東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

【とびラボ活動報告】「とびdeラヂオぶ〜☆@AC展2025」後編(ラジオ制作編)

2026.03.27

<美術館の来館者の声をとどけるラジオ> 

I

2023年7月からメンバー、形を変えながらとびラボとして活動している「とびdeラヂオぶ〜☆」。今年度は、『アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること 「Museum Startあいうえの」12年と現在地』(以下:AC展)の展示室の一角に即席ラジオブースを構えて、来館者にインタビューを実施しました。収録の様子はこちらからご覧いただけます。「みること、つくること、つながることラジオ」(収録編)。美術館にあまり来ない人にも美術館の良さを知ってもらいたい!来館者のアートにまつわる素敵なエピソードをシェアしたい!という想いからスタートしました。

<試聴&編集の日々>  

2日間にわたっておこなった収録もあっという間に終わりいよいよ編集作業です。

まずは、録音した19組のインタビューを手分けして試聴しました。その中から7つのインタビューをセレクト。編集作業を分担する中で、メンバーの1人が音声編集の経験がありiMovieでの編集が簡単にできるとのことで、編集レクチャー会を開催。その後、各自編集したものをみんなで聴いて、さらに細かい編集を重ね、インタビューの間に入れるナレーションを考えていきました。

  *編集のレクチャー中。

*いらない言葉をカットします。

<初めての音声編集>

ラボメンバーによる編集講座を受けた後、まずは練習を兼ねて使用したい素材を切り出すことからはじめました。AC展のテーマ「みること」「つくること」「つながること」に沿った素敵な言葉をピックアップするのはもちろんのこと、「えーっと」「あのー」などのフィラー(つなぎ言葉)もカットし、リスナーが心地よく聞くことができるように整えていきます。 

次は、7本のインタビューの制作担当を決め、収録した音声を番組になるよう編集します。ナレーションが入ることを意識して内容ごとに区切っていきます。各自、仕事ととびラー活動をしながら編集作業をしていたので、なかなか個人での作業が進まない時期もありましたが(笑)、そんな時には、とびラボで集まり、みんなで作業を進めました。

*各自パソコンで編集中。 

<編集素材を聞いてナレーション制作&録音の日々>  

 

編集がひと通り終わった後は各番組のナレーション担当を決めて、内容に相応しいナレーションの文章を考える工程に入ります。

インタビューの概要を伝える前枠、前半と後半に分かれる場合はそれを繋ぐための中枠、内容を総括する後枠をそれぞれ考えました。

自分が素材の編集を担当したものに関しては、思い入れが強すぎて内容に比して世界観が強すぎる概要文が出来上がったこともありました(笑)

ラボメンバーからの「力みすぎだ!」というツッコミのおかげで、硬くなり過ぎずフラットなナレーションになったのではないかと思います。そのほかの素材についても、メンバー全員で、ああでもないこうでもないと言いながら相応しい文章になるように推敲を重ねました。

ナレーションの文章が完成した後は録音します。ただ読み上げるだけだと、たかを括って録音を始めたのですが、家で何回も噛んでは読み返し、噛んでは読み返しを繰り返す羽目に。最終的にはイントネーションが訛っていたこともあり、アートスタディルームで再録し、やっとナレーションの録音が完了しました。

(噛まずに当たり前に話すテレビの中のアナウンサーってすごいんだなぁと改めて感じました。やっぱりプロはさすがですね)

 

*編集をするたびに何度も同じインタビュー素材を聴いて確認します。

<完成した番組の紹介テキストを考える>

編集済みのインタビュー素材に、ジングル、BGMとナレーションが入ると、それまで、幾度となく聞いてきたインタビューの音源が、一気に「番組」の風格を漂わせるので、皆でニンマリ。こうして完成した7つの番組の「タイトル」をつけるべく、それぞれにふさわしい言葉出しをしていきます。

アイディアを出し合うことで、ピタッとハマる瞬間に出会うことができます。それぞれが担当した番組の紹介文を作成し、ハッシュタグをつけました。それをラボメンバーで確認し、違和感ないように調整します。

 

 

*2025年版のジングルを制作したメンバーと試聴会。

*とびラボで賑やかな中、スマホで流すインタビュー素材をへばりつき聴く。

<番組制作をしてみて>

完成した番組には、ラボメンバーの想いがぎゅうぎゅうにつまっています!なので、これを読んだ方にもぜひ聞いていただきたいです。ただし、番組はラジオ部の活動のほんの「一部」にすぎないということをここではあえてお伝えしたいです。番組のテーマ/ジングルのギター演奏でのオリジナル音源制作、公開収録のポップの作成、インタビュー承諾書の英文作成etc…など、制作段階にたどりつくまでの縁の下の力もちもたくさんいました!

制作の過程において、各自の担当があるとはいえ、メンバー同士、たくさん語り合い、助け合って、考え抜いて番組を作り上げてきました。その過程こそがこのラボの宝であり、最大の魅力でもあるのです。

<とびdeラヂオぶ〜☆をやってみて…>ラジオ番組制作が仕事のメンバーが立ち上げたとびラボでしたが、集まった全員が制作初心者からのスタート。届けたい気持ちと、みんなのチャレンジ精神がとびラボとして3年間続けていく原動力でした。美術館でのあたたかいコミュニケーションの場から生まれた様々な背景の人の声をきいて、「美術館おもしろそう!」「行ってみようかな?」とアートコミュニケーションの裾野が広がるきっかけの1つになっていくことを願います。

 

番組はコチラから聞くことができます

 

執筆:矢吹美樹(12期とびラー)

日々の暮らしや学びのなかで、ふとした瞬間のきらめきや、「ことば」がもつ力に惹かれています。 一人ひとりの「ちいさな発見」や「その人らしさ」が自然にあらわれるような、温かな場づくりを大切にしていきたいです。

 

執筆:藤井孝弘

とびラー14期。普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。

執筆/構成:染谷 都(12期とびラー)

ラジオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。これからゼミ「上野の森と建築を考える」「『アートコミュニケータの建築鑑賞まちあるき』を考える」を実践中。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。 

【とびラボ報告】レッツ!コウ!ボトー

2026.03.21

 

とびラーは、東京都美術館の特別展や企画展に何回も足を運びます。それは、自分たち自身が展覧会をじっくりと鑑賞し、作品と出会うことを大切にしながら、プログラムの準備をしたり、とびラボの検討をするためです。一方で、公募展に訪れるのはつい自分の好みの展覧会に偏りがちなのではないかという思いがありました。「とびラーである私たち、いろいろな分野の扉を開けてみよう!」という思いのもとに始まったとびラボです。

 

そもそも公募棟で開催される展覧会には、どんな展覧会があるのでしょう。毎回、このとびラボに集まったとびラーで鑑賞に行く前には、「公募展カレンダー」を確認します。公募展とは、作品を広く一般から募集し、応募された作品や、審査を経た入選作品を展示する展覧会のことです。東京都美術館では、1年間に200を超える団体が公募展を開催します。東京都美術館が1926年に開館した頃から活動している歴史の古い団体から、新たに活動を始めたばかりの団体もあります。全国規模の大きな団体や小規模の市民団体の展覧会もあります。学校や教育団体の展覧会や美術大学・芸術大学の卒業製作展もあります。分野も、絵画だけでなく、工芸、書、手芸、写真、盆栽、生け花など多岐にわたります。

 

しかし、とびラーの中でも、「一人で入るには勇気がいる」「知らない表現分野の展示が多いので、展示を見に行くきっかけが欲しい」という声もありました。そこで、とびラボとしてみんなで鑑賞しに行きましょう!というのがレッツ!コウ!ボトーです。2025年4月から2026年3月までの1年間活動を行いました。多くのとびラーが参加できるように、1か月の中で平日1回、土日1回の2度の活動日を設け、毎回5、6人で鑑賞をしてきました。

 

 

初めてみんなで訪れたのは、モダンアートを作品のテーマにしている展覧会でした。展示室には大きな作品が並んでいました。その次に訪れたパステル画の展覧会会場では、小さめの作品が並んでいました。2つの公募展に行ったことで、展覧会によって作品の大きさにも違いがあることに気付くことが出来ました。

 

公募展に出品される作品の多くには、詳細な解説文などはありません。その為、「これは油彩なのかパステル画なのか」など素材を考えたり、「この作品から作者は何を伝えたいのだろうか」など想像したり、作品をじっくりと鑑賞するとびラーの姿がありました。

 

何回か活動していると想定外の嬉しい出来事が起きてきました。それは、作家さんとの出会いです。展示室内では作品を鑑賞するだけでなく、作家さんから作品についてお話を伺う時があるのです。とても興味深い時間です。

 

 

 

書の公募展を鑑賞しているときのことでした。その日参加したとびラーには書道の経験者が居なかったため、鑑賞のポイントが分かりません。展示室には、作家の方が在室していることがあるのですが、たまたまそこにいらした方が、私たちの為に書について詳しく解説をしてくださったのです。墨の濃淡の意味や、題材の選び方、筆運びの難しさなど、お聞きする話は初めて聞くことばかりなので、みんなとても感心していました。

 

また、和紙絵画展で出会った作家の方は、お弟子さんとの活動の楽しさをお話してくださいました。和紙をどのように重ねるか、遠近感の表現が難しいことを教えてくださいました。

 

漆の公募展では、漆工芸歴60年という作家の方からレクチャーを受けました。

 

 

いずれも、とにかく作家の皆さんのお話がとても興味深く、参加したとびラーは濃厚な鑑賞時間を持つことが出来ました。公募展に行ってみることには、作品との出会いがあるだけではないのです。人とも出会える魅力を持っています。



もうひとつ、作品以外に私たちが感心したことに、活動内で出会った作家の方に80代半ばの方が何人もいらしたことです。姿勢も良く、外見ではそれほど高齢とは思えません。お話もしっかりされとても健康的でした。遠方のご自宅から東京都美術館までいらして、一日展示室で過ごし、仲間と話し、半年先の次回の展覧会の予定も決まっていて制作意欲も持たれています。そのお姿に、私たちはアートの力を感じたのです。

 

 

とびラボ活動をした際には、活動内容をとびラーのみんなに報告をします。すると、嬉しいコメントが入るようになりました。それは、「活動報告を読んでその公募展に行ってみました!」といった内容のものでした。また「一人でも公募展に入りやすくなった」「面白かったから次の機会にも行ってみようと思います」という話も聞きました。

 

公募展に行くことは、新しい分野の作品に出会い、その後の鑑賞活動の幅を広げる効果もあるようです。


レッツ!コウ!ボトー 皆さん一緒に レッツ GO!公募棟!

