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2012年のとびらプロジェクト始動以来、藝大の様々な科を訪れてきたが、デザイン科は今
回が初めてとなる。
取材を受けてくれたのは、4年生の木下真彩さん。
木下さんに案内され制作室に足を踏み入れる。夏休み中ということもあって他に人の姿は
なく、ところどころに置かれた制作机、大きな絵画、衣服をまとったトルソー、オブジェ
のような物が部屋のいたる所に置かれている。

“デザイン”という言葉はとても幅広く感じられる。デザイン科に身を置く彼女達にして
も、それは同じようだ。高校3年生まではバスケ一筋だったという木下さん。
「漠然と美大に行きたいとは考えていたんです。ポスターやグラフィックが好きだったの
で、グラフィックならデザイン科かな?と。1・2年生の頃は共通の基礎課題を全員がやり
ます。これからどこに行こう?って私もみんなも迷っていましたね」
デザイン科は全体的に課題の数も少なく、内容も解釈の幅を持たせた大きなテーマが多い
という。もしかすると、制作物そのものというより“発想”そして“アウトプットに至る
道筋”に重きが置かれているのかもしれない。
デザインとアートの違いを尋ねると、
「デザインはコミュニケーション、アートは自己表現とよく言われますね。ただ、説明す
るならそう言えば簡単だけれど、実際すごく難しいなって思うようになってきました」
言葉を探しながらそう答えてくれた。

そんな木下さんが取り組んでいる卒業制作のテーマは“タイポグラフィー”だという。
「街中の看板の文字を採集して、その書体の持つ表情やキャラクター性を読み取ろうと思
っているんです」
都内を中心に、自分の足で街を歩き回り、お店などの看板の文字を写真に撮り、スケッチ
に起こしたものを集めていく。単語でも文章でもなく、ひとつひとつの文字そのものを。
「卒展に向けて、まだまだ量を増やしていきます。最終的な形はまだ決まっていないけど、
色の出し方や並べ方を工夫して、標本として。入口は研究ですが、アウトプットは制作に
なりますね」

タイポグラフィーに興味を持ったきっかけを尋ねると、PC の画面を開いてポスターのデー
タを見せてくれた。一見、普通のカタカナが並んでいるようだが、よく見ると、その文字
ひとつひとつが建物の形をしている。

「去年、古美術研究の授業で“伝統とデザイン”っていう課題が出て、その時に日本建築
を題材にとったんです。それで日本伝統の文化とか色々と調べていくうちに文字にも興味
が出てきて、洛中洛外図をモチーフに、文字を乗せてポスターを作りました。洛中洛外図
って、パースのない、無限に広がっていく俯瞰図ですよね。それが文字の特徴と似ている
なと思ってリンクさせてみました」

研究対象へのアプローチの仕方もユニークだ。
「文字を掘り下げていくうちに“水”っていうテーマが出てきて。大河の一滴、一滴の水
から広がって川の流れになっていく。文字も、ひとつひとつが集まって語になって文章に
なって意味を持っていく。それを実感するために、去年の秋、京都へ行って鴨川の上流か
ら下流まで30km を1 日かけて歩きました」
朝から日暮れまで数多くの写真に収められたのは、ほとんど真横から切り取られた、少し
ずつ表情を変えていく川と景色の姿。
「やっぱり時間の流れとか空気感とか、実際に行ってみなくちゃ分からないなって思いま
した。街並みとか、歩いて何かをするということが好きになったのは、それがきっかけだ
ったかもしれません」
木下さんの取り組みには、現代社会における様々な現象を調査し、その在りようをつ
まびらかにしていく「考現学」の面がうかがえる。それは、自分の生きる世界や時
代に、深い興味と愛着を持っているからこそできるのだろう。

今後について尋ねると
「大学院への進学を希望しています。もっと勉強して、自分はこれができるっていう芯を
しっかり養ってから社会に出たい。その後どうなるかはまだ分からないけれど、建築が好
きなので、グラフィックを通して建築方面の人と関わったり、本の装丁を作ったりできた
らいいなと思います。時期的には、ちょうど東京オリンピックの頃になるので、それにつ
いても考えますね。2回目の東京オリンピックであることや、その10年・20年先のことも
考えたデザインって何だろうと。実現できるかは分からないけど、考えていることは色々
あって、クラスの子たちともよく話をします」
東京オリンピックの頃には、現在の「いま」が「6年前の記録」になる。木下さんが集めて
いる「いま」の集積は、それ自体がひとつの完成形でありながら、同時に未来への種まき
でもある。6年後、あるいは10年後20年後、どんな花を咲かせてくれるのか楽しみだ。

