東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2020.01.29

澄みきった青空が綺麗な穏やかな昼下がり、デザイン科の武藤琴音さんに会いに総合工房棟のアトリエへ向かいました。
エレベーターを降りると入口の前からにこやかに我々を待つ琴音さんの姿。
最初は少し恥ずかしそうに迎えてくれた彼女。可愛らしくて笑顔が素敵な方だなぁというのが第一印象。
早速アトリエの中に案内していただきました。

 

 

中に入るとすぐに大きな作品が迎えてくれました。

と、いきなりモーター音と共に、ライトが光の強弱とともにレールの上を動いていく姿に一同びっくり!

 

 

最初はその動きに目を奪われましたが、実際には部屋を一日掛けてゆっくりと明かりが動いていく作品に仕上げるそうです。

 

 

―作品のコンセプトを紹介して頂けますか?

 

「部屋の空間にあるライトって動かないじゃないですか。常に同じ部屋にいて同じライトの下で一日を過ごしているとずっと変わらない日常を過ごしている感じがする。それを何とか出来ないのかなと思って考えた作品です。」

 

「太陽は登ったり沈んだり傾いたりします。その度に空気感が変わっていく。それを部屋のライトで試してみたくて、レール上を移動する度に部屋の雰囲気や人の気持ちさえ変えてしまう照明を作りたかったんです。実験的な気持ちで制作しました。」

 

 

なるほど!光の変化によって違った雰囲気、違った気分を作り出す空間デザインなのですね。元々は、自然の光が空間で見せる変化に興味があり、デザインを重ねていく内に人工的に光を変化させられないかと考えて生まれた作品とのこと。

 

 

「レールやライトを近くで見てもいいですか?」

 

彼女が作品を外してその裏側を見せてくれる。

 

 

「今、完成度的には60%くらい。完成したら外に出ているコードは見えなくなる予定です。」

 

「ライトの色が変わるようになっているのですが、本当はこの場所にはこの色というバーコードを貼って光が変わる場所をカスタマイズ出来ようにしたいと思っているんです。」

 

なんと、電流のプログラムもご自身で設計されているそうです。

 

―プログラミングはいつ学んだのですか?

 

「2年生の時に機械系を使う課題で東大工学部の方とコラボする機会があり、それをきっかけにプログラミングを学び好きになりました。」

 

 

 

―今も誰かにプログラミングを教わりながら作品を作っているのですか?

 

「はい、そうですね。身近にいる詳しい人に教わったりしながら最終的には自分で完成させています。」

 

 

 

―ライトの明かりが季節でも変化したり、例えばその国の空の色を体験できたりしたら面白そうです!いつか商品化する夢はありますか?

 

「いいですね。商品かもいつかしたみたい。もしこれが大きな家の中にあったら面白いかなと思っています。」

 

 

 

―明かりが心理的に癒す効果もあるって聞いた事があるのでインテリアに取り入れたら落ち着いたりほっとする空間になりそうですよね。介護施設や病院でも喜ばれそうです。

 

「そうですね。やっぱり変化が無い部屋にこういうのがあったら良いかなと思っています。」

 

今度はライトの部品を見せていただく。

 

 

―部品はどこに買いに行くのですか?

 

「はい、秋葉原に買いに行きます。でもこれはまだあまり配線がキレイではないんですよ。だからまだあまり見せたくない!」

 

 

 

配線にまで美意識が!まだ配線が表にだらりと見えている事が気になるそう。
バーコードを読み取る場所も丁寧に教えていただきました。

 

―デザイン科の方って皆が琴音さんの様にプログラミングが出来る訳ではないですよね。

 

「はい。私はプログラミングや光が好きですが、デザイン科には絵を描く人、グラフィック、映像作品、紙ばかり扱っている人等本当に多種多様で皆それぞれです。」

 

「プログラミングが好きだとは言ったのですが、一番はやはり光に関心があるのだと思います。例えば写真でも人が美しく見える背景に光が影響していると思いますし、光って全て覆す位の影響力を持っていると感じています。人間がどうしても抗えない光の印象を色々な角度から作品に落とし込んでみたいと思って制作しています。自分の作品を整理していてもやっぱり光が好きなんだなと思うんです。」

 

―いつ頃から光に興味を持ったのですか。

 

「藝大に入学した時に何をやりたいですかというインタビューがあったのですが、その時に光の研究をしたいと答えていました。昔からやっぱり光が好きなんだなと思います。」

 

―光ってサイエンスでありアートでありどちらの要素もありそうですよね?

