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「より創造的な体験」をとびラーと一緒に作り上げる、
とびらプロジェクト コーディネータ
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「より創造的な体験」をとびラーと一緒に作り上げる、
とびらプロジェクト コーディネータ
「立ち上がりのとき。何が始まっていくのかわからないまま、でもワクワクしながら準備を進めていた。」
大谷 東京藝術大学美術学部特任助手、とびらプロジェクトコーディネータとして、とびらプロジェクトに関わっています。とびラーと日々コミュニケーションをとりながら、とびラーの活動に伴走するのが、主な役割です。具体的には、講座を企画運営したり、”とびラボ”の企画を一緒に形にしていったり。幅広いです。
大谷 とびらプロジェクト コーディネータとなってからは、2020年3月で丸5年が経つところです。実はその前、とびらプロジェクトが始動した2012年からの3年間は、学生をしつつ、ここでプロジェクトアシスタントをしていました。その後、2014年に大学を卒業し、翌年から藝大の特任助手としてコーディネータに着任したんです。なので、アシスタント時代も入れると、関わりはじめて8年くらいになりますね。
大谷 もともと、アートプロジェクトの運営とか、アートプロジェクトを作っていくことに関心があって。東京藝術大学(以下、藝大)の美術学部先端芸術表現科で日比野克彦先生の研究室に入って、いろんな地域でやっているアートプロジェクトの現場に行っていました。
*日比野先生は、東京藝術大学 美術学部 先端芸術表現科 教授であり、とびらプロジェクト/ Museum Start あいうえの代表教員として、とびらプロジェクトに関わっている。
高校生の頃からずっと、アートに関わりたいという思いがあって。でも、自分がアーティストとして表現していくという方向じゃないなとも思っていたんです。そういう思いを持ちながら、大学や学科を調べるなかで、藝大に先端芸術表現科(以下、先端)という学科がある、プロデュースとかキュレーションとかそういうアートプロジェクトの場を作るということも創造活動や表現と考えられる学科があるということを知って。おもしろそうだ!と思い、先端に入りました。
そこで日比野先生に出会い、研究室に入り、最初はとにかく「アートプロジェクトやりたいです」と言って、いろんな現場に呼んでもらっていました。その過程で、「美術館に興味がある」と日比野先生に伝えたことがあったようで、とびらプロジェクトが始まるときに、声をかけてもらったんです。それで「やりたい!」と、二つ返事で入りました。それが大学3年生の時です。
でもその時は、まだどうなるかのイメージを全然持っていませんでした。ただ、とびらプロジェクト・アドバイザーの西村佳哲さんや森司さん、東京都美術館(以下、都美)学芸員の稲庭さん等が参加している会議に同席することもあって、そこで話されていることから、なんかすごく新しい、知らない世界が始まっていくんだなというのがわかった。何が始まっていくのかわからないまま、でもワクワクしながら(プロジェクト始動の)準備を進めていたのを覚えています。
<つづく>
「力を注いだ“建築”。」
大谷 一番力を注いだのは、“建築”に関わる活動です。もともと都美のアート・コミュニケーション係の河野佑美さんがメインで担っていた建築実践講座(以下、講座)や、それに紐づく建築ツアーの運営を、5年前から一緒に担当することになりました。だけど、もともと建築に詳しかったわけではなくて。とびらプロジェクトが始まってから、東京都美術館は前川國男という建築家が設計したということを知ったくらい、建築を見るということに通じていなかったんです。でも、とびラーと一緒に、講座で学びつつ、建築ツアーで来館者も交えながらお互いの視点や発見を共有することを繰り返す中で、自分がいる建物や場に親しみを持てるようになってきた。体に馴染んでいく、都美が自分のホームになっていく感じを体験できたというのかな。私自身、学びと実践の往還の中で、建築を見ることや、そこで自分や誰かが感じたことを共有する面白さを知ったように思います。
佐藤慶太郎記念アートラウンジにある、東京都美術館の模型。
社会的にも、このとびらプロジェクトが始まってからの8年間で、建築への関心がより高まってきているように感じます。2016年には、東京・上野の国立西洋美術館が「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」として世界文化遺産へ登録されました。都美の建築ツアーにも多くの人が来てくれるようになりました。そういう流れを受けて、「今現在、世の中にはいろいろな建築ツアーがある。そのなかで、とびラーがやる建築ツアーの魅力ってなんだろう?」とすごく考えました。そして、「とびラーは、参加者に、一方的に知識を伝えるだけの人ではなく、参加者と一緒に建築を楽しむ人、案内をしながら一緒にツアーを作っていく人、そこに魅力があるんだ」と思うようになりました。つまり、「こんなふうに見たら面白いよ」とか、「こういうふうに感じませんか」と提案しつつ、さらに「みなさんはどう思う?」と、参加者の発見や気づきも汲み取ってその場に返していく。そうやって参加者の方が積極的に建築に親しむことができるようにする人なんじゃないかな、と。
