東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

ブログ

Archive for 3月, 2024

2024.03.27

日時|2023年7月31日(月)

・・・午前の部 ①10:30 ②10:50 ③11:10

・・・午後の部 ④13:00 ⑤13:20 ⑥13:40 ⑦15:00 ⑧15:20

場所|東京都美術館 アートスタディルーム

対象|18歳以下の方とその保護者

 

7月22日(土)から始まった『うえののそこから「はじまり、はじまり!」荒木珠奈 展』(以下、「はじまり展」)内で開催された「キッズ+U18デー」に合わせて、凹版ワークショップを開催しました。

 

 

「はじまり展」には「ケエジン※」という、不思議なキャラクターが潜んでいます。

このワークショップは、厚紙やプラスチックの板にニードルなどでケエジンを描き(製版)、描いた溝にインクを詰めて表面の余分なインクを拭き取り、プレス機で刷る、という凹版(おうはん)の手法を体験してもらうものです。

 

 

※荒木珠奈さんが同展覧会のために作られた《記憶のそこ》から生まれた精霊(キャラクター)。展覧会を案内する精霊として、展覧会場でのサインやポスターにちりばめられていました。

 

 

「はじまり展」には荒木さんの銅版画も多く展示されていました。銅版画というのは凹版の一種ですが、まずその仕組みを口で説明するのがなかなか難しく、一般の方が体験する機会もそれほど多くはありません。

 

理解してもらうには体験してもらうのが一番。とにかく体験してもらいたい! その体験を通して、キャラクターや展覧会に親しみを感じてもらえたり、作品への見方が深まったりするかもしれない、というのが企画をはじめた頃に考えていたことのひとつでした。

 

凹版についてのお話からスタート

 

ニードルを使って描きます

 

ゴムベラでインクをのせて、寒冷紗で拭き取ります

 

プレス機を回して…刷れた!

 

版と刷り上がった作品を台紙に貼って、完成!

 

 

「描く」「インクを詰めて拭き取る」「プレス機で刷る」という3つの工程を順に進み、最後はラッピングをして完成です。

 

参加された方の多くが、最初は緊張していた表情も、出来上がる頃にはすっかり笑顔になって「たのしかった!」と会場を後にしていく姿に、こちらがギフトをいただいたようなうれしい気持ちになりました。

 

海外から旅行中の方も参加されて、英語と中国語の翻訳にUDトーク(音声認識/自動翻訳アプリ)を活用する場面もありました。

 

 

終了後のアンケートコーナーでは、付箋に感想を書いてホワイトボードに貼ってもらうことにしました。たのしんで体験してもらえたことや、ケエジンを好きになってくれたことなどが伺えました。

 

 

当日は開始直前まで、お客さん来るかな? たのしんでもらえるかな? とドキドキしていた私たちとびラーでしたが、全8回、全ての回がほぼ満席となり、総勢64名以上の方が参加してくださいました。

 

LB階のエントランスで参加券を配布しました

 


 

今回使用した銅版用プレス機は、かつて荒木さんがワークショップで使っていたものです。十数年前に私が荒木さんから譲り受けたプレス機を持っていたことをきっかけに、15名のとびラーが集まってこの企画がスタートしました。前例のないワークショップでしたが、ひとりひとりが力を合わせ、手探りで試行錯誤を重ねて実現することができました。

 

同時期に開催していた「アート・コミュニケーション事業を体験する  2023展」 (7月29日(土)〜8月11日(金))の会場にも、このプレス機は展示されていました。

 

 

最後に

私がとびラーになった2021年は、コロナの真っ最中でした。出かけたり、人に会ったりすることにまだ制限がかかる日々でした。とびラー最後の3年目、ようやくたくさんの人に向けたプログラムが躊躇なくできるようになり、今回のワークショップを開催できたことは、とても幸運な巡り合わせだったなあ、とふりかえって感じました。

 

今回参加されたお子さんやご家族にとって、このワークショップが美術館でのたのしい思い出になっていたら、とてもうれしいです。

そしてまたいつか、どこかで版画に出会った時に、そういえば美術館であんな体験したなあ、と思い出してもらえる日が来ることを願っています。

 

 


執筆:

野口真弓(10期とびラー)

版画家。作品をつくりながら、「こどもとアート」をテーマに活動しています。自分一人でできることは限られているけれど、仲間と一緒だとこんなこともできちゃう。というのを体感したとびラー3年間でした。

