2026.03.27
<美術館の来館者の声をとどけるラジオ>
2023年7月からメンバー、形を変えながらとびラボとして活動している「とびdeラヂオぶ〜☆」。今年度は、『アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること 「Museum Startあいうえの」12年と現在地』(以下:AC展)の展示室の一角に即席ラジオブースを構えて、来館者にインタビューを実施しました。収録の様子はこちらからご覧いただけます。「みること、つくること、つながることラジオ」(収録編)。美術館にあまり来ない人にも美術館の良さを知ってもらいたい!来館者のアートにまつわる素敵なエピソードをシェアしたい!という想いからスタートしました。
<試聴&編集の日々>
2日間にわたっておこなった収録もあっという間に終わりいよいよ編集作業です。
まずは、録音した19組のインタビューを手分けして試聴しました。その中から7つのインタビューをセレクト。編集作業を分担する中で、メンバーの1人が音声編集の経験がありiMovieでの編集が簡単にできるとのことで、編集レクチャー会を開催。その後、各自編集したものをみんなで聴いて、さらに細かい編集を重ね、インタビューの間に入れるナレーションを考えていきました。
*編集のレクチャー中。
*いらない言葉をカットします。
<初めての音声編集>
ラボメンバーによる編集講座を受けた後、まずは練習を兼ねて使用したい素材を切り出すことからはじめました。AC展のテーマ「みること」「つくること」「つながること」に沿った素敵な言葉をピックアップするのはもちろんのこと、「えーっと」「あのー」などのフィラー(つなぎ言葉)もカットし、リスナーが心地よく聞くことができるように整えていきます。
次は、7本のインタビューの制作担当を決め、収録した音声を番組になるよう編集します。ナレーションが入ることを意識して内容ごとに区切っていきます。各自、仕事ととびラー活動をしながら編集作業をしていたので、なかなか個人での作業が進まない時期もありましたが(笑)、そんな時には、とびラボで集まり、みんなで作業を進めました。
*各自パソコンで編集中。
<編集素材を聞いてナレーション制作&録音の日々>
編集がひと通り終わった後は各番組のナレーション担当を決めて、内容に相応しいナレーションの文章を考える工程に入ります。
インタビューの概要を伝える前枠、前半と後半に分かれる場合はそれを繋ぐための中枠、内容を総括する後枠をそれぞれ考えました。
自分が素材の編集を担当したものに関しては、思い入れが強すぎて内容に比して世界観が強すぎる概要文が出来上がったこともありました(笑)
ラボメンバーからの「力みすぎだ!」というツッコミのおかげで、硬くなり過ぎずフラットなナレーションになったのではないかと思います。そのほかの素材についても、メンバー全員で、ああでもないこうでもないと言いながら相応しい文章になるように推敲を重ねました。
ナレーションの文章が完成した後は録音します。ただ読み上げるだけだと、たかを括って録音を始めたのですが、家で何回も噛んでは読み返し、噛んでは読み返しを繰り返す羽目に。最終的にはイントネーションが訛っていたこともあり、アートスタディルームで再録し、やっとナレーションの録音が完了しました。
(噛まずに当たり前に話すテレビの中のアナウンサーってすごいんだなぁと改めて感じました。やっぱりプロはさすがですね)
*編集をするたびに何度も同じインタビュー素材を聴いて確認します。
<完成した番組の紹介テキストを考える>
編集済みのインタビュー素材に、ジングル、BGMとナレーションが入ると、それまで、幾度となく聞いてきたインタビューの音源が、一気に「番組」の風格を漂わせるので、皆でニンマリ。こうして完成した7つの番組の「タイトル」をつけるべく、それぞれにふさわしい言葉出しをしていきます。
アイディアを出し合うことで、ピタッとハマる瞬間に出会うことができます。それぞれが担当した番組の紹介文を作成し、ハッシュタグをつけました。それをラボメンバーで確認し、違和感ないように調整します。
*2025年版のジングルを制作したメンバーと試聴会。
*とびラボで賑やかな中、スマホで流すインタビュー素材をへばりつき聴く。
<番組制作をしてみて>
完成した番組には、ラボメンバーの想いがぎゅうぎゅうにつまっています!なので、これを読んだ方にもぜひ聞いていただきたいです。ただし、番組はラジオ部の活動のほんの「一部」にすぎないということをここではあえてお伝えしたいです。番組のテーマ/ジングルのギター演奏でのオリジナル音源制作、公開収録のポップの作成、インタビュー承諾書の英文作成etc…など、制作段階にたどりつくまでの縁の下の力もちもたくさんいました!
