東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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「とびの人々」vol.3:店づくりは”まち”づくり~レストラン統括マネージャ 田中俊一さん~

とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢です。
東京都美術館(以下:都美)では、とても魅力的な人々がたくさん働いています。そこで、都美で働く人々の横顔を、このブログで時々紹介して行きたいと思います。「とびの人々」3回目は、都美にある3店舗のレストランをまとめる統括マネージャ 田中俊一さんです。そして「とびの人々」は、とびラー候補生(以下:とびコー)のインタビューによって進められます。今回の記事を執筆してくれたのは、とびコーの久保田有寿さんです。
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リニューアルした都美には、3つのカフェ・レストラン―1階カフェ「M cafe」、1階レストラン「IVORY」、2階レストラン「MUSEUM TERRACE」―があります。

今回は、3店舗の統括マネージャである田中俊一さんから貴重なお話を聞かせて頂きました。
(*表記は●→とびラー候補生、○→とびらプロジェクトマネージャ 伊藤。)

●まず、田中さんのご所属と、お仕事の内容を教えてください。
[田中]僕達は、株式会社zetton(ゼットン)という飲食店の企業から、今回都美のリニューアルに際して3店の飲食店を展開しています。僕は店長として主に「MUSEUM TERRACE」で働いています。同時に全3店舗の統括マネージャーを兼任しているので、他の2店舗の店長とやり取りをし、お客様の声を拾い上げて、様々な問題の改善に努めています。また、美術財団のパーティーやレセプションも請け負います。お客様からご相談を受けて、今までにないようなレセプションや場所の使い方を日々模索しています。

●田中さんは都美に来る以前から飲食のお仕事をなさっていたのですか?
[田中]そうですね。ぼくは学生を卒業してからずっと飲食で働いていて、もともと銀座・日本橋エリアを担当していました。zettonは六本木や渋谷など東京全域にお店がありますが、僕は足立区出身ということもあり、最近は地元から近い東エリアを担当しています。今回の都美での店舗展開のお話も、上野なら是非やりたいと自ら手を上げました。

●田中さんは、働く以前にも都美を訪れたことはありましたか?
[田中]いや、ないと思います。ただ、もともと学生の時に遊びに来る最初の街は上野だったので、上野公園にはよく遊びに来ていました。記憶にはありませんが、小さい時に課外授業などで都美に訪れていたと思います。今回のお話を頂いてから、都美のリニューアルのことも初めて知りました。お恥ずかしい話ですが(笑)。

●都美でレストランを営業して、オープンからすでに5ヶ月が経ちましたが、現段階でどのような印象をお持ちですか?
[田中] 一番強く感じたのは「もともと歴史がある」ということです。通常お店を出す時は、「ゼロから始まる」という感覚ですが、都美の場合は、長い間美術館があり、レストランや食堂などの飲食店も、またその長い歴史の中にありました。昔の都美を知り、今でも通っていらっしゃるお客様がすごく多いんですよ。なので、お客様とのコミュニケーションの中から「以前のレストランはこうだったよ」と歴史が垣間見えたり、「これを復活して欲しい」といった要望もあったりと、実際現場に立ってみて、都美でお店を「出させていただく」という意識をさらに強く感じています。都美の歴史の「新たな一ページ」として参加させていただいている、という感覚です。

 

(2階レストラン「MUSEUM TERRACE」)

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●zettonとしては、美術館というある種特殊な空間での飲食展開は初めてですか?
[田中]いえ、もともと公共施設の中に飲食店を展開する「パブリック・イノベーション」という事業があります。一昔前だと、立地が良く、色々な人が集まる素敵な場所であるにも関わらず、公共施設のレストランの料理のクオリティは正直高いとは言えませんでした。対して、僕達は街場のカフェやレストランで培ってきたノウハウを生かすことで、そうした場所のブランド力をあげ、訪れたお客様の思い出をグレード・アップさせることを目指しています。zettonはこうしたプロジェクトに5年ほど携わっているため、その実績から、今回の都美でのお話を頂けたのかと思っています。前例で言えば、僕は以前三井記念美術館のミュージアム・カフェで働いていました。

●美術館のレストランに来るお客様はどんな方が多いですか?
[田中]とても上品な方が多いです。上品な振る舞い方やおしゃれから、普段の生活の中でも、美術館に行くということがやはり特別な行為の一つである、というような印象を受けます。お客様の年齢層は比較的高く、僕の親くらいの年代かそれ以上の方が多いですね。そのようなお客様方が、美術鑑賞を終えてレストランへ来られる時、僕達が思う以上に、ハイセンスでスペシャルな空間や時間を求められているのだと感じます。
(1階カフェ「M cafe」)
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●鑑賞という目的の前後に訪れる方が多い都美のレストランと、お客様の目的がそのお店に行くことである通常のレストランとは時間軸が異なりますよね。お店の回転や料理の提供スピードなど、美術館のレストランならではの違いはありますか?
[田中]バランスが難しいですよね、お客様によってニーズが違うので。鑑賞前に来られる方はすぐに食事を済ませたい一方、鑑賞後にたまたまレストランに入った方はゆっくり過ごしたいでしょうし。そうしたニーズの違いを事前に考慮していたからこそ、都美では3つの飲食店を展開しています。お客様がシチュエーションによってカフェやレストランを選べ、また、次に来る楽しさにも繋がるので、これはとても良かったなと実感しています。色々な提案がある、というのが僕達の店の特徴です。
●展覧会に合わせた、今はマウリッツハイス展に関連したメニューを提案されていますが、そうしたコンセプトもお店で考えているのですか?
[田中]そうですね、やらないわけにはいかない、生まれるべくして生まれた、といった感じです。実際の作品を前にして安っぽいものは出せないですし、とはいえ金額が高くてとっつきにくいものも出せないので、またこれもバランスが難しいですね。今回はシェフがよく勉強してくれで、オランダという場所の郷土料理に結び付け、なかなか目にしたり口にしたりできない「オランダ料理」を紹介するという形が取れました。今回のコース料理は「IVORY」だけで提供していますが、それ以外の店舗でも、オランダ発のショコラや、オランダの紅茶専門店の紅茶を出したりもしています。

