■ きっかけ:大学生の「居場所」を美術館に
大学生を対象としたプログラム「大学生の放課後ミュージアム みる・つくる・はなす」を企画・実施しました。このプロジェクトの出発点は、「美術館のプログラムに大学生向けのものが少ない」という問題意識と、「アートは知識がないと楽しめない」という多くの大学生が抱える心理的な壁を壊したいという思いからでした。
当初は、エンタメ性の強い内容も検討しましたが、メンバーで美術館を歩き直し「空間の持つ余白の魅力」を再発見したことで、ターゲットを「美術館には来るが、まだ自分なりの楽しみ方が見出せていない人」に設定し、目的を「自分なりの好きを発見し、共有すること」へと再定義しました。大学生と20代のとびラーが中心となり、半年間にわたり20回以上の会議を重ね、同世代の仲間に向けて一からプログラムを作り上げました。
■ 企画内容:自分の部屋に「好き」を飾る体験
当日のメインテーマは「自分の部屋の壁に飾りたい作品」に設定しました。当初は謎解きのようなエンタメ企画も検討しましたが、最終的には「人の評価ではなく、参加者自身が自分の視点でアートを選び、解釈する『余白』を楽しんでほしい」という思いから、このテーマに行き着きました。
展示室さんぽ(鑑賞)の様子
まずは、開催中の「刺繍ー針がすくいだす世界」展を鑑賞し、参加者それぞれが直感でお気に入りを探しました。初めは緊張していた参加者も、「作品に使われている素材って何だろう?」、「これって漫画に似ているかも?」といった些細な疑問から会話を広げることで緊張がほぐれ、教える・教えられる関係ではなく、一緒に作品を楽しむフラットな関係性を築くことができました。
お気に入りの作品を選定する様子
展示室さんぽした後、「自分の部屋の壁に飾りたい作品」をテーマにお気に入りの作品を5枚選定しました。そして、タブレットを活用し、選んだ作品を展示空間にレイアウトするワークを行いました。参加者が「自分ごと」として作品を選ぶことができるよう、「タブレット上で自分の理想の部屋(空間)を作って飾る」という形としました。これにより、参加者はより純粋に「自分の好き」を表現することに集中できました。
レイアウトへの想いを共有するシェアタイム
最後は、作成した画像を囲みながらシェアタイムを設けました。そこでは、「図工の時間以来にこういうものを作れて楽しかった!」といった声や、「自分が無機質な雑巾のモチーフが好きだと気づいた」といった、その人ならではの具体的なこだわりが活発に飛び交いました。互いのレイアウトに対する感想も盛んに出て、コミュニケーションが生まれる良い場となりました。
■ 今後に向けて
今回のプログラムを通して、私たちラボメンバー自身も多くの楽しさや発見を得ることができました。特に面白く感じたのは、「普段の友達ではない同世代と、作品を一緒に見る楽しさ」です。初対面であっても、アートというフィルターを通すことで自然と深い価値観が交わり、それぞれの「好き」を共有できたのは貴重な経験でした。また、正解のない「解釈する余白」こそがアートの面白さであると、私たち自身も改めて気づかされました。
今回のラボを通じて、対外向けプログラムをゼロから作る大変さと同時に、「本質的に何を大事にしたいのか」を考え続ける姿勢の大切さを学びました。今後は、参加者同士の対話の時間をさらに充実させ、より柔軟な場づくりを探求していきたいと考えています。
誰もが自分の「好き」を安心して持ち寄り、共有できる場所。そして、学生にとって気軽にアートに触れることができ、心ゆくまで楽しめる最高の空間として、美術館の魅力をこれからも同世代の仲間たちへ届けていきたいです。
金子淳平
13期とびラー。現在大学3年生。趣味は、合唱と野球。大学ではフランス近現代の美術史と思想を専門に学びながら、課外では音を用いた作品制作やプロジェクトに取り組んでいる。メディアと情動、日常と物語など、身の回りの「関係性」について考えるのが好き。
2025.12.19