制作の過程において、各自の担当があるとはいえ、メンバー同士、たくさん語り合い、助け合って、考え抜いて番組を作り上げてきました。その過程こそがこのラボの宝であり、最大の魅力でもあるのです。
<とびdeラヂオぶ〜☆をやってみて…>ラジオ番組制作が仕事のメンバーが立ち上げたとびラボでしたが、集まった全員が制作初心者からのスタート。届けたい気持ちと、みんなのチャレンジ精神がとびラボとして3年間続けていく原動力でした。美術館でのあたたかいコミュニケーションの場から生まれた様々な背景の人の声をきいて、「美術館おもしろそう!」「行ってみようかな?」とアートコミュニケーションの裾野が広がるきっかけの1つになっていくことを願います。
▼番組はコチラから聞くことができます
執筆:矢吹美樹(12期とびラー)
日々の暮らしや学びのなかで、ふとした瞬間のきらめきや、「ことば」がもつ力に惹かれています。 一人ひとりの「ちいさな発見」や「その人らしさ」が自然にあらわれるような、温かな場づくりを大切にしていきたいです。
執筆:藤井孝弘
とびラー14期。普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。
執筆/構成:染谷 都(12期とびラー)
ラジオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。これからゼミ「上野の森と建築を考える」「『アートコミュニケータの建築鑑賞まちあるき』を考える」を実践中。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。
2026.03.21
とびラーは、東京都美術館の特別展や企画展に何回も足を運びます。それは、自分たち自身が展覧会をじっくりと鑑賞し、作品と出会うことを大切にしながら、プログラムの準備をしたり、とびラボの検討をするためです。一方で、公募展に訪れるのはつい自分の好みの展覧会に偏りがちなのではないかという思いがありました。「とびラーである私たち、いろいろな分野の扉を開けてみよう!」という思いのもとに始まったとびラボです。
そもそも公募棟で開催される展覧会には、どんな展覧会があるのでしょう。毎回、このとびラボに集まったとびラーで鑑賞に行く前には、「公募展カレンダー」を確認します。公募展とは、作品を広く一般から募集し、応募された作品や、審査を経た入選作品を展示する展覧会のことです。東京都美術館では、1年間に200を超える団体が公募展を開催します。東京都美術館が1926年に開館した頃から活動している歴史の古い団体から、新たに活動を始めたばかりの団体もあります。全国規模の大きな団体や小規模の市民団体の展覧会もあります。学校や教育団体の展覧会や美術大学・芸術大学の卒業製作展もあります。分野も、絵画だけでなく、工芸、書、手芸、写真、盆栽、生け花など多岐にわたります。
しかし、とびラーの中でも、「一人で入るには勇気がいる」「知らない表現分野の展示が多いので、展示を見に行くきっかけが欲しい」という声もありました。そこで、とびラボとしてみんなで鑑賞しに行きましょう!というのがレッツ!コウ!ボトーです。2025年4月から2026年3月までの1年間活動を行いました。多くのとびラーが参加できるように、1か月の中で平日1回、土日1回の2度の活動日を設け、毎回5、6人で鑑賞をしてきました。
初めてみんなで訪れたのは、モダンアートを作品のテーマにしている展覧会でした。展示室には大きな作品が並んでいました。その次に訪れたパステル画の展覧会会場では、小さめの作品が並んでいました。2つの公募展に行ったことで、展覧会によって作品の大きさにも違いがあることに気付くことが出来ました。
公募展に出品される作品の多くには、詳細な解説文などはありません。その為、「これは油彩なのかパステル画なのか」など素材を考えたり、「この作品から作者は何を伝えたいのだろうか」など想像したり、作品をじっくりと鑑賞するとびラーの姿がありました。
何回か活動していると想定外の嬉しい出来事が起きてきました。それは、作家さんとの出会いです。展示室内では作品を鑑賞するだけでなく、作家さんから作品についてお話を伺う時があるのです。とても興味深い時間です。
書の公募展を鑑賞しているときのことでした。その日参加したとびラーには書道の経験者が居なかったため、鑑賞のポイントが分かりません。展示室には、作家の方が在室していることがあるのですが、たまたまそこにいらした方が、私たちの為に書について詳しく解説をしてくださったのです。墨の濃淡の意味や、題材の選び方、筆運びの難しさなど、お聞きする話は初めて聞くことばかりなので、みんなとても感心していました。
また、和紙絵画展で出会った作家の方は、お弟子さんとの活動の楽しさをお話してくださいました。和紙をどのように重ねるか、遠近感の表現が難しいことを教えてくださいました。
漆の公募展では、漆工芸歴60年という作家の方からレクチャーを受けました。
いずれも、とにかく作家の皆さんのお話がとても興味深く、参加したとびラーは濃厚な鑑賞時間を持つことが出来ました。公募展に行ってみることには、作品との出会いがあるだけではないのです。人とも出会える魅力を持っています。
もうひとつ、作品以外に私たちが感心したことに、活動内で出会った作家の方に80代半ばの方が何人もいらしたことです。姿勢も良く、外見ではそれほど高齢とは思えません。お話もしっかりされとても健康的でした。遠方のご自宅から東京都美術館までいらして、一日展示室で過ごし、仲間と話し、半年先の次回の展覧会の予定も決まっていて制作意欲も持たれています。そのお姿に、私たちはアートの力を感じたのです。
とびラボ活動をした際には、活動内容をとびラーのみんなに報告をします。すると、嬉しいコメントが入るようになりました。それは、「活動報告を読んでその公募展に行ってみました!」といった内容のものでした。また「一人でも公募展に入りやすくなった」「面白かったから次の機会にも行ってみようと思います」という話も聞きました。
公募展に行くことは、新しい分野の作品に出会い、その後の鑑賞活動の幅を広げる効果もあるようです。
レッツ!コウ!ボトー 皆さん一緒に レッツ GO!公募棟!
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2026.03.15

集大成ともいえる団体作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》より
みなさんは、「コスプレ」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?わたしたちが取り組んでいる「アートコスプレラボ」では、絵画や彫刻などの作品を、自分たちの身体を使って、再現することをめざしています。再現にあたっては、作品に登場する人物のあり方や気配まで含めて表現しようとします。
多様な来館者と様々な作品を鑑賞する経験を重ねてきたとびラー(アート・コミュニケータ)が、その視点を活かし作品を鑑賞し、制作します。
ここからは、コスプレラボの過程をご紹介します。
①作品選び
②どんな風にコスプレするか熟考する
③制作
④撮影
①作品選び
まず、どの作品をアートコスプレするかについては、各とびラーの感性で自由に選択します。多くの人が目にしたであろう「名画」シリーズにこだわるとびラーや、東京都美術館で開催された展覧会の作品にこだわるとびラーなどそれぞれが、なぜその作品を選んだのかをミーティングで他のとびラーに話します。また、各自で選ぶ作品とは別に、複数のとびラーで一つの作品をつくることも考えていきます。
②研究
作品に向き合い、作品をじっくり見ます。色や形、質感や感触、時代、季節や気温、光や風の強弱、匂い、作家や登場する人物の気持ち、前後のストーリーまで推測します。図録やwebなどで作品の背景も研究します。自分たちなりの解釈に正解はなく、自分たちがその作品をどうキャッチしたかを大事にします。鑑賞する際の自分の受け止め方によって、その人らしいアートコスプレの表現につながっていくのです。
③制作
鑑賞してキャッチしたものをカタチにしていきます。最も楽しく、悩ましい過程です。制作に使う素材選びでは、100円ショップや布屋や古着屋などに何度も通います。制作にあたっては、どのようにカタチにしたらよいか迷いながら作っていきます。撮影までの間、とびラボで中間発表をしたり、お互いにお悩みを相談します。とびラボに参加するとびラーの発想力で、お互いの自宅に眠っている材料も使って制作をしていきます。。
クイズ:この素材は何でしょうか?
