2018.06.30
2018年度の建築実践講座がスタートしました。
第1回は、講座の目標や年間の流れを共有し、建築実践講座の主幹となる東京都美術館(以下:都美)の歴史や建築について学んでいきます。
本題に入る前に、まずは「けんちく体操」で体を動かしウォーミング・アップ。
けんちく体操とは、体をつかってその建築の形や特徴を表してみるというもの。
スクリーン映し出された建物の写真をよくみて、その形を真似ていきます。
人数を増やしながら、スカイツリー、前川國男自邸、築地本願寺、東京都美術館、の4つの建物に挑戦しました。
同じ写真でも、建物のどの部分に注目しているかが人によって違うこと、
また、自分の体をつかって表現してみることで、建物の特徴がよく見えてきたりするものです。
わいわいと楽しみながらも、年間の講座をともにするメンバーと自己紹介や会話を交わす機会ともなったようです。
体操で体も場もほぐれたところで、講座の目標と基本概要を共有します。
講座の目標|建築空間を通して生まれるコミュニケーションの場づくりについて考え、プランを実践する。
建築実践講座では、建築の知識を深めていくことではなく、建築空間をはじめ、都市、また建物を利用する・関わる人々についてまで考えをめぐらせことを大事にしています。人々のコミュニケーションと空間・場との関わりを、「建築」という切り口から考えます。
2月まで続く8回の講座とあわせて、建築ツアーをはじめとした実践の場もつくっていきながら、年間を通じて学び合っていきます。
続いては、東京都美術館学芸員の河野さんによるレクチャーです。
大正15年に東京府美術館として開館してから現在に到るまでの変遷、建築の歴史をお話いただきました。
赤茶色の外観が印象的な現在の姿は、前川國男の設計によるもの。1975年に建てられ、さらにそこから30数年が経った2010〜2012年には、古びた部分の改修や、設備なども時代に合わせたものに整備され、リニューアルオープンを果たします。
リニューアル前後の写真を比較すると、前川が設計時にこだわった部分や、建築に対する考え方も大事に引き継がれていることがよくわかります。
レクチャーの内容を踏まえ、次はいよいよ実際に館内をめぐってみます。
6つのチームにわかれ、ガイドの先導のもと「建築ツアー」を体験します。
現在とびラーが奇数月の第3土曜日に定期開催している「建築ツアー」。今回の講座では、普段のツアーより少し短い30分版です。レクチャーで紹介のあった場所をはじめ、グループごとに興味のある場所で立ち止まり会話をしながらめぐっているようでした。
ツアーの後は、ツアーの中でガイドが使用していた写真資料やタイルの現物、素材のサンプルの紹介がありました。他にも、前川や近代建築に関する書籍など、様々な資料から都美の建物についてを知ることができます。
講座の最後は、今日の講座を3人組でふりかえります。今日の内容で気づいたことを三人のメンバーで話し合います。
第1回目では、東京都美術館の建物の歴史や前川國男についてを知り、さらにツアーで自分の目で見て体感・発見することで、活動の拠点・場への視点を深めていきました。
日常で私たちが当たり前に接する建築。見慣れた建築も、その成り立ちや背景を知ることで新たな側面が見えてきたり、またそれが人々の行動にも影響していることを感じることができます。今後、建築ツアーなどのプログラムづくりを通して、東京都美術館をきっかけに、建築空間への積極的な視点を共有していくことができればと思います。
(東京藝術大学美術学部 特任助手 大谷郁)
2018.06.27
とびラーの自主的な活動には、とびラー同士が直接コミュニケーションをとるミーティングの場のあり方がとても重要です。ひとりひとりが主体的に関わるミーティングの場をつくるために、具体的な手法を学ぶのが今回の講座のねらいです。レクチャーとワークショップを通して、「ミーティング」の理想的なスタイルを学びます。
講師は「ミーティング・ファシリテーター」の青木将幸さん。青木さんが進行を手がける会議は、家族会議から国際会議まで、多岐にわたるのだそう。
日常や社会生活のなかでたびたび起こる「話し合い」。とびラーの活動のなかでは、「とびラボ」の企画をかたちづくるプロセスや、様々なプログラムのふりかえりなど、多様な場面でFace to Faceの議論が活動の核となっています。
今回の講座会場は、なんと藝大の体育館!?机や椅子がないため、自然と人との距離が近くなり、意見を出し合ううえでの対等さ=「フラット」な関係を感じられる効果があったようです。思い思いの姿勢をとって、のびのびと話し合いにのぞむなかで、自然と身体の向きが相手に変わったり、前のめりになったりする様子がみられました。
