2026.02.04
私たちとびラーが主に活動している東京都美術館 交流棟にあるアートスタディールームには、カラフルで座り心地の良いイスがあります。また、本棚の前にあるイサム・ノグチのソファに座ると、自然とゆったりとした気分になり、お喋りに花が咲きます。
普段は気にせず使っているこれらのイスですが、実は東京都美術館内にはさまざまな種類の魅力的なイスがあるのではないか、改めてイスに注目して館内を巡ってみよう、というのが、とびラー同士で実施したこのとびラボです。平日午後の開催でしたが、17名のとびラーが集まりました。
イスについては、デザイナーの情報やどこのメーカーのものであるかなど基本的なこともとびラー同士で共有しました。その際、参考にしたのが「美術館でアートの本とすてきな家具に出会う」というリーフレットです。このリーフレットには、東京都美術館にあるイスについて紹介されています。
※「美術館でアートの本とすてきな家具に出会う」リーフレット
https://www.tobikan.jp/media/pdf/2022/guide_artlounge.pdf
しかし、それだけではありません。このとびラボでは、イスがどこに置かれているのか、そしてその場所にあるイスに実際に座ってみることで空間がどのように感じられるのかなど、イス単体に注目するのではなく、空間自体を捉えることを試みました。
1階の佐藤慶太郎記念アートラウンジにあるイプ・コフォード・ラーセンのイスや、フィン・ユールのイスは建築ツアーでも話題にするとびラーが多くいます。いつもは紹介する側ですが、今日は自分でしっかり座ってみよう、座ったら何が見えるだろうか、という思いで腰掛けてみました。すると、公園の緑がより近くに感じられる印象がありました。実際に座ってみることで視点の違いをリアルに感じることが出来たのです。
※佐藤慶太郎記念アートラウンジ
https://www.tobikan.jp/guide/artlounge.html
エスプラナード(美術館正門から建物内部へとつながる広場空間)に置かれている石のベンチについても、みんなで検証してみました。このベンチは、1975年の新館設立時から設置されているものです。これまで、たくさんの来館者を迎えてきたベンチです。エスプラナードのエスカレーター脇や企画棟の壁沿いにありますが、そこだけではなく、東門へ通じる階段の途中や屋外彫刻の最上壽之 《イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》と、小田襄 《円柱の領域》の近くにもあります。東門近くのこのベンチでは、彫刻を眺めたり、本を読んだりしてゆっくり過ごしている方を見かけます。あるとびラーが、東門近くは、企画棟の打ち込みタイルの壁や大きな銀杏の木などに囲まれ、特に落ち着いた空間になっているのではないかと気付きました。だから、のんびりと座っている人が多いのではないでしょうか。
東京都美術館のイスと言えば、ロビー階のホワイエや公募棟にある大きな窓のある休憩エリアに置かれている、赤・緑・黄・青の4色のイスが特徴的です。このイスは建築家・前川國男がデザインしたものです。
ホワイエで観察していたとびラーが、このイスが置かれている数の配置に規則性があることに気付きました。手前から、4個組5個組6個組になっていることに気付いたのです。よく観察したからこそ気付いた発見でした。
一方で、色の配置は常に決まっているのだろうか?座面の色の配置には何か理由があるのだろうか?という疑問も湧き上がりました。これは、今後の検証が必要そうです。
公募棟の休憩エリアにも同じ前川國男デザインのイスがあります。1階のイスに座ると外のエスプラナードを行きかう人々の流れや屋外彫刻に目が行きます。2階のイスに座ると広い青空に目が行きます。
同じ大きな窓でもイスの置かれている場所が違うことで、座る人の視線の動きに違いがあることに気付きました。前川國男は、こうした人の視線の動きも計算していたのでしょうか。みんなで感心しました。
とびラーから特に好評だったのは、美術資料室にあるナンナ・ディッツェルのイスでした。座ると包み込まれるような感覚になるという感想を持つ人が多くいました。いつまでも座っていたくなる、好きな展覧会の図録を眺めながら、ゆっくり過ごすことが出来るイスです。
