2026.02.22
<触図(しょくず)とは>
まずここでいう触図ですが、手指で触って作品の構図や形を理解するための図です。点、線、面などの要素が凹凸で表現され、触感によって絵の情報を捉えることができます。鑑賞の際は、サポートする人が、見えない・見えにくい方に、作品の視覚情報を伝えながら使用します。
東京都美術館では、2024年の「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」より、すべての特別展で、展示作品の中から2〜3点の作品の触図を制作しています。この触図は、展覧会の会期中、触図を必要とされる方にご利用いただいています。
<触図ラボ、キックオフ!>
13期とびラーの山本さん(全盲)と活動中の2025年3月末、特別展「ミロ展」展示作品の触図を山本さんがテストで触る機会に立会いました。
そのテストの場で、山本さんが
「線が多いとモチーフがわかりづらい…。」と感想を言いました。
この時のミロ作品の触図では、
・赤色の部分:ドット柄
・黒色の部分:斜線
など、別々の触感を使って色の違いがわかるようにすることが試みられていました。
ただそうすることで、手に触れる要素が増え、山本さんにとっては逆に、作品に描かれているモチーフそのものの形状が分かりづらいと感じることがわかりました。
その触図を用いた鑑賞の様子に、そこにいたとびラーはとても興味を持ちました。
そして、この触図が5月に実施する『障害のある方のための特別鑑賞会(以下:特別鑑賞会):「ミロ展」』で活用されることを聞きました。見えない・見えにくい方がより作品鑑賞を楽しめるように、私たちが伴走をしたい、そのためにどう触図を利用していくかをみんなで考えたい、という思いで、4月上旬に「触図ラボ@特別鑑賞会」のとびラボを立ち上げました。
今回は主に以下のことについて試しました。
<「障害のある方のための特別鑑賞会」@ミロ展での活動>
▽実施日:2025年5⽉26⽇
▽展覧会:ミロ展
▽とびラボ活動期間:2025年4月7日〜6月7日 計10回実施
<対話鑑賞と触図鑑賞…どちらが先?>
山本さんの体験談に耳を傾けながら、触図で構図を理解するだけでなく、より深い作品鑑賞まで行きつくためには、どう触図を活用したらよいかを話しあいました。
その中で、下記のような鑑賞サポートのヒントが見えてきました。
・ゆっくり時間をかけてみんなで作品をみて対話をすることで理解が深まりやすい(人によって捉え方が違う=情報が増える)
・対話での鑑賞を先にするのが良いか、触図に触れるのを先にするのが良いかは、作品の性質によって変わる
・触図を触っている最中に、作品説明を聞くのは難しい
鑑賞方法の順序として、見える人は「森→木」、
そして見えない人は「木→森」なのでは?というキーワードが出てきました。
・森→木:見える人はまず作品の全体を見てから気になるところを細かく見ていける。
・木→森:見えない人はまず作品の部分的なものを知ることから始まり、それを集めて全体の作品のイメージを作り上げる。
見えない・見えにくい方全員が、同じ状況ではありませんが、基本の考え方の1つになりました。
<鑑賞を楽しんでもらうための工夫>
ある日のミーティングでは、とびラーが持参した、さわる絵本や、触知図印刷(特殊インキで凹凸を表現した印刷)を用いた冊子を、触ったり見たりして「さわって鑑賞する」ことを体験してみました。
ミロ展の触図は、2作品あります。特別鑑賞会当日に触図ラボのとびラーが担当する作品は、月と星が印象的な《涙の微笑》。
そこから、当日の鑑賞に向けて、鑑賞サポートのより具体的なアイデアも検討されました。
・ミロの作品に月や星のモチーフがよく登場することを紹介し、星のモチーフの形を比較したりできると良いのでは?
・作品鑑賞の補助ツールとして触図を利用して、ミロの色彩や線を楽しんでもらう。
・言葉だけでなく指での触覚を通しての鑑賞をしてもらう。
・とびラーとの対話で、普段とは違う鑑賞体験が生まれるのではないか?