講座の最初は青木さんの自己紹介からはじまり、まずは「歩き回ってとにかくいろんな人に挨拶をする!」というアクティブな場ほぐしからはじまりました。「目があった人にはとにかく声をかけてみて!」と青木さん。朝一番のかたかった雰囲気から一変、徐々に賑やかな声が場にあふれていきます。
次に、3人組をつくって「良い会議」と「悪い会議」のイメージについて意見を出し合います。
まずは個人でノートに書き出す時間があり、次に3人の意見を交換。そして、3人全員が合意できる意見をいくつかピックアップしてみます。
ここで青木さんが強調していたのは「『同意』と『合意』は違います!」ということ。一つの意見に対して「それいいね!」「賛成!」と相手が受け入れるのが「同意」、それぞれ意見を出し合ったあとでお互いに納得する状態にたどりつくことが「合意」です。
会議をすすめていくうえで、この「合意」がひとつのキーになります。発言したことのうち、何に合意したのか?話し合いを進める軸として、参加している人たちの意思を明確にすることは非常に重要です。
ここで、各グループから出てきた「良い会議」のイメージを青木さんが模造紙に書き出しました。
ポイントは多々ありますが、大切なのは、その場に集まったメンバーで合意された要素に従ってすすめること。会議を始める前にこれらの点を読み上げることも、参加の意識付けとして有効な手段なのだそうです。
様々な観点が出てきたところで、個人的に気に入ったアイデアを4つ選んで、シール投票。一度投票のかたちをとると、ここにいる人たちの価値観が総計としてみえてきます。
ここまでのワークをふりかえりつつ、青木さんから良い会議をするためのポイントのまとめがありました。
=発言の準備ができた状態をつくる。全員の発言の準備を促す。
=社会の「最小単位」からはじめる
=花丸をつける、赤の二重線をひくなどしてポイントを明確にする
=内容を可視化する
=シール投票やグラデーション挙手などで傾向を見る
また、質疑応答の場面では、実際に仕事やプロジェクトをすすめることを想定した問答がありました。
・メールや掲示板など、オンラインでのやりとりなど「顔を合わせない」やりとりもふえているが・・・
=重要なことほど顔を合わせた場所で決める
ここでお昼休みを挟んで、午後はワークショップ形式でいくつかのパターンの「会議実習」を行います。
まずは4人1組をつくるところからスタート。このグループで、3つのワークを行いました。
これら3つのワークに共通しているのは、「相手の意見がどんなものであっても否定せず、アイデアを活かして話をすすめていく」こと。「イエス・アンド〜」の姿勢をもって話をきくことが、アイデアの芽を育てていく環境をつくります。日常生活のなかでトラブルや予想外のことは、そもそも「起きる」もの。起きたときにどう考え行動するか、どうポジティブに織り込んで考えていくか、を楽しんで追体験するワークです。
実際にやってみたとびラーからは「クリエイティブな気持ちになれる」「周りに影響されるおもしろさ」「突拍子もないアイデアを楽しめる」「ダメ出し会ではたどりつけないアイデア」といった声があがりました。
さて、講座の最後のワークは「MM法=みんなで持ち寄るミーティング法」。
「Q 今日、ここにいる皆さんに聞いてみたいこと、話し合ってみたいことは?」を1人1テーマ考え、紙に書き出します。
内容は日常生活のこと、価値観のこと、社会のこと、それぞれの話したいテーマはさまざま。
お互いのテーマを書いた紙が見えるように歩き回りながら、関心事が近かったり、気になる内容をもつ人同士で5人1組をつくります。
できた5人組で座組をつくり、それぞれのテーマを10分ずつ話しあいました。
自分の議題のファシリテーターになるのは自分。
今日の講座で学んだ方法を取り入れながら、小さい単位での話し合いに挑戦してみます。
「たった10分だけど、思っていたよりも深い話し合いになった!」「やっぱりまだ話し足りない」「もっと人の意見をとりいれてみたい」など、それぞれの実感を抱えて本日の講座は終了。
*
「良い会議」のイメージを持ち続け、一緒に進める人と明確に共有していくこと。
他人の意見を否定せず、アイデアを活かした話し合いをふくらませていくこと。
大切な点は単純明快ですが、健全に組織を運営することや、順調に企画をすすめることの難しさは、誰もが何らかのかたちで感じたことがあるでしょう。
「会議が変われば社会は変わる」ならば、どんな社会に変えていく?