(2014.9.19)

執筆:角田結香(アート・コミュニケータ とびラー)

 

秋晴れの9月15日(月・祝)、『メトロポリタン美術館 古代エジプト展 女王と女神』展示室内2階休憩スペースで、とびラーによるワークショップ「古代文字ヒエログリフを書いてみよう!~イロイロとび缶バッジ~」を実施しました。

展示室を訪れた方々の鑑賞をより深めるための工夫はないかと思案したとびラーが、展示物に散見されるエジプトの古代文字(ヒエログリフ)に着目したことから生まれたワークショップです。自分の手で実際にヒエログリフを書いてみたら、神秘的な絵文字の刻まれた展示物をもっと身近に感じられるのではと考えたのです。そしてその体験を、美術館への親しみも込めて缶バッジに仕上げて持ち帰っていただこうと、オリジナルの50音表や台紙を作成して臨みました。

 

会場入口には大きなモニターを設置しました。とびらプロジェクトの活動と、今回のワークショップの成り立ちを紹介するためです。このワークショップのメイキングビデオの撮影&編集ももちろんとびラーの手によるものです。早速、動画に誘われて鑑賞を終えた方々が集まってきました。

 

受付では、ワークショップの主旨と作業手順を丁寧に説明してから50音表をお渡しします。ちいさなお子様の参加者に該当文字をマーキングして差し上げたのも、とびラーらしいおもてなし。「お名前は?」「○○ちゃんのお名前には鳥さんの絵がたくさんあるね!」と、受付での一コマにも参加者ととびラーの微笑ましいコミュニケーションが生まれていました。

 

50音表を受け取ったら、次は台紙選びです。この台紙は、東京都美術館の壁や床、ソファーなど、館内のいたるところの写真をプリントしたもの。ここにヒエログリフを書き込んだら、まるで東京都美術館の建築物に自分の名前を刻み込むような気持ちになりませんか?

 

作業台では、楽しそうに熱中する姿があちこちで見受けられました。一見難しそうなヒエログリフも、真似して書いてみたら意外に上手に仕上がるので、次々に感嘆の声があがります。

テーブルには書き順表や、とびラーが書いた見本もたくさん並んでいます。ヒエログリフには発音を充てた「表音文字」だけでなく、個々の意味や固有名に則した「表意文字」もあるので、ここではその一例として「ハトシェプスト女王」「ハトホル女王」など今回の展示にちなんだ名前や、「永遠」「健康」「やあ!君!」といった身近な言葉の表記を紹介しました。ご自身の名前に「永遠」の文字を組み合わせた作品を作った方もいらっしゃいましたよ!

 

作品が書けたらマシン台へ移動、とびラーが缶バッジに仕上げます。ドキドキ・ワクワクしながらプレスされるのを待つひとときもまた楽しいもの。でも実はその瞬間、担当とびラーも内心はドキドキです。世界でたったひとつの作品を仕上げるお手伝いをしているのですから、にこやかに対応しつつも失敗したらどうしようと気が気ではありません。だからこそ仕上がった喜びを参加者と共有できた瞬間は至福の時です。

 

素敵に仕上がった缶バッジにご満悦な参加者に「見せてください!」と、すかさずとびラーが声をかけます。「この背景の写真はあそこの壁のタイルです」「これはほら、この窓から見えるあの植え込みの石ですよ」「これは1階のアートラウンジにある椅子ですね、ぜひ帰りに覗いてみてください」等々のコメントとともに、東京都美術館のマップに撮影場所をマーキングしてお渡ししていたのは、『建築ツアー』でも活躍中のとびラーです。缶バッジをきっかけに、東京都美術館の建築物としての魅力をお伝えできたのも有意義なひとときでした。古代エジプトに思いを馳せつつ美術館の建物を意識してみると、3500年の時を超えて存在する展示品の偉大さもあらためて感じられたのではないでしょうか。次は『建築ツアー』でお会いしましょう!とのお約束もぜひ覚えていてくださいね。

 

こうして4時間半のワークショップが、たくさんの笑顔とともに終了しました。「展示品のヒエログリフをもう一度見てみたくなった」と展示室に戻られた方、「友だちに自慢したい!」と笑顔で伝えてくださった方、「職員証に付けて愛用する」と早速つけて見せてくださった方、「ヒエログリフの書き取りテストがあったら百点とれる!」との頼もしい小学生、「敬老の日のお祝いにおじいちゃまの名前を書いた」と教えてくださったご家族・・・ご参加いただいたみなさまが、今回のワークショップを機に『メトロポリタン美術館 古代エジプト展 女王と女神』を振り返り、鑑賞を深めていただけましたら幸いです。