そんなことを考えながら、今回の企画意図を整理、共有していきました。
また、展示室内で実際の作品の前で触図を用いた鑑賞を行うための工夫を模索しました。見えない・見えにくい当事者と、介助者、、とびラー3人での鑑賞を想定し、触図を安定した姿勢で触ってもらえるように、A3サイズの紐付きボードを使用することにしました。
触図の持ち方を思案中
<目標だった鑑賞を深めることはできたのか?>
本番当日。触図についてや構図の説明がおもになってしまった時もありましたが、全盲の鑑賞者からはこんな声をいただきました。
・月や星に希望を感じられる。
・3本の髪の毛(のようなもの)は、目を閉じた時のマンガで描かれるシワのようで、そこから涙が流れ、下の赤い部分にたまっていくようだ。月の周りの白いグルグルした筆跡は、暗くモヤモヤした気持ちで、涙の理由になったものではないか。
・ずっと見てきたミロの星の形が触ってわかった!鑑賞の補助になった。
積極的な作品鑑賞ができたからこそ出てきた言葉を、私たちはうれしく受け取りました。この実施で、ミロ展での触図ラボは終了しました。
<「障害のある方のための特別鑑賞会」@ゴッホ展での活動>
▽活動日:2025年10月27日(月)
▽展覧会:ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢
▽とびラボ活動期間:2025年9月7日〜11月2日 計8回実施
「ゴッホ展 特別鑑賞会」へ向けて、9月上旬に「触図鑑賞ラボ@ゴッホ展特別鑑賞会」をキックオフしました。今回は、鑑賞を深める気持ちを込め、とびラボの名称に「鑑賞」を入れてラボ名をリニューアルしました。
まずは前回のとびラボでの実施を一通りふりかえりました。さらに鑑賞の深め方を試行錯誤していきました。今回のゴッホ展で、私たちのとびラボが担当する作品は《種まく人》です。前回担当したミロ作品の《涙の微笑》よりも要素が多く遠近感のある作品です。
基本姿勢としては、作品全体のモチーフの配置情報を伝え、それから人物、木など個々のモチーフについて伝える手順が伝わりやすそう、色の情報なども伝えたほうが良いと話しあいました。また前回の経験から、じっくり鑑賞したい人、さらっと鑑賞して次に行きたい人と、目の不自由な方の鑑賞の様子をみて対応していこうと確認しました。
<本番のふりかえり>
・「構図がよくわかった」との声が複数あった。
・来館者の状況がそれぞれ異なるので、声をかけるタイミングが難しかった。
・全盲の方と弱視の方では見せ方が違った。
・「輪郭だけがわかる触図が別にもう1つあるといい」という声。
鑑賞者の手をとり、モチーフの輪郭をなぞってもらうなどし、前回より構図やモチーフの形をわかりやすく伝えることができたと思います。
ゴッホ展の図録で何度も対話型鑑賞をして作品研究をしました
<「障害のある方のための特別鑑賞会」@スウェーデン絵画展での活動>
▽活動日:2026年2月9日(月)
▽展覧会:東京都美術館開館100周年記念「スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやき」
▽とびラボ活動期間:2026年1月24日〜2月22日 計5回実施
今回のスウェーデン絵画展に向けて、新しく立ち上げた触図鑑賞ラボのキックオフの時点で触図は未完成でした。また、スウェーデン絵画展での特別鑑賞会は開幕してから数日後で展示室での検証期間も少なく、ドキドキの準備となりました。
スウェーデン絵画展の触図は3作品です。
3作品全ての作品の鑑賞サポートを触図鑑賞ラボで担当することになり、3ヶ所3チーム編成で活動しました。会場の下見では展示室の動線の妨げにならない立ち位置の確認や、椅子が目の前にある作品では、来館者に座ってもらって行う鑑賞も想定しました。
鑑賞の流れとしては、前回までの鑑賞体験から、作品の構図や情景を伝え、全体から部分モチーフへの説明へと進めるようにしようと話し合いました。
また、来館者の鑑賞深めるための準備として、とびラー同士で、作品を時間をかけてよく見て言語化していきました。とびラー自身の作品への理解を深めることが、鑑賞サポートをする際に大切なことです。。