 


12期 猪狩麻里子

都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。

 

【とびラボ活動報告】ゴッホをめぐるボウケンラボ

2025.12.21

 

東京都美術館では2025年9月12日(金)~12月21日(日)に特別展「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(以下、ゴッホ展)が開催されました。これにあわせて、とびラボ活動「ゴッホをめぐるボウケン」を行いました。活動はゴッホ展閉幕までの間、全5回行いました。

 

  • ゴッホをめぐるボウケンとは?

実は、ゴッホ展の前の特別展「ミロ展」から「ボウケンラボ」は誕生しました。東京都美術館でさまざまな特別展が行われる中、その作家や背景についてもっと知りたいと思いながらも、ひとりでは調べきれないまま展覧会が終わってしまうことを残念に感じていました。

そこで立ち上げたのがこのラボ「〇〇をめぐるボウケン」です。 とびラー同士、自分自身の興味関心を自由に調べ、シェアし合い、それぞれの興味関心の冒険が拡がる、そんなラボを目指しました。

 


第1回目のラボ参加とびラー

・・

 

  • ラボの進め方

 1.今日の興味関心を付箋へ書き出し&分類

まず、ゴッホ展をめぐる「今日の興味関心」を数分間で各自付箋に書き出し、書いた内容についてひとりずつ付箋を出しながらシェアします。「あ、それ、私も同じことを書きました!」と声が上がることも。似た内容の付箋をまとめながらシェアしていきます。


付箋を分類してみます

この日は「ゴッホの作品」「ゴッホの人間関係」「ゴッホという人」に分類できる付箋が出てきました。


ゴッホの作品についての付箋


ゴッホの人間関係についての付箋


ゴッホという人についての付箋

 

2.各自30分の調査タイム

ここからは、30分の時間で各自気になることを調査してまとめます。Webで検索するもよし、図録や関連書籍を読むもよし、各々のスタイルで調査&まとめを行います。特別展に関する書籍が多数ある美術情報室に行って調べるメンバーもいます。調べている間は、皆無言で黙々と調査します。

 


それぞれ調べながらアウトプットしていきます

 

3.シェアタイム

30分の各自調査タイムの後は、シェアタイムです。順番に調査内容をシェアします。とびラー同士も感想を伝え、気づいたこともシェアしてコミュニケーションしながら進めます。 他のとびラーが調べたことを聞いていると、自分では思いもつかなかったテーマや視点の調査内容やまとめ方に「へぇ~。」「そうだったんだ~。」「なるほど~。」と新たな気づきがあり、「ということは、これはどうだったんだろう?」などと、さらにまた興味関心が芋づる式に掘り起こされてきます。まさに「ゴッホをめぐる知的好奇心を深めてゆくボウケン」が繰り広げられていきます。


ある日のそれぞれの調査内容


ゴッホの家族を調べる


ゴッホのひまわりを探せ!

 

このように、①今日の興味関心を付箋に出す ②各自30分の調査 ③調査内容をシェア という流れで進めるこのとびラボは、ゴッホ展の開催期間中に複数回行われており、何度も参加するとびラーもいれば単発で参加するとびラーもいます。一度だけの参加でも全く問題なく気軽に「ボウケン」できるのも魅力の一つです。

 

 

 

 

  • 振り返り

全5回のボウケンをした今回の「ゴッホをめぐるボウケン」。ゴッホ展閉幕の12月21日に最後の「ボウケン」と解散会を行い、ラボ全体の振り返りを行いました。

メンバーからは、「それぞれの気になるテーマを共有できたのがよかった」「自分では気づけなかったトピックに出会えた」「調査テーマが決められていない自由さが心地よかった」といった声が上がりました。時間制限を設けた30分の調査タイムも、集中して取り組める心地よい緊張感が生まれ、短時間でも多くの発見につながり、共有にちょうどよい分量で進められたのが好評でした。また、宿題のように持ち帰るのではなく“その場で調べる”スタイルは、負担感がなく気軽に参加できるうえ、とびラー同士のリアルな会話の中で興味が広がり、その日の関心をすぐに深掘りできる点が魅力でした。「すご〜く楽しかった!」という声も多数あり、生き生きとした知的交流の喜びがその言葉に現れていました。

 

このラボを行って、とびラーの様々な視点でのゴッホ展をめぐるあれこれを今までよりも少し理解することができた気がします。ゴッホについては炎の画家、狂気の画家という表現も聞きますが、そうではないゴッホや、家族や交友関係の中の姿を知ることができ、ゴッホを以前よりも身近に感じることができました。

同時に、絵画への真摯な探究心や学び続ける姿勢にも触れ、あらためて多くの作品を残したゴッホと、その歩みを支えた家族に感謝の思いを抱きました。ゴッホ展というきっかけから生まれた「ボウケン」は、これからもいろいろな展覧会をめぐって続いていくかもしれません。次の「ボウケン」も楽しみです。

 


執筆者:寺岡久美子(13期とびラー)

情報通信系の企業で働いています。企業内ボランティア活動として、カウンセリングやメンター、社内認定講師も担当しています。とびラーになってから、アートが自分自身にぐっと身近に感じられるようになり、忙しい人たちにもアートに触れられる機会をつくりたいと思うようになりました。これからは「企業×アート」でできることを考えてみたいと思っています。好きな村上春樹さんの小説『羊をめぐる冒険』からラボ名を拝借しました。

【とびラボ活動報告】わたしたちも手で話したい

2025.12.13

わたしたちも手で話したいラボ」は、2025年度の第2回アクセス実践講座「ろう文化を知ろう」を受講した当日に発足しました。
第2回アクセス講座の講師は、ろう者で明晴学園というバイリンガルろう教育を行う学校の校長を務める小野広祐さん。手話で「ろう文化」についての講義を行ってくださいました。

 

講座を受講して、初めて知った「手話」という異文化

当時のわたしは恥ずかしながら、「手話」というものは、耳がきこえない・きこえにくい方々への配慮・支援のための手段である、という程度の認識でした。

 

その認識が、この講座の受講をきっかけにして、ひっくり返ったのを今も覚えています。

手話は、いわゆる「聴覚に障害のある方」への配慮・支援をするための手段ではなく、耳が聞こえない人たちが生活を営むなかで自然に育まれてきた「ひとつの言語」であるということ。

手話が持つ、音声言語とは全く異なる文法体系の基本的な話から始まり、具体的なエピソードを交えたろう者と聴者の考え方の違いの事例など、ろう者である小野先生の手で語られる血の通った言葉に、夢中で目を向け通訳の方の言葉に耳を傾けていました。例えば、手話では話し手や聞き手、あるいは第三者など位置関係を示すために指差しして話すことが多いけれど、聴者からすると人を指差すことは失礼になってしまうという文化的な違いがあることや、「食べる」という表現が、食べる対象物とセットになっている(「ハンバーガーを食べる」の手話は、手でハンバーガーを持っているようにして頬張る、「おにぎりを食べる」はおにぎりを持っているようにして頬張る、etc…)ことなどが印象に残っています。

また、その講座の時にスタッフや登壇者の方々が手話で軽快に「おしゃべり」している様子をみた際に、自分もこの言語で話すことができたなら、、、と淡い憧れの気持ちを抱いていたように思います。

その夜、講座の振り返りを書くだけでは想いを抑えることができず、このラボを発足するための呼びかけをとびラーにメールしたのでした。このように、湧き上がる思いのままに開始したラボだったのですが、具体的な活動内容は定まっておらず、どんな風に進めれば良いのか不安な気持ちもありました。

初回のとびラボに集まったとびラーは、手話が初めての人、手話学習歴が長い人・浅い人、中途失聴の人など、様々な人たちが集まりました。
それぞれがこのラボに参加した想いを聞いた後に、これからのラボでやりたいことを話し合い、後半は、区が主催する手話通訳養成講座に通っているとびラーが、即興講座を開いてくれました。
アクセス実践講座で知った内容と紐付けながら、みんなとペースを合わせて手話を学ぶことができました。

↓第1回「わたしたちも手で話したい」ラボの様子

その後の活動も集まった人たちで柔軟に活用できるものを活用しながら、手話やろう文化を学ぶ活動を実施しました。

以下が、その後にラボの中で実施した主な活動です。

▼指文字しりとり

手話のほかに、聴者が話す50音の1音1音に合わせた手の形が決められている「指文字」というものがあります。

ちなみに、日本語の50音に合わせた指文字は、1931年にアメリカの指文字を学んだ大阪市立聾唖学校の大曾根源助らによって作られたと言われているそうです(参考:文法が基礎からわかる日本手話のしくみ、岡典栄・赤堀仁美著、p29)

この指文字を覚えられるようにと、ラボに参加したとびラー同士で、時折カンニングペーパーを見ながら(笑)、指文字しりとりを実施しました。
この指文字しりとり、予想以上の盛り上がりを見せ、時間を忘れて取り組んだせいで後半の内容を押す羽目になりました。

皆さんもぜひしりとり遊びを通じて指文字を覚えてみてください。

▼サインネーム(手話によるあだ名)決め
ろう者の方々は、各自の特徴を捉えたり名前をもじったりしたあだ名があるようで、ラボメンバーもそれぞれサインネームをみんなで考えて決めました。

中途失聴のメンバーの一人に、すでにサインネームが決まっている方がいたのですが、それがあまり気にいっていないから、という理由で付け直していたのが面白かったです。

ちなみに、その方の名前のイニシャルはMで、笑った際の目尻のシワが特徴的なことから、指文字の「M」の形(人差し指、中指、薬指を立てて逆さにするのが「M」)を両手で作って、目尻に三本の指を合わせる、というサインネームに決まっていました。

