2026.03.28
<藝大の森との出会い>
2024年8月、私は、Museum Start あいうえの ファミリー&ティーンズ・プログラム「あいうえのmeet ①大地とつくる 東京都美術館×東京藝術大学」にとびラーとして参加し、活動の場となった東京藝術大学(以下:藝大)の保存林の成り立ちを知ることになりました。台東区在住の私は、コロナ禍前、この森の周りに飲食屋台がにぎやかに並ぶ「藝祭」へ連日訪れ、人々が楽しそうに行き交う様子をみながら気ままに過ごし、構内の大樹・木々に心地よさを感じたことを思い出し、人の手、思いがきちんと入っていたのだと納得しました。
「あいうえのmeet ①大地とつくる」の活動で、
藝大の保存林の中で大クスノキに出会う。
藝大の保存林入口。樹齢300年とも400年ともいわれる大クスノキ。
そして私たちは、プログラムを担当した東京藝術大学 キャンパスグランドデザイン推進室 君塚和香先生が指導する「藝大の森」プロジェクトにて、藝大ヘッジのお世話をするボランティア活動に参加しました。
「藝大ヘッジ」とは:
藝大ヘッジとは、2016年から大学の外周の柵に代わり、植栽による「やわらかな境界線」をつくる取り組みです。近隣住民や藝大生のみなさんなどの有志で、生垣を剪定し定期的に世話をしています。藝大ヘッジの活動が生み出す「やわらかな境界線」は、物理的に見通しがよくなることで、親しみを持ちやすくなるだけでなく、心理的にもコミュニケーションを生みやすくする効果があります。

藝大正門脇の生垣「藝大ヘッジ」。
武蔵野在来種の落葉樹と常緑樹をとりまぜ植樹。腰高に刈り込みをしている。
四季折々の花が楽しめます。お茶の木に白い花が。
さらにこの年の10月、とびらプロジェクトの建築実践講座(以下:講座)に講師としていらした君塚先生から、藝大と上野公園や周辺地域とのつながり、公共空間の考え方や開き方について学ぶ回がありました。また、その講座の中で、実際の藝大ヘッジに苗を植樹することができました。
私は、とびラーに在籍した3年間、毎年建築実践講座を受講し、東京都美術館(以下:都美)の建築ツアーのガイドを四季を通して経験しました。その中で、5月から夏にかけて都美敷地内の樹々と上野公園の樹々が互いに生い茂り、都美が森に沈む風景が素敵だと感じました。都美から、樹々がつくる緑の境界線を越えツアーが外へにじみ出ていくことを想像しました。敷地が隣である藝大は、藝大ヘッジがあることで、よりやわらかな境界線として景色が交わっていきます。公園の森、藝大ヘッジの生垣、その間に立つ歴史的建造物との共存をツアーとして紹介していきたいという思いを起点に、「上野の森と建築を考えるラボ」と命名し、2025年3月に“とびラボ”を立ち上げました
上野公園の噴水広場と都美の間の道。5月は樹々で右手にある美術館が覆われる。
2月はレンガ色のタイルがよく見えます。
東京都美術館裏手の門から見える藝大ヘッジ
「上野の森と建築を考えるラボ」がスタートしました。
このとびラボは、講座で植樹を経験したとびラーの共感を集め、多数のとびラーが集まりました。ミーティングでは、まず、上野の土地の記憶を紐解く勉強会をすることから始めました。武蔵野台地の端に位置し、寛永寺の土地だった上野公園の歴史。また、藝大の敷地にある、赤レンガ1号館や、藝大の敷地に隣接する黒田記念館など、建築ごとのデータ収集を行いました。そして、藝大の保存林や「藝大ヘッジ」についても、とびラー同士で情報を共有していきました。
また、現場へ何度も足を運び、みんなでみて感じることを実践。そして、一般参加者を募集するツアープログラムを目標に掲げ、基本となるツアーコースを1つ作ることにしました。

藝大への通り道「芸術の散歩道」から、
都美の大きな窓越しにその先にある木々をみる。
