東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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Archive for 1月, 2025

2025.01.19

上野公園の銀杏が一気に色づいた11月下旬、東京藝術大学(以下、藝大)の上野キャンパスに、同大学大学院美術研究科の間瀬春日(ませ はるひ)さんを訪ねました。間瀬さんは、文化財保存学専攻で保存修復工芸研究室に在籍しています。
文化財修復の研究室は地下にあり、中に入ると木の香りが微かに薫る「和」の空間でした。しかも靴を脱ぐという手順を踏むことで、ちょっと異空間に入るような感覚になりました。

 

 

-修了制作はどんな作品に取り組みましたか?

 

 紫陽花で有名な鎌倉の明月院に織田信長の弟、織田有楽斎が100揃い(100個セットのお椀)寄進したものと言われている「明月椀*(めいげつわん)」というお椀の復元模造制作です。今回の制作のプロセスを見せたいので、卒展では出さないものも含めて今日は工程順に素材を並べてみました。

 文化財の模造は2種類あります。傷みなども含め現状のありのままを再現する「現状模造」、もう一つは当時の技術を再現しながら、その当時の状態の作品を制作する「復元模造」があります。明月椀については後者で取り組みました。貝片で装飾をする「螺鈿(らでん)」の技法は特殊な技術なので、その再現として、素材の貝を桜の花びらの形に抜くところから取り組みました。

明月椀と制作プロセスが並ぶテーブル

 

 この椀の螺鈿には「割貝技法」が用いられていて、この技法は椀の複雑な形状に合わせて貼り付けるので、1枚1枚にあらかじめ割れ目を入れて面に添わせるようにしています。現代の作品でも割貝は使われていますが、普通は貝を椀の面に押し当て、パキパキと割っていくことが多いです。明月椀のように、ここまで細かい割れ目を入れるようなパターンは珍しい技法なので今回、螺鈿部分を中心に復元しようと思いました。

 素材はアワビ貝で、0.15mm程度の比較的厚い貝です。調べるとどうも鏨(たがね)*で打ち抜いたものではないと考え、今回糸鋸で一つ一つ自分の手で形を切り抜きました。

 

*明月椀(めいげつわん):桜花文散し螺鈿椀。朱塗りに螺鈿(らでん)の桜花文が埋め込まれた桃山・江戸時代の輪島塗の木製椀。

*鏨(たがね):鋼鉄製の加工用工具。

 

貝から花びらを抜く工程

 

-なぜ糸鋸機を使わなかったのですか?

 

 「技法の再現」もテーマなので、当時存在した手段を用いました。仮に椀を100個とした場合、計算すると全部で花びらを約29,000枚用意しなければならないので、量産も加味しながらアプローチしました。

 螺鈿の桜花文の花びらの部分は、貝片を6枚重ねにして切ることで半量産を意識しました。貝片はデンプン糊で接着させているので、水に浸ければバラバラになります。花びらの真ん中のポツッとした柱頭はとても小さいので、鏨(たがね)で1個1個打ち抜きます。この柱頭を中心に、丸く切った和紙の上で桜花文を作りますが、花びらとの間に隙間をあけることで桜の形がパキッと見えます。そして花びらに、あらかじめ割れ目を入れておきます。

これに注目!花びらの中心にある点「柱頭」

和紙で裏打ちした桜花文

 

 こうして和紙で裏打ちした貝ができるわけですが、大変なのは貼り付ける過程です。紙から貝が剥がれて落ちてしまう・・また貝は自然物なので当然天然の傷や割れはあり、そこから予期せず砕けることもあります。

 貝を貼り込む明月椀の器の素地は、文献調査と、オリジナルの椀の透過X線写真を撮ることで、ヒノキと推定できたので今回ヒノキから椀の形を作り、縁の部分に薄い布を着せ、その上で全体に砥の粉と漆を混ぜたものを塗り重ねて下地を作りました。

復元模造のためのヒノキ椀

 

 最初は刷毛目などが残って表面が粗いので砥石を使ってひらすらツルツルになるまで砥いでいきます。そして下地が出来た段階で螺鈿を貼り、そこに上から漆を塗り重ね、乾いたら、炭などを使って螺鈿部分を見せるために砥ぎ出していきます。これを繰り返して作品が出来上がります。形態は素地の段階で完成しているので、あとは目指した仕上げのレベルになるまで繰り返します。同じ工芸でも陶芸などは、一度焼き上げたものがそのまま作品になりますが、漆は同じ工程(塗って砥いで!塗って砥いで!)をひたすら繰り返すので、周りから「(すごすぎて)おかしい!」と驚かれることもあります。(照れ笑)

