アートの作品はたくさんありますが、はたして「作品を鑑賞する」とは、どのような活動なのでしょうか?
ただ何かを「見る」だけではなく、自分の目と頭を使って、そこにある表現に迫ること。
美術館での体験や学びとはどのようなものか、今回の講座では「鑑賞」について、理論と実践の両面からそのあり方を考えていきます。
今回の講師を務めるのは東京都美術館学芸員 アート・コミュニケーション係長の稲庭彩和子さん。
講座の前半は3つの映像を見て、気づいたことをひもときながら話し合います。
(3)「Museum Start あいうえの スペシャル・マンデー・コース」
この3つの映像を順番に視聴しながら、それぞれ気づいたことや疑問に感じたことをシェアしあい、稲庭さんがコメントバックする形で午前の講座はすすんでいきました。ここではそれぞれの動画のポイントを簡単に紹介します。
(1)「美術館の展示室で物語をつむぐ」
メトロポリタン美術館の館長である、トーマス・キャンベル氏のプレゼンテーション。作品を知識によって見ていくのではなく、個人の発見や気づきから、共感をもって見ていく、鑑賞者が中心となる美術館での体験について語られています。
映像のスクリプトも読みつつ、気になった部分についてグループで話し合い、いくつかの論点を全体でも共有しました。
たとえば「どの作品も当時は現代美術だった」、「リアリティをもって作品に出会う」、「美術館での体験とはどうあるか」・・・など。
アートや作品が好きで美術館を訪れる人も、普段はなかなか美術館に来る機会がない人もいるなかで、「作品を見て考える体験」について俯瞰した視点から考えていきます。
(2)「Thinking Through Arts」
次に視聴したのは、イザベラ・ガードナー・スチュアート美術館で行なわれている対話による鑑賞を使った手法(Visual Thinking Strategies)の取り組み。こどもたちが作品について、素直な視点で発言していく様子が紹介されています。
人間には、言葉を使って思考を構築していく習慣があります。視覚情報が豊かであればあるほど、言葉で伝えるのが難しかったりするもの。だからこそ豊かな解釈が生まれ、言語表現はより発達したものへと変容していきます。
また、多様な考え方や価値観を保持しながら「対話」をすすめていくうえで重要なのが「ファシリテーター」という役割。中立的に場を進行する人がいる状態が、異なる考えを持つ人たちが共存することを可能にしていることに注目しました。
(3)「Museum Start あいうえの スペシャル・マンデー・コース」
実際にとびらプロジェクトで取り組んでいる、スクールプログラムの様子です。
展示室のなかで、アート・コミュニケータがこどもたちに伴走する事例が紹介されており、展示室での活動が子どもと大人の「学び合い」の場であることについて見ていきました。
現代のアクティヴ・ラーニングに必要なのは、こどもに教え諭すだけではなく、ともに議論しながら考えていく姿勢。個人の年齢や背景が異なるからこそ、違う意見や価値観があり、多様な解釈が生まれるもの。ミュージアムにあるたくさんの「もの」や「作品」を、それぞれの視点から考え、共有していく取り組みが、いま世界の各地で起こっています。
様々な人のまなざしを知ることは、互いの背景を重んじあい、共存を認めあう、文化的な理解を深めるプラクティスでもあるのです。
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午後は実際に自分の目と頭をつかって作品を見るワークから、「対話による作品鑑賞」を体験していきます。ここから進行は、各グループの進行役「ファシリテータ」が担います。
まずは作品を使ったアートカードで「なっとく!ゲーム」を行いました。
たくさんの作品を見比べながら並べ、絵の中の共通点を探し、伝え合うコミュニケーション・ツールです。
ここからは実際に、展示室にある作品を見に行きます。
訪れたのは公募展示室で開催中の「第84回 旺玄展」。会場には見応えのある作品が所狭しと並びますが、今日は各グループにつき2作品ずつを、集中して鑑賞します。
1作品あたりの鑑賞時間は約20分。
「1枚の絵の前でそんなに立ち止まるの!?」と始めは驚かれる方もいらっしゃいましたが、絵をよく見て、話し始めてみたら「あっという間だった!」「もっと見て話してみたい」との声も。
講座の終盤では展示室から戻り、今日の体験を振り返ってみます。
「自分では気づかなかったことに気づいた」
「作品について話したり、聞いたりするうちに、絵がどんどん変わって見えた」
「話している人の人柄も見えてくるようだった」
一つの作品を見て、それぞれの気づきを共有していくことで、「誰かの気づきを自分がどう思うか?」という相対的な視点をいつのまにか獲得していることに気がつきます。
講座の最後には、参加したとびラーからこんな発言が。
そう、これこそが「複数人で話しながら作品を見る」醍醐味であり、ポイントなのです!(・・・と、進行していた学芸員の河野さん。)
どんなに解釈が違っても、同じ作品をみて、同じことを捉えた延長にそれぞれの思考があります。意見の正誤を問うのではなく、「異なる視点を共有する」体験が、対話による鑑賞で得られるもの。全く同じ観点ではなくても、自然とまなざしが重なり、自分とは違う他者の在り方を確認することができるのです。
見ること、考えること、言葉にすること、他の人とやりとりすること。
作品や人と対話し、交流を深めていくと、新しい視野が開けるような体験に出会うことがあります。そんな機会にふれ、また次の誰かに届けていくためのきっかけに、今日の講座がなっていたらいいなと思います。
(とびらプロジェクト・アシスタント 峰岸優香)
2018.06.02