 

東京都美術館のHPにある手話による施設案内動画を視聴して学習

東京都美術館のHPには、手話による動画がいくつか掲載されています。
その中で、施設案内動画を活用して、ラボ内で手話の学習を行いました。実際に動画をみながら手話を解読していくと、わずか20秒程度の文章を理解して実際に手話で真似られるようになるまでに10分以上かかっていた気がします。


また、字幕と手話は一対一対応になっておらず、字幕ばかりみていると手話を見逃してしまうのは面白い体験でした。
外国語の翻訳が日本語と一対一で完璧に逐語訳できないように、日本手話ももちろん日本語と完全に連動しているわけではないということを実感できました(日本手話はやはり音声日本語とは違う言語なのですね)

 

↓東京都美術館のHPにある手話による施設案内動画を視聴する様子

動画はこちら

 

▼中途失聴の当事者を交えて、きこえる・きこえない・きこえにくい人の体験の違いをシェア

 

また、ただ手話を学ぶだけではなく、中途失聴のきこえにくいとびラーから、補聴器から人工内耳に変えたことによる聴こえの変化を聞きました。きこえる・きこえない・きこえにくい人の言葉や表現の認識の違いについて話したことも印象的でした。

人工内耳に変えて、初めてウグイスの鳴き声が聞こえた時、これが本などで知っているだけだった「ホーホケキョ」の鳴き声か!と感動したそうです

 

↓中途失聴の当事者と聴者の体験の違いについて雑談する様子

そのほかにも

・明晴学園の校長でアクセス実践講座の講師である小野広祐さんが執筆したテキスト(『日本手話へのパスポート』)の動画を視聴して学習

・NHKの手話データベースを活用して語彙を増やす

・目の見えないメンバーも交えて手話を学ぶ


などなど、様々な活動を行いました。

 

■ラボのこれから:「手で話す」が1つの選択肢になる未来を夢想する

「手話」という言語やろう文化を学ぶことが面白い・興味深い、手話を使って話してみる試行錯誤が楽しい、というのがモチベーションの根底ですが、個人的にはもう1つ、このラボを継続する上でのモチベーションがあります。

それは、「手で話す」というコミュニケーション手段が、当たり前に選べる選択肢になる未来への小さな礎石になれればいいなという想いです。

とびらプロジェクトでは、すでにそのような未来に向けた活動が着実に一歩づつ実施されているはずです。

 

このとびラボは、そのような活動の中の小さな種の一つに過ぎません。


 

 

執筆者:藤井孝弘

とびラー14期。普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。

人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。

【開催報告】とびラーによる~トビカン☆ナイトクルーズ

2025.12.05

東京都美術館ではとびラーによる建築ツアーがおこなわれています。一方で、昼間とは異なる夜ならではの魅力もお伝えしたいという思いがあり、「この指とまれ」で集まったとびラーで夜間開館時のツアーに取り組むことにしました

今回は「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」会期中の夜間開館時に開催することを想定し準備を進めていきました。

 

夜間開館時に行う建築ツアーは過去にもおこなわれています。しかし、私たちが目指すツアーはどんな内容がよいのだろうか、と話し合いをスタートしました。

まず、ツアーのネーミングについて考えました。日没後、館内の照明が輝きだします。公募棟休憩室の赤・緑・黄・青の4色の壁が見事に照らし出され、かまぼこ天井の照明も昼間とは違い、より一層暖かく感じます。そのような館内を巡るツアーを私たちは「トビカン☆ナイトクルーズ」と名付けました。

南口から眺められる公募棟休憩室4色の壁の色

 

かまぼこ天井に照明の灯りが暖かく光ります

 

今回のツアーでは、事前の参加申し込み受付はおこなわず、インスタグラムなどの事前告知と、当日に館内で呼び込みをして、参加者を募りました。また、申し込み受付は、当日におこないました。整理券配布時間前から参加希望のお客様が集まり、とびラーも嬉しさと共に、より良いツアーにしようと気持ちが引き締まりました。

 

中庭からはいろいろな照明が見られます

 

とびラー15名が自分の担当場所に位置し、4チームに分かれて、21名のお客様をお迎えしました。それぞれのチームが日没後の館内を巡り始めます。暗さの中で際立つ柱のはつりの陰影をガイドが指さすと参加者の方も顔を寄せて覗き込みます。南口から公募棟休憩室をふりかえり見た時には「わぁーキレイ!」と感嘆の声が聞こえました。ツアー当日は、2025年最後の満月「コールドムーン」が見事に輝いていました。休憩室の大きな窓から全員でちょっとしたお月見気分。金曜日の夜、とても優雅な時間が流れていました。

 

柱の斫り(はつり)加工に光の陰影が浮かび上がります

 

夜のトビカンをゆったり眺める時間もあります

 

ツアーをおこなうにあたって、計画を練ることも大切ですが、とびラボではどんなツアーであったか、ふりかえりをおこなうことも大切にしています。しかし、ツアー中はガイド担当やサポート担当のとびラー、写真担当のとびラーなど、全員がツアーに集中してしまう為、シンプルに良かった点悪かった点に話がなりがちです。そこで、ツアーチームごとに、どんなことを目指していきたいかを事前に検討し、チーム内で相互理解をする時間を設けることにしました。ガイドデビューするとびラーを応援しながら、みんなが当事者となりチーム一丸となったことは、トビカン☆ナイトクルーズラボ全体にも強いつながりをもたらすことが出来たと思います。

 


夜の公募棟休憩室は静かで、昼とは違った雰囲気です

 

ツアーも無事に終わり、それぞれのチームでどのような時間を持つことが出来たかふりかえりました。トライアル時には想定していなかった状況に、ガイドの難しさを実感したとびラーもいました。また、運営方法についても改良点があげられました。

ツアー後にお客様から寄せられたアンケートには「ライトが窓ガラスに反射されるように配置されていて、とても芸術的で素敵でした」という感想や「美術館の建物に注目する新たな視点を知りました」という感想もいただきました。私たちがこのとびラボで、お客様にお伝えしたかった夜のトビカンの魅力をしっかり伝えることが出来きて嬉しかったです。準備から試行錯誤を重ねた私たちとびラーは、今後もこの夜間開館時のツアーを続けて行きたいという思いを改めて持ちました。

 


12期とびラー 猪狩麻里子
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。

 

 

【とびラボ活動報告】『とびラーとあそんだり、みたり』

2025.12.04

とびラー12期・柴田麻記です。私は社会人として働く時間を経て、今は高校生と小学生を育てる親として日々過ごしています。自身の役割や視点が変わる中で美術館との距離感も変化しました。また、とびラーとしての時間を送ることで物事の捉え方が広がりました。

そんな私が参加したとびラボ『とびラーとあそんだり、みたり』は、昆虫が成長するように、形態を変えながら続いてきたラボです。

 

 

 

『とびラーと〇〇(仮)』としてスタート

 

このとびラボの前身となったのは、『とびラーと◯◯(仮)』というとびラボでした。

当初は、「とびラーが“ただいる”だけで、来館者の心が少し軽くなるといいな」という思いを持ち寄ったとびラーが集まったことが始まりです。

 

そのとびラボのミーティングでは、
・東京都美術館にとびラーが存在する意味とは何か

・美術館に気兼ねなく来てもらうとはどういうことか

・とびラーができることは何か?

といった問いを、話し合いを通して考えていきました。

 

とびラボ名を「〇〇(仮)」としたことで、来館する対象を限定することなく、様々な人を想定しながら考えることができました。

 

たとえば、

・学校に足が向かない子どもを、美術館に誘ってみようかなと思ったとき、誰かいてくれるといいな

・『障害のある方のための特別鑑賞会』の日ではないけど、とびラーと一緒に触図(しょくず・作品の構図やモチーフを凹凸のある線や点で立体的に表わした図版)を触りながら作品を見られたらいいな」

といった場面で、とびラーが“ただいる”ことはできないか、という想定が挙げられました。

とびラーが常駐することは難しくても、『とびラーWeek』のような期間を設けられたらいいのでは、というアイデアも生まれました。

 

 

『とびラーとあそんだり、みたり』  へ

 

さらに話し合いを進める中で、子どもにとって親でも教師でもない「とびラー」という第三者の存在が、親子で美術館に来る際のハードルを下げるのではないか、という視点が浮かび上がりました。

親子で美術館に行くと、親は子どもを気にかけるあまり落ち着かなかったり、子どもは興味のままに動いたことで注意されてしまい、結果としてどちらも楽しめない…。

そんな経験を持つとびラー自身の問題意識も、このとびラボの背景にありました。

 

そこで、『とびラーと◯◯(仮)』を一度解散し、「あそんだり、みたり」という言葉を〇〇の部分に据えて『とびラーとあそんだり、みたり』として新たにスタートしました。

 

『とびラーとあそんだり、みたり』は、とびラーが間に立つことで場の空気が少しゆるみ、親も子もそれぞれのペースで美術館を楽しむ時間を作りたい、という思いから始まりました。

親子で美術館に来ることに敷居の高さを感じている人に、作品鑑賞だけでない美術館の楽しさを知ってもらい、「もう一度美術館へ来てみようかな」という気持ちををそっと後押しする。

その方向性が少しずつかたちづくられていきました。

 

 

既存のプログラムとの違いを考える

 

検討を進める中で、とびらプロジェクトと連動するプロジェクト「Museum Start あいうえの」のファミリープログラムや、学校プログラムと、私たちが検討しているアイデアの違いは何か、という問いも持ち上がりました。

 

子どもたちのミュージアムスタートを応援する、「Museum Start あいうえの」のプログラムで美術館デビューする子どもたちは確かに増えています。その参加者のうち、再訪している子どもや親子はどれくらいいるのだろうか。

このラボの取り組みで再訪につなげられるといいな…。

 

また、「親子で美術館に来ることの敷居の高さ」を和らげるプログラムとは、どんな内容がふさわしいのだろうか。

 

また反対に、「Museum Start あいうえの」ホームページを見て関心は持つけれど、プログラムへの参加までには至らない人たちに、どうすれば「美術館は気軽に楽しめる場所だ」というメッセージや情報を届けられるのか。

これらの問いは、現時点では明確な答えに至っておらず、ラボが問い続けている課題です。

 

美術館で「あそぶ」”とは?