※美術情報室
https://www.tobikan.jp/guide/artlibrary.html
私たちは、今回、イスに注目して館内を巡ったことにより、それぞれが東京都美術館の中で自分のお気に入りの場所を見つけることが出来ました。そして、なぜその場所が好きなのか、理由についても考えてみることになりました。
例えば、公募棟展示室の上野動物園側にある休憩エリアのイスがお気に入りのとびラーは、なぜそこがお気に入りなのか考えてみました。そうするとイスの座面の色がホワイエにあるイスとは違い、グレー系の色であることやその休憩室が貸し切りの個室のような空間で落ち着くのだと改めて腑に落ちたのです。
このとびラボは、この日一日だけの活動でしたが、館内の素敵なイスに詳しくなったことで、他のとびラーや友人たちにも是非伝えたいという声もあがりました。
私たちがもっとも美術館らしさを味わえるのではないかとお勧めするイスは、講堂前のイスです。座ると自然に視界に入るのが対面の壁に掛かる大きな作品、ジョゼフ=アントワーヌ・ベルナールのレリーフ《舞踏》です。一人静かに作品を眺めるという優雅な時間が味わえるお勧めのスポットです。
機会がありましたら、是非、みなさんも座ってみてはいかがでしょうか。
とびラー12期 猪狩麻里子
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2026.02.02
とびらプロジェクトで、
生まれるべくして生まれた企画
12月にしてはポカポカと暖かい小春日和、東京都美術館(以下、都美)で1日限定のスタンプラリー企画が開催されました。その名も「前川國男の名建築 都美のいいトコ 建築鑑賞スタンプラリー」。建築の見どころをモチーフにしたとびラーお手製のハンコで、スタンプラリーを楽しむイベントです。
前川國男の名建築 × スタンプラリー × ハンコはとびラーお手製
お腹いっぱいになりそうな内容ですが、実は、とびラーのこれまでの活動が積み重なって、必然的に生まれた企画でした。というのも………
❶「とびラーによる建築ツアー」から派生
都美では、前川國男が設計した名建築そのものも楽しんでいただくため、とびラーによる建築ツアーを実施しています。数人のグループ単位で館内のおすすめの場所をご案内するツアーですが、45分間のツアーが終わると「あっという間だった!」「もっと長くていいわ!」と、うれしい感想をいただくことが少なくありません。とびラーのほうも「もっとのんびり、心ゆくまで建築鑑賞をご一緒したい!」「一人ひとりのペースで楽しめる方法はないかな」と思っていました。
❷「消しゴムハンコ」にはまるとびラー
とびラーは「障害のある方のための特別鑑賞会」の招待状封筒を消しゴムハンコで飾る活動を続けています。回を重ねるごとに腕を上げて、消しゴムハンコの世界にはまっていく人が多いのです。
以上から、手作りハンコのスタンプラリーをツールとした建築鑑賞企画があってもいいのでは!と思いつき、「この指とまれ」をしたところ、仲間が集まりました。
初回のミーティングは、悪天候によりオンラインと
オフラインのハイブリッドで実施
スタンプラリーは人類の根源的な欲求を達成できる
最高のコミュニケーションツールだ!
キックオフミーティングでは、「都美のいいところを知ってほしい」「スタンプラリーが大好き」「都美のハンコを彫りたい」とそれぞれのとびラーが熱い想いを語り、スタンプラリーについて勉強。その上で、なぜ自分たちは、スタンプラリーを交えた建築鑑賞をしたいのかを言語化しました。
スタンプラリーの面白さを分析し、挙がったキーワードは以下です。
「収集」「達成感」「発見」「コミュニケーション」「冒険心」
つまり、スタンプラリーは、人類の根源的な欲求を達成できる、最高のコミュニケーションツールなのかも!と盛り上がりました。
さらに、これらのキーワードを都美の建築鑑賞スタンプラリーに当てはめると
「収集」 ▶︎自由に都美を回遊、長時間過ごす
「発見」 ▶︎都美の建築の魅力を知る
「達成感」 ▶︎成功体験により都美に愛着が湧く
「コミュニケーション」▶︎人と人(参加者ととびラー)もつながる
「冒険心」 ▶︎楽しい!ワクワク!
