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「誰かのために〜色と線で紡ぐ重なり」藝大生インタビュー2023 | デザイン科 学部4年・坂田真紀さん

11月16日、私たちは初めての藝大生インタビューに緊張しつつ、暖かい日差しが降り注ぐ中庭を通り、東京藝術大学上野校地美術学部を訪れました。現れた坂田さんはその緊張を解くようにとても柔らかな雰囲気で気さくにお話をしてくださり、インタビューが和やかにスタートしました。

 

アートの世界に進もうと思ったきっかけはなんですか?

 

親が音楽を日常的にかけていたり、美術館に連れていってくれたり、「絵の具を持って公園に絵を描きにいく?」と外に連れ出してくれるような、身近に芸術がある家庭で育ちました。美術は小さい頃から当たり前にあった楽しいことの一つで、中高生になると、モノをつくることが最大の楽しみになり、自分はどこにいたら楽しく生きられるかなと探してきた先に、藝大がありました。

また、例えば銀座のショーウィンドウを見ている人たちが楽しんでいるのを見て、誰かに感動や喜びを与えられる人が羨ましいと思ったことがありました。そうした機会を重ねて、自分だったら、人を楽しませるためにいったい何ができるんだろう、自分が楽しいことのその先で一緒に喜んだり楽しんだりしてくれる人がいたら素敵だな、と思いました。今は個人で作品を作っていますが、みんなで何か大きなものをつくることにも興味があります。それぞれができることを持ち寄って、掛け算で何か新しいことができたら楽しそうです。

 

 

卒業制作の作品に至るまでの経緯を教えてください。

 

卒業制作は、自分がやってきたことの点と線が繋がった集大成です。これまでの作品遍歴をお話しすると……。まず「縫う」ことのきっかけになったのが、2年生の時の、実在する特定の人のためにデザインをする、という課題の『ペルソナ』でした。私は祖母を取り上げたのですが、祖母を調べたり話を聞いて思ったのは、人はとても複雑だということです。そこで、綺麗な直線ではない線によって、いろいろなことがあった祖母の人生の輪郭を表現したいと考えました。足踏みミシンで線を縫ってみると、自分の思い通りに線をコントロールできませんでした。でもそれが面白いと思いました。ちょっと揺れがあったり、凸凹があったりして、線に息遣いを感じて、まるでおしゃべりしているよう。ミシンで線を縫うと、何かをちょっとずつ吐き出していくような感覚も面白く、縫った糸が手触りとして残っていくことにも惹かれました。

 

<卒業制作の最初のきっかけになった作品 >

 

 

 

等高線のようにも見えますね。布の下に線が透けて見えたり、線が曲がったところに何かあったんだな、悩みながら進んでいったのかなと、色々なことを想像させてくれますね。

 

<卒業制作のきっかけになった二つ目の作品 >

 

 

こちらは、作品に詩を添えて、創作の新たな表現として展開する『詩を注ぐ』という三年時課題で作ったものです。今度は、透明なオーガンジーの布に、エスキース(下絵)もなく思うがままに縫い進めていきました。制作過程で、担当教授より「線だけでなく、線の密度を上げて面になるところも作ってみては」というアドバイスがあり、1ヶ月ぐらいずっと無心でぐるぐると縫って、このような作品に仕上がりました。

私は色を大事にしていて、自分の表現の武器だと思っているのですが、この作品でも色の選択にこだわり、色鉛筆で色を重ねるように糸を縫い、表(上糸)と裏(下糸)の色を変えて混色するという表現も発見しました。

 

そのような経緯から、こちらの卒業制作の作品に繋がっていくのですね。

 

そうですね。オーガンジーをミシンで縫うと、ボコボコと立体になるのですが、作品を遠くから見ると平面にしか見えません。そのことが少し寂しいなと感じ、卒業制作では模様を立体にすることに挑戦しようと考えました。オーガンジーの布の真ん中に穴を開けて固定し、格子状の布目に対して斜めに放射状に縫っていくと、布目が伸びて波打つ形状になりました。

作品をさわってみてもいいですよ。

 

〈制作中の卒業制作の作品〉

 

-根底にはいつも手触りがあるんですね。硬めの和紙のような、不思議な触ったことのない感触です。生きているみたいです。

 

そう感じてもらえて嬉しいです。

 

無機質でなく有機質、自然に近い感じがします。見た目の柔らかさと実際に触った時のしっかりしている感覚のギャップが面白いです。緻密で、もはやミシンの線がコントロールできてますね。こちらの作品名は決めていますか?