正解は、「羊毛フェルト」!完成度の高さにとびラーもびっくり!
④撮影
撮影は、制作したものを着用してすぐに写真を撮るわけではありません。この段階でもまた、作品をじっくりと見るのです。たとえば、作品の中の人物の上半身と下半身のプロポーションが現実ではありえないようなバランスだったり、頭を傾けるにも左右の角度だけでなく前後の角度も大事で、さらに捻りが入っていたりします。
これは、「作品をじっくりみる」だけでは気づけないことで、実際に身体をつかってみることで、はじめてわかるバランスや違和感があります。コスプレしている本人だけでなく、周囲のとびラーが「もっと左をむいて」「からだは正面だけど顔は右に!もっとうつむいて!」など的確な指示をだすことによって、より作品に近づけます。撮影の場では、とびラーのものすごいエネルギーが流れていて、みんな汗だくに!実際に演じてみてこそわかる不自然ともいえる体勢での撮影翌日には、筋肉痛になること間違いなしです!(笑)
たくさんの視点により入念にチェック。
撮影が長引くと、背景も持つ腕もプルプル・・・
【アートコスプレギャラリー(抜粋)】
実際に身体を使って再現してみると、作品を見ているだけでは気づかなかったことが次々に現れてきます。作家が何を表現したかったのか、どんな気持ちだったのか、じっくりみることで思いを馳せ、ひとりでつくる。そして、とびラー同士の別の角度からの視点と熱量があわさって、みんなでよりよくするための意見を出し合い、撮影して完成させる。コスプレーヤーとディレクターの相互作用で「アートコスプレ」となるのです。
アートコスプレは、カラダをつかった「模写」とも言えるかもしれません。
アートコスプレラボを実施する場に満ちている充実感や達成感は、内省的な創作活動だけでなく、とびラー同士の共同創作の成果だと思います。
ひとりでつくる楽しさもありますが、みんなでつくりあげる過程を楽しみたい、そう思えるとびラボでした。また、アートコスプレという方法を通して、新しい鑑賞のとびらが開かれたように感じています。

飛び入り参加のとびラーも加わり、いろんな個性が集合したひまわり。
そこに居る人が、「来て良かった、ここにいていいんだ。」と感じられる場づくりをしたいです。
日々の暮らしや学びのなかで、ふとした瞬間のきらめきや、「ことば」がもつ力に惹かれています。一人ひとりの「ちいさな発見」や「その人らしさ」が自然にあらわれるような、温かな場づくりを大切にしていきたいです。
2026.02.04
私たちとびラーが主に活動している東京都美術館 交流棟にあるアートスタディールームには、カラフルで座り心地の良いイスがあります。また、本棚の前にあるイサム・ノグチのソファに座ると、自然とゆったりとした気分になり、お喋りに花が咲きます。
普段は気にせず使っているこれらのイスですが、実は東京都美術館内にはさまざまな種類の魅力的なイスがあるのではないか、改めてイスに注目して館内を巡ってみよう、というのが、とびラー同士で実施したこのとびラボです。平日午後の開催でしたが、17名のとびラーが集まりました。
イスについては、デザイナーの情報やどこのメーカーのものであるかなど基本的なこともとびラー同士で共有しました。その際、参考にしたのが「美術館でアートの本とすてきな家具に出会う」というリーフレットです。このリーフレットには、東京都美術館にあるイスについて紹介されています。
※「美術館でアートの本とすてきな家具に出会う」リーフレット
https://www.tobikan.jp/media/pdf/2022/guide_artlounge.pdf
しかし、それだけではありません。このとびラボでは、イスがどこに置かれているのか、そしてその場所にあるイスに実際に座ってみることで空間がどのように感じられるのかなど、イス単体に注目するのではなく、空間自体を捉えることを試みました。
1階の佐藤慶太郎記念アートラウンジにあるイプ・コフォード・ラーセンのイスや、フィン・ユールのイスは建築ツアーでも話題にするとびラーが多くいます。いつもは紹介する側ですが、今日は自分でしっかり座ってみよう、座ったら何が見えるだろうか、という思いで腰掛けてみました。すると、公園の緑がより近くに感じられる印象がありました。実際に座ってみることで視点の違いをリアルに感じることが出来たのです。
※佐藤慶太郎記念アートラウンジ
https://www.tobikan.jp/guide/artlounge.html
エスプラナード(美術館正門から建物内部へとつながる広場空間)に置かれている石のベンチについても、みんなで検証してみました。このベンチは、1975年の新館設立時から設置されているものです。これまで、たくさんの来館者を迎えてきたベンチです。エスプラナードのエスカレーター脇や企画棟の壁沿いにありますが、そこだけではなく、東門へ通じる階段の途中や屋外彫刻の最上壽之 《イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》と、小田襄 《円柱の領域》の近くにもあります。東門近くのこのベンチでは、彫刻を眺めたり、本を読んだりしてゆっくり過ごしている方を見かけます。あるとびラーが、東門近くは、企画棟の打ち込みタイルの壁や大きな銀杏の木などに囲まれ、特に落ち着いた空間になっているのではないかと気付きました。だから、のんびりと座っている人が多いのではないでしょうか。
東京都美術館のイスと言えば、ロビー階のホワイエや公募棟にある大きな窓のある休憩エリアに置かれている、赤・緑・黄・青の4色のイスが特徴的です。このイスは建築家・前川國男がデザインしたものです。
ホワイエで観察していたとびラーが、このイスが置かれている数の配置に規則性があることに気付きました。手前から、4個組5個組6個組になっていることに気付いたのです。よく観察したからこそ気付いた発見でした。
一方で、色の配置は常に決まっているのだろうか?座面の色の配置には何か理由があるのだろうか?という疑問も湧き上がりました。これは、今後の検証が必要そうです。
公募棟の休憩エリアにも同じ前川國男デザインのイスがあります。1階のイスに座ると外のエスプラナードを行きかう人々の流れや屋外彫刻に目が行きます。2階のイスに座ると広い青空に目が行きます。
同じ大きな窓でもイスの置かれている場所が違うことで、座る人の視線の動きに違いがあることに気付きました。前川國男は、こうした人の視線の動きも計算していたのでしょうか。みんなで感心しました。
