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5月16日、今年度最初の建築ツアーが開催されました。
今年度から入ったとびラー4期生も参加し、みんなで正面エントランスで呼び込みを行います。
この日は、上限いっぱいの30名の参加で、大盛況の建築ツアーでした!

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建築ツアーは3つのコースに分かれていて、ガイド役のとびラーによって、その視点も少しずつ異なります。
過去にツアーに参加したことがある方も、違うコースだとまた新たな発見をすることができるかもしれません。

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岸川さんの「建築のひみつ、彫刻のなぞ」コースでは、屋外の彫刻作品から、建築との関係性・おもしろさを見つけていきます。
都美の門を入ってすぐ、大きな銀の玉の作品『my sky hole 85-2 光と影』。資料を片手にお話しています。

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窓ガラス越しに見つけたのは、傘をモチーフにした彫刻作品。
普段は何気なく通りすぎてしまうような彫刻作品に意識を向けてみると、そこから意外な建物のつくりに出会うこともあります。

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山﨑さんの「たてもののリズムを感じてみよう」コースは、建築のデザインや構造の中に隠れたリズムを発見していく、
というもの。屋外で、身体を使って建物のしくみについてお話しています。

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みんなで見上げているこの階段。一体何が隠れているのでしょうか…?

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この日、ガイドデビューの大山さんは、「都美のこだわり発見ツアー」コース。
初めてのガイドとは思えない丁寧な説明で、お客さんにクイズを出しながら建物をめぐっていきます。

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たくさんの方に参加していただき、充実した建築ツアーでした。

次回の建築ツアーは、少し間があいて、9月19日(土)の開催です!
夜間開館日に開催する、トビカン・ヤカン・カイカン・ツアーも不定期で開催しています。
詳細はHPでのお知らせをご確認ください!

・建築ツアー
・トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー
コチラから⇒

 

 

 

 

 

 

 

4月26日。この日、東京都美術館では12人の大人たちが楽しそうに美術館内を歩き回り、
時には真剣なまなざしで屋外彫刻を見つめる、そんな光景が見られました。この方たちは「Museum Quest〜ある建築家が遺したもう一つの扉を探せ〜」の参加者のみなさんです。

このプログラムは、美術館に興味はあるけれど、ハードルの高さを感じてなかなか一歩踏み出せない人たちに向けて、私たち、とびラーが企画したものです。
鑑賞以外の目的でも美術館に足を運んでほしい、そしてもっと美術館を身近に感じてもらえたら。そういう思いから生まれた企画です。
プログラムの内容は、この日初めて会った人同士3人1組のチームに分かれて、東京都美術館の屋外彫刻や建築に関する謎を解くものです。
謎解きを通じて、チーム内のメンバー同士やとびラーとのコミュニケーションを楽しんで頂くことも、この企画の目指すところです。
さぁ、謎を解くための調査員として集められた参加者のみなさんは、新しい出会いを見つけ、そして美術館に遺されたもう一つの扉を見つけることはできたのでしょうか。

◇アイスブレイク◇

謎解きの前にアイスブレイク。見知らぬ人同士のチームなので、まずは自己紹介から始めます。今回は謎解き好きの方が多く集まったので、謎解きの話題ですぐに打ち解けていたようでした。
新たな出会いの始まりです。

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◇謎解きスタート◇

アイスブレイクで少し打ち解けたところで、謎解きの開始です。東京都美術館の敷地内を舞台に、屋外彫刻や建築に関する謎を解いていきます。1つの都市をイメージして設計されたというこの美術館は、構造が少し複雑で、場所によって様々な表情を見せてくれます。美術館全体に散りばめられた謎を探して、調査員のみなさんは歩き回ります。

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◇ラストミッション◇

みなさん無事に謎を解き終えて、制限時間内に元の部屋に戻ってくることができました。部屋に戻るとラストミッションが待っています。
ここでも、みなさん協力して、すぐに謎を解いてしまいました。写真はとびラー側のミスで、答えが先に出てしまったときの様子。少しくらいのハプニングは、楽しみの一つと思って頂けたようです(笑)。

◇カフェタイム◇

謎解きが全て終了したら、カフェタイムでより一層コミュニケーションを深めます。お茶を飲んだり、お菓子を食べたりしながら、参加者同士や参加者ととびラーとのコミュニケーションをゆったりと楽しんでいただきました。参加者のみなさんは、普段から謎解きのイベントに参加しているとのことで、今回の謎は少し簡単だったようです。でも、美術館という非日常的な空間での謎解きがとても楽しかったと語ってくれました。

また、謎解きが好きな人同士だったことで、コミュニケーションの輪が謎解きを通じて広がっていくのがわかりました。
今回はその要素として美術館や彫刻があったので、謎解きの思考だけでなく、あの彫刻はおもしろいよねとか、美術館ってどんな時にくるかなとか、いつもの謎解きとは少し違う会話が生まれていたようでした。

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ある参加者の方のお話では、謎を解くという行為は、何か分からないことを、主体的に解明して答えを見つけることだとおっしゃっていました。
作品の鑑賞という行為は、自身の内省を促したり、他者との対話を誘発したりすることに加え、作者はどんな人か、どんな思いでつくったのかということに思いを巡らせたり、調べたりして解釈していくこともあると思います。謎解きの思考と鑑賞の思考を行き来する様子から、参加者のみなさんがこれまで経験したことのない体験をしていることが伺えました。

今回Museum Questへ参加して頂いたことで、これまで美術館に足を運ぶことが少なかった方々に、作品を通じた謎解きという擬似的な鑑賞体験を感じてもらえたのではないでしょうか。
参加者のみなさんが、今回の体験をきっかけにアートの世界にも興味を持って頂けたらうれしいです。

いかがでしたでしょうか?あなたも東京都美術館を舞台とした謎解きで、新しいミュージアム体験をしてみませんか?次はどんな出会いが待っているか、私たちも楽しみです!

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【筆者】アート・コミュニケータ 上神田健太(カミカンダケンタ)

★ベストセレクション2015改2
全国の美術公募団体から選定された27団体、151名の作家の作品の展覧会、「ベストセレクシション美術2015」展にて、
今年度初めての対話による作品鑑賞会「見楽会」が行われました。

5月17日(日)13時と15時の2回。日本画、洋画、彫刻、工芸等多様な作品が一堂に会する本展の中、とびラーが選んだ絵画作品6点を参加者とともに鑑賞しました。
参加者は、大英博物館展の帰りに寄ってくださった方が大半でしたが、中には、友人が出品しているのでと、この展覧会を目的として来られていた方もいました。この鑑賞会のことを、知人から勧められたり、ツイッターで知ったという方もいました。参加者の年齢層は20代~70代、男女比はほぼ同数、参加人数はのべ
22名でした。

30分前からのとびラーの声掛けと、看板を目印に徐々に集合場所に集まって来られ、
いよいよ始まります。 IMG_0493

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは、玄関ロビーに集合後2チームに分かれて、展覧会のことや「見楽会」は作品の解説をするのではなく、みなさんで1つの作品をよく見てお話をしながら鑑賞をする会であることを説明し、それぞれ出発しました。

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1. 「通り過ぎる記憶」吉岡正人DSCN4203

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作品を囲んで、1作品目の鑑賞が始まります。
最初に、1人でしばらく、よく絵を見る時間があります。
その後、ファシリテーター(とびラー)が、「この絵の中に何が描いてあるのでしょう?
気がついたことを何でも自由に話してください。」と、対話による鑑賞を進めて行きます。
他の参加者と一緒に見ながらお話をしていくことで、1人では気がつかなかった発見に出会えるかもしれません。初めは緊張していた方も、次第に作品を指して、見つけたことを話してくださるようになります。

