東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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「漢字から感じる世界を、視覚詩という作品へ…。」 藝大生インタビュー2017|デザイン 修士2年・大谷陽一郎さん

11月の末日、曇り。

冬の訪れを感じさせるキリッとした空気に鮮やかな紅葉、その奥にある総合工房棟。

その風景はまるで、切り取られた瞬間のよう …。

「初めまして、大谷です。本日は宜しくお願い致します。」

入口でこう話された大谷さんは、穏やかな柔らかい物腰の方。

エレベータを降りると、大きな窓から光が差し込むアトリエに案内される。

卒業制作の中間講評会の直後ということで、

プレゼン用に、様々な学生の作品が展示されていた。

その中を進むと…。

 

(静けさの中に佇む、息遣いの様な気配を感じる…。あ、あった!)

思わず近寄りながら、食い入るように見てしまう作品。

(木、気、希、奇、喜・・・・沢山の「キ」がある…。)

白いパネルに群衆する様々な「キ」、重なり合い、うねる山の様な形を成している。

そんな私たちの姿を見て、大谷さんは作品について語り始めた。

「このパネルの上に縦にまた2枚繋がるので、まだまだ制作途中ですが…。」

 

【今回の作品について】

-今回の作品は「木」がテーマになっているのですか?

「今作のタイトルは「キ」です。漢字は同じ単音の中にいろいろな意味をのせることのできる言語です。「キ」という発音だけでも、たくさんの種類の漢字があり、そこに興味を持ちました。

「キ」という発音から、「鋭い」、「シュッ」としたイメージを感じました。」

 

-「シュッとする」とは、どの様なイメージでしょうか?

「「収束する」、「突き抜ける」イメージです。例えば「祈」は、天と繋がろうとする感覚、「飢」は極限に苦しむ状態、そして「希」もまた、強く願う「突き抜ける」感覚があります。」

-このラインは山でしょうか?

「山の下書きのラインです。この「突き抜ける」感覚と東アジアで捉えられてきた「山」のイメージに近いものを感じました。

 

山は東アジアで盛んに取り上げられてきたモチーフです。中国を起点に山水画や工芸品などに描かれてきました。そこに描かれた山々は抽象度の高いものです。山々をそのまま美しく写し取るのではなく、観念的な風景として描いています。そこに感じたうねりやざわめきのようなものを、様々な「キ」の漢字を使って表現しました。

 

漢字は他の言語と比べると、そこまで簡略化、合理化されずに現在にいたっています。それぞれの漢字が意味を持ち、形は複雑です。数は何万にも及びます。漢字が発生した時の自然の捉え方や、人々の感覚が含まれていると感じています。」

 

(その感覚が収束していくイメージが作品のテーマとして流れているような気が…。)

 

-ここに描かれている山は、どこの山なのでしょうか?

「具体的な場所に存在する山ではありません。ただ僕は大阪の富田林という山に囲まれた場所で育ちました。そこでの経験や東アジアへの興味からイメージして山を描きました。」

 

「最近、台湾のコンペに漢字の「門」をテーマにした作品を出品して、銅賞を頂きました。その時の応募者の半数が台湾と中国から来た方で、僕は英語も中国語も決して堪能ではないのですが、他の方の作品が伝えようとしていることが漢字を通してなんとなく感じることができました。逆に僕の作品も彼らは同じように感じとってくれたようでした。東アジアでは漢字が共通のイメージとして、根底に広がっているように感じました」

 

(その作品の伝わり方は、出会ったときにそこから段階的に作品の持つイメージや概念が立ち上がってくるような感覚だ。

大谷さんが感じた繋がりとは、作家と鑑賞者が、漢字作品が放つ共通の概念世界の中で出会えるということだ。

それはまるで、「心の故郷」のようだ。)

 

-この「キ」は手書きですか?

「感覚に色々なものがあるのと同じように、手書きしたものや、デジタルの書体で作成してプリントしたものを様々に、一つの画面のなかに混在させています。それらの漢字を切って、貼っていっています。」

 

-「木」が多く目につきますが、「木」が中心的な存在なのでしょうか?

「そうですね、作品のリズムの軸になっています。

最初は「木」だけを使おうと考えていたのですが、調べていくうちに「キ」の発音を持つ漢字の意味が自分の抱いていた「山」のイメージに近いと感じました。

「キキキ・・・・」という一連続したリズムを持ちながら「木」が存在し、その「木」に他の「キ」の漢字が収束する。するとそこで、また新たなリズムを持ち、活力や意味合いを広げていく様なイメージです。」

 

「今までは一つの漢字について取り上げて、その一文字から得るイメージを制作していました。

今年の1月に出版したのは「雨」という作品集です。ここでは「雨」の一文字を、さまざまな表現手法を通して描いています。

今回の作品では一文字にとどまらず、色々な漢字を使ってみようと試みました。」

【漢字に感じ、惹かれ合う出会い】

-漢字に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

「藝大に来る前は、桑沢デザイン研究所にいてグラフィックデザインを勉強していたんです。

課題とは別に、個人的にタイポグラフィーに興味があり、コンペに作品を出したりしていました。

 

