本日お話を聞かせていただく、美術学部絵画科日本画専攻4年の石山諒(いしやまりょう)さんです。
■ アトリエ
日本画のアトリエは採光がよい大きな窓と真っ白な壁、掃除の行き届いた綺麗な床の部屋で、5人の学生の方々がそれぞれ畳2畳分はありそうな大きな絵を制作していました。
天井が高く、コンクリート作りの部屋は、夏は暑く、冬は寒そうで製作者には厳しい環境ではないかと思いましたが、膠の安定のために室温や湿度がある程度一定に保たれていて快適だそうです。
制作中の絵画すべてが床に置いてあり、絵画の上に木製の足場を渡し、その上に座って描いている方もいます。その理由は日本画独特の技法にあると石山さんが教えて下さいました。
——–床に置いて描くのはなぜですか?
「日本画は『岩絵具』という鉱物を砕いて作られた粒子状の絵の具を使います。その粉末を『膠(にかわ)』と混ぜ、描きます。そのため、油絵のように絵を立てかけて描くことができないのです。特に今回のように大きな作品の場合は真ん中付近は絵がかきづらいため、足場に乗りながら制作をします。」
■ 卒業制作作品について
深い重みのある緑が印象的な河原の景色、そのなかに数名の男性が描かれています。これからどうなるのだろうと次々と好奇心が湧いてきました。作品についてお話を伺いました。
「今回、卒業制作には自分と身近な人たちを描きたいと考えていました。」
——–描くために大切なことはなんでしょう?
「日本画はスケッチがとても大切です。今回も、何度も河原に行きました。」
貴重なスケッチも見せて下さいました。小さな部分は拡大図として描かれ、観察した時のメモも書いてあります。植物図鑑のような細かいスケッチです。
藝大に入学するまでの石山さんについて伺いました。
■ 日本画専攻を目指したワケ
——–子どもの頃から絵を描くことが好きでしたか?
「落書き程度ですが、幼い頃から絵を描くのは好きでした。近くの絵画教室にも楽しみに通っていましたが、絵を描くことよりも友達と遊ぶことの方が好きな普通の子供でした。ほかの友達に比べて絵をかくことが得意などといった、絵に関して特別なことはなかったように思います。」
——–芸術系という進路はいつ頃決めましたか?
「高校2年生の時に美大受験を決め、夏から美術予備校に通い始めました。その頃はデッサンが本当にヘタクソでした。」
——–東京藝大受験で日本画専攻を選んだ理由を教えて下さい。
「予備校でデッサンの練習を続けていくうちに、より描写する技術について学びたいと考え、物の描写に力を入れている日本画科を目指すのが一番だと思ったんです。藝大入学後はどの人もみんな絵が自分より上手で圧倒されました。下手な人が1人もいないので見ていて楽しかったです。」
——–藝大の4年間で一番印象深いことは何ですか?
「深く印象に残っているのは古美術研究旅行です。奈良の寺社仏閣をめぐり、普段は目にすることができない貴重な作品をたくさん見ることができ、素晴らしい体験でした。」
次に、日本画ならではの制作の特徴についてお話を伺いました。
■ 日本画の制作の特徴
・準備と下書き
① 和紙は水張りや裏打ちなどをして描けるように準備をします。
② スケッチ…まずは描きたいものをよく見てスケッチします。日本画は大きな修正をしにくいのでよく考えて丁寧にスケッチをします。
③ 転写…スケッチしたものをトレーシングペーパーで写し取り、捻紙で和紙に写します。
④ 骨描き(こつがき)…転写したものを墨で線描きすることを言います。
このように絵の具を使うまでに少なくとも3回下書きをすることになります。
・絵の具と膠(にかわ)
次に岩絵の具と膠(にかわ)です。
アトリエでは、1人ひとつずつ道具箱を持っています。これは石山さんの道具箱です。引き出しにはいくつもの岩絵具が入っていました。鉱物を砕いて粒子状になったものは小さなビニールパックに入っています。号数は粒子の大きさを示し、細かくなるほど仕上がりが白っぽくなります。天然の岩絵具はどれもとても高価なので、手ごろな新岩絵具というものもよく使うそうです。
これらの岩絵具は膠(にかわ)という接着剤と混ぜて和紙に着彩していきます。
・盛り上げ技法
よく見ると、作品の白い部分だけ盛り上がっていることに気付きました。これは「盛り上げ技法」という特別な技法で描かれたものです。貝殻を砕いて作った「胡粉(ごふん)」という白色の岩絵具を使います。
確かに和紙から数ミリは高く盛り上がっており、ロウ石のようにすべすべしています。
■ 普段の生活について
現4年生の日本画専攻は25人中男子10名、女子15名。雰囲気も良いようで日本画用の和紙の裏打ちや作品の搬出などもお互い協力してやることも多いと聞きました。石山さんのアトリエも、制作の合間には5人でおしゃべりを楽しむなど仲間の笑顔も印象的な和気藹々とした雰囲気でした。
——–今まで描いた作品はどうなさっていますか?
「作品は全て大切に保存しています。普段は木枠を付けません。日本画の性質上、丸めて保存する事が出来ないのでそのまま置いてあります。」
執筆:東悦子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
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2017.01.08