インタビュー場所は東京藝術大学取手キャンパスの日比野研究室内パブリックスペース(と呼ばれているベンチとテーブルが置かれたスペース)。
今回のお相手は東京藝術大学先端芸術表現科修士2年生 今井さつきさんです。
藝大生インタビュー史上初、インタビューされる側の藝大生にコーヒーを出していただき、
和やかな雰囲気の中で様々なお話を伺いました。
■■■■■作品の話■■■■■
ー(テーブルの上のモックを見ながら)これが卒展の作品のイメージですか?山?
そうなんです。最初は山のイメージだったんですけど、途中で島に変化しました。中に人が入れる島です。
その中で物を作ったり、その人それぞれが自由に居心地よく入れる空間を作れたらと思っていて。体験型の作品です。
大きさは一番下の一辺が2mあって、直径4m、高さ2.6mです。
展示場所は大学(上野キャンパス美術学部)入ってすぐのところの屋外。
大学の入り口からいると「どーん!」と、この島が現れる予定です。
島には穴がついているので、外から覗いたりとか
中からひょこって人が出てきたりできる仕組みになっていて
中と外の人が交流できるようにしようと思っています。
見世物的な感じで誰かに見られながらワークショップを行うことにも価値はあるんですが、
今回はその人自身が自ら「何かをしよう」って思う気持ちを大切にしたくて、
外からはあまり見えない構造にします。
室内で作成したものが「これすごく良いかも」「誰かに見せたいかも」って
自分から思ったときに外に出てきて、そこで外にいる人と関わりたくなるような気分になればいいなと。
自分の中から引き出したものを、誰かに届けたくなる気持ちにさせる、
というのが自分の役割なのかなと最近感じていて、このような作品になりました。
■■■■■過去の話■■■■■
――なぜ体験型の作品を?
「人に体験してほしい」という学部生のころからのずっと変わらない気持ちがあって、
「体験ができる空間を作る」のが自分の作品のベースにあります。
私は藝大が3つめの大学で、最初に進んだのがビデオゲームなどの遊びを勉強する学科がある大学でそこで「遊び」について学んでいました。
元気がない人を見たとき、頭が「ぱんっ」ってするような楽しい体験をしてほしい思いがあって、どうしたら楽しくなれるのかを調べたときに「遊び」が効果的であることがわかって。
挑戦したり失敗したり、またもう一回トライできる「遊びの空間」に惹かれていって、体験できる、体験を作れる、なおかつ人とつながれる「遊び」の要素を学べるその大学に入りました。
そこではXboxのゲームとか作ったりしたんですけど、決められたプログラムの世界である電子機器のゲームに、私はちょっと違和感があって…。遊びの要素である「挑戦できる機会」とか「人とつながれる機会」は、もっと他に形にできるんじゃないかなと思って、卒業制作はゲームではなく、体験者の持ち物を万華鏡の姿に変換する作品(http://oxa-ca.jimdo.com/artworks/raybox/)を作りました。
そこに行かないと見られない、そこにいる人しか作れないっていう作品を制作することで、
その人の魅力だったり、またそれを人に見せることで誰かと関わったり、
人に見せたいな、という気持ちが生まれる機会を、アートのほうがうまく活用できるのはないかと気づいたのがこの時ですね。
卒業後は別の大学のデザイン科に進学しました。ここでは体験をすることで何ができるのかを模索した時期でした。そこで生まれたのが、人を「ノリ巻き」にしちゃう作品(http://oxa-ca.jimdo.com/artworks/human-sushi/)でした。
ロジェ・カイヨワという学者が唱えた遊びの定義というものがあって、
遊びは「競争、運、模倣、知覚が揺さぶられる体験」の4つの要素に分類されており、これらの要素がすべて自分の作品に詰まっていた。
ほとんどのアート作品はおそらく知覚的な体験の感覚があると思うんですけど、
知覚以外の遊びの要素を体験できる、そんな機会を与える作品を作っていきたいなと、あらためて気付いたんです。
今回の修了制作ではもう一度遊びの定義から見直して作っています。
■■■■■藝大の話■■■■■
-デジタリックなところから始まったのですね。現在の作品と真逆なので意外に思いました。
-その後藝大へ?