その時期に、漢字の象徴性に興味を持ちました。例えば「雨」という文字から、実際に雨が降っている様子を想像することができます。

 

それは英語の「rain」では、わかりません。

 

パソコンやスマートフォンが普及している現在、漢字の存在は「処理」、「変換」する作業として、一つ一つの意味は流されがちです。

そういった体験をふと振り返った時、その漢字の起源から発するエネルギーや物質性みたいなものをグラフィックで表現したら面白いのでは?と思ったことが、これらの作品を作り始めたきっかけになっています。

この研究テーマをもっと深めたいと思い、藝大の大学院に入学しました。」

 

-漢字の「活力」は、どの漢字で最初に感じられたのでしょうか?

「「雨」ですね。「雨」は、収穫の恵・喜びや災害のもとにもなっていたため、昔の人々はそこに畏怖の念を抱いていたのではないかと思います。」

作品集《雨》より

 

(大谷さんは漢字に出会うと、頭の中に「イメージ」を喚起するものであると直感的に気づくのであろう。

その気づきは、一つの単語で言い表されるようなものではない。

理由が先行して起こるものでもない。

恐らく、本能から発してしまう野性的なものであろう。)

 

「他には歌川広重の東海道五十三次の絵をもとにして、「漢字」を切り口に制作したことがあります。

右のページに広重の絵をおいて、左のページでそこに描かれている景色をそのまま文字に変換して、モチーフにした漢字を収めた本です。

それをコンペに出品したところ、一人の審査員の目にとまり、先程の作品集「雨」の制作に繋がる出会いとなりました。作品として強く制作を勧められたのも「雨」の表現でした。

雨は思い入れのあるテーマです。」

 

(この「雨」からは、生命の根源的な息遣いが語り掛けてくるような感じがする…。)

 

-作品集「雨」は、一枚一枚がまるで絵画のようですね。

「本屋でも、「デザイン」のコーナーではなく、「美術」や「絵画」のコーナーやその専門取り扱い書店等に置いて頂いています。」

 

-「詩」の様に見え、感じますが、そういったイメージもありましたか?

「「視覚詩」というものがあります。

文字の「配置」、「イメージ」を持って、視覚的に詩の世界を作りだすものです。

実は、大学院での研究テーマが、「漢字による視覚詩」なので、そう感じて頂けるととても嬉しいですね。」

 

【デジタルとアナログを行き来する】

-この「雨」の作品はどの様に作られたのでしょうか?

「まず、自分でイメージを紙に描き、それをスキャナーでパソコンに取り込み、少し手を加えて、またプリントアウトして、さらに手を加える。手書きの部分は、墨や鉛筆、パステル、スプレーなど、イメージに合わせて様々なもので描いています。

「アナログ」と「デジタル」の作業を行き来することでイメージを作ります。

この方法で800枚ほど制作し、その中から70の作品を選び、作品集にしました。」

 

(アナログとデジタルの行き来を通して、何度もイメージを重ねていく作業のようでありながら、実際の作品には削ぎ落されたミニマルな印象がある…。呼吸する細胞がエネルギーを伝えていく時の様な煌めきにも見えてくる。まるで思考の軌跡そのもののように感じる)

 

【迷い、悩み、そして…。】

「実は今回、ここまで制作していますが、ちょっと表現を変えようかと迷っています。

 

今はトレーシングペーパーに印刷した漢字を切り貼りして積層させていますが、完成形に不安を感じて。もう少し全体的なバランスや、それぞれの漢字をよく見せる方法があるような気がしています。なので、もしかすると最終的に展示する作品は少し違った表現方法になっているかもしれません。」

 

(もう、その方向にと心は動いているのであろう…。)

 

こうして、制作における率直な悩みを私たちに問うかたちで、今回の取材はひと段落ついた。

様々なお話を伺い、大谷さんの姿勢から、「制作」に対する真摯さと同時に、強い情熱を感じた。

その情熱とは、作品を生み出す「創造的な問いかけ」と、完成した作品という「模索しながら辿り着いた答え」との沸騰的な交渉を密にしているというエネルギーだ。

 

沸騰的な熱を持つ密なエネルギーは、時間という固定した概念をも凝縮している。

しかし、大谷さんの作品と大谷さん自身から感じるエネルギーは「密」な方が、より心を打ち「感じる」視覚詩へと昇華していくのではないだろうか?

 

どう完成するのか、とても待ち遠しい気持ちでインタビューを終えた。

 


執筆:ふかやのりこ(アート・コミュニケータ「とびラー」)

どこにでもいる人間であると自覚する人は、自分を含めそう感じる人々は少なくない。

そこにどこにもない無二の作品と出会うことで生まれる干渉で、どのような人生の楽しむ余白が出来るのか、活動を通じて模索している。

 


第66回東京藝術大学 卒業・修了作品展
2018年1月28日(日)- 2月3日(土) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場:東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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