東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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【とびラボ】「みんなで森のいきものになろう!」

日時: 2016年9月24日(土)12:30~16:00
会場 :東京都美術館「木々との対話」展、アートスタディルーム


■ はじめに - ワークショップのあらまし

土曜日の午後、こどもとその保護者の方6組に参加していただいたこのワークショップは、東京都美術館で開催中の展覧会「木々との対話」の作品を見て、森を守る想像上のいきものになるために自然素材で顔(仮面)をつくり、素材との対話や見えないものを形にすることを通じて、一歩深まった展覧会体験をもち帰ってもらおうというものです。

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■ 鑑賞 - ことばのポリフォニー

今日のアートスタディルームは森の音がBGMとして微かに流れています。受付では参加者に名札を渡し、それぞれ呼ばれたい名前を書いてもらいました。今日はその名前でお互いを呼んでもらいます。サークルに並べた椅子に腰掛けて簡単な自己紹介と今日の流れの説明を行ったあと、中央に展覧会の作品写真(アートカード)を並べて、みなさんに見てもらいました。気になったものは手に取ってもらいます。こうして展示室に向かう気持ちを整えた上で、「木々との対話」展のギャラリーに向かいます。ここからは、こどもグループとおとなグループにわかれて行動します。

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会場に下る途中、右手に見える國安孝昌さんの巨大なインスタレーション作品が、非日常的な空間に足を踏み入れたことを感じさせます。そして、ギャラリーCの左奥まで進むと、土屋仁応さんの作品が展示された部屋の入口がようやく見えてきます。入口正面には、展覧会ポスターにも使われている作品《森》が鑑賞者を待ちうけ、照明を落とした部屋の中でスポットライトに浮かびあがる作品が目に入ってきます。

ここでは、グループごとに、実在する動物と想像上の動物の作品を一点ずつ鑑賞しました。こどもたちが最初に見たのは《豹》。「足の部分に削り跡が見える」、「豹は色が塗ってあるけど、うしろの猫は縞模様が年輪では?」、「色を塗っていない所を見ると木だとわかる」など、素材や加工の工夫に目がいきます。おとなたちは、おさない《子犬》の作品から。「いかにも無防備な様子」、「うぶ毛もまだ生えていない皮膚の感じ」、「血管がうっすらと透けて見えそう」、「お乳を飲んでお腹いっぱいになり、まどろんでいるところ」、「なにか掛けてあげないと…」といったことばがつぎつぎと浮かんできます。

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こどもたちが続いて見たのは《麒麟》。「動物園にいるやつじゃないな」、「想像の動物のほうだ」、「頭に角がある」、「頭と足は炎に見える」、「頭と足には毛が生えていてそこを守っている」など表情や様子をよく見ています。おとなたちの二作目は《竜》。見る方向によって受ける印象が違うことに気づき、みんなで確かめてみます。さらさらと乾いた肌の感触や、鑿跡を残した部分など、見た目から受ける触覚的な印象が話題になったかと思えば、「神聖な雰囲気」、「外見的な強さよりも、内に秘めた強さを感じる」など、見えないものに注目したことばも出てきます。

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こうして同じ作品を見ながら人のことばを聞いていると、共感することばかりではなく、ズレを感じることもあります。自分とは違う感受性や発想に触れる瞬間です。そのズレのおかげで、少しずつ自分の感覚が開いていき、気がつくとひとりではたどり着けなかった場所に立っているのが対話のおもしろみ。他人の目で作品をみる経験といえるかもしれません。そこには作品を中心にして複数の声が響き合ってつくるポリフォニー的な対話の場が生まれていました。

グループでの鑑賞に続いて、土屋さんの作品をひとりで自由に見てもらう時間をとったあと、アートスタディルームに戻りました。

 

■ 素材との対話(ダイアローグ)

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ギャラリーから戻るとサプライズが待ち構えています。部屋の設えがすっかり変わっているのです。部屋の中央に並べられたたくさんの自然素材が目に飛び込み、思わず参加者から「わー、きれい!」「すごーい!」と声が上がりました。そこには木の葉、木の枝、木の実、蔓、花、樹皮など、多種多様な森の素材がディスプレイされています。まずは、素材をじっくり見て、木々の香りを吸い込み、手にとって感触や重みを確認してみる時間です。そして、その中から使ってみたい素材を選び、自分の箱に集めていきます。

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次に、集めた素材を紙の上に並べて、いきものの顔をつくってみます。ここもおとなとこどもは別テーブルで作業を進めてもらいます。その素材がどう使って欲しいと言っているかに聞き耳を立てながら、あれこれ動かしたり、裏返したり、入れ換えたりして、表情の変化を試してみます。

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この作業が一段落したところで、他の人がつくった顔をみんなで見てまわります。こどものつくった顔を見て、「やっぱり親子だわ…」とつぶやく声が聞こえてきたり、発想の違いや大胆な見立てと割り切りに感心したり、人の作品をみるのはとても刺激になります。