<触図のタイプが変化>
東京都美術館の触図は、社会共生担当のスタッフが、展覧会担当学芸員に相談しながら、触図制作者とともに作成しています。その制作過程では、来館者からのフィードバックを元に、作品の魅力がより伝わるように試行錯誤が重ねられています。
今回のスウェーデン絵画展で制作された触図は、素材感も楽しめる触図が制作されました。
作品の女性がしている編み物の部分には赤い毛糸を編んだものが貼られています。
<鑑賞の変化>
今回の触図では色は表現されてないため、ロービジョンの方など、色を認識する方の鑑賞用に、iPadに取り込んだ作品画像で必要に応じて色をみてもらえるようにしました。
鑑賞者の手をとり誘導しながらモチーフの輪郭をなぞってもらいます。
作品鑑賞、会場下見が終わり展示室を出ると雪景色。
北欧の作品とのリンクに思わず笑顔。
<本番のふりかえり>
・立体・白黒印刷の触図は「さわって構図を知るためのもの」という目的がより明確で良かった。
・ロービジョンの方が多かった。触図を指で触って形を認識し、iPadで色や細部を認識する。あえて分けて提供するやり方は今後も継続した方が良いと感じた。
・ロービジョンの方だと思うが、同伴者と作品を見た後、触図で鑑賞。中央の馬を触りながら「お尻じゃなくてこちらを向いているのね!」と触図で顔の向きを理解していた。
・雪が描かれた部分に並ぶ無数の「◯」のボツボツ感にスウェーデンの雪の硬さを感じてくれた。
・触図があります、いかがでしょうか?という声かけだけでなく「鑑賞をいっしょにしませんか?」の声かけが効果的だった。
・《川辺の冬の夕暮れ》で同伴者の「木目のような波紋が・・」のような解説に反応していたのを見て、全体の構図の説明より先に、真ん中の波紋を触ってもらった。「本当木目みたい、ここが川なのね。」と嬉しそう。鑑賞者と同伴者の、鑑賞の様子に注意を向けて行動することも大事だと思った。
<鑑賞者の印象に残った声>
対話と触図で鑑賞を深めていくと、作品を起点に紡がれたコミュニケーションが生まれる場面もありました。印象的だった鑑賞者の言葉をいくつかご紹介します。
作品1《編物をするダーラナの少女コール=マルギット》
・ロービジョンの方と、言葉での鑑賞 → 触図での鑑賞 → iPadでの鑑賞の順に進めた。「昔、母に編み物を教えられたんだけど…」と棒針での編み方を教えてくれた。
作品2《川辺の冬の夕暮れ》
・ロービジョンの方「水辺の絵でモネだったら花が描かれるけど、この絵はスウェーデンだからシンプル、冬で光が足りないから花がないのではないか?」一つの絵から他の絵もイメージしていたことが印象に残った
・日本の川幅が狭く流れが早いのと違い、作品の川は水面に映る木々の影や空の色がわかるほど、ゆったりと静かな印象を話し、「北欧の広大な大地ならではの悠々とたゆたう川を感じる」と仰っていた。
作品3《夜の訪れ》
・ストレッチャーに横たわる男性の手を母親がとり触らせ、わずかに目や手がピクッと動いたようだったので「鑑賞で反応したのかな?」と。パリの美術館へ行くほどアート好きだったという話しを伺いました。
<今後の展望>
触図に限らず、見える人・見えにくい人・見えない人がともに行う鑑賞のあり方を、今後も試行していきたいと考えています。
<3回目の触図鑑賞ラボを終えて>
回を重ねるごとに声かけの工夫がだんだん出来てきました。触図を、構図の理解をしてもらうツールとし、目標である鑑賞を深めていくことも徐々にできつつあると感じています。
経験をみんなでシェアしながらブラッシュアップしていけると思います。これからの触図鑑賞の進化が楽しみです。
執筆:染谷 都(12期とびラー)
ラジオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。 ラジオの仕事を長くやっているせいか状況・情景描写を細かくする習性が少しあります。音声メディアで働く者として底辺のところで目の不自由な方を意識する感覚があり少しでも役にたつことができればと思っています。
2026.02.04