 

このラボでは「あそぶ」という言葉についても時間をかけて考えました。

何をするか決める前に、そもそも「美術館であそぶ」とはどういう状態なのか。「あそぶ」「あそび」という言葉から、それぞれのとびラーが思い浮かべる感覚や経験を出し合いました。

 

一見すると掘り下げる必要がなさそうなことも、あらためて見つめ直し言葉にしていきました。そうすることで美術館で何をして、どう過ごしてほしいのかが見えてきました。

 

 

自分の気に入った野外彫刻を写真に撮る。

館内を探検する。

あるいは、ゆっくりお茶を飲んで過ごす。

 

美術館は、自分のペースで関われ、意味づけを急がず、ただそこにいられる場所。

このとびラボでいう「あそぶ」とは、そうした過ごし方の状態をひらくための言葉として、ラボに参加するとびラーの間で共有されていきました。

 

「みる」方法はひとつじゃない

 

もう一方の「みる」については、せっかく美術館に来たのだから、展示室の作品とも出会ってほしい、という思いがとびラーに共通してありました。

とびラーと一緒のときだけでなく、プログラム参加後に親子だけで、再び美術館を訪れた際にも活かせる「展示室での過ごし方」を考えたい。

そこで、とびラー自身が子どもと美術館に行く際にしてきた工夫を出し合ったり、「あいうえの」の学校プログラムやファミリープログラムを振り返ったりしました。

話し合いの中で見えてきたのは、「展示の全部を全力で見なくても、作品は楽しめる」という考え方でした。そのような時間のあり方を、私たちなりの“みかた”と位置づけました。

 

 

プログラム実施を見据えた検討と、その先へ

 

親子でのお出かけ先として、敷居が高く感じられがちな美術館。

展示を見ることに限定しない過ごし方を提示し、親子それぞれが安心して「みる」時間をもてるようにしたい。

願わくば、それが次の親子での来館につながってほしい。そんな、少し欲張りなラボとなりました。

 

話し合いの結果、学校プログラムに参加した子どもが、次は親子で美術館に再訪して楽しむという流れを想定したプログラムを企画しました。

しかし、対象者へのアプローチ方法を検討する過程で行き詰まり、今年度中にプログラムの実施には至りませんでした。

 

一般の方に参加してもらうプログラムを立案し、実施するまでには十分な時間が必要であること。特に、対象とする参加者をどう見つけ、どう案内するかの難しさを、とびラボとして実感しました。

 

また、同じような関心を持って集まりながら「あそび」ひとつ取り上げても、とびラーそれぞれの考え方や想定の違いがありました。その違いに気づき合い、実現に向けて考えられたことは、このとびラボでの収穫となりました。

 

 

もう一段階、変化したラボへ

 

プログラム実施には至りませんでしたが、スタッフも加わりながら話し合いを重ねる中で、とびラボはさらに形を変えています。

 

『とびラーとあそんだり、みたり』は解散し、現在は、『とびラーが考える美術館を楽しむためのガイドづくり(仮)』というとびラボを新しく立ち上げました。

・展示室以外の美術館の過ごし方

・作品を見るためのヒント

をまとめたガイドブックをつくるラボです。

 

 

昆虫が脱皮を繰り返しながら姿を変えるように、私たちのアイデアも、いくつものとびラボを通して成長し続けています。

 

 


 

執筆:柴田麻記(12期とびラー)

以前は、テレビ番組を制作していました。現在は、愉快な高校生と小学生と過ごす主婦。私のいちばん身近なコミュニティは家族です。とびラーで得た視点を日々の暮らしの中でこっそり試す実験中。実験範囲をじわりと広げているところです。

【開催報告】親子で楽しむまるごと野外彫刻 〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜

2025.09.23

「東京都美術館の野外彫刻を楽しむラボ」とは

 

東京都美術館には、10点の野外彫刻があります。これらの彫刻は、「いつでも会える」作品です。多角的に鑑賞できて、季節や天気によって様々な表情を見せてくれます。そして抽象彫刻であるため、多様な解釈が生まれるのも魅力です。

そんな野外彫刻の魅力をもっと多くの人に伝えたいと願うアート・コミュニケータ(とびラー)が集まって、東京都美術館の野外彫刻を楽しむとびラボを立ち上げました。

 

このブログでは、私たちとびラーが、来館者向けに野外彫刻を楽しむプログラムを企画し、実施するまでの半年間の軌跡を紹介します。

 

 


東京都美術館の野外彫刻はこちら:https://www.tobikan.jp/archives/collection.html


 

 

私たちがこだわった2つの価値

 

これまでにも、とびラーによるプログラムとして、来館者に野外彫刻を楽しんでもらう企画は実施されてきました。そこで、過去のプログラムから学びつつ「私たちは誰にどんな価値を届けたいのか?」を話し合いました。その結果、このとびラボでは2つの価値の実現を目指すことにしました。

 

​​①未就学児を含む子どもとその保護者が、安心して親子で美術館を楽しむ場をつくる。

②子どもと大人が対話をしながら作品を見ることと、造形活動を用いて鑑賞のふりかえりをすることを通じて、世代を超えて、感じたことを多面的に伝え合うコミュニケーションの場をつくる。

 

これらの目標は、次のような思いから生まれました。

 

・美術館の館内よりも自由に過ごせる野外の環境を活かして、乳幼児や多様な個性を持つ子どもとその保護者など、展覧会に行くのを躊躇しがちな親子にも、もっと気軽に美術館を楽しむ機会を広げたい。

 

・対話型鑑賞(複数の人が対話しながら作品を鑑賞すること)の場で、感じたことをすぐに言語化するのが難しい子どもでも、工作やお絵描きなど慣れ親しんだ表現を用いることで、みて感じたことをもっと伝えられるのでは?

 

・野外彫刻をみて、感じたことを工作や絵などで造形的に表現し、その形にしたことをあらためて言語化するというプロセスを辿ることで、大人と子どもが世代を超えて感じたことをもっと伝え合えるのでは?

 

 


 

とびラーによるプログラムメイキング

 

まずは、とびラー自身が鑑賞して感じたことを造形してみる

はじめに、「造形を用いた鑑賞のふりかえり」によってどんな効果が生まれるのか体験するため、とびラー同士で野外彫刻を鑑賞して、感じたことを造形してみました。

そして、形にすることで「何に心が動いたのか?」を制作物によって視覚化でき、その人が感じた質感や印象がもっとリアルに伝わるという手応えを共有しました。

 

例えば、

 

「どっしりとした石の作品が、地中に深く根を張っていると想像した」

「金属の作品をみて、表面のざらざらした質感が心に残った」

「雨の日に、彫刻の窪みに水が溜まっていたり、ナメクジがいたり、生き物の住処になっていると感じた」

 

など、一人一人の感性が制作物を通して伝わりました。

 

 

 

作品研究

同時に、野外彫刻への理解を深めてより良い鑑賞の場を作るために、各自が興味を持った作品について作品研究を進めました。作品にまつわる情報を調べたり_自分自身でしっかりと作品を鑑賞して発見を書き留めたり、自分が感じる作品の魅力を言語化したりしていきました。また自分で作品研究をするだけでなく、とびラー同士でそれらを共有していきました。

 

プログラム作り

来館者にむけて、具体的なプログラムを作っていく過程は、手探りの日々でした。

 

プログラムの対象者は、対話による鑑賞や造形活動を楽しめそうな「5歳以上」の子どもとその保護者としました。ふだん「美術館に来るのはハードルが高い」と感じている幼児期の親子にも門戸を開きたい、というとびラーの願いからです。

さらに、様々な個性を持つ子どもにも美術館に来てもらいたい、異なる年齢層の子どもがともに鑑賞することで生まれる気づきもあるのではないか、という理由から、5歳〜高校3年生までの子どもと、その親を対象とすることにしました。

 

次に、とびラーが野外彫刻作品を介して、大人と子どもが対等な参加者として対話する場を作ることができれば、普段の親子関係とは少し違うお互いの姿を見る機会にもなるのではないか、という理由から、親子一緒に活動するプログラムを作ることにしました。

 

そして、野外彫刻を鑑賞して感じたことを形にする「造形を用いた鑑賞のふりかえり」を設計するために、「どんなステップで行う?」「どんな声がけをする?」「どんな材料を使う?」「作る時間はどれくらい必要?」「制作物をどのようにお互いに見せ合う時間をつくる?」といった一つ一つの問いについてとびラー同士で議論を重ねました。

 

とびラー親子対象のトライアル

夏真っ盛りの7月末、プログラムの内容と対象者を検証するために、とびラーとそのご家族19名に協力してもらい、5歳から高校生まで幅広い年齢の子どもとその保護者を対象とするトライアルを実施しました。

トライアルの時間は、1時間半。参加者は3グループに分かれて、彫刻をみる練習をしてから、2つの野外彫刻を鑑賞しました。その後、「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」を造形的に表現し、各々が表現したことを造形物を見ながら、互いに伝え合いました。

 

トライアル当日の様子を、写真を交えてお伝えします。

 


 

①アートスタディルームに集まってプログラム開始

 

②複数の親子が混在するグループに分かれて、自己紹介&彫刻をみる練習

 

③2つの野外彫刻をグループで鑑賞

 

④「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」をかたちにしてみる

 

⑤表現したことを言葉にして伝え合う

 

 

⑥他のグループの表現も見てみる

 

トライアルの実施後には参加者にヒアリングを行い、大人・子ども双方から沢山のご意見をいただきました。

 

トライアルで検証したこと① 子どもの対象年齢

トライアルに参加いただいた5歳のお子さん2名とも、グループで鑑賞して感じたことを形にできたため、「5歳以上」の子どもと一緒に活動できるという手応えを得ました。

 