とびラーの活動は、講座で学び、建築ツアーで実践する(実際に参加者を迎え、ツアーを行う)というふうに連関しています。なので、とびラーによる建築ツアーの魅力に気がついてからは、とびラー対象の講座の内容も変えていきました。例えば、ただ建築物の歴史や価値について学ぶだけでなく、市民による建築の保存活動や楽しむ場作りの国内外の事例などについても学ぶ場にしたいと思い、そういうお話ができる方に講師を依頼しました。講義を聞いて、とびラーが「じゃあ自分たちはここで、どういうことをやったらいいだろう。どういうことをやったら面白いかな?」と考えられるようになったらいいな。そうなるにはどうしたらいいのかなということを、講座を企画・運営する上で、すごく意識するようになったんです。
建築実践講座の講義の様子。
グループになってツアーやプログラムを企画してもらい、とびラー同士で実際にやってみるようなワークも取り入れました。
建築実践講座で行った、「グループでのツアー作り」のワークシート。こうしたワークシートの作成も、コーディネータの仕事の一つだ。
とびラーたちの気づきが書かれた付箋。学び、試し、気づきを共有し、ブラッシュアップしていく。
自分たちが企画したツアーやプログラムを、とびラー同士で実践しているところ。
とびラーによる建築ツアーの魅力は、「参加者の建築体験に寄り添って、ガイドをしていくところにある」と気づき、その魅力を参加者に感じてもらいたいと。そのためにどうしたらいいか、いつも考えながら関わるようになりました。
建築ツアー実施中は、いつもここで、ツアーガイドをするとびラーを見守っていた。
大谷 それから“とびラボ”のサポートにも、力を入れて取り組みました。コーディネータは、とびラーが「こういうことやりたい」と作ってきてくれた“とびラボ”の企画書をキャッチして、一緒に形にしていく役割を担います。どうやったら実現できるかを一緒に考えるんですね。その中で、例えば、このプログラムのここの時間が長すぎない? とか、広報文はこうした方が人には伝わるんじゃない?とか必要に応じて伝えることもあります。
そうした、企画を一緒につくっていくときにいつも意識しているのは、漠然とした言い方ですが、「その企画がよりどうなったら創造的なものになるか。参加者が一歩先にグッと進むような体験になるか」ということです。
それが、とびらプロジェクトの運営チームが入る意味であり、コーディネータの役割だと思っています。
大谷 とびらプロジェクトが始まった頃、「都美、とびラー(市民)、藝大の3者が一緒に連携してやっていくことの意味って何だろう?」とか、「藝大の助手でありプロジェクトのコーディネータとしてやるべきことって何だろう?」ということについて、すごく考えました。
とびらプロジェクトのウェブサイトには、藝大からのメッセージが載っています。それは、『東京藝術大学は、芸術の基本である「もの」としての作品に加えて、「こと」としての芸術に取組み、市民が芸術に親しむ機会の創出に努め、芸術をもって社会に貢献します。アートを介したコミュニティづくりは、作品を創造する人、そしてそれを享受する人を含め、人びとのクリエイティブな力が活きる社会をつくることにつながります。』というもの。
*下記のウェブサイトに、「とびらプロジェクトとは?」という説明とともに、「東京都美術館のミッション」と「東京藝術大学からのメッセージ」が掲載されている。
https://tobira-project.info/about/#concept
でも、それを自分がどのようにやっていくかは、手探りの部分が多かった。だからもう、その場に身をおいて、そのとびラーを見て、自分はどうしたらいいのか、どう声をかけたらいいのかっていうことを常に考えるしかなかった。そのなかで「その企画がよりどうなったら創造的なものになるか。とびラーや参加者が一歩先にグッと進むような体験になるか」という自分なりの軸を見つけたいとずっと思っていました。「見つけることができた!」とまではなれなかったけど、試行錯誤を経て、ようやくここ2年くらいはそういう関わりを感覚的に、気負いなくできるようになったように思います。最初の頃は、とびラーとのコミュニケーションに悩むこともありました。
だから、とびラーから「今日、プログラムでこんなことがあって嬉しかったんです」みたいな報告を受けると、とても嬉しいです。それから、とびラーが企画するプログラムの参加者からも「楽しかった」とか、「いい時間だった」とかフィードバックをいただいた時も、よかったねって、すごく嬉しくなります。
大谷 世の中、こんなにいろんな人がいるんだな!っていうことです(笑)。
とびラーは、皆さん何かしら熱い想い…動機…何か切実感とか問題意識とか、そういうものを持ってエントリーしてきていて。まずそのことに驚かされました。
