東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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「モノとモノの出会い・操作『そこでしか生まれない瞬間』を探って」藝大生インタビュー2016|油画専攻 4 年生 星野陽子さん

星野さんのアトリエは東京藝術大学絵画棟の7階。窓から眼下に広がる上野の杜は、その日はまだ11月だというのに朝から降り続く白い雪と樹々の紅葉とのコントラストが一枚の絵のようでした。_MG_3436

アトリエは白い空間で同じ油画専攻の楊博さんとシェア。そこには次の構想を練るためのポップで色とりどりな“モノ”たちが置かれていて、中には消臭ゼリーやウィッグなど、一見絵画とはかけ離れているように思えるモノも。触ったり、置いてみたりしながら、モノの様子を探っているのだそう。

 

インタビューは星野さんの小気味良い語り口で進んで行きました。

ボールの中にはゼリー状のものが入っており、そこに仕掛けたライトが不思議な光の拡散を見せ ています

ボールの中にはゼリー状のものが入っており、そこに仕掛けたライトが不思議な光の拡散を見せています

 

◆星野さんの作品は、平面的な絵画とは異なる三次元での立体表現。こうした作品へ至った経緯をお聞きしました。

 

4 年生のとき、小林正人先生の授業『現代美術コース』で、たったの5 時間で作品をつくるという課題がありました。使う材料は、他の受講者たちが星野さんのために 100 円ショップで買い集めた 200 点のモノ。この経験が作品づくりの大きな変化になったといいます。

 

「とにかく設計図も計画も立てられない中で作らなくてはならなくて。作品の概念がよく解らなくて、感性も何かわからないし。でも、とにかく『終わる』ってとこを見せる。このことが作品作りの転機になりました。」

 

フラフープにボール、中央に掛かっているものはホログラムシート!

フラフープにボール、中央に掛かっているものはホログラムシート!

北側に面した天井高のある空間にいろんなものが置かれています

北側に面した天井高のある空間にいろんなものが置かれています

 

「もともとは平面作品を描いていましたが、モノを自分で重ねて、そのモノが連続して重なるものをモチーフとしていて。わかりづらいと思うんですけど、自分でその物どうしの関係を操作していくことに興味があって。」

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平面作品

 

「1 年生の時の『東京マケット』という課題は【東京を歩いて感じたことを作品にしなさい】というものでした。自分が考えたのは『赤いビルと黄色いビルがあったらその間はオレンジの空間になるのではないか』とか、例えば『ビルがたくさんある中でひとつがあたたかくなったら周りも変わっていくんじゃないか』とか、そんな当たり前のことなんですけど。そんな単純な発想を模型にした時に、なんだかすごく自分の中で楽しい実感がありました。そこで起こっている現象が楽しくて、それも大きい部屋でやってみたいと思うようになって。」

 

『Things//Things』

『Things//Things』

 

「大きな部屋では、1 日の太陽光の移り変わりを利用して、自分が意図したものと、その時に現れる新しい形や色とで、新しい関係をつくることを実験的にやってみた。自分のイメージしたものが 3 次元に置き換わった時に『その空間に足を踏み入れる感覚』が絵画よりもとても強く感じられたので、そこからいろいろやってみたいなと思うようになりました。」

絵画棟での展示の説明

絵画棟での展示の説明

 

「その後に絵画棟 1 階のギャラリーを利用して、自分で何となく描いていたドローイングを三次元にしてみました。正面から見るとただのペインティング作品ですが、横からも上からも見ることができる。つまり最初の視点は絵(平面)なんですけど、その中に自分が入っていけるような空間を作ることをテーマに、しばらく制作しました。」

 

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「去年、3 年生の時の作品をアーツ千代田 3331 のギャラリーに展示しました。入り口から最初に入っていくときは、正面からだと二次元的に見えるようになっているんだけど、そこから中に入っていくことができるというもの。とにかく絵の中に入ってみたいという単純な動機でやってみました。

 

ここまでの作品は自分のテーマがあって、ドローイングのラインはモノで置き換えると何になるんだろう?と。最初は置くモノを自分で作っていました。なのでちょっと『固い』といわれて。」

 

「それが原因で、4年生の『現代美術コース』での課題では全部 100円ショップの小さな物を使って、設計図のない状態でいきなり作ることを要求されました。置かれている物どうしの関係性とか、そこでしか生まれないおもしろさに、感覚として気づくことができた。」

 

「たとえば、ちょっとこれは洗濯ハンガーみたいなものなんですけど、」

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同じ講座の方たちが星野さんのために無作為に集めた 100 円ショップのものの一部。ボールの中 はぷにょぷにょした昆虫ゼリーに消臭ビーズ、底には光るライト!星野さんの発想の一部を再現。

 

―ハンガー?