全6回にわたる基礎講座はこれにて最終回となりますが、とびらプロジェクトとしては、いよいよここからが活動本番のスタートラインです。今年度も人と人、人と作品を通してどんなクリエイティブなつながりが育めるのか、さまざまなトライ&エラーの場を「話し合い」からはじめていければと思います。
(とびらプロジェクト アシスタント 峰岸優香)
2018.06.22
*定員に達したため申し込みの受付を終了しました。
一人でみる展覧会もいいけれど、だれかと一緒におしゃべりしながらみると、ぐっと味わい深くなる。週末の帰り道、ふらっと立ち寄る気軽な美術館、それが「ヨリミチビジュツカン」。美術の詳しい知識はいりません。金曜夜の美術館で、展覧会を楽しんで、おしゃべりして、お茶して、「旅するあなたの風景画」を見つけませんか。
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*定員に達し次第申し込み受付を終了いたします。
*混雑状況により、当日お待ちいただく場合がございます。
*広報や記録用に撮影を行います。ご了承ください。
*「プーシキン美術館展 -旅するフランス風景画」のチケットを購入したのちに集合場所へお越しいただきますようお願い致します。
*本プログラムでは展示室内での滞在時間が限られています。ご留意ください。
※作品解説のガイドツアーではありません。
2018.06.17
2018年6月17日 日曜日の午後、事前に申し込みいただいた参加者の方々をお迎えして「マインドマップで味わうアート」を開催しました。
ビジネスや教育の現場で定着しつつある、マインドマップの手法を活用しながら作品の鑑賞を楽しみ、発見して、誰かと語り合おうという、「対話を通した作品鑑賞xビジネスツール」の新しい体験の試みです。
作品と向き合う中で生まれた自分の考えや気づきを、マインドマップを使って整理してみることで、鑑賞で感じたことを少し時間が経っても思い出すことができます。それをさらに言語化して家族や友達に伝えることができれば、鑑賞の体験がより深まるのでは?という期待感をもって準備を重ねていきました。
プログラムは、参加者の皆さんに、都美のアートスタディルームに集まっていただき、マインドマップを描いて自己紹介をすることからスタート!
進行役のとびラーが、自分の自己紹介をしつつ、マインドマップの描き方の基本をお伝えします。
マインドマップを描くのは初めて!という方もいらっしゃいましたが、思い思いのマップには、その方をあらわすキーワードが散りばめられていて、既に、コミュニケーションを後押しているように感じました。
次に「プーシキン美術館展」を鑑賞するための基本情報を、マインドマップを描きながらキーワードやイラストを交えて説明しました。
プーシキン美術館とは?フランス風景画とは?
そして皆さんそれぞれが展覧会で発見したり、感じてみたいこと(マイテーマ)は?
その後、展覧会の各章のテーマとキーワードに紐づけて、15枚の作品がどの章に属するのかを推理して選んでいただくというゲームをしました。
ここでも、作品のどこからそう判断されたのかや、自分はどの作品が気になる、など、自然に参加者の皆さんの間で会話が始まっています。
ゲームの後は、今日じっくりと鑑賞したい1作品を選びます。
次に、今回の参加者の皆さんも楽しみにされていた対話を通した鑑賞を体験していただきます。
今日取り上げた作品は、プーシキン美術館展に出品されているクロード・モネの《草上の昼食》(1866年)です。
「仲がよさそうなグループだけど、右端に一人、輪に入れない男の人がいる。」
「飲み物はワインだけだろうか?」
少人数のグループだったので、皆さん、自由に発言をされていました。
今回の参加者の皆さんは対話を通した鑑賞への関心が高い方も多く、
その説明にも興味をもっていただいたようです。
その後、いよいよ、展示室へと移動します。
まずは2つのグループに分かれて、案内役のとびラーと3フロアから成る展示室を一巡。その間にも、先ほどゲームをした作品を見つけると、参加者の皆さんの足が止まり、大変熱心な様子が伝わります。とびラーが見つけた各章の面白い見所などについても会話が弾みます。
それぞれのグループごとに、時間をとって1作品を鑑賞します。
1グループはルイジ・ロワール《パリ環状鉄道の煙(パリ郊外)》(1885年)、もう片方のグループはピエール・ボナール《夏、ダンス》(1912年)。どちらも見ごたえのある大作です。
その後は、マインドマップを作成するための個人での鑑賞の時間です。
それぞれがもっと見たいと思った作品のもとに向かい、発見や気づきをメモしてきます。
その後、アートスタディルームに戻り、本日の鑑賞をもとにマインドマップを作成します。
約30分、カラーペンを使って思い思いにまとめていきます。
最後に、描き上げたマインドマップを見せながら、今日の鑑賞体験を一人ずつ発表していただきました。
「絵の緑が非常に美しくて印象深かった。」
「私は、展覧会を見て“道“をいう言葉が浮かびました。」
「展覧会を通していろんな“旅”があることが分かった。」
その他にも、キュレーションに関心があるというご意見や、とびラーがこの企画実施にたどり着くまでの過程の“旅”に参加できてよかった、という励ましのメッセージまでいただき、大変感動しました。
プログラムはこれで終了。
実施後のとびラーのふりかえりでは、今回の参加者のみなさんの様子を思い返しながら、時間配分や、描いたマインドマップの共有方法についてを話し合い、マインドマップというツールと対話を通した鑑賞の融合について考える時間を持ちました。
参加者の皆さんが回答してくださったアンケートでは、
「マイテーマを持つことは面白い」
「想像を超えて楽しかったです!マインドマップが思考の整理、記憶の定着、意識の向け方に役立ちそう。」
「会場で少し説明が欲しかった。」
「対話型鑑賞を会場でもう1点できるとよかった。」など、
具体的によかったところや改善の余地がある点があきらかになりました。
今後のプログラムづくりにぜひ活かしていきたいと思います!
