東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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基礎講座 第6回|「作品に立ち返ろう」

基礎講座第6回のテーマは、「作品に立ち返ろう(全員集合)」です。

番外編を除くと、基礎講座の最終回になります。

 

前回の基礎講座は、「ミュージアムの特性を活かしたプログラムづくり」でしたが、今回は、実際に行われたプログラム(イロイロとび缶バッジ「ブリューゲルの版画を体験しよう〜なぞって彩る不思議な世界〜」6/11開催)をもとに、作品を介したプログラムづくりを考えていきます。

 

【午前】

まずは、稲庭さん、伊藤さんから、今日の主旨が説明されます。そこでは、バベルの塔展に足を運び、ブリューゲルの版画作品をよく鑑賞するようにというミッションが出されました。

鑑賞を終えたとびラーは、講義室に戻ってきます。そこで待ち構えているのが、缶バッジメンバーのとびラーです。他のとびラーには内緒で、集まってもらいました。缶バッジメンバーは、プログラム実施日と同じように、看板を持ち、チラシを配ります。

事情がつかめないとびラーが向かった講義室では、次のプロセスに沿って、缶バッジづくりが行われます。

①図版を選ぶ、②台紙を選ぶ、③トレースする(色づけ)、④丸くカットしてバッジにする、⑤作り終わったら体験ふりかえりシートにコメントを書く。

80人程のとびラーが静かに集中して、トレースする様子は壮観です。

 

【午後】

・缶バッジづくりの体験をふりかえる。

お昼休みを挟んで、午後からは、缶バッジづくりの体験を全員でふりかえります。まずは、各テーブルに置かれたバッジとコメントシートを、みんなで見て回っていきます。

 

・缶バッジプログラムをふりかえる:構想から実施まで

伊藤さん、稲庭さんが、缶バッジメンバーのお二人にインタビューやコメントをしながら、缶バッジづくりの体験をふりかえっていきます。

缶バッジづくりは、参加者にとってハードルの低さがあること、「つくる」プロセスは、実は「鑑賞する」ことにつながっていることが指摘されます。

 

・缶バッジ企画の変遷

当初のコンセプトは、バベルの住人になろうというものでした。試行錯誤する中で、「なぜ3cmの缶バッジにするのか、ポストカードでもいいのではないか」といった問いに向き合うことになったそうです。伊藤さんから、今回の企画段階で良かったことは、実際に手を動かしてみたことだという指摘がありました。

実際に作ってみることで、正しい方向に進んでいるのか、「もの」でコミュニケーションをとることができたのではないかという指摘です。

試作は、主に3段階に分かれていたことが明らかになりました。

第1段階では、台紙にバベルの塔が事前に描かれており、「参加者が能動的に関わる余地がない」ものでした。

第2段階では、企画側がクオリティコントロールをすることで、それなりに見える状態です。

ただ、第2段階でも、プログラムとして実現できるかは未定でした。そこで、メンバーは、3cmの缶バッジの中に、どう体験を持ち帰ってもらうか、フラットな発想に戻り、モチーフをバベルの塔から版画にすることへと発想を変えます。

第3段階では、参加者が能動的に入れる余地ができ、ある程度みんなできる状態になりました。自分の少し上を体験できる回路がつくられた状態です。この状態は、ヴィゴツキーの「最近接発達領域」という考え方にもつながるそうです。

伊藤さんからは、「缶バッジをつくっている本人は、第3段階の構造には気づかないけれど、体験を自分のものとして獲得して帰って行けるのが良い」とのコメントがありました。以上のプロセスは、企画書だけでは生まれないものでした。具体的につくって、議論を深めていく大切さが、他のとびラーにも伝わったかもしれません。

 

・とびらプロジェクトで大切にしたいこと

伊藤さんから、「4月〜6月までどうでしたか?」という問いかけと共に、あらためて大切にしたいことが2つの映像と共に、再確認されます。

1つ目の映像が、トム・ウージェックの「マシュマロチャレンジ:塔を建て、チームを作る」です。

この映像と共に、パレートの法則(「80%=20%の法則」)が紹介されます。パレートの法則とは、80%の成果は、20%の活動エネルギーよって生まれるという考え方です。プロジェクトのプロセスに当てはめると、「創造的成果」が問われる期間に、小さく早く、数多く、トライアンドエラーをすると、プロジェクトが前に進みます。残りの20%の成果は、「生産的成果」が問われる期間で、プロジェクトの精度を高めることが求められます。「完璧な計画を立てるより、良質な失敗をしよう」ということが、この映像からは伝わってきます。

4月から6月にかけて実施された「とびラボ」の回数は、100回(内訳は、ミーティング回数が89回、実施プログラムが11回)でした。

 

2つ目の映像は、デレク・シヴァーズの「ムーブメントの起こし方」です。

この映像からは、「牽引力のあるリーダー」より、「最初のフォロアー(伴走者)」が大切であることが見てとれます。

 

とびらプロジェクトでも、「話し方」よりも「きき方(きく力)」を大切にし、「活動することこそ、参加すること」ではありません。「見守る」ことも大切な参加であり、「見守る目」という余白を大切にしたいのです。

 

とびラー専用掲示板とホワイトボードを、じっくりと見てください。映像に出てくる裸踊りをしているような人がいるはずです。誰も見てくれていないと、踊り続けられません。2割の人が活躍するには、見守る8割のオーディエンスが必要です。「2割の活動者しかいない」より、「8割のオーディエンスがいる」ことを、プロジェクトの中では大切にしていきたいです。見てくれている人たちがいるのを、確認する、見る/見守ることが、プロジェクトのエネルギーになっていきます。

 

・改めてみんなで確認したいこと

「ボランティア」ではなく、「アートコミュニケータ」

「サポーター」ではなく、「プレイヤー」

「役割や曜日ごとのグループ活動、活動内容が決められている」のではなく、「この指とまれ式&そこにいる人が全て式の活動」

「ずっと続くor意思とは関わりなく終わる」のではなく、「終わりを最初にデザインする」

「反省会」ではなく、「振り返り(リフレクション)」

「やっと基礎講座が終わった」ではなく、「さぁ、今日から本番だ」

 

 ・「Museum Startあいうえの」について

講座の最後に、稲庭さんから、新しくなったパンフレットを参照しながら、5年目を迎える「Museum Startあいうえの」についての紹介がありました。

7月からは、「Museum Startあいうえの」の活動も本格的に始まっていきます。とびラーも、実践の中で、ワークショップの形、構造を経験していくことになります。

(東京藝術大学美術学部 特任研究員 菅井薫)

2017.06.24

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