とびラーから特に好評だったのは、美術資料室にあるナンナ・ディッツェルのイスでした。座ると包み込まれるような感覚になるという感想を持つ人が多くいました。いつまでも座っていたくなる、好きな展覧会の図録を眺めながら、ゆっくり過ごすことが出来るイスです。
※美術情報室
https://www.tobikan.jp/guide/artlibrary.html
私たちは、今回、イスに注目して館内を巡ったことにより、それぞれが東京都美術館の中で自分のお気に入りの場所を見つけることが出来ました。そして、なぜその場所が好きなのか、理由についても考えてみることになりました。
例えば、公募棟展示室の上野動物園側にある休憩エリアのイスがお気に入りのとびラーは、なぜそこがお気に入りなのか考えてみました。そうするとイスの座面の色がホワイエにあるイスとは違い、グレー系の色であることやその休憩室が貸し切りの個室のような空間で落ち着くのだと改めて腑に落ちたのです。
このとびラボは、この日一日だけの活動でしたが、館内の素敵なイスに詳しくなったことで、他のとびラーや友人たちにも是非伝えたいという声もあがりました。
私たちがもっとも美術館らしさを味わえるのではないかとお勧めするイスは、講堂前のイスです。座ると自然に視界に入るのが対面の壁に掛かる大きな作品、ジョゼフ=アントワーヌ・ベルナールのレリーフ《舞踏》です。一人静かに作品を眺めるという優雅な時間が味わえるお勧めのスポットです。
機会がありましたら、是非、みなさんも座ってみてはいかがでしょうか。
とびラー12期 猪狩麻里子
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2026.02.02
とびらプロジェクトで、
生まれるべくして生まれた企画
12月にしてはポカポカと暖かい小春日和、東京都美術館(以下、都美)で1日限定のスタンプラリー企画が開催されました。その名も「前川國男の名建築 都美のいいトコ 建築鑑賞スタンプラリー」。建築の見どころをモチーフにしたとびラーお手製のハンコで、スタンプラリーを楽しむイベントです。
前川國男の名建築 × スタンプラリー × ハンコはとびラーお手製
お腹いっぱいになりそうな内容ですが、実は、とびラーのこれまでの活動が積み重なって、必然的に生まれた企画でした。というのも………
❶「とびラーによる建築ツアー」から派生
都美では、前川國男が設計した名建築そのものも楽しんでいただくため、とびラーによる建築ツアーを実施しています。数人のグループ単位で館内のおすすめの場所をご案内するツアーですが、45分間のツアーが終わると「あっという間だった!」「もっと長くていいわ!」と、うれしい感想をいただくことが少なくありません。とびラーのほうも「もっとのんびり、心ゆくまで建築鑑賞をご一緒したい!」「一人ひとりのペースで楽しめる方法はないかな」と思っていました。
❷「消しゴムハンコ」にはまるとびラー
とびラーは「障害のある方のための特別鑑賞会」の招待状封筒を消しゴムハンコで飾る活動を続けています。回を重ねるごとに腕を上げて、消しゴムハンコの世界にはまっていく人が多いのです。
以上から、手作りハンコのスタンプラリーをツールとした建築鑑賞企画があってもいいのでは!と思いつき、「この指とまれ」をしたところ、仲間が集まりました。
初回のミーティングは、悪天候によりオンラインと
オフラインのハイブリッドで実施
スタンプラリーは人類の根源的な欲求を達成できる
最高のコミュニケーションツールだ!
キックオフミーティングでは、「都美のいいところを知ってほしい」「スタンプラリーが大好き」「都美のハンコを彫りたい」とそれぞれのとびラーが熱い想いを語り、スタンプラリーについて勉強。その上で、なぜ自分たちは、スタンプラリーを交えた建築鑑賞をしたいのかを言語化しました。
スタンプラリーの面白さを分析し、挙がったキーワードは以下です。
「収集」「達成感」「発見」「コミュニケーション」「冒険心」
つまり、スタンプラリーは、人類の根源的な欲求を達成できる、最高のコミュニケーションツールなのかも!と盛り上がりました。
さらに、これらのキーワードを都美の建築鑑賞スタンプラリーに当てはめると
「収集」 ▶︎自由に都美を回遊、長時間過ごす
「発見」 ▶︎都美の建築の魅力を知る
「達成感」 ▶︎成功体験により都美に愛着が湧く
「コミュニケーション」▶︎人と人(参加者ととびラー)もつながる
「冒険心」 ▶︎楽しい!ワクワク!
さらに、コミュニケーションツールにスタンプラリーを選ぶ必然性についても考えました。
⚫︎ 表現手段を手作りスタンプにすると、建築が身近に感じられる
⚫︎ 言語に頼らないコミュニケーションもできる
⚫︎「発見」の瞬間をたくさん提供できる
⚫︎ 子どもも大人も、誰でも楽しめる!
そして、メンバー全員で「都美でスタンプラリーをやりたいのだ!」と意思を固めたのでした。
企画にワクワク、懸念がムクムク
2回目のミーティングでは、さっそく具体的なプランを相談。ルールやスタンプシートのデザインなどのアイデアがポンポン飛び出し、ワクワクしながら、当日のイメージをカタチにしていきました。
アイデア出しを楽しむ一方、懸念点を洗い出し、対策も考えました。
⚫︎子どもたちが夢中になって館内を動き回って、安全性は担保できるのか
▶︎スタート地点でルールをしっかり説明。とびラーが見守る。
⚫︎スタンプインクで汚れるようなことはないか
▶︎とびラーがスタンプを押す。もしくはシールにする。
⚫︎当日の運営に、人員が必要!
▶︎とびラーを引き続き募集する!
その後のミーティングでは、とびらプロジェクトのスタッフから客観的な意見をもらいつつ、「参加者が殺到したら?」「雨が降ったら?」とあらゆる事態を想定し、運営体制を検討。同時並行でスタンプの制作と各ポイントでの参加者とのコミュニケーションの練習も進めました。
ここで新たな心配が発生。建築ツアーガイドの経験があるとびラーは参加者と建築鑑賞をすることに慣れているのですが、そうでないとびラーが、参加者とうまくコミュニケーションできるかどうか、不安を口にし始めたのです。そこで、ポイントごとに参加者に楽しんでいただける対話のネタを考えてシミュレーション。自信をつけるために経験を積み重ねました。
100人の参加者が名建築を堪能!
