東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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基礎講座6回目「実践の計画を立てる」(最終回)

全6回の基礎講座もついに最終回を迎えました。今回の講師は学芸員の稲庭彩和子さん、河野佑美さん、大橋菜都子さん、それと僕、伊藤達矢です。はじめに、稲庭さんと僕からもう一度東京都美術館(以下:都美)の目指すアートコミュニケーション概要についておさらいさせて頂きました。

 

最終回だけあり、みなさん何時にも増して真剣に受講されていました。

 

この4月から6月にかけて行われた基礎講座の期間中に、とびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんには、「スクールマンデー(学校連携:対話を通した作品鑑賞)」、「建築ツアー」、「アクセスプログラム(障害のある方のための特別鑑賞会サポート)」のプログラムの中から必ず1つ以上選択して頂き、今後の活動の大きな方向性を決めて頂きました。選択したプログラムについては、該当するプログラムの実践講座を8割以上出席し、次年度からはそのプログラムのリーダー的存在になって頂くことを強く推奨しています。

 

そこで、それぞれのプログラムの特色を共有するために、それぞれの担当学芸員さんにプログラムの詳細を説明をして頂きました。はじめは「建築ツアー」担当学芸員の河野さんから。建築ツアーは既に実践講座がスタートしており、このブログでも紹介済ですが、コルビュジェに師事した日本を代表する建築家前川國男の作品である東京都美術館を紹介するツアー企画です。ステレオタイプの建築ガイドではなく、とびラーひとりひとりがつくるオリジナリティー溢れる建築ツアーを目指しています。

 

続いて、「アクセスプログラム(障害のある方のための特別鑑賞会のサポート)」については大橋さんからご説明を頂きました。都美では「障害のある方のための特別鑑賞会」を年に3回予定しています。休館日を使い、障害のある方にも安全に安心して作品を鑑賞してもらえる日をとびラーがつくります。初回の「障害のある方のための特別鑑賞会」はフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」が展示されるマウリッツハイス美術館展です。

 

最後は「スクールマンデー(学校連携:対話を通した作品鑑賞)」担当の稲庭さん。小中学校と連携した鑑賞教育の実践の場として都美を開くプログラムです。普段は来館者が多いため、鑑賞教育の実践が難しい特別展を、休館日を活かして特別開館し、VTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)を中心とした対話型鑑賞教育を実施します。

 

「スクールマンデー(学校連携:対話を通した作品鑑賞)」、「建築ツアー」、「アクセスプログラム(障害のある方のための特別鑑賞会サポート)」はとびらプロジェクトの活動を支える3本柱となるプログラムです。そして、自分が選択したプログラム以外の活動であっても、人手が足りないときや、力を合わせなくてはならないとき、凄く興味のある内容のときなどは、プログラムの枠を超えて参加することをお勧めしています。

 

午前中の基礎講座は、この3本の主要プログラムの説明に加え、メーリングリストや「とびらプロジェクト掲示板」「本日のホワイトボード」などの専用情報共有システムについて確認したところで終了しました。とびらプロジェクト関係者以外の方でこのブログをご愛読頂いている方がいれば、きっとホームページ上のバナー「とびラー専用掲示板」にお気づきになった方もおられるかと思います。クリックすると「とびらプロジェクト掲示板」「本日のホワイトボード」の2つのバナーがでてきますが、残念ながら、ここから先はとびコーさんでないと見ることができません。実はこの先のシステムはとびコーさん同士のミーティングの記録がホワイトボードの写真ごとアップされていたり、ミーティング後の感想などや追加事項などがアップされていたりします。既に想像を超えて活発な活用が展開されています。

 

午後は、僕のファシリテートのもと、現在進行中の数々の新規プロジェクトのプレゼンテーションを担当のとびコーさん自身からして頂きました。楽器が出来るとびコーさんが集まり演奏を行う「とびら楽団」、新聞やブログなどを通して都美と芸大の情報共有と発信を目指す「とびら情報部」、とびラーの活動を支える為の都美のマップ作成と知識の共有を考える「マップ&マニュアル」などなど、とびコーさんの目線ならではの企画が既に10個以上立ち上がっています。一つ一つの企画を丁寧に発表して行くと、思わず助け合える企画同士を発見できたり、質問に答えているうちに新しいアイディアが生まれたりと、非常に実のあるプレゼンテーションの時間でした。

 

一つ一つの企画はまだ芽を出したばかりで、実現できるか否かはとびコーさんらの頑張り次第なところもありますが、とびらスタッフ一同、出来る限りとびコーさんたちをサポートして行きたいと思います。

 

また、そういった思いもある一方で、僕はプロジェクトマネージャとして、とびコーさんたちが自分たちの視点から生まれた活動をきっかけに、思いや理想をお互いに語り合うこと(共有すること)の方が、とびらプロジェクトの成長過程にとって非常に重要なプロセスであり財産だと考えています。(それを可能にするのが「きく力」なのです。)

 

