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「子どもの心で楽しんで!- self/others、2項対立の世界から」 藝大生インタビュー2018|グローバルアートプラクティス専攻 修士2年・モニカ・エンリケズ・カスティリョさん

 12月12日、藝大取手キャンパスへ、グローバルアートプラクティス専攻(以下、GAP専攻)・修士2年生のMonica Enriquez Castillo (モニカ・エンリケズ・カスティリョ)さんに、お会いするために出かけました。

 

インタビューの前に、私たちはモニカさんのWebサイトやGAP専攻のコンセプト・ムービーでお話しするモニカさんの映像を見て、お会いするのを楽しみにして行きました。

 

さて、どんなお話が聞けるでしょうか。

 

 

 こんにちは、モニカさん!

 

モニカさんと取手の食堂で合流し、まずは工房棟1階にある木材造形工房へ向かいました。モニカさんの案内について行くと、そこには木材でできた箱とそこに刺さった金属の棒があります。

 

 

 

―モニカさん、これはなんですか?

「これは、修了制作の一部です。はじめは簡単にできると思っていたんですが、複雑なストラクチャー(構造)になってしまいました。箱の部分には青色の壁紙を貼る予定です。この鉄の棒の間にはめる作品に金箔を貼っているので、金色との相性が良いため青色にします。あと個人的に青色が好きなんです」

 

早速モニカさんから説明を頂きました。

なるほど。どうやらまだ作成途中で、下の箱状の部分が青色になり、鉄の棒の間には何かが嵌め込まれるようです。モニカさんが制作を進めているもう1つのアトリエも見せてもらいました。GAP専攻のアトリエです。

 

 

アトリエに着くと、早速モニカさんは4枚の大きなガラスに描かれた作品を見せてくれました。テーブルに置かれていた1枚を「立てると見え方がキレイなんです」と、持ち上げてくれます。

 

 

私たちは、まずはガラスという素材に着目した質問をいくつかさせて頂きました。

 

― 今まではキャンバスにペインティングをされていましたね。ガラスに描いたのはこれが初めてですか?

 

「ガラスは、初めてです。ずっとキャンバスや和紙を使っていたんですけど、今回は修了制作なので、新しいテクニックや方法を試してみたいと思って。自分の中でもチャレンジです。最初はテストピース(試作)を作ったんですが、そのおかげで自分のミスとか弱い点とか、いろんなことが勉強になりました。最初はどのようにガラスに描けばよいかもわからなかったけれど、描きながらいろいろと試していきました。ペインティングだけでなく、工芸についても勉強になりました。木材造形工房にあった展示台の制作ははじめての作業で、すごく大変です。でも楽しい。難しいことほど、自分にとってはいろんなことが勉強になり、取り組む価値があると感じます」

 

― 最初からうまくいっていたわけではなく、失敗もしながら作ってきたんですね。

 

「成功する前には失敗があっていいと思っています。失敗の中からうまくなっていく」

 

― 今までの素材と違って、ガラスは両面から見ることができますね。

 

 

「はい。光が透けるのでちょうどいいと思っています。教会のステンドグラスみたいで、このエフェクトが美しい。美しいものを作ってみたいと思いました。最初のテストピースでは、絵の具の色が厚くなってしまって光がキレイに透けなかった。でも今回は、絵の具を薄くして光が透けて見え、作品のクオリティが上がったと思う」

 

失敗を恐れず、新しいことにチャレンジしようとするモニカさんの姿勢はとてもカッコいいと感じます。

 

壁を見ると、ガラス作品の下絵となる4枚のドローイングが貼られています。この下絵についてもお伺いしました。

 

― 細密な線画ですね。それに大きい!この下絵はどのくらいの期間で描きあげるんですか?

 

「3日間くらいで描きました。ドローイングは大好きなので、1日14時間近く作業しても大丈夫です。以前はイラストレーターとして働いていました」

 

― 下書きの段階で色の構想はあるのですか?

 

「下書きの段階では色の事はまだ細かくは決めていません。なんとなく、これは青っぽいとか。紫っぽいとか、イメージはしています。でも直接色を塗って試してみて、『よし、大丈夫』と思うこともあるし、『いや、やっぱりピンクにしよう』と変えることもあります。初めから細かいプランはないんです」

 

こんなに細かい線画をたった3日で制作されるとは驚きでした。

ここからは、作品の深いイメージ、モニカさんの制作への思いについてもお伺いしました。

 

― この作品はどんなイメージで制作されているのですか?

