東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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チラシdeうちわプロジェクト:夏の活動報告

とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です

真夏のマウリッツハイス美術館展に並ぶ長蛇の列をクールダウンした「チラシdeうちわプロジェクト」から夏の活動報告が届きました。

記述はとびラー候補生の越川さくらさんです。

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■事の始まり
「今度のマウリッツハイス展では、一日に1万人の人が来るらしい」

 思えば「チラシdeうちわプロジェクト」はこの一言から始まりました。リニューアルした東京都美術館(以下、都美)の最初の特別展である「マウリッツハイス展」は入場者数の予想も桁外れのものでした。「夏の暑い中、お客さんが何時間も並ぶのか!?」「なんとかしなければ!」血気盛んな(?)とびラー達が色めき立ちました。長蛇の列対策プロジェクトが立ち上がり、瞬く間に数十ものアイデアがとびラー専用掲示板を埋め尽くしました。整理券配布、ファストパス、フリーペーパー配布、紙芝居、グッズの販売、椅子設置、伝言ゲーム、などなどなど…。
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それらのアイデアを引っさげ、早速ミーティングです。きっと今までにない画期的な長蛇の列対策が生み出されるに違いない!夢は膨らみます。しかし、2日間の集中ミーティングの終わりかけた頃、私たちは大きな無力感に襲われていました。私たちにできることがほとんどない事に気がついたのです。
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ミーティングの始め、私たちは数々のアイデアを“にぎやかし系”(列に並んでいる間にエンターテイメントを提供して楽しんでもらう)と、“おもてなし系”(暑い中列に並ぶ苦痛を軽減する)とに分類しました。そして、長蛇の列対策プロジェクトでは、主に“おもてなし系”の企画を実行する事にしました。“にぎやかし系”はとびラーの得意とする所らしく、絵から顔を出して写真撮影をする企画、「あなたも真珠の耳飾りの少女」プロジェクトなどがすでに走り出していたからです。
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しかし、“おもてなし系”の企画はそのほとんどが私たちとびラーの手に余るものでした。それもそのはず、数々の展覧会を開催している都美や朝日新聞社のスタッフさん達が、その経験から必要な策はすでに講じていらっしゃったのです。それに、もてなすからには来る人全員をケアしなければ!と気負っていたせいでもあると思います。落胆する私たちは「それでも、私たちらしく、私たちにできる事をやろう」と、とあるスローガンを思いつきました。
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「とびラーは、あなたの待ち時間を全力で応援します!」という言葉です。
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このスローガンを思いついた途端、みんなの中で何かが変わりました。とびラーが“ボランティアさん”なのか、“単なるおもしろい人たち”なのか、そんな定義もまだ何も見えていない頃です。それでも“私たち”は力及ばないまでも“全力で”来場者の方々を“応援したい!”のです。やりたいからやる。やれる範囲でやる。楽しくやる。そんなイメージを、その場のみんなが共有できた瞬間だったように思います。
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不思議な事にその瞬間、一つのアイデアが頭に浮かびました。
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「うちわ、作ってみる?」
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 はい。普通ですね。暑いから、うちわ。普通すぎます。でも、普通のうちわじゃないんです。あるものをリユースしたうちわ。そのあるものとは、どこの美術館にも必ずあって、とても大事だけれど、ある期間が過ぎてしまったら廃棄するしかないもの…そう、チラシの登場です。こうして、チラシdeうちわプロジェクトが始まりました。

■ミーティング!ミーティング!ミーティング!