 

-とびラー3人「うんうん(ごもっとも!)」(笑)

 

工程見本の板

 

<主な制作工程>

木製の蓋つきの椀の縁に麻布を着せ漆で下地を塗る→乾かす→貝を型抜き桜の模様を制作し椀に貼る→桜の模様の上から漆を全体に塗る→乾かす→桜の模様の部分だけ漆を剥ぎ起こす

 

螺鈿の漆を剥ぎ起こす

 

-作品制作に掲げているテーマはありますか?

 

 自分にとって明月椀の復元模造は挑戦でした。学部は金沢美術工芸大学で漆を学び卒業後、一度京都で社会人を経験し、そこで漆屋さんとのお付き合いがありました。もともとは乾漆造形をつかったオブジェを制作していたので、藝大に来て初めて螺鈿に触れました。

 藝大美術館所蔵の明月椀一揃いが、修復予定の作品として研究室に来ていたのですが、私が鎌倉出身で椀づくりと所縁があり、また漆を学んだ関係で材料や業者といった制作への見通しが立ったので、やってみようかという気持ちで、この椀と向き合うことになりました。

 過去にも明月椀の復元に取り組んだ人はいましたが、記録は残っていないので、この修了制作を通じて後続の人たちの参考になればという想いはあります。

 

-いつも明月椀とどんな気持ちで向き合っていますか?

 

 シンプルに面白い。これだけ合理的で突出したカッコいい技術が備わった作品をスパッと出されてしまうと勝てないな、という気持ちになります。特にわざと凹凸があるところにこれ見よがしに螺鈿の桜模様を貼り、それを400年前に100個揃えるというセンスには驚かされます。そんなカッコいいものに、藝大に入って触れることができたことはとても贅沢なことだと思います。

 

-苦労して取り組んだ修了作品について、どういうところを見て欲しいですか?

 

 まずは意匠のカッコよさを見て欲しいです。特に螺鈿が複数の凹凸部に貼られているところ。制作は大変だろうなとは思っていましたが、想像以上でした。

中塗りが終わったところ

 

-間瀬さんにとっての漆の魅力とは?

 

 高校の時、美術予備校の先生が漆をやっていて興味を持ち、藝大の卒展で見た漆の作品がめちゃくちゃカッコよかったので、大学で漆をやりたいと思いました。祖父は、手書きの看板職人と大工だったので、もともと手に職がある仕事に非常に憧れていたこともあり、進路は自然に決まりました。それと、わからないものに興味があります。宇宙も海洋も大好き。漆もわからない。わからないことがあるから面白い。昨日はきちんと乾いたものが、今日は乾かない。そんな漆のご機嫌伺いをしながら暮らしています。だからこそ面白いのであって、死ぬまでずっと漆に触っていたいです。

 

-ここまで漆にたずさわってきて作品づくりで思うことはありますか?

 

 最初はデザイナーを目指していましたが、デザインのためのアイデアを考えるのがつらい一方、手を動かすのは苦にならないので、工芸志望にしようかなと思いました。漆の素晴らしい作品を見て、結局漆を専攻することになりましたが、並行して作家としても活動していて物づくりであればいくらでもできます。作家として作品のアイデアを考えるのは相変わらず苦労していて、寝ていてハッと思い付き、それを忘れないうちにスケッチして、みたいなこともあります。

 自分が創作する作品は、今の時代に通用するカッコいいものをと思いつつ、やっている技術はひたすら磨くことを繰り返す・・めちゃくちゃ伝統的なもの。面白い形の中に隠された技術的なところ、これはどうやって作ったのかということを聞いてもらえると嬉しいです。

 

-大学を卒業した後、一度社会人を経験されていますが、そこからなぜ修復に進んだのでしょうか?

