2年ぶり、1回限りの限定復活興行、藝大建築ツアー。今回は「卒展さんぽ」のオプショナルツアーという位置付けで、同時に開催しました。嬉しいことに、ブログの案内を事前に見て、この建築ツアーに興味をもって参加してくださった方もいました!「卒展さんぽ」に参加されていた方とあわせて、Aチーム12名、Bチーム11名の方をご案内しました。
日頃の東京都美術館の建築ツアーも人気で、建築への関心が高まっているのを感じました。
ツアーを実施するにあたって、2つの目的がありました。
(1)卒展を訪れる様々な方に、藝大にある歴史的な建築の魅力を知ってもらい、より身近な場所として感じていただきたい!
(2)展示されている作品だけでなく、アートを楽しむ場所、作品を制作する場所として建築を知っていただきたい。
このツアーを通して、藝大の歴史や建築の面白さを伝えながら、公共建築のあり方を考える機会を共有していきたい、と私たちは考えています。
今回のツアーで回った場所を簡単に紹介します。(※コースによって、多少説明したポイントが異なります)
①音楽学部内のレンガ建築
赤レンガ1号館(1880年林忠恕設計。耐火煉瓦造り。旧上野教育博物館書庫。)
赤レンガ2号館(1886年小島憲之設計。旧東京図書館書庫)
赤レンガ1号館は、つい1週間ほど前から改修工事が始まり、ツアー当日は、周りを覆われていました。1号館は、1978年に解体前の調査結果で、歴史的建造物として保存することが決まったそうです。赤レンガ2号館は、1・2階は長窓、3階は丸窓です。体育の野口先生が野口体操のスタジオとしても使っていたので、学生たちに「体育小屋」とも呼ばれていたとのことでした。
②陳列館
1929年に岡田信一郎が設計した陳列館。 外壁スクラッチタイルは、帝国ホテルができた以降に流行したそうです。すぐ近くにある、同じく岡田信一郎が設計した黒田記念館の外壁にもこのスクラッチタイルを見ることが出来ます。
1階は、窓のある空間で彫刻などの展示室になっています。2階は、トップライトが柔らかく入るように作られ、光が直接当たらない方が良い絵画などの展示室として作られています。
陳列館の前には、オーギュスト・ロダン作のブロンズ像「青銅時代」や、皇居二重橋掛け替えの際に移設された飾電燈があります。
藝大の校章の縁取りのデザインとなった植物の葉、アカンサスもここにあります。
アカンサスの花言葉は、「芸術」「技巧」です。
③正木記念館
玄関の庇は、本館(1913年建設)の建て替え(1972年)の際、移築・保存されました。
正木記念館(1935年金沢庸治設計)の上部は城郭風、下部は洋式の帝冠様式です。
1階は瓦を埋め込んだ白漆喰壁となっており、2階内部は書院作りの和室の展示室です。
ここには、藝大の第5代校長である正木直彦像(沼田一雅作,陶製)があります。
記念館の瓦には、正木記念館の文字が入っています。
鬼瓦の鳥衾は、鳥がとまって糞をしても鬼瓦が汚れないように突き出した、棒状の装飾です。
④バルザック像(オーギュスト・ロダン作)
1933年に寄贈された当時は、石膏像だったのですが、1972年に藝大彫像研究室にて鋳造されたそうです。
⑤岡倉天心像(平櫛田中作)
正木直彦校長が「天心を直接知る人に制作してほしい」と平櫛田中に依頼したそうです。
岡倉天心は1889年に、東京美術学校の第2代校長に就任しました。初代は、濱尾新校長の事務という位置づけでしたが、理事の天心が実質的なトップとして日常業務をしていたと考えられています。
天心像が安置されている六角堂は、金澤庸治の設計によるものです。
今回の藝大建築ツアーは、建築・彫像を廻るなかで、その説明とともに、藝大の歴史や特徴といったたくさんのトリビアをお伝えしました。参加者のみなさんの大変興味深そうな眼差しが印象的でした。
卒展や藝祭でキャンパス内を歩き、作品を鑑賞することはあっても、その作品が生まれる場や歴史的背景を知る機会はあまりないかと思います。このツアーに参加されたみなさんには大変満足していただけたようで、嬉しく思っています。お客さんの他に、とびラーからの参加者も多く、にぎやかで楽しい藝大建築ツアーとなりました。
執筆:原田清美(アート・コミュニケータ「とびラー」)
アートを介して、アーティストと鑑賞者ととびラーが出会い、その発見や感動を共有できるのが楽しくて、「卒展さんぽ」や「藝祭さんぽ」に関わっています。
2019.02.21