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「作品をつくり、場もつくる――それぞれを行き来しながら融合していけたら」藝大生インタビュー2022|美術教育専攻 修士2年・保坂朱音さん

「作品をつくり、場もつくる――それぞれを行き来しながら融合していけたら」 美術教育専攻 修士2年・保坂朱音さん

 

温かい日差しが降り注ぐ冬の昼下がり。東京藝大上野校地にて大学院美術研究科 美術教育専攻修士2年、保坂朱音(ほさか あかね)さんへのインタビューを行いました。

 

┃一人一台のろくろ、手作りの道具

総合工房棟陶芸研究室を訪れると、ストーブを囲み学生たちが何やら真剣に話し込んでいます。その輪の中に保坂さんはいらっしゃいました。

 

――こんにちは!今日はよろしくお願いします。

「こちらこそよろしくお願いします。」

 

柔らかい物腰の保坂さんが笑顔で迎えて下さいました。保坂さんは現在、2つの場所で制作を行っています。ここでは主にろくろを挽いたり、形を整える造形作業を行ったりするそうです。まずはろくろについて説明をしていただきました。

<実際にろくろを回す保坂さん。さながら足踏みミシンのようでした>

 

「ろくろは一人一台いただけています。造形作業はここで行うのですが、彩色などの作業は別の場所で行っています。ここだと土が舞ったり、他の学生の場所を取ることになってしまうので。」

 

――2つの作業場を行ったり来たりして制作しているんですね。

「最近は家でも作業しているので、道具も持ち歩いています。道具によって作れるものが変わるので、みんないろんな種類の道具を持っていたり、自分で作ったりしています。」

 

たくさんの道具を広げて見せてくれました。初めて見る数々の道具に、とびラーは興味津々です。

<一番手前の道具は、保坂さんの手作り。竹を削って作られたそうです。>

 

 

┃陶芸×音

一通り道具の説明を受けた後、制作中の作品を見せていただきました。

研究室に繋がった屋外には、窯で焼く前の作品がズラリと並んでいます。

「最近は陶器で楽器を作っているんですよ。」

<壺型の陶器を軽く叩くと「ぶおんぶおん」という音が聞こえてきます>

 

――音が出るような焼き物を作っているというのは意図があるんですか? 

「2022年4月に羽田空港で『美×音×うたをみる』展という藝大生による展示がありました。音楽学部の学生・卒業生の有志と一緒に展示と演奏会をするという企画で、音楽と作品をどう組み合わせるか悩んでいました。もともと私はワークショップもやっていたのですが、“人との繋がり”が作品を作る大きなモチベーションになっていて。そこから、陶器で楽器を作れるんじゃないか、作った楽器を実際に触ってもらえるんじゃないかと考えたんです。」

 

――作品に触れることでコミュニケーションが生まれると考えたんですね。

「陶芸って人に使ってもらうという部分がすごく大切なんですけど、ただ使うのではなくて、楽しく使ってもらいたい。人とコミュニケーションが取れるようなものを作りたい、というところから、触れてもらえる楽器の制作がしっくりきたんです。」

 

 

┃同じ窯の友との「窯会議」「窯ごはん」

次に窯を見せていただきました。大きな窯が何台も並んでいます。

 

――先ほどの作品はどの窯で焼く予定なんですか?

「1号の窯で焼こうと思ってます。焼く時は私だけじゃなくて、他の人の作品も入れて一緒に焼きます。温度によって仕上がりが変わるので、温度調節や窯の予定もみんなで決めます。」

――チームでの作業という感じがしますね。

「翌月の窯予定を決める会議のことを私たちは“窯会議“って呼んでいるんですよ」

――窯会議!!!

「上級生が窯を立てて予定を組むのですが、みなさんが来る前もちょうど“窯会議”を行っていました。」

――作品を作る人って、ひとりで全部を作り上げているイメージがあったのですが、制作の過程でもコミュニケーションをとって作り上げていくのですね。

「工芸分野っていうのは、ひとりでは作れないことがたくさんあって。例えば大きなものを作る時は作業を手伝ってもらったり、窯もひとりじゃ埋めきれないので一緒に焚かせてもらったり。“協力”というのはずっと意識しているかもしれないですね。」

 

――電気窯の他にどんな種類の窯がありますか?