院を出たあとは1年くらい社会人をしていました。
でもやっぱりもう一度勉強したい、美術の人たちと関わる機会がもう一回欲しいなと思って、藝大の先端藝術表現科(以下:先端)へ進学しました。
先端はいろんな分野の人が来ますけど、私と同じ分野出身の人はいないので、
ここは自分の強みになるところですね。
藝大へ入学した頃は「ノリ巻き」のような作品を作っていこうと思っていたんですけど、なかなかうまくいかず・・・。大学院1年生のころは低迷していましたね。
自分の中で「体験ができたら作品になる」と思い込んでいて、
体験型の作品をいくつか作ったのですが、自分の中でピンと来ないものが続いて・・・。
その時は何でピントが合わないのか、何が足りないのか全然わからなかったんです。
悩みすぎて作品が作れなくなって、落ち込んでしまった時もありました。
そんなときに担当教員の日比野さんに「そういう時期はつくらないほうがいい」といわれ、
去年の秋から半年ぐらいは物を作らずに、人と話したり、飲んだりとか、自分がしたいことをしました。アートと何かをつなげないで、自分でただ普通に楽しむ生活を続けていた。
その後、TURNフェス(参考:http://turn-project.com/program/27)に参加して、
そこで初めて誰かと一緒に最初から作品を作って、
その作ったものをさらに他の誰かに体験してもらう、という経験ができたことで
新しい道が少し開けた感じがしました。
体験してもらうこと、人と一緒に作ってみること。
今までにはなかった、いろんな経験の幅を持つことができたので、「藝大に来てよかったな」と感じました。
■■■■■卒展に向けて■■■■■
-島の中ではどんなことをするのですか?
始めの構想では、島の中が花びらや花の形を作れる空間になっていました。
そこで作った花を外に持っていき、島の外側にさしていって、どんどん花の島になったらいいなと思ったんです。
よくわからない島の中にはいったら、洞窟になっていて、知らない人もいて
なんだか不思議な空間があって、でも何か作ったりする気持ちが自然と生まれるようになったらいいな、と考えています。
なぜ花を咲かせたいかというと、今年の夏にインドネシアのジョグジャカルタという古都に行ったときの、自分の価値観がひっくり返されるくらいの経験が元になっています。
ジョグジャカルタは不便なことがすごく多い田舎の地域で、ゴミの収集や給湯器など日本にいたら当たり前のシステムや設備がないんですけど、自然に合わせて人々が生活をしていたのが印象的で、「人がいることで都市が回っているんだなぁ」と強く思ったんです。
人が関わっていくことで、もともとあった像が変化していくのを作りたい、というのが夏ごろのイメージで、そのイメージがお花として残っています。
-もともとは土の島にするつもりだったんですね。
荒廃した島に、花が咲いて変化していくって話だったんですが、
「冬で上着を着ているのに、土の中には入らんだろ」という先生からの猛反発があって(笑)
実際は芝生の島になる予定です。
-見に来た人が入りたくなるかどうか、が大事?
自分の意見も大切ですが、それよりも体験してもらう人が居心地の良い空間を作るのも大切。自分の中でもう一度考えて、それだったら青々として興味が持てて、なおかつ入りやすい空間を、ということで土から芝生の島へ変わりました。
体験の「型」を作るからこそ、考えることですよね。
他の学生は自分の想いを作品に落とし込めていきますから、「どう見えるか、自分がどこまでこだわるか」が大事なんですけど、自分の作品は居心地がよくなるためだったら変えていくっていうことがあります。
—展示期間中に、今井さんは何をしているのですか?
私はいつも島の中にいます(笑)
大型の作品なので安全面的にも私が中にいたほうがよくて。
来てくれた人に説明とかもしますけど、一人で作りたい人はそっとしておく。
ふわーっと空気みたいな感じでそこにいたいです。
作品の世界の中で自分はバスドラムになれたらいいな、と。
目立たないんですけど、バスドラムは音に深みを与えていて。
私には気付かないけど、来てくれた人が居心地よくなれるよう。
―来る人のことを考えての作品作りですが、
―この作品の中で「ここは譲れない」というものはありますか?
外から見えない空間の中で、
誰かに伝えたいと思ったこと、誰かに見せたいと思ったものを
他の誰かに伝えたくなって外に出て交流できるための媒介として
私の作品が存在していたらうれしいです。そこが一番大切。
遊びによって挑戦したい、創造を試みたいって思える、
そしてそれによって誰かと関わることができる機会を作っていきたいです。
ずっと誰かに向けた作品を作ってきたのは、人が好きというのもありますね。
人と関わることをやるのが好きなので。
誰かと飲みに行ったりとか、どこかに出かけたりとか、
遠い地で新しい人に出会って「また遊びにおいで」とか「帰っておいで」って言われたりとか。
人と出会って話してっていうのが一番楽しい。
私の作品の根底には人と出会いたいっていう気持ちが強くあるのかもしれないですね。
―ありがとうございました!
執筆:小田澤直人(アート・コミュニケータ「とびラー」)
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2017.01.08