 

 

2024.03.27

【ラボ実施の経緯】

 

とびラー11期の菊地と、とびラー10期の金城。

11期と10期で期が異なる私たち。

複数のとびラボで一緒に取り組む過程を経て、個性が違う私たちで一緒にラボを行ってみようという話になりました。
ラボを行うなら自分達も楽しく取り組みたいという想いから、「アートと自分達が好きなもの・得意なことを掛け合わせてラボを行ってみよう」と2人で話し合いました。


金城は化粧が好き。
菊地は歴史が好き。


化粧の歴史から見るアートの世界は、今までの自分達の見方とは異なる視点から、アート鑑賞に膨らみと広がりを与えるきっかけになるかもしれない。

 

そんな想いから、「化粧史×化粧師」ラボを企画・実施しました。

 

化粧史×化粧師ラボは、2部構成で進めました。

①化粧史:化粧とアートの歴史を参加者が調べてきて発表する時間。

②化粧師:化粧品業界でお勤めの方がおり、眉毛カットを体験する時間。

 


 

💄化粧史:アートと化粧の歴史を学ぶ💄


2回にわけて開催しました。

1回目は、菊地が、化粧とアートの歴史について参加者への講義を行いました。

 

1回目の集合写真

1回目はZOOMを併用し、遠隔でもラボに参加できる設計にしました。

 

 

2回目は、参加メンバーが各々「化粧とアートの歴史」について資料を作成。作成した資料を元に発表し合いました。



自分が興味を持った「化粧が印象に残るアート作品」について、参加者には歴史を背景として資料を作成してもらいました。

発表は1人あたりの持ち時間を決め、順番に行いました。

 

参加メンバーで2回目実施の際に作成した資料の一部を紹介します。

 

日本の化粧とアートの歴史から、世界の化粧とアートの歴史まで、幅広く見ていきました。

「化粧の歴史」に触れた後、歌川国貞の《今風化粧鏡》と、ロバート・フレデリック・ブルームの《化粧する芸者》の2作品を見てみました。

江戸時代は、首筋をたしなむという表現があったほど、うなじの色気に重きを置いていた印象。
絵師は斜め後ろから描き、鏡を通じて対象者を描く構図が多い。
歴史を知りアートを見ることで、その時代に定義された美しさに着目して鑑賞する新たな視点を得られました。

 


 

💄化粧師:性別を問わず、化粧に触れてみよう体験💄

 

化粧関係の仕事に携わっているアート・コミュニケータがいたので、性別問わず化粧に触れられる眉毛カットと眉毛プロポーションのレクチャーを行っていただきました。

男性も女性も、眉が整うと印象が変わりますね。

眉毛を整えてもらった後の方が、表情が明るくなった印象です。

 


化粧史×化粧師ラボを実施し、アートと別ジャンルの掛け合わせの可能性を感じました。
男性の参加者も数名おり、このラボ実施まで化粧の観点からアートを見たことがなかったとのこと。
性別によらないアートの見方を1つ体得したという感想もありました。
眉毛カットでは、第三者を通して装うことを楽しみました。

装うことは人の視線を意識する行為の意味合いもあり、眉毛カットの様子を見守られることは、まるで自分が作品となり鑑賞者から見られているようだ、との声もありました。

 

アートと自分が興味・関心のあることを掛け合わせると、新しいアートの見方と出会える。
日常で接するものとアートを掛け合わせると、新しい世界が芽吹くかもしれません。

 

このラボを実施し、化粧の歴史は深く、西洋と東洋で化粧への異なるアプローチの仕方が絵画に反映されていることに気づきました。

古代エジプトでは、瞼に塗る顔料は日差しから目を守る効果もあったとのこと。

「綺麗に装う」だけではなく、「その時代の実用性も兼ねる」という観点から化粧を見ると、歴史を知る、アートを見る楽しさが広がりました。

発表の場を設け、共有したからこそ発見できた楽しさでした。

 

自分が楽しいと思ったことを、発信していく。

やりたいと思ったことに対し、誰かが興味関心をよせてくれる場がとびらプロジェクトであると感じたラボでした。

 

2回目の集合写真

眉毛を整える企画があったため、全員活動場所に集合しました。

 

 


執筆:

10期とびラー 金城明日美

とびらプロジェクトに参加して、美術館は作品を見るだけではなく、アートを通してつながるコミュニティスペースであることを知りました。より多くの方に、アートとつながりを楽しんでもらいたいです。