「ガス窯や灯油窯、取手キャンパスには薪を使う窯もあります。実際の炎で焚くものは、コントロールをするのがすごく大変で。先生の意見を仰ぎつつ、みんなで格闘しながら焚いています」

――どの窯を使うかは、どうやって選定するんですか?

「窯によって出てくる表情が変わるんですね。電気窯で表情が出る作品もあれば、灯油で火を使わないと出ない作品もあって。特に電気窯と薪窯では全く違います。自分が狙いたい表情に合わせて窯を選定します。」

――陶芸は凄く奥が深いですね。

「私は学部までしか陶芸に触れていないので、深く追求まではまだできていないなと思うことがあります。院では美術教育に進んでいるので、それまで得た知識や経験を、“人との繋がり”のなかでどう展開していくのかを考えていこうと思っています。」

<数年前に設置された新しい窯は、自動で温度調整ができます。一方、一部の窯はダイヤルで温度設定する必要があり、コロナ前は作業場に泊まって1時間に1回窯チェックをしていたそうです。>

 

制作にあたっても、他の生徒たちとの連携や協力が必要となる陶芸科。コロナ前は、窯の日にみんなでご飯を作って食べていたそうです。

「窯ご飯っていうんですよ。コロナ前は1〜2週間に一回、みんなで作って食べていました。」

 

――自分で作った器で食べるんですか?

「歴代の先生、先輩たちが作ってくれた器があるんです。今はコロナで集まることは少なくなっているのですが、この棚から自由に使っています。」

 

<中には助手さんの似顔絵の描かれた可愛らしい湯呑もありました>

 

――受け継がれていく感じで、歴史を感じますね。

 

「それでは美術教育実習室に移動しましょう」

保坂さんの声掛けで、紅葉が残る小径をおしゃべりしながら中央棟へ移動します。

 

 

┃触れてもらうことで、「人と繋がる作品」をつくりたい

 

「こちらにどうぞ!今ここで作業してます。」

 

入ってすぐの机に、彩色されたいろいろな形の楽器が並んでいました。

その愛らしい形と色に興奮を抑えきれないとびラーたち。

 

――可愛い!これは卒制に展示する作品ですか?

「これも何個かは飾ります。これからもっと作ろうと思っているので、数が増えると思います。

修了作品は大学美術館のエントランスに展示して、実際にお客さんに触ってもらおうと思っています。

もしよかったら鳴らしてみますか?」

<思い思いの作品を手に取り、音を楽しむとびラーたち>

 

――叩き方によっても音が違いますね。これはポヨンポヨンって、まるで赤ちゃんのお腹を叩いてるみたいです!

「厚みや形によって音が変わることが作っているうちに分かってきました。アフリカのウドゥという楽器を参考にしています。それはもっとふっくらとした丸い形だったんですけど、形を変えてもいいかなと思い、工夫しました。」

――触り心地もそれぞれ違いますね。こちらはなんですか?可愛い音がしますね。 

「これはマラカスです。この前のワークショップにいくつか作品を持っていったんですけど、子どもたちは『どんぐり!』と嬉しそうに反応してくれました。」

<中には土を細かく丸めた陶器が入っています。>

 

――作品を作る上で保坂さんが大切にしていることはなんですか?

「今までは作品を作る時、“自分の中の何か”を絞り出すような過程が苦しく感じられることがありました。一方ワークショップでは、美術の楽しさを伝えると同時に、人と繋がることで得られるものも多くありました。

それらを大切にして作品を作りたい、というのが今回の制作で大事にしていることです。また、今後作品制作を続ける中で、自分の作品を人に使ってもらい、可能性を探ってみたいと考えたんです。だからこそ『触れる作品』であることが自分の中で大きなテーマなんです。」

 

 

┃土の偶然性を楽しみたい

――楽器もいろいろな音がしたり、形も様々です。それはコミュニケーションがどんどん膨らんでいくように工夫しているんですか? 

