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「わたしの中にパラレルに存在する科学と芸術。そのつながりを表象したい」 藝大生インタビュー2017|油画 学部4年・諏訪葵さん

11月22日、曇り。寒空のなか、藝大美術館前に集合し、絵画棟7階のアトリエにとびラー5人でおじゃましました。油画科4年生の諏訪葵さんは、落ち着いた感じの小柄な女性です。

1部屋のアトリエを複数人で使用しており、天井高は4メートル近く。同じ部屋では、2人の藝大生が油絵を制作中でした。

 

諏訪さんが制作しているのは窓際の明るいスペース。案内されて入ってみると、油画科とは思えないような様々なものが目に入ってきます。正面の窓辺には多様な種類のガラスビン、試験管、カラフルな液体などがズラッと並び、実験室のようでもありながら、どこかギャラリーのようでもあります。

 

◆現在制作中の作品

制作中の作品は、立体のインスタレーション。有機的に空間を使っているためか、アトリエいっぱいに広がるような印象があります。水道管のような細めの黒いパイプが、まるで何かの巣のように、私達の身長を越えるほどの高さまで組み上げられています。空間の中心、目の高さに置かれているのは縦長の水槽。「面白いことが起こっているので、一番見やすいところに設置した」と教えてくれました。水槽には透明な液体が入っており、上部の袋から、粘りのあるオレンジ色の液体が、糸のように流れ込んでいます。

「これが現在制作中の作品です。何回も組み直しているので形はどんどん変わっています。私は絵も描きますが、インスタレーションは、より実際の現象としてダイレクトに捉えています。私の作品制作は、手を動かし、現象を起こし、組み直し、関係性をつくることにあります。この状態で作品として完全に留められないことが面白く、関係性を作っていく中で何かを作ることのリアリティを感じるのです。ただ展示のたびに状況の関係性が変わるので、たとえば美術館の学芸員からみたら困ったことだと思われるかもしれません。」

 

「奥のフラスコの赤い液体は、みなさんもよく知っている油を使っていますが、作品の神秘性に関わるので秘密です(笑)。」

オレンジ色の液体が流れ込むテンポはまるで「息をゆっくりとなるべく長く吐いください」と言われた時のような穏やかさ。静かで滑らかで、少し苦しくなるような、そんなリズムがあります。透明な液体に、少しずつ侵入してくる鮮やかなオレンジ。左側にあるフラスコは白熱電球で温められて微動しており、右側には大小の不思議な球体が、まるで無重力空間に浮かんでいるかように、一定の速度で上下運動している映像が流れています。不思議なことが作品全体でゆっくりと同時進行しているようです。

◆こどもの頃から諏訪さんの中にある科学と芸術

諏訪さんは、どのようにしてインスタレーションに辿り着いたのでしょうか?

「小さい頃から絵を描くことと理科を勉強するのはそれぞれ好きでした。高校で文理選択をする時、案の定迷いまして…。最も興味のある内容は科学でしたが、科学の理論だけを勉強しても、科学の現象から受け取れる感覚を表現することにはつながらないように感じました。

そして美術系進学を志し、初めは他の美大の油画科に進学しました。その頃にインスタレーションという表現方法を知り、制作を始めました。美大の油画科ではインスタレーションという表現手段は珍しくなく、自分の思想にも非常にしっくりくる部分がありました。当時はひとつの作品で説明が簡潔に出来る作品を作ることが多かったのですが、後1年で卒業という時期になって、科学と芸術が根源的につながるような、もっと根本的な『実験』をしたいという気持ちが強くなりました。それをやることで絵もよくなっていったんです。それから改めて藝大に入学して、それが続いていって、今こんな感じになっています(笑)。」

「科学技術はどんどん加速していくけど、科学の現象を『みる』ことはそんなに加速しなくてもいいかな、と思っていて。私は、微妙に変化しながらだんだんに変わっていく、気づいたらそうなっている、そういうことにリアリティを感じています。

たとえば宇宙がそうだと思います。科学者は、星の状況を推察したり、ちょっとだけ光り方が変わるのをみたりして、宇宙の現実を引き寄せている。私が科学や宇宙に感じるリアリティを、間接的にでも作品で表現できたらと思っています。」

 

◆衝撃を受けた実験の記憶。それが今につながっている

諏訪さんはどんな子どもだったのでしょう?もしかしてすでに水に興味があったのでは?