トライアルで検証したこと② グループ構成

5歳から高校生まで年齢差のある子どもとその保護者を混合した、親子一緒のグループで活動してみて、対話による鑑賞や造形を用いた振り返りができるか?参加者はどう感じるか?検証しました。参加者からは「色んな年齢の子どもが一緒にみることで自分にはない視点が面白かった」「大人と子どもの発想の違いを知ることができてよかった」「複数の家族が一緒で色んな意見を聞けてよかった」といった声が聞かれました。異なる年齢の子どもや大人が混ざることで生まれる効果もある、というのは、私たちにとって新たな発見でした。

 

また親子一緒に活動することについて、子どもからは「家族と一緒で安心感があって話しやすかった」「お母さんが作るものを見られてよかった」、大人からは「親も制作できて楽しめた」「日頃見ない子どもの表情や一面を見られてよかった」といった声が聞かれました。

 

トライアルで検証したこと③ プログラム内容(特に、造形ワーク)

「造形を用いた鑑賞のふりかえり」では、大人も子どもも、野外彫刻をみて感じたことや、対話から感じたことを、制作物と言葉の両方を使って伝え合っていました。参加者からは「形にすることで、どこにその人の感性が動いたかが伝わる。」「爆発してくる、重いなど、鑑賞中の発言だけでは分からなかった、その人が感じた質量などが、制作物をみると分かった。」「対話から感じたこと、作品そのものの印象など、多様な表現が出てきて面白かった。」といった声が聞かれました。子どもも大人も表現することをとても楽しんでいたことが、印象的でした。

 

一方で、プログラム全体の時間配分、子どもだけでなく親も遠慮せずに参加者として楽しめる場づくり、「造形を用いた鑑賞ふりかえり」のファシリテーションなど、本番に向けたさまざまな課題も見えてきました。

 

「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」決定

トライアル後には、ラボメンバーみんなで、このプログラムが届けたい価値を改めて話し合いました。「親子で楽しむ」を大事にしたい、立体作品を360℃いろんな視点から楽しみたい、みて作って作品を「まるごと」味わいたい、「感じた気持ちをかたちに」したい、ということで、プログラム名は「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」に決定。

 

またトライアル結果を踏まえて、プログラムの導入→彫刻をみる練習→野外での彫刻鑑賞→造形によるふりかえりといった各パートの意義やつながり、全体進行や各グループのファシリテーター・サポートの声掛け、場づくりで大事にしたいことなどを、入念に再検討しました。

 


 

そして迎えた本番

 

秋晴れの青空が広がる9月23日、来館者向けプログラム「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」を開催。午前・午後2回のプログラムを通して、未就学児から高校生までの子ども20名、親23名および同伴のきょうだい児、総勢45名が、親子一緒に彫刻をみて、感じたことをかたちにして、まるごと野外彫刻を楽しみました。

 

今回、子どもの対象者を「5歳〜高校3年生」と幅広く設定した結果、参加した子どもの内訳は、未就学児5名、小学校低学年8名、小学校高学年4名、中高生3名となりました。また、5歳未満のきょうだい児同伴の親子には、保護者と共にきょうだい児を見守るスタッフを配置して、保護者がプログラムに参加しやすいように配慮しました。

 

第1回 9月23日 10:15〜12:00

参加者:5歳〜高校2年生とその保護者(同伴のきょうだい児)=24名

とびラー =15名

 

第2回 9月23日 15:00〜16:45

参加者:6歳〜中学1年生とその保護者(同伴のきょうだい児)=21名

とびラー =15名

 

 

本番当日の様子の詳細を、写真を交えてお伝えします。

 


 

 

①アートスタディルームに集まってプログラム開始

今日のプログラム全体の流れや「よくみる」「感じる」「言葉にする」「他の人の言葉をよく聞く」といったみんなで彫刻を楽しむコツをお伝えします。グループ構成は、トライアル結果を踏まえて、複数の親子が混在するグループとしました。

 

 

②グループに分かれて、自己紹介&彫刻をみる練習

まず自己紹介をしたら、金属、石、木材など様々な素材や形の小さな立体の中から、好きな立体を2つ選んで組み合わせ、自分で思いついた形を作ってみます。

「金属の球は重くて冷たい」「ざらざらした石、つるつるした石がある」「平たい形の石もある」など、皆さん素材の手触りや形に興味津々。

 

 

2つの立体を選んだ理由をお話ししてもらったり、作品タイトルを考えてもらったり、みんなで色んな角度から見たりして、彫刻をみる練習をします。

 

初めて会った親子同士もだんだん打ち解けて笑顔が見られるようになってきたところで、いよいよ野外へ出発です。

 

③2つの野外彫刻をグループで鑑賞

離れてみたり近づいてみたり、色んな角度からみたり。野外ならではの光と影、周囲の景色の映り込み、木の葉の揺れる音、生き物の気配なども感じて、対話しながら鑑賞します。

 

イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》(以下、《イロハ》)を色んな角度からみて「文字だけではなくキャラクターみたいな形もある!」と発見するお子さん。

 

P 3824 M君までの距離》をみて考えたことを全身で伝えてくれるお子さん。

 

《メビウスの立方体》をみて感じたことを話す子どもの言葉に、大人も真剣に耳を傾けます。

 

《三つの立方体 A》の形について考えたことを話すお父さん。子どもも大人もグループの仲間として、みんなでみることを楽しんでいました。

 

④「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」をかたちにしてみる

野外彫刻をみて心に残ったことを、自由にかたちにしてみます。粘土で形を作ったり、ダンボールや折り紙で工作したり、絵を描いたり、参加者それぞれの表現が生まれます。

 

《三つの立方体 A》を鑑賞して印象に残ったエッジを、銀紙で表現してみるお母さん。

 

《三本の直方体 B》の形を、粘土で再現してみるお子さん。

 

P 3824 M君までの距離》を粘土で作ってみるお子さん。大人も子どもも、かたちにすることに没頭していました。

 

⑤表現したことを言葉にして伝え合う

制作物を見せ合いながら、どんなことを表現したのか、一人ずつ説明します。

 

「《三つの立方体 A》の線がかっこよかった。」とダンボールで立体模型を作って表現したことを話してくれるお子さん。

 

P 3824 M君までの距離》をみて造形したことを話すお子さんと、その言葉に耳を傾ける大人たち。

 

《イロハ》を一緒にみた子どもたちからは、それぞれの表現が生まれていました。

 

《イロハ》鑑賞中にお子さんが発見したことを受け止めて、お父さんがかたちにする場面もありました。子どもの感性に触れた親も、自分の視点が伝わった子どもも嬉しそうで、親子で鑑賞する意味を感じた一コマでした。

 

⑥他のグループの表現もみてみる

歩き回って他のグループの表現も見てみます。この活動によって、今日グループで鑑賞した2作品以外の東京都美術館の野外彫刻にも興味を持ってもらい、他のグループの参加者との交流を促します。各グループの担当とびラーが、鑑賞した野外彫刻の写真パネルを見せながら、制作物がどんなことを表現しているのかを説明しました。

 

小学生と高校生が、どんなことを表現したのか和やかに会話するなど、制作物を見ながら参加者同士のコミュニケーションも生まれていました。

 

 

プログラムの最後に、今日見た2つの作品以外の野外彫刻にも会いに行ってみて下さい、という思いを込めて、子どもたちに東京都美術館野外彫刻ガイドをお渡しました。

 

 


 

参加者の感想(アンケートから抜粋)

 

大人の参加者

・野外ならでは、太陽の色で、《さ傘(天の点滴をこの盃に)》の色の見え方が変わるところが印象に残った。

・遠くから見る、近くでみる、距離が生み出す見方のギャップが面白かった。

・グループで鑑賞すると自分では気づかなかった意見がたくさん出て楽しかった。

・みたものを自分がどう感じたのか深く考えることや、他人がどう感じるのか知ることができたのが楽しかった。

・同じものを見ていても、人それぞれ受けとるものや感じることが違うと発見があった。

・人によって見え方、感じ方が違って、表現には自由がある。

・自分の感じたことを形にできてよかった。

・自分では思ってもみないことを子ども達が発言することが新しい気づきだった。

・「かたちにしてみる」で、子どもの自由な発想に驚かされた。

・子どもと大人がフラットに作業できたのがよかった。

・子どもが自分の言葉で感じたことを話せていたことが印象に残った。

・言葉にして人前で表現することが苦手な娘が生き生きとしていてうれしかった。

・4歳の面倒を時々見ていただき助かった。

 

 

子どもの参加者

・とてもよかった。(5歳)

・彫刻をみるのが楽しかった。(7歳)

・Mくんまでの距離(作ったほう)が心に残った。(8歳)

・(彫刻をみてかたちにして)いろいろ話してもっと分かった。(8歳)

・みんなで色んな形を作るのが楽しかった。(9歳)

・見ることによって感じるだけでなく、聞いたり、肌で感じることができて面白かった。(12歳)

・形の見方を自分で表現できて楽しかった。(12歳)

・他のグループの作品をみて他の彫刻も見てみたいと思った。(16歳)

 

 


 

終わりに

今回のプログラムでは、たくさんの親子が野外彫刻を囲んで賑やかに鑑賞し、感じたことをかたちにすることを楽しんでくれていました。また参加いただいたお子さんの大半が未就学児〜小学生であったので、このラボの狙いの一つ「未就学児を含む子どもとその保護者が安心して美術館を楽しむ場を作る」ことを実現できました。

 

「対話による鑑賞と造形を用いた鑑賞のふりかえりによって子どもと大人が世代を超えて感じたことを伝え合う」というもう一つの狙いについても、特に大人が子どもの発想から刺激を受ける様子が見られ、親子が共に鑑賞し、造形を用いてふりかえることで、世代を超えた対話の場が生まれていました。

 

このプログラムをきっかけに、またご家族で東京都美術館の野外彫刻に会いに来てくださることを願ってやみません。最後に野外彫刻をイメージしたポーズで、ありがとうございました!

