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「『共感の種』からはじまる、偶然を加速する試み」 藝大生インタビュー2017|デザイン 学部4年・平山義活さん

 

「ここは就労支援の施設になっていて、記帳代行とかウェブサイトの作成をする人たちがいるんです。ここはステージになってて、たまに誰かが演奏したり・・・そう、壁にギターがかかってるんです!で、夜はこっちの食堂でみんなで一緒にご飯を食べて・・・。そうそう、ここには・・・」

 

パネルのあちこちを指さしながら楽しそうに話しているのは、デザイン科4年生の平山義活さん。

デザイン科の4年生が全員で使用しているという、大きな部屋。その一角にある、小さく整然とした作業スペース。ここが平山さんのアトリエだ。しかし、平山さんが普段「いる」のは、ここではない。

「もし自分がこのなかにいたらどう過ごすだろうって、見た人に想像してもらえたらいいなって思ってるんです」

見せてくれたのは奈良県奈良市にある“社会福祉法人ぷろぼの”を紹介するパネル。今年の4月から、平山さんは奈良を活動拠点としてそこに滞在し、卒業制作の取り組みを進めてきたという。彼が卒業制作として「デザイン」するものは、具体的な「もの」ではない。では一体、どんなまなざしがそこに宿っているのだろう?

 

◇自分がなすべきデザインとは

「僕がいま興味を持っているのは、『人の暮らしをデザインすること』なんです。

もともとは人の暮らしをよくするために、プロダクト(製品)デザインに興味をもったのですが。大学に来て学ぶうちに、安く大量にものがある現代で、新しいものをデザインすることが、自分にはそんなに求められていないような気がしてしまったんです。

だから、卒業制作を始めるときに、『自分は何をつくりたいんだろう?』って、改めて考えることになって」

「じゃあ自分はどういう暮らしを求めているのかなって、考え直してみたんです。

僕はずっと、都会のディスコミュニケーションに漠然とした不満があって。隣に住む人との交流の薄さとか、満員電車のなかで他人を気遣えない人にもやもやしていました。

そういう人間関係とか生活の在り方に、デザインはどう関わっていけるだろうって考えていたら、デザイン科教授の須永先生から、ある日突然「ちょっと奈良に行かない?」って言われて(笑)。『奈良のプロジェクトがDesign@Comunities Award2017に選ばれたから、行ってみようよ!』って、声をかけられたんです。

 

人の営みをデザインの力でどうにかできないかなって思った時、自分が持っているのは漠然とした社会に対する憤りだけで、これでは人はついてきてくれないなと、以前ある人に言われた言葉を思い出しました。『じゃあ、僕はどんな人のつながりが好きで、どんなふうに未来を展望して、未来にどんなユートピアを描くことが出来るんだろう?』と考えた時に、自分はそういった良いと思える人とのつながりをまだ感じたことはないんだな、じゃあ大学休学して、どっかの田舎の里山にでも一年間暮らしにいってみようか!って考え始めていた頃、とりあえず行ってみたんです。そしたら、奈良で会った人たちとすごく仲良くなっちゃって。とにかく居心地がよかったんですよね。もっとこの共同体のことを知りたい、知らなきゃ自分は、かたちにできない、と思った。なんにも決まってなかったけど、勢いで『卒業制作で関わりたい!』って宣言してみたら、『グループホームの部屋、一つ余ってたよね』って理事長の方が提案してくれて。とんとん拍子で4月から奈良に滞在することが決まっていきました」

 

 

「奈良での一日の過ごし方は、わりとぐちゃぐちゃというか、毎日行き当たりばったりで。僕が暇してると、『これから春日大社に行くんだけど、一緒に来る?』とか『今からこういう会議があるから一緒に出てみようよ』みたいなかんじで、『おいで~』って色んな場所や集まりに誘ってもらえる。日中はそんなかんじでわちゃわちゃ過ごして、夜ご飯はこの食堂で食べて、お酒飲んで、みんなで話したり歌ったり。それがすごく面白いんです」

