東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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【開催報告】暮らしの彩り おとな美術館

 

シニアの皆さんを対象とした「暮らしの彩り おとな美術館」は2022年9月26日、東京都美術館で開催された「フィン・ユールとデンマークの椅子」展(2022年7月23日~10月9日)に合わせ開催いたしました。

 

 

◇ プログラムへの思い◇

年齢を重ねると、「暮らしを愉しみたい」という前向きな気持ちはあっても、行動に結びつけるのは難しくなることが多くなります。でもいくつになっても暮らしの中に沢山楽しみをシニアの方に見つけていただきたいですし、私たちもそんな発見を大切にして、毎日を心豊かに暮らしていきたいですよね。

東京都美術館には展覧会を楽しむだけではなく、レストランや公募棟、アートラウンジなどいつ訪れてものんびりと楽しめる素敵な場所がたくさんあります。そういう場所をご紹介することで、展覧会のない時でも、また、展覧会に来ていただいた後でも、楽しんでいただける場所の一つに加えていただきたいと思いました。

 

◇「フィン•ユールとデンマークの椅子」展で開催した理由 ◇

デンマークを始め、北欧の国では、厳しい寒さが続く冬が長いという気候から、家の中での暮らしをとても大切に、丁寧に考えています。その為、彼らの暮らしの中から家にいる時間が好きになるヒントを沢山見つけることができます。椅子一つとっても、座り心地の良さ、デザインの好みなどに個人個人がとてもこだわり、気に入ったものを大切に使い続ける方が多いと聞きます。

今回の展示で、実際に家具を見たり座ったりすることで、家具に対してのこだわりや、今後の暮らしを楽しむヒントを楽しみながら見つけていただきたいと思いました。また、アートというものが、決して観るだけではなく、生活の中に取り入れることもできるという楽しみ方を知っていただきたいということもありました。

東京都美術館では「アートラウンジ」を始め、いくつかの場所でフィン・ユールの椅子やテーブル他、素敵な家具を自由に使っていただくことができます。プログラムが終わった後、日常に戻ってからも楽しんでいただける場所として知っていただきたかったことも大きな理由の一つです。

 

◇工夫した点◇

  • 「色々な人と話す機会が減ってしまった。」という話をシニアの方から聞くことが多かったので、プログラムの中では、参加者の皆さん同士がお話ができる時間も大切に考えました。
  • シニアのご両親やシニア同士のお友達と楽しい時間を一緒に過ごせる場所として知っていただきたい、というとびラーメンバーの意見から、お友達や親子でご参加できるように「お二人でお申し込み参加可能」としました。

 


 

では当日の様子をご紹介します。

午前と午後一回ずつの開催。当日はとてもお天気も良く気持ちよいスタートとなりました。各テーブルには参加者お2人と、とびラー2人(午前に3人づつのグループが1組)。基本的にこの4人が一つのグループとなってプログラムの間は一緒に過ごしました。

 

▶︎ 入り口やテーブルの上にはみんなで作った北欧の窓辺に飾られることの多い飾りや椅子のミニチュアを作ってお出迎え。初めて訪れる場所で緊張されている気持ちが少しでもほぐれることも願って作りました。

 

▶︎プログラムスタートまでは、今日呼ばれたいお名前を書いていただいたり、ご挨拶も兼ねてお話しをして待ちました。

 

▶︎プログラム最初は、この企画を提案したとびラーが、立ち上げた思いをお話ししました。とびラーのお母さんが美術館で楽しんでいる姿が映されています。

 

▶︎いよいよ各グループに分かれてのスタートです。手作りの「しおり」や地図を使って、これから先の内容の説明や美術館の中でゆっくりしていただける素敵な場所のご紹介をしました。

 

▶︎そしていよいよ展示室に向かって出発です。館内のご案内をしながら歩きました。

 

▶︎展示室の中では、参加者と、とびラーがペアになって一緒に鑑賞。座れる椅子のコーナーでは沢山の椅子に座りながら、お家にある椅子と比べてお話をされたり、これから買いたい椅子のお話をされたり、と、とても楽しそうでした。そして、展示の中から一枚好きな椅子を選んでいただいて写真を残しました。

 

▶︎展示室を出たら各チームでご案内したい場所にそれぞれ向かいます。美術館の中にはのんびりできる場所が沢山。

 

▶︎その後アートスタディルームに戻り、今度は他のチームと合流して感じたことをシェア。自分では気が付かなかったことに驚いたり、同じ椅子に興味を持たれていた方とお話が弾んだり、とても楽しい時間となりました。

 

お話をしている間に、先ほど展示室の中で撮影して残した1枚の写真をプリントアウト。それを、最初にお渡しした「しおり」に貼り付けて写真の周りをデコレーションしたりしてとても楽しい時間となりました。しおりはお土産にお持ち帰りいただきました。プログラムが終わる頃には皆さんおしゃべりがつきませんでした。

 

 

シニアの皆さんは経験豊富。椅子にまつわるエピソードも沢山あって、最後のシェアタイムではとても話が広がりました。今回のプログラムでは普段会わない人たちとの会話も大切にしていたので、楽しんでいただけて嬉しかったです。「椅子に興味が出たから今度家具のお店に椅子を探しに行こうかな。」とおっしゃって帰る方もいらっしゃいました。このプログラムをきっかけに、美術館での新しい過ごし方や、日常の暮らしの中で新しい発見、愉しみを増やしていただけたら嬉しいです。

 


 

私には80代も半ばの母がいます。元気なのですが、年相応に疲れやすかったり、「若い人ばかりだから行かない。」ということも度々です。東京都美術館での展示を観に来た時のこと。ずっと楽しみにしていたのに、いざ来てみると、「疲れたからもういい。」と、観ていない作品を沢山残して途中で外に出てしまいました。気分転換や休憩も兼ねて、私の好きな場所、公募棟の2階の上野を見渡せる場所に一緒に行ってみると、元気も戻り、初めて聞く上野の思い出話もしてくれました。帰りがけに美術館のカフェにも寄って、振り返れば、とてもいい時間を二人で過ごすことができていました。

 

この経験を通して、年齢を重ねても、無理をせず自分らしく、それぞれのペースで暮らしを愉しむことができればいいな、そして、美術館での色々な過ごし方をもっと知ってもらいたいな、と思い、とびラーの仲間達に声をかけて、このプログラムが始まりました。今回シニア向けのプログラムを終えてみて私たちが学んだことも沢山ありました。「楽しかった!」「次回はいつ?」という参加者の方々からいただいた声を大切に、次に繋がるといいな、思っています。

 

最後になりましたが、開催にあたって一緒に伴走してくださったとびらプロジェクトスタッフの皆さま、一緒にプログラムを創ったとびラーの皆さま、そしてこのプログラムを見つけて参加してくださった皆さま、心より感謝しております。ありがとうございました。

 


【参加アート・コミュニケータ】

纐纈、梅、岡田、尾駒、向井、黒岩、門田、長尾、登坂、山中、鹿子木、堀内、梨本、山本、隈井 、山﨑 、 井上、髙橋、安東、西内、滝沢

 

執筆:滝沢智恵子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー9期。「初めて美術館に来た」というお子さんが、展示室に入って、「本物ってすごい!」と感動して前に進めなくなったことがありました。沢山の人にそういう感動を届けられるといいな、と思っています。

2022.09.26

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