「子供の頃からずっと水はみていたように思います。家族の話によれば、川辺にいくと、そこで遊ぶのではなく、どんどん源流の方に遡って歩いていってしまったそうです。今から考えると『大元がどうなっているのか』に興味があったのだと思います。そういえば波紋の絵もよく描いていました。

今でも、考えているところが『回りそう』な時、水を2時間でも3時間でも、飽きることなくひたすら見続けたりします。よりうまく回るようにリアルなものを見ていたい、という感じです。」

 

「科学と芸術がわたしの中でつながった原体験は、小学校5年生の時です。理科の先生がフラスコの中の液体の色が変わる実験をしてくれたとき、多大な驚きと衝撃がありました。化学反応によって自分の心がこんなに動かされたことにもびっくりしました。ただ『これがやりたい!』と思いました。」

◆ドローイングとインスタレーション

自由でのびのびと、連続しながら重なっていくドローイングの線。それがインスタレーション作品とどのようにつながっているのか、聞いてみました。

「ドローイングも好きでひたすら描いている時もあります。ドローイングしているときは、形のイメージが初めにあるのではなく、色や形がお互いに作用して化学反応がおこり、『ひっぱり上げられる』感じがします。連続しながらも、微妙な変化を蓄積していくドローイングにリアリティを感じます。インスタレーションもドローイングもあらわれ方が違うだけで、私のなかでは繋がっています。」

◆制作中の作品から卒業制作へ

「インスタレーションの黒いパイプは、『2次元でドローイングによって表現したかったものを、3次元で表現しているようだ』という感想はそのとおりだと思います。黒いパイプに組み込まれている液体の入った水槽、オレンジ色の液体を水槽に一定速度で流し込む器具、温めているフラスコ、そして拡大映像が映るモニター。それらは、実は一つ一つ近いことをいいたくて、パラレルに並べています。現象を起こすことで、パラレルに並べたものの関係性ができ、それが変化していくような表現ができればと考えています。」

 

「卒業制作では、いま使っている水槽よりも大きな水槽を使って制作する予定です。水槽を支える金属の台座を加工することを考えると、今からちょっとブルーになっています(笑)。卒展では、展示に水や自然物があまり自由に使えない東京都美術館が会場なので、作品の見せ方をどうしようか考えていて。藝大構内でもインスタレーションを展示したいと思っているので、複数の展示作品がリンクするように構成できたら面白いな、と感じています。」

 

◆流動、循環、目に見えない自然の力を表象する装置として

 

アトリエには、洗濯機を解体した洗濯槽や、プラスチックの蛇腹のダクトの一部など、液体と気体の流動を感じるものが併存しています。そうすると、目の前に組み上がっている黒いパイプも管として流体を循環させているように見えてきます。

「液体を流動するものとしてだけでなく、循環していくものとして捉えたいと思っています。そのための装置をつくったこともあります。水の循環していく力を『とてつもなくすごい!』と思うのです。例えば加湿器も、人為的に雲をつくるというか、自然の循環を人の力で創り出している。私にとってはとても気になる機械です。人間は生き物なので自然から生まれてきましたが、自然の一部であるはずの人間がまた小さな人工の自然状態を作り出しているように感じて面白いです。物質の状態をコントロールしようとする中で、必然的に科学と自然の力との折り合いをつけていくことに繋がるのが特に興味深いです。私にとっての実験とは、きっとそれに近いと思います。」

 

「科学と自然の力との折り合いを、水道管にも感じました。普通の生活からは見えない水道管は、どうしようもなく変えがたい自然の力と折り合いをつけることから、あのような形状になっているんだ、と。」

「ここにあるのは洗濯機を分解して洗濯槽とモーターだけにしたものです。洗濯機って、水の循環を人の力で合理的に創り出しているように思えて、『すごい』と感じるのです(笑)。これはダクトの一部で、洗濯機と同様に人間が自然な状況から空気の流れをコントロールしているものですが、そこから流れをイメージし感じるためのものです。どちらも元々は拾ってきたもので、これらが実際の作品の一部になるかどうかはまだわかりません。変だと思われるかもしれませんが、私にとってはある機能として使うということではなく、制作中に同時にアトリエに存在させることに意味があります。」

 

水、水道管や洗濯槽から、目には見えない自然の力や循環をイメージする諏訪さん。諏訪さんの中に起こっていることが、いつか作品として表象してくるのが本当に楽しみです。

◆影響を受けた人は?