わたしたちとびラーも参加者のみなさまと古代エジプト文化の一端をきっかけとしたコミュニケーションを存分に楽しませていただきました。

わたしたちとびラーは、これからも美術館がより身近な場所になるための活動を続けていきたいと思っています。みなさまとの再会、そしてより多くの新たな出会いをも願いつつ・・・。

筆者:とびラー 小松 一世

『メトロポリタン美術館 古代エジプト展 女王と女神』開催期間中の9月13日に、とびラボから生まれた恒例企画、「とびらボードでGO!」が開催されました。
特別展覧会の会場内で小中学生を対象に貸し出されている磁気ボード(愛称は「とびらボード」)。東京都美術館ではこの磁気ボードを使って展示作品のスケッチができます。いつもは描いた絵を家まで持ち帰ることができませんが、「とびらボードでGO!」の開催日は違います。描いた絵をポストカードサイズに印刷して、塗り絵にして持って帰れるのです!参加は当日来館した小中学生なら誰でもOKです。

入り口でとびラーから企画の説明を受け、ボードを手にした子供たちの目はすでにキラキラです。美術館でお絵かきができるなんて、初めての体験だというお子さんも多かったのではないでしょうか?

こちらが展覧会入口に設置された「とびらボード」の貸し出し場所。「ボードに傷はないかな?」「しっかり紐はついているかな?」と、とびラーはボードのチェックに余念がありません。

展覧会を満喫した後は、完成したとびらボードを2階の特設印刷所に持って行きます。するとスタンバイしているとびラーが描いた絵をパソコンで加工し、塗り絵にします。塗り絵は展覧会をイメージした枠の中に印刷されるので、特別感もアップしますね。実は裏面にはメッセージを描けるようになっていて、本当にポストカードとして使えるのですよ。

印刷場所のすぐ横には色鉛筆で塗り絵ができるスペースも完備。印刷したての塗り絵に、展覧会の記憶が鮮やかなうちに色を塗ることができます。
 


色鉛筆片手に、子どもたちの表情は真剣そのものです。図録を開いたり、本物をもう一度見に展示室に戻ったり…。本物を何度も見ながら絵が描ける、そんな贅沢な体験ができるのが、「とびらボードでGO!」の大きな魅力です。「うちの子がこんなに真剣に絵を描くなんて!」「この子がこんなに美術品が好きなんて、知らなかった」と、保護者の方々にとって新たな発見があるのも、この企画ではよく見る光景。今回も新たな発見があったでしょうか?

「ここはどんな色だったかな?」
親子で、兄弟姉妹で、友達同士で、こんな話し合いをしながらの色塗りも、楽しいものです。
 

完成した自信作と一緒に。参加者数は71名、たくさんの傑作が生まれました。彫刻など立体作品が多くみられる展覧会でしたので、絵にするのは難しいかな?と思いきや、小さな芸術家たちにそんな心配は無用です。大人でもはっとさせられてしまうユニークな目の付け所や細部まで行き届いた観察に、今回も感嘆の声がいくつも聞こえました。

作品をよーく見ながらとびらボードにスケッチする内に、子どもたちの心の中で「自分なりの美術品の見方、美術館の楽しみ方」がきっと見つかるはず。そんなことを考えながら、今後も「とびらボードでGO!」を続けていきます。次回の開催をお楽しみに!

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筆者:アート・コミュニケータ(とびラー)鈴木直歩
普段は大学生。裏の顔(?)はアート・コミュニケータ―!「とびらボードでGO!」企画の立ち上げメンバーの一人でもある。
「美術館にやってきた子どもたち!大人の背中にくっついていないで、とびらボード、つかってみませんか?」

ワークショップ「楽園」への手紙は、全日程を終了いたしました。
沢山のご来場まことにありがとうございました。


上野はここのところめっきり涼しくなってきました。
夏の強い陽射しが和らぎ、秋めいた空気の中でゆっくりアートを楽しみたい気分です。

美術館に足を運ぶと、自分自身と向き合うような独特の内的な雰囲気に包まれます。
一つ一つの作品が放つ色々なものを受け止めながらぐっと別世界に引き込まれる鑑賞のひととき。
時には作品の力で心を動かされることもあります。
心に渦巻く想いを作り手の方へ伝えてみませんか。
「楽園としての芸術」展では、ワークショップ 「楽園」への手紙を開催中です。
作品鑑賞の後、作り手の方たちへ向けて手紙を書くことができます。
今日は、これまで開催されたワークショップの模様をお伝えします。