 

 


 

 執筆:木原裕子(12期とびラー)

文章を書いて伝える仕事をしています。趣味は子どもとMuseumめぐり。子どもたちが美術館でワクワクする場づくりをしたくてとびラーになり、親子で美術館を楽しむ一つのカタチをこのラボで模索。とびラー活動で学んだ対話型鑑賞を通して、世界のどこに行っても「ありのままの自分で共に在る」場を開いていきたい。

 

【とびラボ活動報告】「とびdeラヂオぶ〜☆@AC展2025」前編(ラジオ収録編)

2025.08.10

 

<美術館ラジオをやりたい!>

2023年7月からメンバー、形を変えながらとびラボとして活動している「とびdeラヂオぶ〜☆」(以下:ラヂオぶ)。このネーミングは、東京都美術館(以下:都美)のラジオ部!として音声コンテンツを届けたい!という気持ちと、Museum Startあいうえのでお馴染みの、上野公園の9つの文化施設の頭文字を合わせた呪文「ビビハドトカダブ」をちょっとだけもじったというもの!1年目はとびらプロジェクトのスタッフやとびラーのインタビュー番組を作り、自分たちのコミュニケーションを活発にするツールとして楽しみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*お決まりポーズ、ラヂオぶの「ラ!」

やりたいことの1つだったのがTV番組「病院ラジオ」の美術館版、来館者の声を届ける「美術館ラジオ」でした。それに近いことができたのが2024年度に制作した番組「ずっとアートと生きていくラヂオ」

そして今年度は、『アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること 「Museum Start あいうえの」12年と現在地』(以下:AC展)の展示室の一角に、即席ラジオブースを構えて、来館者のインタビュー収録をして制作した「みること、つくること、つながることラヂオ」。我々が軸にしてきた「美術館にあまりこない人にも美術館の良さを知ってもらいたい!来館者のアートにまつわる素敵なエピソードをシェアしたい!」という想いから、より拡散可能なポッドキャストへの音声公開をイメージしながらスタートしました。

*収録テスト中。奥にいる3人はわざと会話したりノイズを出したり。

 

<待望のマイクがきた!>

前回はボイスレコーダーをテーブルに置いて収録しましたが、周囲の音が入ってしまい聞き取りづらい部分があったことが課題でした。そこで、今回は新しいマイクを使って、参加者の声がしっかりと収録できるようにしました。事前の動作チェックでは、マイクの指向性を変えながら周囲の音がどれだけ入って来るのか確認しました。ちょっとレトロなフォルムのマイクにワクワクしながらのテスト収録でした。

<AC展の会場でインタビュー>

AC展では、3組の作家(森友紀恵、三輪途道、がかのか族(幸田千依と加茂昂とその息子)の作品が展示されており、後半のスペースには、私たちが参加するアート・コミュニケーション事業「とびらプロジェクト」や「Museum Start あいうえの」の歩みを知ることができる資料や映像も公開されていました。

8月9日・10日の2日間で展覧会の出口付近の机に、マイクとPOPを設置したブースをつくりインタビューを実施しました。

帰り際に興味を持ってくれた方や、作品や資料を鑑賞中に声がけをして、承諾してくれた方々の生の声を、ラヂオぶのブースにて収録しました。

インタビューの収録は基本的に、メインインタビュアー1人とメモ係1人の2人体制で臨みました。話が白熱して、テーブルのそばで聞いていた人から過去の展示内容について質問が飛んでくることもあり、スタッフがその場に加わって話してくれることもありました。

インタビューでは友人や、親子、一人で訪れた方やITや教育関連のお仕事をされている方、リタイア世代の方など様々な背景の人と出会いました。

父親と来ていた5歳のこどもは、がかのか族の展示室の一角で描いた絵の話をしてくれました。描いた絵を美術館に展示することができたのに持って帰ることを選んだそうです。「どうして?」と聞くと「ママがまだ見てないから持って帰る〜」と、アートでつながる家族の様子をうかがうことができました。

 

<インタビューを行ってみた感想(藤井)>

よく上野公園に散歩に来るという中国人留学生のインタビューが印象的でした。物腰が柔らかい方でした。

聞くところによると前日にも都美に足を運んでいたそうです。

自分は繊細で友人があまり多くないが人と話すこと自体は好きで、美術館に来ると自分と同じ世界の人がいっぱいいる、と語ってくれました。

その後、別の日に偶然彼と都美であいさつを交わす機会がありました。日本という異国の地で自分が心地いい居場所、つながることを見つけたのかもしれないと感じました。

改めて、美術館という場所がもたらす効果・多種多様な人々を受け入れる裾野の広さについて考えることができました。

 

 

<インタビューを行ってみた感想(柴田)>

中途失明の方へのインタビューでは、これからもアート・コミュニケータとして活動していくうえで大切にしておきたいことに気づかされました。会場内でガイドさんととても熱心に会話を交わしながら作品をみている様子を見て、私たちは「話しかけないほうがいいのではないか」と、自分たちなりの判断をしてしまったのです。ところが感想を伺うと、男性は「何人かの話を聞くことで作品の解像度が上がるので、いろいろな人の話を聞いてから、みたかった」と話してくれました。アート・コミュニケータとして会場にいるからこそ、まずは声をかけ、コミュニケーションを始めてみること。その大切さを、あらためて教えてもらった出来事でした。

<インタビューをふりかえって(藤井)

ラヂオぶの活動を通して、美術館に足を運ぶ人の多種多様さを肌で感じることができました。

こうして「多種多様」と言葉にするだけでは、こぼれ落ちてしまう個人個人の美術館への想いや過ごし方。そして、これまでの人生。そんな個別具体の生に対峙できたことが、何より貴重でやりがいに溢れる経験だったなと、ブログを書き振り返りながら、改めて思いました。

自分と同じ世界の仲間たちを見つけ足しげく美術館に通う人。記憶を辿りながら、ものを作ることが生きる力になると語る人。暮らしの中でスケッチすることが好きな人。娘を初めての美術館に連れて来たことを喜ぶ人。エンジニアにはアーティスト的な発想が必要だと力説する人。名前も知らない者同士が、ゆるやかにつながれる居場所づくりに取り組む人。など

あえて大袈裟にいうならば、

ラジオは、個々人の生き様や心の機微をこぼすことなくすくい上げ、映し出すことのできる、最も適したメディアの一つなのではないか、と感じました。

大きなメディアでは取り上げられにくく、またSNS上では声の大きな人の意見が先行しがちななかで、そうした声はなかなか見えてきません。

私たちが制作した音源も、そのような市民の「声」を届けるラジオ番組の一つとなれていることを、切に願っています!

 

<まとめ>

メンバーや形態を変えながら積み重ねてきたからこそたどり着いた「とびdeラヂオぶ〜☆@AC展2025」。実は、昨年から変化したことで、インタビューコーナーによい影響を与えたものがあります。冒頭でも紹介したように、新しく置き型のマイクを導入したことです。

これは質の良い音声を収録するためでしたが、マイクがあることで、2024年のAC展に比べて私たちが何をしているのかが伝わりやすくなり、来場者の方々も思いをより丁寧に話してくれたように感じます。

展示室の最後の一角に現れる“かたり場”は、ときに、たまたま居合わせた者同士が感想やアートへの思いを共有する場となり、ときに、自分の考えをアウトプットしたり整理したりする場にもなりました。また、一緒に来た人がどのように感じ、何を考えているのかを知るきっかけにもなっていました。

あるメンバーからは「収録をしなくても、こんな場が展示室の一角にあるっていいね」という声もあがりました。

AC展はラヂオぶにとって、来館した人たちととびラーが会場で直接コミュニケーションを交わすことができる場です。その中で生まれた思いや対話を“ラジオ”という音声コンテンツにのせて、来館したくてもできない・できなかった人や、アートには興味があっても美術館はハードルが高いと感じている人に向けて、会場の様子や訪れた人たちの感じ方を発信するのにぴったりな舞台となりました。

ぜひ「とびdeラヂオぶ〜☆@AC展2025」後編(ラジオ制作編)のブログもお楽しみください

 

執筆:藤井孝弘(とびラー14期)

普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。

人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。

 

執筆:柴田麻記(12期とびラー)

以前は、テレビ番組を制作していました。現在は、愉快な高校生と小学生と過ごす主婦。私のいちばん身近なコミュニティは家族です。とびラーで得た視点を日々の暮らしの中でこっそり使いながら実験中。実験範囲をじわりと広げているところです。

執筆/構成:染谷 都(12期とびラー)

ラヂオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。これからゼミ「上野の森と建築を考える」「『アートコミュニケータの建築鑑賞まちあるき』を考える」を実践中。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。 

 

【開催報告】iPadで見せたい@ミロ展:障害のある方のための特別鑑賞会

2025.05.26

 


 

執筆者:寺岡久美子

 

 

⚫ iPad を活⽤したコミュニケーションとは

東京都美術館の「ミロ展」で、2025年5⽉26⽇に障害のある⽅のための特別鑑賞会が開催されました。その中でとびラボの活動である、iPad を活⽤した来館者とのコミュニケーションを実施しました。 iPad を使⽤することで、⾞いすの⽅などで壁や台の上の作品が⾒づらい⽅や、ロービジョンの方、細かいところが見えづらい方が、作品を⼿元で拡大して⾒られるなど、アート・コミュニケータ(とびラー)とコミュニケーションしながら作品鑑賞を行う取り組みです。

 


ラボのキックオフ集合写真

 

 


 

⚫ 当⽇を迎えるまでの準備

当⽇を迎えるまで、ラボメンバーで準備を重ねました。まずは、どの作品がiPadを活⽤するのに適しているのか、メンバーで展⽰室を回りながら話し合いました。今回のミロ作品は⼤きなものが多く、作品のサイズが⼩さいことが理由で⾒づらいことはあまりないように、はじめは感じていました。しかし、展⽰室を回りながら確認するうちに「この作品は、近寄って⾒るとすごく細かく草⽊が描かれているから、ぜひこれを拡⼤してよく⾒てもらいたいね。」という意見や、「ミロが作品を描く元となったポストカードや素描と、作品を⼿元で⾒⽐べられるとより⾒やすいね。」というような意⾒が出ました。さらに「このエリアは他と⽐べて展⽰スペースの照明を落としていて、⾞椅⼦からだと作品が光ってしまって⾒えづらいかも。」など、さまざまな方に合わせた視点も重視しながら、どのようなコミュニケーションが⽣まれるか想像して、iPadで扱う作品選びをしていきました。

 


iPadで使う作品の選出1

 


iPadで使う作品の選出2

 

