東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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【これからゼミ活動報告】 上野の森と建築を考えるゼミ(通称:モリケン)  

<藝大の森との出会い>

     2024年8月、私は、Museum Start あいうえの ファミリー&ティーンズ・プログラム「あいうえのmeet ①大地とつくる 東京都美術館×東京藝術大学」にとびラーとして参加し、活動の場となった東京藝術大学(以下:藝大)の保存林の成り立ちを知ることになりました。台東区在住の私は、コロナ禍前、この森の周りに飲食屋台がにぎやかに並ぶ「藝祭」へ連日訪れ、人々が楽しそうに行き交う様子をみながら気ままに過ごし、構内の大樹・木々に心地よさを感じたことを思い出し、人の手、思いがきちんと入っていたのだと納得しました。

 

 

あいうえのmeet ①大地とつくる」の活動で、
藝大の保存林の中で大クスノキに出会う。

 

藝大の保存林入口。樹齢300年とも400年ともいわれる大クスノキ。

 

そして私たちは、プログラムを担当した東京藝術大学 キャンパスグランドデザイン推進室 君塚和香先生が指導する「藝大の森」プロジェクトにて、藝大ヘッジのお世話をするボランティア活動に参加しました。   

  


 

「藝大ヘッジ」とは:

藝大ヘッジとは、2016年から大学の外周の柵に代わり、植栽による「やわらかな境界線」をつくる取り組みです。近隣住民や藝大生のみなさんなどの有志で、生垣を剪定し定期的に世話をしています。藝大ヘッジの活動が生み出す「やわらかな境界線」は、物理的に見通しがよくなることで、親しみを持ちやすくなるだけでなく、心理的にもコミュニケーションを生みやすくする効果があります。

 


 


藝大正門脇の生垣「藝大ヘッジ」。
武蔵野在来種の落葉樹と常緑樹をとりまぜ植樹。腰高に刈り込みをしている。

 


藝大ヘッジの間にはベンチがあり、くつろげる空間に。

 

 

四季折々の花が楽しめます。お茶の木に白い花が。

 

<東京都美術館も藝大も上野公園の森の中にある>

さらにこの年の10月、とびらプロジェクトの建築実践講座(以下:講座)に講師としていらした君塚先生から、藝大と上野公園や周辺地域とのつながり、公共空間の考え方や開き方について学ぶ回がありました。また、その講座の中で、実際の藝大ヘッジに苗を植樹することができました。

 

私は、とびラーに在籍した3年間、毎年建築実践講座を受講し、東京都美術館(以下:都美)の建築ツアーのガイドを四季を通して経験しました。その中で、5月から夏にかけて都美敷地内の樹々と上野公園の樹々が互いに生い茂り、都美が森に沈む風景が素敵だと感じました。都美から、樹々がつくる緑の境界線を越えツアーが外へにじみ出ていくことを想像しました。敷地が隣である藝大は、藝大ヘッジがあることで、よりやわらかな境界線として景色が交わっていきます。公園の森、藝大ヘッジの生垣、その間に立つ歴史的建造物との共存をツアーとして紹介していきたいという思いを起点に、「上野の森と建築を考えるラボ」と命名し、2025年3月に“とびラボ”を立ち上げました

 

上野公園の噴水広場と都美の間の道。5月は樹々で右手にある美術館が覆われる。
2月はレンガ色のタイルがよく見えます。

 

東京都美術館裏手の門から見える藝大ヘッジ

 

 

「上野の森と建築を考えるラボ」がスタートしました。

 

<ツアープログラムを目標に>

このとびラボは、講座で植樹を経験したとびラーの共感を集め、多数のとびラーが集まりました。ミーティングでは、まず、上野の土地の記憶を紐解く勉強会をすることから始めました。武蔵野台地の端に位置し、寛永寺の土地だった上野公園の歴史。また、藝大の敷地にある、赤レンガ1号館や、藝大の敷地に隣接する黒田記念館など、建築ごとのデータ収集を行いました。そして、藝大の保存林や「藝大ヘッジ」についても、とびラー同士で情報を共有していきました。

また、現場へ何度も足を運び、みんなでみて感じることを実践。そして、一般参加者を募集するツアープログラムを目標に掲げ、基本となるツアーコースを1つ作ることにしました。

 


藝大への通り道「芸術の散歩道」から、
都美の大きな窓越しにその先にある木々をみる。

 

ツアーコースは、大銀杏がある都美東門をスタート地点にして、北側の「芸術の散歩道」の林を抜け、旧博物館動物園駅をはじめ、4つの歴史的建造物がたつ交差点「アートクロス」の風景を紹介します。そして「藝大ヘッジ」の前を通り、藝大の赤レンガ1号館、保存林へと…上野の森の木々の中に点在する建築を巡る!というコース案を作成しました。

これをブラッシュアップしながらテストツアーを重ねましたが、とびラボの中では、予定の1時間に収めることができず、2025年内の一般参加者を募るとびラボ発のプログラムの開催には至りませんでした。

 

基本コースの組み立て 

<とびラー向けのツアー開催へ>

その後、とびラー向けのツアー開催へと目標を変更。都美の建築ツアーガイドをしているとびラーを中心に、今回のとびラー向けツアーのチームを編成しました。しかし都美の建築ツアーより紹介範囲が広く、一人で全ツアーをガイドするほどの知識を開催日までに覚えられません。それを打開するためのアイデアとして、1つのコースを、4人のガイドがリレー式で案内しました。この方法によってツアーガイドを初めて経験できたメンバーもいました。


練習ツアーで都美正門から出発する様子。

 


アートクロスに佇む歴史的建造物と紅葉の風景を鑑賞。

 

