東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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【開催報告】「卒展さんぽ」藝大卒業・修了作品展編

藝大生の卒業・修了作品を展示する「第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展(通称:藝大卒展)」が2019年1/28(月)〜2/3(日)の期間で開催されました。
大学で学んだ集大成の発表の場である「藝大卒展」は、年々注目度、人気が高まり、今年も連日大勢の方が来場されました。

 

とびらプロジェクトでは、毎年この展覧会と連携した鑑賞や交流のプログラムを開催しています。今年は「卒展さんぽ」「藝大建築ツアー」「なりきりアーティスト」の3つの企画を行いました。

ここではまず、「卒展さんぽ」について紹介します。1月30日(水)と2月2日(日)の2回にわたって開催し、計53名の方にご参加いただきました。
展示の会場が藝大キャンパス内と東京都美術館公募棟・ギャラリーに分かれていることから、会場別にチームを編成し、ツアー形式でさまざまな作品をまわりました。各チームのとびラーがいろいろなコースを組み立てて、作品や作家である藝大生を紹介します。鑑賞した作品の感想を共有しながら、作家である藝大生たちと交流して、ともに卒展を楽しむツアーです。
ここでは、両日合わせて計8チームが実施した「卒展さんぽ」の様子を、実際の作品とともに紹介します。

東京都美術館のLB階に集合し、受付をすると参加できます。

「今、何人くらい集まったかな?」想像以上にたくさんのお客さんに来ていただき
ました。

チームの全員がそろったら、案内するとびラーが自己紹介をして、ツアーが開始します。

【藝大キャンパス会場をめぐるチーム】

卒展の会期中は、東京都美術館の北口が特別に開きます。いつもより近道で、藝大キャンパスへ。

まず、図書館の1階にあるラーニングコモンズでは、GAP(グローバルアートプラクティス専攻)のモニカ・エンリケンズ・カスティリョさんの作品≪混乱と拮抗の美しさ≫を鑑賞しました。ガラスに様々な生き物や花が描かれた作品はステンドグラスのように内と外、両側から鑑賞できます。作家のモニカさんは留学生で、もともとは日本画を学んでおり、こちらの作品には金箔も使われています。ウインドー越しに見えるカラフルな色彩に足がとまります。

次に、陳列館二階で建築の國清尚之さんの作品≪妖怪建築―存在しないもののための建築≫を鑑賞しました。壁には現代の妖怪99体の絵が貼られています。彼らが住む建築とは?
とびラーも参加者も興味津々で見ています。

 

國清さんより、みんなが一番気になる「妖怪」というテーマに取り組まれたきっかけや、建築との関係などをお話いただきました。参加者にも妖怪たちは歓迎されたようです。

アトリエのある総合工房棟ギャラリーに作品の基となった妖怪のいる場所の写真やスケッチが展示されています。作品制作の工程が見られるのも「卒展さんぽ」の魅力です。

正木記念館は普段は入れない場所です。2階にある和室で、大崎風実さんの漆芸による屏風の作品を座って鑑賞しました。作品名≪咲ク≫は、「自分の核となるものを表現したい」と考えたことから、制作にのぞまれたそうです。描かれている鳥は花を咲かせる精です。螺鈿と蒔絵が見事で、参加者の方々は息をのんでいられました。また螺鈿の繊細な技巧や漆塗りの工程についても詳しくお話しくださり、参加者から感嘆の声があがっていました。

拡大すると、こんな様子です。

藝大キャンパス会場の最後には、藝大美術館を紹介します。

入口の前の広場には、蟻(あり)をモチーフにしたアルミと鉄の作品≪Lives≫があります。
まず、作家である美術教育の藤澤穂奈美さんから作品のコンセプトをお聞きしました。そのあとで参加者にこの作品のタイトルを予想していただいたところ、ずばり「命」と答えられた方がいて、拍手がわきおこりました。藤澤さん曰く、生きること、命の複数形としてのLivesとのこと。藤澤さんは、その場でプレートを1枚外して、参加者に渡し、その重さや感触を体験させてくれました。またアルミの加工のし易さなども解説してくださいました。

触れても良い作品です。

地下1階で、白い陶器でできた繊細なオブジェ、陶芸の苅込華香さんの作品≪海影≫を鑑賞しました。まず最初に、参加者がどんなふうに見えるかを話し合います。そのあと苅込さんから繊細な形を作る大変さや、釉薬の効果などの興味深いお話に、参加者は真剣に聞き入っていました。「まさか陶芸とは思わなかった」との感想もありました。

3階では、デザインの二見泉さんの作品 ≪町の中≫を鑑賞しました。とある町の風景画が、布に刺繍されています。
この作品はただ見るだけではなく、靴を脱いで作品のなかに入りこみ、写真をとることができます。風景について感じた事、入ってみて気づいた事を話す、楽しい鑑賞となりました。

奥行き感があって、本当に≪町の中≫に立っているように見えます。

 

マンホールの丸い敷物をめくると可愛いネズミの刺繍が!