 

 

11期とびラー 菊地一成

個人的に美術を楽しんできましたが、とびラーになり、皆で作品を見る楽しさに目覚めました。その楽しさを十分堪能するには、人の話を「じっくり聞く」ということが大切だということも教えてもらいました。(会社の会議に参加するたびに、全員、鑑賞実践講座で鍛える必要があるな、強く感じる日々です。)

 

2024.03.22

消しゴムはんこラボ。

 

消しゴムを彫ってはんこを作るラボ、と思われるかもしれませんがそれは活動の一部です。

作品を鑑賞してそれをモチーフにはんこを彫り、「障害のある方のための特別鑑賞会」の参加証送付用封筒に押し、参加証を封入し、特別鑑賞会でその封筒を展示して、来館者の方々に見て頂き、感想を聞くラボです。長いですね。

 

「障害のある方のための特別鑑賞会」とは障害のある方がより安心して鑑賞できるように、東京都美術館の特別展の休室日に開催する鑑賞会です。申込んだ人には参加証をお送りしていますが、よりウェルカムの気持ちをお伝えしたいと思い、特別展に関連するはんこを作成し、送付用の封筒に押して送付しています。

今年度は「マティス展」、「永遠の都ローマ展」、「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」で実施しました。

 


「マティス展」の特別鑑賞会の様子はコチラ

「永遠の都ローマ展」の特別鑑賞会の様子はコチラ


 

まずははんこのモチーフとなる作品を選びます。

展覧会で作品を鑑賞しながら、またはチラシや公式ホームページから彫りやすそうな、いえ、彫りたいと心が動く作品を選びます。

 

作品を選んだらどの部分を彫るのかデザインを決めます。

封筒に押すサイズは9×7cmです。これに収まるように縮小したり、一部分を切り取ったりします。

同じ作品でも切り取り箇所や表現に個性が現れます。

 

例えばチラシにも使われたこちらの作品。

 

同じ作品を元にしたのに、彫ったモチーフはこんなに違います。

 

 

 

このようにバリエーション豊かなはんこが出来ました。

 

         

そしてメインの彫り押し作業です。

初めて消しゴムはんこを彫る人も多かったですが、道具は100均でも揃えられ、

中学時代の彫刻刀を数十年ぶりに取り出す人もいました。

また道具を一度に揃えられない場合は、ラボのメンバーに借りて仕上げたりもしました。

 

 

線を彫るのか残すのか、どの線を生かすのか、おのおの作品と対話をしながら、黙々と彫り進めます。カニでも食べているのかと思うほどの無言の時間が流れます。彫っているところの写真はいつも頭頂部しか映りません。

 

 

彫り方はとびラー同士で教え合います。何期も前のとびラーから受け継がれている技もあります。事前にYouTubeの動画を観て勉強してくる人もいました。

 

彫れたらいよいよ封筒に押します。

 

図案を反転して彫っているので、押して初めてどんな作品かわかります。

また、インクの色や押し方でもイメージが変わります。

 

 

こうしてはんこの押された参加証送付用の封筒が完成しました。

 

 

 

様々なはんこができました。

 

 

並べると壮観です。

 

  

 

線そのものを彫る、線の周りを彫る、の違いや、一色で表したり、浮世絵のように色を重ねたり、同じモチーフでもこんなに違ったはんこになります。

 

違いを楽しむのも、消しゴムはんこの面白さです。

 

完成した封筒に参加証を入れる封入作業もスタッフと一緒に行っています。どんな方のお手元に届くのか、喜んでもらえるのか、どきどきしながら作業をします。

 

また、今年度から特別鑑賞会当日に消しゴムはんこを押した封筒の展示を行いました。

今まで参加証の封筒を受け取られた方から、押されたはんこについて「これは誰が彫っているの?」「みんな同じ絵柄なの?」「他にどんな絵柄があるの?」というお声を頂いたので、来館者の方々に消しゴムはんこを紹介しようとなったのです。

 

先ずは机上で展示のレイアウトを考えます。

その後、車椅子の方にも見やすいよう、目線を考慮して位置を調整していきます。

 

 

そして特別鑑賞会当日。

全ての封筒を展示したボードをアンケートコーナーに設置して、来館者を迎えました。

 

