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「文字から広がる自分の表現世界」 藝大生インタビュー2017|グローバルアートプラクティス専攻 修士2年・露木春那さん

グローバルアートプラクティス専攻(以下GAP)は2016年4月に新設された修士課程です。海外の美術系大学との連携のもと、現地の学生と共同で行うプログラムや、木工芸や漆、染色、木版画、ガラス、パフォーマ ンスなどの様々な分野・技術を横断的に学ぶことができるカリキュラムが組まれています。また、学生の約半数が留学生で構成されており、このグローバルな藝大の新たな環境で学ぶ学生さんの、作品に対する表現 のアプローチを伺いたく、12月中旬の小春日和の中、GAPの拠点がある茨城県取手市のキャンパスに向かいました。

インタビューは、修了作品が展示されているキャンパス内の大学美術館ではじまりました。


こちらは大学美術館。校舎からは少し離れた場所にあり、取手キャンパスの広さを感じます。

今回お話を伺った露木春那さん。穏やかな雰囲気の中にも美術への熱い思いが詰まっています。

 

まず目についたのは、白い壁一面に貼られたテキスト。そして、その壁の両脇には、テキ ストから小さくく り抜かれたアルファベットのAからZの文字が、碁盤の目状の台紙に貼られ、展示されています。 とても静かだけれど、どこか賑やかな感じのする不思議な空間という印象を受けました。

【作品のきっかけは1冊のノートブック】
「ある日、文具店でA~Zのインデックスがついたノートを手にした時、直感的にAのページにAという文字を、BのページにBの文字をCのページにCをというふうにぎっしり並べてみたら、絶対楽しい!と思ったのです」 露木さんのこの突発的な好奇心が今回の作品に繋がります。この発想こそ、あとで伺うことになる露木さんの文字への強くて大きな思いが生み出た賜物なのです。

 

【敢えて文字をバラバラにする、という試み】
この作品は、3つのパートで構成されています。
1.色々な書籍からアルファベットの文字をくり抜いたもの
2.くり抜いたアルファベットをノートブックのマス目一つ一つに糊付けしたもの
3.アルファベットが元々あった場所であるチラシや書籍のページ

左から1・2・3の順。2はまだ制作途中とのこと。卒業・修了作品展でも展示されるそうなので、その時にはまた違った表情が見られるかも知れません。

 

今回の修了作品では『A-Z』というタイトルのもと、「文字を集める」ことに取り組んだそうです。露木さんは自分の身の回りにあった書籍やチラシの中から、アルファベットをくり抜き、それをAからZまで分類した後、このノートブックに貼っていくことを試みています。計96枚の紙でできたノートブックは、AからZまで、アルファベットごとに異なった形状の紙になっていて、それぞれの紙は長方形から角の取れた台形(インデックス部分)が飛び出した、そんな形状をしています。そしてその一枚一枚には薄い青色の5mmの方眼が刷られいるので、方眼一マスにアルファベット一つを貼り付けていくというルールを決めたそうです。では露木さんが実際にどんな作業をしたかを説明すると、例えばaを集めたい場合には、まずテキストからaを見つけるたびに丸錐でくり抜いていきます。ここで得られるaが印刷された細かな紙片をa専用のケースへ収納します。そして最後に、ニードル、筆、でんぷん糊を使い、aフレークをAのページに貼り付けていく作業をします。

 

【文字への興味のきっかけ ―河原温の衝撃】
同じ文字の羅列を眺めていると、文字たちには様々なフォントや大きさがあり、まるで何かの模様のように感じられ、今にも動き出しそうな感覚すら覚えてきます。
「アルファベットをくり抜く作業をするとき、例えばアルファベットの『a』がほしいときって、テキストを読みながらも、目では『a』ばかりを追っています。普段のテキストとの向き合い方とは全然違うおかしなことをしていました(笑)。」 作品制作は、アルファベットをくり抜き、それを1つずつ貼り付けるという緻密な作業になるにも関わらず、(1枚の台紙に貼り上げて完成させるまでに3時間もかかるとのこと)その時のお話をされる露木さんの表情はとても生き生きとしていて、文字への関心の高さを窺い知ることができます。これほどまでに文字への思いが強い露木さん。文字に興味を持ったきっかけを伺いました。
「書を学ぶこと自体は6歳からずっと今まで続けてきましたが、書の世界から現在いる美術の世界に転換した、ということではなく、子どものころからずっと美術をやりたいなという気持ちがありました。美術の世界で、自分が考え、表現できることって一体何だろうと探していた中学3年生のときに、河原温の『ONE THING, 1965, VIET-NAM』という作品を美術館で見る機会がありました。その作品はONE THING、1965、 VIET-NAMという3つのメッセージが書かれた3つのキャンバスで構成されていました。すぐにそれはベトナム戦争のことを指しているとわかったのですが、作品の「VIET-NAM」の文字を見つめながら、そこには「私の考えるベトナム」だけではなく、「他の人が考えるベトナム」「世界中の一人一人が考えるベトナム」が詰まっているのだということを想像しました。文字がこんなにも不思議な想像の広がりと空間を作れてしまうということに、とても大きな衝撃を受けたのです。」