ツアーコースは、大銀杏がある都美東門をスタート地点にして、北側の「芸術の散歩道」の林を抜け、旧博物館動物園駅をはじめ、4つの歴史的建造物がたつ交差点「アートクロス」の風景を紹介します。そして「藝大ヘッジ」の前を通り、藝大の赤レンガ1号館、保存林へと…上野の森の木々の中に点在する建築を巡る!というコース案を作成しました。
これをブラッシュアップしながらテストツアーを重ねましたが、とびラボの中では、予定の1時間に収めることができず、2025年内の一般参加者を募るとびラボ発のプログラムの開催には至りませんでした。
基本コースの組み立て
その後、とびラー向けのツアー開催へと目標を変更。都美の建築ツアーガイドをしているとびラーを中心に、今回のとびラー向けツアーのチームを編成しました。しかし都美の建築ツアーより紹介範囲が広く、一人で全ツアーをガイドするほどの知識を開催日までに覚えられません。それを打開するためのアイデアとして、1つのコースを、4人のガイドがリレー式で案内しました。この方法によってツアーガイドを初めて経験できたメンバーもいました。
また、とくに試行錯誤したのは、アート・コミュニケータであるとびラーが案内するのにふさわしい建築鑑賞ツアーとはどういうものか、という視点でした。参加者に、建築と景色をどのように鑑賞してもらうか。建築のデータや見どころを紹介する知識教授型の案内だけではなく、樹齢数百年の木と建築が長い時間をかけて作り出した素晴らしい景色を、参加者自らが、自分の感性を主体として、味わってもらうにはどのようなアプローチが必要かという点について、丁寧に話し合いました。
そして、参加者それぞれが素敵だと感じた景色、場所をスマートフォンで写真撮影し、参加者同士で見せ合いながら、その理由をシェアすることで、お互いの「推し」の景色を味わってもらうやり方を考えました。
また、藝大ヘッジの”やわらかな境界線”の伝え方にも苦心しました。鉄の柵が赤レンガ館の前にあった当時の写真をみてもらい、生垣になった現在の景色と比較することで、その違いを感じてもらうことにしました。
そして、とびラーに向けたツアーでは、3つのコースでツアーを実施することができました。1つのツアーにつき、4〜5人のとびラーが参加者になりました。
全てのコースで、上野公園の歴史の変遷を紹介することから始め、以下のようなコースを行いました。
・「アートクロス」にある建築の囲い=鉄柵と藝大ヘッジの違い、生垣効果による建築の見え方をメインにしたコース
・都美スタートで木々を抜け藝大へ向かうという上野の森の中の建築散策を意識したコース
旧東京府美術館の跡地でありし日の姿に思いを馳せ、
点在する歴史的建造物をめぐる。
藝大の建築物で一番古い築145年の赤レンガ1号館と、6年後に建てられた赤レンガ2号館。このレトロな建築と樹々の風景鑑賞がツアーのハイライトとなりました。

参加者は「ステキ!気になるな?」と思った場所を撮影し、
全員で見せ合い感想をシェアします。
赤い実とレンガ色が絵になる1枚。丸い窓がキャンディに見える!
(ツアーに参加したとびラーの撮影)
敷地にある樹齢不明のカヤノキ。幹周りは大人が2人向かい合い両手を回して、手を繋げないくらいの大きさです。直径1mの成長が300年かかるといわれ、ゆっくりと成長するカヤノキ。参加者には、明治時代の「東京音楽学校予想復元図」(写真下)を見てもらい、ある程度の大きさで描かれている木をみて、ここが寛永寺の敷地だった頃へ想像を巡らせました。建物より先にたっていた大樹、時間がつくりだした風景をゆったりと味わいました。

赤レンガ2号館の脇に2本の木がある。
(明治43〜44時頃の東京美術学校・東京音楽学校予想復元図 ©︎君塚和香)

樹齢は不明のカヤノキ。
葉のにおいをかぐと柑橘のかおりがします。

藝大ヘッジ越しにみた藝大美術館は「生垣の波に浮かぶ大きな船のように見える!