 

奈良での過ごし方について楽しそうに話してくれる平山さん。
働き方、食事のこと、そこにいる人たちとのエピソードなど、話題は絶えない

奈良での出来事について話すときの平山さんは、目がきらきらして、熱量がある。とても楽しそうだ。お話のなかには様々な、平山さんが奈良で出会った人たちが登場するのだが、まるで本当に「その人」が話しているかのような声音、身振り手振りでその会話を再現してくれる。平山さんは本当にこの場所が好きなんだなぁ、と伝わってくる。

 

◇人とのつながり、縁、きっかけ

「奈良では、実際にあたつく組合やぷろぼの食堂の人たちと一緒に働いてみたりしたので、そこに関わっている人たちにインタビューをしました。大体40人くらいの人に話をきいたかな?」

 

そう言って見せてくれたのは1冊のノート。左側のページが働き方に対するアンケート、右側のページに平山さんが聞き取りをした際に書いたメモやスケッチがある。アンケートの答え方も人それぞれであるが、平山さんによるイラストとメモがそのストーリーを深めている。どうやら、たくさんの人の人生がそこに詰まっているようだ。

 

「沢山の人にインタビューしてみて気づいたのは、みんな意外とさりげないきっかけでこの場に関わり始めたんだということ。人のつながりって偶然なんだなって、聞けば聞くほどに思いました。

多くの人が、『いろんな人とつながってみたい』とか、『人と出会うきっかけが欲しい』って話していたのが印象的で。新しい出会いへの不安もあると思うけど、化学反応というか、その先にある希望を楽しみにしている共同体なんだ、って改めて思いました」

人とのつながり、町という場所。東京で生まれ育った平山さんにとっては、様々な人と密な関係を持てることが、とても新鮮に感じられたのだそうだ。そしてそれは、平山さん個人の在り方にも影響を及ぼしていた。

 

「僕も学生としてよくしてもらっているのではなくて、ひとりの人として尊重してもらえている、とよく感じます。今の自分を見てくれる場所、っていうのかな。存在を認めてくれるつながりが、心地よいのかなって思いますね。障害のある人や福祉に関わる仕事だからとか、単純にそういう話ではなくて。ひとりひとり得意や不得意なことは違って、それを受け入れてくれる人がいる場所だから、色んな人が自然に集まってくる」

「僕の居場所がここにあるんです。それに共感できる人を広げていきたい。」

 

◇《栞、つなぐ、プロジェクト》

いま制作中の作品として見せてもらっているものは、木の形をした二つのパネル。片方にはぷろぼの食堂の見取り図があり、人の動きと空間の様子がわかるようになっている。パネルには何やら穴がたくさんあいており、この穴はポケットとなって、“栞”が収まる場所になるらしい。

「このパネルをなんて呼ぶか、まだ迷っているんですけど・・・。僕が今回の制作でめざしているのは、僕自身が感じた居心地のよい体験から、輪を広げて成長していくような人のつながりなんです。

パネルでぱっとみえるのは各場所のランドスケープ。空間のなかで人がどのくらいの距離感で関わっているかとか、どんなテンションで関わっているかとか、どんなふるまいをしているか・・・とか。見る人が『自分もこの場所に入れるかもしれない、入ったらどう過ごすだろう』って主観的体験ができるようなものにしたいんです。

 

ここにカードみたいな『栞』があって、この栞には、組合の活動のなかで、僕が体験した『いいな』って瞬間のエピソードが書いてあるんです。この栞は、会場で作品をみた人が持ち帰ることができます。僕が『いいな』って思ったつながりに、まずは実際にふれてみてほしい。」

 

そういって渡されたのは、手のひらサイズの“栞”。なるほど、平山さんの実体験が書かれているのか。

手のひらサイズの“栞”には

一枚一枚に違うエピソードが書かれている

「栞を手に取って、興味があるところから見ていき、参加するイメージが湧けばいいなと。

栞っていい言葉だなって思っていて。響きも素敵だし。手引書みたいなイメージもあるし、本を読むときの目印にもなる。時間の流れの中で、未来や過去をつなぐ役割もあると思うんです。例えばここに関わっている人が栞を見て、自分たちの活動について見返す目印になったらいいな、とも思っています。他にも、過去にいた人たちを思い出すきっかけになったり、何かの変化に気づくかもしれない」

