2025.08.31
絵本でコミュニケーションをとると聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのは「読み聞かせ」ではないでしょうか。また一方で、絵本の原画展が人気を集めるなど、絵本は「アート」としても多くの人に親しまれています。
私たちとびラーは、アートを介して人と人とのコミュニケーションを生み出すアート・コミュニケータです。では、絵本をアートとして捉えたとき、どのようなコミュニケーションが生まれるのでしょうか。そんな問いから、この絵本のとびラボは始まりました。活動期間は、2025年1月から8月まで。年度をまたいだ長期の活動となりました。
参加したとびラーの中に、普段読み聞かせ活動を行っているとびラーがいたので、まずは絵本を読んでもらうことにしました。大人である私たちが「読む側」ではなく、「聞かせてもらう側」になるのは久しぶりの体験です。みんなが耳を澄ませて聞き入っている様子がとても印象的でした。人の声の心地よさも、改めて感じる時間となりました。
私たちはまず、絵本でコミュニケーションを生む方法について、アイデアを出し合うことにしました。例えば、文字のない絵本を鑑賞してみる・絵本から想像する音を作ってみる・アニマシオン(読書に親しむためのゲーム)を取り入れてみるなど、さまざまなアイデアが出ました。
いくつかのアイデアの中で「リレー方式でページをつないでいく方法」が紹介されました。さっそく実践してみることに。絵本の1ページごとに言葉を考え、次の人へバトンタッチしていきます。自分にどのページが回ってくるのか分からないため、その場で言葉を考える面白さもありました。「ワークショップの前のアイスブレイクとして使えるかもしれない」という感想も出ましたが、同時に「まだアートの要素が少し足りないかもしれない」という声もありました。
とびラーは、「対話型鑑賞」という、複数の人が意見を交わしながらともに作品を鑑賞することを活かして活動しています。そこで「絵本をアートとして捉えるなら、絵本でも『対話型鑑賞』ができるのではないか?」という案が出ました。しかし同時に「1ページの絵だけを鑑賞しても、それは絵本を『鑑賞する』こととは違うのではないか」という疑問も出てきました。
疑問が残る中でしたが、私たちは「絵本で対話型鑑賞を行い、コミュニケーションを生み出す」という試みを実践することにしました。考えているばかりではなく、実践してみないと分からないことがあるからです。
まずは作品選びです。「みんながよく知っている物語では、絵を見るときに固定観念が働き、感想も既に知っている物語から連想してしまうのではないか」という意見が出ました。対話型鑑賞では、鑑賞者の主観的な見方を大事にしつつ、作品をクリティカルに読み解いていき、感じたことを自由に話しながら鑑賞を深めていきます。
そこで「出版されたばかりの絵本なら、みんな初見で鑑賞できるのではないか」という考えから、あるとびラーが一冊の絵本を持ってきてくれました。
『ピンクのカラス』(文:松本千登世 画:牧かほり出版元:BOOK212)
初めに表紙を使って対話型鑑賞を行います。
以下のような対話がありました。
「ピンクのカラスが誇らしげに見える。目に生命力や生き生きとした感じを受ける。」
「カラスの身体にピンクだけでなく赤色も入っている」
「それは、どんな印象?」
「どこかで戦ってきたのかも」
「ここはどこなのか。時間は早朝なのかな。背景に街が見えるけど、カラスや虫たちと距離を感じる。」
「それは、この絵のどの辺りから?」
「自転車も止まっていて、信号に色が無いから。街には動きを感じない」
「ビルの隙間にクローバーが生えている。」
「どんな感じを受けますか?」
「生き物はカラスや虫だけでなく、植物も生き物の仲間という感じ。」
対話型鑑賞が終わったあとで、読み聞かせを行いました。「じっくり絵を見ていたので、物語の世界に入りやすかった」という感想がある一方、「答え合わせのようになってしまう」という意見もありました。
また、違った取り組みとして、アメリカで行われているダイアロジック・リーディングという方法も試してみました。読み手から聞き手への一方向の読み聞かせではなく、読み手と聞き手が絵本に書かれている内容について、やり取りをしながら読み進める方法です。いずれも読み手と聞き手との間にコミュニケーションを図ることができました。
絵本の表紙を対話型鑑賞したり、絵本の中の1ページの絵について対話型鑑賞する方法などさまざまな方法を実践し、私たちはあることに気づきました。
どうやら絵本には、