ワークショップの開催場所は、展覧会会場内の奥にあります。
下の写真に写っている白いポストが目印です。
付近にいる アート・コミュニケータ(※)がご案内しますので、どうぞお気軽に声をかけてください。

机の上には色紙と色鉛筆がセットしてあります。
手紙のサンプルや図録の用意もあります。

図録をゆっくり眺めながら、何を書こうかな・・・、思案中です。

すぐに書き始める人も筆を取るまで時間がかかる人も、一旦書き始めると、みんな没頭!
文章を書く人、絵を描く人、大きな文字でシンプルに書く人、裏表びっしり書く人、思い思いに、しばし書面に集中する時間が流れていきます。

書き終わったら、切手シールを貼って消印を模したスタンプを押します。
消印スタンプは、実は手紙の行先を示しています。
しょうぶ学園行きの手紙には菖蒲の花のスタンプを、アトリエ・エレマン・プレザン行きの手紙にはお家のスタンプを押します。
このスタンプ、アート・コミュニケータの手作りで絵柄がとっても可愛いんです。

好きなところに好きなだけ、押したり貼ったり。
中には一面スタンプでいっぱいにする人も。

完成した手紙は「楽園」への手紙 専用ポストに投函して終了です。
投函された手紙はアート・コミュニケータがお預かりし、 作り手の方々のアトリエへお届けします。

老若何女、津々浦々から、さまざまな方々が立ち寄って手紙を書いていかれました。
夏休みに親子でいらした方、旅行で上野の美術館巡りの最中という方、アトリエをもって絵の先生をされているという方、海外からお越しの方。
手紙を書きながら展覧会や作品への想いについて語ってくださる方もいらっしゃいました。
お話を伺いながら、作り手側だけでなく作品を観に来てくださる方にも、観に来るまでの物語があることに気づかされました。

皆さんのお手紙を作り手の方々のアトリエへお届けできることに、わくわくしています。

ワークショップ「楽園」への手紙は、全日程を終了いたしました。
沢山のご来場まことにありがとうございました。

(※) アート・コミュニケータ(愛称:とびラー)は 東京都美術館を拠点に、人と作品、人と人、人と場所との つながりを育み支えるための様々な活動をしています。
アート・コミュニケータは美術館の学芸員や職員ではありません。
会社員や学生や主婦をしながら、ボランタリーに美術館と関わっています。



 筆者:とびラー 中野未知子(なかのみちこ)
 フリーランスとして企業で研修やワークショップの企画、運営を行う。
 アートを介したまちばのコミュニケーション・デザインを研究すべく
 アート・コミュニケータを志す。
 多摩大学 経営情報学部 非常勤講師/立教大学大学院 比較組織ネットワーク学修士

 

 

 

「スペシャル・マンデー・コース:墨田区立小梅小学校」 の様子はこちら⇒
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)

「スペシャル・マンデー・コース:足立区立栗島中学校」 の様子はこちら⇒
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)


「スペシャル・マンデー・コース:台東区立金曽木小学校」 の様子はこちら⇒
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)

上野公園の木洩れ日が眩しい2014年夏の午後、東京都美術館2階のプロジェクトルームのスクリーンに高橋氏の映像作品が写し出されました。画面から流れこぼれる音が高橋氏の声と重なり、一対となりながら過去、現在の作品を解読。素敵な上演会となりました。映像の余韻に浸りつつ2015年卒業修了作品展に臨む高橋氏の今をお話しいただきました。

“高橋育也と申します。僕は藝大先端芸術表現科に所属し、主に映像作品を制作しています。時系列順に僕の作品をお見せします。”

5分間ほどの映像がスクリーンに映される。学部2年次作成のアニメーション作品。無音の中、音を消したノミで金属を叩くような音が規則正しく小さく鳴る、その中をピアノの音が不規則に聞こえてくる。

“音楽はここでは、意味がありません。意味のない音の並び、音符の中をト音記号が冒険していきます。楽譜の右下のこれは反復記号セーニョ。終わりという意味の記号を、物憂げな様子の女の子に捉え、左上にいるト音記号が右下にいる反復記号に花を届けに行くというロマンチックなストーリーです。手書きの一枚の画像をPCの中で動かして作りました。アニメーションの手法の練習もかねて2週間で制作。他の記号も関係させ、動きと音が連動するミュージカル風なもの等に発展させて将来早い時期にどこかで発表したい作品です。”