執筆:中元千亜樹(アート・コミュニケータ「とびラー」)
大人も子供も作品について語り始める時のキラキラした表情をみるのが、とても好きです。
お気に入りの美術館はTate Modern(英国)Kiasma(フィンランド)。
2018.06.05
マインドマップを使って展覧会を楽しんでみませんか?
情報や考えたことを言葉にし、目に見えるように整理していくマインドマップの手法を活用し、作品の鑑賞を深めていきます。
「美術館の展覧会ってどう楽しんだらいいの?」
「展覧会に行っても『面白かった』以上の感想が言えない」
「時間が経つとどんな展覧会だったかいつも忘れてしまう」
と感じているビジネスパーソンのみなさんにお届けしたい鑑賞プログラムです。
マインドマップの手法を活用しながら鑑賞を楽しみ、さらにわかって、発見して、誰かと語り合いたくなる。
そんな展覧会での新しい体験をしてみませんか。
「マインドマップってなに?」という方でも、ステップバイステップで丁寧に進行していきますのでお気軽にご参加ください!
*定員に達し次第申し込み受付を終了いたします。
*混雑状況により、当日お待ちいただく場合がございます。
*広報や記録用に撮影を行います。ご了承ください。
*「プーシキン美術館展 -旅するフランス風景画」のチケットを購入したのちに集合場所へお越しいただきますようお願い致します。
*本プログラムでは展示室内での滞在時間が限られています。ご留意ください。
2018.06.03
展覧会だけではなく美術館の建物も楽しんでほしい!そんな思いからはじまったツアー。前川國男が設計した東京都美術館を散策しながら、その魅力をご紹介します。
日時|2018年7月21日(土) 14:00-14:45頃(45分間程度)
集合場所|東京都美術館 LB階(ロビー階)ミュージアムショップ前
参加費|無料
定員|30名(当日先着順)
参加方法|当日13:45頃より、東京都美術館ロビー階ミュージアムショップ前にて受付を行います。直接お越し下さい。
ライトアップされた東京都美術館を散策するツアーです。夜ならではの建物のみどころをご紹介します。
日時|2018年6月8日(金)、29日(金)、7月6日(金) 19:15 – 19:45頃(30分間程度)
2018年7月27日(金)、8月17日(金)、24日(金) 19:30 – 20:00頃(30分間程度)
集合場所|東京都美術館 LB階(ロビー階)ミュージアムショップ前
参加費|無料
定員|15名(当日先着順)
参加方法|当日はツアー開始15分前より東京都美術館ロビー階ミュージアムショップ前にて受付を行います。直接お越し下さい。
※受付開始後、定員になり次第受付を終了します。
※記録用の撮影や取材等が入ることがあります。
2018.06.02
アートの作品はたくさんありますが、はたして「作品を鑑賞する」とは、どのような活動なのでしょうか?