 

 学部を卒業した時がコロナの大流行と重なり、大学院進学は難しいと感じ、一度社会人になってみようと考え、ギャラリーが付いた京都のホテルで働いていました。目の前で美術品が大量に売買されている一方、博物館では残すべき作品が朽ちていくという現実を目の当たりにしました。でもそれを担う人材がいない、そういう現実の中で働きながら作家を続けていましたが器用にできてしまい、自分のキャリアはこのまま兼業作家でいいのか?という迷いがありました。そんなとき「作品はいつか壊れる」という恩師の言葉から、100年後に自分の作品が残って使ってもらえるようにしたいと思うようになりました。そのためには、作家とは別の角度からも漆を極めておきたいと修復の道に進みました。

 

-ワークショップで金継ぎなど修理を教える・伝えるということと、作り手という立場は、各々どういう意識でのぞんでいますか?

 

 皆が関心を持つ金継ぎを教えることで、人が漆器などにも興味をもってくれるのであれば、喜んで出向いていきたいです。微力ながら100年後の世にも漆を残せるようにしたいと思っています。どんなにいいものでも見た目がカッコよくないと見てもらえないので作家としては作品としてカッコいい作品を作りたいですし、金継ぎをSNSで発信する際も、オシャレに写そうとかを意識しています。見せ方がまずはカッコよくなくっちゃと(笑)。

 

-これからどういう人間になりたいですか?

 

 将来は、「漆だったら間瀬」と言われたいです。研究もしたいし、作品も制作したいし、死ぬまで漆に関わっていたいです。それぞれの領域とのいい距離感を保つためにも、制作で悩んだら、研究で修復に学ぶというスタイルが個人的にはいいと思っています。

 

 間瀬さんは、藝大の研究室を受験する前、藝大生インタビューの記事をみつけ、内容を見ながら学生生活を想像していたそうです。今回インタビューに選ばれたことがとても嬉しく、記事が完成するのが楽しみとのこと、ご期待に応えることができたらと思います。

 

取材:染谷都、志垣里佳、菊地一成(アート・コミュニケータ「とびラー」)

執筆:菊地一成  

撮影:竹石楓 (美術学部日本画専攻3年)

 

 

「死ぬまで漆にかかわりたい」この言葉が一番印象的でした。一生かけて添い遂げるものがある、それはとても羨ましいことです。今後の間瀬さんの作品を追いかけていきたいです。( 菊地一成)

 

 

「将来は『漆だったら間瀬』と言われたい」。極めたいという職人気質に心うたれました。出身地、鎌倉の名椀に出会える強運の持ち主の未来がたのしみです。 (染谷都)

 

 

漆と螺鈿を観る目がこれから変わりそうです。先人のこれ見よがしの職人技に向き合う、二刀流ならぬ三刀流の間瀬さんの覚悟に敬服しました。(志垣里佳)

 

2025.01.16

 

武蔵野の面影を残す雑木林が点在する、のどかな丘陵地帯。東京藝術大学(以下、藝大)取手校はその中に広大なキャンパスを構えています。

ほどなくして、校舎から続く丘の小道を勢いよく駆け下りてくる一人の方が…。それが今回インタビューするYe Feng(イェ・フェン)さんでした。

「お待たせしました、早速スタジオをご案内しますね!」

お互いに軽い自己紹介をすませ、私たちはグローバルアートプラクティス(以下、GAP)内のFengさんのスタジオに向かいました。

(以下のインタビューは全て英語で行われ、取材したとびラー3人が翻訳・編集しました。)

 

香港に生まれロンドンで育ったFengさんは、国際的・言語的に様々なバックボーンを持っています。

「それが私の創作のルーツ、アートの源になっているんです」瞳をキラキラと輝かせながら語るFengさんは、パワフルそのものです。聞けばこのインタビューの翌日に Evaluation Show※を控え、制作も大詰め。

「今日のタイミングで、皆さんに制作のプロセスをお見せすることができるのは、本当に嬉しいです。 まずはこの作品を見てください」

※Evaluation Show=卒業のための最終審査。

「インタビューのために、制作途中の作品を用意しておきました」 最初に案内されたのは、工場のような本格的な作業場。目の前には建築用の鉄筋を使った立体作品がありました。制作過程を聞けば、「太さの違うむき出しの鉄の棒を様々な長さにカットし、溶接や表面の加工を繰り返し、環(circle)の形に組み合わせています」とのこと。工具を併用しながらも、鉄筋を自らの手で細かく曲げていることに驚かされました。

 

 

ーこの場所で制作されているんですね

はい。組み合わせた鉄筋が、まるで浮かんでいるようにしなやかに輪を描いているでしょう、地面に置くと自立するけど、重い素材のはずなのに、指で押すだけでゆらゆら動く。硬さや柔らかさ、そして強弱。様々な対比を大事にして制作しています。

 

ーこの作品のコンセプトはなんですか?