1、コンセプトを考える
―チラシを半分に折って、厚紙の持ち手を付け、うちわにする―
このシンプルなアイデアは、他のとびラー達からも温かく迎えられました。
「いいじゃん!これ!簡単だし。エコだし」
「そういえばチラシって配布期間が終わってしまったものが余ってるはずよね」
「涼しい涼しい!いいね、これ。へー、こんなのでうちわになるんだね」
大好評です。メインメンバー4人も集まり、さあ後は作るだけ!のはずが、チラシdeうちわプロジェクト、略してうちPはこの後なんと5回もミーティングを重ねる事になります。
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始め、私たちはまずうちPのコンセプトについて話し合いました。
①   来館者に涼をとってもらいたい[cool]
②   配布期間の過ぎたチラシを有効活用したい[re-use]
③   来館者ととびラーとのコミュニケーションツールとしたい[communication]
④   チラシを美術館の歴史と捉え、そのデザインも大切に有効活用したい[re-design]
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といった項目が上がりました。
しかし、ここでいくつかの疑問が生じました。
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・  [re-use]の観点から、新たなゴミとなってしまう可能性のある「持ち手部分」 を新しく作らなければいけないことへの疑問。
・  [re-design]の観点から、半分にしたチラシに持ち手をつけると、大体の場合、メインとなる図像が逆さまに使用されてしまうという欠点。また、あまりにも元々のチラシの情報(展覧会名など主に文字情報)がはっきり見えすぎてしまうと、持ち手部分にある情報との食い違いがおこり、見る人に混乱を招くのではという懸念。
・  [communication]の観点から、当初は対面のワークショップで来館者自らうちわを作ってもらう実施方式が検討されていたため、ホッチキスの使用は危ないかもしれないという危惧。
などです。そこで、チラシを利用した新たなうちわのアイデアが検討されました。
2、折り紙方式
その新しいアイデアとは、折り紙方式のうちわです。この折り紙方式にはモデルがあります。ある本でたまたま見つけた「四万十新聞バッグ」がそのモデルです。
この新聞バッグは高知県出身の梅原真さん(梅原デザイン事務所)が、ふるさとの高知県で始められた活動です。四万十川の流域で販売する商品は、全て新聞紙で包もうという「ラストリバーのこころざし」、「モッタイナイ×オリガミ」などのコンセプトのもとに新聞でエコバッグを作る試みです。 中でも、私が一番共感したのは「考え方」を伝える。という点でした。折り紙のすばらしい所は「折り方と四角い紙さえあれば、誰でも、いつでも作れる」という事だと思います。それを、古新聞を使いバッグを作ることに活用し、さらに「環境を汚さない」という「考え方」を伝える活動です。この活動は今や全国に広がり、海外にも「折り方」と「考え方」を輸出しているとの事。これを知ったとき私は、コレだ!と思いました。チラシを「折り紙」する事でうちわができたら…上記の問題点が全て解決し、更にうちわに新たな価値が加わります。
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しばらく、実際にチラシを折りながら考えていましたが、そうすぐに良い折り方が見つかるはずもありません。四万十新聞バッグの折り方を最初に考えたのは四万十川流域に住むおばちゃんだったそう。私たちも誰かに聞いてみよう!聞きたい事を90人の仲間達にすぐ聞けるところが、とびらプリジェクトの良い所。早速、掲示板で呼びかけます。「うちわの折り方募集中!」するとやっぱり出ました色々なアイデア!もの作り大好きな小学生(とびラーのお子さん)や、折り紙大好き!なとびラーさんから折り方のアイデアが色々と寄せられました。
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しかし残念ながら、今回この折り紙案は実施まで漕ぎ着けませんでした。
・  ワークショップ形式の場合:(お客さんが)暑くて折り紙をしてくれる余裕がない。
・  作って渡す場合:制作時間がかかりすぎる。
・  「折り紙」としては面白いが、「うちわ」としては涼しさの点で問題が残る。
等がその理由です。
けれど、この折り紙案はメンバーの間でも想いが強く、次の機会があればまた挑戦したいと思っています。
3、持ち手のデザイン
この辺りから、実施方法はできあがったうちわを配る方式。うちわは厚紙の持ち手つき。持ち手は8×8cmの正方形を斜めに使用する。ということとが徐々に決定してきました。次は、持ち手部分の厚紙に印刷する内容の検討に入ります。メンバーの新倉さんの作ったデザインを元に5回目のミーティングです。このミーティングには、今までホワイトボード上でうちPの動きを見守っていたとびラーも参加してくれました。外からの新鮮な空気が、少し視野が狭くなっていた私たちにもう一度、このうちPの意義を再認識させてくれました。
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①   使用期間の過ぎたチラシを有効利用して、来館者に涼をとってもらうこと。
②   とびラーの存在を知ってもらう名刺代わりとすること。
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その2つが最終的なうちPの目標となりました。小さな持ち手の中で、最低限この2つをどう伝えていくかを考え、使う言葉やデザインを考えました。
作る!そして配る!
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作業