【東京都美術館公募棟・ギャラリー会場をめぐるチーム】

東京都美術館の公募棟では、主に学部4年生の作品が展示されています。絵画の展示室から順に見ていきました。

まず、大嶋直哉さんの作品≪泥≫を鑑賞しました。最初は参加者の皆さんに作品を見て、感じたことを話していただきます。そのあとで、大嶋さんにお話をうかがいました。作品のテーマやタイトルなど、表現の本質に迫るような質問もありました。日本画の伝統のなかに、大嶋さんの見つめる「今」が表現されていることがわかり、参加者のみなさんは熱心に見入っていました。

次に、油画の岩崎拓也さんの≪秘密の花園≫を鑑賞しました。細かくたくさんのモチーフが描かれています。「小さいものを沢山集めて支配欲を表現している」と語る岩崎さん。鮮やかな色彩と画面構成に参加者から驚嘆の声がでました。構成のバランスがとても大事だそうです。

つづいて、先端芸術表現科の浅野ひかりさんの作品≪四畳半を想う≫です。奥に縮小版の4畳半が続いているようです。靴をぬいで部屋に上がって、進んでいくとガリバー旅行記のような気分を味わいました。この感動的な体験に参加者から「楽しい」「面白いですね」「自分の身体や世界の大きさが変わったように感じた」などの感想がありました。
浅野さんの住んでいた部屋が四畳半だったとのことで、図面も見せていただきました。畳や戸もアドバイスを受けながら自分で制作したそうです。

また、同じ先端芸術表現科のエリアにあった、こちらの作品のタイトルは、≪島に埋められた本の骨≫。大きな立体作品です。
いったい何が表現されているのか、参加者はそれぞれに考えたことについてまず話してみます。いろいろな想像がふくらんだあと、最後に作家の平井亨季さんが登場。質疑応答がはずみました。

ギャラリーには大きな彫刻の作品などがあります。

広いギャラリーでは、彫刻の福島李子さんの作品≪触れた夢≫を鑑賞しました。
大きな灰色の大理石の作品です。いろいろなものの「リアルな形」が発見できます。福島さんが「よく怖い夢を見る、その夢のいくつかを大理石のなかから掘り起こしてみた」という制作の経緯や、イメージをお話しくださいました。
そのあとに、参加者が夢のワンシーンを探したり、想像を巡らしたり、感想を話しました。

以上が今年の「卒展さんぽ」、2日間の様子です。他にも、ここには書ききれないほどのたくさんの作品を見て、多くの藝大生とお話しました。

ツアーが終わった後、参加者は、作家の藝大生へメッセージカードを書きます。
作品の感想や気づいたこと、作品から想像を膨らませたとなど、内容は様々です。

カードはとびラーが藝大生の手元へ届けます。
これから新しいスタートをきる藝大生たちが、いつかこの日の出会いを思い出し、励みになってくれたらと思います。

「卒展さんぽ」の企画にあたり、とびラーは会場の下見、コース取りや時間配分、藝大生と打ち合わせなど直前まで確認し、参加者が作品を鑑賞することも大切に考えます。

「さんぽ」でお話くださる藝大生のなかには、とびラーが制作過程の工房を訪ね、インタビューした方もいます。制作途中を知っている分、完成した作品を卒展で観るのは感慨ひとしおです。
作品のみならず、作家の想いを伝えたい、とびラーの願いでもあり、作家と直接対話ができるのが「さんぽ」の醍醐味です。

藝大生のみなさんは、展覧会中で忙しいなか、「卒展さんぽ」に協力してくれました。スケッチや資料を持参したりして、作品のコンセプト、制作の苦労や大切にしたいこと、目指していることをわかりやすく、話してくれました。
また、今回、紹介した方以外にも多くの藝大生と出会い、ご協力いただきました。

卒展の会場内では来場者と藝大生が話している光景があちらこちらで見られ、
「人と人」「人と作品」がつながる場であることを実感しました。
学生生活の集大成を成し遂げた藝大生たちの晴々しい表情が印象的です。
また、来場者の方が、力のこもった新しい作品を楽しみに、若い芸術家を応援する熱気が伝わってくるような「藝大卒展」でした。


 

執筆:山田久美子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
美術館は大好きでしたが、アートとは無縁の仕事でした。とびラーの経験でアートが身近になり、興味も広がってきました。これから益々楽しみです。

2019.02.21

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