続いて学部3年次作成のアニメーション作品がスクリーンに映される。アメリカのテレビアニメ「ザ・シンプソンズ」を彷彿とさせる画像。男性が部屋のなかをうろつき、英語の独り言が響く5分間ほどの作品。

“これは単純に絵を楽しむアニメーションです。アメリカのプロダクションとの共同作品です。脚本とコンセプトはアメリカのプロダクション、僕が作画・ビジュアル担当し1か月以上時間をかけてデータをやり取りしながらの合作です。脚本が固まっていない状態で参考画像から絵を起こし、向こうが編集。相手の要求に対応するこの形が、僕はモチベーションが上がりやすい。他の人と共に作り上げる。このやり方が自分には合っています。“

 

高橋氏にコミュニケーション能力の高さと日本人の職人気質を感じた。
 
最近の制作、活動についても語ってくれた。

 

“一昨日、数人のグラフィックデザイナーに同行し、会津の伝統工芸品、和蝋燭に絵を描く工場等で2時間半の映像を撮ってきました。その時の実写映像を少し見てください。”

和蝋燭の絵師へのインタビューの映像がスクリーンに映される。

“これはまだ編集をしていない素材段階の映像です。実際に工場に足を運び、蝋燭に絵を描く職人さんの姿を撮影しています。このシーンは、職人さんの手のアップや、解けた蝋の中に蝋燭を入れて微妙な加減で仕上げるその瞬間を捉えています。

和蝋燭は芯が太く灯の勢いが大きい。溶けた蝋が外に垂れない、描かれた絵が侵食しない、優れた工芸品です。会津の和蝋燭は花が描かれるのが伝統で、江戸時代は雅な贈り物として裕福な階層の人が愛用し、会津藩の武士の奥方が内職として作っていたそうです。行程(和ろうそくでは塗り、削り、仕上げなど)、風土、歴史、用途などを海外の人にも判りやすく、2分間ずつの画像に纏めます。”

“これが卒業制作のラフです。まだ整理されていない画像ですが。”

 

3分間ほどカラフルな映像がスクリーンに映される。色鉛筆の跡とマットな色感、木炭のこすった跡が動きとなって鑑賞者の目に飛び込んでくる。

聞こえてくるのはくるくる回る金属音と男の波長の合わない息の音、それがリズムカルに画像を進める。

“一枚一枚描いて大学生活最後に手書きのアニメーションを作ります。ストーリーは男が自転車漕いで飛んで行くというもの。今はまだまだ途中段階です。このあと男が自転車を漕いで空を超えて大気圏を突き抜けて宇宙空間にいきます。宇宙空間でも男は自転車を漕ぐ。彗星群が魚の群れのようにきて男は網を広げて彗星群を捕まえて地球に帰ります。老人が海でカジキマグロと4日間死闘し、港に戻ってくる。そんなヘミングウェイ作「老人と海」のように、シンプルな構造だけど骨太な作品を目指しています。

追い込みの時期が追っていますが、1人で描き1人で音を拾いすべてを1人で行います。

これから1人で作品を作ることはほとんどないと思うので、卒業のタイミングで全て1人で制作することは大事な事だと思っています。

今回はクロッキーのぐじゃぐじゃの線、ぐじゃぐじゃの色、生感、不揃いなテクスチャーを、色抜きもしながら生きた線として出していきたいと思っています。ストーリーに仕掛けも必要だと思っていて、更にブラッシュアップして卒業作品に仕上げていきます。”

 

藝大先端芸術表現科に進学したきっかけは?

“映像をやりたい、それは先端芸術表現科しかないと思い進学しました。”

 

授業で色々学ぶうちに映像をやりたいという気持ちはぶれなかった?

“一年生の時、気持ちがぶれて苦しみました。

大学で教えらえるのは現代アートが多かったので今まで自分の持っていた価値観が揺らいだ気持ちになりました。自分の作品を現代アートの見方で見たときに、それでいいのか悩みましたし。それで2年の夏まで一年間作品を作れなくなった時期もあります。その苦しみから抜け出したのが最初に見てもらった音符の作品。復帰第一号の苦しみ抜いた作品でした。“

 
音譜の発想はどこから?

