのかな”“とても丁寧に作られているものと、雑に作られているものがあるね”“この並び順には意味があるのかな”
道具や並び順に法則性があるのか。どんな法則性なんだろうか。思いつくままに話し合います。

ここで、作者の登場です! 先端芸術科修士2年の渡辺拓也さんが話してくれました。(下の写真の右端の方です)sampo14
この作品は、渡辺さんが制作期間中に使った道具を粘土で作って、小さいものから大きいものへ、形の似ているものを近くに置きながら、並べていったものなのだそうです。丁寧に作りこんであるものほど渡辺さんが頻繁に使っていたもので、でこぼことしていて形の分かりにくいものほど、あまり使わなかったものなのだそうです。

“同じはさみでも、丁寧に作ってあるのとそうでもないものの二つあるのはどうしてなんですか?”と参加者から質問が。
これは、制作に使ったはさみは頻繁に使っていたけれど、家のキッチン用のはさみはあまり使わなかったからなのだそうです。
同じ作品の中でも、見る人によって注目しているポイントが異なっていて、話し合う中でどんどん気づきが生まれていきました。

次は、彫刻科の展示している彫刻棟に向かいます。向かう途中、藝大のキャンパス内の植物にも注目します。
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“あの木の幹が、彫刻に見える……作品じゃないよね?”“作品をたくさん見ていると、木や落ち葉も作品に見えてくるよね”

作品をよくみて話し合う、ということを重ねていると、普段は気に留めないような気づきもつい口に出してしまいます。藝大の自然もしっかり鑑賞したところで、彫刻棟に到着しました。
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出迎えてくれたのは、白い石の像。“どんなに近づいて見ても、顔がよく見えないね”“おじいさんみたいに見えるけど……”“石を削って作っているんだろうね、どんなふうに削るのかな”
そんなことを話しながら、彫刻棟の奥のほうまで進みます。
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鑑賞したのは、フィギュアと、古代・近代・現代のヒーローを主人公にした映画でした。

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どういうストーリーなんだろうか、それぞれのヒーローはどんな性格なんだろうか、考えをめぐらせます。特に注目したのは、顔のない人々が散らばって立っているわきに、飛行機がある作品。この顔なし人間たちは、いったい誰なのか、何をしているのかについて話し合いました。
ここでお話ししてくれたのは、彫刻科修士2年の横川寛人さんです。
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横川さんは、もともと映像を作る人で、今回の作品は過去にとったヒーローの映画の主人公をフィギュアにしたのだそうです。
なるほど、だから映像とフィギュアだったのか、と納得する参加者ととびラー。フィギュアは、実際の役者さんの顔をかたどりして制作したのだそうです。

ここで今日のさんぽはおしまい。作者への感想を書いて解散しました。
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藝大卒展さんぽでは、他にもたくさんの藝大生に協力していただきました。ありがとうございました!
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執筆:プジョー恵美里(アート・コミュニケータ「とびラー」)

 

 

東京藝術大学卒業・修了作品展 「藝大卒展さんぽ」 開催!

2015.01.28

東京藝術大学と東京都美術館の連携事業「とびらプロジェクト」のアート・コミュニケータ(愛称:とびラー)が、東京藝術大学卒業・修了作品展をご案内します!
さんぽのような気軽な気持ちで展示室をめぐり、みんなで作品を見たり、とびラーや藝大生との交流を楽しみたい方、ご参加をお待ちしています!

日程|2015年1月27日(火)15:00~
|2015年1月31日(土)11:00~
|(1時間程度です)
会場|東京都美術館あるいは東京藝術大学
受付時間・場所|開始10分前、東京都美術館 ロビー階 ミュージアムショップ前
定員|15名 *先着順です

<参加無料>
主催|東京都美術館×東京藝術大学「とびらプロジェクト」


昨年度の「藝大卒展さんぽ」の様子はコチラをご覧ください!

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藝大卒展さんぽ 2015

2015.01.27

毎年1月末、東京藝術大学 卒業・修了作品展(以下、藝大卒展)が東京都美術館および東京藝術大学大学美術館・大学構内で開催されています。
期間中の1月27日、1月31日に、とびラーによる「卒展さんぽ」プログラムを開催しました。
「卒展さんぽ」は、昨年も開催しており、今年は2回目となります(昨年の様子はコチラ)。
それでは今回、開催した「卒展さんぽ」をご紹介していきます。

■「卒展さんぽ」とは、どんなプログラム?

