東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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基礎講座④|作品を鑑賞するとは

5月25日(土)、基礎講座第4回は「作品を鑑賞するとは」をテーマに行われました。

本日の講師は、東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長の稲庭彩和子さん。

作品を鑑賞するとはどういうことか、アート・コミュニケータとして、作品を介して鑑賞者と関わる活動の可能性を考えます。

【午前】
午前中は、アートスタディルームで3つの映像を見て話し合いました。


最初の映像は、メトロポリタン美術館元館長のトーマス・P・キャンベル氏によるスピーチ、「美術館の展示室で物語を紡ぐ」。タペストリー研究家のキャンベル氏が、学生時代に先生に教わったことの話から始まります。

本物の作品を目の前にすることは、時空を超えて過去の人々に出会うこと。作品に出会うときは、美術の専門知識はひとまず置いておき、自分の目で見た直感を信じることが肝要なのだそうです。

自身が企画した展覧会を例に挙げながら、キュレーターがつくる美術館の体験は、難解なテーマを観客に分かりやすく示すことなのだともキャンベル氏はいいます。

視聴後、映像を見て印象に残ったことや疑問などをまず1人で振り返りました。

3人組になって気になったことをシェアしたのち、全体で意見を共有するとこういう意見が出てきました。

「作品を鑑賞する行為は、人を知るために耳を傾けていくことに似ている」
「美術館を居心地悪く感じる人たちに対して、とびラーとしてどのように関わっていくことができるのだろう」

学芸員の稲庭さんからは、「キュレーションは作品を鑑賞者と近づけるためのもの」であり、人に出会うのと同じように、作品と出会えたとき、社会が紡いできたものに自分がつながるという感覚が生まれる、というお話がありました。一緒に伴走してくれる人が隣にいることで、作品が「関心をもつべきもの」なのだということがわかり、知らなかった世界を知ることができるといいます。
美術館、そしてアート・コミュニケータ「とびラー」の役割を考えさせられるお話でした。

次に視聴したのは、学校との連携に力を入れているイザベラ・ガードナー・スチュアート美術館の「アートを通して考える(Thinking through art)」。

美術館で行われている対話による鑑賞(Visual Thinking Strategies = VTS)の実践の様子が映されています。
子どもたちが作品を見ながら気づいたことや考えたことを発言し、それをファシリテータがつなぎ、問いを投げかけ続けていきます。

視聴後は、VTSの具体的な手立てについてとびラーから質問が次々と飛び交いました。

稲庭さんはVTSを通した学びについて、学校の国語の授業で文章を精読するように、「絵を細部までよく見ながら考える」ことに慣れていくためのトレーニングなのだと話していました。

最後の映像は、東京都美術館の休室日の展示室を学校のために特別に開室して行われるプログラム、Museum Startあいうえの「スペシャル・マンデー・コース」。
休室日の展示室を学校単位で訪れる子どもたちのために特別に開室し、ゆったりとした環境の中で子どもたちが本物の作品を鑑賞することができます。
映像では、子どもたちの鑑賞をとびラーがサポートしている様子がうかがえ、実践のイメージを膨らませるものとなっていました。

==========
【午後】
午後からは、作品の鑑賞を実際に体験します。

まずは絵をみるためのエクササイズとして、作品のアートカードを使って「納得!ゲーム」をしました。

価値が多様化し誰もがそれぞれの正解をもっている世の中で、求められるのは“納得解”。1つの正解を求めるのではなく、みんなが納得できる答えを紡いでいくことが大切です。「納得!ゲーム」はそこにつながるようなコミュニケーションゲームです。

1グループ8〜9名程度で、8つのグループに分かれてゲーム開始。
テーブルのカードと色、形、イメージなどで共通点のある一枚を自分の手持ちのカードから探し、2枚のどこが共通しているのかを説明します。
グループ内の半数以上が「納得!」してくれたらOK。

「こことここに女の人が描かれています」
「赤色が使われています」
カードをじっくり見つめながら、メンバーの主張に耳を傾けます。


共通点となるキーワードは一度しか使えないため、テーブル上のカードが増えていくにつれて「うーん、そうかな?」という声が聴こえ始めました。

共通点の根拠を熱弁する姿や、メンバーに助け舟を出されて、言い回しを変えたり他の共通点を見つけたりする場面も見られました。

作品カードを通したゲームで頭をやわらかくして、作品を自分の目でよく見られるようになったら、今度はいよいよ実物の作品を鑑賞するために、展示室へ出発します。

グループごとにファシリテータを務める2・3年目のとびラーに連れられて向かった先は、「第85回記念 旺玄展」。

午前に映像を見たVTSの手法を用いて、1作品につき15分程度で2作品を鑑賞しました。
まずは、しばらくの間、一人で静かに作品を見ます。

そして「この絵の中では何が起こっているでしょうか?」というファシリテータの問いかけから、気づいたことや考えたことを言葉にしていきます。
その際に大切なのは、「絵のどこを見てそう思ったのか」という根拠を示すこと。

美術や美術館に関心のある大人が集まっているからか、序盤から深い解釈の発言が飛び出すグループもありました。

ファシリテータは、参加者から出た発言を言い換えて全員に共有し、考えと考えをつないで整理します。
場が温まってくると、気づいたことや何気なく思ったことが次々と出てくるようになりました。
一人一人の視点やもっている知識によって互いに触発され、作品の見方が広がっていきます。

一つの作品を見終わる頃には、発言が紡ぎ合わされ、グループごとの作品の見方がゆるやかに醸成されていきました。

ふたたびアートスタディルームに戻り、展示室での体験を振り返ります。

「一人一人感じ方が違うため、皆で見ることで異なる視点を共有できるのだと気づいた」
「自分一人では気にもとめない絵が一生忘れられない絵になった」

自分がファシリテータになったら、様々な発言をどのように受け止め、言葉を返すのか。映像や実践を通して気づきや考えが深まります。

鑑賞について考えた1日の終わりに、稲庭さんはこう言います。
どの意見も等価で扱う雰囲気をつくっていくこと。
食わず嫌いをせずに様々な絵を見て、頭の中のビジュアルのデータベースを増やしていくこと。

とびラーの皆さん自身が、自分の目と耳と頭をつかって作品をよく見ることの面白さを味わい、来館者が作品を見る伴走者となるための一歩を踏み出す1日となりました。

(東京都美術館アート・コミュニケーション係 アシスタント 浜岡 聖)

2019.05.25

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