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「アイディアを考え続けること、誰かに伝えること〜スーツ生地の可能性をひらく」藝大生インタビュー2016|デザイン科修士2年・竹之内洋平さん《RE SUIT》

 

★藝大生インタビュー
「第65回東京藝術大学卒業・修了制作展」に向けて制作に励む藝大生をとびラーが訪ね、作品が創出される現場を取材しています。
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「グラフィックが好き」という言葉からはポスターなど平面で紙媒体の作品を作っている方なのかな、と想像されるかもしれません。ですが、竹之内さんは木や車、布などの様々なマテリアルを使い、平面から立体まで多くの作品を制作されています。
在学中に広告賞など様々な賞を受賞するなかで「自分が良いと思ったもの」と「実際に評価されるもの」の違いを受けとめ、常にアイディアを考え続けている姿勢が印象的な方でした。デザインに対する想いにしっかりと芯が通っており、情熱を感じるお話を伺ってきました。

 

■卒展の作品について
藝大内にあるアトリエに伺ってまず、竹之内さんが卒展に出展される作品をみせていただきました。デザイン科の方なので、作品が平面なのか、立体なのか、全く想像が付いていなかったのですが、現れたのはなんと家具でした(それも複数)!

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「普段はグラフィックでやっていることを、布に応用しました。全てスーツの生地で、全部20年ほど前の古いものです。本来なら古すぎて捨てられてしまうような、製品にはならない物なんですけど。ほとんどウール100%で、元々質が良いものなので、ちゃんと保管しておけば状態の良いものがいっぱいあるんです。プリントは全てシルクスクリーンを使っています。強いメッセージを込めたい為に、直接的なデザインになっています。
作品名は「RE SUIT」で、「RE」はリターンやリサイクルなどの「再生」の意味。スーツの生地を、スーツではない違うものにして生まれ変わらせることができるんじゃないか、スーツの生地の可能性を更に広めるられるんじゃないかと考えました。」

–生地はどこで手に入れたのですか?
「実は実家がスーツのお店で、そこで捨てられずにずっと取っておかれていた物です。この布に出会ってから、この作品を作ろうと思いました。布を使った作品を今までにもいくつか作っていて、扱いには結構慣れています。自分はスーツはあまり着ないけど、実家がそういうことをやっているから、自分の中では身近な、遠くない存在です。普通の布ではなく『スーツの布』というのがポイント。」

–(グラフィックの中で)インクが垂れているように表現されているのは?
「グラフィティっぽくしたくて。ストリートの落書きみたいな自由な発想・表現というのをこのグラフィックに込めています。手書きっぽくてペンキが垂れているような。スーツの生地を、スーツではない色んなものに置き換えられるような自由な発想、というのを表現しています。(本格的な生地のスーツには)手が届かないよ若い年代の人でも、マガジンラックやサイドテーブルなどに再利用されたものだったりすると身近に感じられるんじゃないかな、という思いもあります。」

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–制作期間はどれくらいですか?
「そんなに長くないかも。(プリントを)刷るのは結構大変で、家でひたすらやっていました。刷ってしまえば組み立てるだけなので、そんなに時間はかかってないです。縫製も自分で。サクサク進みました。」

–家具の作り方は自己流ですか?
「自己流です。木材を切るのは学校でやりました。木を扱うのは慣れていますが、ソファを作るのは初めてだったので、作り方をめちゃくちゃ調べて。でも自分でやれることには限界があるので、どういう風に工夫すればできるのかをすごく考えました。今回の作品は初めてのことづくしです。実用性に耐えられるかどうかまでは計算してはいませんが、多分大丈夫でしょう(笑)。家具としてのデザインも自分がいいと思えるものにしました。」

–布にも色々な柄や色が入っていて、プリントに使われている色も様々ですが、組み合わせは最初からしっかり決めていたのですか?
「やりながらですね。生地の色や柄を見て、自分の中で感覚的に決めています。他の作品ではすごく考えて慎重に決める時もあれば、直感的にパッと決める時もあり、それはバランスを見て考えている所です。」

–家具に使用している木材も異なる種類を使用されていますが、それも意識してのことですか?
「そうですね、統一感の部分は布で出せばいいので。ソファは家具としては新しく見えるけれど、他のものに使用する木は少し古く見えるものにしたり、意識して使っています。」