鉄柵ではこの景色は味わえない」という声が。
2026年1月、とびラーの任期を満了した後の活動の準備をするため「これからゼミ」として活動を開始しました。そして、プロジェクトスタッフのアドバイスにより4月以降に、藝大構内を拠点にツアーガイドの活動を準備することになりました。とびラボとしては、目標の一般の方向けのツアー開催には間に合いませんでしたが、そこまでのプロセスを見てもらえていたことがとてもうれしく、とびラボ活動は結果ではなくプロセスが大切だとしみじみ感じました。
それから藝大構内に点在する建築や保存林についての勉強会として藝大構内を巡るツアーを、今後もアドバイザーとしてお世話になる君塚先生に実施してもらいました。ツアーに参加してもらいたい関心層の絞り込みや、どんな内容のコースにするかを検討していきます。
君塚先生による藝大の構内ガイドツアー、勉強会の様子
構内ツアー中に藝大美術館前の「大シイノキ」のメンテナンスに遭遇。
樹齢は600~800歳であろうと定説を上回る説明を担当者から受ける。
私は、とびラーに応募したときに、自分を表すキーワードとして「木・建築」と書きました。私の2人の祖父が木工屋、木材屋で工場がとなり合わせの住環境で育ったせいか、樹木や建てものが自然と好きになり私の興味の中心になっていました。自分の「好き」や「知りたい」が思いもよらない形で今回の活動につながっていったことに、自分自身驚きましたが、運命を感じざるを得ない気持ちです。そして、とびラー任期満了後に、おもいのある場所を活動の拠り所にできることは、立ち上げから1年間で31回のミーティングを重ねた “とびラボ”で一緒に考え寄りそってくれた仲間たち、見守ってくれたプロジェクトスタッフ、君塚先生はじめ「藝大の森」お世話隊ボランティアのみなさん、すべての方の気持ちがつながりみちびかれていったと思います。
上野の森を見続けてきた約600歳の大樹、木々の中に佇む歴史的建造物の風景…それを守ってきた先人の想いをつなぎ、人々に届ける私たちの活動は、これからもつづきます。
染谷 都(12期とびラー)
ラジオ番組制作ディレクター。藝大の森お世話隊ボランティアで活動中。好きなことは散歩と旅と打楽器。とびラーになって美術館によく行くようになり、作品<空間=「場」に興味があることを再認識。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。
2026.03.27
<美術館の来館者の声をとどけるラジオ>
2023年7月からメンバー、形を変えながらとびラボとして活動している「とびdeラヂオぶ〜☆」。今年度は、『アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること 「Museum Startあいうえの」12年と現在地』(以下:AC展)の展示室の一角に即席ラジオブースを構えて、来館者にインタビューを実施しました。収録の様子はこちらからご覧いただけます。「みること、つくること、つながることラジオ」(収録編)。美術館にあまり来ない人にも美術館の良さを知ってもらいたい!来館者のアートにまつわる素敵なエピソードをシェアしたい!という想いからスタートしました。
<試聴&編集の日々>
2日間にわたっておこなった収録もあっという間に終わりいよいよ編集作業です。
まずは、録音した19組のインタビューを手分けして試聴しました。その中から7つのインタビューをセレクト。編集作業を分担する中で、メンバーの1人が音声編集の経験がありiMovieでの編集が簡単にできるとのことで、編集レクチャー会を開催。その後、各自編集したものをみんなで聴いて、さらに細かい編集を重ね、インタビューの間に入れるナレーションを考えていきました。
*編集のレクチャー中。
*いらない言葉をカットします。
<初めての音声編集>
ラボメンバーによる編集講座を受けた後、まずは練習を兼ねて使用したい素材を切り出すことからはじめました。AC展のテーマ「みること」「つくること」「つながること」に沿った素敵な言葉をピックアップするのはもちろんのこと、「えーっと」「あのー」などのフィラー(つなぎ言葉)もカットし、リスナーが心地よく聞くことができるように整えていきます。
次は、7本のインタビューの制作担当を決め、収録した音声を番組になるよう編集します。ナレーションが入ることを意識して内容ごとに区切っていきます。各自、仕事ととびラー活動をしながら編集作業をしていたので、なかなか個人での作業が進まない時期もありましたが(笑)、そんな時には、とびラボで集まり、みんなで作業を進めました。
*各自パソコンで編集中。
<編集素材を聞いてナレーション制作&録音の日々>
編集がひと通り終わった後は各番組のナレーション担当を決めて、内容に相応しいナレーションの文章を考える工程に入ります。
インタビューの概要を伝える前枠、前半と後半に分かれる場合はそれを繋ぐための中枠、内容を総括する後枠をそれぞれ考えました。
自分が素材の編集を担当したものに関しては、思い入れが強すぎて内容に比して世界観が強すぎる概要文が出来上がったこともありました(笑)
ラボメンバーからの「力みすぎだ!」というツッコミのおかげで、硬くなり過ぎずフラットなナレーションになったのではないかと思います。そのほかの素材についても、メンバー全員で、ああでもないこうでもないと言いながら相応しい文章になるように推敲を重ねました。