特別鑑賞会の申し込み方法は、Webフォームと、メール、はがきの3種類です。

メールとはがきで申し込んだ方には、参加証を封筒でお送りしますが、Webフォームで申し込んだ方は、参加証がメールで届くので、はんこが押された封筒の存在を知りません。8割以上の方がWebフォームからの申し込みなので、はんこが押された封筒をここで初めて見る方が大多数です。

また、封筒をお持ちの方も、他にどんな絵柄があるのか興味深げに見てくださいました。

 

 

封筒の絵柄や、モデルの実物の作品の感想を語ってくださったり、同じ作品でも彫る人によって表現の違いがあることに気付いてくださったり、多くの方が足を止めてくださいました。

 

今まで届いた封筒を全部取っておいている方、届いた封筒のはんこをイラストに描いてくれた方もいらっしゃって嬉しい驚きでした。

 

中には封筒が欲しいから次回はWebフォームではなく、はがきで申し込むと言う方もいらっしゃいました。嬉しい反面、時代に逆行して頂くのも気が引けるので、Webフォームで申し込んだ方には、封筒の代わりにはがきサイズの紙に押したはんこをランダムで1枚お土産として持って帰って頂きました。

 

 

裏返しにした紙を1枚引きます。どんな絵柄かは引いた後に表を見てからのお楽しみです。絵柄を見た方からは楽しげな歓声があがっていました。

 

消しゴムはんこラボは長く続いているラボですが、その時々で形を変えながら活動をしています。封筒の展示はコロナが明けた今年度から始めたことでしたが、今まで聞けなかった来館者の方たちの感想やお話を伺える貴重な機会となりました。

 

消しゴムなんて初めて彫るというとびラーも大勢参加してくれました。また、彫らなくてもボードの作成や封入作業に参加してくれたり、鑑賞会で来館者にボードの案内をしてくれるメンバーもいて、展示を盛り上げてくれました。

 

印刷かと見紛うほどの繊細なはんこを彫る人も、味がある太い線のはんこを彫る人も、彫らない人も、はんこを通じて作品と鑑賞者に向き合う。それが消しゴムはんこラボです。

美術館で作品を観た感動を何かに残したいと思ったそこのあなた、文章、模写の他に消しゴムはんこも一つの選択肢にぜひ加えてみてください。

 


執筆: 篠田綾子(10期とびラー)

超絶技を繰り出す人もいる消しゴムはんこラボで、初めての人も気後れせずに参加できるような大雑把なはんこを彫っています。上手くなくても楽しければいいんです。

2024.03.19

「美術館でおしゃべりしましょう」「作品を誰かといっしょにみるって楽しい」そんな体験をお届けするプログラムを考えました。カジュアルで遊び心があって、自由で楽しい、素敵なひとときになるといいな。そうやって、はじめましての誰かと3人組になっての「おしゃべり鑑賞」という、新しい鑑賞のかたちが生まれました。

今井壽恵《柵を越えて》にて


【目的としたこと】
その日に偶然出会った人とおしゃべりしながら鑑賞する出会いの体験や、一人で鑑賞するときとは違った他者の視点も味わって楽しんでもらうこと。さらに参加した方は、今度は誰かを誘って対話しながらの鑑賞を楽しむようになることを目的にしました。

【プログラムの内容】
その日出会った人(参加者)2名+とびラー1名が、3人1組になり、おしゃべりを楽しみながら作品を鑑賞します。参加者はプログラム前にくじにより分かれます。プログラムの時間は35分間です。

鑑賞する展覧会は、「上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」展(会期:2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝) 会場:ギャラリーA・C)。

実施日は、11月24日(金)18時半~、12月15日(金)・20日(水)14時~、計3回を設定しました。

【とびラーのファシリテーション】


初対面の方とおしゃべりしながら作品を楽しく鑑賞するにあたって、次のような工夫をしました。


・ファシリテータとなるとびラーは、参加者同士が安心して話せる場と対話できるようにきっかけを提供します。
・作品選びは、とびラー自身がビビッときた作品、話のきっかけがたくさんある作品を、何回か展示室に足を運んで数点を選びます。
・当日の出会いは、なごやかなおしゃべりから始めて、感じたこと、気がついたことを安心して話せるような雰囲気を心掛けます。一人一人の話をじっくり聞き、参加者同士がコミュニケーションを楽しめるような場を作るのがとびラーの役目です。


例えば、「今回参加したきっかけ」や「普段のアートとの関わり」など、参加者同士の身近な話題からおしゃべりをしました。場の雰囲気が和むことによって互いにコミュニケーションを取りやすくなり、作品鑑賞での会話もスムーズにできるようになります。