私たちとびラーが主に活動している東京都美術館 交流棟にあるアートスタディールームには、カラフルで座り心地の良いイスがあります。また、本棚の前にあるイサム・ノグチのソファに座ると、自然とゆったりとした気分になり、お喋りに花が咲きます。
普段は気にせず使っているこれらのイスですが、実は東京都美術館内にはさまざまな種類の魅力的なイスがあるのではないか、改めてイスに注目して館内を巡ってみよう、というのが、とびラー同士で実施したこのとびラボです。平日午後の開催でしたが、17名のとびラーが集まりました。
イスについては、デザイナーの情報やどこのメーカーのものであるかなど基本的なこともとびラー同士で共有しました。その際、参考にしたのが「美術館でアートの本とすてきな家具に出会う」というリーフレットです。このリーフレットには、東京都美術館にあるイスについて紹介されています。
※「美術館でアートの本とすてきな家具に出会う」リーフレット
https://www.tobikan.jp/media/pdf/2022/guide_artlounge.pdf
しかし、それだけではありません。このとびラボでは、イスがどこに置かれているのか、そしてその場所にあるイスに実際に座ってみることで空間がどのように感じられるのかなど、イス単体に注目するのではなく、空間自体を捉えることを試みました。
1階の佐藤慶太郎記念アートラウンジにあるイプ・コフォード・ラーセンのイスや、フィン・ユールのイスは建築ツアーでも話題にするとびラーが多くいます。いつもは紹介する側ですが、今日は自分でしっかり座ってみよう、座ったら何が見えるだろうか、という思いで腰掛けてみました。すると、公園の緑がより近くに感じられる印象がありました。実際に座ってみることで視点の違いをリアルに感じることが出来たのです。
※佐藤慶太郎記念アートラウンジ
https://www.tobikan.jp/guide/artlounge.html
エスプラナード(美術館正門から建物内部へとつながる広場空間)に置かれている石のベンチについても、みんなで検証してみました。このベンチは、1975年の新館設立時から設置されているものです。これまで、たくさんの来館者を迎えてきたベンチです。エスプラナードのエスカレーター脇や企画棟の壁沿いにありますが、そこだけではなく、東門へ通じる階段の途中や屋外彫刻の最上壽之 《イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》と、小田襄 《円柱の領域》の近くにもあります。東門近くのこのベンチでは、彫刻を眺めたり、本を読んだりしてゆっくり過ごしている方を見かけます。あるとびラーが、東門近くは、企画棟の打ち込みタイルの壁や大きな銀杏の木などに囲まれ、特に落ち着いた空間になっているのではないかと気付きました。だから、のんびりと座っている人が多いのではないでしょうか。
東京都美術館のイスと言えば、ロビー階のホワイエや公募棟にある大きな窓のある休憩エリアに置かれている、赤・緑・黄・青の4色のイスが特徴的です。このイスは建築家・前川國男がデザインしたものです。
ホワイエで観察していたとびラーが、このイスが置かれている数の配置に規則性があることに気付きました。手前から、4個組5個組6個組になっていることに気付いたのです。よく観察したからこそ気付いた発見でした。
一方で、色の配置は常に決まっているのだろうか?座面の色の配置には何か理由があるのだろうか?という疑問も湧き上がりました。これは、今後の検証が必要そうです。
公募棟の休憩エリアにも同じ前川國男デザインのイスがあります。1階のイスに座ると外のエスプラナードを行きかう人々の流れや屋外彫刻に目が行きます。2階のイスに座ると広い青空に目が行きます。
同じ大きな窓でもイスの置かれている場所が違うことで、座る人の視線の動きに違いがあることに気付きました。前川國男は、こうした人の視線の動きも計算していたのでしょうか。みんなで感心しました。
とびラーから特に好評だったのは、美術資料室にあるナンナ・ディッツェルのイスでした。座ると包み込まれるような感覚になるという感想を持つ人が多くいました。いつまでも座っていたくなる、好きな展覧会の図録を眺めながら、ゆっくり過ごすことが出来るイスです。
※美術情報室