–実際に展示される際は、空間を作るというイメージですか?
「全体でどう見えるかという感じを大切にしています。(生地やプリントの)色が様々なので、いい意味でまとまりがあるようにする。ただ、ありすぎると微妙。置き方次第で伝わり方が変わるので、悩みどころです。
他には小物も作っていて、カード入れ、ブックカバーなど、自分がいいと思えて、他の人にも使ってもらえるものも作りたい。使う人をイメージしたりもします。どういう人が使うかと考えると、作るものも変わってきたりして、ポップなんだけどお年寄りの人が使ったら面白いかなとか考えたり。これ(小物の作品)はほんの一部だけど、色のイメージで自分の中で分けていて、ピンクなら女の人かなとか。色からのイメージは結構強いです。」

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「今は家具の印象が強いけれど、もっと他のものに置き換えたくて。展示までには家具だけじゃなくて、イメージがもっと離れていって欲しいので、色々作ろうと今考えています。スーツは作らないですけど(笑)、洋服以外の何かに。当日のお楽しみということにしておきます。
家具は展示が終わったら自分で使おうかなって。自分だったらどれくらいの大きさが欲しいかなって考えてサイズを決めました。欲しいっていう人が現れたら、それはその時で考えます。」

–今回の作品は親御さんのお仕事がきっかけなので、喜ばれたのでは?
「そうですね、どうなったのってすごい聞かれます。」

–卒展当日は、来た方に直接説明されるんですか?
「はい。学部4年生の卒展の時も色んな方が来てくれて、話すのが結構楽しかったので、なるべくその場に居るようにします。」

 

■制作について
《RE SUIT》の様に家具やグラフィック、小物などを制作することもあれば、車を使った鑑賞者巻き込み型の展示をされたり、また企業のプロダクトを課題にしたポスターデザインで賞を受賞されていたりと、表現の幅がとても広い印象があります。制作していく上での竹之内さんの考えやその背景について、もう少し詳しく伺ってみました。

–今回の《RE SUIT》の様に作品に自由さを感じさせるというのは、竹之内さんの制作のテーマだったりする?
「う~ん、毎回結構やることは変わるのでいつもこういう感じというわけではなく。結構派手な作品もあったり、かっちりしたものを壊すようなものもあります。」

–一つのテーマが自分の中にあって、それを作品に投影して、伝えたいことを伝える、という一連の流れが他の作品にも共通している?

「そうですね、並べて自分の作品を見るとまとまりの無いように感じるけど…例えば布、車、紙など。でも自分の中では軸を持っていて、伝えたいことを伝えるためのアウトプットになっています。」

–2016年の藝祭に出展されたワゴン車を使用した作品「JOURNEY」のインタビュー内で、美術以外のこともやりたいとおっしゃっていましたが、今何か考えていることはありますか?
「やりたいことはいっぱいあって、どういうものにしたら自分が考えていることが一番伝わるのかをいつも考えていて、作品ごとにやっていることが様々でした。ワゴンも(共同制作者と)二人で色んなことをやりたいねと言っていました。今でもワゴンの展開は考えているけど、ストップしてしまっています。置き場所などの問題もあって難しいです。」

–今までに様々な賞(第31回読売広告大賞、JAGDA学生グランプリ2015、第62回朝日広告賞など)を受賞されていますが、それらの様に課題を与えられてそこから考えるのと、先程のお話にあった様に伝えたいことがあって、そのために考えるのとどちらが得意ですか?
「自分が好きなのはアイディアの部分で、アイディアから考えるのが好きです。ものを作るのが好きだけど、それよりも何か新しいアイディアとか、面白いことを考えるのが好きです。そのためにすごく考えます。ひたすら考えて、何個も何個も考えて…やれないこともいっぱいあるし、時間との戦いだったりもします。自分は広告が好きで、来年の4月から広告デザイナーの仕事に就職が決まっているんです。広告は伝えたいことがひとつバーンとあって、ストレートかつシンプルに、面白く伝えるみたいなアイディアがとても好きで。自分の作品でもそういった要素が共通しています。」

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–色々な人と組んで制作されたり展示されたりしていますが、一人でやるのと誰かと一緒にやるのとでは全然違いますか?
「違いますね。単純に意見が食い違うこともあるしなかなか合わない。特に芸大生とだと、みんな結構我が強いので(笑)。ただデザイン科だと、課題はグループワークが多いです。自分だけの作品は自主制作のものが多かった。」

–自分だけで作りたいという欲求はある?
「あります、あります。」

–今まで色々な作品を作られてきた中でも一番好きなもの、思入れのある作品は?
「そうですね・・・(しばらく考える)難しいですね。選べないかも。」

–今まで、数で言うとどれくらいの作品を制作されてきましたか?
「中途半端に終わったものも沢山あるし、数えられないけど、自分の中で満足して「いいな」と思って作れたものは少ないかも。その時は満足しても、後からやっぱり違うと思うこともめちゃくちゃあります。人に見せる機会も多いので、そこで色々言われて、自分の中でいいなと思っていたことが伝わっていなかったり、もっとこうしたほうがいいんじゃないと言われることもあるし。」