 

2.「欠伸している神様の圓」田浦哲也DSCN4221

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2作品目になると、だんだん見ることに慣れてくるのでしょうか、意見もたくさん出てくるようになってきます。ファシリテーターが、「少し前に近づいてみましょう」と促してみることもあります。離れて見ていると気がつかなかったことが、近くに寄ってよく見たら、見つかるかも?逆に、近くで見てもわからなかったことに、又離れて見てみたら気がつくこともあるかもしれません。

DSCN4236ファシリテーターは、1人1人の発言に耳を傾け、その場にいるみなさんが理解できるように、整理していきます。(時には身振りを交えて)

 

 

 

 

 

3.「こわれたがんぐ」大石洋次郎150517_4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう1つのグループは、こじんまり少人数でスタート。
1つの作品について「不思議」、「あったかい」、「懐かしいような気がする」、「現実にはあり得ない感じ」、「なんか気持ち悪いような、でも面白い」、同じ絵を見ているのに感想はじつに千差万別です。どんな意見も自由に話していいのです。人の意見を聞いて、賛成もよし、反対もよし。正解はひとつではありません。絵の中のポーズを真似しながら見ている方もいます。まさに絵の中に入って見ています。

 

4. 「鉛の海の底で」森慎司IMG_5343

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この作品では、「いったいここはどこなのか?」「どこまでが現実でどこまでが想像なの?」
などと、話が進んでいました。ファシリテーターが「どうしてそう思うのですか?」と聞くと、
さらにみなさんの思考が深まっていきます。時には腕組みして「うーん」と考えてしまうことも
あります。だれかの意見がきっかけで、「自分も、そんな気がしてきた。」などと、初めと見方が変わる方もいます。これぞ対話による鑑賞の面白さです。

 

5.「再生・Sea breeze」中土井正記IMG_5371のコピー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
「作品のモチーフが何を表しているのだろう?」とか、「絵を見てこういう気持ちになった」とか、そんなことも話してくださる参加者がいます。そっと題名を見てフンフンとうなずいていたり、反対に余計に不思議になっていたりする方も? だまってみなさんの話を聴いている、ただそれだけでも充分楽しい、そんな楽しみ方もありです。

 

6.「蜘蛛の巣」三浦愛子
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15時からの回は、2作品終了後、希望者だけで3作品目を鑑賞することになりました。途中から
参加したい方もウェルカムです。なんと、13時からと15時からの2回とも参加し、お一人で合計5作品も鑑賞してくださった「見楽会」の大ファンがいらっしゃいました!うれしいことです。

 

(番外編)

見楽会終了後は、プログラムに参加したとびラー全員で振り返りのミーティング。
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これからも、東京都美術館の中でたくさん充実した鑑賞会の機会を作り、一人でも多くの方と色々な作品を一緒に楽しんでゆきたいです。鑑賞会をより理解してもらうための宣伝方法、よい場づくり諸々、今後も進化し続けます。

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IMG_2329 (3)アート・コミュニケータ(とびラー) 内野聡子
今いちばん忙しくも充実した毎日なのかも?いくつになってもたくさんの人と出会い、知らないことを学びたい、そんなご縁、姿勢を大切にしたいです。

5月9日、第3回目の基礎講座が行なわれました。とびらプロジェクトでは「鑑賞実践講座」「アクセス実践講座」「建築実践講座」の3つのコースが設けられており、6回の基礎講座が終了するといずれか1つ以上を選択し、年間を通して受講します。今回の講座では「アクセス」と「建築」について、プロジェクトとしてこのテーマに向き合うこと、とびラーが活動していく意義やポイントを確認しました。
まず午前中は「アクセス」について学んでいきます。

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最初に稲庭さんから、国内外の美術館のアクセシビリティに関する取り組みについて紹介がありました。
紹介の前にまず、とびらプロジェクトの推薦図書としている「わかり方の探求 思索と行動の原点」(佐伯胖 著)から、冒頭の文章を取り上げます。
「わかる」とはどういうことか。
冒頭では、人が生涯を通して絶えず続けているこの「わかる」ということの本質について触れており、認知心理学をはじめ、多角的に分析されて書かれている本です。稲庭さんのお話では、この本に書かれているように、「わかる」ことは文化に参加することであり、自分の生活の質を高めていくときにとても重要な指標になるということでした。では美術館では具体的にどんなアプローチがあり得るのでしょうか。

アクセシビリティが美術館でどのように語られているか事例を通して見ていきます。
昨今の社会では、ひとりひとりが孤独になってしまったり、社会的参加が出来ない状況が生まれやすくなっていると言えます。またそれが原因となり、更なる社会不安が起こることもあります。インターネットの普及により、人々の繋がり方が変化し多様化しているなかで、新たな関わり合い方を考えなくてはいけない現代。人々の「わかりあう」ことが、社会の安定につながるのではないかという視点から、「わかりあう場」として美術館を活用することについてのお話でした。

美術館は全ての人に開かれている場ですが、美術館を活用する状況にいない人々(アクセスしにくい人々)に対して、いかに「わかりあう場」を提供していけるかが美術館の大きな課題のひとつとなっているということでした。
様々な問題を解決する時に一番重要なのは、人々の意識をつくっていくこと。高齢の方、子供たち、障害のある方など、こういった方々がより社会参加できるような意識を人々が持つ事が大切になってきます。

まずは海外の事例が3つ紹介されました。
一つめは、ニューヨーク「メトロポリタン美術館」の分館で行なわれている、認知症の方とその家族のための”MET Escapes”というプログラムです。
家族に加え、日頃のケアを担当している介護士の方も一緒に来館します。普段認知症の方を支え、1番近くにいる人も一緒に活動することが、このプログラムの大きなポイントです。
“MET Escapes”の名前には、日常から少し離れて非日常の空間に来てみませんか、という意味が込められています。

同じくニューヨークの近代美術館(MOMA)で行われているプログラム、”meet me”。作品を通して私に出会うことがテーマです。
作品を通して、家族、そして認知症の方とが対話を行い、家ではできなかった会話がここでは生まれていっているそうです。
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「作品を介することで、個々の物語が共有され、そこに共感が生まれ、患者自身、また介護者の生きる意義の探求に繋がっていきます。わかりあえる瞬間があるかどうかは、認知症の方を支える家族にとってはとても大事な経験になるのです。」

また、イギリスからは”House of memories”というプログラム。
地域の美術館・博物館を活用し、回想法という手法を使い、認知症に新たなケアの方法を確立していくものです。これまでに沢山の介護士の方がこのプログラムを受講しているそうですが、認知症の介護をしていく中で、どのようにケアをしていくか、また自分自身がどうしていけばいいかをこの場を通して考えていきます。
このプログラムでは地域ならではのコンテンツを活用し、自分が育ったまちの郷土・歴史を紹介している博物館のコレクションを持って、ケアホームなどの認知症の方々がいる場へ出かけていきます。そして、そのコレクション(モノ)を通して、患者本人と介護士が対話をします。具体的なモノが目の前にあることによってより会話が促進されるのと同時に、モノがもつ多くの情報が、記憶が引き出される、また「わかりあえる」きっかけを引き出すことができるのです。