https://www.tobikan.jp/guide/artlibrary.html
私たちは、今回、イスに注目して館内を巡ったことにより、それぞれが東京都美術館の中で自分のお気に入りの場所を見つけることが出来ました。そして、なぜその場所が好きなのか、理由についても考えてみることになりました。
例えば、公募棟展示室の上野動物園側にある休憩エリアのイスがお気に入りのとびラーは、なぜそこがお気に入りなのか考えてみました。そうするとイスの座面の色がホワイエにあるイスとは違い、グレー系の色であることやその休憩室が貸し切りの個室のような空間で落ち着くのだと改めて腑に落ちたのです。
このとびラボは、この日一日だけの活動でしたが、館内の素敵なイスに詳しくなったことで、他のとびラーや友人たちにも是非伝えたいという声もあがりました。
私たちがもっとも美術館らしさを味わえるのではないかとお勧めするイスは、講堂前のイスです。座ると自然に視界に入るのが対面の壁に掛かる大きな作品、ジョゼフ=アントワーヌ・ベルナールのレリーフ《舞踏》です。一人静かに作品を眺めるという優雅な時間が味わえるお勧めのスポットです。
機会がありましたら、是非、みなさんも座ってみてはいかがでしょうか。
とびラー12期 猪狩麻里子
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2026.02.02
とびらプロジェクトで、
生まれるべくして生まれた企画
12月にしてはポカポカと暖かい小春日和、東京都美術館(以下、都美)で1日限定のスタンプラリー企画が開催されました。その名も「前川國男の名建築 都美のいいトコ 建築鑑賞スタンプラリー」。建築の見どころをモチーフにしたとびラーお手製のハンコで、スタンプラリーを楽しむイベントです。
前川國男の名建築 × スタンプラリー × ハンコはとびラーお手製
お腹いっぱいになりそうな内容ですが、実は、とびラーのこれまでの活動が積み重なって、必然的に生まれた企画でした。というのも………
❶「とびラーによる建築ツアー」から派生
都美では、前川國男が設計した名建築そのものも楽しんでいただくため、とびラーによる建築ツアーを実施しています。数人のグループ単位で館内のおすすめの場所をご案内するツアーですが、45分間のツアーが終わると「あっという間だった!」「もっと長くていいわ!」と、うれしい感想をいただくことが少なくありません。とびラーのほうも「もっとのんびり、心ゆくまで建築鑑賞をご一緒したい!」「一人ひとりのペースで楽しめる方法はないかな」と思っていました。
❷「消しゴムハンコ」にはまるとびラー
とびラーは「障害のある方のための特別鑑賞会」の招待状封筒を消しゴムハンコで飾る活動を続けています。回を重ねるごとに腕を上げて、消しゴムハンコの世界にはまっていく人が多いのです。
以上から、手作りハンコのスタンプラリーをツールとした建築鑑賞企画があってもいいのでは!と思いつき、「この指とまれ」をしたところ、仲間が集まりました。
初回のミーティングは、悪天候によりオンラインと
オフラインのハイブリッドで実施
スタンプラリーは人類の根源的な欲求を達成できる
最高のコミュニケーションツールだ!
キックオフミーティングでは、「都美のいいところを知ってほしい」「スタンプラリーが大好き」「都美のハンコを彫りたい」とそれぞれのとびラーが熱い想いを語り、スタンプラリーについて勉強。その上で、なぜ自分たちは、スタンプラリーを交えた建築鑑賞をしたいのかを言語化しました。
スタンプラリーの面白さを分析し、挙がったキーワードは以下です。
「収集」「達成感」「発見」「コミュニケーション」「冒険心」
つまり、スタンプラリーは、人類の根源的な欲求を達成できる、最高のコミュニケーションツールなのかも!と盛り上がりました。
さらに、これらのキーワードを都美の建築鑑賞スタンプラリーに当てはめると
「収集」 ▶︎自由に都美を回遊、長時間過ごす
「発見」 ▶︎都美の建築の魅力を知る
「達成感」 ▶︎成功体験により都美に愛着が湧く
「コミュニケーション」▶︎人と人(参加者ととびラー)もつながる
「冒険心」 ▶︎楽しい!ワクワク!