・対話型鑑賞をしてから読み聞かせをするのに向いている絵本
・読み聞かせをしてから対話型鑑賞をするのに向いている絵本
の両方があるのではないか、ということです。
そこからは、対話型鑑賞に適した絵本探しも始まりました。ミーティングのたびに試行錯誤を重ね、最終的に導き出した方法をとびラー向けのワークショップで紹介することになりました。
ワークショップでは、「対話型鑑賞をしてから読み聞かせ」、「読み聞かせをしてから対話型鑑賞」という順番の組み合わせで2冊の絵本をとりあげました。
開催中はいずれのグループでも活発に発言がありました。大人に読み聞かせを行った場合、湧き上がった思いを言語化し他者にそれを聞いてもらいたいという気持ちが強いようです。
ワークショップに参加したとびラーからの感想はいずれもポジティブなものでした。対話型鑑賞をしてから読み聞かせを体験した時には、「どんなストーリーなのかワクワク感が高まった。」「絵本の世界観にすぐ入ることが出来た。」といった感想が聞かれました。絵本の内容に期待感を膨らませている様子が分かりました。
読み聞かせをしてから対話型鑑賞を体験した時には、「絵からイメージが広がった。」「読み聞かせの声により絵に対する季節感も感じた。」といった感想がありました。
単に描かれている絵を表面的に見ているのではなく、絵の描かれている背景まで見ているようでした。

ワークショップを終えて、私たちは絵本とアート、そしてコミュニケーションの関係について、いくつかの考えをまとめることができました。
・大人に対する読み聞かせでは、感想を誰かに伝えたいという気持ちが生まれやすく、伝え合うことでその場にコミュニケーションが生まれる。
・先に対話型鑑賞を行うことで、先入観なく絵を鑑賞できる。それは思考のトレーニングにもなり、ストーリーに入っていく準備運動にもなる。
・読み聞かせの後に対話型鑑賞を行う場合、読み聞かせの声の印象やページの前後関係が鑑賞に影響し、鑑賞自体がより深まる可能性がある。
このようにまとめてみたものの、まだまだ疑問が残っています。
今回のラボでは、たくさんのアイデアが生まれました。そして、それをとにかく実践してみることを積み重ねてきました。試してみたからこそ気づいたことがたくさんありました。が、すべてが明確になったわけではありません。でも、それでいいのではないか。また新しいアイデアが浮かんだら「絵本のとびラボ」を「この指とまれ」して始めましょう。そう確認し合い、8カ月に及ぶとびラボ活動はひと区切りとなりました。
さまざまな角度から絵本にアプローチし、絵本の可能性を改めて感じることができた絵本とアートとコミュニケーションラボでした。
とびラー12期 猪狩麻里子
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2025.08.24
第2回建築実践講座|「建築ツアーをやってみよう」
日時|2025年8月23日(土) 14:00〜17:00
会場|東京都美術館 ASR・スタジオ
第2回 建築実践講座では、とびラーがそれぞれ「建築ツアーを考えて、やってみる」をテーマに行いました。
第1回の建築実践講座内容(都美の建物と歴史)をふりかえり、建築ツアーの写真を用いて参加者ととびラーの間でどのような会話をしているのか、どのように来館者をお迎えしているかについて一緒に考えました。

その後は「15分間のMY建築ツアーをつくろう!」ということで、とびラーそれぞれがツアープランを考えました。
東京都美術館パンフレットやトビカンみどころMAP、館内にある資料から読み解くだけではなく、実際に館内を巡り、一人ひとりが感じる「ここが好き!」「気になる!」をみつけてツアーを組み立てていきました。
それぞれがツアーを考えたあとは、3人組になって交代でツアーを実施しました。
ツアー後はやってみた感想や思ったことをシェアし、ツアーの構成や伝えたいことが伝わったのかについて考えました。
「とびラーによる建築ツアー」は決まったコースはなく、ガイド役のとびラーによって紹介するスポットはさまざまです。
ガイドによって内容が変わり、参加するたびに新たな発見があるツアーです。
今回の講座の学びが建築ツアーに活かされたらいいなと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)
2025.08.10
<美術館ラジオをやりたい!>