「ミュージアムは、まず自分との関わり合いを作れる場所で、また他の人の世界とも関わることの出来る場所。その両方があることでわかりあうことが出来、その可能性を他の場よりも多くもっていると思います。もちろん、高齢者の方や障害のある方、何か身体的な理由がある方のみではなく、様々な理由からミュージアムにアクセスする環境にいない方も沢山います。自分以外の方々がどう生活をしているか、難しいことかもしれませんが、常にそのことを想像しながら社会的な課題をとらえていくこと、何より対話を諦めないことですが大切だと思います。」

国内の事例についても紹介がありました。
神奈川県立近代美術館で開催された特別支援学級の生徒たちに向けたプログラム、「音でつながる、私とアフリカ」。アフリカの現代作家の展示を舞台としたワークショップで、音楽を通して作品を鑑賞、表現していきます。
3回通した内容のこのプログラムは、まずは美術館に来館し、作品に出会い、音に触れ、2日目に学校で自分の楽器を製作。最終日には展示室の作品のある空間で一般の方に発表するという流れです。最後にはお客さんの前で発表するというとても大変なものですが、初日に展示室に入ってから、自分が奏者としてお客さんの前に立つまで、ひとつひとつのことが丁寧に組み上げられていることで実現できるものなのでしょう。

一度ここで3人組をつくり、これまでの内容をそれぞれが言葉にして共有します。

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では、とびらプロジェクトやMuseum Start あいうえのではどんなことができるのでしょうか。
次は奥村さん(東京藝術大学 特任研究員)より、過去のとびラーによる活動の紹介です。

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プロジェクトが始動してから3年間で、とびラーのアイディアから様々なプログラムが生まれました。
例えば、視覚障害の方と一緒に作品をみる鑑賞会や、都美のたてものをめぐる建築ツアー、また特別養護施設の子供たちを都美に招き、一緒に作品を鑑賞したりするものなど、中には3年の任期を満了した後でも続けられているものもあります。
東京都美術館でリニューアル前から行ってきた、特別展ごとに年4回開催される「障害のある方のための特別鑑賞会」でのサポートも大切な場のひとつです。普段はとても混み合う展示室ですが、月曜日の休室日を利用してゆっくりと展示を楽しんでいただけるように、各所様々な場面で来館者の方に寄り添います。
また、「Museum Start あいうえの」では、障害のある子とない子も一緒に活動する「のびのびゆったりワークショップ」を行ってきました。
(それぞれの詳細はブログにアップされています。)

最後に、7月より始まるアクセス実践講座についての説明がありました。
「誰もがアートや文化資源に出会える環境がどのようにつくられるかについて考え、自分の周りにいる様々な状況の人を想定しながら、実践を通して自身の働きかけ方から理解を深めていきます。」

アクセス実践講座では、いろいろな分野で活動されている方をお招きしお話を聞いたり、特別鑑賞会への参加、他施設での取り組みも吸収しながら、自身でどんなことができるのかを1年通して考えていきます。

午後は「建築」。
都美学芸員の河野さんによる、「都美の歴史について」のレクチャーから始まりました。実は都美は一番古い公立の美術館で、設立時は東京「府」美術館でした。初期の建物から2年前のリニューアルを経て今の姿になるまでのながれ、建築にまつわる様々なエピソードをお話いただきました。

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現在も二ヶ月に1度ほど開催されているとびラーによる「建築ツアー」ですが、実はこのきっかけはリニューアルに伴う2年間の休館に入る直前に行なわれた「おやすみ都美館建築講座」というイベントでした。都美を設計した建築家、前川國男の事務所の方をはじめ、建築の専門家によるレクチャーや、職員の方々総出の館内ツアーが行われたそうです。600名以上の方が参加したこのイベントが大変好評だったこともあり、リニューアル後はとびらプロジェクトの「とびラーによる建築ツアー」という新たな形で、引き継がれていくことになったそうです。
プロジェクト2年目には、お昼だけでなく夜のライトアップされた姿もぜひご案内したいという声から、夜間開館日を利用した夜の建築ツアー(トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー)もスタートしました。
ツアーの資料やアイテム、ルートなどは全てとびラーオリジナルです。3年間で様々に工夫が凝らされ、現在も続けられています。

美術館に来て、まっすぐ展示室に向かうだけでなく、その空間や道すがらに少し目を向けてみるのも美術館を楽しむ一つの醍醐味。鑑賞する空間や気持ちを作るのが、建築というハードの役割でもあります。
美術館や博物館に行くとき、建物もよく見てみるとそこに新たな発見があるかもしれません。日常の中でのちょっとした発見。建築ツアーはそのきっかけづくりの一つなのでしょう。

後半は、実際に館内を見てまわります。

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まずは公募展示室のバックヤードから。作品を運ぶための大きなエレベータに乗って移動します。50人全員が入る大きさです。
都美は建物の6割が地下に埋まっているそうで、今回見たバックヤードの大きな空間から建物全体の規模を窺い知ることができます。
ほとんど週代わりという早さで展示が入れ替わる公募棟の展示ですが、沢山の作品が出入りするこの空間は真っ白。ここで荷解きして作品を並べて審査して、そんな作業が日々行なわれているそうです。
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バックヤードを見た後は、通用口(裏口)を経由して正門へ。4棟の箱が少しずつずれて並んでいる公募棟の特徴を外から確認しながら歩きます。

正門からは、「ミニ建築ツアー」のスタートです。
赤・青・黄・緑の4つのチームに分かれます。先導するのは、2・3年目のとびラーたち。新とびラー向けに館内のみどころを紹介してもらいました。DSCN4135 2

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公募棟など、いつものツアーでも紹介しているポイントをまわっていきます。何度も足を運んでいる場所でも、教えてもらって初めて気づくことが沢山あります。

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アートスタディルームに戻り、3人組で体験してきたことを話し合います。
「まわってみて沢山の発見があったけど、今度は自分が人にどう伝えられるか、考えてみたい。」
「他のチームの方と、自分が体験してきたツアーが内容がかなり違っていた。自分の視点なども織り交ぜながら案内していたことに気づいた。」

建築実践講座は6月末にスタートします。
講座の目標は、「建築空間を通して生まれるコミュニケーションの場づくりについて考え、プランを実践する。」

そのプランのひとつがツアーであり、これまでも「館内みどころマップ」づくりなど、この講座から様々に派生した活動が生まれました。
建築を活かしながら、どういうコミュニケーションをつくっていけるか、新たに迎えた4期のとびラーとともに考えていきます。

いよいよ6月末から、鑑賞、アクセス、建築の3つの実践講座がスタートします。他にも「Museum Start あいうえの」のプログラムやとびラボなど、春から夏にかけてどんどん活動が広がっていきます。講座での学び合い、そして自分たちでつくっていく実践の場が更なる活動と学びの深まりになればと思います。

(東京藝術大学美術学部特任助手:大谷郁)

今年度の第2回基礎講座では、「美術館での体験とは?」についてみんなで考え、実際に体験しました。

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午前中は稲庭さんより映像を3本紹介してもらい、見終わったら感想を全体で共有する時間。

1本目はアメリカのニューヨーク市にあるメトロポリタン美術館館長トーマス・キャンベル氏によるTEDでのプレゼンテーションの映像です。
この映像では、展覧会においての具体的な例を挙げながら、美術館でしか得られない体験について語られています。とびラーは映像を見ながら、大事だと思われるキーワードをそれぞれ書き留めていきます。その時に出て来た主なキーワードはこちら。

「歴史や専門知識の目だけで見るのではなく、自分の目を使って発見の瞬間を得ること。」
「本物を目の前にすることで、時空を超えて過去の人たちに出会う体験ができる。それにより自分をより深く知り、未来に向ける。」
とびラーのみなさんも大事なメッセージを受け止めた様子で、1本目からとても活発な意見が出ていました。

