4月から7月にかけて東京都美術館にて開催された、「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展」。
そのタイトル通り、展覧会の目玉はブリューゲルの最高傑作『バベルの塔』でしたが、実は、ブリューゲルには、油彩画の前に版画の下絵作家としての経歴がありました。
彼が下絵を描き始めた当時、ネーデルラントでは、16世紀に活躍したヒエロニムス・ボスの画風をまねた「ボス・リバイバル」旋風が起こっており、ブリューゲルも世の風潮に応じてボスの画風、つまり、いわゆる「不可思議なモンスター達が登場する世界」が多数描かれていました。
6月25日(日)に行ったワークショップは、ブリューゲルの絵の中に描かれたモンスターをよく見て、その世界観に触れ、さまざまな素材や廃材でと保護者と子供のそれぞれがオリジナル・モンスターを制作するというプログラムです。
ワークショップ開催当日は、あいにくの雨。
それでも、展示会期終了が迫った日曜日ということもあり、多くの方が「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展」を観に来館されていました。
東京都美術館の入口へ向かうと真っ黒な衣裳を身にまとい、不可思議な帽子をかぶった人々(とびラ―)が迎え入れてくれます。笑顔の人もいるけれど、どこか怪しげな雰囲気。
ワークショップ会場の受付に行くと、何やら手のひらサイズの封筒を手渡されます。
「絶対に開けないでね」と言われると、余計に中身が気になります。
ところが、部屋の中に入ると、それ以上に子供達の心を鷲づかみにするものがありました。
部屋の奥には、流木やドライフラワーなどの自然物、機械や工場などを連想させるような錆びた鉄材、馬蹄、かつて誰かが夢中で遊んだと思われるカラフルなプラスチック製のおもちゃなどなど、実に様々な素材がズラりと並んでいます。
目に入った途端、思わず駆け寄る子供達。
じっくり見ながら「これなんだろう?」、手に取ってみて「変な形!」、「あとで、これを使って作ろうかな」など、ワークショップが始まる前から想像が膨らみます。
午後1時、いよいよワークショップの開始です。
この日の参加者は、小学3年生~高校1年生が6名と、保護者の方5名の合計11名。
まずは、ワークショップの流れの説明が行われ、
次いで、本日のとびラ―の「ドレスコード」についてお話がありました。
とびラ―の帽子は、ブリューゲルの版画の中に登場するもの(に近いもの)やインスピレーションを受けて創作したものなど、モンスターがいる世界観を表しています。
たしかに、ひとりひとり異なる形の帽子だけれど、これだけ集まると不思議な空間ができあがっていますね。
さて、たくさんの魅力的な素材や個性的なコスチュームを纏ったとびラ―達に囲まれて、「早く作りたい!」という気持ちがあふれている様子の子供たちですが、まずは「作る」前に「よく見る(観察する)」ことが今回のワークショップの重要なポイントです。
ここで登場するのが、受付の際に手渡された「封筒」。
いよいよ、開封する時が来ました!そっと開けてみると…….!!
中には不思議なモンスターが印刷されたカードが入っています。子供と保護者でどうやらモンスターの種類が違うようです。
すると突然、
「自分のカードに描かれているモンスターのと同じモンスターのボードを持ったとびラ―を30秒以内にみつけてください!」との掛け声が。自分のカードを再確認して、あたりを見回し、とびラ―を探します。
このカードはチーム分けのカードだったのです。
無事、とびラーのもとに辿り着き、子供は3チーム、保護者は2チームに分かれました。
チーム毎に自己紹介をしつつ、それぞれのチームのモンスターについての会話が始まります。
「魚みたい!かわいい!」
「お尻からなにかでている!」
「ひれが、羽根になって空を飛んでいる!」
それぞれいろんな特徴があるモンスターだったようです。
実は、このチームごとのモンスターはブリューゲルの版画の中に登場しています。
ということで、今度は絵の中からモンスターを探します。
制限時間は10秒!うまく見つけられるかなというとびラ―の心配をよそに、みなさんあっという間に見つけてしまいました。
絵の全体像がわかったところで、よく見ていくと、自分達のモンスター以外にも、色々な人や様々な形のものが描かれています。
「ここにも、そこにも、あ、これも!」
「このモンスターは、このひとと戦っている!」
といった具合に、次々と不思議なものを見つけては、その特徴や何をしているかなど、とびラ―へ伝えながら、モンスターのいる世界に想像を膨らませていきます。
さて、カードでモンスターを観察した後、今度は本物の作品を観にチームごとに展示室へ向かいます。
列に並び順番を待っている間も作品カードを見ながら想像を膨らませます。
展示室では、それぞれのチームのモンスターが描かれている作品と、もう1つ別の作品の合計2作品を鑑賞するため、2枚の作品カードを見ながら予習(事前学習)をします。
子供も保護者も、絵や美術館のこと、鑑賞の際ののお約束などを夢中で話したり、大友克洋さん作の「バベルの塔」に目を奪われているうちに、あっという間に入り口へ。いよいよ展示室に入場です。
たくさんの来場者でにぎわっている展示室の中をそれぞれのチームが最初に鑑賞する作品のもとに向かいます。
なかなか絵の前にたどりつけない展覧会の盛況ぶりでしたが、他のお客様とゆずり合いながら鑑賞します。