ナレーションの文章が完成した後は録音します。ただ読み上げるだけだと、たかを括って録音を始めたのですが、家で何回も噛んでは読み返し、噛んでは読み返しを繰り返す羽目に。最終的にはイントネーションが訛っていたこともあり、アートスタディルームで再録し、やっとナレーションの録音が完了しました。
(噛まずに当たり前に話すテレビの中のアナウンサーってすごいんだなぁと改めて感じました。やっぱりプロはさすがですね)
*編集をするたびに何度も同じインタビュー素材を聴いて確認します。
<完成した番組の紹介テキストを考える>
編集済みのインタビュー素材に、ジングル、BGMとナレーションが入ると、それまで、幾度となく聞いてきたインタビューの音源が、一気に「番組」の風格を漂わせるので、皆でニンマリ。こうして完成した7つの番組の「タイトル」をつけるべく、それぞれにふさわしい言葉出しをしていきます。
アイディアを出し合うことで、ピタッとハマる瞬間に出会うことができます。それぞれが担当した番組の紹介文を作成し、ハッシュタグをつけました。それをラボメンバーで確認し、違和感ないように調整します。
*2025年版のジングルを制作したメンバーと試聴会。
*とびラボで賑やかな中、スマホで流すインタビュー素材をへばりつき聴く。
<番組制作をしてみて>
完成した番組には、ラボメンバーの想いがぎゅうぎゅうにつまっています!なので、これを読んだ方にもぜひ聞いていただきたいです。ただし、番組はラジオ部の活動のほんの「一部」にすぎないということをここではあえてお伝えしたいです。番組のテーマ/ジングルのギター演奏でのオリジナル音源制作、公開収録のポップの作成、インタビュー承諾書の英文作成etc…など、制作段階にたどりつくまでの縁の下の力もちもたくさんいました!
制作の過程において、各自の担当があるとはいえ、メンバー同士、たくさん語り合い、助け合って、考え抜いて番組を作り上げてきました。その過程こそがこのラボの宝であり、最大の魅力でもあるのです。
<とびdeラヂオぶ〜☆をやってみて…>ラジオ番組制作が仕事のメンバーが立ち上げたとびラボでしたが、集まった全員が制作初心者からのスタート。届けたい気持ちと、みんなのチャレンジ精神がとびラボとして3年間続けていく原動力でした。美術館でのあたたかいコミュニケーションの場から生まれた様々な背景の人の声をきいて、「美術館おもしろそう!」「行ってみようかな?」とアートコミュニケーションの裾野が広がるきっかけの1つになっていくことを願います。
▼番組はコチラから聞くことができます
執筆:矢吹美樹(12期とびラー)
日々の暮らしや学びのなかで、ふとした瞬間のきらめきや、「ことば」がもつ力に惹かれています。 一人ひとりの「ちいさな発見」や「その人らしさ」が自然にあらわれるような、温かな場づくりを大切にしていきたいです。
執筆:藤井孝弘
とびラー14期。普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。
執筆/構成:染谷 都(12期とびラー)
ラジオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。これからゼミ「上野の森と建築を考える」「『アートコミュニケータの建築鑑賞まちあるき』を考える」を実践中。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。
2026.03.21
とびラーは、東京都美術館の特別展や企画展に何回も足を運びます。それは、自分たち自身が展覧会をじっくりと鑑賞し、作品と出会うことを大切にしながら、プログラムの準備をしたり、とびラボの検討をするためです。一方で、公募展に訪れるのはつい自分の好みの展覧会に偏りがちなのではないかという思いがありました。「とびラーである私たち、いろいろな分野の扉を開けてみよう!」という思いのもとに始まったとびラボです。
そもそも公募棟で開催される展覧会には、どんな展覧会があるのでしょう。毎回、このとびラボに集まったとびラーで鑑賞に行く前には、「公募展カレンダー」を確認します。公募展とは、作品を広く一般から募集し、応募された作品や、審査を経た入選作品を展示する展覧会のことです。東京都美術館では、1年間に200を超える団体が公募展を開催します。東京都美術館が1926年に開館した頃から活動している歴史の古い団体から、新たに活動を始めたばかりの団体もあります。全国規模の大きな団体や小規模の市民団体の展覧会もあります。学校や教育団体の展覧会や美術大学・芸術大学の卒業製作展もあります。分野も、絵画だけでなく、工芸、書、手芸、写真、盆栽、生け花など多岐にわたります。
しかし、とびラーの中でも、「一人で入るには勇気がいる」「知らない表現分野の展示が多いので、展示を見に行くきっかけが欲しい」という声もありました。そこで、とびラボとしてみんなで鑑賞しに行きましょう!というのがレッツ!コウ!ボトーです。2025年4月から2026年3月までの1年間活動を行いました。多くのとびラーが参加できるように、1か月の中で平日1回、土日1回の2度の活動日を設け、毎回5、6人で鑑賞をしてきました。
