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「成長する立体モザイク彫刻~勝手に成長してくれてありがとう~」藝大生インタビュー2023 | 彫刻科 学部4年・中垣百恵さん

2023年12月4日、雲一つない快晴の東京藝術大学取手キャンパス。私達は緊張を和らげるため、ヤギを探し、菜園もある藝大食堂でランチを食した後、待ちに待った卒業制作インタビューに期待で胸を躍らせて、取手204アトリエを訪ねました。アトリエのドアを開けると、ちょっと緊張しながらも温かく包み込むような雰囲気の中垣百恵さんと卒業制作中の作品が。私達は一瞬で心を奪われ、いよいよインタビュー開始です。

 

 

ー まず初めに、中垣さんの作品はどのようなものか教えていただけますか?

 

この作品は、立体モザイクという技法で制作しています。家などに使う断熱材で形を作って、その上にモルタルに浸した布を付着させていき、上から石をモルタルで付けています。
立体モザイクは、大学3年生の時からやっていて、素材を色々使えるのが面白いです。元々の内側の形態からすると、外側だけをとりつくろっている感じが面白く、色々な素材を表層に貼り付けて一つの作品として成り立たせているところに魅力を感じています。

 

ー この作品は、いつ頃から作り始めたのですか?

 

今年の4月頃から作り始めました。当時「フィッシュマンズ」というバンドにハマっていて、バンド名から作品をイメージして、「フィッシュ」、つまり魚にしました。裸婦像が好きだったので、「マン」を女の人にして、本当に作りたいものを作っちゃった感じですね。「フィッシュマンズ」というバンドには、ちょっと不気味だなという印象を抱いていたので、最初はすごく怖い感じで作り始めました。その後、パニック映画『アナコンダ』の一場面で、ジャングルで巨大蛇に人が喰われるシーンを観て、人を喰う蛇を作りたいなと思ったんです。滅茶苦茶気持ち悪い蛇にしようと思って作り始めたけど、全然怖くならなくて。泥っぽい感じにしようと思っていたけど、今は全然違う感じの立体モザイクになっています。

作っていく過程で自分の心境がすごく明るい方向に変化して、作品も自然と明るくなっていきました。もう少し綺麗に石が納まっていくことを考えていたのですが、石の凹凸があって、まとまらない方が面白いなと作っている過程で思えてきました。

 

ー 作品を見ていて、これ(本体から離れたところにあるかたまり)が気になったのですが、頭か何かですか?

 

そうです、頭です。分かってくれて嬉しいです。パーツを一旦全部くっつけますね。
一人じゃ可哀想そうだったから、ちょっと水から出てきてくれる人がいたらいいかなって、もう一人作ったんです。

 

 

作品に触って凸凹感を感じさせてもらってもいいですか?

 

どうぞ触ってみてください。

石の種類は20種類くらいあります。先輩からもらった石、落ちていた石や、実家の方で拾った石なども使っています。素材として用意している石の中には、実家の母が卒業制作に使うように持たせてくれた紫アメジスト等も含まれています。

 

 

同じ素材の石の大きさは、どのように扱っているのですか?

 

石を使いやすい大きさに割って作っています。みなさん、石を割ってみましょうか。

 

―中垣さんが割台の上に石をのせ、金槌で叩くと「キン、キン」と小気味のいい金属音が響いて、ポロっと石が二つに割れた。次に私たちがチャレンジするも、力加減などコツがつかめず、なかなかうまく石を割ることができなかった―

 

 

今度は、石を貼ってみませんか?皆さんにも石を入れてもらえたら嬉しいです。

こんな感じで石をのせていってください。作品の背面は、石を選びながら、どうなるか実験している最中の部分なので、目印のところに合いそうな石を選んでのせていってください。

 

作品の一部に手を加えると思うと緊張しつつもワクワクした気持ちになりますね。

 

貼った石は削れば取れますので、自分のノリで石をのせて大丈夫です。

この作品も、全部私のノリで作っています。その時の気分に合わせて作る方が自分には向いていますし、これいいなと思って作った方が、自分の気持ちが見ている人にも伝わって楽しいんです。また、作品が上手くできていると、自分も嬉しくなって、モチベーションが上がり、それがまた作品に反映され、相乗効果で良くなっていくことも感じています。

 

―目印の場所にそれぞれが選んだ石を連なるように付けていく。中垣さんの明るい包容力に助けられ、緊張が和らぎ、楽しく雑談しながら貼った―

 

ありがとうございます。このラインが皆さんで作ってくださったところです。
皆さんが付けた石のラインを、ぜひ卒業制作展でご覧ください。

 

 

 

創作に駆り立てるものは、何なのでしょうか?

 

立体モザイクの魅力は、物理的に小さな石という、ずっと昔から地球にある恒久素材が集積していって、一つの大きなものを形作っていくということと、行為的に色々な人からの強い気持ちがこもった材料を貰ったり、手助けを受けたりして作っていくということが、同じ感じに思えるところだと思っています。色んな要素が一つのものを作り上げていくというところが面白くて制作しています。彫刻は、アートの中でもガチっと存在感が激しいものだと思うのですが、フワッとしたイメージから行為を重ねていくと、自分の予測しなかった方向に作品がいって、作っているというよりは、作品に引っ張ってもらっている感じがします。作り終わったときに、こうなりたいというビジョンが無くて、どうなるのか作りながら、楽しいとか『ここいいなぁ』と乗ってくると勝手に作品も良くなってきて、自分以上のものに出会える。そういうのを求めてやっています。

 

普段好きでやっていることで制作につながるインプットしている事はありますか?