 

また、来館者からも何の取り組みをしているのかわかりやすいように、とびラーが肩から掛ける看板も作成しました。


肩掛け看板

 


鑑賞者との対話記録シート

 

 

そして以下の作品を選定しました。

①《ヤシの⽊のある家》1918年

②ヘンドリク・ソルフ《リュートを弾く⼈》1661年 ※《オランダの室内Ⅰ》の元になった作品

③《オランダの室内Ⅰのための準備素描 Fig.4》1928年

④《コラージュ=ドローイング》1933年

 

 


 

⚫ 当⽇の様⼦

特別鑑賞会にはさまざまな方が参加します。作品の前でしばし止まり興味深そうに鑑賞されている方、作品を見ていて細部が見えづらそうな方などにとびラーが「この作品気になりますか?」「お好きですか?」などお声がけし、「この作品はお手元で拡大してより見やすくできますよ。」とiPadで作品を拡大して一緒に鑑賞しました。今までも特別鑑賞会に来たことのある⽅はiPadでの取り組みもご存じで、来館者からお声掛けされることもあり、約210名の⽅とiPadを活⽤した鑑賞とコミュニケーションをすることができました。

作品ごとにどのようなコミュニケーションをしたのか、⼀部ご紹介したいと思います。

 

 

①《ヤシの⽊のある家》1918年

この作品は⾮常に細かく建物やヤシの⽊、畑などが描かれている作品です。「この絵が新聞で紹介されていたので、ゆっくり観てみたかったんです。」と⼿元のiPadでも拡⼤してご覧になった⽅が、拡⼤して⾒てみると畑に描かれている植物がひとつひとつ異なることに気づかれました。「まるで着物の紋様のようね。」と、感じたことを伝えてくれました。

建物にツタが絡まっている様⼦や、ひまわりが1本だけ咲いていること、かぼちゃがたくさん並んでいるのを⾒つけたり、拡⼤して初めて発⾒したことを教えてくれました。そこから「季節は夏なのかなぁ。」「⼀般の⺠家ではないと思う。」など、絵の中の物語を語り合うことができました。

 

 

②ヘンドリク・ソルフ《リュートを弾く⼈》1661年(※《オランダの室内Ⅰ》の元になった作品)

《オランダの室内Ⅰのための準備素描 Fig.4》1928年

ミロはオランダ旅⾏の際に買ってきた《リュートを弾く⼈》のポストカードを元に、《オランダの室内Ⅰ》を描きました。この元となった絵を、ミロ作品の前でiPadを使って⾒⽐べました。「あぁ、猫もあそこに描かれている。でも右側の⼥の⼈はどこに⾏っちゃったんだろう?」「元のポストカードにはカエルやコウモリはいないのに、ミロにはこんな⾵に⾒えるんだね、楽しさが伝わるなあ。」「⾃分はポストカードよりミロの絵のほうが、元気が出る感じで好きだなあ。⾊が良いんだよね。」など、お話が弾みました。

 


《オランダの室内Ⅰ》の前で、参考作品と見比べている

 

 

④《コラージュ=ドローイング》1933年

ドローイングの上に、ポストカードや切り取りされたモチーフが貼り付けられている作品です。「拡⼤したらコラージュだと気づいた。最初、貼られているものは窓だと思っていた。」と、拡⼤することでどのような作品なのか気づいてもらうことができました。「コラージュは、どう作られているのか良くわからなかったので、拡⼤して⾒られて嬉しい。」と、iPadを活⽤してじっくり作品を鑑賞してもらいました。ドローイング部分は「お地蔵さんがシャワーを浴びているみたい。」「⼥性が⽝を抱えているように⾒える。」など、いろいろな⾒⽅を聞くことができました。

 


《コラージュ・ドローイング》の前で、参考作品と見比べている

 

 


 

⚫ 終わりに

展覧会を鑑賞しに来た来館者の⽅に、作品そのものを楽しんでもらうため実施したiPadによるコミュニケーション。われわれアート・コミュニケータにとっても、来館者と直接⾔葉を交わしながら⼀緒に作品を鑑賞できることが予想以上に楽しく、喜びに満ちた嬉しい時間でした。これからも、来館者に楽しんでもらえる活動をしていきたいと思います。

 

 


 

執筆者:13 期とびラー 寺岡久美⼦

普段よく使っているiPadが美術館と掛け合わさることで気づきや喜び、嬉しさに繋がるという体感を得られました。普段は情報通信系企業で働いています。小さい頃は図鑑の昆虫、植物、図画・工作の巻を眺めるのが好きでした。大人になってから美術館で過ごす時間が癒しの時間で、展示室以外にも美術館のカフェであれこれ考え事するのが好きです。自分も描きたいなぁ、と昨年から通信制の芸術大学に入学して洋画を学び中です。

 

【とびラボ実施報告】上野公園探検隊

2025.03.17

 

執筆:11期とびラー 曽我千文

◇上野は日本初の都市公園

東京都美術館に行こうとJR上野駅公園口改札を出ると、そこはもう上野恩賜公園(以下:上野公園)です。東京都美術館は上野公園の中にあるのですが、たいていの場合、噴水広場を横目でみながら、駅と美術館の間を歩くだけで、公園全体の様子をみる機会は少ないのではないでしょうか。

上野公園は面積54ヘクタール。東京ドームの約11個分の広さがあり、2023年に開園150年を迎えた日本で一番古い都市公園のひとつです。上野のお山から、斜面を下った不忍池まで、実に多くの見どころにあふれ、歴史と自然を楽しむことができます。

 

上野公園中央の広場 右奥が東京都美術館(提供:東京都東部公園緑地事務所)

 

私たち東京都美術館のアート・コミュニケータ「とびラー」も、せっかくいつも訪れている上野公園のことを、もっとよく知ってみようと「上野公園探検隊」を結成し、2022年度から2024年まで7回の探検を行いました。

 

 

◇上野公園のはじまり

上野公園があるところは江戸時代、東叡山寛永寺の境内地でした。それが明治維新後に官有地となり、明治6年の太政官布達(国の政治機関が府県に対し、公園という制度を発足させるので、「群集遊観ノ場所」などのふさわしい土地を選定してうかがい出るようにといったお達し)によって、日本で初めての公園に指定されました。

当初は社殿と霊廟、東照宮と桜を中心にした場所でしたが、その後、博物館や動物園、美術館などが建てられ、多くの文化施設が集まった世界でも希代の場所に発展しました。

江戸時代、家康、秀忠、家光の三代にわたる将軍に信頼された天海僧正によって開かれた、東叡山寛永寺には、京都や滋賀の名所に見立てた建物や景観が多く作られました。延暦寺にならって寛永年代から名を取った寛永寺。琵琶湖と竹生島を見立てた不忍池と弁天島。清水寺を見立てた清水観音堂。方広寺に見立てた大仏。上野の代名詞である花見の名所も、天海僧正が吉野山の桜を取り寄せて植えたのが始まりだそうです。

 

そんな上野の歴史や自然について、東京都美術館のアートスタディルームでスライドを使って、基本情報を共有した後に探検に出発しました。

2023年度には、探検のまとめとして、参加したとびラー全員で、発見したこと興味を持った思ったものを1人2つずつあげて、かるたを作りました。最初に五十音を任意に割り振られた文字を使って、詠み札の文を考えるのに苦労しましたが、楽しいこと、おもしろいものが大好きなとびラーたちの力作になりました。その「上野公園探検かるた」の一部をご覧にいれながら、探検の様子をご紹介します。

 

 

◇間違えられた公園の父

東京都美術館を出てすぐ、動物園正門の前には、ここでしか見られないパンダのポストがあります。2011年、東日本大震災の被害に悲しむ日本に明るい話題を提供してくれたリーリーとシンシンの公開を記念して建てられました。さて、ここでクイズです。「パンダのしっぽは黒でしょうか白でしょうか?」早速パンダポストで確認しました。当たった人も知らなかった人も嬉しそうです。

 

 

噴水広場のスタバの隣にある桜の木。これは上野公園で発見された新しい品種のサクラで、白花のしだれ桜です。公募で「ウエノシラユキシダレ」という名前が付けられました。ソメイヨシノより少し早い時期に白い雪が降るように咲くので、ぜひ、花の時期に見に来てください。

「真っ白な花が楽しみ。」

「貴重な木なのに、ヒョロヒョロで、枯れちゃうのが心配。」

などの声があがりました。枝から後継樹も育てられているそうです。

 

ウエノシラユキシダレ

 

上野白雪しだれの少し北よりには、ボードワン博士の胸像があります。西洋医学を伝えるため来日したオランダ人の医師ボードワンは、明治政府から上野に東大医学部の前身である西洋医学所を建てる計画に意見を求められた際に、上野の貴重な緑地は公園にして残すべきだと進言したため、「上野公園の父」と言われています。ちなみにこの銅像は、上野公園開園100年に当たる1973年に、写真の間違いから、先に来日していた弟さんの像を建ててしまい、2006年になってから本人の像に替えられたエピソードがあります。

 

ボードワン像を探検

 

「そんなことってあるの?」

と一同大うけでしたが、オランダ領事を務めていた弟さんの像は、現在は神戸のポートアイランド北公園で海を見つめていると聞いて、ほっとした笑顔が見られました。

 

ボードワン像とその周辺を紹介した探検かるた。上野公園は文化施設と自然の宝庫、大噴水のある竹の台広場には江戸時代に寛永寺の本堂がありました。

 

 

◇リニューアルした公園口広場

JR上野駅公園口を出た広場は、令和2年にリニューアルされました。それまで、駅の正面には、往来の激しい車道があって、信号待ちの乗降客で混雑していたのですが、当時を知るとびラーからは、

「本当にここは快適になった、前は危なかった。」

と声があがります。現在は、広場の南北に造られたロータリーで車はそれぞれ行き止まりになっており、駅を降りた来園者が、安全で快適に公園に入れるようになりました。上野駅も一緒に、改札口が北寄りに改修されて、改札から上野動物園の正門が、まっすぐ正面に見えるようになりました。

駅を降りると、左手には東京都美術館と同じく前川國男設計の東京文化会館、その向かいにはル・コルビュジェ設計の世界文化遺産に指定された国立西洋美術館があります。とびラーたちはひととき、西洋美術館で見た展覧会の話題に花を咲かせていました。

 

リニューアルした上野駅公園口前広場周辺の探検かるた。世界文化遺産の国立西洋美術館や、パンダ型ベンチが人気です

 

 

◇西郷さんは西郷さんに似ていない?