「作品をみること」「作品から感じる体験とはなんだろう?」ということを考えはじめたところで、次の映像です。2本目はアメリカのボストン市にあるイザベラ・スチュアート・ガードナー美術館で行われている教育プログラムをまとめたドキュメンタリー映像「Thinking Through Arts」です。ここで紹介されているのは、VTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ)という手法を使った主に小学生を対象とした対話型鑑賞のプログラム。

この映像をみた後に、近くの3人で一組になり感じたことを話し合いました。
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全体で共有したときに出て来たキーワードと、稲庭さんがそれに呼応して話したことをいくつか紹介します。
「映像に出てくるファシリテータは、こどもたちを褒めていない。前回の講座の“きく力”を思い出し、とても良い聞き役だと感じた。」
「ファシリテータの技術によって単なる“会話”ではなく、 積み重なる“対話”になる。」
「 “何が見える?”ではなく、“何が起こっている?”という質問では大きな違いを感じた。」
「より絵の中に入って散歩していくようにみるきっかけになるため、こどもたちから出てくる発言の質が変わってくる。」
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さらに別のアプローチをしている事例の紹介です。3本目は神奈川県立近代美術館の「鎌倉の立てる像たち」という映像作品です。ここでは、中学生たちがワークショップを通して、自分自身を作品や作家に投影しながら、鑑賞を深めている様子を見ることができました。

印象的だったのは、誰しもが感じる疑問に対して稲庭さんが答えてくれた言葉でした。
「“実はこの作品は・・・”という種明かしはしないのか?」
「種明かしは特にない。みんなが“答え”が欲しいと思う理由は、実は思考を止めたいから。」

「正解」という情報を知った時に理解した気になり、ほっとひと安心するような感覚を味わったことはありませんか。そうすることで知識は積み重なるかもしれないけど、それは考えることから解放された安心感からくる「ほっ」なのだと稲庭さんは言います。その安心感に満足してしまうと、もはやその作品をについて考えなくなってしまうこと思考を止めることにつながるのです。
ここで紹介したVTSによる鑑賞体験では、作品を知ることが目的ではなく、鑑賞者が「これは何だろう?」「なんでだろう?」と考え続けることを目指しています。とびらプロジェクトにおける「鑑賞」の活動は、この考え方をベースにしています。
最後に稲庭さんから、「美術館での鑑賞体験を深められるにはどうしたらいいか、実践するときに一人一人が考えていってほしい」というメッセージが伝えられました。

午後はアクティビティです!
まずはウォーミングアップとして「Museum Box 宝箱」のアートカードを使います。
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キーワードを聞いて、イメージするアートカードを指差す「指さしゲーム」や・・・

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ランダムなアートカード3枚をつなげて物語をつくる「ものがたりゲーム」で盛り上がりました!

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ゲームを通して「言葉」と「イメージ」の結びつき、イメージの受け取り方には多様な感じ方があることを体感してもらいながら、自然にと作品の”中”に入る準備体操ができたはず。

この後、いよいよ展示室における鑑賞を体験してもらうべく、開催中の「大英博物館展」を見に行ってもらいました。その時のルールは以下の3つです。
①まず、空間を把握すること。②選んだ作品を1点鑑賞してくること。③場をデザインすることにも気を配ること。
この1〜3の活動は、単に「展示室に行って好きに作品を見て来てね」というものではありません。とびラーのみなさんが実践の場としてもらうスクールプログラムの時に直面する問題を想定しています。鑑賞している人たちがそれぞれ気持ちよく過ごしてもらうために、自分がどのように振る舞えばいいのか、まずは体で体験してきて下さい、と呼びかけました。

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それぞれ無事にミッションを終えて、気になる作品同士で集まって見つけてきたことや考えを共有します。
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それぞれの作品について各グループより紹介してもらいました。
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最後に、<鑑賞実践講座>についての紹介です。
来館した人々にとって、より豊かな美術館体験をしてもらうために「対話による鑑賞」と「パーソナルな体験」を行き来させつつ、彼らの言葉を引き出す力を身につける講座です。それは第1回基礎講座でいっしょに考えた、「きく力」と共通するものになります。ただ単に「VTS」を身につけることではなく、あくまでこどもたちや来館者と寄り添って、まなざしを共有できることを目的としています。
ここから、とびラー一人一人が「美術館で起こる体験」について実践的に考え、デザインしていく3年間がはじまります!

(東京藝術大学美術学部特任助手 鈴木智香子)

3月29日(日)、第1期とびラーの任期満了式が行なわれました。
プロジェクト3年間の節目であり、そして初めてとびラーが巣立っていく特別な日です。
その名も「開扉会(カイピカイ)」。それぞれが開く「とびら」を想い名付けられました。

 

会は2・3年目とびラーによる企画から始まりました。

テーマは「5年後の未来をデザインしよう。—あなたと、アート&コミュニケーションとの関わり方を考える—」。

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アート・コミュニケータとして活動する自分自身のこと、自分の周りのことについて、少し先の未来を想像しながら考えてみます。

まずはテーブルごとに、出されたお題について話し合います。
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みなさんが言葉にしたことはメモ。

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グループごとに話した後はどんな意見が出たのか、全員で共有します。

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とびラー全期が揃う機会は実はとても貴重。とびラーとしての時間が個人の中で完結してしまうのではなくて、時々互いに交換する時間を積極的に持つ事を大切にしています。

自分の未来の姿、社会の姿、小さなアイディアや悩み、大きな夢まで。
短い時間ながらも、相手が考えていることに少しだけ想いを馳せてみるひとときです。

後半は、場所を移して活動のフィールド、上野公園へ。
雨が心配されていたこの日ですが、この時ばかりは天気も見方してくれました。

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はじめに東京藝術大学と東京都美術館を代表して、プロジェクトの代表教員でもある日比野克彦教授、そして林久美子副館長のお二人から、メッセージをいただきました。

「前例のないことにチャレンジしてきた3年間。この経験は受け継がれていくけれど、1期生みなさんの経験は二度と誰も出来ないものです。この貴重な体験を明日から、それぞれの日常に活かして、生活、まちづくり、コミュニティづくり、自分の価値観を鍛えていってください。」「とびラー任期満了、おめでとうございます!」

3年間の感謝、今後への期待が伝えられました。

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次はいよいよ任期満了証の授与です。
3年前、とびらプロジェクトが始動した当初の顔ぶれが前に並び、一人一人の名前がプロジェクトマネージャの伊藤さんにより読み上げられました。

証書を手渡すのは、林副館長と、日比野さんです。
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証書の名称は「開扉の印」(カイピノシルシ)。
2つ折りのカードの中には、東京都美術館・真室佳武館長、東京藝術大学・日比野克彦教授のお二人からのメッセージが書かれています。そして、上野を飛び出したみなさんが開く新たなとびらを願い、上野駅からの「切符」が一緒に綴じられています。行き先はその人次第。

授与の後は、3年目を迎えたとびラーとスタッフからのことばが伝えられました。
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3年目のとびラーを代表して小野寺伸二さん。そして同じくとびらプロジェクトを巣立つスタッフの近藤美智子さん。

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授与が終わると、2・3期のとびラーから1期生にインタビュー冊子の授与です。
この冊子は、2・3期のとびラーが任期を満了するみなさんの送り方について考えたところに始まり、小さなプロジェクトを立ち上げて形になったもの。とびらプロジェクトが始動した当時を知る人であり、とびラーとして最初に走り出した人たちの言葉や思いを、インタビューを行い1つの冊子にまとめました。