さらに、コミュニケーションツールにスタンプラリーを選ぶ必然性についても考えました。
⚫︎ 表現手段を手作りスタンプにすると、建築が身近に感じられる
⚫︎ 言語に頼らないコミュニケーションもできる
⚫︎「発見」の瞬間をたくさん提供できる
⚫︎ 子どもも大人も、誰でも楽しめる!
そして、メンバー全員で「都美でスタンプラリーをやりたいのだ!」と意思を固めたのでした。
企画にワクワク、懸念がムクムク
2回目のミーティングでは、さっそく具体的なプランを相談。ルールやスタンプシートのデザインなどのアイデアがポンポン飛び出し、ワクワクしながら、当日のイメージをカタチにしていきました。
アイデア出しを楽しむ一方、懸念点を洗い出し、対策も考えました。
⚫︎子どもたちが夢中になって館内を動き回って、安全性は担保できるのか
▶︎スタート地点でルールをしっかり説明。とびラーが見守る。
⚫︎スタンプインクで汚れるようなことはないか
▶︎とびラーがスタンプを押す。もしくはシールにする。
⚫︎当日の運営に、人員が必要!
▶︎とびラーを引き続き募集する!
その後のミーティングでは、とびらプロジェクトのスタッフから客観的な意見をもらいつつ、「参加者が殺到したら?」「雨が降ったら?」とあらゆる事態を想定し、運営体制を検討。同時並行でスタンプの制作と各ポイントでの参加者とのコミュニケーションの練習も進めました。
ここで新たな心配が発生。建築ツアーガイドの経験があるとびラーは参加者と建築鑑賞をすることに慣れているのですが、そうでないとびラーが、参加者とうまくコミュニケーションできるかどうか、不安を口にし始めたのです。そこで、ポイントごとに参加者に楽しんでいただける対話のネタを考えてシミュレーション。自信をつけるために経験を積み重ねました。
100人の参加者が名建築を堪能!
当日は、100人の参加者が、スタンプラリーと建築鑑賞を楽しみました。午前中は、SNSを見て「先着100名なので、早めに来ました!」と来られた建築ファンの方がちらほら。午後は、当日ふらっと参加した高校生や親子連れが多く、赤ちゃん連れや障害がある方にも参加していただきました。
「自分のペースでポイントをめぐれるのがいいですね」と、自由に回れるスタンプラリー形式にした狙い通りの反応も。「建築に興味はなかったけれど、新たな視点が得られてよかった」というご意見もあり、名建築としての都美のファンを増やすことに寄与できたと思います。そして何を隠そう、誰よりも、参加者が都美の魅力を発見していく、その場や時間を楽しんでいたのは、とびラーたちだったかもしれません。
みんなでつくった手作りのスタンプシートはこちら!
「消しゴムハンコを押したシール」を貼るスタイルになりました。
職人がコンクリートに施した凸凹(はつり加工)の
柱表面を触って鑑賞
高校生も親子も、都美建築の特徴である
壁面の「打ち込みタイル」を鑑賞
今回が初めての試みだったため、とびラーは「本当に参加者が来てくれるのかな……」「楽しんでくれるかな」と心配していました。しかし、スタンプラリーと名建築を愛する情熱、そして、持ち前の臨機応変なコミュニケーション力で、当日は底力を発揮することがました。最後は、参加者のみなさんも、とびラーもみんなが笑顔で終われて本当によかったと思います。
13人で始めたとびラボも、当日はこんなにたくさんのとびラーで
来館者を迎えました!
編集制作会社で働いています。名建築に身を置き、建築家の思いを知ることに夢中。とびらプロジェクトで学んだことを生かし、身近な場所にみんなが居心地の良い場所をつくることを目指しています。