 

平山さんの私的な体験と、それに価値を感じる心。この“栞”に書かれているのは、確かに平山さんの心が動いた瞬間なのだ。それと同時に、働く人にとっては勇気づけられるような視点かもしれない。まだ見ぬ人を呼び寄せる存在でもあると同時に、これまでの活動のアーカイブでもある栞。そしてまた、平山さんの居場所の目印、でもあるのだろう。

 

「これは、僕の居場所を広げるためにやっていることでもあるんです。僕の『いいな』に共感できる人を、巻き込みたい。卒展でこの作品をみて、実際に栞を手に取ってくれた人が、例えば何かの機会でたまたま奈良に足を運んだときにでも、この栞を思い出してふらっとお店に寄ってみたり、場合によっては栞を持って訪ねてくれたらいいなって思っていて。この栞が『共感の種』となって、実際に食堂まで行ってみようかなって思ってくれたり、さらにそこで新しい人と人とのつながりが生まれたらいいなって。東京と奈良、それぞれにいたら出会う機会のない人たちが、共感によってつながる可能性もある。」

「作品のタイトルは《栞、つなぐ、プロジェクト》。はこの先、僕が人を巻き込むツールとしての役割を果たすことができるし、栞の存在そのものが人と人がつながるきっかけになる役割も果たすことができる、そうなればよいと思っています。また、僕が今回奈良のの人たちとつながった証を、目に見えるカタチとして残せる絵日記みたいな要素もあって、栞は時空を超えて、過去と未来に起こる『人がつながる』ことに干渉する。だから「つなぐ」は現在形、むしろ過去から現在、現在から未来までをまたがる進行形なんですね。プロジェクトのロゴは三つの『人』の字からでできていて、花と根の関係に見えるようになっています。パネル全体が木の形になっているので、人が集まって、葉や花になっていく可能性や、種となる“栞”を持ち帰ってもらって、次の場所で芽吹いていく、そんなイメージです。」

 

平山さんの『共感の種』から生まれる収穫と栽培。果たしてそれは、どんな実を結んでいくのだろう?

 

◇奈良と東京、平山さんも作品も行ったり来たり。

「十二月には奈良駅の前にこのパネルを実際に設置して、道行く人たちに見てもらおうと思っているんです。もちろんパネルを置くだけではなくて、常に僕の存在が一緒にあって、立ち止まってくれた人に声をかけたいなと。そこでもし『ここに行ってみたいな』って人が現れたら、ぷろぼの食堂まで連れて行って、一緒にご飯を食べられたらいいな、とか。歩く道すがら、食事しながら色んな雑談をしているうちに、僕以外のひとと共通の話題があったりして。僕の作品は、人とのつながりを加速する装置なのかもしれないですね。偶然の加速、みたいな。」

「他にも奈良で関わっている場所や人のつながりがいくつかあって、そちらも同じようにCGでランドスケープをつくっています。これと似たようなパネルが後四つくらいできる予定です。展示するときは、立体的な六角形の空間ができるイメージで。わっかになるように、循環するように、見てもらえたらいいなと思っています。空間の内側がランドスケープになっていて、外側では文章と図解でこのプロジェクトのコンセプトがわかるようにしようと思っています。」

「この展示では、僕がそこにいる必要性がすごくあるんです。僕が話さないと伝わらないことがすごくたくさんあって。だからどの展示でも、できるだけ作品の前に立って、色々な人とお話しできたらと考えています」

 

「一月末にはこの上野で卒業制作展があるのですが、そのあと三月に、奈良でも展示をする予定です。実際にこの舞台になっている施設で公開することができる。そこでやっとひとつの区切りを迎えられますね。」