当日は、100人の参加者が、スタンプラリーと建築鑑賞を楽しみました。午前中は、SNSを見て「先着100名なので、早めに来ました!」と来られた建築ファンの方がちらほら。午後は、当日ふらっと参加した高校生や親子連れが多く、赤ちゃん連れや障害がある方にも参加していただきました。
「自分のペースでポイントをめぐれるのがいいですね」と、自由に回れるスタンプラリー形式にした狙い通りの反応も。「建築に興味はなかったけれど、新たな視点が得られてよかった」というご意見もあり、名建築としての都美のファンを増やすことに寄与できたと思います。そして何を隠そう、誰よりも、参加者が都美の魅力を発見していく、その場や時間を楽しんでいたのは、とびラーたちだったかもしれません。
みんなでつくった手作りのスタンプシートはこちら!
「消しゴムハンコを押したシール」を貼るスタイルになりました。
職人がコンクリートに施した凸凹(はつり加工)の
柱表面を触って鑑賞
高校生も親子も、都美建築の特徴である
壁面の「打ち込みタイル」を鑑賞
今回が初めての試みだったため、とびラーは「本当に参加者が来てくれるのかな……」「楽しんでくれるかな」と心配していました。しかし、スタンプラリーと名建築を愛する情熱、そして、持ち前の臨機応変なコミュニケーション力で、当日は底力を発揮することがました。最後は、参加者のみなさんも、とびラーもみんなが笑顔で終われて本当によかったと思います。
13人で始めたとびラボも、当日はこんなにたくさんのとびラーで
来館者を迎えました!
編集制作会社で働いています。名建築に身を置き、建築家の思いを知ることに夢中。とびらプロジェクトで学んだことを生かし、身近な場所にみんなが居心地の良い場所をつくることを目指しています。
2025.12.21
・東京都美術館では2025年9月12日(金)~12月21日(日)に特別展「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(以下、ゴッホ展)が開催されました。これにあわせて、とびラボ活動「ゴッホをめぐるボウケン」を行いました。活動はゴッホ展閉幕までの間、全5回行いました。
・実は、ゴッホ展の前の特別展「ミロ展」から「ボウケンラボ」は誕生しました。東京都美術館でさまざまな特別展が行われる中、その作家や背景についてもっと知りたいと思いながらも、ひとりでは調べきれないまま展覧会が終わってしまうことを残念に感じていました。
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・そこで立ち上げたのがこのラボ「〇〇をめぐるボウケン」です。 とびラー同士、自分自身の興味関心を自由に調べ、シェアし合い、それぞれの興味関心の冒険が拡がる、そんなラボを目指しました。
・・
1.今日の興味関心を付箋へ書き出し&分類
・まず、ゴッホ展をめぐる「今日の興味関心」を数分間で各自付箋に書き出し、書いた内容についてひとりずつ付箋を出しながらシェアします。「あ、それ、私も同じことを書きました!」と声が上がることも。似た内容の付箋をまとめながらシェアしていきます。
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・この日は「ゴッホの作品」「ゴッホの人間関係」「ゴッホという人」に分類できる付箋が出てきました。
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2.各自30分の調査タイム
・ここからは、30分の時間で各自気になることを調査してまとめます。Webで検索するもよし、図録や関連書籍を読むもよし、各々のスタイルで調査&まとめを行います。特別展に関する書籍が多数ある美術情報室に行って調べるメンバーもいます。調べている間は、皆無言で黙々と調査します。
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3.シェアタイム
・30分の各自調査タイムの後は、シェアタイムです。順番に調査内容をシェアします。とびラー同士も感想を伝え、気づいたこともシェアしてコミュニケーションしながら進めます。 他のとびラーが調べたことを聞いていると、自分では思いもつかなかったテーマや視点の調査内容やまとめ方に「へぇ~。」「そうだったんだ~。」「なるほど~。」と新たな気づきがあり、「ということは、これはどうだったんだろう?」などと、さらにまた興味関心が芋づる式に掘り起こされてきます。まさに「ゴッホをめぐる知的好奇心を深めてゆくボウケン」が繰り広げられていきます。
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・このように、①今日の興味関心を付箋に出す ②各自30分の調査 ③調査内容をシェア という流れで進めるこのとびラボは、ゴッホ展の開催期間中に複数回行われており、何度も参加するとびラーもいれば単発で参加するとびラーもいます。一度だけの参加でも全く問題なく気軽に「ボウケン」できるのも魅力の一つです。
・全5回のボウケンをした今回の「ゴッホをめぐるボウケン」。ゴッホ展閉幕の12月21日に最後の「ボウケン」と解散会を行い、ラボ全体の振り返りを行いました。
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・メンバーからは、「それぞれの気になるテーマを共有できたのがよかった」「自分では気づけなかったトピックに出会えた」「調査テーマが決められていない自由さが心地よかった」といった声が上がりました。時間制限を設けた30分の調査タイムも、集中して取り組める心地よい緊張感が生まれ、短時間でも多くの発見につながり、共有にちょうどよい分量で進められたのが好評でした。また、宿題のように持ち帰るのではなく“その場で調べる”スタイルは、負担感がなく気軽に参加できるうえ、とびラー同士のリアルな会話の中で興味が広がり、その日の関心をすぐに深掘りできる点が魅力でした。「すご〜く楽しかった!」という声も多数あり、生き生きとした知的交流の喜びがその言葉に現れていました。
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・このラボを行って、とびラーの様々な視点でのゴッホ展をめぐるあれこれを今までよりも少し理解することができた気がします。ゴッホについては炎の画家、狂気の画家という表現も聞きますが、そうではないゴッホや、家族や交友関係の中の姿を知ることができ、ゴッホを以前よりも身近に感じることができました。