さんぽのような気軽な感覚で、藝大卒展の作品をみんなでみたり、藝大生と会話したりして、作品と藝大生(作者)との交流を楽しむプログラムです。
プログラムを通じて、作品および作者への親近感と興味をさらに持ってもらうことを目的としています。

■当日の様子をご紹介

藝大卒展の開催場所は、東京都美術館と東京藝術大学大学美術館・大学構内の2箇所で開催されます。
昨年に開催した「卒展さんぽ」は、東京都美術館のみを対象としてご案内しましたが、今年のプログラムでは、東京藝術大学も含めて展示をめぐりました。
当日の様子を以下にご紹介していきます。

【作品を参加者同士でみて、思ったこと、感じたことを共有しました】
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【作者から作品コンセプトを説明したり、参加者からの質問に答えたりなど、参加者と作者が交流しました】
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【今回は東京藝術大学の大学美術館・大学構内もめぐりました】
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【プログラムの実施後は、毎回、とびラーたちは振り返りをします】

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■おわりに

「卒展さんぽ」は、人(来館者)と人(作者)をつなぎ、双方の考えや思いを共有することで、新しい価値の創出を目指した企画です。
開催当日は、来館者のみなさんを藝大卒展にご案内して、来館者と作者をつなぎ、普段、出会うことができない人たちが対話や交流する現場に立ち会いました。
わたし自身が思ったこととして、本プログラムを通じてアートを介して人と人をつなぐ活動のおもしろさを再確認することができました。
引き続き人と人をつなぐコトを大事しながら、アートを通じたコミュニケーション活動を続けていきたいと改めて感じたプログラムとなりました。


執筆:植田清一(アート・コミュニケータ「とびラー」)
民間企業で勤めるかたわら、週末はアートを介した学びの場づくりを実践している。

藝大卒展さんぽ 2014

2015.01.06

毎年1月末、東京藝術大学 卒業・修了作品展(以下、藝大卒展)が東京都美術館および東京藝術大学大学美術館・大学構内で開催されます。「とびらプロジェクト」では、例年、藝大卒展に関連する様々なプログラムを実施しており、今年も企画中のプログラム「藝大 卒展さんぽ」を開催予定です。

今回、このブログでは、2014年に開催した「藝大 卒展さんぽ」をご紹介していきます。記事や写真を通して雰囲気を掴んでいただき、今年、ふるってご参加していただけると嬉しいです。

■ どんなプログラムだったの?

「藝大 卒展さんぽ」は、複数人で展示室をめぐりながら、参加者同士で作品を見て感想を共有したり、作者の藝大生と会話を通じて交流を行うプログラムです。ご参加された方々については、アンケート結果から、年代は10代から60代まで幅広く、参加動機として「作者の話しを聞いてみたい、会話してみたい」などの意見が多くあがっていました。

 それでは当日の活動風景や、ご参加された来館者や藝大生(作者)の方々が、どんな印象だったのか、少しご紹介していきましょう。

 【作品を参加者同士でみて、思ったこと、感じたことを共有しています】
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【作者から作品コンセプトを説明したり、参加者から質問を受けたりなど会話をしています】
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【絵画以外の作品、工芸やインスタレーションも廻ったりしました】
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■ 参加者はどんな印象だったの?

<参加された来館者の感想>
「作者の話しが聞けて、『ものをつくる人って、こんなことを考えているだなあ‥』と気づきました。若い方なのでこれからの伸びしろが感じられて楽しかったです」
「いろいろなアイデアがあって楽しかったです。私も何か作ってみたくなりました」
「作品を見せて頂いて元気を頂きました」

<藝大生(作者)の感想>
「来てくれた方々からとてもいい言葉をもらえたり、応援してくれたりと本当に感謝しております」
「講評や作品解説のように堅苦しくなく、皆さん気軽に一言コメントできるような雰囲気は、作者にも鑑賞者にも気持ちがいいものだと思いました」
「(人と会話することで)自分の考えが整理されてよかったです。また率直な(作品の)感想をきけてよかったです」

<運営側のとびラーの感想>
「作者と話せるのは、作家が生きていないとできないことですので、凄く意味があると私自身も再実感しました」
「参加者にとっても、藝大生にとっても、柔らかな触れ合いができた良い機会になったかと思います。作者の方々は批評を聞きたいし、少し作品について伝えたい気持ちが分かりました。参加者にとって作者のお話を聞けるのは嬉しいし、ちょっと得をした感じがしたと思います」

 

■ おわりに

「とびらプロジェクト」は、東京都美術館と東京藝術大学の連携事業であり、このプロジェクトで活動するとびラーの私は、以前から「藝大の学生さんと何かできたら…」という思いがありました。藝大卒展の会期中は、時間帯によっては展示室に藝大生(作者)が滞在していますので、「作者の藝大生と対話や交流の機会があれば、鑑賞者と作者にとって貴重な場になるのはないか…」と思ったのがプログラムの出発点です。
プログラムの趣旨として「来館者に対して、藝大卒展の作品および藝大生への親近感と興味をさらに持ってもらうことを目的」としましたが、企画・運営側の私自身も活動プロセスを通じて、親近感と興味をさらに持った一人になったと感じています。
今年の「藝大 卒展さんぽ」は、「人(来館者)と人(作者)をつなぎ、双方の考えや思いを共有することで新しい価値の創出ができたら…」、そんな思いを抱きながら企画しています。
そんな場に一緒に立ち会ってみたい皆さん、当日、お会いできることを楽しみにしています。

詳細は後日、とびらプロジェクトホームページにてお知らせします。
 


筆者|アート・コミュニケータ(とびラー) 植田清一
   民間企業で勤めるかたわら、週末はアートを介した学びの場づくりを実践している。

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