そして、個人が抱える、いろいろな生きづらさというのかな、社会的な課題にも、ここを通して改めて出会ったように思います。とびラーや、とびらプロジェクトの様々な活動を通して、思い返せば、そういうことがあったなと思うこともありました。例えば、小学校の時のクラスメイトに外国籍の子がいて、コミュニケーションを取るのが大変だったなとか、家族がうつ病を患って大変だったなとか。そういうことは体験していたけど、それが社会とどう関係しているのかを意識していたわけではなかったので…ここを通して改めて社会が見えてきたという感じがします。
<つづく>
「暮らしや考えが全く違う人が集まっている。
その集団そのものが、とびらプロジェクトの魅力。」
大谷 とびラーがいること、です。100人以上のいろんな人、生きてきた人生とか、暮らしとか考えが全く違う人が集まっている。その集団そのものが、とびらプロジェクトの魅力だと思います。そういう人たちと、日々一緒にいろんなことを考えて、あーじゃない、こーじゃないとか言いながら、物事を進めていける。そういう場所が、美術館の中に「プロジェクトルーム」や「アートスタディルーム」という形で、物理的にもきちんと用意されているということが、大きな魅力だなと思います。
東京都美術館2階にある「プロジェクトルーム」に、大谷さんの机がある。ここに、とびらプロジェクトに関わる人たちが集まり、ディスカッションしながらプログラムを進めていく。
東京都美術館2階にある「アートスタディルーム」。とびラーの活動拠点だ。
大谷 実は、2020年3月で、とびらプロジェクトを離れます。が、今後も文化事業に関わっていきたいと思っています。とびらプロジェクトに関わってきたなかで、その気持ちをより強く持つようになりました。できることなら、ここで得た人の縁−―スタッフも、とびラーも1期〜8期までたくさんの人と出会うことができたので、その縁をいかしていきたいなと思っています。
大谷 美術館に8年間いて、「やっぱり美術館っていう場所はいいな」と思ったんです。私自身、この場所に自分が救われた。自分の居場所を見つけました。
美術館でいろんな作品に出会うという体験は、自分の持っていない考え方に出会ったり、知らない世界のことを知ったりするような経験だと思います。
美術館にある作品――誰かが強い想いをもって作ったものや、長い間大事にされてきたものって、見えない力が宿っているような感じがあります。その力が、それを作った人や時間や場所を超えて、見る人にいろんなことを想像させる。これって、世界や他者、時に自分への共感なのだと思うんです。そうした、共感を可能にしたり、引き出してくれたりする作品のの力があれば、全く理解しあえそうもなかった隣の人とも関わることができるかもしれない。それがとびらプロジェクトが行うアートを介したコミュニティづくりであり、「アート・コミュニティ」なんじゃないかと。
本当にいろんな人がいるよねということが明らかになってきた今の時代だからこそ、そういう経験や、そういう経験のできる場所が必要なんじゃないかな。
だから今後も、作品がある場所、作家がいる場所と社会との接続点というか、回路を作る仕事をしていきたいと思っています。
<おわり>
〝ゼロ期〟とびラー、主婦、2度目の大学生
2014-10
1期とびラー、区民ホール勤務、デザイナー経験あり
2014-10
とびらプロジェクト コーディネータ、立ち上げスタッフの一人
2015-01
2期とびラー、家庭と会社と3本柱
2015-01
1期とびラー、家族で会社運営、もとテレビ局勤務
2015-02
大学で刑法を学び、広告業界を経た学芸員
2015-06
子育て中の1期とびラー、言葉にしない“共感”の名人
2016-02
2期とびラー、経験を持ち帰りながらテーマパークの運営会社に勤務
2016-05
3期とびラー、就活を経て出版社に入社1年目
2016-07
4期とびラー、美術館めぐりが趣味の仕事人。
2016-11
3期とびラー、タイでボランティアを8年間したクラフト好き
2017-01
現役藝大生の4期とびラー
2018-04
「幹事大好き」の4期とびラー
2018-04
最年長の70代。5期とびラー
2019-05
「とにかくやってみる」ことを楽しむ5期とびラー
2019-06
人と人をつなぐ回路をつくる、プログラムオフィサー
2020-01
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「障害のある方のための特別鑑賞会」の先に、美術館の未来をみる6期とびラー
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「より創造的な体験」をとびラーと一緒に作り上げる、とびらプロジェクト コーディネータ
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7期とびラー。「笑顔」を絶やさないお茶目な伴走者
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