・
・同時に、絵画への真摯な探究心や学び続ける姿勢にも触れ、あらためて多くの作品を残したゴッホと、その歩みを支えた家族に感謝の思いを抱きました。ゴッホ展というきっかけから生まれた「ボウケン」は、これからもいろいろな展覧会をめぐって続いていくかもしれません。次の「ボウケン」も楽しみです。
執筆者:寺岡久美子(13期とびラー)
情報通信系の企業で働いています。企業内ボランティア活動として、カウンセリングやメンター、社内認定講師も担当しています。とびラーになってから、アートが自分自身にぐっと身近に感じられるようになり、忙しい人たちにもアートに触れられる機会をつくりたいと思うようになりました。これからは「企業×アート」でできることを考えてみたいと思っています。好きな村上春樹さんの小説『羊をめぐる冒険』からラボ名を拝借しました。
2025.12.19
■ きっかけ:大学生の「居場所」を美術館に
大学生を対象としたプログラム「大学生の放課後ミュージアム みる・つくる・はなす」を企画・実施しました。このプロジェクトの出発点は、「美術館のプログラムに大学生向けのものが少ない」という問題意識と、「アートは知識がないと楽しめない」という多くの大学生が抱える心理的な壁を壊したいという思いからでした。
当初は、エンタメ性の強い内容も検討しましたが、メンバーで美術館を歩き直し「空間の持つ余白の魅力」を再発見したことで、ターゲットを「美術館には来るが、まだ自分なりの楽しみ方が見出せていない人」に設定し、目的を「自分なりの好きを発見し、共有すること」へと再定義しました。大学生と20代のとびラーが中心となり、半年間にわたり20回以上の会議を重ね、同世代の仲間に向けて一からプログラムを作り上げました。
■ 企画内容:自分の部屋に「好き」を飾る体験
当日のメインテーマは「自分の部屋の壁に飾りたい作品」に設定しました。当初は謎解きのようなエンタメ企画も検討しましたが、最終的には「人の評価ではなく、参加者自身が自分の視点でアートを選び、解釈する『余白』を楽しんでほしい」という思いから、このテーマに行き着きました。
展示室さんぽ(鑑賞)の様子
まずは、開催中の「刺繍ー針がすくいだす世界」展を鑑賞し、参加者それぞれが直感でお気に入りを探しました。初めは緊張していた参加者も、「作品に使われている素材って何だろう?」、「これって漫画に似ているかも?」といった些細な疑問から会話を広げることで緊張がほぐれ、教える・教えられる関係ではなく、一緒に作品を楽しむフラットな関係性を築くことができました。
お気に入りの作品を選定する様子
展示室さんぽした後、「自分の部屋の壁に飾りたい作品」をテーマにお気に入りの作品を5枚選定しました。そして、タブレットを活用し、選んだ作品を展示空間にレイアウトするワークを行いました。参加者が「自分ごと」として作品を選ぶことができるよう、「タブレット上で自分の理想の部屋(空間)を作って飾る」という形としました。これにより、参加者はより純粋に「自分の好き」を表現することに集中できました。
レイアウトへの想いを共有するシェアタイム
最後は、作成した画像を囲みながらシェアタイムを設けました。そこでは、「図工の時間以来にこういうものを作れて楽しかった!」といった声や、「自分が無機質な雑巾のモチーフが好きだと気づいた」といった、その人ならではの具体的なこだわりが活発に飛び交いました。互いのレイアウトに対する感想も盛んに出て、コミュニケーションが生まれる良い場となりました。
■ 今後に向けて
今回のプログラムを通して、私たちラボメンバー自身も多くの楽しさや発見を得ることができました。特に面白く感じたのは、「普段の友達ではない同世代と、作品を一緒に見る楽しさ」です。初対面であっても、アートというフィルターを通すことで自然と深い価値観が交わり、それぞれの「好き」を共有できたのは貴重な経験でした。また、正解のない「解釈する余白」こそがアートの面白さであると、私たち自身も改めて気づかされました。
今回のラボを通じて、対外向けプログラムをゼロから作る大変さと同時に、「本質的に何を大事にしたいのか」を考え続ける姿勢の大切さを学びました。今後は、参加者同士の対話の時間をさらに充実させ、より柔軟な場づくりを探求していきたいと考えています。
誰もが自分の「好き」を安心して持ち寄り、共有できる場所。そして、学生にとって気軽にアートに触れることができ、心ゆくまで楽しめる最高の空間として、美術館の魅力をこれからも同世代の仲間たちへ届けていきたいです。
金子淳平
13期とびラー。現在大学3年生。趣味は、合唱と野球。大学ではフランス近現代の美術史と思想を専門に学びながら、課外では音を用いた作品制作やプロジェクトに取り組んでいる。メディアと情動、日常と物語など、身の回りの「関係性」について考えるのが好き。
2025.12.13
「わたしたちも手で話したいラボ」は、2025年度の第2回アクセス実践講座「ろう文化を知ろう」を受講した当日に発足しました。
第2回アクセス講座の講師は、ろう者で明晴学園というバイリンガルろう教育を行う学校の校長を務める小野広祐さん。手話で「ろう文化」についての講義を行ってくださいました。
■ 講座を受講して、初めて知った「手話」という異文化
当時のわたしは恥ずかしながら、「手話」というものは、耳がきこえない・きこえにくい方々への配慮・支援のための手段である、という程度の認識でした。
その認識が、この講座の受講をきっかけにして、ひっくり返ったのを今も覚えています。
手話は、いわゆる「聴覚に障害のある方」への配慮・支援をするための手段ではなく、耳が聞こえない人たちが生活を営むなかで自然に育まれてきた「ひとつの言語」であるということ。
手話が持つ、音声言語とは全く異なる文法体系の基本的な話から始まり、具体的なエピソードを交えたろう者と聴者の考え方の違いの事例など、ろう者である小野先生の手で語られる血の通った言葉に、夢中で目を向け通訳の方の言葉に耳を傾けていました。例えば、手話では話し手や聞き手、あるいは第三者など位置関係を示すために指差しして話すことが多いけれど、聴者からすると人を指差すことは失礼になってしまうという文化的な違いがあることや、「食べる」という表現が、食べる対象物とセットになっている(「ハンバーガーを食べる」の手話は、手でハンバーガーを持っているようにして頬張る、「おにぎりを食べる」はおにぎりを持っているようにして頬張る、etc…)ことなどが印象に残っています。