お話を聞けば聞くほど、これらの取り組みが一つの作品というよりは、本当に新たな交流や邂逅を生み出すための、地道であたたかいプロジェクトであることがわかる。「共感」という純粋で人間らしい感覚をもって、平山さんは他者と対等に向き合おうとしているのだ。その素直さは人柄の魅力でもあり、このプロジェクトの要であるようにも感じられる。すでにある関係を拡張していくコミュニケーションデザイン、それは単なる仕組みづくりに限らず、「他者に心をどう開くか?」ということが重要であるだろう。平山さんが模索しているのは、いつのまにかつながりから遠ざかってしまった人たちの、心の開き方なのかもしれない。

 

 

 ◇人が住みやすい街へ

「卒業後は大学院にすすんで、まずは一年間、“地域×デザイン”のテーマについて調査をしようと思っています。まだ興味を持ってから日も浅いし、知らないことも多いので、ちゃんと勉強しようと思って。」

「この制作をもって奈良での活動はひと段落を迎えますが、奈良はこれからも、僕の居場所のひとつであり続けると思います。

まだ今後の制作をどんなものにしていくか、はっきりとは決めていないんですが、ゆくゆくは東京でも、居心地よいつながりのある暮らしをつくりたいなと思っているんです。

今の東京だと町は仕事をするために住む場所で、土地への愛着を持っている人ってそんなに多くないような気がするんです。でも、たしかに都会と田舎で、土地への意識に差はあるかもしれないけれど、人の共感のつながりによってコミュニティは活発になると思っています。

単なる利害関係とか、仕事上の表面的なつながりじゃなくて、それこそ“共感のツボ”が合う人同士で頼りあっていったら町ができた・・・みたいな。そういう共感の輪が広がっていったら、いつかきっと住みやすい町になるんじゃないかなって構想がありますね。人と人とのつながりにおいて、偶然を加速する仕組みをつくっていく試みを続けていきたい。

 

共感がベースとなって何かを作るという実績が、アカデミックな分野でもちゃんと評価されて、プロダクトデザインにも活用されるようになってほしいという気持ちもありますね。小さい規模で目の前の幸せと向き合うというか。人の暮らしを生でつくっていく現場、実感が、もっともっと広ったらいいなと」

インタビューの途中、ふとこぼれたのが「僕も本当はハードがつくりたい(=もののデザインがしたい)んですけど・・・」というつぶやき。思いがけなく、ぼろっと本音が落ちてきたような一瞬だった。プロダクトデザインへの関心も、決して薄れたわけではないのだろう。もしかしたらそう遠くないうちに、この活動と結びついて新しいハレーションが起こる日が来るのだろうか。

 

 

「もう東京にいるよりも、奈良にいるときの方が『帰ってきた』っていうかんじがするんですよね」

一年前、奈良を訪れる前の平山さんとは、どんな人だったのだろう。そして奈良での時間は、彼をどのように変えたのだろうか。

人とのつながり、共感の輪。平山さんが話してくれた言葉はどれも、実感に満ち溢れていていた。様々なメディアの登場によって、人との距離感が急速に変容しつつある現代社会。平山さんが求めているつながりは、とても原始的なものとも言えるが、普段の暮らしのなかで人間関係や、居心地の良さに目を向ける大切さについて、あたたかく気付かせてくれる。

 

眉尻をさげながら語ってくれたその瞳は、目の前に奈良で出会った人たちが見えているようだった。なんだか平山さんと話していると、彼の存在を通して、奈良にいる多くの人に会っているような気がするのだ、本当に。

一月の卒業制作展まであと少し。会場に入ったら、平山さんの活き活きした瞳と、その豊かな語り口に、ぜひ出会ってみてほしい。

 


インタビュー:鈴木重保、山本俊一(アート・コミュニケータ「とびラー」)

執筆・撮影:峰岸優香(とびらプロジェクト アシスタント)


第66回東京藝術大学 卒業・修了作品展
2018年1月28日(日)- 2月3日(土) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場:東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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2018.01.16

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