そして会を締めくくるのは、東京藝術大学の伊藤さん、そして東京都美術館の稲庭さんによるおわりのことばです。

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「道なき道をみなさんと歩めたこと、本当に嬉しく思います。」
「みなさんのこれからの活動、そして新たに入る4期生との出会い、新たなフェーズが始まる予感がしています。これからもよろしくお願いします。」

「3年間、本当にお疲れ様です。ありがとうございました!」

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開扉会の最後はみんなで記念撮影。これだけ沢山の方がとびラーとして活動してきました。
本年度、任期を満了したとびラーは55名。
55人のアート・コミュニケータが上野から、それぞれの場に出発します。

新たに活動を始める方、元いた場に戻りここで培ったものを活かしていく方、みなさんの今後は様々だと思います。
アート・コミュニケータのマインドを持った人たちのパワーを、それぞれが大切にしている場で発揮していくことを願っています。

(東京藝術大学美術学部特任助手:大谷郁)

2月13日と27日に「ヨリミチビジュツカン 新印象派—光と色のドラマ展編」を開催しました。

ヨリミチビジュツカンは、作品を通して人と出会い、人を通して作品と出会うことを大切にした、鑑賞とコミュニケーションをテーマにしたとびラボです。
一人で美術館に行った時に、作品を見て感じたことを誰かに伝えたいな…と思ったり、SNSに書き込む感想を直接誰かと話し合ったりしたいな…と思うことってありませんか?このプログラムはそんな思いを叶えます。
金曜日は夜8時まで開館している東京都美術館。仕事帰りや学校帰りに、気軽にふらっと寄り道してほしいな、という思いから、ヨリミチビジュツカンは夜間開館の時間に開催しています。

毎回試行錯誤を重ねて実施していますが、今回は1年前の初回と同様に事前申し込み制とし、ドレスコードの「ヨリミチアイテム」も復活!これは参加申し込みからプログラム当日までを、楽しみにワクワク過ごしてもらうための工夫です。
新印象派展のヨリミチアイテムは「好きな色」。展示室に並ぶ作品はどれも色とりどりですが、参加いただいた皆さんがチョイスしてきた色も様々でした。私の担当したグループは偶然にも5人中4人が「青」でしたが、同じ青でも色のニュアンスの違い、色々な青がありました。

さて、夕方を過ぎ、展示室の混雑も落ち着いてきた頃、参加者の方々が集まり始めます。
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受付を済ませると、パレット型のヨリミチカードが手渡されます(このカードもとびラーが作っています!)。まずはひとりで展覧会を見に行き、「入ってみたい絵」を1点選んできてもらいました。選んだ作品はこのカードにメモしておきます。
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30分ほどひとりで見てきた後に、グループ鑑賞が始まります。
描かれている人と哲学の話をしてみたい、あたたかな夜の光が気になった、家の周りを散歩してみたい、色の移り変わりが綺麗だった…作品の前で選んだ理由を聞きながら、みんなで絵の中に入っていきます。入ってみたい理由をきっかけに、作品から受ける印象や感じたことを共有します。
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同じ作品を見ていても、感じることや注目する箇所は人それぞれです。自分とは違う視点を聞き合い、ひとりではさっと通り過ぎてしまう作品もじっくりと見ることができるのがヨリミチビジュツカンの良いところです。「他の人の見方や感じ方を知ることができて面白かった」との感想をよくいただきますが、自分ではない誰か(しかも大抵それは初めて会う人!)を通して作品をみる体験から、その人自身の視点が広がると良いなと思います。
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小学生に人気の作品を紹介すると、立ったりしゃがんだり身体を使った視点探しが始まりました。背の高い人は空に視線が向きがちですが、子供の背の高さになってみると視線の先には人々や町並みがありました。
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近距離、中距離、長距離と作品との距離を変えると見え方が変化し、まるで違う絵のように見える発見は、点描技法を用いた新印象派の展覧会ならではかもしれません。
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展示室には静かに沈黙の中で作品と対峙したいという気持ちで来館している方もいらっしゃいます。いかに同じ展示室内で共存するのか、このとびラボでいつも考えていることですが、本物の作品からのインスピレーションを受けながら、他者と一緒に過ごす時間の価値も大切にしていきたいなと思っています。これからもより良い方法を探っていきたいと思います。
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鑑賞の後は、カフェタイムです。私たちとびラーが普段活動拠点としているアートスタディルームでお茶をしながら、皆で一緒にプログラムを振り返ります。お菓子も展覧会に合わせてとびラーが用意しています。今回の持ち寄りは、カラフルがテーマ。いかがでしたでしょうか?
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ここでは、形式的になりがちなアンケートを取ることをやめ、参加の皆さんに今日の感想や心に残ったキーワードを、話をしながら付箋に書き出してもらいます。
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作品について話すときは図録を使うこともありますが、図録を開くとがっかりするほど、本物の作品が持つ色彩の鮮やかさや輝きを再認識する時間になりました。やっぱり本物がいいね〜と展示室で感じたことを思い出しました。

このカフェタイムでは、初対面同士でもこんなに話って盛り上がるのものなんだな〜と毎回思います。作品のこと、普段行く美術館のこと、私たちとびラーやとびらプロジェクトのこと、閉館時間ギリギリまで、話題は尽きません。まだ話足りない!という気持ちを残しながら、夜間のライトアップで参加者の皆さんをお見送りして終了です。
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最後に、今回のプログラムの中で聞こえてきた皆さんの言葉をいくつか紹介します。
「(モヤがかかっているように見えるのは)そこにいる人々の息遣いで空気があたたかくなっているからかもしれない」
「(夕暮れの色合いが綺麗なので)夜になってしまうのがもったいない」
「朝の光、昼の光、夜の光、いろんな光がある」
「本当に水面が揺れているようにみえる」
「好きなものを好きと言えた」
「自分の直感で良いと思うものを選べるようになった」
まだまだ沢山ありますが、作品に関すること、このプログラムに関すること、参加者の皆さんと交わす会話は、私たちとびラーにとっても新しい気付きになっています。

そして、「ヨリミチビジュツカンに参加したことで、美術館に行くスイッチが入った!」とのとても嬉しい言葉をいただきました。これからもいろんな人の美術館スイッチを押していきたいと思います!
実は1年前に参加者として来ていたメンバーも、一緒にヨリミチビジュツカンで活動しています。他の美術館で参加者の方に偶然お会いしたこともありました。今回ご一緒できた皆さんとも、また都美や他の美術館で再会できることを楽しみにしています!

ご参加いただいたみなさま、素敵な時間をありがとうございました!