さらに、コミュニケーションツールにスタンプラリーを選ぶ必然性についても考えました。
⚫︎ 表現手段を手作りスタンプにすると、建築が身近に感じられる
⚫︎ 言語に頼らないコミュニケーションもできる
⚫︎「発見」の瞬間をたくさん提供できる
⚫︎ 子どもも大人も、誰でも楽しめる!
そして、メンバー全員で「都美でスタンプラリーをやりたいのだ!」と意思を固めたのでした。
企画にワクワク、懸念がムクムク
2回目のミーティングでは、さっそく具体的なプランを相談。ルールやスタンプシートのデザインなどのアイデアがポンポン飛び出し、ワクワクしながら、当日のイメージをカタチにしていきました。
アイデア出しを楽しむ一方、懸念点を洗い出し、対策も考えました。
⚫︎子どもたちが夢中になって館内を動き回って、安全性は担保できるのか
▶︎スタート地点でルールをしっかり説明。とびラーが見守る。
⚫︎スタンプインクで汚れるようなことはないか
▶︎とびラーがスタンプを押す。もしくはシールにする。
⚫︎当日の運営に、人員が必要!
▶︎とびラーを引き続き募集する!
その後のミーティングでは、とびらプロジェクトのスタッフから客観的な意見をもらいつつ、「参加者が殺到したら?」「雨が降ったら?」とあらゆる事態を想定し、運営体制を検討。同時並行でスタンプの制作と各ポイントでの参加者とのコミュニケーションの練習も進めました。
ここで新たな心配が発生。建築ツアーガイドの経験があるとびラーは参加者と建築鑑賞をすることに慣れているのですが、そうでないとびラーが、参加者とうまくコミュニケーションできるかどうか、不安を口にし始めたのです。そこで、ポイントごとに参加者に楽しんでいただける対話のネタを考えてシミュレーション。自信をつけるために経験を積み重ねました。
100人の参加者が名建築を堪能!
当日は、100人の参加者が、スタンプラリーと建築鑑賞を楽しみました。午前中は、SNSを見て「先着100名なので、早めに来ました!」と来られた建築ファンの方がちらほら。午後は、当日ふらっと参加した高校生や親子連れが多く、赤ちゃん連れや障害がある方にも参加していただきました。
「自分のペースでポイントをめぐれるのがいいですね」と、自由に回れるスタンプラリー形式にした狙い通りの反応も。「建築に興味はなかったけれど、新たな視点が得られてよかった」というご意見もあり、名建築としての都美のファンを増やすことに寄与できたと思います。そして何を隠そう、誰よりも、参加者が都美の魅力を発見していく、その場や時間を楽しんでいたのは、とびラーたちだったかもしれません。
みんなでつくった手作りのスタンプシートはこちら!
「消しゴムハンコを押したシール」を貼るスタイルになりました。
職人がコンクリートに施した凸凹(はつり加工)の
柱表面を触って鑑賞
高校生も親子も、都美建築の特徴である
壁面の「打ち込みタイル」を鑑賞
今回が初めての試みだったため、とびラーは「本当に参加者が来てくれるのかな……」「楽しんでくれるかな」と心配していました。しかし、スタンプラリーと名建築を愛する情熱、そして、持ち前の臨機応変なコミュニケーション力で、当日は底力を発揮することがました。最後は、参加者のみなさんも、とびラーもみんなが笑顔で終われて本当によかったと思います。
13人で始めたとびラボも、当日はこんなにたくさんのとびラーで
来館者を迎えました!
編集制作会社で働いています。名建築に身を置き、建築家の思いを知ることに夢中。とびらプロジェクトで学んだことを生かし、身近な場所にみんなが居心地の良い場所をつくることを目指しています。