初めてみんなで訪れたのは、モダンアートを作品のテーマにしている展覧会でした。展示室には大きな作品が並んでいました。その次に訪れたパステル画の展覧会会場では、小さめの作品が並んでいました。2つの公募展に行ったことで、展覧会によって作品の大きさにも違いがあることに気付くことが出来ました。
公募展に出品される作品の多くには、詳細な解説文などはありません。その為、「これは油彩なのかパステル画なのか」など素材を考えたり、「この作品から作者は何を伝えたいのだろうか」など想像したり、作品をじっくりと鑑賞するとびラーの姿がありました。
何回か活動していると想定外の嬉しい出来事が起きてきました。それは、作家さんとの出会いです。展示室内では作品を鑑賞するだけでなく、作家さんから作品についてお話を伺う時があるのです。とても興味深い時間です。
書の公募展を鑑賞しているときのことでした。その日参加したとびラーには書道の経験者が居なかったため、鑑賞のポイントが分かりません。展示室には、作家の方が在室していることがあるのですが、たまたまそこにいらした方が、私たちの為に書について詳しく解説をしてくださったのです。墨の濃淡の意味や、題材の選び方、筆運びの難しさなど、お聞きする話は初めて聞くことばかりなので、みんなとても感心していました。
また、和紙絵画展で出会った作家の方は、お弟子さんとの活動の楽しさをお話してくださいました。和紙をどのように重ねるか、遠近感の表現が難しいことを教えてくださいました。
漆の公募展では、漆工芸歴60年という作家の方からレクチャーを受けました。
いずれも、とにかく作家の皆さんのお話がとても興味深く、参加したとびラーは濃厚な鑑賞時間を持つことが出来ました。公募展に行ってみることには、作品との出会いがあるだけではないのです。人とも出会える魅力を持っています。
もうひとつ、作品以外に私たちが感心したことに、活動内で出会った作家の方に80代半ばの方が何人もいらしたことです。姿勢も良く、外見ではそれほど高齢とは思えません。お話もしっかりされとても健康的でした。遠方のご自宅から東京都美術館までいらして、一日展示室で過ごし、仲間と話し、半年先の次回の展覧会の予定も決まっていて制作意欲も持たれています。そのお姿に、私たちはアートの力を感じたのです。
とびラボ活動をした際には、活動内容をとびラーのみんなに報告をします。すると、嬉しいコメントが入るようになりました。それは、「活動報告を読んでその公募展に行ってみました!」といった内容のものでした。また「一人でも公募展に入りやすくなった」「面白かったから次の機会にも行ってみようと思います」という話も聞きました。
公募展に行くことは、新しい分野の作品に出会い、その後の鑑賞活動の幅を広げる効果もあるようです。
レッツ!コウ!ボトー 皆さん一緒に レッツ GO!公募棟!
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2026.03.15

集大成ともいえる団体作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》より
みなさんは、「コスプレ」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?わたしたちが取り組んでいる「アートコスプレラボ」では、絵画や彫刻などの作品を、自分たちの身体を使って、再現することをめざしています。再現にあたっては、作品に登場する人物のあり方や気配まで含めて表現しようとします。
多様な来館者と様々な作品を鑑賞する経験を重ねてきたとびラー(アート・コミュニケータ)が、その視点を活かし作品を鑑賞し、制作します。
ここからは、コスプレラボの過程をご紹介します。
①作品選び
②どんな風にコスプレするか熟考する
③制作
④撮影
①作品選び
まず、どの作品をアートコスプレするかについては、各とびラーの感性で自由に選択します。多くの人が目にしたであろう「名画」シリーズにこだわるとびラーや、東京都美術館で開催された展覧会の作品にこだわるとびラーなどそれぞれが、なぜその作品を選んだのかをミーティングで他のとびラーに話します。また、各自で選ぶ作品とは別に、複数のとびラーで一つの作品をつくることも考えていきます。
②研究
作品に向き合い、作品をじっくり見ます。色や形、質感や感触、時代、季節や気温、光や風の強弱、匂い、作家や登場する人物の気持ち、前後のストーリーまで推測します。図録やwebなどで作品の背景も研究します。自分たちなりの解釈に正解はなく、自分たちがその作品をどうキャッチしたかを大事にします。鑑賞する際の自分の受け止め方によって、その人らしいアートコスプレの表現につながっていくのです。
③制作
鑑賞してキャッチしたものをカタチにしていきます。最も楽しく、悩ましい過程です。制作に使う素材選びでは、100円ショップや布屋や古着屋などに何度も通います。制作にあたっては、どのようにカタチにしたらよいか迷いながら作っていきます。撮影までの間、とびラボで中間発表をしたり、お互いにお悩みを相談します。とびラボに参加するとびラーの発想力で、お互いの自宅に眠っている材料も使って制作をしていきます。。
クイズ:この素材は何でしょうか?