 

「『戦い』のイメージです。去年のアンソロポロジー(民俗学)の授業の内容からアイディアを得ました。その授業を通して、私たちは『self/others(自己と他者)』という対照的な概念について話し合いました。私が思うに、人は常に対称性を持っています。『君/私』『日本人/フィリピン人』。時には差別も生まれます。しかし、私たちは調和して共に生きることもできます。時には争いが生まれるけれど、『違う』人々が集った時には美しいハーモニーが生まれます」

 

 

 

「この白い線で描かれた図柄は、昔のタガログ語の文字です。この文字は、今は使われなくなっています。特別に勉強していなければ読むことができないもので、宗教的な意味合いを持ちます。私はこれを美しくて、絵のようだと思いました。私の作品の中にフィリピンの文化を取り入れたかった。この絵には、それぞれ反対の意味をもつタガログ語の文字をいろいろなところに配置しています。『self/others』や、『人間/動物』、『男性/女性』などです」

 

 

「私は、画面にとても細かく沢山のものを描き込みます。初めて見たときにはバンッと全体が見えると思います。でも長いあいだ見ていると、小さな沢山のイメージ(図柄)に気がつくはずです。この絵の中には14頭の馬が隠れています。わかりますか?

 

私の作品を見たときに人々に楽しんでほしいと思っています。見続けるにつれて「あ、これがある!知らなかった」と宝物が見つかるような楽しい感じを。「これはなんだろう?」という不思議や、まるで子どものように「やっぱりこの世界は美しいな」と、そんな感覚を持ってくれたら嬉しいです。

 

私は作品を通して人を幸せにしたいと思っています。アートは私の人生をよりポジティブなものにしてくれました。私はたくさんの辛い思いも経験しましたが、アートを通して癒されてきたと思います。誰かが「寂しい・悲しい」という思いを持っていても、私の作品を通して、まだ世界は前に向かって進んでいるのかもしれないと、希望が持てるようになってほしい。それに、大人の中にある子どもの心に気づくきっかけにもなってほしいなと思います」

 

― どこに置いて、どんな人に見てもらいたいですか?

 

「子どもたちに見てもらえたら嬉しいです。子どもは正直なので「これは綺麗」「これはダサい」と伝えてくれます。そこが好きです。自分の感情をそのまま出す。子どもの意見は、厳しいものでも大丈夫です。子どもが楽しんでくれれば、両親や大人も楽しいと思うんです。卒展では、藝大上野校地のラーニング・コモンズ(大学図書館内)に作品を設置する予定です。そこは壁がガラス張りになっているので、この作品にとても良い場所です。外からも中からも見えると思います」

 

さらにここからは作品を超えて、モニカさんご自身の経験・ルーツについてもお伺いさせて頂きました。

 

- 東京藝術大学に留学された経緯を教えてください。

 

「もともとは日本画を勉強したかったんです。6年前に日本の美術館で日本画を見て、美しいと思いました。その技術はどうやっているのか知りたかったので、先生や大学の情報をネットで調べて藝大に入りました。上野校地の吉村先生の研究室に入り、模写を通して伝統的な日本画を勉強しました。その後、GAP専攻に来ました。日本画の画法は今でも使います。今回の作品でも金箔を使ったり、弓矢など日本を感じるモチーフもあります」

 

 

-GAP専攻はモニカさんにとってどんなところでしょう?

 

「GAP専攻は結構自由なところです。自分の専門分野以外から刺激を受けたいという人にはとても良いかと思います。私はペインティングが専門でしたが、ずっとそれだけでなく、いろいろな分野を見てみたいと思いました。GAP専攻は自分の専門以外も学ぶことのできる柔軟性があります。また留学生にとっても歓迎された場所です。それは重要なことだと思います」

 

 

- モニカさんの作品はとても色鮮やかですよね。

 

「実は、以前は作品に色を使うのが怖かったんです。始めた頃はずっと白と黒で描いていました。制作を続けるうちにやっぱり色が必要だと思うようになりました。今日は色を使おう、今日は白黒で描こう。そんな感じで分けています。私は、色に対するセンスに自信がないんです。私にとっては色を塗るときのほうが大変。失敗もたくさんあります。白黒で描くのは楽しいんです」

 

- 色よりも線の方が好きなんですね。

 

「線は無限の可能性があると思います。カーブも直線もあって、新しいものができる。線を使えば無限の可能性があって、私の世界や興味を表すことができると思っています。色にも無限の可能性があるけど、怖い。まだ勉強中です」

 

線は無限の可能性、色は怖い。モニカさんの持つ世界観と好奇心に触れたような気がしました。

 

まだまだお話聞きたいところですが、インタビューはここまで。

モニカさん、お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございました。

 

 

インタビューを通して感じた、モニカさんのチャレンジングな姿勢を尊敬いたしました。

卒展当日、光を浴びて色鮮やかに輝くモニカさんの作品を拝見するのが楽しみです。

 


取材|枦山由佳、下重佳世(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|枦山由佳
ただ絵を見るだけでなく、人と人を繋ぐ美術館のあり方に興味を持ってとびラーになり3年目。昨年の卒展インタビューに同行し、作者の作品に対する深い考えや強い思いに感動して今年もインタビューに参加させていただきました。

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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2018.12.12

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