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近藤乃梨子(アート・コミュニケータ)
3度の飯よりアートが好き♡とびらプロジェクトへの参加をきっかけにアートに携わる人生が本格的に始まりました。様々なご縁に感謝して日々を過ごしています。

1月26日編                         とびラー 山木薫

白梅の香りが漂う1月末、今年も東京藝術大学 卒業・修了作品展が東京都美術館で開催されました。藝大生の集大成である作品が公募棟のここそこと展示され、制服姿の高校生から外国人など色々な世代、地域から人が集うワクワク感のあるアート空間です。
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そこで今年もとびラー「見楽会」です。1月26日、卒展初日、展示されたばかり真新しい力作品群の前での画材の匂いを感じながら、午後のひととき来館者の方々とご一緒にとびラーの小野寺と羽片がファシテータ役を務め、吉田俊介作「21世紀日本昔話 1.0」、高橋愛作「そっち こっち」2作品をとりあげて、対話による鑑賞会をおこないました。
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作品の解説を聞くのではなく、鑑賞者ひとりひとりが作品をみて感じたこと、思ったことを発言し、その言葉をファシリテータが指揮者のように整理し共有し繋いでいきます。鑑賞者は色々な見方を知ることで、それぞれの見方が広がったり、深まったり、新たな気づきが生れたり・・。15分間のジャズの生セッションのような鑑賞ライブです。
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会場内にファシリテータと鑑賞者の静かな声が反響し鑑賞の輪が波紋のように広がっていきました。鑑賞者から微笑みがこぼれたり、首をかしげて食い入るように絵をみたり頷いて黙って聞き入ったり、自然と隣の人と言葉を交わすコミュニケーションの場となりました。鑑賞の余韻のなか、飛び入りで作家の方が登場、作品への気持ちや質疑応答など作家の方との対話が加わり卒展「見楽会」ならではの光景が展開しました。
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さて正解がないこの対話による鑑賞、あなたの心のとびらは開かれたでしょうか?
「見楽会」は試行錯誤しながら場作り中、2回目に続きます。

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1月29日編                        とびラー 森万由子

さて、藝大卒展にて今年2度目の「見楽会」、今日はどんな対話が生まれるでしょう。とびラーも皆さんと一緒に鑑賞できるこの日を楽しみに準備してきました。正面入口を入ってすぐ、ミュージアムショップ横で今回参加していただく皆さんとご対面。緊張と期待に胸が高鳴ります。
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二つのグループに分かれての鑑賞、この日はそれぞれとびラーの近藤と藤田がファシリテータ役を務め、近藤グループは水谷栄希作「食事の支度」と高橋佑基作「Uncomfortablendomfortable」、藤田グループは高橋愛作「そっち こっち」と市橋泉作「漕いだり、休んだり」、それぞれ2作品を鑑賞しました。
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熱気あふれる会場内を歩き、作品の前にたどり着けばいよいよ鑑賞スタート。「この作品の中で一体何が起こっているのだろう」、「どうしてそのように見えるのだろう」、皆で感じたことや気づいたことを共有し、作品の魅力に迫ります。そこに正解はありません。どのように見るかは、鑑賞者に委ねられています。
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一見「?」が浮かぶ不思議な作品でも、対話を通して見ていくうちに様々な気づきが生まれます。皆でじっくりと向き合ったあとは、初めて見た瞬間よりもその作品を身近に感じられるかもしれません。
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自分の感じたことを自由に発言し、ほかの人の発言に耳を傾ける。その過程で作品の印象がどんどん変化していくこともあれば、最初の印象がより深まっていくこともあるでしょう。

2日間行われた今年の藝大卒展「見楽会」。藝大生たちの熱い思いがこもった作品は、どれも溢れんばかりのパワーと瑞々しい魅力に満ちていました。そんなエネルギーの塊を囲みおこなった対話による鑑賞は、皆さんにとって、そしてとびラーにとって新鮮で思い出深い体験になったのではないでしょうか。

 


著者:アート・コミュニケータ(愛称:とびラー)山木薫

プロジェクトで言葉や文字で発信するアート活動に胸ときめく日々、これからの発信の起点を思考中・・。

 

 


FullSizeRender (2)筆者:アート・コミュニケータ(愛称:とびラー)森万由子

美術史を中心に、いろいろつまみ食いしながら学ぶ大学生。人々の心の糧となるものを残し、伝え、社会をじわじわ良くするのが夢。日々人生の勉強中。

11月の終わり、少し肌寒さを感じる秋晴れの午後に彫刻科の工房を訪れました。
校舎の裏手、落葉でいっぱいの敷地には無造作に置かれたたくさんの彫刻とともに、大きな岩やら木材やら様々な素材の塊が点在していました。中には制作途中の彫刻作品とおぼしきものも紛れていて、なるほどここが彫刻家の卵たちの作業場なのかと一層好奇心がそそられます。

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約束の時間に現れた鈴木弦人さんは、頭にキリリとタオルを巻いた作業着姿が凛々しい長身の好青年。

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「工房の方、見ますか?」
案内されるままについていくと、工事中のような騒音が響いてきて、そこはもう大学というよりどこかの町工場のような雰囲気です。

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工房の奥には、ひときわ存在感のある大きな塊が鎮座していました。今まさに鈴木さんが取り組み中の卒業制作作品です。

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「1枚1枚重ねて組み合わせて1個の花をつくってるんです」
大きな一枚板の鉄を叩いて成形し、溶接して何枚も貼り合わせながら作っているという花びらが5枚。その巨大な花びらのなんとも妖しい様子が“ラフレシア”をイメージしたものと聞いて大いに頷けました。想起されたきっかけはなんと“ゲーム”から。

「でっかい花の中に主人公がピュッと入っていくシーンがあって、あぁこれ面白いなって思って」
いかにも現代っ子らしい答えには親近感を覚えますが、デジタルの世界で遊びながら大きな立体作品を想像するセンスはやっぱり芸大生ならではと言えそうです。

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工房の外に移動すると、花芯となるもうひとつの塊がありました。こちらは銅メッキに真鍮を溶接したという不思議な模様が描かれています。これをグラインダーに紙ヤスリをつけて何度も磨いた後、焼いて変色させたら、さきほどの5枚の花びらの中心に組み合わせて完成の予定。仕上がりは3m程となる大作です。繰り返しの緻密な作業はさぞ忍耐力もいることでしょう。

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「鉄は焼いた後真っ青になるので、イメージが全然変わると思うんです。実物はないんですけど、こういう色に・・」
とスマートフォンで示してくれた過去作品がまた興味深い。

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“花”の他には“変わった生き物”などをモチーフにしていたとか。実在しそうだけれどちょっと不思議なものたち・・・鈴木さんの作品傾向の共通項が垣間見えたようでもありました。

1日の制作時間はおよそ10時間。外に持ち出せる大きさの作品ではないので、工房を使える9時から7時までが勝負です。
限られた制作時間での取り組みでは、さぞ規則正しい生活をされているのかと思いきや、
「あまり・・・(笑) 家帰ってから深夜までずっとドラマ観たりとか、あまり規則正しくはないです」
と、大学生らしい素顔を見せてくれました。
でも、工房に来ないと作れないのでは、家に帰ってから閃いたり、やり残したことを思い出してモヤモヤすることもあるのでは? と聞いてみると
「あります・・そういう時はゲームとかして忘れます」
ちょっとはにかむ様子にまたまた親近感が湧きました。

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夏前からおよそ3ヶ月かけているというこの花の制作はそろそろ終盤。来週以降は2つ目の作品に取り組むのだそうです。
「モザイクアートみたいなのをつくろうと思ってて」
そういって見せてくれた2つ目の作品は平面。質感の異なる金属を組み合わせた彫刻で、古墳の壁画のようなエキゾチックな雰囲気を醸していました。

こちらも元は大きな1枚の板。それを4枚に分けてちょっと曲げて、彫って削る。仕上がりは2m弱ぐらいになる予定。
どちらも大きな作品ですが、これほどの大きさのものに取り組むのは卒業制作が初めてだそうです。
「でかいの作ったことないからとりあえず作っちゃおうと思って」
閃いたらまずやってみる、とりあえず手を動かしてから考えるのが鈴木さん流です。