「私はどちらかというと人からよりも自然現象や科学に纏わるものから制作の動機やイメージを受け取ることが多いのですが、強いて言えば、デザインの中に科学的なリズムを見出す杉浦康平さんのデザインを見て、アウトプットされた内容の奥深さに影響を受けている感じがします。それから、政治と芸術は明確に分けられるものではないと考え、科学と交わる芸術を探求したゲーテの考え方には共感しますね。版画家のパウル・ヴンダーリッヒや、画家のサム・フランシスも好きです。現象的なものとそうでないものを『パラレル」に持っている方や物事に共感します。科学と芸術は、私の中ではパラレルに存在しています。」

 

◆現象と表象の問題を考える

卒業制作についてきいてみました。

「諏訪さんが言うところの表象とは?」とお聞きしたところ「それに応えるために藝大がつくられたのでは(笑)」と。しかし、丁寧にこたえてくれました。

「現在制作中の作品のタイトルは《現象と表象》としています。まだぼんやりとしているところがあるので、これから卒展に向けては、現象と表象の問題をより明確に考えられるように整理していきたいと思っています。現象では、液体の動きがキーになるだろうと感じます。わたしにとっての表象ですが、一言では表せません。例えばドローイングで表現したかった連続性や化学反応が、立体表現になるのは表象の一つの在り方であると思うし、インスタレーションの黒いパイプは、水の流れ、水の循環、自然の力の表象だとも言えます。また、自分の表現と展示する場所の折り合いをつけていく時にも生まれる表象があり、起こした現象自体が表象になっている、という可能性もあります。

 

自分がどのように、どこまで現象と表象に関与するか、人にどう伝えるかについても、これからの展開の中で意識していきたいと思います。」

◆これからのこと

「自然との折り合いをつける科学と、表現としての芸術、どちらか一方にとどまることなく、そのあいだの領域から新しいものが生まれてくるのではないか、と考えていて、その間を探りながら関わっていきたいと感じています。テクノロジーではないところで科学を考えたい。」

 

「将来については、複数の選択肢が頭に浮かびますが、面白いことをやり続けられる場所にいられたらいいな、と思っています。近年海外で出てきている、科学と芸術をつなぎ合わせて新しいことをしようという動きにも、興味があります。」

インタビューを始めてから1時間15分。ふと水槽をみると、きっちりと3つのグラデーションができていました。一番下が濃いオレンジ、真ん中が薄いオレンジ、一番上が透明です。高い窓からの光によって見える色彩がとても美しく、そして一定の速度で落ちるオレンジ色の液体からグラデーションが形成されるのがとても不思議でした。

幾つもの試行錯誤と実験で生み出された作品は、科学と芸術の両方の要素を強く持っています。そして心地良いまま、知らないうちに侵入され、自らが変化していってしまう様子から、今の社会が内包している怖さもパラレルにもっている作品だ、と感じました。

諏訪さんは様々な角度の質問に、プレッシャーを感じることなくごく自然に答えてくれました。お会いした印象として、言葉と表現とをブレないでもっている人、というイメージが強く残りました。科学と芸術の間に新たな表象を見出そうとする諏訪さんの卒業制作を楽しみにしています。

取材:ア—ト・コミュニケータ「とびラー」

執筆:東濃誠

インタビュー:高山伸夫、園田俊二、原田清美、藤田まり、東濃誠

撮影・校正:峰岸優香(とびらプロジェクト アシスタント)


第66回東京藝術大学 卒業・修了作品展
2018年1月28日(日)- 2月3日(土) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場:東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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2018.01.07

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