河原温の作品に感銘を受けた露木さんは、「文字のもつ力について知るために、書を熱心に学んでみよう」 と、この先も文字の勉強を続けていこうと決心します。高校時代まで習字は続けていたものの、河原温の作品を観た時に感じたキャンバスの前での感動と、書が結びつかないと思うこともあったそうです。しかしそこで露木さんは書を学ぶことを辞めてしまわずに、「書が生まれた国、中国で学ぶべきかもしれない」という、前向きな強い思いによって、高校卒業後は中国に渡り書を4年間学ぶことになります。

 

【古典文字を丁寧に学ぶ―歴史の延長線の自分を意識して】
中国での大学時代において、露木さんはどのように書道と向き合っていたのか。 当時制作していた作品を見せていただくため、校舎にある露木さんのアトリエへと場所を移します。
アトリエは一歩入ると、クリーム色のカーテンに西日が当たり、柔らかな明るさに包まれていました。 ここは、露木さんの他、何人かの学 生さんも共同で使用していますが、特に大きな仕切りはなく、ゆるやかな境界線を感じながら、露木さんの制作場所にお邪魔しました。

校舎内のアトリエ。天井と壁の白さ、そして柔らかい光が開放感を感じさせます。

 

中国の大学では、甲骨文字から始まり明・清の時代を経て近現代と言われるような時代まで文字の歴史を順に追いながら、先人たちの文字を、何度も何度も模写する日々が続きま した。
「昔のものから学んでいくという要素が大きいので、作品を発表する際も、この人はあの石碑 を勉強しているな、とか、あの時代の書を勉強しているな、というのがわかるくらいでな いと評価されないのです。全くのオリジナルや、いかにも個性の爆発といったものは評価の対象になりません。古典をいかに勉強してきているかが、きちんと見えてこないと評価にならないことを中国の書を通して学びました。」
露木さんは、現代美術においても、中国で学んだことと同じようなことが言えるのではないか、と考えています。
「今生きている自分がなんとなく思いついたことをパッと表現することもできるけれど、美術の歴史を追って、その延長線上にいる今の自分の存在が見えてきたら、それも面白いというか、きっとそうあるべきなのかなって思います」


中国の大学で書を学んでいたころの作品を見せていただきました。
篆書(てんしょ)。漢の時代に反逆が起きた後、分裂をした際にできた新という時代の皇帝が定めた文字が好きで、その雰囲気で書いたものだそうです。これはその時代の青銅器から文字を取り、自分が書きたい詩の文字と照らしあわせてデザインしたもの。

 

【大学卒業後―いろいろな文字を模写して見えてきたもの】
大学卒業後、日本に戻ってきてから藝大のGAPに入学するまでの期間、露木さんは様々な文字を様々な方法で模写することを続けます。
「私は自分が書く 文字だけに興味があるわけではなく、世の中に溢れている文字にもすごく興味があります。中国にいる4年間は、自分の文字というよりは、ただひたすら古代の石碑を模写する行為ばかりしていたので、書道の名品と言われるものでなくても、模写したら面白いのではないかと考えるようになりました。」
そこで露木さんが注目したのが、「注意書き」です。「注意書き」は、見る人に注意や安全を促すため、という純粋な目的を持っています、言葉や書き方も装飾的だったり、文学的にしようとしていない部分に、テキストとしての 純度の高さがあると露木さんは言います。 また、場所や状況が変わると、意味も変わってしまう点にも不思議さを感じているそうです。この感覚は、「書くことや模写することは、ここにある言葉や、文字をまた別の場所に 持っていくチャンスを与えることになる」と考える、長年文字を書くことを続けてきた露木さんだからこそ、見えてくるものだと思いました。実際、こういった考えは、修了作品にも反映さ れていることが感じとれます。


大学卒業後、GAPに入るまでの間に制作していた「注意書きを模写するシリーズ」の一部。段ボールにあっ た【たまご注意】の文字をプラバンにトレースして焼いたもの。段ボールにあった文字が、他の場所へ移動すると、【たまご注意】の意味が違うものになってしまう不思議さがあります。

 