2023年7月からメンバー、形を変えながらとびラボとして活動している「とびdeラヂオぶ〜☆」(以下:ラヂオぶ)。このネーミングは、東京都美術館(以下:都美)のラジオ部!として音声コンテンツを届けたい!という気持ちと、Museum Startあいうえのでお馴染みの、上野公園の9つの文化施設の頭文字を合わせた呪文「ビビハドトカダブ」をちょっとだけもじったというもの!1年目はとびらプロジェクトのスタッフやとびラーのインタビュー番組を作り、自分たちのコミュニケーションを活発にするツールとして楽しみました。
*お決まりポーズ、ラヂオぶの「ラ!」
やりたいことの1つだったのがTV番組「病院ラジオ」の美術館版、来館者の声を届ける「美術館ラジオ」でした。それに近いことができたのが2024年度に制作した番組「ずっとアートと生きていくラヂオ」。
そして今年度は、『アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること 「Museum Start あいうえの」12年と現在地』(以下:AC展)の展示室の一角に、即席ラジオブースを構えて、来館者のインタビュー収録をして制作した「みること、つくること、つながることラヂオ」。我々が軸にしてきた「美術館にあまりこない人にも美術館の良さを知ってもらいたい!来館者のアートにまつわる素敵なエピソードをシェアしたい!」という想いから、より拡散可能なポッドキャストへの音声公開をイメージしながらスタートしました。
*収録テスト中。奥にいる3人はわざと会話したりノイズを出したり。
<待望のマイクがきた!>
前回はボイスレコーダーをテーブルに置いて収録しましたが、周囲の音が入ってしまい聞き取りづらい部分があったことが課題でした。そこで、今回は新しいマイクを使って、参加者の声がしっかりと収録できるようにしました。事前の動作チェックでは、マイクの指向性を変えながら周囲の音がどれだけ入って来るのか確認しました。ちょっとレトロなフォルムのマイクにワクワクしながらのテスト収録でした。
<AC展の会場でインタビュー>
AC展では、3組の作家(森友紀恵、三輪途道、がかのか族(幸田千依と加茂昂とその息子)の作品が展示されており、後半のスペースには、私たちが参加するアート・コミュニケーション事業「とびらプロジェクト」や「Museum Start あいうえの」の歩みを知ることができる資料や映像も公開されていました。
8月9日・10日の2日間で展覧会の出口付近の机に、マイクとPOPを設置したブースをつくりインタビューを実施しました。
帰り際に興味を持ってくれた方や、作品や資料を鑑賞中に声がけをして、承諾してくれた方々の生の声を、ラヂオぶのブースにて収録しました。
インタビューの収録は基本的に、メインインタビュアー1人とメモ係1人の2人体制で臨みました。話が白熱して、テーブルのそばで聞いていた人から過去の展示内容について質問が飛んでくることもあり、スタッフがその場に加わって話してくれることもありました。
インタビューでは友人や、親子、一人で訪れた方やITや教育関連のお仕事をされている方、リタイア世代の方など様々な背景の人と出会いました。
父親と来ていた5歳のこどもは、がかのか族の展示室の一角で描いた絵の話をしてくれました。描いた絵を美術館に展示することができたのに持って帰ることを選んだそうです。「どうして?」と聞くと「ママがまだ見てないから持って帰る〜」と、アートでつながる家族の様子をうかがうことができました。
<インタビューを行ってみた感想(藤井)>
よく上野公園に散歩に来るという中国人留学生のインタビューが印象的でした。物腰が柔らかい方でした。
聞くところによると前日にも都美に足を運んでいたそうです。
自分は繊細で友人があまり多くないが人と話すこと自体は好きで、美術館に来ると自分と同じ世界の人がいっぱいいる、と語ってくれました。
その後、別の日に偶然彼と都美であいさつを交わす機会がありました。日本という異国の地で自分が心地いい居場所、つながることを見つけたのかもしれないと感じました。
改めて、美術館という場所がもたらす効果・多種多様な人々を受け入れる裾野の広さについて考えることができました。
<インタビューを行ってみた感想(柴田)>
中途失明の方へのインタビューでは、これからもアート・コミュニケータとして活動していくうえで大切にしておきたいことに気づかされました。会場内でガイドさんととても熱心に会話を交わしながら作品をみている様子を見て、私たちは「話しかけないほうがいいのではないか」と、自分たちなりの判断をしてしまったのです。ところが感想を伺うと、男性は「何人かの話を聞くことで作品の解像度が上がるので、いろいろな人の話を聞いてから、みたかった」と話してくれました。アート・コミュニケータとして会場にいるからこそ、まずは声をかけ、コミュニケーションを始めてみること。その大切さを、あらためて教えてもらった出来事でした。