正解は、「羊毛フェルト」!完成度の高さにとびラーもびっくり!
④撮影
撮影は、制作したものを着用してすぐに写真を撮るわけではありません。この段階でもまた、作品をじっくりと見るのです。たとえば、作品の中の人物の上半身と下半身のプロポーションが現実ではありえないようなバランスだったり、頭を傾けるにも左右の角度だけでなく前後の角度も大事で、さらに捻りが入っていたりします。
これは、「作品をじっくりみる」だけでは気づけないことで、実際に身体をつかってみることで、はじめてわかるバランスや違和感があります。コスプレしている本人だけでなく、周囲のとびラーが「もっと左をむいて」「からだは正面だけど顔は右に!もっとうつむいて!」など的確な指示をだすことによって、より作品に近づけます。撮影の場では、とびラーのものすごいエネルギーが流れていて、みんな汗だくに!実際に演じてみてこそわかる不自然ともいえる体勢での撮影翌日には、筋肉痛になること間違いなしです!(笑)
たくさんの視点により入念にチェック。
撮影が長引くと、背景も持つ腕もプルプル・・・
【アートコスプレギャラリー(抜粋)】
実際に身体を使って再現してみると、作品を見ているだけでは気づかなかったことが次々に現れてきます。作家が何を表現したかったのか、どんな気持ちだったのか、じっくりみることで思いを馳せ、ひとりでつくる。そして、とびラー同士の別の角度からの視点と熱量があわさって、みんなでよりよくするための意見を出し合い、撮影して完成させる。コスプレーヤーとディレクターの相互作用で「アートコスプレ」となるのです。
アートコスプレは、カラダをつかった「模写」とも言えるかもしれません。
アートコスプレラボを実施する場に満ちている充実感や達成感は、内省的な創作活動だけでなく、とびラー同士の共同創作の成果だと思います。
ひとりでつくる楽しさもありますが、みんなでつくりあげる過程を楽しみたい、そう思えるとびラボでした。また、アートコスプレという方法を通して、新しい鑑賞のとびらが開かれたように感じています。

飛び入り参加のとびラーも加わり、いろんな個性が集合したひまわり。
執筆者:12期とびラー 笹村曜子
そこに居る人が、「来て良かった、ここにいていいんだ。」と感じられる場づくりをしたいです。
執筆者:12期とびラー 矢吹美樹
日々の暮らしや学びのなかで、ふとした瞬間のきらめきや、「ことば」がもつ力に惹かれています。一人ひとりの「ちいさな発見」や「その人らしさ」が自然にあらわれるような、温かな場づくりを大切にしていきたいです。
2026.03.14
この「これからゼミ」では、アート・コミュニケータならではの視点で、街なかの建築を鑑賞。みんなで歩いて、みんなで見る建築鑑賞ツアープランを考えました。
とびラーは、建築実践講座(※)で学んだり、建築ツアーガイドを経験したりするうちに、「建築沼」にはまってしまう人が少なくありません。建築の魅力に取り憑かれたとびラーたちは、常日頃から誘い合って、街なかの名建築を見にいっています。
そして私は、気づいてしまいました。一人で見るよりも、みんなで対話しながらのほうが、何倍も楽しく、鑑賞の「解像度」がぐぐっと高まることを。
もしかすると、アート・コミュニケータとしての視点が、建築鑑賞にも生きているのかもしれない……。だとしたら、私たちの建築鑑賞まちあるきは巷の建築ツアーとは一味違うものであるはず。
そんな仮説を立て、任期満了後の活動を見据えた「これからゼミ」として、「アート・コミュニケータの建築鑑賞まちあるき」の可能性を考えてみることにしました。
※建築実践講座:東京都美術館の建築の歴史や背景を理解し、自分の感覚を手掛かりに建築を味わう力を身につけ、美術館というパブリックな建築を介して人々をつなぐ場をデザインする」ことを目的に、とびラーに向けて毎年開催されている講座。