【表現したいという気持ち】
子どもの頃に体験した作家や作品との出会いによって、現在も、自分自身が温めてきた夢の具現化に取り組む露木さん。河原温の他に、小学校の修学旅行で訪れた現代美術の展覧会との出会いも、後に露木さんがGAPに入りたいと考えるきっかけをもたらしてくれたそうです。
「小学校4年生くらいから美術が好きだったのですが、当時は鑑賞することを素直に楽しんでいました。しかし、小学 校6年生のとき修学旅行で訪れた東京で現代美術の作品に出会った時、あらゆる手法で「アイデア」を表現する作品群に驚いたのです。そのことに気づいてから、私も「表現する人」になっていいのかも知れないと 思い始めたのです。」
美術をやりたい!という思いは、中国に行くときも、露木さんの根っこの部分では変わりませんでした。今後、美術をやるための糧とするために私は中国で書道の勉強をする!と。だから中国から戻ってきた時、次に進学するところは藝大だと真っ先に考えたそうです。

 

【GAPの魅力】
「GAPには、私のように藝大や美大でデッサンなどの基礎的な美術教育を受けていない人もいます。いろいろな国から学生が集まっているからグローバルなのではなく、そういった個人の経験値の違いやユニークさを受け入れてくれているところがグローバルなのかなと、GAPに入る前から感じています」
GAPの魅力について、さらに露木さんはこう続けてくれました。
「私のような美術の専門教育を受けてきていない人に対しても、先生方や助手の方、そし て同級生もリスペ クトしてくれる。決して美術の知識が不足しているからダメ、とかではなく、私のセオリーでやってきたということを周りのみんなは尊重してくれます。お互いのバックグラウンドやそれぞれの選択をリスペクトしているのがGAPの良さであって、私はとても居心地の良い環境だと思っています」

 

【言い換えの場面】
様々なバックグラウンドを持った仲間との触れ合いや、今まで自分が関わってこなかった分野を知ることができるGAPのカリキュラムを通して、露木さんの作品の向き合い方にはどのような変化があったのでしょうか。
「最近、自分の中で大切にしたいと思っているキーワードがあって。それは〈言い換える〉ということです。日本語から英語に翻訳することも〈言い換える〉と言えるのですが、藝大で学ぶ中で特に感じるのは、同級生が作品をこういう思いで作っているということを聞いたとき、私も同じことを思っていたと共感する時です。方向性や表現したいことは自分と同じだけれど、それをその人の言い方でアウトプットしている。多様性のあるGAPの環境では、そういった〈言い換え〉の場面を多く目撃することができるのです」


自分の考えていることは、誰かの〈言い換え〉によって、より強く実感するものだと露木さんは言います。
「GAPの授業には、木工芸や染色など伝統的な日本文化を学ぶ授業があるのですが、そこで出会う言葉や表現、つまり自分が普段考えることが〈言い換えられている〉場面を目撃すると、自分の世界も広がるし、自分の考えていることもどんどん強くなっていく感じがします。なので、これから更に色々な人たちの〈言い換え〉の場面に出会いたいという気持ちがあります」

 

* * *

今回のインタビューを通して、露木さんから、文字を通して人に「伝えたい」という強い思いが人一倍溢れて出てくるのを感じました。「書くという動作では、やはり自分の手を字際に動かして体験してみたい。文字のためにちょっと苦労したいし、肉体の感覚が欲しいと思う部分はあります」と自己分析する露木さん。書なら墨を磨るところから書くところまで丁寧に行うのは、その字を見る他者がどんなふうに受け取る かを想像するからだと思います、とも話されていたのが印象的でした。
今日では、キーボードを叩いて電 子メールで簡単にメールを送ることや、インターネットでも世界の紛争のニュースと芸能人のスキャンダルが同じ画面で、同じフォントで書かれているのを読むことが当たり前のことになっていますが、露木さんは、そういうことも決して批判や悲観をせず、むしろそれも文字の軽やかさと受け止め、前向きに捉えています。 文字の歴史に丁寧に向き合いながらも、現代を取り巻く文字文化にも軽やかに捉える。それは、露木さんの今まで学んできた文字の世界が、様々な人たちやGAPでの出会いによって広がり、柔軟性を生み出したものなのだと思います。露木さんの作品は卒業・修了作品展で展示されます。その時に、また改めて進化した作品に会いに行こうと思いました。

 


執筆:阿部 忍(アート・コミュニケーター「とびラー」)
とびらプロジェクトに参加して2年目のとびラー。とびらプロジェクトを通して、なかなか美術館に行けないような人たちでも、もっと気軽に行けて、楽しめるような場としての美術館の出来事をみんなと一緒に作りたいと思ってい ます。

 

 


第66回東京藝術大学 卒業・修了作品展
2018年1月28日(日)- 2月3日(土) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場:東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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