 

小説を読むことが好きです。ビジュアル的なことだと、もしかしたら彫刻より絵画を見ていることの方が多いかもしれないです。

 

絵画からは、どんな影響を受けていますか?

 

彫刻って重力にとらわれますよね。最初から彫刻を作ろうと思ってアウトプットするとすごく重力に縛られるけど、絵画や小説からインプットして彫刻制作にアウトプットすると重力にとらわれないんです。そこが面白いと思います。裸婦像が好きなので、普段から身体モチーフのドローイングをしています。SNSにアップしているドローイング作品は、コロナ禍の登校停止期間の悔しい気持ちを表しています。せっかく大学に入ったのに、部屋に一人で居るのがとても寂しくて悔しくて泣いている子、小さい頃に自分の部屋に色んな生き物が居る妄想をしていたことを具現化していました。

 

 

この作品の目や口は、これからですか?

 

そうです、これからです。作品は、顔で決まってしまうので、仮で作っていて、もう少し修正しようかなと思っています。最後の最後に、すごい不貞腐れているかもしれないです。やっぱり不気味にしたいとなるかもしれないし、わからないです。彫刻の素材が木や石だと、1回削ると戻せないので、私はそれが苦手です。それに対して立体モザイクは、取ったりつけたりする作業で深みが出てくるので、楽しくて好きです。

卒業制作が過ぎても、直そうと思えば直せるから、やり続けようと思えばもう一生もてあそび続けられる。それをずっと繰り返してもいいのかなと思っています。一生完成しなくて、全部途中経過の私を切り取って見せているだけなのかなと。自分が思っているよりも作品は自分を映してしまうので、作品を見せるのは正直恥ずかしいんですけど、認めていくしかないです。1年かけてやっていると、その時によって、考えや気持ちが変わってきます。これを作っているとき、何を考えていたんだろうと思うことがあります。何か月も前にやったところになると、もうどうやって作ったか忘れていて、自分が本当に作ったのかなって感覚になることがあります。また、当時はこんなこと考えていたなとか、過去の自分との関わりも生まれてくるのが面白いです。2年前の自分は、もう全然いまの自分じゃない。時間とか行為の蓄積によって、一つの作品として成り立っている、成り立たせていくっていうのが、ロマンチックでいいと思っています。長くやっていると、自分の作品が自分から離れて勝手に暴れて、意図しなかった方向に進んでいくんです。こういうイメージじゃなかったけど、何回もつけたり外したり、やり直していくうちに、思ってもないことがだんだん良くなってきてくれている。作り始めた最初の頃の1年前に決めていたのは、立体モザイクをやることと、人を作ることだけでした。どうやって表現していくかっていうのは全く決めてなくて、本当に計画性がないんです。仕上がりがとても格好良くなってきたので、勝手に成長してくれてありがとう、と言いたいです。

 

 

上手くいかなくて、壊したいと思うことはありますか?

 

よくあります。こんなの人の前に出したくないと思う日もあれば、皆に見て欲しい!と思う日もある。同じものを作っていても、その日によって違う。壊したいような恥ずかしい日でも、蓄積してきた自分の行為は壊すものではなく認めるべきものだと思います。作品を作り上げていくというよりは、作る過程で、色々な人と関わったり、教えてもらったりして、自分がもっと成長できる、相乗効果になればいいと思っています。

 

最後に、この卒業制作は自分にとってはどんな位置づけですか?

 

実習で習ったことや、3年生の時に研究したこと、4年生の1年間という時間、人との関わり・・・。4年間の全部が蓄積されているので、それにふさわしい卒業制作になっていて、まとめとしてすごく適切だと思います。

 

インタビューを終えて 

人と関わることが好きで、卒業制作を通して、新しく人と知り合えたり会話が生まれたりするのが良かったと、気さくに話してくれた中垣さん。明るく自己を乗り越えて、全てを受け入れる「心の強さ」は、彫刻と関わりあう中で、人としても柔らかく、そして強く成長されたのかなと思いました。大切な卒業制作に、私たちも関わらせていただき、作品に触れることができて、とても嬉しかったです。

 

 

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取材:村上剛英・串崎敦子・足立恵美子(アート・コミュニケータ「とびラー」)

執筆:串崎敦子

執筆協力:村上剛英・足立恵美子

 

今回のインタビューで、「立体モザイク」作品や作者の中垣さんと出会うことができてとてもハッピーでした。作品からは、何となく郷愁がそそられ、柔らかさや温もりが感じられました。それは、中垣さんの大らかかつ、強靱でしなやかなお人柄が反映され、そのとき時の思いの軌跡が集積されたものなのだと理解することができました。

(村上剛英)

 

 

中垣さんの、おおらかで自然体な姿にとても癒されました。また、そんな中垣さんの鏡のような作品と中垣さん自身が影響しあって進んでいく制作の様子は、とても興味深く、これから作品と中垣さんがどのような道をたどっていくのか楽しみで仕方ありません。(自分が貼った愛おしい石にも、卒展で会いに行きます!)

(足立恵美子)

 

 

中垣さんは、人のつながりをとても大切にしていて、作品にも心境が現れていると感じました。取手キャンパスの広大な自然を満喫しながら卒業制作に没頭できるのも、上野とは趣の異なる好さがありますね。記事を読んでくださった皆さんに、中垣さんと作品の魅力が伝わればいいなぁと思っています。

(串崎敦子)   

2024.01.20

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