作品を見ることから出発して、おしゃべりの広がりを楽しみながらも、参加者のみんながそのポイントの鑑賞体験を共有できるように、いつも作品を見ることに戻る、そんな工夫も心がけました。

その一例として、作品を見た感想の言葉から「どこからそう思いました?」と問いかけて、作品の中のそのポイントをみんなで確認することで他の人にもその気づきを伝えます。そして「ここから何を感じますか?」と問いかけることで、同じところを見ても違う感じ方があることを発見します。

また、「他にはいかがですか?」と他の発言を促したり、話題を変えたりすることで、参加者がより作品に近づき会話がはずむように工夫しました。


【初日:11月24日(金)18時半~、参加者12名】

9月のキックオフから、メンバーのアイデアを結集しながらミーティング&トライアルを経てようやく形になったプログラム。待望の第1回を6チームで実施しました。参加者は最初にくじを引きます。偶然の出会いの演出にドキドキワクワクのひと時も、次第に打ち解けます。

展示室のあちこちで、さまざまな楽しいおしゃべりが生まれました。

作家・山春雄氏のバードカービング(野鳥彫刻)の作品をよく見て、羽毛のやわらかな質感をイメージしたあと、同氏のタッチカービング(触れる野鳥彫刻)に触ってみると、想像と違って「固い!」ということに驚いて「彫刻だから当然ですよね」と3人で大笑い。そのことがきっかけで作品にグッと近づくことができたチーム。

内山春雄《タッチカービング》にて

 

馬を被写体とした写真を撮影する今井壽恵氏のコーナーでは、人気の競走馬の《オグリキャップ黄色い光の中で》などの写真に足が止まる方が多く、予定していなかった作品の前でもおしゃべりが弾みました。

 

今井壽恵《暮れ方の水辺》にて

 

参加者が作品の背景の描き方に興味を持っていることがわかると、作家・阿部知暁氏のゴリラが描かれた絵画のコーナーに移動して、特徴的な背景の話題に花を咲かせるチームもありました。

みなさん、とてもリラックスして鑑賞しました。

 

阿部知暁《シャバーニ》にて

 

今井壽恵《水しぶきをあげて》にて

 


【中日:12月15日(金)14時~、参加者10名】

12月15日(金)第2回を5チームで実施しました。

この日はキャンセルの方がいたため、当日参加の呼び込みをしました。チームが決まるまでの間にもとびラーからの展示についての問いかけから、参加者同士ので話が盛り上がり終始なごやな会話か進みました。

 

作家・富田美穂氏のコーナーでは、実物大の牛の細密な絵に、「ゴツゴツしている」「生を感じる」と近寄ってみての驚きで盛り上がるチーム。

富田美穂《全身図》にて

 

バードカービングを鑑賞して、「ヤイロチョウの巣はどこにあるの?」「どうして巣をつくるの?」と巣の話題で盛り上がるチーム。

「ヤンバルクイナって鳥なのに飛べないの?」「淡い首筋の色が不思議」と食い入るように作品に迫るチームなど、それぞれのチームで話に花が咲き、プログラム終了後に参加者同士でさらに鑑賞を続ける様子が見受けられました。

内山春雄《ヤイロチョウ》にて

 

内山春雄《ヤンバルクイナ》にて

 


【千秋楽:12月20日(水)14時~、参加12名】

ついに千秋楽、最終回の第3回を5チームで実施しました。

この日は、東京都美術館年内最後の開館日であったので、公募棟の展示は全て14時で終了。館内展示室内も静かでゆったりとした空間で、参加者の皆さんと作品を囲んで楽しくお話しできました。

 

今回もいろんなエピソードが生まれました。

最初は緊張していた参加者も鑑賞前の会話に時間をかけると、作品を前にしたときにワクワク感が発露して、参加者同士での会話がとても深まりました。

会話が弾むのは、生き物の多彩なリアルな表現に触れたときです。写真にはありませんが、作家・辻永氏の花の写生のコーナーや作家・小林路子氏によるきのこを描いた作品のコーナーも、おしゃべりが弾みました。

 

