東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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藝大生インタビュー①|「他の人と共に作り上げる」先端芸術表現科 4年・高橋育也

上野公園の木洩れ日が眩しい2014年夏の午後、東京都美術館2階のプロジェクトルームのスクリーンに高橋氏の映像作品が写し出されました。画面から流れこぼれる音が高橋氏の声と重なり、一対となりながら過去、現在の作品を解読。素敵な上演会となりました。映像の余韻に浸りつつ2015年卒業修了作品展に臨む高橋氏の今をお話しいただきました。

“高橋育也と申します。僕は藝大先端芸術表現科に所属し、主に映像作品を制作しています。時系列順に僕の作品をお見せします。”

5分間ほどの映像がスクリーンに映される。学部2年次作成のアニメーション作品。無音の中、音を消したノミで金属を叩くような音が規則正しく小さく鳴る、その中をピアノの音が不規則に聞こえてくる。

“音楽はここでは、意味がありません。意味のない音の並び、音符の中をト音記号が冒険していきます。楽譜の右下のこれは反復記号セーニョ。終わりという意味の記号を、物憂げな様子の女の子に捉え、左上にいるト音記号が右下にいる反復記号に花を届けに行くというロマンチックなストーリーです。手書きの一枚の画像をPCの中で動かして作りました。アニメーションの手法の練習もかねて2週間で制作。他の記号も関係させ、動きと音が連動するミュージカル風なもの等に発展させて将来早い時期にどこかで発表したい作品です。”

続いて学部3年次作成のアニメーション作品がスクリーンに映される。アメリカのテレビアニメ「ザ・シンプソンズ」を彷彿とさせる画像。男性が部屋のなかをうろつき、英語の独り言が響く5分間ほどの作品。

“これは単純に絵を楽しむアニメーションです。アメリカのプロダクションとの共同作品です。脚本とコンセプトはアメリカのプロダクション、僕が作画・ビジュアル担当し1か月以上時間をかけてデータをやり取りしながらの合作です。脚本が固まっていない状態で参考画像から絵を起こし、向こうが編集。相手の要求に対応するこの形が、僕はモチベーションが上がりやすい。他の人と共に作り上げる。このやり方が自分には合っています。“

 

高橋氏にコミュニケーション能力の高さと日本人の職人気質を感じた。

最近の制作、活動についても語ってくれた。

 

“一昨日、数人のグラフィックデザイナーに同行し、会津の伝統工芸品、和蝋燭に絵を描く工場等で2時間半の映像を撮ってきました。その時の実写映像を少し見てください。”

和蝋燭の絵師へのインタビューの映像がスクリーンに映される。

“これはまだ編集をしていない素材段階の映像です。実際に工場に足を運び、蝋燭に絵を描く職人さんの姿を撮影しています。このシーンは、職人さんの手のアップや、解けた蝋の中に蝋燭を入れて微妙な加減で仕上げるその瞬間を捉えています。

和蝋燭は芯が太く灯の勢いが大きい。溶けた蝋が外に垂れない、描かれた絵が侵食しない、優れた工芸品です。会津の和蝋燭は花が描かれるのが伝統で、江戸時代は雅な贈り物として裕福な階層の人が愛用し、会津藩の武士の奥方が内職として作っていたそうです。行程(和ろうそくでは塗り、削り、仕上げなど)、風土、歴史、用途などを海外の人にも判りやすく、2分間ずつの画像に纏めます。”

“これが卒業制作のラフです。まだ整理されていない画像ですが。”

 

3分間ほどカラフルな映像がスクリーンに映される。色鉛筆の跡とマットな色感、木炭のこすった跡が動きとなって鑑賞者の目に飛び込んでくる。

聞こえてくるのはくるくる回る金属音と男の波長の合わない息の音、それがリズムカルに画像を進める。

“一枚一枚描いて大学生活最後に手書きのアニメーションを作ります。ストーリーは男が自転車漕いで飛んで行くというもの。今はまだまだ途中段階です。このあと男が自転車を漕いで空を超えて大気圏を突き抜けて宇宙空間にいきます。宇宙空間でも男は自転車を漕ぐ。彗星群が魚の群れのようにきて男は網を広げて彗星群を捕まえて地球に帰ります。老人が海でカジキマグロと4日間死闘し、港に戻ってくる。そんなヘミングウェイ作「老人と海」のように、シンプルな構造だけど骨太な作品を目指しています。