<インタビューをふりかえって(藤井)>
ラヂオぶの活動を通して、美術館に足を運ぶ人の多種多様さを肌で感じることができました。
こうして「多種多様」と言葉にするだけでは、こぼれ落ちてしまう個人個人の美術館への想いや過ごし方。そして、これまでの人生。そんな個別具体の生に対峙できたことが、何より貴重でやりがいに溢れる経験だったなと、ブログを書き振り返りながら、改めて思いました。
自分と同じ世界の仲間たちを見つけ足しげく美術館に通う人。記憶を辿りながら、ものを作ることが生きる力になると語る人。暮らしの中でスケッチすることが好きな人。娘を初めての美術館に連れて来たことを喜ぶ人。エンジニアにはアーティスト的な発想が必要だと力説する人。名前も知らない者同士が、ゆるやかにつながれる居場所づくりに取り組む人。など
あえて大袈裟にいうならば、
ラジオは、個々人の生き様や心の機微をこぼすことなくすくい上げ、映し出すことのできる、最も適したメディアの一つなのではないか、と感じました。
大きなメディアでは取り上げられにくく、またSNS上では声の大きな人の意見が先行しがちななかで、そうした声はなかなか見えてきません。
私たちが制作した音源も、そのような市民の「声」を届けるラジオ番組の一つとなれていることを、切に願っています!
<まとめ>
メンバーや形態を変えながら積み重ねてきたからこそたどり着いた「とびdeラヂオぶ〜☆@AC展2025」。実は、昨年から変化したことで、インタビューコーナーによい影響を与えたものがあります。冒頭でも紹介したように、新しく置き型のマイクを導入したことです。
これは質の良い音声を収録するためでしたが、マイクがあることで、2024年のAC展に比べて私たちが何をしているのかが伝わりやすくなり、来場者の方々も思いをより丁寧に話してくれたように感じます。
展示室の最後の一角に現れる“かたり場”は、ときに、たまたま居合わせた者同士が感想やアートへの思いを共有する場となり、ときに、自分の考えをアウトプットしたり整理したりする場にもなりました。また、一緒に来た人がどのように感じ、何を考えているのかを知るきっかけにもなっていました。
あるメンバーからは「収録をしなくても、こんな場が展示室の一角にあるっていいね」という声もあがりました。
AC展はラヂオぶにとって、来館した人たちととびラーが会場で直接コミュニケーションを交わすことができる場です。その中で生まれた思いや対話を“ラジオ”という音声コンテンツにのせて、来館したくてもできない・できなかった人や、アートには興味があっても美術館はハードルが高いと感じている人に向けて、会場の様子や訪れた人たちの感じ方を発信するのにぴったりな舞台となりました。
ぜひ「とびdeラヂオぶ〜☆@AC展2025」後編(ラジオ制作編)のブログもお楽しみください
執筆:藤井孝弘(とびラー14期)
普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。
人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。
執筆:柴田麻記(12期とびラー)
以前は、テレビ番組を制作していました。現在は、愉快な高校生と小学生と過ごす主婦。私のいちばん身近なコミュニティは家族です。とびラーで得た視点を日々の暮らしの中でこっそり使いながら実験中。実験範囲をじわりと広げているところです。
執筆/構成:染谷 都(12期とびラー)
ラヂオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。これからゼミ「上野の森と建築を考える」「『アートコミュニケータの建築鑑賞まちあるき』を考える」を実践中。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。
2025.08.01
日時 |2025年7月19日(土)
場所 |東京都美術館
参加者(事前申込)43名、とびラー21名
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日差しが強くなり、夏らしい天気の中で2025年度 第2回目の「とびラーによる建築ツアー」が実施されました。
館内だけでなく、中庭を歩いたりしながら東京都美術館を楽しみました。
この建築ツアーは、決まったコースはなく、それぞれのとびラーが考えたオリジナルのツアーです。