東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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藝大生インタビュー⑨|「閃いたらまずやってみる」彫刻科 4年生 鈴木 弦人

11月の終わり、少し肌寒さを感じる秋晴れの午後に彫刻科の工房を訪れました。
校舎の裏手、落葉でいっぱいの敷地には無造作に置かれたたくさんの彫刻とともに、大きな岩やら木材やら様々な素材の塊が点在していました。中には制作途中の彫刻作品とおぼしきものも紛れていて、なるほどここが彫刻家の卵たちの作業場なのかと一層好奇心がそそられます。

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約束の時間に現れた鈴木弦人さんは、頭にキリリとタオルを巻いた作業着姿が凛々しい長身の好青年。

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「工房の方、見ますか?」
案内されるままについていくと、工事中のような騒音が響いてきて、そこはもう大学というよりどこかの町工場のような雰囲気です。

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工房の奥には、ひときわ存在感のある大きな塊が鎮座していました。今まさに鈴木さんが取り組み中の卒業制作作品です。

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「1枚1枚重ねて組み合わせて1個の花をつくってるんです」
大きな一枚板の鉄を叩いて成形し、溶接して何枚も貼り合わせながら作っているという花びらが5枚。その巨大な花びらのなんとも妖しい様子が“ラフレシア”をイメージしたものと聞いて大いに頷けました。想起されたきっかけはなんと“ゲーム”から。

「でっかい花の中に主人公がピュッと入っていくシーンがあって、あぁこれ面白いなって思って」
いかにも現代っ子らしい答えには親近感を覚えますが、デジタルの世界で遊びながら大きな立体作品を想像するセンスはやっぱり芸大生ならではと言えそうです。

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工房の外に移動すると、花芯となるもうひとつの塊がありました。こちらは銅メッキに真鍮を溶接したという不思議な模様が描かれています。これをグラインダーに紙ヤスリをつけて何度も磨いた後、焼いて変色させたら、さきほどの5枚の花びらの中心に組み合わせて完成の予定。仕上がりは3m程となる大作です。繰り返しの緻密な作業はさぞ忍耐力もいることでしょう。

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「鉄は焼いた後真っ青になるので、イメージが全然変わると思うんです。実物はないんですけど、こういう色に・・」
とスマートフォンで示してくれた過去作品がまた興味深い。

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“花”の他には“変わった生き物”などをモチーフにしていたとか。実在しそうだけれどちょっと不思議なものたち・・・鈴木さんの作品傾向の共通項が垣間見えたようでもありました。

1日の制作時間はおよそ10時間。外に持ち出せる大きさの作品ではないので、工房を使える9時から7時までが勝負です。
限られた制作時間での取り組みでは、さぞ規則正しい生活をされているのかと思いきや、
「あまり・・・(笑) 家帰ってから深夜までずっとドラマ観たりとか、あまり規則正しくはないです」
と、大学生らしい素顔を見せてくれました。
でも、工房に来ないと作れないのでは、家に帰ってから閃いたり、やり残したことを思い出してモヤモヤすることもあるのでは? と聞いてみると
「あります・・そういう時はゲームとかして忘れます」
ちょっとはにかむ様子にまたまた親近感が湧きました。

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夏前からおよそ3ヶ月かけているというこの花の制作はそろそろ終盤。来週以降は2つ目の作品に取り組むのだそうです。
「モザイクアートみたいなのをつくろうと思ってて」
そういって見せてくれた2つ目の作品は平面。質感の異なる金属を組み合わせた彫刻で、古墳の壁画のようなエキゾチックな雰囲気を醸していました。

こちらも元は大きな1枚の板。それを4枚に分けてちょっと曲げて、彫って削る。仕上がりは2m弱ぐらいになる予定。
どちらも大きな作品ですが、これほどの大きさのものに取り組むのは卒業制作が初めてだそうです。
「でかいの作ったことないからとりあえず作っちゃおうと思って」
閃いたらまずやってみる、とりあえず手を動かしてから考えるのが鈴木さん流です。

鈴木さんは立体に取り組む前にスケッチすることはなく、まず形をつくってみる、いわば「ぶっつけ本番」で、手を動かしながら考えを巡らせて形にしていくのだそうです。
「なんとな〜く作って、で途中段階でやめてスケッチ描いてみて、こうしようかなとかってまた作ってみる。絵は・・・あんまり好きじゃなくて」
ーーえ〜!そうなんですか?? 意外な発言にインタビュアー一同感嘆の声をあげてしまいました。
予備校時代の先生の指摘が厳しくて、デッサンで苦労して以来、絵を描くことが好きではなくなってしまったのだとか。「一生描きたくない」と思ったこともあったというのはちょっと胸の痛む話でしたが、その頃から立体への興味が高まっていったようです。