「それもありますが、形を決めて作るっていうよりも、作っていてこんな音が出てきたとか焼いて初めてわかることとか、それを作品にいい具合に落とし込めないか探りながら作っています。今回は『土の息吹』というテーマにしました。ろくろを挽いていると、思った形にならない時があるんですね。でも、ちょっとした歪みが可愛く思えちゃって。今までは、しっかりとしたイメージで作ろうと思ってきましたが、制作中の『分からないけどなんかいい!』みたいな気分を大切にしています。」

――制作中も土と対話をしてる、そんなイメージなんでしょうか?

「そうですね。今まで土と向き合いきれていない部分もあったので、修了するタイミングで一度、土を触りながら『陶芸好きだな』と思えるような作品を作りたいと思っています。いろんな形や、土が出す音に向き合って作っています。」

 

 

┃卒制の展示について

――会場での展示イメージを教えてください。

「思わず『触りたい』『これ触ったらこっちも触ってみたくなる』というような、来場者が“遊べるスペース”を作りたいと思っています。楽しんでもらうことが一番大事だと思うので。」

――お客さん同士も、作品を手に取ってセッションっぽくなるかもしれないですね。そこで見知らぬ同士が繋がったり。人と人を繋いでくれる作品って素敵ですね。

「そんな場ができたら嬉しいですね。」

 

 

┃学校の先生に憧れて……子どもから学ぶことが多くある

――美術教育に興味を持ったきっかけを伺いたいです。

「美術教育に行くことは学部に入学する前から決めていました。学校の先生に憧れを持っていたのですが、そんな中、美術を専門的に学んだら教えられることが広がるのではと思ったんですね。でも美術というものが自分の中で分からなかった。だから藝大を受験しました。予備校時代にお世話になった美術教育出身の先生の影響も大きかったと思います。」

――そもそもの方向性が「作ることを極める」というより、「コミュニケーション」に向いていたということでしょうか?

「そうですね。一年生の時からワークショップもやっていました。そのときに制作した陶器の楽器も持っていったんですけど、子どもたちが物凄い勢いで叩いていて『こんなに叩いても割れないんだ』と発見がありました。あと『ここツヤツヤだけど、ここザラザラだね」など思ったことを全部口に出してくれるので、そこでまた会話が広がって、次こういう素材で作ったら違う反応が見られるかもしれないなど、気づくことが多いです。」

――コミュニケーションの中からインスパイアされている感じですね

「そんなやりとりが好きなので、ワークショップは今後も続けていきたいと思っています。」

    

 

子どものワークショップの話をうけ、保育士とびらーが日頃考えている疑問をぶつけてみました。

――普段保育の中に「制作」を取り入れているのですが、大人の一方的な押し付けになっていないか、疑問に思いながら試行錯誤しています。保育の中に美術を取り入れる中で、どんなことを大切にしたらよいと思われますか?

「作ることも、もちろん楽しいんですけど、ワークショップはきれいに仕上げることが目的ではないんです。私の想像しないところで、子どもたちが何か学びを見つけてくれることが大切なことだなと思っています。

実は私の母が保育園の先生で、保育園で制作のお手伝いをすることもあります。この前は、“廃材で楽器を作るワークショップ”をしました。一日だけの日程で陶芸は難しかったので、ダンボールなど保育園でいらなくなったものを集めて楽器を作りました。楽器を作って満足してしまうのはもったいない気がしたので、『音を聴いて音を形にする』というワークも行いました。」

―― 具体的にどんなワークをしたんですか?