 

「その間ですよね。そう言えば小中学生の時に理科が好きでした。高校の時は生物、化学も。一環して好きだったので光系、プログラミング系を志す事が必然だったのかもしれないなと思います。」

 

 

―この作品は何かの軌道かなとも思いました。

 

「最初は惑星や宇宙の星の軌道とかの意味もあって、この作品の名前を『アルファー』という名前にしようかなと考えているんです。アルファーというのは星座の中で一番明るい星のことで、太陽と同じ恒星なんですが地球では太陽は絶対なので勝てないと思います。明るい日は窓から入る太陽光を大切にした方が空間が綺麗に見えるので、電気を付けたくない。」

 

「作品にアルファーと名前を付けたのは太陽が沈みかけた時に輝き始める星みたいなイメージを持たせたかったから。太陽には負けちゃうけど、その中でも輝く存在としてこういう照明が灯せたらいいなと思って名付けたんです。他にも作品を増やす事が出来たらベータ―星も作りたい。ガンマ、ベータ―みたいに。」

 

 

なんとシリーズ化!そうなれば部屋の空間に更なる宇宙が広がるかもしれない。

 

「もしそうなったら動く方向とか場所によってすごい明るくなったり暗くなったり、光の魅せ方、色の関わり方にも変化を作れるし部屋の印象は何通りにも変える事が出来と思うんですよね。」

 

―ある意味無限につくれますね!!

 

「そう!考えるだけでワクワクしますね。」

 

―光の動きについてもお話いただけますか?

 

「現時点ではライトの動きの方に注目されがちで空間の変化は若干見えにくくなっているので、太陽が沈みかけたら使い始めるイメージでゆっくり一日かけて動いて行くような速度に変えたいと思っています。その空間にいながら暫く時間が経つと全然違う、例えばウトウトと眠って起きたら部屋の雰囲気が全然違う!という変化を起こさせたいんです。」

 

丁寧にボールペンで描かれたという作品の使用イメージ図はお洒落な世界観が表現されていました。

 

 

間接照明の様にカーテンや本棚の裏側を通ったり、植物の影が光の当たり具合で変化したり水を入れたガラスの容器が光を浴びてきらきらと輝いたり。彼女のデザインする素敵な空間が広がっていました。

 

 

いつしか彼女の世界観に惹き込まれ、自然な対話の中で質問に答えていただき、彼女の引き出しから溢れる沢山の言葉によって深く作品を知ることとなりました。

 

卒展に向けたこの作品以外にこれまで手掛けた作品も見せていただきました。
「COM BAR」いう学科の垣根を越えた藝大生の交流の場をグループでデザインした作品のお話が特に印象的でした。

 

 

コミュニティ作りは様々な場所で今必要とされていると感じますが、学科を越えて多様な藝大生が集まり、彼らのコラボレーションで新しい何かが生まれる、その出会いの場が魅力的にデザインされていました。そこではどんな発想が飛び交いどんな話で盛り上がるのだろう!企業が加わってそのアイディアをビジネスに取り入れても面白そうだし、地域や福祉や様々な所に応用できそうな生きたコミュニティデザインの作品だと感じました。

 

―今後の夢はありますか?

 

「自分の作品を大きな家、空間等で使うことが夢です。卒展ではサイズ的に作品として表現する事に限度があるので出来る範囲でどう見せるか、伝えるかということを追及したいと思っています。」

 

「将来的には1つの事に縛られたくないのでこれになりたいと言う具体的なものはないのですが、空間、人の気持ちが豊かになるものを作る人でいたいです。」

 

琴音さんは卒業後は大学院で更に研究を続ける予定だそうです。

 

私達の好き勝手な意見にも彼女はにこやかに時に「それは面白い!」「それは新しい意見です」などと、きらきらした表情で嬉しそうに受け入れてくれました。更に「皆さんにもいろいろ聞いてもいいですか?」と言って、私達の部屋や照明の事、生活と電気や明かりの事等を聞いてくれる場面もあったり、次々と話が出てきて盛り上がりました。
話に夢中で気が付いたらずっと立ちっぱなしだった事も気にならない位のあっという間の一時間半。
琴音さんはとても魅力に溢れた素敵な方でした。

 

 

インタビューを終えて

彼女が小さい頃、部屋に射す西日にビー玉をかざして光の影の美しさに見惚れて眺めていたというエピソードを話してくれました。その頃からずっと彼女の中にある光に対する熱い思い、尽きない興味、探究心。大切に学びや研究を重ねてきた彼女の集大成がもうすぐ完成しようとしています。
好きな光を使った空間デザインで、人々に心の豊かさや幸せもたらすことを目指し、いつもその空間にいる人がどうすれば心地好いかを考えて作品を作っている事が伝わって来ました。光と空間というテーマは幾通りもの表現が可能で、今後も研究を続けていきたいそうです。短い時間でしたが彼女の優しく人に寄り添い包み込むような雰囲気に我々はすっかり心を掴まれ、いつまでも帰りたくなくなる様なそんな心地好さを感じるひとときでした。きっとその素敵な人柄も作品に投影されることでしょう。これからのご活躍、そして卒展での再会と完成した作品を見せて頂くことがとても楽しみです。

 


取材|香坂小夜子、ふかやのりこ、細谷りの、草島一斗(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|香坂小夜子

 

藝術に触れる時間が大好きです。そしてアートの持つ力やアートが繋ぐ人々の出会いやコミュニティにも幅広い可能性を感じています。インタビューを通して藝大の魅力、そして才能溢れる藝大生の作品を生み出す努力や思いを熱いシャワーを浴びるように受け取りました。

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