立体が好き、それも金属。2年生後期の自由選択以降は、ずっと金属の彫刻に取り組んでいるそうです。
木彫、石彫、塑像・・・一通りの素材を扱ってみて、金属が一番感覚にフィットしたようです。「溶接が楽しい」と、本当に楽しそうに答えてくれました。
ちなみに金属以外で今後扱うとしたら透明な樹脂、水晶のようなものにも少し興味があるそうです。

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現在2つの卒業制作に取り組んでいる鈴木さん、実はもうその次の構想も脳裡に浮かんでいると言います。
新たなプランが生まれるのは主に制作中。特に磨きなどの粛々と続く作業時、手を動かしながらのふとした瞬間に「もうちょっとやりたいことがあるんじゃないかって思ったら次のがパッと浮かんでくる」のだそうです。やはり制作にはものすごい忍耐力が求められるものなのですね。
「ただの流れ作業なんで、さっさと終わらせて次やりたいっていうことしか頭になくなってきて。作ってて次のプランが浮かぶともう(制作中の作品に)あんまり愛着が持てなくなっちゃって」
今までの作品はすべて自宅に保管してあるとはいうものの、完成した作品に特段の未練もない様子。
ずっと前だけを見ている、次々に浮かぶ発想に突き動かされている様子はいかにも若者らしくて清々しい印象を受けました。手を動かしているとインスピレーションが湧いてしまって、いてもたってもいられなくなる感じ。発想に作業が追いつかないスピード感がもどかしいようでもありました。

ところで、進路として芸大を選んだきっかけは何だったのでしょう?
「とりあえずサラリーマンとかにはなりたくないと思ったんで。そのために大学でタラタラ勉強するのは嫌だなと思って、じゃあやりたいこと勉強しようと思って」
さらりと言われてしまいましたが、芸大に入るのは容易ではないはず。技術もセンスも求められると思うのですが、ご自身の一番の才能は?との問いには意外にも「力持ち」という答えがかえってきました。確かに! 彫刻科は体力も必須と見受けられます。
1学年が20人。各々が取り組む作品はもとより扱う機材も重いものが多いので、みんなで運ばなきゃいけない場面も多いのだそうです。それゆえに学生同士の連携が密になるというのは彫刻科の特徴と言えるでしょう。
4年間を振り返っても、飲みに行ったり、登山をしたり、思い浮かぶことは友だちと遊んだシーンばかりとか。
終日誰とも話さないこともあるというくらい制作に没頭する日々を送る一方で、しっかりキャンパスライフも謳歌しているようでした。

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ご自身の芸術的才能にはいたって無頓着で、幼い頃のエピソードを尋ねても「(物作りを)していたらしいけれどあまり記憶にはない」とのこと。気になる作家はラグーザだと語るも特段影響を受けたという程のこともない様子。それでも、あぁ根っから物作りが好きなんだな〜と感じたのは、芸大に入らなかったら何をしていたと思いますか?という質問を投げかけた時でした。
「専門学校とかで特殊メイクとかやってたかもしれないですね」
なるほど、手を加えて形を変えていく点では彫刻に通じるものもありそうです。
また、夏休みなどの長期休暇には美術系の鉄工所でアルバイトをしているとも言います。卒業制作の材料費に10万円以上もかかるとのことですから、そのための資金捻出が第一目的なのでしょうが、物作りの現場も楽しそう。公共のモニュメントなど大きな物を手がける仕事体験は、作品づくりのヒントになっているのかもしれません。

卒業後は大学院に進み、その後はご自身の工房を構えて作家として自立するのが夢だと語る鈴木さん。美術系の素養のあるご両親も、好きな道に進むようにと温かく見守っていてくださるのだそうです。
でも、これから芸大に入って彫刻家になりたいという中高生にどんなアドバイスをしますか? との問いには、「がんばってください」の一言のあと、ちょっと考えて「まあ、やめた方がいいとは言いますね」とも言い添えていました。“彫刻で身を立てる”ことの厳しさについて、自戒も込めてのアドバイスでしょう。

卒展の展示場所は都美館の一番下のフロア。作品のパーツが大きいので運んでから現地で最後の組立を行なうのだそうです。
3m+2mという大きさと、鉄以外の金属を扱ったことが今回初めての取り組みだという卒業制作。焼き込みを入れた金属がどのような色調に変化しているのかを想像してもワクワクします。完成作品を見られるのが今から待ち遠しいです。そして、その頃にはきっとさらに先の構想を練っているであろう鈴木さんに再会できることも楽しみです。ありがとうございました。

(2014.11.27)

執筆:小松 一世(アート・コミュニケータ「とびラー」)

2015.01.11

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