自分のルーツから、「言語」が中心となっています。

小さい頃から、国際的な環境が当たり前で、言語を通して様々な文化や歴史を知ることも多く、甲骨文字を含め様々な言語のルーツを研究し、人類学や文学を深堀りしてきました。当たり前のように使っている言語ですが、そこには誤解やすれ違いも伴います。大人になるにつれて、小さい頃には感じなかった、コミュニケーションの難しさを知るようになりました。

 

言語はたくさんの意味を抱えて存在しています。選びながら、構築しながら、私たちはそれぞれ自分自身の言葉を紡いでいます。

バラバラだった直線の金属が曲がり、つながり、環を描いていくことが「言語の伝達」への表現とつながっています。

 

ーつながって、揺らいだり自立したり、ですね

私の作品にみられる流れるような金属の線は、抽象的な表現ではあるものの、言葉や文字のように、何かのシンボルとして存在しているとも捉えています。

本来、機械を使って磨き上げたり、綺麗な環に繋げたりもできます。でも私はそうはしません。私たち人間も「完璧ではない」からです。

 


 

形状や動きがユニークな立体作品ですが、近くで見るとさらに細かいこだわりが見つかります。時間を経てさびていく金属の材質を活かし、表面のテクスチャを様々な表情に仕立て、溶接のつなぎ目もゴツゴツとした個性のある関節のようです。個性がありユニークであるのが人間。そのありのままの姿が、作品を通して表現されています。Fengさんの「金属で描いている」という言葉がよく伝わります。

「次に、Evaluation Showの部屋をご案内しますね。さっきの環(circle)がここでは様々に形を変えて空間を構成していますよ」

 

Evaluation Showの会場は、天井の高い四角い部屋。

その中に、金属の立体作品、油絵の平面作品、ライトで作り出された光と影、そして手作りのスピーカーから流れる音。たくさんの要素が集まった部屋全体が一つの作品であり、作品どうしが共鳴する空間が創られていました。

 

ーこの空間はどのように創られたのですか?

最初から様々な表現を組み合わせようと決めていたわけではなく、自分の感性に従って創作を進めて、最終的にこのような空間ができあがりました。直感を信じて進めるのが私の創作スタイルなんです。

 

ー先ほどの作業場で見せてもらった金属の環の作品が、ここではさらに形を変えていますね

そうです。地面に置かれたものもあれば、小さく繋げて空気をまとうように空間に浮かせたものもあります。金属の環の一つ一つが、様々な文字をバラバラにして再構築するようなイメージなんです。作品自体のユニークさだけでなく、壁に映る光と影のバランスも見てくださいね!

流れている音は、金属素材を扱う時の音を録音して作りました。壁の高い所にスピーカーを設置したので隣の壁から響きわたるような幻想的な聞こえ方になっているでしょう。

 

 

ー金属、絵画、音楽、光と影。立体作品と平面作品など、組み合わせが考えられた空間ですね

絵画は、サイズが違うものを壁に並べて空間を創る飾り方を考えました。基本的には油絵具をキャンバスの上でそのまま混ぜて自由に描いています。実際の展示では触れないことも多いけど、触ったりもできるインタラクティブな展示が理想的ですね。この組み合わせた空間ごと身近に感じてもらえたら嬉しいです。金属の環は中をくぐれるくらいの大きさでしょう?私は自分の体と同じくらいの大きさの作品をつくることが好きです。

 

 


 

「次に油絵を描いているアトリエの方へ移動しましょう」

私たちはEvaluation Showの会場を後にし、日差しが降り注ぐアトリエに向かいました。照明を落とした部屋から、天井が高く明るいアトリエに来て、どこか異世界から現実世界に戻ってきたような感覚でした。

 

ーこのアトリエも素敵ですね。たくさんの油絵がありますが、これらも卒展作品ですか

ちょっと散らかっているんですけど(笑)。今、ここにある油絵も、気に入ったものはさっきのインスタレーションに加えるかもしれません。

 

 

ーここであらためてFengさんご自身のルーツや、アートへの想いを伺えますか?