本物の作品を観た後で、展示室の外に設置された映像スペースや作品カードを使って、感想を聞いてみました。
「思ったより(作品の大きさが)小さかったけれど、緻密に描かれている。」
「白と黒がはっきりしている。」
「なにか別々のものがくっついて、モンスターになっている、」
「ちょっと、(モンスターが)人間みたいで、友達になれそう」
本物の作品を観ることで参加者それぞれに、新しい発見があったようです。
ちょっとした冒険をしたような達成感を味わいつつ、ワークショップ会場に戻ると、とびラ―達が笑顔と拍手でお迎え。
自然と「おかえりー!」「ただいまー!」と挨拶がかわされます。
さて、ここから、ついに造形タイムに突入です。数ある素材の中から、まずは「5つ」だけ、それぞれの箱に入れ自分の席に持ちかえります。
直感的に、ひょいっひょいっと箱に入れる子もいれば、じっくり考えている子も。
そんな子供たちの様子をやや遠巻きにみていた保護者の方に声をかける とびラ―。
「お母さんも作るんですよ?」「えっ!?わたしも?」「もちろんです!」
今回のワークショップの重要ポイント②として「子供も保護者も自分のオリジナル・モンスターを作る」ということがあります。
途端に素材を見る目に力と輝きが宿る保護者たち。
廃材ソムリエ(とびラ―)に相談したり、手に取ってみたり、余念がありません。
素材選びが落ち着いたところで、今度はモンスターを作るために、組合せを考えていきます。
子供たちのテーブルでは、もうすっかり完成形が頭に浮かんでいて、すぐに形作る子もいれば、とにかく手を動かしながら、想像して、いろいろな方法を試す子もいたりと、皆それぞれのペースで造形を楽しんでいます。
とびラ―達は、そっと見守ったり、必要に応じて手を貸したり、応援にまわります。
一方、保護者チームのテーブルはというと、真剣な表情と高い集中力でそれぞれの作品を制作しています。どことなく、、作家の風情が。
かと思えば、笑い声が起きたり、皆で子供が作る姿を見守ったり、終始和やかな様子。
それぞれのモンスターが完成に近づいてきたところで、モンスターの名前と特徴を考え、カードに書いてもらいます。
無事名前も決まり、特徴を書き終えたところで、お互いのモンスターを鑑賞し合います。
ここでワークショップは終了、、、、、ではないのです!実はここからが、今回のワークショップのハイライト。
ブリューゲルの作品のように、人とモンスターが同じ空間にいることを味わうため、参加者それぞれが、自分の作ったモンスターの世界に入り込みます。
まずは、今作ったばかりのモンスターのみを写真撮影。
続いて、そのモンスターと出会った時にどんな反応(ポーズ)をするのか、モンスターと一緒にどんなことをしたいのかを考えて、制作者本人の写真を撮ります。
モンスターと出会ったら、「びっくりする!」「撫でてみたい」というものから、「上に乗りたい!」「飛びたい!」など、
ノリノリで撮影に臨む皆さま。驚いたことに、子供たちよりも保護者チームの方がかなり積極的でした。
自分の撮影が終わった後も、ほかの参加者の撮影を見学したり、今日のワークショップや作品の話をしたりと、思い思いの時間を過ごします。
最後に、今日の参加者ととびラ―、そしてモンスターで集合写真を撮影。
この写真が物語っているように、最初から最後まで、子供たちはもちろん、保護者のみなさんにも楽しい時間を過ごしてもらうことが出来ました。アンケートにも、「とびラ―のノリやドレスコードが良かった」、「こうした楽しい体験の機会があったら、次も参加したい」などうれしい感想をいただきました。実は、なんとこの日が初めての美術館、ミュージアムデビューだった子もいたそうです。
素敵なモンスターができましたね!ご参加いただいたみなさん、どうもありがとうございました!
ところで、モンスターの世界に入り込んだ人々の様子が気になるところですが、、、
さて、どうなっているのしょうか。
最後に、それぞれのモンスターの名前と特徴と共に、写真を一挙公開します!
(*写真はクリックで拡大できます)
★モンスターネーム:口なしおばけ
★モンスターの特徴:口はないところや足のさきにとげがある
★モンスターネーム:まるいぬ
★モンスターの特徴:?????
★モンスターネーム:ぽち
★モンスターの特徴:長いしっぽを振ってママにお花をプレゼントしてくれるやさしいモンスター
★モンスターネーム:かわぐつ
★モンスターの特徴:目と口が2こある。声が大きい。においがくさい。
★モンスターネーム:くんくん
★モンスターの特徴:もじゃもじゃ
★モンスターネーム:ディフ
★モンスターの特徴:ミラーがある。
★モンスターネーム:テラドン
★モンスターの特徴:たべものが全てカラフルになります。
★モンスターネーム:ジョニー
★モンスターの特徴:人工物が多い。顔は魚。体は携帯。ハンドホーンから新幹線。
★モンスターネーム:TEAM・P
★モンスターの特徴:家のそこここに、ひそんでいる仲間たち
★モンスターネーム:うさがめ
★モンスターの特徴:よく川に行って貝殻をとります。
それで目は光っていて小さいものを見つけます。
★モンスターネーム:ジュージュー
★モンスターの特徴:キッチンで生まれたお料理好きのモンスター。
執筆:山田裕子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラ―1年目。アートやひとを通じて、楽しみながら、様々な驚きや発見が得られる場所作りを目指してます。
2017.06.25