 

意図的ではないのですが、植物っぽいところがあるので「脈」のようなタイトルにしようかなと思っています。

 

奥に飾ってある作品も卒業制作の作品ですか?

 

 

はい。こちらは、有機的で絵に近い感じの作品です。流木の木目や根っこの曲線のような流れのあるものをイメージし、菱形を歪ませることで凹凸を生み出しました。納得できないと途中で2時間かけて糸を外して、もう一度縫い直すこともありました。表に鈍い色、裏に少し鮮やかな色を使うことで、表裏の印象を変えています。特に緑の混色が好きで、表に暗い紺色、裏に鮮やかな緑色を使うことでペタッとしない奥行きを出しました。立体的に模様を楽しめるような作品にしたいです。

どちらの卒業制作作品も最後の追い込み中で、最近はずっと家に篭って、ご飯を食べるより制作に夢中になっているので、今日は久しぶりに大学に来ました。

 

 

ちなみに自然の中は好きですか?

 

好きですよ。自然の中が落ち着いて好きなので、新宿のような人混みの激しい街に行くと反動で山に登りたくなります。今回の作品も、森の中で大きな木を見上げたり、木漏れ日の中を歩いたり、枝の下をくぐったりするように、ぐるぐると360°回りながら鑑賞してほしいと思っています。布に光を当てて、壁や床に線(縫い目)の影が落ちるように展示しようと考えています。楽しみにしていてください。

 

〈 見る角度によって全く違う表情をみせてくれる 〉

 

 

 

卒業制作展に向けて、意気込みをどうぞ。

 

卒業制作では、これまで取り組んできたことの答えを出したいですね。見る方にも楽しんでもらえたらうれしいです。ここで着地せず、この表現技術を服とかさらに別の形におこすなど、次の展開につなげていきたいですね。

 

卒業後の予定は決めていますか?

 

大学院に行く予定です。もっと大きな作品をつくったり、他の人との掛け算による作品を手掛けられたらと思っています。あくまでも今回の卒業制作はその過程。自分がやりたいことを気持ちよく出し切れたらいいなと思っています。

 

今回インタビューさせていただき、卒業制作展がとても楽しみになりました。今日は本当にありがとうございました。

 

 

インタビューを終えて 

 

印象に残ったのは「自分のためというよりは、誰かのために楽しんでもらえるような作品をつくりたい。」という言葉でした。小さな頃から芸術に囲まれて育ち、自然の中や手触りのあるものが好きだという坂田さんが紡いていく線は、どこまでもしなやかで、選び抜かれた色合いが織りなす優しさとその線に費やした時が重なって生み出す強さがありました。時にコントロールできない線をも楽しみながら、変わらない芸術に対する想いを胸に、これからも作品を見てくれる誰かのためにその線を生み出し続けて欲しいです。

 

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取材:梅川久惠・後藤麻木・井戸智子(アート・コミュニケータ「とびラー」)

執筆:井戸智子

執筆協力:梅川久惠・後藤麻木

 

めての藝大生インタビューで、少し緊張もありましたが、出迎えてくださった坂田さんは私たちが理解しやすいように準備してくださっていました。お話を聞くうちに学生と言うより、一人の作家の作品や創作への想いにどんどん引き込まれました。

(梅川久惠)

 

 

作品のことを語り出すと止まらない坂田さん。「ミシンの縫い目が おしゃべりしているよう」と表現されていましたが、縫い目を目で たどっていると、本当に坂田さんの楽しいおしゃべりが聞こえてきそうです。これからどんな作品が紡がれるのか楽しみです。

(後藤麻木)

 

 

まっすぐな人柄と柔らかな笑顔で自然と場を和ませてくれる坂田さんの雰囲気がそのまま現れているような作品でした。これからもずっと紡いでいくであろう坂田さんの線がどこまでも伸びやかに広がっていくよう願っています。

(井戸智子)   

2024.01.18

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