私は香港に生まれ、ロンドンで育ちました。小さい頃は空想や考え事をすることが好きで、もちろん絵も描いていました。ロンドンにはミュージアムがたくさんあり、展覧会にもよく行っていましたが、本を読むことも好きで将来は医療や経済を学ぶのだろう…と思っていました。

でも高校生の時に気づいたんです。医療や経済は一つのことを掘り下げるイメージだけど、アートという分野は、そこを通じてもっと広い世界や深い歴史に触れることができるのでは?と。

 

ー高校卒業後、ロンドンで美術大学に通われたんですよね?

そうですね、高校時代、進路を決める時に当時の学校の先生に相談したら背中を押してくれて、大学への推薦状をいただけたんです。美大への入学が私の人生にとって大きな転機となり、さまざまな事を学びました。「アートジャーニー」とも呼べる流れが始まったんです。

 

ーGAPでの生活、創作活動はいかがですか

ロンドンのアートスクールを卒業した後、いったんは就職しましたが、日本の藝大のGAPコースの事を知り、入学することができました。素晴らしい先生や仲間たちに囲まれ、本当に充実した2年間を過ごしました。アートジャーニーがここに繋がっている感じですね。

自分にはマルチカルチャーで複数言語のバックグラウンドがありますが、成長するにつれ、それは私のユニークな個性であることを自覚するようになりました。カルチャーや言語についてさらなる思索を深めて、GAPでの作品制作にもその意味合いを込めるようになりました。

アーティストは自身の言葉・信条を表現し、どんな場所にいても、アートの事を考えることができます。私にとっては自然なプロセスで、あらゆることが繋がっています。それが私の人生そのものなんです。

私が今回選んだ金属・絵画・音響など、素材とも言えるものは昔から取り組んでいました。GAPに来てから他のさまざまな素材でも試してみましたが、金属や絵画は、以前より私にフィットしているように感じています。これらは私にとって大事な、変えることのできない血液型のような感覚なのです。

 

ーアートジャーニーは続く、ですね。卒業後のこれからについてお聞きできますか

そうですね、GAP卒業後も私のアートジャーニーは続いて、実験的な創作を繰り返したり今後の表現の種となるものを探していくでしょう。

日本には引き続き滞在しますよ。ずっと学校中心の生活をしていたので、キャンパスの外の世界も経験したいです。

私を表現するアートの創作も続けていきたいです。将来、どのような表現を展開していくのか未知な部分も多いですが、自分自身の変化や未来の姿に期待しています!

 

ー藝大の卒展は、どのような展示をお考えですか

そうですね、Evaluation Showと違う会場なので調整はしますが、自分の表現を届けられるように最終的な準備をすすめています。自身のコンセプトとアイデンティティがあってはじめて、自分の作品になると思っています。

だけど見てもらう人たちにとっては、まずは興味を持ってくれれば良いと思っています。複雑なことも哲学的な意味も必要ではないし、何も気にせず自由に楽しんで!と言いたいです。

 

ーインタビューを終えて

Fengさんの印象的な言葉があります。 「ひとは皆、ある意味『一つの言葉』=自分だけの言葉を話しているんだと思います。それが英語、中国語、フランス語、どの言葉を話していても、それは自分から発信された、自分らしい表現をもった、『自分だけの言葉』なのだと思います」

一つ一つ独立したように見えるモノやコトも、どこかで循環したり、次の何かに繋がったり。 Fengさんがテーマとしている環(circle)と表現したものが、日本でも古くから言われている「縁(ゆかり)」にも似た感じを受けました。

今日のインタビューでできた接点はどんな環になり、次はどこに繋がるのか。同時に、何気なく紡ぐ言葉の大切さや自分らしさを、改めて感じさせられたインタビューでもありました。

 

帰りのバス停に向かう時、私たちが見えなくなるくらいまで、身体をいっぱい使って手を振りジャンプしながら「またね!」と見送ってくれました。

熱意あるアーティストであると同時に、とてもキュートでフレンドリーな一面も持ち合わせたFengさん。 この環(circle)を大切にして、藝大の卒展でまた会えるのを楽しみにしています。

 

