東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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アクセス実践講座②「海外にルーツを持つ子供の現状と課題 言葉、文化、制度、心の壁に囲まれたこどもたち」

アクセス実践講座・第2回
「海外にルーツを持つ子供の現状と課題 言葉、文化、制度、心の壁に囲まれたこどもたち」
日時|2019年7月27日(土)9:30~12:00
場所|東京藝術大学 第3講義室

講師|田中宝紀(YSCグローバルスクール)


全8回で構成されるアクセス実践講座の第2回目を行いました。場所は、東京芸術大学の第3講義室です。第2回目は、YSCグローバルスクールの田中宝紀さんを迎え、海外にルーツを持つ子どもたちの現状と社会的課題についてお話を伺いました。

入管法改正、技能実習生、外国人観光客など、オリンピックイヤーに向けて、外国人についての報道が増加しています。東京都内でも外国人に出会う機会が増えたのを実感として感じるようになりました。

世界規模で国際化の進む中、日本では未だに移民として外国人を受け入れる制度が整わず、日本に住む外国人は「在留外国人」として不安定な状況を強いられている方が多くいます。中でも海外ルーツで多様な背景をもつ子どもたちの中には、言語的な支援がなく十分な教育を受けられないという状況が生まれていることも少なくありません。

YSCグローバルスクールは、NPO法人青少年自立支援センターが運営する、海外にルーツを持つ子どもと若者のための専門的教育支援事業です。2010年度より東京都福生市を拠点として、数十カ国にルーツを持つ子ども・若者たちを年間100名以上受け入れ、日本語教育、学習支援、不就学・不登校、高校進学希望のこどもたちの支援を行っています。

言葉、文化、制度、心の壁

田中さんは現在の状況についてこう説明します。

入管法の改正により、5年間で35万人の外国人受け入れという報道を聞き、外国人がどんとやってくるイメージを持つ人多いと思います。しかし外国人は2018年にはすでに日本に273万人いて、外国人増加は今に始まったことではありません。

また、外国人と日本人という区別を前提としていると、見えてこない問題があります。日本国籍でも日本語を母語としない子どもや、日本語しか話せなくても日本国籍を持っていない子どももいます。国際化が進む中で「日本人」自体も必然的に多様化しているのです」

田中さんは現場での支援に加えて、インターネット上で海外ルーツの子どもたちの現状や課題を広く伝える記事を執筆するなど課題の社会化にも取り組んでいます。現状と課題をシンプルに書いた記事に対しての反響が大きく、それだけ情報がなかったことを物語っていると感じられたそうです。

知らないということから生まれる誤解や差別。法整備や制度がない整っていないことにより、支援やセーフティネットが行き届かないという、制度や心の壁に幾重にも阻まれているのが、海外ルーツの子どもたちの現状と言えそうです。

遅れる日本語支援

子どもたちへの言語の支援についての現状を田中さんはこう説明します。

「勉強がわからないのではなく、言葉がわからない。言葉の壁のせいで本当はわかることもわからなくなる。けれど、日本語教育の支援が受けられないために、勉強ができず、授業が苦痛になり、友達とのコミュニケーションも取れずに学校での居場所を失って行く。学校に行けなくなることは、子どもたちにとって社会との接点を失うことに繋がります。

日本人の高校進学率は現在ほぼ100%ですが、海外ルーツの子は70%台。高校中退率も高く、日本人の7倍と言われています。

また、低年齢で来日した子どもは、母語の力が伸びないことも問題です。母語の柱が揺らぐと抽象的思考が難しくなり、理科の力や光、xをyに代入するような概念的なことを捉えることが難しくなります。思春期のときに心の悩みを自分の言葉で思考することができず、自分と対話が難しくアイデンティティのゆらぎに繋がることもあります」

言語の獲得は、このように子どもたちの居場所やアイデンティティの形成にも関わる喫緊の課題ですが、その支援は遅れています。

「日本語がわからないこども4万千人のうち1万人以上が学校で無支援となっています。理由は指導者がいないから。こどもを学校に受け入れておきながら支援しないのは人道的問題です。東京周辺は比較的NPOの支援を受けている可能性もありますが、外国人散在地域での支援の空白が課題になっています」

 

YSCグローバルスクールの日本語支援

「YSCに来る子どもたちは、日本語がわからず勉強についていけない、高校進学したい、いじめなどで学校に行けなくなった、など幅広いニーズがあります。社会に中に居場所がないこどもたちも少なくないです。授業は基本的に日本語。日本語を学んだあとそれぞれに応じた学習支援を受けられます。

数学の授業では計算力をつける前に、日本語で数学を学ぶことに慣れていきます。英語はできるのに、日本語で英語の勉強しなければならず理解できないという本末転倒の状態も生まれているのが現状です。YSCでは、学校や日本社会に適応するためのサポートをします。フリースクールと日本語学校を掛け合わせた感じです。

生徒には6歳から30代くらいまでの人がいて、10代半ばが最も多く年間100~120名くらい集まります。日本語レベルはそれぞれ。神奈川や埼玉、千葉からの受け入れ実績もあり、それだけ日本語を学ぶ場が限られているということの表れだと思います。フィリピン、中国、ネパール、ペルーがルーツの子が多く、これまで750名37カ国以上のこどもたちを支えてきました。

普段の授業はデジタル化を進めています。2016年11月からは中3の進学支援をオンラインで実施し、全国各地の子どもたちに支援を届ける取り組みを始めています」

 

やさしい日本語

外国人や海外ルーツの子どもたちとのコミュニケーションのために、今注目されているのが「やさしい日本語」です。今回のレクチャーでは、やさしい日本語について理解するためのグループワークを行いました。

田中さんから、練習問題として会話の内容の一文が出題され、日本語があまりわからない方に対して伝わる「やさしい日本語」に書き換えます。

難しい単語や言い回し、婉曲した表現を避け、相手が行動をしやすくなる伝え方を心がけることが大切です。書く体裁も、単語と単語の間を空けたり、イラストや表を使うなど、少し気をつけることで、伝わりやすい日本語にすることができます。

 

***

質疑応答では、とびラーからたくさんの質問・感想が寄せられました。

現状を全く知らなかったという驚きの声や、貧困問題としての側面に関しての質問、移民政策についての質問などです。

最後にとびラーから寄せられた質問は、「YSCグローバルスクールで実際に子どもたちの指導にあたる専門家の育成をどのように行なっているか」というものでした。それに対する田中さんの答えからとびラーの活動にも通じるものを感じました。

田中さんは言います。

「目の前のこどもを救うことも大事ですが、みんなでひとつの大きなミッションを共有することが大事だと思っています。木を見て森を見ずだと行き詰まってきます。『社会を変えられるかもしれない』というやりがいをみんなと話し合うことを大切にしています」

(東京芸術大学 美術学部 特任助手 越川さくら)

2019.07.29

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