–竹之内さんの生活の中心は制作?
「そう言いたいですね(笑)。多分そうです。常に考えている、と言いたいです(笑)。」

–じゃあ、趣味はありますか?
「難しいですねー。多分全部(制作に)繋がってきているし、大体作っているし、制作と趣味の境目はあんまりないかも知れません。」

–《JOUNEY》で使用したワゴン車《MEDIA WAGON CAMEL》で音楽と結びつけたワークショップをされていましたが、音楽は好きですか?
「好きです。ワゴンをやっている時はいろんな出会いがあって、学校の敷地内で作品のために車を改造していたらたまたま建築の人たち(建築科の学生)に声をかけられて、こういうイベントあるんだけど一緒にやらない?となり。じゃあ建築の人達と一緒にやるときに自分たちは何をやればいいんだろうってなって、そこでまた音楽の人たちと出会いがありました。『車と音楽を掛け合わせて何かやりたいんだけど』っていう感じで色んな人との出会いがあって楽しかったです。
普段聴く音楽は色々。いい意味でも悪い意味でも自分は飽き性なんで、一つのアーティストのファン、ということはあまりないんです。アーティストのライブに行くというよりは、フェスに行っていろんな人たちの歌を聴きたいという感じなんで、オールジャンルです。」

–影響を受けた人や作品などはありますか?
「影響を受けた人は本当にいっぱいいます。この人が好き、とかそういう感覚じゃなくて、『この人のこういう作品が好き』とうかんじが強い。一人の人が作っているその全てが好き、というわけじゃなくて、作品と人とは別に捉えているんですよね。」

–美術館には行きますか?
「結構行きます。デザインの展覧会とかには行くようにしています。グラフィックデザイナーの展覧会が中心ですね。ポスターの展示とか、そういうのが好きです。」

–周りにも制作をしている学生が沢山いる環境ですが、ライバル意識はある?
「そこまでないかも」

–昔からデザインが、その中でもグラフィックが好きということですが、グラフィックに本格的に進んだきっかけなどはありましたか?
「自然とそうなっていきました。学部の1年生ぐらいは色んなことを自由にやっていたんですけど、3年生ぐらいから本格的に取り組むようになりました。コンペも積極的に出すようになり、何作品も出しました。面白いのが、自分の中では『微妙だな』と思うのが賞を取ったり、イチ推しで『面白い!』と思っていたのが落ちたり、色々出品するなかでわかってきて。自分でも客観的に見たいという気持ちはあるんですが、それもなかなかうまくいってないなと思ったりしました。」

–自分の中で気合が入った作品が選ばれなかったらやっぱりショック?
「悔しいですね。一つ一つ思い入れがあるので。」

–グラフィックの作品だと、『ここが完成』というのは自分の中でしかわからないものだと思うのですが。
「グラフィックは、出来上がっても何日か置いてまた見るようにしています。次の日まで時間をおくだけでも変わって見えるので、そこは出来るだけ冷静に見るように意識しています。」

–誰かの意見を聞いたりしますか?
「聞かないですね。自分の中で突き詰めます。」

–作っていてどういう瞬間が楽しかったり、盛り上がりますか?
「やっぱり最終的にできた時ですね。今回の家具の作品だと、形になった時ですね。」

–自分が制作を始めてから今に至るまで、変化はありましたか?今まで話を聞いた印象ではあまりブレは無さそうですけれど。
「でも、ありますよ。出来上がって、違うなと思う時とか。家に(RE SUITシリーズの)椅子と机があるんですけど、これはダメだなと思って。あれは出さないです。形になってからじゃないとわからないことってありますね。単体で見たらよくても、他のものと並べてみてやっぱり違うな、と思ったり。」

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–学部4年生の卒展ではどんな作品を制作されたのですか?
「今回とは全然違うもので、大きい壁を作ってスピーカーを30個ぐらい埋め込み、そこに映像を投影しながら音を出すというインスタレーションの作品を作りました。」

–一つのことにこだわりがあるというよりは、色々やりたい?
「そうですね」

–見に来られる方とお話しするのが楽しいということですが、《MEDIA WAGON CAMEL》の時みたいに、『見にくる人も巻き込んで一つの作品になる』のは今後もやってみたい?
「やってみたいです。本当は何も説明しないでも全てが伝われば、一番いいんですけど。それをもっとわからない人に伝えたりとか、その人の新鮮な意見を聞きたいとか、色々思います。単純に褒めてもらえると嬉しかったり、自分では思っていなかった事を全然違うような視点から言ってもらえたり。学部4年生の時の作品で、渋谷の映像を流してた時に、自分は若い世代としての視点で流していたんですけど、観に来ていたおじいさんがそれに共感してくれたりして、全然違う年代でも同じようにいいと思えるんだとか、自分では思いもよらないような意見が聞けて、すごく良かったと思いました。」

