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「走レ」藝大生インタビュー2016|工芸科4年・大崎風実さん

11月末、銀杏の葉が秋晴れの上野の空に映えている中、東京藝大を訪れました。今回、取材に応じて下さった藝大生は、工芸科漆芸専攻4年生の大崎風実さん。樹木の生い茂った工房棟の前で待ち合わせしました。時間ぴったりに来てくださった大崎さん、まずは、卒業制作の作品が置かれている場所に案内していただきました。

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〈卒業制作の作品。私の予想をはるかに超えた大きな作品でした。躍動感にあふれ、美しいフォルムで、圧倒的な存在感を感じます。これが漆芸品とは!〉

 

★卒業制作について
「5月頃より先生たちとディスカッションをしながら、作り始めました。スケッチをしたり、小さな模型を作ってみたりして、夏休み頃から漆の仕事を始め、今に至っています。これは乾漆造形という技法を使っています。有名な阿修羅像もこの技法になります。発砲スチロールで原型を作り、それに麻布をまいていって固めて、漆を塗ります。塗って乾かせ、乾いたら少しずつ研ぎだしていきます。まだ制作途中で、これから磨き上げ、金や銀で絵を描く予定です。下地の工程から考えるとおおよそ25工程位あり、大変時間がかかります。」

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〈まだ制作途中とのこと。さらに磨きこまれたら、どんなふうになるのでしょうか?ますます完成が待ち遠しいです。〉

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「タイトルは《走レ》です。雨降る暗闇の中を走るオオカミをイメージしています。卒業制作に向けて緊張したり悩んだりといった不安や葛藤と、作ったらよいものができるのではないかという希望と、その相反する二つの思いを、二匹のオオカミで表しています。その二つの思いが入り混じりながら走って、私の中の大きなエネルギーとなることを表現していきたいと思っています。私自身、小さい頃からオオカミを絵に描くことが多くありました。オオカミは一見こわそうに見えるけれども、寂しそうにも見えます。鳴き声もこわそうだけれども、切なそうにも聞こえてきて、とても魅力を感じました。一匹オオカミと言うけれども、群れていないと生活できず、まるで人間みたい、私みたいだなと思いました。」
〈命のエネルギーを形にしている大崎さん。そのプロセスは日々自己との葛藤なのではと想像しました。目に見えないものを目に見える形にしていくということがとても素晴らしいと思いました。〉
「体の表面に粒粒しているのは螺鈿です。漆黒の闇の中、降る雨を螺鈿で表しました。螺鈿の箱を見て、つやつやしてキラキラした感じから雨の粒をイメージしたからです。目は七宝を別に作ってはめ込んでいます。この七宝も自分で作りました。」

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〈大崎さんの許可をいただき触ってみました。思っていたよりずっと柔らかく繊細な感じがしました。〉

 

★漆芸について
「父の実家が京都にあり、小さい頃より漆の工芸品が身近にありました。お正月になると、漆塗りのお重の蓋を開け、漆塗りのお椀を手に取り、美しさを感じていました。また茶道を習っていて、棗を目にする機会もあり、漆芸品に魅力を感じていたことが、この道を選択した大きな理由だと思います。東京藝大では、工芸科に入り2年間幅広くいろいろな工芸を勉強しました。3年生より漆芸を専攻し、漆芸の基礎的な技術や技法を学んできました。4年生ではその技術や技法を使って、卒業制作に取り組んでいきます。さまざまな技法によって多彩な表情が生まれるので、表現したいものによって技法が変わっていくと思います。」

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〈工作室。機材がたくさんあって、木を切ったり模型を作ったりといろいろな作業をする所だそうです。このあたりから、漆の香りが立ち込めてきました。〉