持ち手部分をボール紙に印刷したものが出来上がってくると、後はひたすら折ってホチキス留めすれば完成です。とびラー掲示板に「うちわ作りのお手伝い募集!」と募集をかけると十数名のとびラーが集まってくれました。ワイワイお話をしながら折っては留め、折っては留め、うちわ1000枚が2時間で出来上がりました。あとは配るだけ。さて、パッと見ただけではうちわと分からないこの“チラシdeうちわ”。来館者の方々は、果たして受け取ってくれるのでしょうか…。
<表>
<裏>
■実施
実施日は8月15、水曜日。暑い盛りのシルバーデーを選びました。シルバーデーとは、65歳以上の方が無料でマウリッツハイス展を鑑賞できる日です。7月のシルバーデーには120分という待ち時間ができてしまっていました。来館者の待ち時間を応援するならこの日をおいて他にないという日です。
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「どのくらいの人がうちわを受け取ってくれるんだろう」試行錯誤の末出来上がった“チラシdeうちわ”をやっと来館者の方に届けることができるという喜びと、一抹の不安を胸に、うちわの入った箱を抱え、屋外に長々とできた行列へと向かいました。しかし、いざ配り始めるとそんな不安は吹き飛んでしまいました。列に並んでいた来館者の多くが“チラシdeうちわ”を欲しがってくれたのです。ご自分で扇子をお持ちの方の中にも「私にも貰えますか」と手を伸ばしてくださる方もいます。結局とびラーは5名様ずつ位の幅広の列の中に入り込み、間を縫ってほとんどの方にお配りする程の好評ぶりでした。「こんにちは!とびラーです!」「うちわをどうぞ!」と言いながら、あっと言う間、40分程で全てのうちわを配り終えてしまいました。
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後から「公園を歩いている人がみんなチラシのうちわをヒラヒラさせていて不思議な光景だったよ!」という嬉しい報告も耳にしました。
本当に一瞬のできごと。一瞬の”上野公園チラシdeうちわジャック”です。
念のため用意したうちわ回収ボックスにも、返却されたうちわは20枚ほどでした。
その他
◎プロジェクトの進め方について
うちPが始まる直前まで、私たちはとびらプロジェクトの基礎講座をうけていました。そこでは人の話を「きく力」、ミーティングの進め方など、プロジェクトを進める実践的な方法をこれでもかというほど叩き込まれました。だからまず、やってみたかった。実際にプロジェクトをやってみたいという想いがとても強かったです。「きく力」を研ぎすまし、「居合わせた人がすべて方式」で、最小単位3人が、イメージを共有しあい、各ミーティングをタスクに変える習慣をつければ本当にプロジェクトが進行するのか。そして、その試みがどんなに小さいものでも、それがとびラーの足跡となり波紋となり、私たち自身が「新しい公共」となり得るのか。「自ら行動する実験台になってやろう」という気持ちは今も変わっていません。
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またうちPはミーティング以外でのメンバー間でのやりとりをweb上のとびラー専用ホワイトボードで行うことにこだわりました。正直、メールでのやりとりの方が早いのですが、進捗状況をネット上にアップしておけば、他のとびラーたちの途中からの参加も可能だと思い、情報公開に留意しました。この事で結果的に、活動が自動的にアーカイブされ、今この活動報告を執筆するにあたっても役立っています。
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◎他館でのうちわを使った取り組みの調査
•新江ノ島水族館 一回200円でオリジナルうちわを作ることが出来る。まず背景3種類を選び、うちわを作った後、好きな深海の生き物のシールを3つ選び、貼って完成。
•井の頭自然文化園 園内をクイズ形式でスタンプラリーで回り、全てのスタンプを押すとゴールでうちわをもらえる。厚紙のみを使用したエコなデザインのうちわ。
新江ノ島水族館うちわ  井の頭自然文化園うちわ
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■むすび
作ったのはただのうちわでした。
配れたのはたったの1000枚でした。実現できたことよりも、諦めたことの方が多かったと思います。しかし、このプロジェクトを終えた事で、私たちの中に何かとても確実なものが降り積もりました。とびラーとは何なのか?まだ答えのでない疑問に私たち自身がヒントをもらったような気がしています。また、私たちが本気で取り組んだ結果を来館者の方々が興味を持って受け入れてくれた事。この事は今後、私たちが様々な活動をしていく上で大きな自信になると思います。
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※参考資料
しまんと新聞ばっぐ 公式サイト http://shimanto-shinbun-bag.jp/
新江ノ島水族館 公式サイト http://www.enosui.com/
井の頭自然文化園 公式サイト http://www.tokyo-zoo.net/zoo/ino/〈チラシdeうちわプロジェクトメインメンバー〉
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越川さくら、鬼澤舞、新倉千枝、山中麻未
その他沢山のとびラーにご協力頂きました。

とびラー候補生:筆者:越川さくら(こしかわ さくら)
夫と3才の娘、2匹のフェレットと共に東京都三鷹市に在住。

 

2012.10.05

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