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こうして素材とたっぷり対話して刺激をもらったあとで、いよいよ自分が身につける顔(仮面)をつくります。ダンボールの土台に集めた素材を取り付けて形づくっていきます。とびラーも切断、穴開け、接着などの作業をお手伝いします。こどもたちの取り組み方はとても個性的で、すぐに素材を手にしてつくりながら考えるタイプの子もいれば、まずは考えることに集中し、作業にとりかかるのはそれが一段落してからという子もいます。土屋さんの《ユニコーン》に惹かれて、額に生える角から丁寧につくりはじめた子もいました。おとなたちは、みなほとんど手を止めることなく、黙々と集中して作業を続けています。ダンボールに頼らず針金で組み上げていったり、満面のドライフラワーだったり、その手からつくりだされる顔は、ユニークなものばかりでした。

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■ いきもの誕生 - 再生(リバース)

このようにして森を守るいきものの姿が徐々にできあがってきました。つくりながら、あるいはできあがった顔と対面しながら、そのいきものの名前、棲んでいる場所、食べ物、性格や特徴、どうやって森を守ってくれるのか、などを具体的に考えてみます。ちょっと内省的な時間といえるかもしれません。いきものの世界をつくり、そこに新たな命を吹き込むプロセスです。

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たとえば、みごとな尻尾をもったこんないきものが生まれました。

名前 :キーラ
生息地:森のそこかしこ、木漏れ日が好き
食べ物:朝つゆ、花びら
鳴き声:不明。尻尾で木を叩きその音で仲間と会話する
特徴 :人と森をつなぐ存在で、自然のもつ癒しと怖さ両方を人に伝える

顔の右半分だけを覆う斬新なデザインの仮面ですが、半ば樹木・半ば人間というその姿は、人と森の間をとりもつ存在や、自然の二面性を象徴しているようです。

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矢をつがえた弓を持つ勇ましい森の守り神をつくったこどもたちもいれば、争いの芽を摘んでしまう心優しいいきものを考えてくれた子もいます。

名前 :ニャンプ(小さいのはコニャンプ)
生息地:森の入り口らへん
食べ物:木の実、柔らかい葉っぱ
鳴き声:ミャー
性格 :優しい
特徴 :ふだん森の見回りをしていて、森が壊されそうになったら、ネコ科の仲間を呼んで、みんなで囲んで回りながら楽しい歌を歌って仲間にしちゃう

いかにも平和で陽気な森の様子が目に浮かんできませんか?

 

■ 写真撮影という舞台(ステージ)

仮面は、たんに鑑賞のための作品(オブジェ)ではなく、身体性を備えています。かぶって身体の一部とすることで、自分とは別の存在に変身することができます。最後にみなさんに森を守るいきものに変身してもらい、写真を撮りました。記録であると同時にいきものになりきってもらうための仕掛けでもあります。レンズの前で、しぐさや鳴き声によってそのいきもののキャラクターを表現してもらい、写真に残しました。その一部をご覧ください。

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■ 雨の森

当初のプランでは、写真は、上野公園の森で大きなクスノキをバックに撮るつもりだったのですが、あいにくこの日はワークショップが始まってから雨が降り出してしまい、屋内での撮影に変更せざるを得ませんでした。また、時間が許せば、田窪恭治さんの屋外作品を訪れ、最後に再び展覧会作品の鑑賞に戻ってワークショップを終える予定でしたが、こちらも雨でかないませんでした。

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■ こどももおとなも

上にも書いたとおり、作品の鑑賞から工作まで、ワークショップの主要部分は、こどもとおとなが別々に活動する形をとりました。おとなも今日は「○○ちゃんのママ」ではなく、こどもも「○○さん家の子」ではなく、それぞれの呼ばれたい名前で呼び合いながら過ごしてもらいました。保護者の方のアンケートで反響が一番大きかったのもこの点で、「親子別々に集中できた」、「手厚く子どもたちをみてもらったおかげで、親はのびのびと制作できた」、「美術館に来て単独で行動できるなんて7~8年ぶり」、「展示を見たときも作るときも、自分自身の考えを出すきっかけを与えてもらった」、「大人だって楽しんでいいんだよね。ハッピーな大人を見て小さい人たちもハッピーになるんだ」といったポジティブな感想をたくさんいただきました。

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その結果は写真でも一目瞭然。発想の柔らかいこどもたちに負けず、おとなの本気が十二分に発揮されていると思います。展覧会で本物の作品をみることによって「美」に反応する感覚のスイッチが入り、目の前に思わず声を上げてしまうような魅力的な素材が並び、集中できる環境が用意されていれば、きっと創作意欲が溢れ出し、チャレンジングな作品をつくってもらえるに違いない、という目論見(シナリオ)はあながち的外れではなかったようです。その過程で参加者のみなさんが多少ともフローな状態に近づく時間を生みだすことができたとしたら、ワークショップ企画チームとして、これほど嬉しいことはありません。
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文:羽片俊夫(アートコミュニケータ)

2016.09.24

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