鈴木さんは立体に取り組む前にスケッチすることはなく、まず形をつくってみる、いわば「ぶっつけ本番」で、手を動かしながら考えを巡らせて形にしていくのだそうです。
「なんとな〜く作って、で途中段階でやめてスケッチ描いてみて、こうしようかなとかってまた作ってみる。絵は・・・あんまり好きじゃなくて」
ーーえ〜!そうなんですか?? 意外な発言にインタビュアー一同感嘆の声をあげてしまいました。
予備校時代の先生の指摘が厳しくて、デッサンで苦労して以来、絵を描くことが好きではなくなってしまったのだとか。「一生描きたくない」と思ったこともあったというのはちょっと胸の痛む話でしたが、その頃から立体への興味が高まっていったようです。

立体が好き、それも金属。2年生後期の自由選択以降は、ずっと金属の彫刻に取り組んでいるそうです。
木彫、石彫、塑像・・・一通りの素材を扱ってみて、金属が一番感覚にフィットしたようです。「溶接が楽しい」と、本当に楽しそうに答えてくれました。
ちなみに金属以外で今後扱うとしたら透明な樹脂、水晶のようなものにも少し興味があるそうです。

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現在2つの卒業制作に取り組んでいる鈴木さん、実はもうその次の構想も脳裡に浮かんでいると言います。
新たなプランが生まれるのは主に制作中。特に磨きなどの粛々と続く作業時、手を動かしながらのふとした瞬間に「もうちょっとやりたいことがあるんじゃないかって思ったら次のがパッと浮かんでくる」のだそうです。やはり制作にはものすごい忍耐力が求められるものなのですね。
「ただの流れ作業なんで、さっさと終わらせて次やりたいっていうことしか頭になくなってきて。作ってて次のプランが浮かぶともう(制作中の作品に)あんまり愛着が持てなくなっちゃって」
今までの作品はすべて自宅に保管してあるとはいうものの、完成した作品に特段の未練もない様子。
ずっと前だけを見ている、次々に浮かぶ発想に突き動かされている様子はいかにも若者らしくて清々しい印象を受けました。手を動かしているとインスピレーションが湧いてしまって、いてもたってもいられなくなる感じ。発想に作業が追いつかないスピード感がもどかしいようでもありました。

ところで、進路として芸大を選んだきっかけは何だったのでしょう?
「とりあえずサラリーマンとかにはなりたくないと思ったんで。そのために大学でタラタラ勉強するのは嫌だなと思って、じゃあやりたいこと勉強しようと思って」
さらりと言われてしまいましたが、芸大に入るのは容易ではないはず。技術もセンスも求められると思うのですが、ご自身の一番の才能は?との問いには意外にも「力持ち」という答えがかえってきました。確かに! 彫刻科は体力も必須と見受けられます。
1学年が20人。各々が取り組む作品はもとより扱う機材も重いものが多いので、みんなで運ばなきゃいけない場面も多いのだそうです。それゆえに学生同士の連携が密になるというのは彫刻科の特徴と言えるでしょう。
4年間を振り返っても、飲みに行ったり、登山をしたり、思い浮かぶことは友だちと遊んだシーンばかりとか。
終日誰とも話さないこともあるというくらい制作に没頭する日々を送る一方で、しっかりキャンパスライフも謳歌しているようでした。

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ご自身の芸術的才能にはいたって無頓着で、幼い頃のエピソードを尋ねても「(物作りを)していたらしいけれどあまり記憶にはない」とのこと。気になる作家はラグーザだと語るも特段影響を受けたという程のこともない様子。それでも、あぁ根っから物作りが好きなんだな〜と感じたのは、芸大に入らなかったら何をしていたと思いますか?という質問を投げかけた時でした。
「専門学校とかで特殊メイクとかやってたかもしれないですね」
なるほど、手を加えて形を変えていく点では彫刻に通じるものもありそうです。
また、夏休みなどの長期休暇には美術系の鉄工所でアルバイトをしているとも言います。卒業制作の材料費に10万円以上もかかるとのことですから、そのための資金捻出が第一目的なのでしょうが、物作りの現場も楽しそう。公共のモニュメントなど大きな物を手がける仕事体験は、作品づくりのヒントになっているのかもしれません。

卒業後は大学院に進み、その後はご自身の工房を構えて作家として自立するのが夢だと語る鈴木さん。美術系の素養のあるご両親も、好きな道に進むようにと温かく見守っていてくださるのだそうです。
でも、これから芸大に入って彫刻家になりたいという中高生にどんなアドバイスをしますか? との問いには、「がんばってください」の一言のあと、ちょっと考えて「まあ、やめた方がいいとは言いますね」とも言い添えていました。“彫刻で身を立てる”ことの厳しさについて、自戒も込めてのアドバイスでしょう。

卒展の展示場所は都美館の一番下のフロア。作品のパーツが大きいので運んでから現地で最後の組立を行なうのだそうです。
3m+2mという大きさと、鉄以外の金属を扱ったことが今回初めての取り組みだという卒業制作。焼き込みを入れた金属がどのような色調に変化しているのかを想像してもワクワクします。完成作品を見られるのが今から待ち遠しいです。そして、その頃にはきっとさらに先の構想を練っているであろう鈴木さんに再会できることも楽しみです。ありがとうございました。

(2014.11.27)

執筆:小松 一世(アート・コミュニケータ「とびラー」)

「こちらへどうぞ!」
研究室を訪ねた私たちは、桝永さんが制作をしている部屋へ案内された。
ダンボールや画材などが所狭しと置かれているなか、ドーンと彼女の模型が存在していた。
大きい。これを一人で作ったのか。

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「あー、緊張しますね。来週最終審査なんですよ。持ち時間は8分なので。」
桝永さんは、セミロングのサラサラヘアをゆらしながら、笑顔で制作テーマについて語ってくれた。

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「今年の夏、ラダックというインド北部、ヒマラヤ山脈近くの僧院や民家にホームステイしながらに2ヶ月間調査を行ってきました。」
そう言って取り出して見せてくれたのは、100枚以上もあるスケッチ。現地で毎日スケッチをしていたそうで、よく見ると彩色された部分が何やらキラキラ光って見える。

「ラダックは様々な鉱物のあるところで、そそり立つ青ざめた峰々が鋸歯状になっているところや、黄褐色でとてもキラキラしたところなど、果てしない道を行くと様々な風景に出会います。色付けしただけではその場所の雰囲気が出ないので、大地の砂や石灰を混ぜてスケッチをしました。」
桝永さんのスケッチは、優しい色使いで、何か懐かしい空気を感じる。よく見ると、地面の色は同じ色ではない。なるほど、それだけ鉱物の色をみることができる場所なのだ。更に、大量のスケッチには全てコメントがつけられている。

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「大学4年の時に友人とラダックに行ったのです。ラダックはチベット仏教が浸透しており、僧院が沢山残るところなのですが、そこで私は大地と空に触れながらそれぞれの場を巡るような僧院建築に感動しました。全てを露にしてしまうかのような圧倒的な大地の中で、僧院から一歩も出ずに一生を過ごす人たちがいる。そういう人たちにとって建築は単なる機能性以上に、ある世界観や人生観を反映したものであるかのように感じられました。例えば僧侶が暮らす場所は、大地を背に、谷間から吹き寄せる風を受け入れる簡素さがあすのですが、西に沈む太陽を眺めながら眠る時間の流れが大切にされています。また建物の外壁は石灰を塗られており、補修する際に石灰が撒かれることで建物が大地と同化していきます。私はこうした大地と人、建築の物語のある場所に身を置きたいと思っていました。そこでこの夏、修士制作で再度ラダックを訪れ、実測等を通して大地と建築の関係やそこでの暮らしを分析しながら、砂や建物の外壁として使われる石灰を混ぜてスケッチをすることで光や音、風など様々な現状が立ち現れる素敵な空間を記述してきました。」