年齢も職業もバラバラな凡そ90人のとびコーさんたちを繋いでいるのは、アートというプラットホームです。もちろんアートでなくとも、多様な人々の価値観を乗せるプラットホームは存在すると思います。しかし、性別や年齢、職業や価値観を軽やかに越境し、広くフラットに包み込むことの出来る類希なフレームはアートをおいて他に見当たらず、比類ない可能性を持ったフレームだからこそ、アートはコミュニティーに変換可能な媒体として機能できるのだと思います。(時代を超えた普遍的な魅力や価値がアートには内在しているからこそ、きっとこれだけの大きなフレームになりえるのでしょう。)

 

そして、アートをプラットホームとすることで、多種多様なとびコーさんたちが協調し合い、信頼関係を積み上げることこそ、とびらプロジェクトの”背骨”をつくることに繋がると思っています。

 

よく「芸術(アート)は社会の背骨である」とか、「芸術(アート)は社会にとって漢方薬のようにじんわり効能を発揮する」といった例えられ方をします。それは、芸術(アート)が人々の多種多様な価値観を抱える大きなプラットホームになることよって、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本:多様な人々が関わり合い、関係性を築くこと自体が社会の資本となり得るという概念)が、高い水準で社会(コミュニティー)に蓄えられた状態を指し示したものに他なりません。

 

とびらプロジェクトにとっても、このソーシャル・キャピタルの蓄積は至上命題です。異なった価値観に対して理解を示し、年齢や立場を超えた信頼を築くこと、そしてなによりも問題やリスク、困難や失敗をも共有することのできる関係を構築して行くことができなければ、本当の意味でとびらプロジェクトにソーシャル・キャピタルが蓄えられたとは言えません。

 

そして、これはとびコーさん同士で終わる話ではなく、都美で働く様々な業種の方々との間にも是非とも蓄えて行きたい資本であると思っています。つまり都美の中にソーシャル・キャピタルを蓄えて行きたいと考えています。むしろ、今年のとびらプロジェクトの活動の本質はそこにあると思っています。ソーシャル・キャピタルを蓄え、都美というコミュニティーに強靭な背骨をつくってゆかなければ、「美術館を拠点に、アートを介したコミュニケーションを促進し、オープンで実践的なコミュニティーを形成」する社会装置としての美術館の姿など到底夢のまた夢。。。とびコーさんにかかる期待はますます大きくなるばかりですが、大丈夫、このメンバーなら成し得てくれることでしょう。なぜなら「対話をすることの粘り強さと、誠意をもって接する力」を持つ方々をとびラー候補生として選出したつもりだからです。(休館前に障害のある方々の特別鑑賞会のボランティアを長らくされていた方々にも、そうした資質は共通していると感じて、ひとまとまりのとびら候補生となって頂きました。)

 

最後はこれからとびコーさんたちが企画を進行させて行く上での、テクニカルなアドバイスをさせて頂きました。はじめは、講師の西村さんが「とびらプロジェクト掲示版」に書き込みした内容のおさらい。その後は僕からのアドバイスです。意気込みをしっかりと推進力に変えて行くために必要な幾つかのポイントです。ちょっと気を付けておくだけで、結果は大きく変わるかと思います。

 

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■西村さんからの3つの言葉
1)どんなプロジェクトも、最初の時点で終わり方というか、解散イメージを共有しておくと良いです。

「××××が達成できたら解散」
あるいは時限制で「いついつで自動解散」とか。
解散のときを迎えても「まだやろう!」という感じがあったら、あらたに「その2」を始めれば良いです。
2)底の見えないかかわり合いがつづいてしまって、
なんとなく自然解散というか蒸発? みたいな経験は、
その後のかかわり合いにあまりいい影響を与えないので、
終わり方や解散イメージは、
最初に共有しておくと良いと思います。解散はその都度、楽しくやるといいと思います!
3)「提案や投げかけをして、あとは反応待ち」という形に、なるべくしない。
自分たちで出来るところまでやる。
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■伊藤からのミーティングを行う上での3つの注意事項+1
1)イメージを数量化する(スケジュールや金額を具体的にする)
2)ミーティングはタスク(仕事)に変えて終わる
3)仕事の量と成果の回収のバランスを考える(とびらプロジェクトの場合は必ずしもそうではないですが、
その書類つくらなくても結果は一緒だったよね、なんてことよくあります。つくったことに満足しても仕方ないのです。。。)
+1)そして最も大事なこと
抱えきれない! とつらくなるまえに仕事をシェアする。
黄色信号を「出す」「受け止める」ことが最も大事です。
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最後の基礎講座が終了した後は、各自が進行する幾つもの企画のグループに別れ、夕方までミーティングが自主的に行われていました。素晴らしい! 写真は、障害のある方向けのアクセサビリティーの確認のために、車椅子に乗って館内を視察している様子です。
全6回に渡る基礎講座もこれで終了しました。これから実践講座へと進んで行きます。
さー!これからが本番です。(伊藤)

 

 

2012.06.23

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