東京文化会館の裏手から桜広場に進むと、上野寛永寺の祖である天海僧正の毛髪塔があります。なんと108歳の長寿だったそうで、お墓は家康と一緒に日光東照宮にあるそうです。

隣にあるのは、上野戦争で幕府の降伏と江戸城無血開城に納得せず、上野戦争で明治新政府軍に敗れた悲劇の侍たち「彰義隊」のお墓です。

「上野戦争や彰義隊のことは今まで知らなかった」

「そんな悲しい歴史が上野にあったんですね」

と江戸時代終焉時の志士に思いを馳せて手を合わせました。

その先、上野台の先端には有名な西郷隆盛像があります。意外にも、知っていたけど見るのは初めてという人が多くいました。西郷像は「西郷さんに似ていない」という説があるのですが、西郷さんは写真嫌いだったため、有名な肖像画も弟と従弟の姿を参考にして描かれたものなので、そう言われているようです。西郷像の除幕式で、奥さんが『あれまあ!うちの人はこんなお人ではなかったのに!』と言ったのがことの起こりらしいのですが、奥さんは着流しの姿で兎狩りをしている西郷像の身なりが気に入らなかった、もっときちんとした人だったと言いたかったというのが本当のところのようです。とびラーはみな、この像が兎狩りの様子だということに驚いていました。確かに、のんびりと犬の散歩をしているように見えます。

 

上野のランドマーク、西郷さん像とその周辺を詠んだ探検かるた。彰義隊の墓や、花見のにぎわいも有名です。

 

上野に大仏があるのをご存じでしょうか。天海僧正が、京都や滋賀の風景を見立てて、江戸に再現したもののひとつが大仏です。この大仏は安政年間の地震や、関東大震災などで何度も頭部が落ち、現在では顔面部しかないため、「これ以上落ちない」ということで受験生に人気があります。「合格祈願」の文字が書かれた桜の花の形の絵馬がたくさんかけてあるのを見て、

「お顔だけになってしまってかわいそう。」

「ご利益ありそうだから受験生に教えてあげなくては。」

と知られざる名所にわいていました。

 

顔だけの上野大仏、60年前に寄贈されたトーテムポール、小高い摺鉢山はあまり知られていませんが、約1500年前に築かれた前方後円墳です。驚きの出会いがかるたになりました

 

 

◇上野の洞窟・穴稲荷

外国からの観光客で大変にぎわう、朱塗りの鳥居が並ぶ花園稲荷神社の細い参道は幻想的で、下っていくとどこか違う世界に入っていきそうです。下りた右手に社殿があり、左手の斜面に探検隊の心が騒ぐ秘密の場所、洞窟がありました。鉄格子の扉を開けて中に入るとそこが、寛永寺を建てる際に、天海僧正が住処を失ったきつねを哀れんで掘らせた穴稲荷です。

「まさに秘密の場所ですね。扉の中に入れるとは知らなかった」

「東京の真ん中で、異次元の世界に入る気持ち」

と、どきどきしながら一人ずつ、暗く、ひんやりとした通路をそろそろと進み、薄明りに照らされた祠に、静かに手を合わせてきました。

このあたりの上野台の斜面林は、はるか昔に不忍池が海だった名残で、海岸沿いに育つシイやタブの木が多く見られる環境で、大きな木々が神社を包んでいます。

 

上野には、公園と古い寺社が共にあります。動物園の中にある五重の塔、神秘的な花園稲荷神社、東照宮の巨大なおばけ灯篭と、探検はタイムスリップの連続です

 

花園稲荷神社の鳥居をくぐる

 

 

◇絶景かな清水の舞台

山の上から不忍池を見下ろすように、京都清水寺を見立てて作られたのが清水観音堂です。清水の舞台のすぐ下には、広重の「名所江戸百景」にも描かれた、太い枝をぐるりと輪の形に仕立てた「月見の松」があります。明治の初めに、台風の被害で松は失われてしまったのですが、江戸の風景を復活させようと、2012年に150年ぶりに植えられたものです。輪をのぞくと、下に不忍池の辨天堂がちょうど見え、みんな江戸時代にタイムスリップして、代わるがわるに写真を撮っていました。

桜の名所で有名な上野公園ですが、園内に50種類以上のサクラが植えられており、ソメイヨシノを中心に、早咲きと遅咲きのサクラの花を長い期間楽しめるようになっています。探検を行った2月にも、早咲きのカンザクラの花に、メジロが蜜を吸いにきていて、かわいいしぐさに癒されました。

花の蜜を吸うメジロは人気者。不忍池を見下ろす清水観音堂の月の松。辯天堂の龍の天井画に歴史を感じます 

 

◇弁天島は発見がいっぱい

清水観音堂から階段を下ると不忍池の畔に出ます。不忍池の中央には、琵琶湖の竹生島を模して造られたという島があり、弁財天を祀る弁天堂があります。不忍池の弁天様は、八本の腕のそれぞれの手に煩悩を破壊する武器を持ち、頭上には「宇賀神」という人頭蛇身の神様を乗せています。宇賀神像はお堂の手前にもあり、今年は巳年ということもあり、関心が集まっていました。

お堂の天井には、児玉希望画伯による迫力のある龍の天井画が描かれ、とびラーが集まって拝見していると、誰からともなく対話型鑑賞が始まりそうでした。

弁天堂の周囲には、「ふぐ供養碑」、「魚塚」、「スッポン感謝之塔」「包丁塚」など、様々な供養塔や記念碑がたくさんあります。「めがねの碑」には徳川家康の愛用した眼鏡がかたどられていますし、「暦塚」は日時計になっています。

「徳川家康って眼鏡かけていたの?」

「小学校に日時計があったわ。正確に時間を示しているんですね。」

と、ひとつひとつをじっくり見てまわりながら、誰がいつ、何を思って建てたのか、碑文を読みながら楽しんでいました。

 

弁天池にたくさんある石碑の中でもめがねの碑は大人気。弁天堂の宇賀神様や、池の水源などに関心を寄せたかるたです

 

 

◇上野の自然とパワースポット

弁天島を西に渡ると、左手にスワンボートが浮かぶボート池、右手が上野動物園の区域の鵜池です。水辺には冬を日本で過ごすカモやカモメ、カワウなどがたくさんいて、望遠鏡を使ってバードウォッチングを楽しみました。

「人手が多いのに不忍池にはたくさん野鳥がいるんですね。」

「パンダに似ているかわいいキンクロハジロちゃんの大ファンになりました」

園内には随所に大木があり、丹精を込めて管理された季節の花壇や、所々では「いいにおい!」と花の香りに立ち止まり、普段気づかなかった上野の自然を満喫することができ、

「桜だけじゃないんですね。知らない植物などをもっと知りたいと思った」

「新しい品種の木や、植物の手入れの様子、花といっても知らないことが多かったです。」

という声も聞かれました。

 

不忍池にはたくさんの野鳥が。黒くて大きなカワウや、ポニーテールのキンクロハジロなどに人気が集まり、かるたに描かれていました

 

望遠鏡をのぞいて初めて見る野鳥の美しさを堪能

 

東京都美術館に戻る途中、最後に噴水広場で上野のパワースポットを探しました。駅改札と動物園正門を結ぶ線と、東京国立博物館と桜通りを結ぶ線の交点、上野のおへそです。みんなで下を見ながらうろうろ。

「あった!これだ!」

石の舗装に小さく「+」が刻まれているのを見つけました。

「今後は都美への行き帰りには必ずや秘密のパワースポットでエネルギーchargeすること間違いありません。」

「+印のパワースポットで定期的にエネルギーチャージしたいと思います。」

と、みんなで代わるがわる+印の上に立ち、なんだか足取りも軽く、都美へと帰る探検隊でした。

 

パワースポットの+印

 

 

◇探検を終えたとびラーたちの感想

東京都美術館に戻り探検をふりかえると、みんなそれぞれに印象に残った場所が違い、上野公園の見どころの豊かさを感じました。身近に思っていた上野公園も、みんなで探検することで知らない世界を見つけることができたようです。

「いつも通り過ぎるだけだった場所も、がぜんクッキリと見えてきました」

「上野の奥深さを改めて認識」

「行ったことのないエリア、本当に知らないことばかりで、上野をより知ることができた」

「たくさん発見をしたので、ますます上野公園が身近になりました。」

「今度1人でゆっくり上野公園を回ってみようかなと思います。」

「みなさんといっしょにおしゃべりしながらの探検、楽しい時間でした」

「季節ごとの上野を味わいながら歩いてみることの楽しさを実感」

「銅像から伝統や文化を知り、自然を感じることができた」

「時代毎のニーズなどを踏まえて公園が変化していく様子を知ることができて面白かった」

「みんなと見ると楽しい、ちょっとしたつぶやきから発見が広がりました」

 

3年間、とびラーと上野公園の探検を続けてきました。観察力が鋭く、楽しむことに長けた仲間と歩いていると、少し詳しいつもりになっていた公園に、こんなにも新しい疑問や発見が湧いてくるのかと、わくわくの連続でした。上野公園が奥深いのは、江戸時代から続く様々な人や自然のドラマが集積されているからだと思います。多くの文化施設が集まり、今日もたくさんの人でにぎわうのも、自然の摂理なのかもしれません。とびラーの活動も、この上野公園の歴史の一ページになっていけたらと思いました。

みなさんもぜひ新しい発見を見つけに、上野公園の探検にいらしてください。

 


執筆:とびラー11期 曽我 千文

公園を造ったり管理したりする仕事をしています。公園の中にある大好きな東京都美術館でとびラーとして活動できた3年間は至福の時代でした。公園と美術館という、どちらも幸せの場所で、みんなに幸せになってもらうために歩き続けたいと思います。

 

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