東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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【実施報告】「おく?」 あなたも置く?藝大生のパフォーマンスに参加。

9月7日(金)~9日(日)の藝祭の3日間、藝大生を中心としたグループによるパフォーマンス作品とコラボレーションし、ワークショップを開催しました。
パフォーマンスのタイトルは、『おく』。

「向かい合うふたりは、
交互に「もの」を「おく」。

その場所に在った「もの」を手に取り、
再び位置を決める。

それは「作品」と言えるだろうか?

日常の仕草と創作行為の境界が曖昧になるとき
作品は日常へと溶け出してゆく。(『おく』conceptより)」

 

パフォーマンス『おく』は、2人のパフォーマーが無言のまま登場し、向き合って礼をするところから始まります。2人のパフォーマーの後ろに配置してある様々な「もの」を、先行のパフォーマーから選んで交互に空間に置くことを繰り返しながら進行し、「おく」と言うシンプルな即興の行為により作品が構成されていきます。

「言葉は交わさずに行われるため、囲碁の対局のような様子に見えるかもしれませんが、決められた手数の中でものを交互におく以外のルールはなく、パフォーマー同士、自らの造形感覚を頼りに盤面に対してアプローチしていくことになります。それは造形的なセッション、またはラップバトル的な美術だと言えるかもしれません。」

作者の言うように、「おく」という単純でシンプルな動作の中にある奥深さと芸術性にいつの間にか引き込まれていきます。

今回コラボレーションにより開催したワークショップでは、藝祭にお越しいただいた皆さんに彼らのパフォーマンスに参加していただき、「おく」ことを体験してもらおうというものでした。そして、体験していただいた方々に「鑑賞と参加の体験を通して、様々な視点から“もの”を眼差すことで、日常に未知の価値が潜んでいる可能性を提示する」ことを目的とし開催しました。

 

9月7日(金曜日)、初日であるこの日のワークショップは、14:10~と15:35~の2回開催しました。

「おかれる」ことを静かに待つ「もの」たち。

静粛な時間である。やがて、パフォーマーが現れ「おく」が始まる。

最初にワークショップに参加していただいたのは、以前に『おく』パフォーマンスアートを見て、また見たいと藝祭に来ていた方々でした。ワークショップ「おく?」への参加は、まず、パフォーマンスを鑑賞します。どんなものをどのように置いていき、作品が構成されているのかをみていきます。残りが8手になるととびラーが合図し、参加者が順番に一つだけ「もの」を選び、場に置いていきます。参加者が置いている間もパフォーマーはパフォーマンスを続けていきます。

「おく」のために用意された「もの」たちを、一生懸命選別し置いていく参加者の方々。

みなさん、とても楽しんでいた様子でした。また「ものをおく」というシンプルな動作について、深く考える時間を過ごしていただけたようでもあります。最後に、作者である藝大生と「おく」の体験を通して感じたことや質問などの交流をして記念写真を撮りました。

 

9月8日(土曜日)
この日のワークショップは
11:20~、14:10~、15:35~、の3回行いました。

2日目は小学校低学年のこどもが多く参加しました。最初にルールを説明するときちんとそれを守りながら楽しそうに参加していました。また、「おく」ことにとても楽しみを見出しているようで、ワクワクした様子でものを選び置いていく姿が印象的でした。参加していた子を見ていたら自分もやりたくなって飛び入りで参加してくれた別のこどもがいたことも忘れられません。後で彼らに質問をしてみると、「色味を揃える」や、「対比」などをしっかりと考えて置いていたとのことで感心させられました。この日は参加者の方々だけでなく鑑賞していた皆さんともお話しする機会を設け、たくさんの方々と交流することができました。皆さんからいろいろな質問が投げかけられ、藝大生の考えを聞くことができ、鑑賞者のみなさんにとっても充実したひとときとなったのではないでしょうか。最後の回では、自分を置いてしまう人が現れたりと驚きの展開もありました。

 

