第二回基礎講座のテーマは「社会装置としてのミュージアムの役割とは何か、そこでのとびラーの役割とは何か」でした。今回の講座は、「Museum Start あいうえの」のミュージアム・スタート・パックを持って上野公園のミュージアムをめぐる午前の部と、文化施設の役割とは何か、アート・コミュニケータの役割と実践とは何かを、講師のトーク・セッションを通じて考える午後の部で構成されました。講師は東京藝術大学教授の日比野克彦さん、アーツカウンシル東京の森司さん、そして、東京都美術館の稲庭彩和子さんです。
講座がはじまるとまず稲庭さんから、「Museum Startあいうえの」のティーンズ学芸員(→活動の様子はこちら)の様子が動画で紹介されました。アート・コミュニケータや学芸員との対話を通じて作品を鑑賞し、感じたこと、考えたことを文字と声に起こして、オーディオガイドで発信するプログラムです。ティーンズの動画から、自分の目で見て考えるとは一体どんなことなのかを学んだら、さっそく東京国立博物館、国立西洋美術館のそれぞれに向かう2つのグループに分かれて、自分のお気に入りの作品を探す冒険へと出発です。
こちらのグループは、国立西洋美術館へと向かいました。
9つの文化施設が点在する上野公園には、日本を代表する素晴らしい文化施設やコレクションが集積しています。そんな上野公園のミュージアムにブックを持って出かけてみるとどんな体験ができるのでしょうか。
お気に入りの一点をえらんでじっくりと鑑賞し、心に浮かんだこと、考えたことをブックに書き込みます。自分の声に耳を傾けながら、これまでとは違った視点から作品を見つめるためのレッスンです。こうした体験は、上野公園やそこで大切にされているモノに慣れ親しみ、アート・コミュニケータとして充分に活用して行くために必要な経験を高めるプロセスとなります。
じっくりミュージアムを体験する午前のプログラムでウォームアップしたあとで、午後からは基礎講座の教室(都美のアートスタディルーム)に場を移し、文化施設の社会的役割とは何か、アート・コミュニケータとしての役割とは何かについて、講師の日比野さん、森さん、稲庭さんによるトーク・セッションを通じた講座が行なわれました。
まずは、稲庭さんから新たに入ったとびラーへ、「対話の場」としての可能性という視点から、ミュージアムとアート・コミュニケータとはなにか、共有したい問いが提起されます。
ミュージアムという場での対話とはどのようなものなのか。
ここでは対話は、自己と他者がそれぞれ異なる存在であることを知るためのプロセスや体験であること、そして対話という活動を通じてミュージアム体験が深まるという考え方が共有されていきます。さらにそこから、対話から発展的に生まれるケアという概念―深く対象に心を向けることへと視野を拡張して考え、「対話の場」としてのミュージアムの可能性をより深く捉えていきます。
知り合って間もないとびラー同士も、稲庭さんから提供されたアイディアにいて一緒に考えるうちに、徐々に打ち解けてきた様子です。
全体で少しずつまなざしの共有がはじまったところで、講師の日比野さんと森さんから、美術館とはどんなところで、とびラーはどんな役割を担うのか、具体的な事例を通じてイメージが具体化されていきました。
ここでは、日比野さんの体験から事例やアイディアがいくつも提供されました。はじめに、先月中旬に発生し、相次ぐ揺れで大きな被害を及ぼした熊本地震における熊本城の復興を願う動きについて、都市のアイデンティティとシビック・プライドという観点からお話がありました。震災により、まちに住む一人一人の当事者としての意識、そして文化財に対する愛着や誇りを再認識させられる事例にふれることで、とびラーたちは文化的なモノがつないでゆく人の気持ちと、つなぐ役割りを担うとびラーという存在について思い思いに考えを進めます。
さらに、日比野さん、森さんが携わって来た、「TURNフェス」そして「明後日朝顔」の活動から、美術館のフレーム、アートのできることについて考えていきます。両プロジェクトは、人々が関わり合い、人と人の関係性の中から創造されてくるカタチを芸術の根本と捉え、社会の中における芸術の機能性・多様性を試み、様々な「個」の出会いと表現を生み出すアートプロジェクトです。
「TURNフェス」の詳細は、こちら
「明後日朝顔」の詳細は、こちら
実際に美術館のフレームを取りはらうような事例を見ることで、ワークショップにおけるプロセスそのものも作品として定義されるようになってきていること、その延長線上に、展示が毎日変化するような「キュッパのびじゅつかん―みつめて、あつめて、しらべて、ならべて」展のようなものが生まれていることなど、現代社会と美術館のいまに切り込んだ興味深い見方が提供されました。なかでも、「明後日朝顔プロジェクト」が、金沢21世紀美術館にコレクションされたというお話は、コトをコレクションする斬新さとアートの承認機関としての役割を担う美術館の存在といった、これからのアートと美術館の可能性を捉えた示唆に富む話だったのではないでしょうか。
このふたつのプロジェクトをながめるなかで、日比野さんと森さんは、人と人・人とアート・アートと社会のコミュニケーションを促すコミュニケータの役割を問います。多彩な人材・文化資源を活用しながらデザインされていく美術館と社会、アートと社会とのつながりを見据えた文化的なプロジェクトは、人のつながりによってつむぎだされていく。こうした一つ一つのアイディアが、日比野さんと森さんが実際に手がけたプロジェクトとともに紹介されることで、時折笑いもおこる和やかな雰囲気のなか、「社会装置としてのミュージアムの役割」という第二回基礎講座のテーマを考える豊かな時間を提供してくれました。
ここからは、第二回基礎講座を終えての番外編。
今年度で16年目を迎える「障害のある方のための特別鑑賞」についての説明が、東京都美術館の大橋菜都子さんによって行なわれました。特別鑑賞会は、特別展の休室日を利用し、障害のある方もゆっくり鑑賞できることを目的としてはじまったプログラムです。大橋さんから特別鑑賞会の成り立ちや活動内容、とびラーがどのように鑑賞者をサポートするのか、写真等を用いた紹介をつうじて、とびラーは活動の目的とイメージの理解を進めていきました。
講座が終わったあとは、早速オープンとびラボが開催されました。5期のとびラーとともに5年目を迎えた「とびらプロジェクト」が、いよいよ始まります!
(Museum Start あいうえの プログラム・オフィサー 渡邊祐子)
2016.04.30