「例えば大きい丸と小さい丸を用意し、丸を見せながら『今から先生が音を出します。最初の音はどちらの大きさでしょう』と問いかけます。すると、音の大きさを形で表現できる。次に『バリバリ』『シャカシャカ』といった擬音を表現した絵を見せる。そして『バリバリの音はどれでしょう』と問いかけます。どの音がどの形にリンクするのかを子どもたちが考え、表現できるようになればいいなと思います。」

――形と音とをリンクさせるということですね

「そうです。でも別に正解はないんです。例えば『ふわふわ』の音に対して『バリバリ』という形を選んでもいいんです。次に、廃材でつくった楽器の音を絵にするワークを行いました。そうしたら、みんな違う絵を描けたんです。似たような作品ができるかなと思ったんですけど、全然お友達と被る子がいなくて驚きました。」

<ワークショップの様子を写真で見せていただきました>

 

――保坂さん自身も新たな発想を得ているんですね。

「子どもたちの発想はすごいです。最後は廃材で作ったステージで、クリスマスソングをかけながら、それぞれが作った楽器を演奏しました。クリスマスソングなんか聞こえないくらい盛り上がり、子どもたちは素直で自由だなと思いました。そういう経験が、私の作品作りにもつながっているんだと思います。」

――予想できない感じがワクワクするということですね。

「参加するひとりひとりが違うし、その子のその日のコンディションによっても、ワークへの関わり方が違ってくる。その日できなくても、時間をおいたらできることもあります。いろんな子がいますが、自分のペースでつくれることがすごいなって思います。そんなきっかけ作りができればいいなと思います。」

 

 

┃作品をつくり、場もつくる人になりたい

――将来のご予定を聞いてもいいですか?

「はっきりとは決まってないんですけど、今後も美術教育に携わることができそうです。創作を続けるのはもちろんのこと、 “つくる”ということをゆっくり一緒に考える立場、またはそういう場を作る人になりたいです」

――作品もつくるし、場もつくるということですね

「そうですね。“場をつくるために、ものをつくる”という感じかもしれないです。

学部で学んだ陶芸と、今学んでいる美術教育では、同じ美術といっても違うことを学ぶ分野なんですね。

だから美術教育と陶芸を行き来していると学ぶことが多くあります。」

――それぞれどんな学びを得ていますか?

「美術教育ではいろんな感覚を味わうことができています。例えば、陶芸以外にも、油画を書いている学生や、写真に刺繍している学生が同じ美術教育の中にいます。一方陶芸では、制作を通して『この感覚大事だったな』という素材の向き合い方に気づくことがあります。」

――それぞれのいいところを持ちながら行ったり来たりしてるわけですね。

「どっちつかずになりたくはないですけど、いい塩梅に融合して納得できる作品を作りたいと常に思っています。」

――「陶芸」「美術教育」と分けて考えるというより、その奥にある美術の根っこのような「根底」を大事にしたいということなんですね。

 

美術教育では、ワークショップなど参加者とのコミュニケーションを取りながら場を作り、

陶芸では、同じ釜を使う仲間や、素材である土との対話を通して作品と向き合っている。

保坂さんの陶芸と美術教育に向き合う姿勢に共通点を感じます。

 

――では、最後に卒業制作を見た方に伝えたいことやメッセージをお願いします。

「触ってみないとわからないことがいっぱいあるので、ぜひ触ってください(笑)コロナの関係で自由に触っていただくのは難しいと思うのですが、私がいるときはいつでも声をかけてください。近づいてきてくだされば、私から声をかけます。」

 

――目で見て耳で聞いて手で触って、楽しい時間を過ごすことができました。この感覚をぜひみなさんにも味わっていただきたいです。今日は貴重な時間をいただきありがとうございました。

 


 

 

場をつくり、その場のコミュニケーションからインスパイアされて作品をつくり、それがまた場をつくる。その循環がきっと素晴らしい場・作品を作っていくんだろうなとこれからの活動に期待がいっぱいです!(梅浩歌)

 

 

 

「藝大生インタビュー」を3年連続で体験できたのは、ラッキーでした。毎回学生さん達の創作に向き合う姿勢や、情熱に刺激をもらってます。(遊佐操)

 

 

 

 

普段保育士をしています。子どもたちのリアクションを楽しむ保坂さんの姿勢が、とても参考になりました。子どもたちが学びを見つけられるようなワークショップを、私も保育の中で実践していきたいです。(小木曽陽子)

 

2023.01.24

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