9月9日(日曜日)
最後の日曜日は10:00~、12:45~、15:35~の3回行いました。

この日も各回3~4名の参加者を迎え行いました。みなさん、パフォーマーの一手一手をよくみて、時間をかけてものを選び、且つ、おく場所も深く考えていたように感じました。ワークショップ後の藝大生との交流でも活発に意見が交わされました。このワークショップに関わったとびラーである私も、最後に実際に自分で「おく」を体験してみました。作品制作に加わることができる喜びはありながらも、一つ一つが考え練られていき構成されていく様をみていると、その意味合いや意図を考えて置かねばというプレッシャーに最初はとても緊張しました。しかし、2人のパフォーマーの思考を想像する楽しさがある「おく」の、シンプルでありながら奥深い一面を体感し、とても充実した気持ちになりました。参加者の皆さんがそれぞれ家に帰って「おく」というシンプルな日常の行為を行った時に、この体験を思い出し、その中に潜む何かをふと感じてもらえたら嬉しいなと思います。


◇今回のワークショップに参加した皆さんからの感想・コメントです。

 

<参加者より>

 

「飛び入り参加でしたが、日々の行為やものの意味性を考えるきっかけになりました。」

 

「作品が成長してゆくプロセスがとても興味深かったです」

 

「ベルをおいて楽しかった」

 

「アートに自分が関われて良かったです」

 

「芸術家の卵に混じり貴重な経験をさせていただきました。置くだけの単純な事象ですが楽しかったです」

 

「不思議な空間にいた気分でした。ものを置く行為について今後注意を向ける体験となりました。ありがとうございました。」

 

 

<とびラーより>

 

「楽しいひと時を体験させてもらいました。藝大生とのコラボ、とっても刺激的で凄いなぁー。」

 

「『おく』の作品自体がそもそも面白いという魅力があってこそだとは思いますが、ただ見て自分だけで考えるのではなくて、アーティストからネタばらしが聞けたり、観客が作品に影響を及ぼすことができたり、アート・コミュニケータがいたからこそ、あの場がどんどん拡張しているなと感じました。」

 

「藝大生の発想って私のような凡人では考えもしないようなことを思いつくんだなーと、しみじみ感じておりました。そして今回の藝大生とのワークショップ、とてもいい経験になりました。」

 

<パフォーマーとして参加した藝大生より>

 

「元々、一年前に芸祭でおくを見た事をきっかけに、今回パフォーマーとして参加させて頂きました。2人のパフォーマーが交互に物を置いていくという行為の中から見えてくるモノは、鑑賞者によってさまざま。『おく』が、『将棋』『ラップバトル』『仕事のグラフィック構成』『枯山水』色々なものに見えるようです。決められた手数を交互におく事以外ほぼルールがなく、感覚の共有に近い。つまり、パフォーマンスを理解するのに前知識を必要としないことで、鑑賞者は『アートがわかる、分からない』といった優劣を感じる事がない。
鑑賞者の様々な連想がひとつの空間に共存しており、それを良しとされている感じがありました。そういった開けた空気感が今求められているものだと思います。楽しかったです、またやりたい。」((euglena)さん / 東京藝術大学 大学院 デザイン専攻 空間演出研究室

 

 

◇最後にこのパフォーマンス作品の作者のみなさんからのコメントをご紹介します。

 

「昨年の藝祭から始まった活動が発展し、企画が実現できたことがとても嬉しいです。ワークショップ参加者が作品に介入することで、これまでにない予測不能性が生まれました。こうした経験は作品の幅を広げ、自身の今後の活動にも大きく役立つと思います。作品と人との関わりを意識する良い機会になりました。」(藤中康輝さん / 東京藝術大学 工芸科鍛金専攻 3年)

 

「パフォーマンスの中に参加してもらうことで、物を置くという行為にある創作性を感じてもらえたのかなと思います。パフォーマー以外の人が置くことでより「あの人はどのように置くのか」といったあらゆる状況を想像する体験に繋がったと思います。なにより多くの人に参加していただいたことはとても嬉しく感じています。」(板倉諄哉さん)

 

「“おく”ことでの価値の変化、独特の空気感、作品が変化していく過程などを疑似ではなく、リアルな体験で感じていただけたのではないかと思います。外からの手による創作が入り込むことは、自分たちの作品にとって思いがけない発見や展開の可能性を得る貴重な機会でした。ありがとうございました。」(金森由晃さん)

 

 

以上、3日間とても楽しいワークショップを開催できましたのも作者のみなさんの協力と参加してくれたみなさんのおかげだと思っています。
ありがとうございました。


 

執筆:上田紗智子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
アートを介してのコミュニケーションの広がりを追求する。またコミュニケーションしながら鑑賞
するその深さを探求していきたい。そして世界に笑いを!

2018.09.09

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