2019.05.05
2019年5月5日(日)、令和元年のスタートにふさわしい、清々しい五月晴れに恵まれた日曜日の昼下がり、上野公園では、9名の参加者のみなさんととびラーが笑顔あふれる和やかなひとときを過ごしていました。
「五感で歩こう!春の上野公園」
美術館で行いますが、作品の鑑賞や、展覧会に出かけることはしません。上野公園で「心地よい」場所・こと・もの・・・を「五感」で感じてもらう、というワークショップです。一風変わった?このプログラム、そもそもどんなきっかけで生まれたのでしょうか。
アイディア誕生のきっかけとなった出来事。それは2年前の基礎講座にさかのぼります。
その日のテーマは「新企画プレゼン大会!-上野公園内の指定された場所をリサーチし、各所の魅力を活かしたプログラムをつくろう-」
課題:「美術館、博物館、お寺、桜並木など、上野公園には人を惹きつける様々な要素があります。場所・もの・人の動きをよく見てきてください。各自がリサーチしてきた内容を組み合わせて、とびラーの視点ならではのプログラムを提案してください。」
「まずは、上野公園を歩いている人をよく見てくるように!」
講師の日比野克彦さんからのアドバイスを聞いた後、グループに分かれて上野公園の様々なところにリサーチに出かけました。
上野公園を歩いている人を改めて観察してみると、表情はみな穏やかで、歩くスピードも心なしかゆったり。日常とは少し違った時間が流れている・・・そんな感覚を覚えました。
上野公園でのリサーチでは、
《古墳や川を発見したり、歴史的建造物にふれたり、ユニークな像を見つけたり、木々の緑や植え込みの花の美しさに癒されたり、幼い頃の原風景が蘇ったり・・・》
いつも歩いている通りも、視点を変えてみることで、次々に新しい発見へと繋がり、その面白さに夢中になりました。
「上野公園ってこんなに魅力に溢れるところなんだ!今まで全然気づかなかった!」
リサーチ後は、いよいよプログラム作りです。
メンバーが、それぞれの場所での発見や気づきを共有してから、「どんな体験を来る人に味わってもらいたいか」を話し合いました。
知らなかったものやこと、新しい発見、面白い出来事、穴場情報などを意見交換しているうちに、「今まで私たちが周囲のことに気づかなかったのはなぜなんだろうね?」という話になりました。
「上野に来ても、美術館や博物館とか目的地に向かうだけだからじゃない?」
「歩きスマホしたり、ナビに頼ったりするのも原因かもね。」
「じゃあ、普段は気づかないことやものに触れてもらうために、思い切ってスマホや携帯、カメラはお預かりして、自分の五感だけを頼りに上野公園を体感(体験)してもらうプログラムはどうかな?」
「普段意識していない五感を開くと、周囲のことがフレッシュに感じられるかもね?」
このような流れで、「五感で歩こう!春の上野公園」の原案となるオリジナルプログラム「心のタイムスリップ 感じて上野」が誕生しました。
(講座当日、プレゼンテーション用に作ったシート。「五感」「携帯は預けて」とありますね。)
講座後も、この原案をもとにして、”一般の方を対象にしたワークショップをやってみたい”という気持ちを持ち続けること約2年!
「スマホ・携帯は置いて、上野公園の五感歩きを体験してもらいたい。」
「五感を磨くことで、美術館や博物館での作品の見方も変わるはず。」
この2つのコンセプトを大事にしながら、より良い内容にするための度重なるミーティングやトライアルを実施し、とびラーの試行錯誤は続きました。
そうした経緯で、ついに実施の日を迎えたというわけです。
では、当日の様子をご報告させていただきます。
まずは準備からスタート。テーブルには公園に出かける際に使うツールをセットして並べます。
(参加者お一人ずつに用意したツール。バッグも含め、ほとんどがとびラーの手作りによるものです)
[13時15分 受付開始]
参加者の方をお迎えして、2つのグループに分かれて座っていただきます。
[13時30分 プログラム開始]
オープニングのごあいさつと、ワークショップの内容説明から始まります。
「今日は美術館に集まっていただきましたが、これから上野公園に出かけていきます。不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。今日はみなさんに、五感を使って上野公園で”心地いいなぁ”と感じる何かを体験してほしいと思っています。」
テーブルの上に置かれた上野にまつわる句を紹介します。芭蕉が詠んだものです。
「花の雲 鐘は上野か浅草か」
「みなさん、どんな風景が見えてきますか?音は聞こえますか?想像を膨らませてみてくださいね。」
ここからはグループごとの活動です。
まずはみなさんに、上野公園とのエピソードを交えながら自己紹介をしていただきます。
テーブルに並べた五感シートを利用して、改めて「五感」についてみんなで考えながらイメージを膨らませます。
「みる」「きく」「さわる」「かぐ」「あじわう」
「上野公園では五感を使ってどんな体験ができると思いますか?」
「あなたはどれが気になりますか?今日は上野公園でどれを使って歩いてみたいですか?」
そして、五感ツールの説明をします。
「小さな紙製フレーム、紙コップの集音器、特製メモ帳、付箋、採取用のビン、えんぴつ、そして、携帯封印用の封筒とシールです。」
それでは、スマホや携帯は封筒に入れて封印してくださいね!