追い込みの時期が追っていますが、1人で描き1人で音を拾いすべてを1人で行います。

これから1人で作品を作ることはほとんどないと思うので、卒業のタイミングで全て1人で制作することは大事な事だと思っています。

今回はクロッキーのぐじゃぐじゃの線、ぐじゃぐじゃの色、生感、不揃いなテクスチャーを、色抜きもしながら生きた線として出していきたいと思っています。ストーリーに仕掛けも必要だと思っていて、更にブラッシュアップして卒業作品に仕上げていきます。”

 

藝大先端芸術表現科に進学したきっかけは?

“映像をやりたい、それは先端芸術表現科しかないと思い進学しました。”

 

授業で色々学ぶうちに映像をやりたいという気持ちはぶれなかった?

“一年生の時、気持ちがぶれて苦しみました。

大学で教えらえるのは現代アートが多かったので今まで自分の持っていた価値観が揺らいだ気持ちになりました。自分の作品を現代アートの見方で見たときに、それでいいのか悩みましたし。それで2年の夏まで一年間作品を作れなくなった時期もあります。その苦しみから抜け出したのが最初に見てもらった音符の作品。復帰第一号の苦しみ抜いた作品でした。“

音譜の発想はどこから?

“締切がどんどん迫ってきて最初に作っていた作品があったのですが、それは気に入らず諦めました。

在る時、楽譜を見る機会があってその時に一番右下の記号が女の子に見えた。そこからストーリーを広げて一番最初のト音記号を男にしちゃえと思ったのです。ここでふわっとストーリーが湧いて時間に追われながもなんとか提出しました。この作品はそれなりに評価されました。これで良かった、僕の方向性が間違っていなかったと納得した作品です。“

これから・・・

“卒業後はミュージックビデオ、短いCM制作をやりたい。
また、映像チームを作ることが理想です。カメラマン、脚本などそれぞれの専門家が集まり、僕が映像アートデレクターで、独立したチームで色々な仕事をしたい。“

独立ですか?早いですね。
“頼れる母体があると色々な意味で安心ですが、最初からチームで独立して苦労したい。僕の理想です。”

好きなアーテイストは?
“絵画はルドン、パステル画の花が好きです。印象派の特にモネも。東誠というフラワーアーティストも好きです。

映像作家のヒーローはスパイク・ジョーンズ。僕が映像を志すきっかけになった人です。スパイク・ジョーンズのミュージックビデオや“I’m  Here”という短編映画を見て衝撃を受けたのを覚えています。最近では映画“HER”人工頭脳に恋をしてしまった近未来のラブストリーがありますが、この映画でアカデミー脚本賞を取っています。“

穏やかな人柄の高橋氏のルーツは?
“母親が自宅でピアノ教室をやっていて、家で常にピアノが鳴っている状態で育ちました。とてもポジィティブな家庭なんです。

約1年間、プロジェクトアシスタントとして私達の活動のお手伝い、映像なども担当頂きましたが、とびらプロジェクトをどう感じていますか?
“魅力を感じています。この場所で自分の幅が広がりました。”

こちらこそこの一年間、とびラーを支えて頂きありがとうございました。

(2014年7月20日)

<後記>

高橋氏の回りにはワークショップなどでよく子供たちが集まります。子供たちはそこにヴォールドディズニーと近い温かさを感知するからでしょうか。

高橋氏の卒業作品のアニメーションを、あの子供達にも幸福の気分を味わいたい人全てに見て頂きたい、そんな思いに駆られています。高橋氏のピュアな目がその黒縁のめがねの奥からきらきら覗きます。映像作家・高橋育也氏、卒展作品の主人公のごとく、宇宙にゆっくりと羽ばたく様子が目に浮かびます。

執筆:山木薫(アート・コミュニケータ「とびラー」)

2014.08.25

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