__私は上野(うえの)都美子(とみこ)。都美子という名前は、都美館が大好きな母が付けたの。友達からは“とび子”って呼ばれてます__
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東京都美術館(以下、都美)の1階、アートラウンジの一角で、とびラー候補生(以下、とびコー)が紙芝居を上演しました。とびコーたちは、物語にも登場するフェルメール作「真珠の耳飾りの少女」風の青いターバンを身につけています。来館者の方に向けて紙芝居を披露するのは実はこの日が初めてで、とびコーたちも内心ドキドキといった表情。紙芝居の前に、とびラーについての紹介。その前座を務めるのは、この“紙芝居プロジェクト”の立案者でもある山中さんです(写真、右から2番目)。
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そもそも、美術館で紙芝居とはこれいかに。
山中さんにプロジェクト発足の経緯について、簡単に説明していただきました。
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山中「この紙芝居プロジェクトは、都美に来られたお客様に、展覧会をより親しみやすく、楽しく鑑賞してもらいたい、という願いから生まれた取り組みです。記念すべき第1作目は、現在開催中のマウリッツハイス美術館展を題材にした物語となっています。紙芝居で楽しみながら作品の背景を学ぶことによって、美術の面白さを子どもから大人まで実感していただけるといいなと思っています。」
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こうして立案者に賛同するメンバーが集い、度重なるミーティングを経て、紙芝居が実現しました。冒頭にも挙げた通り、「上野都美子」と名乗る主人公が繰り広げる完全オリジナルストーリー。脚本は6、7回に渡って練り直され、何度も推敲を重ねるという気合の入った一作。 物語の舞台でもある17世紀オランダに関する豆知識も盛り込まれ、大人も楽しめるよう工夫がなされています。 紙芝居の絵は、とびコーの中でも若手の学生コンビが、学業の合間を縫って1枚1枚丁寧に描きあげました。
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山中「紙芝居っていうと、どうしても大人の方は“子どもが見るもの”っていう先入観があるみたいで、今回も『これって大人も見られますか?』って聞かれてる方がいたんですね。でも、私たちが最初にイメージしてた紙芝居は、あくまで大人向けの内容でして、物語はわかりやすくシンプルな構成なんですけど、美術ツウの人にも楽しんでもらえるように、豆知識の内容もふんだんに取り入れています。・・・子どもたちには、ちょっと難しかったかな?」
この日の上演は、14時と15時の2回。上演前は紙芝居の宣伝のため、館内のお客さんたちに声を掛けて回りました。手作りの青いターバン、宣伝用のポスターと人形たちが人目を引きます。リカちゃん人形のお洋服は、なんと!とびコーのお手製です!
1回目の客数は…少し寂しい結果となってしまいましたが、2回目の上演では、企画展の出口に絞って呼び込みをする宣伝の効果もあってか、20名以上の方が足を運んで下さいました。
ベビーカーを押すご夫婦や親子連れだけでなく、大人たちの姿もありました。上演前から立ち見で待機している人、たまたま通りかかった人、もともとアートラウンジに座っていてその場から覗き込んでいる人__鑑賞スタイルは各々異なりますが、紙芝居に見入る子どもたちの後ろで、大人の方たちも楽しんでいるような表情をみせていました。
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紙芝居の「おしまい」の後に、ちょっとした小話を披露。「真珠の耳飾りの少女」のターバンの色を色々な色に変えてご覧にいれました。私の傍で鑑賞していたご婦人が「う~~ん・・・、やっぱり青よねぇ。」と唸っていました。読み手のリアルな息づかいと、紙芝居を挟んで向こう側の、観客の確かな反応。それらが同時に存在して、この紙芝居の空間を創っている__ アートコミュニティ(※)を築く、まずは大切な一歩__ 私はそんな風に感じることが出来ました。(※
『とびらプロジェクトとは?』の頁参照)
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山中「今後の“野望”は、出張紙芝居です!他の美術館や小学校、図書館なんかで上演できたらいいですね。あとは、全国の図書館で私たちが作った紙芝居を置いてもらいたい!!と企んでいます。とても大きな夢ですけどね(笑)」
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美術を楽しもう、そんな想いが詰まった紙芝居プロジェクトの活動は始まったばかり。
今後の活動にご期待ください!
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とびラー候補生:筆者:佐藤史(さとうふみ)
生粋の千葉県民。人の生き方に積極的に関わる仕事がしたいと、現職は訪問看護師。都美の展覧会でムリーリョ作『無原罪の御宿り』に出会い、宗教絵画と教会建築への興味が開花。他に好きなこと、歌、写真、三度の飯よりアイスクリーム。
2012.08.19