–そういう意見は作品作りに生かされていますか?
「そうですね、なるべく忘れないようにしたいです。」

 

■藝大を目指すまでのこと、藝大生になってからのこと
ご存知の方も多いと思いますが、藝大への入学は狭き門。竹之内さんがデザインを本格的に学ぼうと藝大を受験するまでに至ったきっかけや子どもの頃のエピソード、そして藝大入学後の学生生活のことなども伺いました。藝大を目指している方にとっては気付きがあるお話かもしれません。

–小さい頃は絵を描くのが好きだったということですが。
「図工の時間が好きでした。一番好きでした。絵だけじゃなく、粘土や工作など、全般的に好きでした」
–小さい頃から身近に服を作っている環境があって、それが自分の道につながっていますか?
「小さい頃からミシンを触っていて、自分で服を作ったりしてました。そう考えると人よりも布を触っていたのかなって。身近にあったので。《RE SUIT》の縫製も全部自分でやりました。」

–でも、ファッションじゃなくて色々できるデザインの方に進んだということですよね。
「そうですね」

–それを『仕事にできるかも』と思ったことや、藝大受験に至ったきっかけはありますか?
「高校は私立の進学校に通っていて、その流れのままだと受験して大学に行くんだろうなと思っっていました。けれど、自分の将来を見つめ直したときに、『好きなことやりたいな』と考えて、色々調べて、近くに美大の予備校があったのでそこに入りました。両親の反対はありませんでした。母親も美術系で油絵を描いたりしていて。なので、結構協力的で、応援してくれました。直接的な理由では無いかもしれないけど、絵を描くのが好きだから、試験で絵を描くことは嫌いじゃなく楽しめるかなとも思いました。藝大を目指すきっかけは、デザインがすごく好きで。例えばファッションにしても、服だけではなく、ランウェイの空間もデザインだし、とにかくいろんなデザインが気になって。それでデザインを学びたいなとなったんですけど、他の大学だとグラフィックデザイン科とかプロダクトデザイン科とか、入り口でもう分けられちゃうんです。受験するときに自分の中でまだ絞れてなくて、『入った後に選択肢があるよ』と藝大の先輩に言われたので、それで藝大に行こうと思いました。」

–作品をご両親に見せることは?
「しますね、展覧会にも来てくれるので。」

–学生時代の思い出はありますか?
「思い出ですか?思い出はー、(悩むそぶりを見せて)辛かったのは就活。めちゃくちゃ大変でした。広告業界を志望したので、作品をいっぱい作って、納得できないものもいっぱい作ったし、とにかく難しかったです。ポートフォリオをまとめて、実際に選考の場に作品を持っていってセッティングする、ということを受けた社数だけやりました。バンを借りて、手伝ってくれる人も呼んで。今は終わってホッとしています。4月からはすごく楽しみ。もう全部楽しみです。」

–大学院に進もうと思ったのは、もっとデザインについてご自身の中で深めたかったからですか?
「そうですね、学部の時はその時なりに精一杯やっていたんですけど、いざ卒業が見えてきた時に、まだまだだなと。ここでもうちょっと自由に楽しくやりたいなと思いまして。大学院の2年間もあっという間だったんですけど。可能であればまだまだやりたいことも沢山あるけど、でも来年(広告デザイナーのお仕事)もすごく楽しみです。」

–学生生活で楽しかったことはありますか?
「大学院に入ってから、学部の頃よりも自由にできることが多くて、課題が少ない分自主制作に力が入ったので、そこはすごくよかったかなと。あと、大学院に外の大学から来る人もいて、その出会いも楽しかったです。」

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卒展の作品「RE SUIT」を含め、今までに発表されている竹之内さんの作品を見ると、一人のアーティストが作ったことに気付く人は少ないかもしれません。そのくらい表現の幅が広く、ご本人も色々なことに興味を持ち、何よりも竹之内さんが「やってみたい」意欲に溢れている人だということが今回のお話から感じられました。来年4月からは広告デザイナーとしての作品を、どこかで見かける機会があるかも知れません。
インタビューの中でもあるように、卒展ではできるだけ見に来られた方と直接お話ししたいとのことだったので、ぜひ竹之内さんの作品を見て、お話してみてください。写真にある作品はまだまだ一部とのことなので、当日どんな展示になるのかとても楽しみです。

執筆:鈴木清子(アート・コミュニケータ「とびラー」)


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