(1階レストラン「IVORY」)

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●「IVORY」のコースに対するお客様の反応はどうですか?
[田中]いいですね。コースの値段はランチでも3800円と比較的高いのですが、思った以上に選ばれています。「IVORY」は予約もできますし、味も雰囲気もトータルでゆっくり味わって頂ければと思っています。
●現時点で全体的なレストランの混雑具合はどうですか?
[田中]忙しいですね。嬉しい悲鳴ではありますが。席数には限りがあるので、どうしても待たせすぎてしまう形にはなってしまっています。通常の2倍3倍の数のお客様が並ぶ場合もあります。お昼の時間は待てる限界もあると思うので、できるだけ明確に待ち時間をお知らせするようにしています。ただ、周りに他のお店がないんですけどね…
○都美のお客様にはよかったら東京藝術大学(以下:藝大)の学食を使っていただいていいですよ(笑)。今回、お仕事以外にも、田中さん自身のことも少し知りたいと思っています。休日はどのように過ごされていますか?(笑)
[田中]僕ですか(笑)。ゆっくり起きて、外に行って100%外食しますね。飲食店で働く人間は、実は一番飲食店のことを知りません。OLの方がいいお店を知っていると思います。仕事について勉強するには、他のいいレストランで、料理、サービス、内装などを実際に見ないと、頑張っても引き出しが広がらないじゃないですか。けれど、どうしても365日開けているような商売ですし、自分が飲食で働いていると、基本的にそうした時間がありません。それがこの業界の良くないところですが。だから僕は、勉強、というか好きなので、仕事だと思わず、昼間から気になるお店によく行っていますね。

 

●好きな食べ物は何ですか。
[田中]納豆です(笑)。納豆が家の冷蔵庫にないと気分が悪いです。おかめ納豆じゃないとダメで、小粒が好きですが、たまに大粒に浮気したりもします(笑)。
僕はそんなにグルメではないんですよ。もともと食べることが好きというか、酒場の雰囲気が好きでした。お店があることで、スタッフやその店の雰囲気で自然と人が集まってきて、そこで新しいコミュニケーションや繋がりが生まれていきます。飲み屋の飲んだくれの絡みでも、例えばパリのカフェ文化でも同じことが言えて、そこには常に飲食店があります。zettonには「店づくりは”まち”づくり」という理念があるのですが、僕の考え方はそれにリンクしました。
○それはとびラーと非常に近いものがありますね!!いいお話が聞けて良かったです。実は都美を設計した建築家の前川國男はすごくグルメで、「美術館に来ておいしいご飯が食べられないのはありえない」と、一番正面の一番良い、目立つ場所にレストランを設計したそうです。今の話を聞くと、前川國男の考えていた「ミュージアムの中のレストラン」という建築的な理念と、田中さんの考えていることが非常にマッチしていると感じました!
[田中]それは知らなかったです!
○おいしいものを提供するだけではない、そうした考えが、働いている人の中に息づいているというのは素敵ですね。建物も重要だし、働いている人達の気持ちも重要だし、そうした二つのコンテクストがないと上手く体現できない中、その二つがちゃんと揃っているのは、なかなかない出会いだと思います。
●とびらプロジェクトとのコラボレーション企画として、今後、とびラーとカフェやレストランが連携して新しいプロジェクトを提案することに対してどう思われますか?
[田中]僕としては良いと思います。ただ、お客様にどのように伝わるかがポイントですね。レストランの自己満足にならず、ベクトルがお客様に向いていて、利用したお客様に評価してもらえることが大切です。お客様を選ばず、出来るだけ多くの方に価値を感じてもらえて、都美がいい場所だな!と、ダイレクトに伝わる企画なら良いと思います。また、レストランで働いている人のモチベーションや意識が上がればいいですね。オープンしたての今は、外までしっかりと目を向けられていませんが、お客様にとっては、僕達のレストランはzettonではなく、あくまで「都美の一部」でしょうから、そうした意味では、都美との一体感が取れる企画があれば。僕達のレストランが、都美におけるコミュニケーションのエンジンになるようならいつでも協力したいですね。
田中さんはとても気さくな方で、笑いも交えて楽しい時間となりました。また総括マネージャーとしての確固たるビジョンと情熱がひしひしと伝わるインタビューでした。伊藤さんが、1月の藝大の卒業修了制作展の機会に、とびラーと藝大の学生や教員が一緒になったミュージアム・レストランとの連携を提案されていました!さて、どうなることやら。他にもこれから、様々な形でミュージアム・レストランと関わっていけるといいですね。
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とびラー候補生:筆者:久保田有寿(くぼた あず)
美術史学を研究する大学院生。専門はピカソとモダン・アート。下町情緒とアートが交差する上野・谷根千エリアをこよなく愛し、生まれ育ったこの街を、今日も自転車で疾走中。趣味ダンス。Jazz, Soul, Funkの音楽がかかれば、体がビートを刻まずにはいられない。

2012.08.26

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