どうやら、桝永さんと「大地」とは切っても切れない仲らしい。僧院生活はどのように設計に活かされたのだろうか。

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「僧院で調査をしているうちに遊牧民の友達ができました。話を聞いているうちに彼の実家があるチャンタン高原の標高4500mを越える遊牧地帯には病院がないために年々遊牧民の数が減っていることや、『プガ谷』という温泉が湧き出ている地域は、莫大な地熱エネルギーを蓄えた土地であることから世界的に注目されているのですが、今後の開発のされ方によっては遊牧民の生活を脅かしてしまう恐れがあることがわかってきました。そこで実際に友人の実家や、プガの遊牧民のテントにホームステイさせてもらいながらインタビューしていくと、プガは様々な地域で遊牧する遊牧民が動物に栄養を採らせに来るいわば遊牧民の共有地になっていることや、遊牧民の他にも伝統医のアムチに連れられて病の治療のため、温泉に来る人が沢山いるのに温泉に浸かれず、滞在する場所もないため困っていることがわかってきました。また、外国人旅行者も観光場所の中継地点にあるのに、この場所で滞在に困っていました。そこで私は僧院や民家での体験をもとに、遊牧民と暮らしたプガの地で、様々な人が訪れ、交流する保養地を設計しようと思いました。」

なるほど、これは4500mの高地に遊牧民や療養する人、外国人や地域の人々が集う暮らしと憩いの場を創りたいという模型だったのだ。遊牧民の暮らしとはどんな様子なのだろう。

「山羊は150頭以上、ヤクも飼っています。山羊はチーズやバター、食料となるとともに毛はパシュミナへ、ヤクはテントをつくる材料となり、荷物を運ぶ手段にもなります。ラダックでは11月から翌4月までは冬の時期になり、寒さが厳しいため最近では遊牧民をやめる家族も増えています。この模型のような場所があれば、遊牧民にとっては病気になったときにすぐに療養できますし、地熱エネルギーを利用して電気や暖房が使用できるようになります。」
山に挟まれた土地に、遊牧民のコミュニティができたらどんなに落ち着けるだろう。
集落の中央にある可愛い家が桝永さんの家なのだそうだ。

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「模型の手前が北側で、奥が南側になります。最初に建設する私の家が、治療に来る人と、遊牧民の中間にあるのは、住民とコミュニケーションを取りながら長期の視点を持ってプランニングしたいからなんです。そこで全体計画においては、トップダウンの近代的な都市計画の手法でもなく、ボトムアップであるバナキュラーな自然発生でもない手法を探るため、フェーズによって段階的な発展をみる計画を行いました。例えば現在、温泉が湧き出ているあたりでは治療に訪れる人がテントを張り、温泉の熱源近くで身体を拭いたり、温泉水を汲んでいますが、そこでより快適に過ごせるよう風よけの壁をつくり、それが次第にニーズに合わせて階高を増して建物化していくという計画です。この作り方はラダックが建築をつくる際に用いられている方法を参考にしています。今、求められているものが多いからこそ、最低限必要とされる状態から段階的に地域にある素材を使って作っていくことで様々な人が関わることになりますし、現実的なのではないかなと。」

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「建物の壁は、日干し煉瓦に石灰を塗って固めて造ります。屋根は木の梁を通してワラを乗せ、泥や細い木を混ぜて固めた上に石灰を塗ります。寒さも厳しいですし、あまり大きすぎる窓はとれません。日干し煉瓦は環境にも優しくて、省エネですから、地元にある材料でまかなえます。また、壁の厚みを出すことで断熱効果もあるのです。普通の家でも30cmはありますし、僧院では60cmもありました。この厚みは格段に違います。」

ラダックの人々のこれまでの生活や建築の作り方を大きく変えるということではなく、遊牧民や療養に来る人を少しでも快適にできたらという思いもあるようだ。

それにしても、桝永さんはなぜ「大地」にこだわるのだろう。彼女の言う「大地」とは単なる地面ではなく、自然からの贈り物の「大地」のようだ。

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「小さい頃、家の裏手に空き地がありまして、そこで遊ぶのが好きだったのです。小さな虫のうごめきや、空き地の隅っこにちいさな花が咲いていたり、そんな光景が大好きだったのに、ある日突然冷たいコンクリートに変わってしまいました。とてもショックを受けました。私は大地と接するのが好きなんです。」
どんな小さな虫でも、精一杯生きている。その必死で生きるパワーは尊いもの。ラダックでも桝永さんは、どこまでも続く果てしない大地を渡る動物や遊牧民の姿に感動していたのかもしれない。

「プガの大地で建築を考えた時に、大きな、ただカッコイイ建築をつくるのではなくて、体験に基づいた現実味のある設計をしたいと思いました。そしてラダックでは新たに公共建築を作られたことがないため、初の公共建築をこれまで培われてきた方法で提案することが重要だと思いました。プガは停戦ラインにも近く、現状も共有地として使われていることから、この計画においても公共建築、さらに言えば公共地域となるように想定しています。そこで、例えば最もその象徴である温泉の建物においては、一応、現在ラダックにおいて公共的な役割を果たすものと言える僧院の、さらに象徴でもある曼荼羅壁画の描かれた空間の体験をもとに、お湯に浸かったときの浮遊感、そしてその成分が身体に浸透していく感覚になるような空間にしました。素材や構法はラダックの方法を用いながら、大地で採取した色を設計に取り入れるなど、そこでの空間体験は新しいものにしています。」
「この案は私の調査をもとに現状で考えられるあくまで一案で、実際にはその時々で部分に対応しながら全体を修正していくことが必要だと思いますが、まずはこの案をもって現地で提案できたらいいなと思います。もともと私は地元に入り込んでいく性格なんです。」

だから、桝永さんの家は中央にあって、いつでも相談しに行けるようになっているのだ。
地域に自分を溶け込ませて、そしてコミュニティを作っていく。実際の模型製作に取り掛かるまでにも数段階の変更があり、スタディを重ねてきたという。スチロールの製作は12月からというから驚いた。これが桝永さんのスタイル。それにしても、大きな模型だ。
「発泡スチロールの塊を購入して、部屋のなかでガリガリ削っていたら部屋中たいへんなことになってしまいました。(笑)でも、この山の質感や地面の様子は、ラダックに滞在した私にしかわかりませんから、全部自分で削って着彩しました。」

遠いラダックの大地の公共建築の構想を、自分の家を造るかのように楽しそうに語ってくれた桝永さん。
卒業後は?と尋ねてみると、海外で仕事がしたいという。ラダックでの滞在期間中、一度もお腹をこわさなかったという彼女なら、どこへ行っても大丈夫なはず。

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桝永さんの誠実で、根気強く一人ひとりに向き合っていこうとする姿勢に圧倒された。彼女の話を聞いているうちにどんどん引き込まれ、まるで自分がラダックの住人になるかのようにワクワクしていた。インタビューする側なのに、質問したかったことは陳腐なものに思えた。
桝永さんがラダックで描いたキラキラスケッチ群と、パワーあふれる修了設計を是非ご覧いただきたい。

(2014.12.16)

記事:秋本圭美
インタビュー:秋本圭美・永井てるみ

(卒業・修了作品展での展示場所は、芸大・陳列館2階の予定です。)