取材/翻訳/執筆 前田 浩一 劉 鳴子 星 久美子(アートコミュニケータ「とびラー」)

写真/校正 樋口 八葉(美術学部芸術学科2年)

 


 

私は、自分の作品に込めた想いをキラキラした瞳で熱く語り続けるFengさんに魅了されていました。 彼女は、その時々の直感を信じそれを作品に込めて表現できる人、加えてその作品についての思いをしっかりした言葉にできる素敵なひとでした。(前田 浩一)

自分自身や作品と向き合い続け、アートへの情熱を伝えてくれたFengさんは本当にカッコよかったです。 その上で、オーディエンスには自由に楽しく見てもらいたい、と笑顔で言い切る姿がとても印象的でした。今後の作品も楽しみです!(劉 鳴子)     

彼女の信じられないくらいのパッションから、あの作品が生み出されたと思うと、こちらまで元気になってきます。 アートだけではなく、人としての魅力や情熱をたくさん受け取っ た一日でした。彼女のアートジャーニーがこれからどのような道をたどるのか、楽しみです。(星 久美子)

                           

 

2025.01.07


第8回鑑賞実践講座|「ファシリテーション研究」「1年間のふりかえり」

日時|2025年1月7日(火)10:00〜15:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA)、熊谷香寿美(東京都美術館アート・コミュニケーション係長 とびらプロジェクトマネジャー)、越川さくら(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手 とびらプロジェクトコーディネータ)
内容|ファシリテーションの言葉の編集作業について/1年間のふりかえり


第8回の講座では、ファシリテーションにおける「言葉の編集作業」について理解を深めました。また、1年間のまなびをふりかえり、今感じている疑問や気づきを全体で共有する時間を持ちました。

午前中は、子どもたちとの鑑賞プログラムの様子を収録した映像を視聴しました。特に「ファシリテータが、鑑賞者の対話の流れをどのように編んでいくのか」に注目し、繰り返し見取りながら分析しました。

午後は、1年間の講座と並行してとびラーが参加してきた鑑賞プログラムをふりかえり、実践を重ねてきたからこそ生まれた疑問や新たな気づきを全体でシェアしました。

この全体シェアは、事前にとびラーから集めた質問をもとに、講師の三ツ木さんと熊谷さんが答えるQ&A方式で進められました。

 


今年度は、全盲のとびラーが仲間に加わったことで、「見えない人と鑑賞体験をどのように共有するのか」を考えながら講座を進めてきました。毎回の講座では、スタッフが制作した「触図」(触ることで、モチーフの輪郭や全体の構図がわかるもの)を使って、情報を補足しながら鑑賞を補助しました。「触図」を制作する際には、どこまで・どのように触れる部分を作るとわかりやすいのか、フィードバックをもらいながら検討しました。

後日、全盲のとびラーがファシリテータとなり、作品画像を鑑賞する会をとびラーとスタッフで実施しました。

鑑賞会とは別の事前準備の日には、複数のとびラーが集まり、作品選びと、作品研究を行いました。選んだ作品を細部まで観察し、想定される意見を出し合いながら、全盲のとびラーの「脳内マップ」に作品の視覚的な情報をマッピングする作業を行いました。また、ファシリテーション時の立ち位置などについても検討しました。

鑑賞会当日には、モニターに投影した作品画像を使って鑑賞会を行いました。ここで初めてファシリテーションを担当した全盲のとびラーは、講座でのまなびを最大限に活かし、鑑賞者の新たな視点や対話を引き出していました。

また、ここで鑑賞者の役割をしていたとびラーが、次の鑑賞会を自主的に企画するなど、次の動きにもつながっています。


2024年度の鑑賞実践講座がすべて終了しました。今年度もとびラーは、小さなお子さんから高齢者まで、また、様々な文化的背景を持った方々と作品との出会いの場を作ってきました。

3年目の11期とびラーは、とびらプロジェクトを任期満了し、それぞれの道へ。

1・2年目の12・13期とびラーは、2025年度のまなびと実践の場へと進みます。

7月からの半年間をともにした三ツ木さんから、激励とともに挨拶がありました。

「VTSのファシリテーションには、これでOKという完成はありません。常に模索しながら、一緒にアート・コミュニケーションの活動を作っていきましょう。またお会いしましょう!」

みなさんのこれからの活躍を期待しています!


 

(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)

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