阿部知暁《スノーフレーク》にて

3歳のお孫さんを連れて来られた参加者は、お孫さんを中心におしゃべり鑑賞をしたところ、大人では気づかないような様々な視点から意見を教えてくれました。また内山春雄氏のタッチカービング(触れる野鳥彫刻)のコーナーでは鳥の鳴き声を全部聞いて回りました。高周波の鳥の鳴き声は、お孫さんだけが聞き取れて、みんなでびっくりしました。


【参加した方々の感想など】

〜参加者アンケート(11月24日・12月15日・12月20日実施、回答数33名)の結果から〜

自由記述欄に参加された方の全員が感想を書いてくださり、たくさんの前向きな感想がありました。それらの一部を紹介します。

  • がっちりした鑑賞会ではなく、ただ作品とおしゃべりする時間、あたたかくてとても良かったです。ありがとうございました。
  • とても楽しくあっという間でした。一人では気づけないことに気づけて、新しい鑑賞ができたと思います。
  • もう少しお話ししたかったです!楽しくて!子どもを連れてくれば良かったなーと思いました。
  • 「なぜそう思ったか?」が他の方の言葉で確認できる感じがおもしろかったです。
  • キノコの描写、バードカービングの楽しさ、ゴリラの表情、すべて印象に残りました。楽しいおしゃべりのおかげだと思います。
  • 自分が見ていない視点で、ここはどうですか?などを質問してくださるので新鮮に考えを巡らせることができて楽しかったです。
  • 自分と違った見方の話を聞いて、もう一度作品を鑑賞すると、新しい発見があり、見方が変わるのがおもしろかったです。

そして、アンケートの結果では、「プログラムの満足度」、「初対面の方とのおしゃべり鑑賞」、「プログラムで鑑賞した作品」の項目で「とても良かった」「良かった」の回答が9割を越えて、総じて好評価を得られました。

上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつすー菌類、植物、動物、人間ー」展は、身近な題材で老若男女誰でも親しむことができ、多様な表現が鑑賞できる展覧会であり、このプログラムとの相性がとても良いと企画段階から想定していました。

ファシリテータは、プログラム前に何回も会場に足を運んで鑑賞する作品を選びました。また、選んだ作品を徹底的にして観察して、鑑賞の話題づくりなどの準備を行いました。

プログラムの設計としては、特に「初対面の人」とおしゃべりしながら鑑賞する、というコンセプトも功を奏したと言えるでしょう。知らない人同士だからこそ率直に言葉にすることができるのかもしれません。

作品の前で語り合っていると、そこにあたたかい空間が生まれ、作品も生き生きとして見えてきます。人も作品も美術館も「いきている」「いのち」を感じる、そんなプログラムだったのではないでしょうか。


【実施までをふりかえって】

コロナ禍が一定程度収束して、複数でおしゃべりしながら鑑賞することができるようになりました。とびらプロジェクトでも、鑑賞実践講座の「鑑賞ピクニック」という複数人で美術館をたずねる課題や、夏には「ダイアローグ・ナイト with とびラー」という複数人で対話しながら鑑賞するプログラムが実施されました。こうした楽しさをぜひ多くの方に味わっていただきたいし自分たちも楽しみたい、との思いで2023年8月29日(火)に「このゆびとまれ」と呼びかけました。呼びかけに23人が集まってスタートしました。

 

 

秋は、とびラボが目白押しで、複数のとびラボにそれぞれ関わっているとびラーの予定を調整し、ミーティングやリハーサル、さらには本番の日程を決めるのに一苦労でした。企画内容もオンラインのミーティングツールを使うなど集まれる人で検討を進めました。その甲斐もあって、いたってシンプルでわかりやすい企画になったと思います。ミーティングは6回、リハーサルは2回、そして本番へ。ふりかえりの会は、12月20日(金)プログラム最終回の後に行いました。

このラボは、良い意味での「いいかげん」さがあって、メンバー各自の裁量に委ねる部分が多く、自由でおおらかに進みました。その分、当日の急なキャンセルにも呼び込みをしたり、コースを柔軟に変更したりなど臨機応変に動くことができました。ラボメンバーの皆さんからはやって良かった、とても楽しかったとの声が寄せられました。

プログラムにご参加いただいた方々、いっしょに駆け抜けてくださったスタッフの皆さま、そしてラボメンバーみんなに感謝します。

解散! また、お会いできる日を!

 


執筆:

藤牧功太郎(とびラー10期)

新しいこと、楽しいことが大好き。ARTの自由さを愛しています。「つながり」を「つなげる」ことに興味あり。社会教育の仕事にも活かしたいです。

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