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〈作品を乾燥させている所。湿度の調整がとても大切とのことです。もう一頭のオオカミは、フォルムも表情も違っていて、早く二頭並んで疾駆している姿が見たいです。〉
「漆の作品は、正倉院に中にも保存されています。日本だけでなく中国でも韓国でも盛んです。ベトナムでも漆が採れ、漆絵として人気です。漆は装飾的に使われるだけでなく、元来道具に塗って、物を強固にする塗料として使われたそうです。漆の魅力はと問われれば、自然のものだから美しいと言うことでしょう。木の樹液が、命のパワーを作ろうと思っていることにマッチしているのではないでしょうか。素敵な素材だなと思います。漆という素材を生かして作りたいと思う物が、どんどん自分の中にあふれてきます。今回の卒業制作もそうですが、漆を塗り重ねることによって私が作りたいものになっていくのではないかと思いながら、制作している最中です。漆をこれからも使い続けていきたいと思います。」
〈漆と大崎さんとの間には自然な空気感があるようでした。〉

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〈大崎さんの作業机の上。今回の卒業制作の小さな模型が見えます。〉

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〈小さい手板で実験的にいろいろな技法を試みた作品。手板を一枚ずつ見せていただくごとに歓声をあげてしまうほど、その美しさと豊かさに魅せられてしまいました。〉

 

 

★これまでの歩みと大学生活について
「小さい頃から絵を描くのが好きで、物を作ったりするのも好きでした。絵画教室に通ったり、絵日記コンクールに出品したりもしました。母が美大出身で、同じ道を歩いてきているので歩きやすかったと思います。美大に進むことを意識したのは高校生の時です。多摩美大の工芸科に入ったのですが、漆芸専攻がなかったので、漆芸をやりたいと思い、東京藝大に来ました。今は卒業制作中心の毎日ですが、切羽つまっていない時は、普通の女子大生です。バイトをしたり、学校から離れて作りたいものを作ったり、展示を企画したりしました。大学生活では、1年生の時に藝祭で神輿を作ったことが印象深いです。また大学の先生方の制作している後ろ姿を見ながら勉強できたのは、私にとって大きな財産でした。先生たちも生徒と同じように作り続けています。その先生方の作家性にふれるたびに感動しました。同級生との声のかけ合いや刺激のし合いもモチベーションにつながったと思います。そして、やりたいことや作りたいものを全面的に後押ししてくれる家族に感謝しています。」
〈周りの人々から多くを学び受け取り、それを糧に自己の作品に対する表現力を磨こうとする大崎さんの姿勢を感じました。〉

 

★これからについて
「大学院に進んで、もう少し勉強したいという気持ちがあります。それは作家性を強めたい、将来作家になりたい、という思いからです。そのためにもっと勉強する必要があると思い、大学院への進学を希望しています。工芸品は手間のかかるものです。木地を作る職人さん、漆を塗る職人さん、蒔絵をする職人さん・・・とたくさんの工程に分かれて仕事をしています。全部自分でやろうとしても、1年2年では習得しきれません。大学院に行ってからもっと練習したいと思っています。将来にわたり、物を作り続けていきたいと心に刻んでいます。技術的なことを高めていき、自分のできる幅を広げていくことももちろん必要です。けれども、見えない命のエネルギー、うまく言葉で言えないものを形にすることを、自分の中でもっと突き詰めていきたいと思っています。」

 

お忙しい中、どんな質問にも一つ一つ言葉を選びながら、丁寧に答えてくださった大崎さん。その誠実なお人柄と制作に向かう真摯な態度が作品にも表れているようでした。大崎さんの言葉の中に、工芸は「こつこつ」「繰り返し繰り返し」「同じことをずーっと」「我慢しながら」続けるとありました。だからこそ、「真面目で意思がないとできない」とも。大崎さんは、その言葉を実践されているのだと改めて気づきました。是非、物を作り続けていってほしい、漆の美しさを表現していってほしいと願っています。

 

大崎さんの作品は、東京都美術館ギャラリーCに展示されるとのことです。大崎さんも作品のお近くにいらっしゃるそうです。早く見に行きたいですね。会いに行きたいですね。
執筆:鈴木優子(アート・コミュニケータ「とびラー」)


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