ただ何かを「見る」だけではなく、自分の目と頭を使って、そこにある表現に迫ること。
美術館での体験や学びとはどのようなものか、今回の講座では「鑑賞」について、理論と実践の両面からそのあり方を考えていきます。
今回の講師を務めるのは東京都美術館学芸員 アート・コミュニケーション係長の稲庭彩和子さん。
講座の前半は3つの映像を見て、気づいたことをひもときながら話し合います。
(3)「Museum Start あいうえの スペシャル・マンデー・コース」
この3つの映像を順番に視聴しながら、それぞれ気づいたことや疑問に感じたことをシェアしあい、稲庭さんがコメントバックする形で午前の講座はすすんでいきました。ここではそれぞれの動画のポイントを簡単に紹介します。
(1)「美術館の展示室で物語をつむぐ」
メトロポリタン美術館の館長である、トーマス・キャンベル氏のプレゼンテーション。作品を知識によって見ていくのではなく、個人の発見や気づきから、共感をもって見ていく、鑑賞者が中心となる美術館での体験について語られています。
映像のスクリプトも読みつつ、気になった部分についてグループで話し合い、いくつかの論点を全体でも共有しました。
たとえば「どの作品も当時は現代美術だった」、「リアリティをもって作品に出会う」、「美術館での体験とはどうあるか」・・・など。
アートや作品が好きで美術館を訪れる人も、普段はなかなか美術館に来る機会がない人もいるなかで、「作品を見て考える体験」について俯瞰した視点から考えていきます。
(2)「Thinking Through Arts」
次に視聴したのは、イザベラ・ガードナー・スチュアート美術館で行なわれている対話による鑑賞を使った手法(Visual Thinking Strategies)の取り組み。こどもたちが作品について、素直な視点で発言していく様子が紹介されています。
人間には、言葉を使って思考を構築していく習慣があります。視覚情報が豊かであればあるほど、言葉で伝えるのが難しかったりするもの。だからこそ豊かな解釈が生まれ、言語表現はより発達したものへと変容していきます。
また、多様な考え方や価値観を保持しながら「対話」をすすめていくうえで重要なのが「ファシリテーター」という役割。中立的に場を進行する人がいる状態が、異なる考えを持つ人たちが共存することを可能にしていることに注目しました。
(3)「Museum Start あいうえの スペシャル・マンデー・コース」
実際にとびらプロジェクトで取り組んでいる、スクールプログラムの様子です。
展示室のなかで、アート・コミュニケータがこどもたちに伴走する事例が紹介されており、展示室での活動が子どもと大人の「学び合い」の場であることについて見ていきました。
現代のアクティヴ・ラーニングに必要なのは、こどもに教え諭すだけではなく、ともに議論しながら考えていく姿勢。個人の年齢や背景が異なるからこそ、違う意見や価値観があり、多様な解釈が生まれるもの。ミュージアムにあるたくさんの「もの」や「作品」を、それぞれの視点から考え、共有していく取り組みが、いま世界の各地で起こっています。
様々な人のまなざしを知ることは、互いの背景を重んじあい、共存を認めあう、文化的な理解を深めるプラクティスでもあるのです。
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午後は実際に自分の目と頭をつかって作品を見るワークから、「対話による作品鑑賞」を体験していきます。ここから進行は、各グループの進行役「ファシリテータ」が担います。
まずは作品を使ったアートカードで「なっとく!ゲーム」を行いました。
たくさんの作品を見比べながら並べ、絵の中の共通点を探し、伝え合うコミュニケーション・ツールです。
ここからは実際に、展示室にある作品を見に行きます。
訪れたのは公募展示室で開催中の「第84回 旺玄展」。会場には見応えのある作品が所狭しと並びますが、今日は各グループにつき2作品ずつを、集中して鑑賞します。
1作品あたりの鑑賞時間は約20分。
「1枚の絵の前でそんなに立ち止まるの!?」と始めは驚かれる方もいらっしゃいましたが、絵をよく見て、話し始めてみたら「あっという間だった!」「もっと見て話してみたい」との声も。
講座の終盤では展示室から戻り、今日の体験を振り返ってみます。
「自分では気づかなかったことに気づいた」
「作品について話したり、聞いたりするうちに、絵がどんどん変わって見えた」
「話している人の人柄も見えてくるようだった」
一つの作品を見て、それぞれの気づきを共有していくことで、「誰かの気づきを自分がどう思うか?」という相対的な視点をいつのまにか獲得していることに気がつきます。
講座の最後には、参加したとびラーからこんな発言が。
そう、これこそが「複数人で話しながら作品を見る」醍醐味であり、ポイントなのです!(・・・と、進行していた学芸員の河野さん。)
どんなに解釈が違っても、同じ作品をみて、同じことを捉えた延長にそれぞれの思考があります。意見の正誤を問うのではなく、「異なる視点を共有する」体験が、対話による鑑賞で得られるもの。全く同じ観点ではなくても、自然とまなざしが重なり、自分とは違う他者の在り方を確認することができるのです。
見ること、考えること、言葉にすること、他の人とやりとりすること。
作品や人と対話し、交流を深めていくと、新しい視野が開けるような体験に出会うことがあります。そんな機会にふれ、また次の誰かに届けていくためのきっかけに、今日の講座がなっていたらいいなと思います。
(とびらプロジェクト・アシスタント 峰岸優香)