[14時10分 上野公園に出発]
五感ツールはバッグに入れて各自持っていきます。プログラムのキーポイントとなるアイテム「ヨガマット」はとびラーが持っていきます。
都美の壁面に映る木の影をみんなで鑑賞。特製メモ帳の表紙写真と比べてみてくださいね。
ここで深呼吸しましょうか!
さあ、ヨガマットをひいて、みんなで寝っころがりましょう!どんな景色が広がっていますか?どんな匂いがしますか?
上野公園で寝っ転がってみるという、「全身で感じる」体験をきっかけに、みなさんの五感スイッチが入ったようです。一人じゃ躊躇してしまうことも、みんなとだったらトライできる!未体験のことって、大人でもなんだかワクワクしますよね。
リラックスした状態で、普段の視点を変えてみることで、日常と見えるものが違うことに気づきます。
・・・新緑の鮮やかな色合い、木々の枝の不思議な形、きらきら輝く木漏れ日、
ラッキーなことに、虹が見えた方も!
また、地面に顔を近づけたことで、自然の匂いに気づきます。
・・・土、木々や葉っぱの匂い。ハッとするほど香りが立っている!
どんな匂いがしますか?
何が聞こえてきますか?
おや?なにか不思議な形のものを発見!
落ち葉がいっぱいで地面がふわっふわ!こんな感覚初めて!なんて心地いいんだろう!
大きな切り株で、特製メモ帳にフロッタージュする方も
グループで五感体験をしたあとは、いよいよひとりの時間です。思い思いに、自由に上野公園で「心地よい何か」を感じてきてくださいね。いってらっしゃい!
[15時10分 アートスタディールームに再集合]
10分間のティーブレイク後、プログラムの後半は全体の共有時間です。
テーブルに広げた大きな上野公園の地図を囲んで、それぞれが体験してきた上野公園の「心地よい場所、こと、もの・・・」を、カードに記入してもらいます。書き終わったカードは地図の上に立てていきます。採取してきたものは瓶にいれたまま、あるいはそのまま置いてもらいます。
一人ずつ上野公園での「心地よい」体験や発見を話していただき、全員で共有します。
「へ~そうなんだ!」「え、どこどこ?」「わあ、今度行ってみよう!」和やかに、そして大いに盛り上がりました。
共有することで、それぞれの「心地よい」が、みんなの「心地よい」になったのかもしれませんね。
みなさんに書いていただいたカードです。
共有したあとは、今日の体験についての感想をみなさんから一言ずついただきました。
◎楽しいひとときだった。土に寝ることは普段ないけれども、気持ちよかった。
◎上野公園でこんな楽しみ方があるのか、という発見ができた。
◎五感が研ぎ澄まされた。このあと作品鑑賞したらどうなのか、と気になった。
◎最初に「五感」について話があったので、意識を集中できた。
◎「五感ツール」が良かった。
◎五感を使ったワークショップとはどんなもの?と思っていたが、自由にどうぞ、というのが良かった。
◎いつもは目的を持って歩いてしまうが、今日はゆっくりと過ごせた。
◎寝転がってみて、上野公園の匂いを感じた。
◎上野は仕事の場で、慣れたところだと思っていたが、普段気づかない五感を使った体験で新しい公園に出会えた感じがした。
◎とりあえずゆっくりどうぞ、の感覚が良かった。
最後に、今日上野公園で五感を使った感覚をもったまま、アート作品も楽しんでいただけるように、東京都美術館をはじめ上野公園の各ミュージアムで開催中の展覧会や作品、魅力的な建物など、とびラーのおすすめを紹介しました。
[16時 プログラム終了]
スマホや携帯の封印を解いて、解散です。楽しい時間をありがとうございました。
今回の参加者は、台湾からの方、障害はあるけれど歩くのが好きな方、五感を使ったプログラム自体に興味がある方、作品を使わないワークショップってどんなものなのか関心があった方、普段から携帯を持たない方、など様々でしたが、アートや自然に興味をお持ちであるというところは共通していました。そんなみなさんがそれぞれ思い思いに上野公園を五感で体感し、「こんな楽しみ方があったのか、いい時間だった。」と言っていただけたことがとても嬉しく、また、私たちも一緒に心地よい時間を過ごすことができたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
美術館を飛び出して「上野公園」がフィールド、そして「五感」という感覚をテーマにしたワークショップを作り上げることは容易ではありませんでしたが、とびラーらしい視点でその形を模索し、「美術館と上野公園、そして人をつなぐ」という新たなコミュニケーションの場を創造できたことは、これからの活動の幅を広げていくための原動力になります。
五感を開いて全身で感じてみること、そうして研ぎ澄まされた感性やそこで育まれた感情は、美術館や博物館で作品と向き合う際にもきっとプラスになることと信じています。
とびラー3年目!一つひとつ、ていねいに積み重ねて考え続けることの大切さを学んだことで、自分の想いをかたちにできるミラクルに出会えました。アートとともに、楽しく居心地のよいコミュニケーションの場づくりをこれからも追い求めていきたいです。