“締切がどんどん迫ってきて最初に作っていた作品があったのですが、それは気に入らず諦めました。

在る時、楽譜を見る機会があってその時に一番右下の記号が女の子に見えた。そこからストーリーを広げて一番最初のト音記号を男にしちゃえと思ったのです。ここでふわっとストーリーが湧いて時間に追われながもなんとか提出しました。この作品はそれなりに評価されました。これで良かった、僕の方向性が間違っていなかったと納得した作品です。“

 
これから・・・

“卒業後はミュージックビデオ、短いCM制作をやりたい。
また、映像チームを作ることが理想です。カメラマン、脚本などそれぞれの専門家が集まり、僕が映像アートデレクターで、独立したチームで色々な仕事をしたい。“

独立ですか?早いですね。
“頼れる母体があると色々な意味で安心ですが、最初からチームで独立して苦労したい。僕の理想です。”

好きなアーテイストは?
“絵画はルドン、パステル画の花が好きです。印象派の特にモネも。東誠というフラワーアーティストも好きです。

映像作家のヒーローはスパイク・ジョーンズ。僕が映像を志すきっかけになった人です。スパイク・ジョーンズのミュージックビデオや“I’m  Here”という短編映画を見て衝撃を受けたのを覚えています。最近では映画“HER”人工頭脳に恋をしてしまった近未来のラブストリーがありますが、この映画でアカデミー脚本賞を取っています。“

穏やかな人柄の高橋氏のルーツは?
“母親が自宅でピアノ教室をやっていて、家で常にピアノが鳴っている状態で育ちました。とてもポジィティブな家庭なんです。

約1年間、プロジェクトアシスタントとして私達の活動のお手伝い、映像なども担当頂きましたが、とびらプロジェクトをどう感じていますか?
“魅力を感じています。この場所で自分の幅が広がりました。”

こちらこそこの一年間、とびラーを支えて頂きありがとうございました。

(2014年7月20日)

<後記>

高橋氏の回りにはワークショップなどでよく子供たちが集まります。子供たちはそこにヴォールドディズニーと近い温かさを感知するからでしょうか。

高橋氏の卒業作品のアニメーションを、あの子供達にも幸福の気分を味わいたい人全てに見て頂きたい、そんな思いに駆られています。高橋氏のピュアな目がその黒縁のめがねの奥からきらきら覗きます。映像作家・高橋育也氏、卒展作品の主人公のごとく、宇宙にゆっくりと羽ばたく様子が目に浮かびます。
 
執筆:山木薫(アート・コミュニケータ「とびラー」)

障がいのある方の為の特別鑑賞会、今回は「メトロポリタン美術館 古代エジプト展—女王と女神 編」が会場です。
8月の暑い日にも関わらず大勢の方にご来館頂きました。

とびラーによる受付です。事前にお送りした案内状をご提示頂いています。

展示室内の様子です。

今回はiPadを使用した新しい試みも。とても小さい作品もiPadの画像を拡大すると、細かい部分をよく見ることができます。

作品を通じていろいろなお話が広がります。

次回の特別鑑賞会は12月「ウフィツィ美術館展」です。

(「とびらプロジェクト」アシスタント 大谷郁)

 アクセス実践講座の第2回目です。今日の講座では、お二人の講師をお招きし、お話を伺います。

林建太さん(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ 代表)

 林さんが代表されている「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」についてのお話を伺います。林さんがなぜ、視覚に障害のある方々と鑑賞をしようと思ったのか、その原点や鑑賞中(活動中)に交わされる言葉などについても話しが及びます。
 2014年3月には、とびラーによる「視覚に障害のある方々との鑑賞プログラム『トーク∞トーク』」の実施に向けても、林さんたちにご協力頂きました。(東京都美術館で行なわれている「障害のある方のための特別鑑賞会」内において実施)その時のわたしたち自身の活動についても振り返ります。


杉山貴洋先生(白梅学園大学子ども学部准教授)

 こどもの表現についてのお話の後、実際に手を動かす活動も行いました。「芸術の原型に近づこう!」という杉山先生の呼びかけの下、筆と墨汁で自分の目の前に座っている人の自画像を描きます。左手だけで描く、一筆書きで描く、画面を見ないで描く…、様々なルールをかせられて描く絵。少しずつ絵がのびやかに変化していきます。絵を見る時間よりも、目の前の対象をじっくり見る時間をもつこと。相手を感じて描きます。


 実際に自分の手を動かすワーク。頭で理解したことが、身体と結びついたとても楽しい時間でした。

(東京芸術大学美術学部特任助手:近藤美智子)

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