また、その講座の時にスタッフや登壇者の方々が手話で軽快に「おしゃべり」している様子をみた際に、自分もこの言語で話すことができたなら、、、と淡い憧れの気持ちを抱いていたように思います。
その夜、講座の振り返りを書くだけでは想いを抑えることができず、このラボを発足するための呼びかけをとびラーにメールしたのでした。このように、湧き上がる思いのままに開始したラボだったのですが、具体的な活動内容は定まっておらず、どんな風に進めれば良いのか不安な気持ちもありました。
初回のとびラボに集まったとびラーは、手話が初めての人、手話学習歴が長い人・浅い人、中途失聴の人など、様々な人たちが集まりました。
それぞれがこのラボに参加した想いを聞いた後に、これからのラボでやりたいことを話し合い、後半は、区が主催する手話通訳養成講座に通っているとびラーが、即興講座を開いてくれました。
アクセス実践講座で知った内容と紐付けながら、みんなとペースを合わせて手話を学ぶことができました。
↓第1回「わたしたちも手で話したい」ラボの様子
その後の活動も集まった人たちで柔軟に活用できるものを活用しながら、手話やろう文化を学ぶ活動を実施しました。
以下が、その後にラボの中で実施した主な活動です。
▼指文字しりとり
手話のほかに、聴者が話す50音の1音1音に合わせた手の形が決められている「指文字」というものがあります。
ちなみに、日本語の50音に合わせた指文字は、1931年にアメリカの指文字を学んだ大阪市立聾唖学校の大曾根源助らによって作られたと言われているそうです(参考:文法が基礎からわかる日本手話のしくみ、岡典栄・赤堀仁美著、p29)
この指文字を覚えられるようにと、ラボに参加したとびラー同士で、時折カンニングペーパーを見ながら(笑)、指文字しりとりを実施しました。
この指文字しりとり、予想以上の盛り上がりを見せ、時間を忘れて取り組んだせいで後半の内容を押す羽目になりました。
皆さんもぜひしりとり遊びを通じて指文字を覚えてみてください。
▼サインネーム(手話によるあだ名)決め
ろう者の方々は、各自の特徴を捉えたり名前をもじったりしたあだ名があるようで、ラボメンバーもそれぞれサインネームをみんなで考えて決めました。
中途失聴のメンバーの一人に、すでにサインネームが決まっている方がいたのですが、それがあまり気にいっていないから、という理由で付け直していたのが面白かったです。
ちなみに、その方の名前のイニシャルはMで、笑った際の目尻のシワが特徴的なことから、指文字の「M」の形(人差し指、中指、薬指を立てて逆さにするのが「M」)を両手で作って、目尻に三本の指を合わせる、というサインネームに決まっていました。
▼東京都美術館のHPにある手話による施設案内動画を視聴して学習
東京都美術館のHPには、手話による動画がいくつか掲載されています。
その中で、施設案内動画を活用して、ラボ内で手話の学習を行いました。実際に動画をみながら手話を解読していくと、わずか20秒程度の文章を理解して実際に手話で真似られるようになるまでに10分以上かかっていた気がします。
また、字幕と手話は一対一対応になっておらず、字幕ばかりみていると手話を見逃してしまうのは面白い体験でした。
外国語の翻訳が日本語と一対一で完璧に逐語訳できないように、日本手話ももちろん日本語と完全に連動しているわけではないということを実感できました(日本手話はやはり音声日本語とは違う言語なのですね)
↓東京都美術館のHPにある手話による施設案内動画を視聴する様子
▼中途失聴の当事者を交えて、きこえる・きこえない・きこえにくい人の体験の違いをシェア
また、ただ手話を学ぶだけではなく、中途失聴のきこえにくいとびラーから、補聴器から人工内耳に変えたことによる聴こえの変化を聞きました。きこえる・きこえない・きこえにくい人の言葉や表現の認識の違いについて話したことも印象的でした。
人工内耳に変えて、初めてウグイスの鳴き声が聞こえた時、これが本などで知っているだけだった「ホーホケキョ」の鳴き声か!と感動したそうです。
↓中途失聴の当事者と聴者の体験の違いについて雑談する様子
そのほかにも
・明晴学園の校長でアクセス実践講座の講師である小野広祐さんが執筆したテキスト(『日本手話へのパスポート』)の動画を視聴して学習
・NHKの手話データベースを活用して語彙を増やす
・目の見えないメンバーも交えて手話を学ぶ
などなど、様々な活動を行いました。
■ラボのこれから:「手で話す」が1つの選択肢になる未来を夢想する
「手話」という言語やろう文化を学ぶことが面白い・興味深い、手話を使って話してみる試行錯誤が楽しい、というのがモチベーションの根底ですが、個人的にはもう1つ、このラボを継続する上でのモチベーションがあります。
それは、「手で話す」というコミュニケーション手段が、当たり前に選べる選択肢になる未来への小さな礎石になれればいいなという想いです。
とびらプロジェクトでは、すでにそのような未来に向けた活動が着実に一歩づつ実施されているはずです。
このとびラボは、そのような活動の中の小さな種の一つに過ぎません。
執筆者:藤井孝弘
とびラー14期。普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。
人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。
2025.12.11
「五感で楽しむ冬の都美さんぽ」とは、上野公園の緑に囲まれた東京都美術館(以後、都美)の環境と前川國男が設計した建築を視覚・聴覚・触覚・嗅覚などを使って味わいながら歩く約1時間のツアーです。
開催日は、土日の上野公園の喧騒を避けて、比較的静かな平日に実施しました。
開催日程は2日間です。
2025年12月4日(木)、11日(木)10時~11時の2回にわたり実施した、ツアーの模様を報告します。
準備段階でとびラーは、2025年8月から4か月の間、6回のとびラボミーティングを行いました。
ミーティングでは、ツアーの開催時期や、五感に意識を向けることで日常とは異なる美術館の見え方を参加者に体験してもらうにはどのようにしたらいいか、参加者ととびラーがともに楽しむためにどんなツアーを作りたいかをとびラー同士で話し合いました。
この「五感で楽しむツアー」のシリーズは、最初のアイデアが実施されてから、3年目を迎えました。継続的に行ってきた「五感で楽しむツアー」というアイデアを、今年度はどのように実践していくのかについても話し合いました。
*
そして迎えたツアー本番1回目は、少し気温も低く、寒さを感じながらのスタートになりました。