 

「そうなんですけど、それがそう見えなくなる瞬間が面白い。『どうしたら作品になるんだろう?』『作品って何だろう?』『人が見て、かっこいいってなったらいいなぁ』とか考えながら、そういうところを探していろいろ遊ぶ…その時遊ぶ余裕は、まったくなかったんですけど。」

 

「最初は平面で描いたものを 3次元にしていたけれど、それは何も描かない状態から作っていった、初めての体験でした。」

 

「でも、まだうまく消化できないままで。そんななか、2016 年の夏に石橋財団国際交流油画奨学生として 2 か月間アメリカのいろんな州に行かせていただきました。そのことを報告展示する課題が先週あって、作品を作りました。こんな感じです。」

 

2016 夏の報告展示作品。正面には映像が投影され、両側はミラーフィルムに移り込んだ映像やも のたちがまた違った姿を見せています。床にも仕掛けが!

2016 夏の報告展示作品。正面には映像が投影され、両側はミラーフィルムに移り込んだ映像やモノたちがまた違った姿を見せています。床にも仕掛けが!

 

「正面には向こうで撮ってきた山や川などの映像を映してます。」

 

―自然の映像ですね?

 

「そうですね、それを映して。両側の壁にはミラーフィルムを張ってあるので、正面の映像がミラーフィルムに反射して、色や形が強く変わる演出をしました。」

 

ミラーシートに移り込む物の形があいまいになっている様子

ミラーシートに移り込む物の形があいまいになっている様子

 

アメリカの星野さん好みのテンションのものたち

アメリカの星野さん好みのテンションのものたち

 

―正面の映像だけでなく、ライトなどいろんな光るものが置いてあります。

 

「他にも、ラスベガスで拾ってきたエッチなカードとか、黒人向けの化粧道具で、ビビッドでどぎつい紫色とか…そんなテンションがすごく好き。それを並べて置いてみたり、組み合わせてみたりして『かっこいい』『おもしろい』と感じたところを探しだし、空間を仕上げていきました。」

 

―おもしろい。

 

「ふふふ(笑)。『何か強い色があったら、その隣に負けないくらい強い色を立ててみよう!』みたいな空気がアメリカにはあって。そんな、自分にとって面白いなって思うことを伝えたくて、映像をフォーカスして撮ってみたり。また監視カメラも作品空間のなかに 1箇所あって、自分が動くと同時に、床にもその映像が投影される仕組みになっています。」

 

―そこに入ると部屋全体が動いているような感覚でしょうし、両サイドのミラーフィルムに映り込んでいるものは、ゆがんでしまって原型をとどめていない様子ですね。

 

「そうなんです、なのでちょっと自分の感覚が破壊されていくような感じになって。何が本当で何が嘘かちょっとわかんないような。

元の形が何だったのかわからなくなる状態っていうのが、自分の一番の表現。最初に部屋に入ったときに、両壁に映像が投影されているなってことよりも、「あれ?なんか動いてる!」っていう不思議さとか、奇妙さとか、モノがモノでなくなる瞬間が一番気持ちいいかなって。

 

今はそこを目指して、そのプロセスをより深く体験できるものを探して、いろいろモノを探って考えている状態なんです。」

 

―『現代美術コース』の課題では、それまで 2 次元のドローイングから 3 次元に起こしていたものから、ダイレクトに 3 次元で表していく方法へと、いわば制作過程が真逆になりましたね。

 

「その方が理由がいらないし、自分の欲求に対してどこまでも感覚的になれるというか。最初にドローイングを描いて、それを立体に起こすってなると当たり前のことなんですけど、最初の計画に自分が縛られてしまい、そこで新しい出会いがない。なんか出来上がった後に自分で予定どおりに作ったけど、それで?っていう状態がすごくあって。」

 