キックオフミーティングは、
#アートコミュニケータ
#建築
#鑑賞
#まちあるき
というモリモリのキーワードに惹かれた9人のとびラーが集結。
と、大風呂敷を広げてざっくばらんに話し合いました。
まずは実践。さっそくみんなで街に出てみることにしました。行き先は、前川國男のファンなら一度は訪れたい「国際文化会館」がある六本木エリアです。各自が気になる建築をリサーチして、記念すべき最初のツアーが完成しました。教会建築から、昭和初期のアパートメント、愛すべきモダニズム建築……と時代を超えて、大都会六本木の心意気を感じられる贅沢なラインナップに。
テーマ:
六本木の名建築を歩く
ルート:
▶︎神谷町駅
▶︎聖オルバン教会・聖アンデレ教会
▶︎ノアビル
▶︎和朗フラット
▶︎AXISビル
▶︎国際文化会館(お茶)
▶︎全日本海員組合本部会館
(国際文化会館以外は、外観をじっくり見学)
ツアー気分を盛り上げるため、しおりを作成。鑑賞する建築ごとに「自分が注目したいポイント」を記入する欄をつくり、見る準備を整えて当日を迎えました。
当日は10人のメンバーが参加し、六本木の名建築を心ゆくまで鑑賞しました。面白かったのは、コースに組み込んでいなくても、気になる建物があれば立ち止まり、みんなで鑑賞が始まってしまうこと。いっときも対話が途切れることなく、あっという間の3時間でした。
後日実施したふりかえりミーティングでは、「建築鑑賞まちあるき」の意義についてさらに深い発見がありました。
「いろいろな時代の建築を通して街の歴史を感じたり、地形を体感したりして、街の全体像を知ることができた」という手応えに加え、メンバーからはこんな意見も。
「地域の人に話を伺ったら、もっと面白くなるはず」
「ツアーをつくること自体が、ひとつのコミュニケーションだね」
「人がいてこそ、まち」。
単なる見学ツアーを超えて、「コミュニケーションの場づくり」としてのツアーという、私たちの目指す方向性がはっきりと見えてきた気がします。
次のゼミでは、各自ツアープランを作成して、みんなに発表しました。メンバーの「好き」が詰まったツアーの数々に「こんな建築があるとは!」「早く行きたい!」と盛り上がり、あっという間に時間が過ぎました。
みんなが考えたツアー案のほんの一例
・馬車道・日本大通り レトロ・モダニズム建築さんぽ
・白金・高輪名建築さんぽ〜ゴシックからクマケンゴ〜
・上野の山を下って、東上野〜浅草下町さんぽ
・日本橋界隈ツアー
・山形市内 みどころ建築満載涙ものツアー
・北区王子周辺の文化財を歩く
・文京区本郷界隈ツアー
実際にツアープランを作ってみると、時間配分やトイレ休憩の確保など、実践的な課題も見えてきました。検討すべきことがたくさん! 誰もが安心して参加できるツアーを作るのは、そう簡単ではありません。
そうこうするうちに、開扉(3年の任期が満了すること)が迫ってきたので、開扉後に自主的に活動を続けていくための任意団体を作りました。
その名も「まちと建築 みるみる隊」。
目的は、まちあるきと建築鑑賞を通したコミュニケーションの場を通じて、人と人、人と建築、人とまちをつなげること。対話を通して、「まちと建築」をよ〜くみて、その魅力を多くの人と共有したい。そして、まちが受け継いできた文化や名建築を次世代に引き継ぐ一助になれたらと考えています。
まずは、メンバー内でまちあるきと建築鑑賞を実践しながら、自分たちの考えや思いを言語化、研究することからスタート。私たちのペースでじっくりと「まちと建築」に向き合っていきます。
編集制作会社で働いています。名建築に身を置き、建築家の思いを知ることに夢中。とびらプロジェクトで学んだことを生かして、身近な場所にみんなが居心地の良い場所をつくることを目指しています。