 

また、とくに試行錯誤したのは、アート・コミュニケータであるとびラーが案内するのにふさわしい建築鑑賞ツアーとはどういうものか、という視点でした。参加者に、建築と景色をどのように鑑賞してもらうか。建築のデータや見どころを紹介する知識教授型の案内だけではなく、樹齢数百年の木と建築が長い時間をかけて作り出した素晴らしい景色を、参加者自らが、自分の感性を主体として、味わってもらうにはどのようなアプローチが必要かという点について、丁寧に話し合いました。

 

そして、参加者それぞれが素敵だと感じた景色、場所をスマートフォンで写真撮影し、参加者同士で見せ合いながら、その理由をシェアすることで、お互いの「推し」の景色を味わってもらうやり方を考えました。

 

また、藝大ヘッジの”やわらかな境界線”の伝え方にも苦心しました。鉄の柵が赤レンガ館の前にあった当時の写真をみてもらい、生垣になった現在の景色と比較することで、その違いを感じてもらうことにしました。

 


鉄柵があった頃の赤レンガ館の風景

 


生垣になった現在の様子

 

そして、とびラーに向けたツアーでは、3つのコースでツアーを実施することができました。1つのツアーにつき、4〜5人のとびラーが参加者になりました。

全てのコースで、上野公園の歴史の変遷を紹介することから始め、以下のようなコースを行いました。

・「アートクロス」にある建築の囲い=鉄柵と藝大ヘッジの違い、生垣効果による建築の見え方をメインにしたコース

・都美スタートで木々を抜け藝大へ向かうという上野の森の中の建築散策を意識したコース

 

旧東京府美術館の跡地でありし日の姿に思いを馳せ、
点在する歴史的建造物をめぐる。

<森と建築の風景を楽しむ>

藝大の建築物で一番古い築145年の赤レンガ1号館と、6年後に建てられた赤レンガ2号館。このレトロな建築と樹々の風景鑑賞がツアーのハイライトとなりました。



参加者は「ステキ!気になるな?」と思った場所を撮影し、
全員で見せ合い感想をシェアします。

 

 

赤い実とレンガ色が絵になる1枚。丸い窓がキャンディに見える!
(ツアーに参加したとびラーの撮影)

 

敷地にある樹齢不明のカヤノキ。幹周りは大人が2人向かい合い両手を回して、手を繋げないくらいの大きさです。直径1mの成長が300年かかるといわれ、ゆっくりと成長するカヤノキ。参加者には、明治時代の「東京音楽学校予想復元図」(写真下)を見てもらい、ある程度の大きさで描かれている木をみて、ここが寛永寺の敷地だった頃へ想像を巡らせました。建物より先にたっていた大樹、時間がつくりだした風景をゆったりと味わいました。

 


赤レンガ2号館の脇に2本の木がある。
(明治43〜44時頃の東京美術学校・東京音楽学校予想復元図  ©︎君塚和香)

 


樹齢は不明のカヤノキ。
葉のにおいをかぐと柑橘のかおりがします。

 


藝大ヘッジ越しにみた藝大美術館は
「生垣の波に浮かぶ大きな船のように見える!
鉄柵ではこの景色は味わえない」という声が。

 


 

<“とびラボ”を解散、“これからゼミ”へ>

2026年1月、とびラーの任期を満了した後の活動の準備をするため「これからゼミ」として活動を開始しました。そして、プロジェクトスタッフのアドバイスにより4月以降に、藝大構内を拠点にツアーガイドの活動を準備することになりました。とびラボとしては、目標の一般の方向けのツアー開催には間に合いませんでしたが、そこまでのプロセスを見てもらえていたことがとてもうれしく、とびラボ活動は結果ではなくプロセスが大切だとしみじみ感じました。

 

それから藝大構内に点在する建築や保存林についての勉強会として藝大構内を巡るツアーを、今後もアドバイザーとしてお世話になる君塚先生に実施してもらいました。ツアーに参加してもらいたい関心層の絞り込みや、どんな内容のコースにするかを検討していきます。

 

君塚先生による藝大の構内ガイドツアー、勉強会の様子

 

構内ツアー中に藝大美術館前の「大シイノキ」のメンテナンスに遭遇。
樹齢は600~800歳であろうと定説を上回る説明を担当者から受ける。

 


 

<思いもよらなかった藝大での活動>

私は、とびラーに応募したときに、自分を表すキーワードとして「木・建築」と書きました。私の2人の祖父が木工屋、木材屋で工場がとなり合わせの住環境で育ったせいか、樹木や建てものが自然と好きになり私の興味の中心になっていました。自分の「好き」や「知りたい」が思いもよらない形で今回の活動につながっていったことに、自分自身驚きましたが、運命を感じざるを得ない気持ちです。そして、とびラー任期満了後に、おもいのある場所を活動の拠り所にできることは、立ち上げから1年間で31回のミーティングを重ねた “とびラボ”で一緒に考え寄りそってくれた仲間たち、見守ってくれたプロジェクトスタッフ、君塚先生はじめ「藝大の森」お世話隊ボランティアのみなさん、すべての方の気持ちがつながりみちびかれていったと思います。

上野の森を見続けてきた約600歳の大樹、木々の中に佇む歴史的建造物の風景…それを守ってきた先人の想いをつなぎ、人々に届ける私たちの活動は、これからもつづきます。

 

 


 

染谷 都(12期とびラー) 

ラジオ番組制作ディレクター。藝大の森お世話隊ボランティアで活動中。好きなことは散歩と旅と打楽器。とびラーになって美術館によく行くようになり、作品<空間=「場」に興味があることを再認識。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。 

2026.03.28

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