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「『もの』を通して、『人』が存在していることとその魅力を表現したい」 藝大生インタビュー2017|先端芸術表現 修士2年・杉川由希さん

秋の終わりと冬の始まりが混ざった昼下がり、杉川由希さんの待つ取手校地に向かいました。
事前に見せてもらった作品写真は一言でいうと、「ちょっと怪しい感じ」。

「どんな方が、どのようにして作ったのだろう?」と興味津々で伺った私たち。
実際にお会いした杉川さんは、作品のイメージとは少しギャップがありました。
今回は静かな講義室の一角で、お話を伺うことになりました。

私たちが前もって見てきた写真は、修了制作の前身として7月末に発表したもの。制作のきっかけは、ある「かかし」の写真を見たことだそうです。
その写真とは、麦生田兵吾(写真家)の、京都府宇治市の稲田に「マネキンのかかし」が立っている写真。

 

■あるかかしの写真から

「写真を見たときに、なぜこれを立てたのだろう?と思いました。日本の水田に、西洋の白人女性のマネキンが、ピンクのガウンを着て立っている。日本人の命を守る穀物を見守るかかしなのに・・・。あえてこの服?!しかも薄汚れている。そう思いながら見ていると、これを立てたのは男の人だろう、服は奥さんのもので、そのマネキンはきっと男の人の奥さんの分身のようなものなのか、と想像が広がって。きっとこのかかしは、農家の方の心と繋がった存在なのかもしれない、と。この後、かかしのリサーチをするのですが、まずはその想像をもと、『神格化した亡き妻マリア』というストーリーを考え、作品を作りました。」

■かかし作り
「写真からのイメージを再現するために、パーツを組み合わせて体を作り、セクシーな雰囲気を出したいと、照明の色を組み合わせたりしました。私は、はじめから出来上がりのはっきりした形を考えているというよりは、実際にものを触りながら、手を動かしながら考えるタイプです。このときも、照明の雰囲気を調整するのに何かいいものはないかと探しているときに、装飾用稲が梱包されていた柔らかめの紙が目に止まり、使うことにしました。ならば、そこにマリアへの思いを書こう‥というふうに。」

 

■実際の風景を探しに
「その後、写真で見た風景を求めて実際に宇治に行きました。一面の稲田、かかしが全然立っていない。しばらく探して、やっと一体発見。その時、意外とかかしって短命で、長い間立っていることはできず、またそれがかかしの歴史にあるのでは?と思いました。」

 

■かかしのリサーチ
「かかしのことを調べ始めましたが、あまり資料がなくて。
そんな中で見つけたのがこの『写真集 かかし』(片岡千治、財団法人 農林統計協会、1976)。」

「日本かかし研究会というものがかつてあったそうです。資料によると、かかしはもともと田んぼの神様で、山の神から一時的に降りてきた女性の神様が一時的に宿るものとされています。
古事記に記されている日本の豊穣の女神、大気都比売神(おおげつひめのかみ)。クメール文化のデヴィスリ(稲作の女神)など、繁栄のもとの存在は女。女性が子どもを作るイメージが実際像として作られています。」

 

■かかしは短命
「かかしの機能としては、稲に寄ってくる鳥や虫を排除しなければならない。鳥や虫は一瞬かかしにびっくりするが、賢いので、慣れるとただの風景になってしまう。だから、短いスパンで姿に変化をつけなければならない。故にかかしは短命。それでも作り続ける農家の人の気持ちがいいなあと思うんです。」

■かかしは気持ちの問題
「調べていたら、かつてはまつりごとに使われた道具を、かかしに使用したそう。それも徐々に儀式的な要素は衰廃していき、各家庭で不要なものを使って作られるようになりました。しかし命の米を守るという重要な役目を果たすかかしには、製作者の遊び心も見え、各田んぼにオリジナルの守護神が宿っているようにも感じられます。そうなると、かかしを作って立たせるというのは気持ちの問題、とも捉えられます。」

 

■時代を反映するかかし


「戦後のかかしの中には軍服を着ているものもありました。十字形は基本形で、社会の流れを反映し、そこに動きが加わります。これは政治の流れと重なる部分が多くあるように思えます。女性の社会進出の時代には女かかしが出てくるんですよ。」

 

■人の形のつくりのぎこちなさの魅力


「これは、『カカシバイブル』(ピート小林、東京書籍、2009)から。この写真は人の形の作り方がぎこちなくて。それから、もはや物をぶら下げているだけのかかしもある。私だったら、もっと作りこみたくなるけれども、そうではないんですね。」

 

■今までの作品


「もともとは、お色気みたいな、ちょっとバカバカしいものが好きなんです。
これは自分を見せる装置。自分がマリリンモンローになって送風機を持って登場、コンセントを差して風を送り、終わったらまた持って去る、というパフォーマンスでした。」

「他にも、TVショッピング、落語などを題材として作品やパフォーマンスを作ってきました。」

「この作品で使用したクローゼットの服は、家にある母のものです。開けると中には自分の知らない母の昔の服が入っていました。柄、色の好みの感じなど、今の母と違う服を見て、これを着ていた娘時代の母を、過去に聞いた昔のエピソードを元に書き起こしました。作品のクローゼットの中では、昔の母の服を着てその話を演じる自分の映像が流れています。作っているうちに、母の話と自分の幼少期の記憶が重なってくるようでした。」

「こんなふうに、ものが想起させる記憶を頼りに、人が存在しているということ、またその人間的な魅力をどうやったら発揮できるか、ということをメインに考えています。」

 

■修了制作は?

「私が農家のおじさんになりきり、作っているかかし(5体を予定)の一体一体と対話をします。『人』として認識できる最低限のところってどこだろう?というのを今考えているところです。
自分の家にあるものや、自分の家族のエピソードを題材に、オリジナルのストーリーで、語り・音・動きなどを使って表現していく。人だけでなく、飼っていた魚の話も出てくる予定です。お化け屋敷のようでなくショーパブ的な音楽でハチャメチャな感じを出したい。展示場所は屋外を予定していて、日暮れ時に公演できれば。」

 

ー小さい頃から作るのが好きで、保育園の頃はいつも粘土で何か作っていたという杉川さん。表現したいという気持ちは今にも続き、高校では美術部に所属し、油絵で自画像など描いていたそうです。京都市立芸術大学に入学してから現代美術に出会い、自分は絵を描くよりこっちで表現を模索した方がよいのでは?
ということに気付いたそう。大学院は藝大に進学し、今は様々な表現の方法を知って、その幅が広がっている、と話してくれました。

 

卒業・修了作品展では、どんな時間、空間を見せてくれるのでしょうか。ここに綴りきれない杉川さんの作品の構想のおもしろさ!どんなかかしや杉川さんに会えるのでしょう?今からわくわくしてしまいます。

 

 

執筆:和島千佳子
「今日は何して来たの?お仕事?お勉強?遊び?趣味?」と家族に聞かれ、そのどれでもないようであるような、答えに困惑する不思議で楽しいとびラー生活を送っています。

 

 

 


第66回東京藝術大学 卒業・修了作品展
2018年1月28日(日)- 2月3日(土) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場:東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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2018.01.15

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