「それに光などは絵の中では作れなくって。動きとか、光が当たってできる影なんかは、絵で描くと逆にうそくさくなってしまう。けど、自分が三次元で入っていって体感できると初めて美しく思える。そこに意識が向いたのは小林正人教授の課題があったから。そこからは考えない方法を考えている感じ。」

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◆卒展に向けて

 

「今は次の展示に向けてモノを違う状態にできて、人に見せる・見てもらいたいっていうのを考えて探っている状態。かっこいい状態を考えながら、触って、様子見て、っていう感じです。」

 

―作品を現場で作り上げる星野さんにとっては、時間も重要なポイントになります。

 

「東京都美術館での展示時間が五時間と限られているので、その時しかできないものにどれだけ取り組めるかっていうのが課題。何を削って何を残すかについて、その場所での制約を含めて、どれだけ自分のパフォーマンスができるか。材料を集めつつ、かっこいいものの組み合わせを探しています。特に東京都美術館の中では暗室が作れない。明るい中で映像をどう映すか、どう伝えるか。そこは初めに計画しないといけないので、今はやることを整理しています。」

 

自分の作った映像等を今度は絵にして、どんな空間だったかなど思い出しながら思考を整理

自分の作った映像等を今度は絵にして、どんな空間だったかなど思い出しながら思考を整理

 

◆星野さんご自身のこと

―小中高生はどんな学生でしたか?

「小さいころは絵を描けばほめられるのが嬉しくて描いていました。私って才能があるんだと。でも絵画コンクールには一度も引っかかったことはなかったけど(笑)。

 

中学時代、地元は結構ヤンキーばかりで(笑)そういう雰囲気の学生時代。卒業の時に何か自分だけのものがほしいと思って。

高校の合格発表の日にもらった予備校のパンフレットを見て『藝大ってかっこいいじゃん』と。ほんとにそれだけ。『私は周りとは違う何かがあるはず!』と。きっかけは人に認められたい、一番になりたい、自分だけの何かが欲しい、って思ったこと。」

 

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―気持ちいいくらいきっぱり。

「やー、ウソついても仕方がないなっていう。教授には最初、アート論を勉強しなさいと言われましたが、でも本を読んでも要約はわかるんだけど、その先に進めない本がたくさんある。どうも作品作りにおいてコンセプチュアルな表現がしっくりこない。教授に相談すると、もういいからそのまま行けと。自分が作品を作るための社会的な意味やコンセプトを考えすぎずに今の勢いで突っ走れと。」

「世の中に対して、より自分の刺激を求めている。」

―熱いですね。

「ネガティブかもしれないけど、自分のコンプレックスがあるから作品で認められたい、見て欲しい。美術より他に好きなことがたくさんあるし、そっちも全然楽しい。でも講評近くなったらやらなくちゃ!となって、やればすぐ作品作りがスタートできる。」

 

―そのスイッチがあります?

「もっと早くやればいいのですが。時間がないとちょっとでもよい方の選択を、パッとするしかない。そんな風に作った方が評価がいいんです。永遠に時間があると思い込んでいる自分は優柔不断。切羽詰まったら、より感覚的になれるし失敗しても堂々とやるしかない。一瞬一瞬の方が楽しい。やるしかない。」

 

―いさぎよさもありますね。

 

「迷ってるとかっこ悪いから、間違っていても 100 パーセント正しいって顔をしようと。勢いやパワーもあるし楽しい。教授には、その楽しいことから言いたいことのコンセプトを言葉にできるように、もっと自分らしさの整理をするように言われています。」

 

「とにかく手を動かして、自分がよいと思ったものを出会わせて。そこから出てくるものしか信じられないかな。」

 

 

雪の寒い日だったことを忘れるくらいの熱く面白い本音トークで進んだインタビューでした。見る人を楽しませたいという作品たちが示すように、人を惹きつける魅力もある星野さん。一つ一つの課題やイベントを経験するごとに、どんどん新たな感性が生まれていくような星野さんの視点。卒展ではどんな作品が作り出されるのでしょうか。

 

またアートプロジェクトにも興味があり、企画しながらいろんな人の体験も広げていきたいという野心も語ってくれました。彼女の今後の活動も、どう展開していくの目が離せません。

 

東京都美術館での卒展、その直前に行われる藝大での展示にも是非足を運んで体感してみてくださいね。

 

執筆:大川芳江(アート・コミュニケータ「とびラー」)


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