当日は7名の参加があり、2チームに分かれてツアーを実施しました。
ツアーコースは、ファシリテータがチームごとにプランを立ました。
ツアー中に立ち寄るポイントで、五感を使って美術館を楽しんでいただくための見せ方や、声掛けなどを考えたプランです。
ツアーでは、五感に意識をむけることでいつもとは違う気づきが生まれます。
例えば、こんな気づきです。
視覚:何気なくみていた美術館外壁に、よく見ると穴があることに気づく。そうすると、この穴は何のために空いているのかを考える。さらに、外壁に近寄ってみると、もっと小さな穴も見えてくる。
触覚:外壁を触ってみると、そこから、どのような素材でできているのか知りたくなる。
聴覚:野鳥の声、人の話し声、足音などに気づく。そうすると、都美の建っている公園の環境や人の流れに気がつく。
嗅覚:敷地に落ちているクスノキの葉を割いてみると、さわやかな香りを感じる。
そして、このツアーだけの特別感を感じられるポイントがあります。
「普段は入れないエリアへご案内します」と、とびラーが参加者にお伝えすると、参加者の「わぁ。」というお声とワクワク感が高まります。そのお声を聞くと、私たちもワクワクしてきます。
いつもは施錠してある都美の敷地の東側にある小さな門を入り、細い通路を抜けます。そうすると視界が広がり、目の前に大きな銀杏が見えてきます。
そこは、前川國男が設計した新館開館当時は野外彫塑展示室だった都美の北側エリアです(現在は野外彫刻の展示はありません)目の前の大きな銀杏は1945年第二次世界大戦で被災した銀杏です。
木の上部は焼け落ち、幹の内側も黒く焦げていますが、横に低く枝を伸ばしていて、毎年春には緑の葉が茂り、秋には黄色く色づきます。木の下に入ると、静かに佇むその姿から、長い時間を生きてきた重みや生命力が伝わってきます。参加者からは、「畏怖を感じる」との声もありました。
ツアーの終わりに参加者に感想を伺うと「午後から仕事だがリフレッシュして向かえる」とのお話しされていました。
本番2回目は、9名の参加者を迎え、3チーム編成で実施しました。
*
今年度の実施では、とびラボに集まったとびラーととびらプロジェクトのスタッフがみんなで準備を進めてきました。また、実施にあたっては美術館の各部署の方々のご協力も得て、2回のプログラムを無事終えることができました。
参加者のみなさんには、美術館に展覧会を見に来るだけではない楽しみ方を知っていただき、ツアーに参加したことで、いつもと違う時間を過ごしていただくことができたのではないかと感じています。
※美術館北側のエリアはプログラム開催時のみご案内しています。
通常は入室できませんのでご注意ください。
とびラーに応募したきっかけは定年退職後も社会とつながっていたい考えたことです。美術館ボランティア活動に参加しなければ出会えなかった多様なバックグラウンドをもつ仲間との3年間は、私にとって宝物になりました。任期終了後も仲間とつながり、様々な場所での活動が続くことを嬉しく思っています。
2025.12.05
東京都美術館ではとびラーによる建築ツアーがおこなわれています。一方で、昼間とは異なる夜ならではの魅力もお伝えしたいという思いがあり、「この指とまれ」で集まったとびラーで夜間開館時のツアーに取り組むことにしました。
今回は「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」会期中の夜間開館時に開催することを想定し準備を進めていきました。
夜間開館時に行う建築ツアーは過去にもおこなわれています。しかし、私たちが目指すツアーはどんな内容がよいのだろうか、と話し合いをスタートしました。
まず、ツアーのネーミングについて考えました。日没後、館内の照明が輝きだします。公募棟休憩室の赤・緑・黄・青の4色の壁が見事に照らし出され、かまぼこ天井の照明も昼間とは違い、より一層暖かく感じます。そのような館内を巡るツアーを私たちは「トビカン☆ナイトクルーズ」と名付けました。
今回のツアーでは、事前の参加申し込み受付はおこなわず、インスタグラムなどの事前告知と、当日に館内で呼び込みをして、参加者を募りました。また、申し込み受付は、当日におこないました。整理券配布時間前から参加希望のお客様が集まり、とびラーも嬉しさと共に、より良いツアーにしようと気持ちが引き締まりました。
とびラー15名が自分の担当場所に位置し、4チームに分かれて、21名のお客様をお迎えしました。それぞれのチームが日没後の館内を巡り始めます。暗さの中で際立つ柱のはつりの陰影をガイドが指さすと参加者の方も顔を寄せて覗き込みます。南口から公募棟休憩室をふりかえり見た時には「わぁーキレイ!」と感嘆の声が聞こえました。ツアー当日は、2025年最後の満月「コールドムーン」が見事に輝いていました。休憩室の大きな窓から全員でちょっとしたお月見気分。金曜日の夜、とても優雅な時間が流れていました。
ツアーをおこなうにあたって、計画を練ることも大切ですが、とびラボではどんなツアーであったか、ふりかえりをおこなうことも大切にしています。しかし、ツアー中はガイド担当やサポート担当のとびラー、写真担当のとびラーなど、全員がツアーに集中してしまう為、シンプルに良かった点悪かった点に話がなりがちです。そこで、ツアーチームごとに、どんなことを目指していきたいかを事前に検討し、チーム内で相互理解をする時間を設けることにしました。ガイドデビューするとびラーを応援しながら、みんなが当事者となりチーム一丸となったことは、トビカン☆ナイトクルーズラボ全体にも強いつながりをもたらすことが出来たと思います。
ツアーも無事に終わり、それぞれのチームでどのような時間を持つことが出来たかふりかえりました。トライアル時には想定していなかった状況に、ガイドの難しさを実感したとびラーもいました。また、運営方法についても改良点があげられました。
ツアー後にお客様から寄せられたアンケートには「ライトが窓ガラスに反射されるように配置されていて、とても芸術的で素敵でした」という感想や「美術館の建物に注目する新たな視点を知りました」という感想もいただきました。私たちがこのとびラボで、お客様にお伝えしたかった夜のトビカンの魅力をしっかり伝えることが出来きて嬉しかったです。準備から試行錯誤を重ねた私たちとびラーは、今後もこの夜間開館時のツアーを続けて行きたいという思いを改めて持ちました。
12期とびラー 猪狩麻里子
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。